――未来世界で活動するパルチザンはスーパーロボットを数体保有する規模にまで拡大していた。そして、海軍戦力は記念艦を動かした、戦艦武蔵と、各地から合流した水上戦闘艦が10隻であり、各個に撹乱に打って出ていた。戦艦武蔵はひとまず、奪還に成功した海軍ドックで、装甲板の材質変更(材質変換器を浴びせただけだが)と波動カートリッジ弾の搬入という応急改造を済ませ、勇躍、東京湾に向けて出港した。その指揮は……なんと、パルチザンの中では比較的高位にいる、なのはだった。着ている服はロンド・ベルの軍服だが、制帽を被っていた。

「まさか、あたしが大和型の指揮執るなんて。世の中わからないもんだなぁ」

「そうぼやくな。私だって、お前のお目付け役として、これに乗らされるなんて思ってもみなかったんだから」

大和型戦艦は運用に膨大なマンパワーを要する。特別な改造がなされていない、この世界の『戦艦武蔵』(引き上げて、記念艦になっていた)は総合能力面では、捷一号作戦当時のままだ。船体構造や装甲は材質変換器で強化してはあるが、時間がないこともあって、概ね『WWU当時のまま』である。そのため、可変戦闘機やISの護衛を必要とする。その点では運用上の不便さがある。幸いにも、扶桑海軍の人員がいたおかげでレストアされた機関を動かせたのが救いだった。

「想像していたよりも狭いんだな、大和の艦橋……ヤマトが大きかったから、そのままかと思ったんだが」

「宇宙戦艦にする時に、寸法を拡大したと聞いてます。だから差があるんですよ」

「なるほどな……。もうじき東京湾だ。戦闘配置が適当だぞ」

「そうですね。総員に戦闘配置を命じておきます。主砲は三式弾を装填!箒さんは水偵格納庫で待機を」

「了解だ」

なのはは時空管理局の佐官昇進の過程で、船の指揮も履修した。これは管理局の極度の人員不足により、艦の指揮を取れる人員が確保しきれなくなった事も大きく、艦の指揮も必須とされたからだ。ロンド・ベルや扶桑海軍で研修を受け、ある程度の実働時間を経たこの時期では、概ね操艦のノウハウも身についていた。

(ええと、大和型は旋回半径こそ小さいけど、舵の効きが悪いんだったっけ。操舵手は一応、甲斐勤務だった人にやってもらってるけど、いざとなったらあたしがやるっきゃないな)

艦橋にいる人員は、パルチザンの人数の関係で、必要最低限であった。被弾面積の削減目的もあり、大和型の艦橋は意外に狭い。伝声管が配置されている、時代かかった配置はWWU時の風情を伝えている。なのはがいるのは、司令部区間の防御指揮所である。大和型の檣楼は第一艦橋、第二艦橋、司令部区間などに細分化されているが、戦闘時なので、第一艦橋に上がっていた。艦橋の全てのガラスは強化防弾ガラス化されているなどのマイナーチェンジもなされている。

「なのは三佐、篠ノ之中尉が発艦しました」

「了解した。通信が入り次第、砲撃を始めるぞ。機銃員は艦内に収容しておけ」

「ハッ」

なのはは内心、大和型を指揮する事になった事に不思議な運命のめぐり合わせを感じていた。そもそも、武蔵はとっくのとうに、レイテ沖で沈んでいるはずの日本海軍最大最強の大戦艦である。その資料は扶桑海軍から設計図を取り寄せる事で補完できたが、細部で違いがある。機関は扶桑のそれより保守的な構造なために、150000馬力の27ノットであり、対空砲は25ミリ機銃のまま(記念艦としての復元であったため)だ。これは元は映画撮影などの目的で復元されたためで、対艦対地能力こそ、23世紀現在もトップレベルだが、対空戦闘能力は論外である。そのため、運用法は『最大射程で対地攻撃をして、一撃離脱』である。

(大和型の最大射程はおよそ42キロ。そこまでに発見されないように、箒さんにミノフスキー粒子まいてもらうか。傍から見れば、武蔵なんて200年落ちのガラクタだから、気にしないだろうけど)

なのはは双眼鏡を片手に、箒からの観測結果を待つ。まもなく、大和型の射程に東京湾が入る。46cm砲弾×9の対地破壊力はミッドチルダ動乱で証明済みだ。地球の港湾設備を暗黒星団帝国は使わない(暗黒星団帝国の艦艇には着水能力がない)。使うのは、空軍用の基地であろうとの推論がなされており、狙うのはむしろ、港湾設備の後ろに控えている元・空軍基地である。箒からの通信が入ったのは、それから間もなくだった。







――この時期、東京も宇宙移民の進展で最盛期よりは人口は減っており、おおよそ900万人程度であった。東京もジオンの攻撃の標的になったものの、地球居住者との軋轢を嫌がったガルマ・ザビの提言で、東京やロンドンは大きな惨禍を免れた。パリの消滅で、欧州方面軍のフランス統治が失敗も同然になったのをギレン・ザビも問題視したからだ。暗黒星団帝国が人間の殺害に重点を置いて、奇襲したのは、地球の統治に悩んだのもあるが、究極の目的は、地球の全住民を自らの器とするためである。さしもの暗黒星団帝国も、地球のそれと同原理のレーダーを持っている都合上、ミノフスキー粒子の影響を受けることは避けられない。地球連邦軍がゲリラ化した『パルチザン』はこれを活用し、作戦を優位に進めていた。ミノフスキー粒子は地球圏の国家のみが発見し、軍事利用しているのだから、当然ながら他国は知る由もなかった。




――高度10000mをIS(この頃には小型化改装を済ませているので、レーダー反射面積、排熱量共に以前より小さくなっているため、より発見されにくい)で飛行し、東京港付近を拡大ディスプレイも併用して確認する。東京港付近は、概ね自分のいた21世紀と変わっていない。だが、それから少し離れた場所に軍事基地があり、暗黒星団帝国の戦闘機(新円盤型戦闘機、戦闘爆撃機など)が地球連邦軍の機体に代わって配置されている。イモムシ型戦闘機などはコスモタイガーへの劣位が明らかとなっていたため、置かれていない。

「東京も変わったものだな。まさか東京港から離れていない場所に基地があるとは。まぁ、人口の減少と宇宙移民の進行で土地が余ったんだろう……。ここは主砲の射程に入っている。あとはこの防空網を撹乱する必要があるか」

そう。対空火器のレベルがWWU当時のままである、『記念艦』の戦艦武蔵に取って、空襲は脅威である。箒はこの時期に、地球連邦軍が重用する、とある科学者が『ある世界』からデータを持ち込んで、試験的に製造した銃火器を使ってみた。

「何の因果で、私が『バスターランチャー』など、テストせねばならんのだ?美琴にでもやらせておけばいいものを。まぁ、こういうごつい装備はIS向けと言えばそうだが」

愚痴る箒。だが、やる時はやる。絢爛舞踏を発動させ、バスターランチャーを構える。(逆に言えば、赤椿と言えども、エネルギーを供給する絢爛舞踏を発動させないとバスターランチャーを起動すらできない証でもある)モードは最大出力を叩き出す『バスター』。グリップをコッキングし、発射体勢を取る。反動が物凄いため、PICを最大出力にする。物質化寸前にまで縮退させたエネルギーを充填し、数万度のエネルギーを一気に放出するというのが原理である。

「エネルギー充填完了!!いけぇええええ!!」

トリガーを引いた瞬間に撃ちだされた膨大なエネルギーは、奔流となって暗黒星団帝国の基地に降り注いだ。威力面ではダウンサイジング元と遜色ないそれ(しかしながら、ペンタゴナの科学力は衰退傾向にあり、本当に『オリジナル通りの威力を持つ』かは不明)を発揮し、弾薬の誘爆と相なって、暗黒星団帝国の空軍基地を大混乱に陥れた。


「すごい強力な砲だ……セシリアが聞いたら欲しがるだろうが、私の赤椿でないと使えないからな、これ。ここまで精巧に再現できるとは……あの科学者、何者だ?」

箒は、パルチザンに武器を提供してくる、ゴップ連邦議会議長の友人の顔を思い出す。平行世界を股にかけているそうだが、どうにも胡散臭いのが感想であった。武器を提供してくれることはありがたいのだが……。

――平行時空は一般に『もしああだったら?』という具合で、無数に存在する。時空管理局の存在で実証された。それらを行き交う技術は地球連邦にしても、つい最近に確立されたばかりのものだ。箒は、自分の世界ではアニメであった世界が『実在』し、また、自分の世界が『ライトノベル』として知られていた、この世界に複雑な思いを浮かべながら、砲身冷却が完了しだい、第二射に入る。




――そもそも、バスターランチャーとは、元は『ペンタゴナワールド』という平行宇宙における最強の火器である。その世界は、箒の世界では、『重戦機エル○イム』や『ファ○ブスター物語』として知られている。(箒いわく、束が若かりし頃に、DVDで見ていたらしい)その威力は伊達ではなく、MSよりも頑強な構造を持つ、その世界の機動兵器『ヘビーメタル』を50機いっぺんに破壊可能とされる。そのリバースエンジニアリングによる試作の一基が持ち込まれ、この時にテストが行われた。あくまで試作であるため、原型機の欠点もそのままで、起動に膨大なエネルギーを要するのである。IS用にダウンサイジングしての製造とは言え、その必要エネルギー量を賄える機体は赤椿のみである。リヴァイヴや甲龍では、過負荷でオーバーロードを引き起こす可能性が大なため、必然的に、より機体の基礎出力が大きい赤椿が選定されたのである。

「こちら、箒。敵航空戦力の撹乱に成功。敵基地の座標は……」


箒は武蔵に座標を打電する。その通信を受けた戦艦武蔵の主砲塔が指向される。扶桑が保有するそれと違い、9門の46cm砲を有するままの武蔵は艦砲射撃では無類の破壊力を見せられる。大戦中に見せられなかった大和型の咆哮は、この世界においても久しぶりに上げた。爆炎とともに撃ちだされた三式弾は、ややあって、基地を火の海に変える。暗黒星団帝国には火災を人間の手で消すという概念が絶えて久しかった事、実体弾への備えがない(宇宙国家では『実弾は原始的な兵器』と蔑まれていたため、たいていは対実弾構造になっていない)こともあり、さっぱり燃える。


――上空でその様子を確認した箒は、暗黒星団帝国の意外な脆さと、大和型の艦砲射撃が実弾兵器中では未だに最強レベルである事を実感する。バスターランチャーを量子変換でしまうと、自身は辛うじて上がってきた敵戦闘機と戦闘に入る。

「暗黒星団帝国め、上がってきたか。ちょうどデスクワークで腕が鈍ってたところだし、やるか!」

この頃には、箒自身の腕が度重なる実戦で、転移当初よりも遥かに向上し、機体の操縦支援機能が無くとも、シャルや鈴とも渡り合えるようになっていた。ベガ星連合軍との死闘が、彼女を第一級のエースに押し上げたのである。それ故に、箒には自信があった。



――合流後、学園から実戦データ回収などの密命を帯びていた楯無が赤椿のステータスを確認したところ、23世紀特有のオーバーテクノロジーがかなり入れられており、特に度重なる改装で全体が小型化されており、文字通りのスーツと言える姿になっているのに驚愕した。ISは元来、飛行パワードスーツで、地上歩行が長時間可能な構造にはなっていない。だが、赤椿の第三改装後の姿は、明らかに陸戦も考慮に入れられている。度重なる実戦で性能強化が自己で数度起こった形跡もあり、出力は他の機体の追従を許さない。他の機体も赤椿ほどでないにしろ、アーマー部のシルエットこそ残っているが、概ね小型化されている事は束を含めた技術者を驚かせた。


――IS学園

「ちーちゃん〜〜!何あれ、ねぇってば〜!」

「束、よく考えてみろ。向こう側は23世紀なんだぞ。数えきれないほどの戦争で技術が突出して進化した世界なら、赤椿を独自に改造可能であっても何ら不思議ではない」

「でもさぁ〜陸戦も可能にするなんて、IS本来の趣旨とは外れるよ?」

「宇宙開発は衛星軌道上でコロニーを作るだけが能ではないだろう。月面や火星などで都市を作ることもある。つまりはそういうことだ。それに……」

「それに?」

「向こうにはこのようなヒーローがいるんだぞ?」

「え、ええ〜!?う、宇宙刑事ギャバン!?」

さすがの束もこれには驚愕した。千冬が見せたのは、宇宙刑事ギャバンが戦っている写真だったからだ。その後には、もちろんシャリバンやシャイダーもセットで見させられ、さしもの彼女も開いた口が塞がらない。千冬としては、自分と同じく『超人』であり、妹や一夏以外の他人がどうなろうとも意に介さない傍若無人なところがある束も、一応はまだ『人並みに驚く』事があったのかと、若干嬉しそうだった。この前に出会った、『機動刑事ジバン』、更に『宇宙刑事ギャバン』のコンボは、束をも驚愕の渦に巻き込んでいた。しかも若かりし頃に、DVDを買って見ていたヒーローが実在したというのも効果てきめんだった。

「どうだ?さすがのお前もこれには開いた口が塞がんだろう」

「う、うん……悔しいけど、今回ばかりは、この束さんもあんぐりだよ……」

束は大抵の事では驚かない。だが、今回ばかりはヒーローのバーゲンセールなために、傍若無人で、両親すら家族と認識するか怪しいほどの冷酷さを見せる現在が嘘のように、千冬の記憶にある学生時代の振る舞いに戻っている。それは束が本来持ち合わせていた気さくさと人間性を表すものであった。この時ばかりは傍若無人さは鳴りを潜めている。千冬は、箒がいなくなった事が、束に人間性を戻させたという皮肉にため息をつく。箒を呼び戻していないのは、束の手綱を握り直す目的も多分に含まれていたかもしれない。束が珍しく、IS学園に長期間滞在しているのは、姉としての情が大きかったかもしれない。両親よりも愛し、自らが家族と認識するほぼ唯一無二の人間。それが箒なのだから。

「地球連邦からISの改装案が来てるが、あとで見てやれ。200年後の最新軍事技術を好きに使えるなんて、一生ものだぞ?」

「アイアイサー〜。わかってるさ、ちーちゃん。サイコ・フレーム!バイオコンピューター!サイコミュシステム!ムーバブル・フレーム!ハイメガキャノン!バスターライフル!あんなの見させられたら意欲わかないほうがどうかしてるさ〜!」

千冬が仲介になる形で、連邦製ISのプロジェクトに参加した彼女は23世紀地球の最新技術に創作意欲を唆られ、開発者として、機体の監修を行っていた。同時に従来の技術レベルで亡国機業に機体を提供するという、死の商人的な行為も行っていたりする。これも彼女の持つ悪戯っ子的側面と、天才である故の探究心が成せる技だ。彼女は送られてきた、箒の戦闘データに満足気な表情を見せつつ、彼女が会得した必殺技『雷光斬』に、年甲斐も無く嫉妬する。

「え〜!箒ちゃんが礼の心に目覚めるなんて!世が世ならサムライト○ーパーになれるじゃん!こうなったら私も特訓して、仁の心を会得するかなぁ」

と、偉く乗り気な発言だが、それは無理があったとの事。なお、彼女が乗り気だった仁の心の奥義『双炎斬』は、彼女とよく似た声を持つ、なのはが最終的に会得したという。パルチザンの様子が気になるあたり、なんだかんだで、妹との距離を気にする一面を持っている束であった。それは束にもまだ、人としての情愛がわずかにでも残っている証でもあった。



――箒が暗黒星団帝国の航空部隊と戦闘にに入ってしばらくすると、地上部隊の対空砲火が上がる。超磁性体関節ギアの柔軟性を活かした攻撃の前に、箒は苦戦を余儀なくされた。だが、武蔵の砲撃に呼応したかのように、一機の巨大母艦が姿を現す。それは、光戦隊マスクマンの『ターボランジャー』であった。空中でメカを発進させ、更に合体を敢行する。箒は思わぬ援軍に驚く。

「なっ!?タ、ターボランジャー!?と、いうことは……マスクマンの皆さんか!?」

箒の驚きをよそに、マスクマンの5機のメカが合体を敢行する。ファイブクロスである。グレートファイブは戦隊史上初の五機合体ロボだ。難点として、パイロットが五人全員揃わないと、そのポテンシャルをフルに発揮不能という点が挙げられる。ギャラクシーロボが後半戦で重宝されたのは、五人揃わなくともロボ自体がオーラパワーを発揮できるためにフルポテンシャルをいつでも発揮可能という運用の利点が大きかったからだ。

『完成、グレートファイブ!!』

「み、皆さん!来てくれたんですか!?」」

『ああ。地球が危機に堕ちた時に立ち上がるのが、俺達の使命だからね。それと、今回は俺たちだけじゃないさ』

レッドマスクがそう宣言した次の瞬間、西の空から、鳥を象ったメカが轟音とともに飛来する。そのメカは鳥人戦隊ジェットマンの誇った二号ロボ『ジェットガルーダ』である。正確には、その巡航形態『バードガルーダ』だった。インド神話の『ガルダ』を模したと考えられているが、実は異次元で設計された機体を譲り受ける形で運用していたので、真偽の程はジェットマンも知らないという。変形し、颯爽登場したジェットガルーダの雄姿は、人と鳥の中間(マニピュレータがカギ爪になっている)のような特異的な姿を見せる。操縦者はレッドホーク=天堂竜であった。

『よし、地上部隊は俺達で片付けるぞ!マスクマンはジェットガルーダに続いてくれ!』

『おう!箒ちゃんは空中を頼む!』

「はいっ!あなた方の武運を祈ります!」

援軍としてやってきた、二大スーパーメカに地上部隊を任せ、箒は空中の敵に専念する。彼らのゲリラ活動に助けられているパルチザンにとって、ヒーローが共同戦線を張ってくれることは嬉しい事だった。箒は頼もしい味方が来てくれた事に感謝し、空戦を続ける。


――ヒーロー達は今も戦っているのだ。地球のために。たとえ別の時代であろうと。それがパルチザンの闘志の支えとなっていたのかもしれない。



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