――地球連邦軍はパルチザン化し、抵抗運動を続けていた。そんな中、宇宙戦艦ヤマトと、月基地から合流した空母機動部隊は太陽系とシリウス星系との中間地点の中間補給基地を叩き潰したが、そこでシリウス星系方面からのSOSを受信する。また、地球では。
――パルチザン 移動本部
「黒江中佐、君に宇宙戦艦ヤマトへの合流を命ずる」
「ヤマトに?何故ですか?」
「ウム、実はテスタロッサ執務官に憑依している獅子座の黄金聖闘士が自身の死後の聖域を気にかけていてな。長距離通信は敵に傍受される危険性が大きくて、長時間は無理だ。直接行って伝えるしかあるまい」
「なるほど。でも、今からどうやってシリウス方面に向かってるヤマトに追いつくので?」」
「それは彼に頼んである」
「彼?」
「失礼します」
「入り給え」
「あ!あなたはギャバンさん!」
「よぉ、数年ぶりくらいか?大きくなったなぁ」
「お久しぶりです」
宇宙刑事ギャバン=一条寺烈であった。彼は銀河連邦警察の現場で、今までより上位の編成である『オリオン腕方面パトロール隊』の隊長に昇進したらしく、制服が真新しいものに変わっている他、パートナーであるミミ―と結婚したと語る(婿養子)。
「あれ?それ、それじゃミミーさんと?」
「婿養子入りだよ。相変わらず懐寒しだけどね、ハハハ……」
宇宙刑事シャイダーがフーマを壊滅させた後、ギャバンとパートナーのミミーは婚約したのだが、折しもボラー連邦が台頭し、全面戦争に陥る時勢とバッティングしてしまい、披露宴は先延ばしになってしまった。その間に地球では200年が経過したのは言うまでもないが、その戦いの中で、地球で世話になった大山小次郎を銀河連邦警察に誘い、ギャバンからシャイダーまでと友人であったのもあり、ギャバンの推薦で、ちゃっかり要職に収まっているとか。(ちなみにサイバー犯罪課の課長との事)
「ドルギランで送るよ。実は今回、駐在武官からの推薦もあったんだ」
「駐在武官?誰です?」
「君の国の海軍の北郷章香大佐だ」
「北郷さんが?そうか、あの人、最近見ないなと思ったら、バード星に赴任してたんだな」
「あと5、6人くらいは余裕で載せられるから、メンバーの選抜は任せるよ」
「了解っす」
――メンバーの選抜は、フェイトの体に憑依しているアイオリアとの都合上、射手座の黄金聖闘士となった箒は外せない他、射撃の腕を見込んで、ドラえもんとのび太、グレートカイザーの実戦テストの都合で鉄也が入り、MS隊からは合流した矢先であるが、ジュドーが選ばれた。あと一人はウィッチ代表で智子となった。途中、惑星エデン(グロームブリッジ星系)に立ち寄り、同地でロケットストライカー及び、ISのテストについていたハルトマンやシャーリーと合流する事になった。黒江達は西住みほたちが到着する日の朝、入れ違いになる形で、第一の目的地のグロームブリッジ星系へ向かった。
――惑星エデンは、バード星のある太陽系からも極近くで、銀河連邦加盟後の現在は、かつての地球での貿易都市的位置付けで繁栄している。人口が増加してきたので、ここからの移民船団も複数出港している。エデンの首都の都市圏規模は最盛期であった頃のニューヨーク市ほどで、800万を超える人間でごった返していた。
――惑星エデン 宇宙港
『地球行きは午後3時の離陸となります……チケットの空きは……』
「ここがエデン……なんか、別の星に来たって感じがしないわねぇ」
「確かに。どこもかしこも地球人だから、実感ねーな。シャーリーの奴はどこだ?迎えに来てるはずだけど」
「おーい、みんな〜こっちこっち〜」
シャーリーが手を振っている。エデンは概ね豊かな自然を有し、地球よりも平均気候が温帯というよりは亜熱帯に近い(地球は環境破壊で熱帯になってしまった地域、乾燥帯になってしまった地域があるため)ものの、以前の地球のような安定した気候である。現在は夏へ向かっているようで、シャーリーの格好は半袖だ。一同をバスに乗せて、一路、ニューエドワーズ・テストフライトセンターに向かう。
「そっちも大変な事になったなあ」
「全くだ。今はパルチザン化して抵抗してるが、手駒がたりねーんだ。猫の手も借りたいくらいだ。だからお前たちも連れて行くぞ」
「OK。ちょうどウルスラから機体が送られてきたんだけどさ、あれなんだよ」
「まさか、『あれ』なのか……?人が溶ける燃料使ってたってゆー?」
「ああ。だから、真田さんが送っていたのを今はテストしてんだ。コメートなんて乗りたかねーよ!」
シャーリーはウルスラが送ってきた『Me163』を毛嫌いしていると、はっきりと言う。鉄也も思わず苦笑いだ。
「う〜ん。分からんでもないぜ。あれの実機の方は人体溶かす燃料と、短すぎる滑空時間で実力は発揮できなかった。ウィッチを宇宙で戦わさす手段としても、危険性がありすぎる」
「ああ。だから、そいつ自身、『実験機だから、使えなくて当然です』って言ってるが、なら、送ってくんなよなー」
と、ちょっと愚痴るシャーリー。当のウルスラ自身は『地球連邦の技術で造るロケットストライカー』にわくわくで、工場でにて、後の大科学者『大山敏郎』(ハーロックの親友の大山トチロー)の先祖『大山俊郎』と共に、実戦型ロケットストライカーの製造に関わっていた。
――エデン ニューエドワーズ・テストフライトセンター
「いい事思い付きました!」
「何しようってんだ?お前」
「ここのバイパスをこっちへ繋げば出力上がりますよね?」
「バカヤロウ!!それは低温系だから、そんなところに繋いだら熱膨張で跡形もなくふっとぶぞ!!」
「は、はいっ!」
トチローはウルスラの思いつきに苦戦しつつ、真田が設計図を送ってきたストライカーを製造していた。それは連邦の主力戦闘機『コスモタイガーU』をジェット/ロケット両用ストライカーとして落としこむというもので、機体のフォルムは、ストライカーの主翼をコスモタイガーのそれに変え、コスモタイガーのエンジンノズルをストライカーとしてのものに変えたもので、23世紀の航空力学と、ウィッチ世界の科学とが融合したものであるのがわかる。原型機の可変噴射口と機動バーニアも受け継がれており、宇宙空間でも十分な機動性の確保が見込まれている。
「よし、これで三号機の組み立ては終わりだ。これから忙しくなるぞ、これから三日間で、三人分の予備機も含めて製造しなけりゃならんからな」
「はいっ。覚悟してます」
「もうちょい肩の力は抜いたほうがいいぞ。ご先祖さまが言ってたらしいが、ドイツ人ってのは、仕事に真面目ってのは本当らしいな」
「機械との付き合いは仕事より好きだから、って方が強いんですよね。だからつい、入れ込んで熱くなっちゃうんです。恥ずかしいですね」
はにかむウルスラ。
「その気持ちはわかる。俺の家系は代々、科学者でね。ドイツとの付き合いは、今から200年くらい前の第二次世界大戦に遡る。日本海軍の技術者だった俺の先祖が、ドイツ空軍のエースパイロットと会い、友情を結んだ。それが俺の家とそのエースパイロットの家との腐れ縁の始まりだ。そこから代々、俺の家と、そのドイツ軍人の家は、他人から見ればしょーもない事に二人して、熱を揚げる性分なのさ」も、ハーロック家当代当主と親友の間柄である事を示唆した。それはファントム・F・ハーロック二世の頃から続く二つの家の宿命とも言え、ウルスラもなんとなく、それを察す
大山はこの時代においてる。五時間後に到着したドルギランで運ばれてきた機材はニューエドワーズ基地で最終調整を受けた。(一同がついたのはその更に二時間後)
――七時間後
「ダブルゼータのジェネレーターやバックパックを外宇宙用の高出力のに取っ替えて、ブレーンフェニックスのアビオニクスの調整だ!作業を急げよ!」
基地の格納庫では、ジュドーの強化型ZZのスラスターやジェネレーターを外宇宙用の高出力型へ強化する作業と、ブレーンコンドルが進化した『ブレーンフェニックス』の内部計器の最終調整が大山の指揮で行われていた。MSは外宇宙運用を行うには、外装を外宇宙環境に適応させたものへ換装し、バックパックを外宇宙環境に適応させたりする改造が必要であるため、一番時間がかかるのだ。ブレーンフェニックスはアビオニクスの最終調整程度だが、これも地味に大変な作業で、進化で不要となった機器を外し、ミノフスキー粒子に適応させたグラスコクピット化させるという工程が挟まった為、時間が伸びたのだ。休憩を取っていたウルスラは一同を出迎え、智子から『以前と変わったわね』と評され、お互いに歳月の経過を実感した。
「ウルスラ、どうしてあなたがここに?」
「留学に志願したんです。未来からどんどん新技術が入って、いっぺんに今までの用兵、思想などが旧態化しましたから、上もどんどん留学枠を増やしてるんです」
「確かに。空母の集中運用とか、機械化部隊の一元的な集中運用、航空支援との連携とか、電子化とか、史実で30年くらいの軍事的思想の革新がいっぺんに起こったような状態だからねぇ」
「ええ。なので、大国の殆どは留学を推し進めてます。軍事面でブリタニアと扶桑が突出し始めたので」
「リベリオンが落ちたから、残りの三大国を強化して冷戦に持ち込むしか、歴史の選択肢がないのが本当のところよ。他はリベリオンに比べると烏合の衆同然だし」
「冷戦、ですか?」
「そうよ。近いうちに起きる『太平洋戦争』を凌いで、どうにか世界を二大国の影響下で分ける。これが最善の方法よ。リベリオンの国土を占領する作戦が立ち消えになったのは、リベリオン軍が予想以上に強化されていたからだもの」
「リベリオンはそれほどに強化されたのですか?」
「話に聞くと、数年前とは比較にもならないレベルになっていて、機械化水準もカールスラントを凌ぐレベルになったそうよ」
「本当ですか?」
「ええ。確かな筋からの情報よ」
――智子が示唆した太平洋戦争と冷戦。歴史の方向性がそれに向かいつつあるのは事実で、現にリベリオン本国軍は1946年冬から47年初頭を目処にハワイ真珠湾へ兵力を集結させつつある。連邦はそれに正面切って相対するであろう扶桑皇国へ技術を提供し、同国軍の強化を図っていた。扶桑とブリタニアはそれを自国強化と改革のいい機会と、改革派がそれに乗っかっている状態だ。それは連邦の支配権を事実上握る、日英両国の思惑とも合致していた。智子らに情報を提供している仮面ライダー達も憂いている太平洋戦争への道は、もはや誰にも止められないのだ。
「それで、あなたはこれからどうするの?」
「数年はこの世界に滞在します。まだまだ勉強したい事が山程あるので」
「頑張りなさい。昔からそういう性分だったわね」
「智子大尉も随分丸くなられたですね。昔を思い出します」
「ま、まぁね」
智子は歴史改変後、記憶が封印されたため、スオムスに配属されたことに塞ぎ込んでいた。ウルスラはその当時に最年少隊員として配属されていたため、それを覚えている。智子としては『今の状態』では、会って話をすると、恥ずかしいところも多分にある。
「では、私は作業に移ります。大尉らはゆっくりとお休みください」
敬礼し、自身の作業に戻るウルスラ。姉のエーリカと違って、生真面目な側面が強いのが分かる。
「あれがエーリカちゃんの双子の妹か。随分と性格が違うな」
「上がいい加減だと、下がしっかりするんだよ。俺がいい例でしょ?」
「確かにな」
鉄也にジュドーが言う。彼の妹のリィナ・アーシタという実例があるので、納得の表情だ。
「ん?ドラえもんとのび太はどうした?」
「ああ、あいつらなら、ギャバンさんや、綾香さんと一緒に司令室だよ。シリウス方面に連邦の外征艦隊がいることが分かったそうな」
「何故、そんな空域に艦隊がいるんだ?」
「ほら、将軍達の別団が合流しようとした艦隊だよ。どうやら行き違いで、シリウス方面に演習に行っちゃってたらしいんだ」
その艦隊は、地球連邦軍太陽系聯合艦隊の新設間もなかった『第7艦隊』であった。改アンドロメダ級「しゅんらん」の現在の配属先で、同艦隊旗艦を務めている。編成は波動エンジン艦中心で、20隻の波動エンジン搭載型戦艦、10隻の主力空母改級空母(後期型)を、30隻のウラガ級護衛宇宙空母を有する大規模機動艦隊である。連邦軍の中でも有力な艦艇を多く有するため、パルチザンは合流を切望しているのだが……。
――基地 司令室
「と、言うわけだ、古代君」
「了解です。SOSはこちらでもキャッチしていました。直ちに第7艦隊の救援に向かいます」
「増員は戦闘中の合流になりそうだが、それでも構わんかね?」
「構いません。それでは次の連絡は明朝に」
「了解だ」
基地司令は現況を鑑み、指揮下部隊ごとパルチザンへ合流し、ヤマトに連絡を取った。ヤマトもシリウス方面からのSOSをキャッチしており、同艦隊の救出に向かった。
――アンドロメダ。その名は地球連邦軍史上で、最も悲劇的な名である。アンドロメダ級建造計画は真田志郎により大きく手直しされ、過度の自動制御を見直し、フェイルセーフ機能とマニュアルの介在を大きくしたパッチワークの二番艦が「アンドロメダU」である。だが、その名は初代の余りにも悲壮な最期が著名なため、工員・乗員らが使うのを嫌がり、仕方がなく、第二世代アンドロメダ建造計画『春蘭』計画から取ったコールサイン『しゅんらん』を使うようになり、それが定着した。一般向けの書籍では、改アンドロメダ級を『しゅんらん型』と表記することが当たり前で、連邦軍も広報で『わが新鋭のしゅんらん型の……』と用いたため、アンドロメダUという名は書類上でしか確認できない名前となった。この時期には、銀河連邦内の安全保障を地球が担う事になり、軍の任務内容に『銀河連邦の星系の通商護衛』が加わった事もあり、第十二番艦までの増備が決定されていた。既に、四番の「アルテミス」は竣工し、引き渡しは同級三番艦「ガイア」よりも早く、しゅんらんに帯同し、第七艦隊に配属されていた。ガイアは予てから第二艦隊旗艦が内定していたが、公試運転中に砲塔の不具合が発覚し、その改修のために日本で改修を受けている。ヤマトが援護に向かったのは、そんな経緯を持つ艦なのだ。
――宇宙戦艦ヤマト
「まさか、宇宙に出るとはな。死んで尚も摩訶不思議な事はあるものだ」
フェイトの体に憑依し、彼女の体を操る事で、都合、二回目の仮初の生を得た『獅子座の黄金聖闘士』アイオリア。『彼』はフェイトの体を動かすに当たり、髪をポニーテールにまとめ、動きやすいラフな服装にしている。
「あんたは死んだはずの人間なんでしょ?なんで現世に留まってるのさ?」
「俺に強い心残りがあったからかもしれん。死んだ時の年齢は20歳だった上に、聖域がどうなったのか?それを見届けぬまま、使命を果たして、死んでしまったからな」
アイオリアかしらぬ自虐的な物言いだが、かつて、『黄金の獅子』とまで謳われ、ティターン神族をも屠った自分が、オリンポス十二神の一角の『ハーデス』の軍を打倒せずに世を去る事になった事が心残りであると、菅野に話す。
「あんたのポジションが決まったぜ。接舷戦闘班付けだそうだ」
「そうか。『俺』にとっては、戦闘機を乗り回すよりも、拳を交わすほうが性に合っているからな。当然の措置だろう」
声色はフェイトのそれだが、トーンが低めである上に、どことなく落ち着きがあるため、他人が聞けば、同じ人物の声と判別が難しい。
「それで、どうするんです?これから」
「目的を果たせば、この子に体を返す事になるが、それはいつになるか分からん。当面の間は君たちのもとに厄介になる事になるな」
「それなら、オレに格闘戦のコツ教えてくださいよ。とっさの時とかに苦労してるんで」
「それならお安いご用だ。確か、展望室があったな?」
「ええ。だけど、あそこはちょっと狭いんで、甲板に出ましょう。この艦は環境バリアがあるんで、宇宙空間を航行中に甲板に出ても大丈夫ですよ。艦長代理には言付けしといてあるんで」
「やれやれ。もうなんでもありだな」
アイオリアと菅野は、甲板に出て、格闘戦の訓練を開始した。古代やMPと接舷戦闘班を兼任する空間騎兵隊も興味があるようで、シフト交代を名目に、甲板が見える展望室に集まった。真田が『おい、念のために天幕張ってやれ。バリアの境界出たら死ねるからな』と忠告したので、工作班が天幕を張り、それを設営した上での訓練となった。
「んじゃ行きますよっと!」
菅野は先手必勝を期して、圧縮式超硬度防御魔方陣を纏った拳の連打を見舞うが、光速を超えた次元にいたアイオリアにとっては、『動かなくてもいなせるほどに鈍い』速さであるため、連打の最後の一撃を手のひらをかざすだけで受け止める。
「なっ!?手応えはあったはずだ……!」
「ふむ。センスは悪くないが、自分の動物的なカンにに頼っているぞ。拳を交じり合うというのは、そう簡単なことではない。自然に体が反応するようになって初めて、肉体の物理的な速さの限界を超える事ができるのだ。見せてあげよう。我が拳を!」
「うっ!?」
『ライトニングボルト!!』
菅野はとっさにシールドを張ったが、ライトニングボルトは容易く突き破り、彼女の体に打撃を与えた。威力は本来の100分の一程度だが、光速の拳を見舞われた事でのショックで、思わず体が強張る。
(足が震えてるのか……!?くそ、たった一発、たった一発なんだぞ……!ビビるな、オレ!)
菅野は湧き上がる恐怖心を、『扶桑海軍の撃墜王』である誇りと矜持で抑えこみ、フェイントを挟んでの、右ストレートを当てる。『バスン』と、アイオリアに直撃する事が響き、アイオリアは多少、仰け反る。
「どうだ……!」
「いいパンチだ。だが、踏み込みが浅い。パンチとはこうするものだ!」
「!」
アイオリアは拳の連打を得意とする。しかし、同系統の聖闘士である星矢がそうであるように、一点集中の技も持つ。それがライトニングボルトだ。しかし、その基本形と言える『彗星拳』も当然ながら撃てる。彼はそれを超音速で放った。当てずに掠らせるという、絶妙な調整で。
「痛ッ!頬が切れたのか…?今の一撃で……?」
「そうだ。今のは彗星拳。一点集中のストレート技の基本形に位置する。相手に攻撃を悟らせないのも大事だが、拳を打つ必中のタイミングを覚える事、相手の反撃を許さないように、一気に間合いをつめる事。これが大事だ。喧嘩でもそうだが、相手の間合いで戦うことは愚の骨頂だ」
アイオリアは聖闘士としての経験則から、菅野にアドバイスをする。自らの拳で実演も行ってみせ、面倒見が良い所を垣間見せるのであった。
――シリウス方面
地球連邦軍太陽系聯合艦隊/第7艦隊は、演習中に暗黒星団帝国の襲撃を受け、苦戦を余儀なくされていた。これは艦隊が新設間もなかった事による練度不足、敵がワープで奇襲してきて、機先を制された事が原因だった。
「駆逐艦「トライデントV」、轟沈!巡洋艦「ヨーク」、戦闘不能!」
第7艦隊は戦闘開始から15分で、無人艦艇の四分の一を喪失するという損害を負い、旗艦であるしゅんらんも、奇襲により通信装備が損傷し、また、戦闘システムが、対艦ミサイルによる損傷でエラーを起こし、戦闘能力を充分に発揮できず、中央部から火災が発生してしまう。
「船体中央部から火災発生!」
「ダメージコントロールを急げ!戦闘システムのエラー解消はまだか!これではいい的だぞ!」
「あと15分は時間を下さい!」
「遅い!5分でやれ!」
しゅんらんは損傷が電気系統に及び、戦闘システムにエラーが起こった。その修復が急がれていたが、暗黒星団帝国の電光石火の攻撃に晒され、思うような作業が出来なかった。暗黒星団帝国はアンドロメダ級に通じる対艦ミサイルを開発したのだという事実が、艦長兼司令の山南と軍令部参謀でありながら、参謀副長の古代守に重くのしかかる。
「味方艦載機隊、敵航空部隊と戦闘中!」
「SOSは発信したか?」
「予備設備で発信していますので、友軍が拾ってくれるかどうか」
「そうか……」
第7艦隊の戦場での指揮は、現在、僚艦のアルテミスが代行している。しかしながらアンドロメダ級と言えど、乱戦では自慢の指揮統制システムも頼れず、自衛のためもあって、的確な指示が出せているとは言い難い。
「乱戦に持ち込んで、こちらの管制システムの持ち味を封じるとは、敵も考えたものだな、古代君」
「ハッ。対レーダーミサイルと、対艦ミサイルの二段構えでレーダーとデータリンクアンテナをやられたのは迂闊でしたな」
「ウム……あれでこちらの持ち味を封じられたからな。」
「艦長、真正面よりプレアデス級が!」
「艦橋ブラスター砲を撃て!波動カートリッジ弾の装填は間に合わん、艦橋砲であれば通じるはずだ!」
アンドロメダ級が緊急用の武器として備えるブラスター砲は砲身が無く、発射機構を艦橋に内蔵する特殊な武装である。その出力はMSのビームライフルとは桁違いの出力を誇り、重装甲で鳴らすマクロス級のバイタルパートであっても、一撃で貫くほどだ。発射された閃光はプレアデス級のバイタルパートを貫き、艦橋周りの電子回路を焼き払う。プレアデス級は操舵不能に陥り、別の戦艦と衝突して果てる。
「艦橋砲があって良かったな……」
そう、誰かが漏らす。アンドロメダ級の設計で真田からも褒められた数少ない点が、この武装なのだ。一同は艦橋砲の頼もしさに安堵しつつ、戦況の推移を見守る。
――戦場の一角で、主力戦艦後期型『リヴェンジ』がその遠距離砲撃能力で暗黒星団帝国に一矢報いる。同艦は英国で建造された主力戦艦級の通算12隻目で、かつてのR級の名を受け継いだ。同艦には白色彗星帝国戦を最前線で生き延びた熟練将兵が多く乗り込んでいたために、第7艦隊の中でも、『初撃を無傷で切り抜けた』艦の一つに数えられた。
「レゾリューション、ラミリーズに打電!単縦陣で敵の空母部隊に突っ込むぞ!」
と、白色彗星帝国戦を生き延びた将兵が得意とする、『航空戦を思わせる、敵艦隊への突撃戦法』。これは英国出身のある艦長が、航空畑出身であり、地球本土決戦の際に始めたのが起源である。主力戦艦後期型は火力・装甲が原型艦に比べて強化されていた故の戦法で、ショックカノンを波動カートリッジ弾装填の上で撃ちまくり、まずは遠距離から、敵空母を片っ端から撃沈する。
「敵艦隊の度肝を抜いてやれ、全艦、転舵!伝統のネルソンタッチを見せてやれ!」
三隻は敵艦隊の目前でターンし、『ネルソンタッチ』を行う。日本で言えば『東郷ターン』だ。三隻の一八門に及ぶ実体弾装填のショックカノンを浴びる形となったデザリウム側は泡を食って、続々と撃沈される。
「イーヤッホー!ガトランティスの時より脆くていいぜ!波動エネルギーにこうも脆いとは、面白い!どんどん装填しろ!」
ガトランティス艦は総じて重装甲であり、それに比して、波動カートリッジ弾を用いれば『一撃で轟沈必至』なデザリウム艦はやりやすいと、リヴェンジの砲術長は漏らす。この大胆不敵な戦法は、奇しくもブリタニア連邦海軍がライオン級でアイオワ級に仕掛けた戦法に通じ、デザリウム全軍は後に、『日本艦と英国艦に注意せよ』という秘密通達を出す羽目になるのである。
「よし!敵艦隊は混乱した。我が第72戦隊は本隊の救援に向かうぞ!」
彼らは数分で30隻以上の空母を血祭りにあげ、砲術としては、ヤマトの戦闘副長の南部康夫がフェーベ航空決戦で記録した、60隻の撃沈以来の大戦果を記録した。この戦いの後、リヴェンジ砲術長は叙勲を受けるのであった。
――シリウス宙域はセンサーに良くない、熱放射や、宇宙線が強い。これは主星と、恒星の死骸とも言える白色矮星の伴星が互いに影響しあっているためで、地球連邦軍が奇襲を受けたのは、センサーの機能低下と妨害で、索敵網が機能しなかったのが主原因であった。連邦軍は中央が崩壊状態に陥った為、このように、各地で突然の襲撃を受けてしまうケースが頻出し、各地の連邦軍は混乱したが、幸いにも、月方面軍の施設は無傷であり、そこから話が行く事で、各地の連邦軍はパルチザンの下に糾合されていった。
――地球 パルチザン移動本部
「このグローリアスはキャパシティがそろそろ満杯になってきた。上位艦への乗り越えが必要になって来ましたぞ、将軍」
「うむ。しかし、日本に主力戦艦級はないし、マクロス級は月にしかないぞ」
「アンドロメダ級の二番艦『カシオペア』はどこに?」
「あれはネメシスを造るのに、一部パーツを提供して、今は改型に改造中だと報告を受けていた。練度も低かったから、ここ数年はアンドロメダ級の練習艦扱いだったからな」
パルチザンの最高幹部らはグローリアスのキャパシティが限界に達しつつあるため、次期旗艦に使えそうな艦をリストの中から探していた。アンドロメダ級の二番艦『カシオペア』とは、純正のアンドロメダ級二番艦として、白色彗星帝国戦開戦間近に竣工していた艦で、当時の太陽系防衛艦隊内の太陽系第一外周艦隊の二番艦を努めていた。しかし、土方竜司令長官に『隊列も組めない艦は来るな』と言われ、タイタン基地に留め置かれたため、土星決戦、地球本土決戦には参陣していない。その後は姉の戦没に伴って、旗艦を一時務めたが、すぐに、より高性能のしゅんらんやネメシスが竣工したのに伴って、アンドロメダ級の練習艦扱いになり、ここ最近の戦にも参陣していない。しかしながら、アンドロメダ級を遊ばせておけるほどの兵力はないため、メカトピア戦後に『大規模近代化』を受ける事になったというが、改修中では出せる状態ではない。
「ガイアはどうでしょう?」
「ガイア?アンドロメダ改級でまだ公試運転中だったという?」
「ええ。私が艦政本部にいる同期から聞いた話によれば、ガイアはこの日本のドックにあるそうです」
「ふむ。てっとり早く戦力を確保できるか。……。加藤大佐、ドックがある神戸、長崎、大島、佐世保などを巡ってみてくれ。使える艦があれば戦力に加えたい」
『分かりました』
幹部らの協議で、移動本部の替えを探すことになったパルチザン。これはペガサス級では、キャパシティに限界があるからで、より大容量通信に耐える装備がある恒星間航行用の船を求めたのが分かる。だが、地球連邦軍の混乱に乗じ、各地でジオン残党が決起している事を、彼らはまだ知らない。ジオンの残光は地上でもまだ消えてはいないのだ。パルチザンはデザリウムと戦う前に、同種族同士での内輪揉めを処理する必要に駆られるのであった。
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