ドラえもん のび太とスーパーロボット軍団 第二部


――デザリアム戦役が未来世界を揺るがす。その様子をデビルマン軍団からの情報で逐次、報告を受けている扶桑皇国。その皇国が抱える秘密部隊。艦娘は表向き、提督たちの秘書だが、その実態は統合幕僚会議直属艦隊という形で扶桑海軍にダイ・アナザー・デイから組み込まれた部隊の隊員でありつつ、艦艇の魂が形となった九十九神でもある。その事から、Gウィッチと同等の待遇を受けている。また、全体的に史実の敗北の記憶があるため、ウォーモンガーが多い傾向にある。(悲惨な大戦末期の記憶があると、より顕著である)特に、戦艦達は温存されている内に機会を失った事、優遇されているのに、出撃したら戦没する状況に追いやった当時の司令部を快く思っていない。日露戦争の三笠のようになれなかった事を大和はトラウマレベルで悔いており、天一号作戦を起草したとされる神参謀を露骨に嫌っていることも有名であった。折しも、当時の扶桑では、航空主兵論が航空機の高額化と空母の大型化の進展による戦艦以上の財政の圧迫度の高さと、艦艇防空力の飛躍的増強で勢いを失い始めた事による空母機動部隊の規模圧縮が始まっていた(史実を鑑み、航空機生産力の差が大きく出る航空戦よりも、艦隊戦による損耗のほうが、まだ取り戻しが効くという日本側の提言も大きい)。これは民間パイロットの数も限られ、『動員できるパイロット資源に限りがある扶桑には、水上艦艇をメインにした海軍構成のほうが向いている』という結論が出たからで、空母機動部隊の規模圧縮で得られた予算は空軍に回された。陸海軍の独自展開能力を実質的に奪い、空軍の支援無しに動けなくすることで、統合運用を覚えさせる。これが防衛省と国防省の共通意見であったが、空母航空団の母体となる部隊を解体し、空軍の部隊の人的資源に回してしまった事は完全にミスであった。井上成美が日本から批判を浴びたのは、海軍航空隊主力を空母航空団にする施策を軽視した点だが、日本側も事務処理ミスをしてしまったため、あまり強くは言えなくなった。だが、ジェット戦闘機前提の空母航空団の育成は多く見積もって、10カ年を前提にしての育成が必要である。教育システムの整備の都合もあり、太平洋戦争は空軍の戦になると見込まれていた。デザリアム戦役はちょうど芳佳の留学頓挫から東京/札幌五輪までの時期にあたり、空軍の設立、それに伴う空軍部隊の空母搭乗にあたる仲介員の制度(空軍と近しい陸上航空出身の海軍軍人がつく)開始など、扶桑皇国軍のシステムそのものにメスが入れられていたため、独自に展開能力を持つ艦娘は重宝されていた――






――連合艦隊新旗艦『敷島』――

地球連邦軍に発注し、ダイ・アナザー・デイ後に完成した改三笠型戦艦(ラ級・Pタイプ)『敷島』。全長800m、全幅100m超、排水量100万トン以上、波動エンジン(主機。普段は副機の重力炉と核融合炉で稼働し、そう偽装されている)搭載、60口径56cm砲を三連装四基12門搭載のバケモノ。波動エンジン搭載であるからして、量産型ラ級戦艦のプロトタイプだが、予算対策上の理由で三笠の改良型とされている。艦首の収納式衝角(ドリル)も併せ、ラ號の世界を超えた血族である。既に同型艦の『秋津洲』、『大八洲』、『瑞穂』も艦名が偽装も兼ねて決められた上で、地球連邦軍に発注済みであり、長門型戦艦と紀伊型戦艦の代艦扱いで『ニューレインボープラン』の扶桑への割り当て分は建艦が始められていた。



「飛龍、どうだ?未来世界の様子は」

「Pプロジェクトは第三段階へ進むって。若松少佐の発案で、彼女達の軍人名での軍籍作成の提案がなされてるよ」

「うむ。今日、委員会にかけ、吉田前総理の裁可を仰ぐ。許可が得られ次第、我が空軍の軍籍を用意してもらおう」

クーデターの責任を取り、辞任した小沢治三郎に代わり、連合艦隊司令長官に新たに任命された山口多聞。ラ級戦艦に座乗し、第一戦隊の訓練を監督している。その傍らにいるのが艦娘・飛龍だ。この頃になると、扶桑の政治は表向き、議会制民主主義のもとに動いているが、戦備整備などの重大事は山本五十六の設立した『Y委員会』が決めていた。制度的には、英国の円卓会議の輸入である。ダイ・アナザー・デイ前後から活動を開始し、クーデターを大義名分に、扶桑の裏での舵取り組織として台頭した。Gウィッチは軍再編後、上官の源田実共々、彼らの配下となっている。

「こいつの姉妹、残り三隻の竣工は?」

「月のフォン・ブラウンで進めてるそうな。引き渡しは『来年』の春だって」

「日本への通告は?」

「長門さんが済ませてきたよ。防衛省の背広組は腰を抜かしたそうだよ」

「800mもあるラ級を大和型戦艦ベースで作ったのだ。そりゃ腰抜かすだろうよ。乗員は三交代制で1000人ちょい、艦上機の運用も可能、実質的に宇宙戦艦なのだ。デザリアムが攻めてくるまでに、敷島だけでも間に合ってよかったよ」

ラ號の准同型艦扱いの敷島だが、事実上はラ號の改良型と言える。デザリアムが攻めかかるまでに竣工が間に合った唯一のラ級。ニューレインボープランの試作艦の側面もある。正面砲戦を可能にするため、ラ號から艦首形状が変更されている。主砲口径の拡大による投射量低下を大威力化で補うのは戦艦設計ではポピュラーである。外見上はラ號タイプの改良なので、細かい箇所以外、大和型戦艦をそのまま56cm長砲身砲搭載に耐えるように拡大しただけだが、中身は23世紀以降の技術での宇宙戦艦である。ベクトラと全長で比肩し、全幅では凌駕する。大和型戦艦の面影を残す外見と裏腹に、中身は銀河大航海時代の宇宙戦艦そのものであり、戦闘力はかつてのアンドロメダをも凌駕する。この前代未聞の巨艦の建造は最強のラ級と噂される『フリードリヒ・デア・グロッセ』を仮想敵にしたためともされ、ラ級の量産にあたっての実験艦として、むしろ贅が尽くされたのが分かる。

「空母は航空要員の育成に金と時間がかかる。だが、戦艦であれば、人員はすぐに用意できる。旧式を退役させ、その人員を回せばいい。オートメーション化で必要人員は遥かに減っておるしな」

「長門型戦艦と紀伊、近江の代艦名目で予算を通しといて正解だったね」

「井上さんには悪いが、これから空母はおいそれと数を揃えられなくなる。空軍も戦略爆撃機の配備数で日本と揉めておるからな。かと言って、反応兵器や波動砲は、戦時でなければ公にできん。戦艦を揃えることで、相手の空母の数を削らせるのも目的だからな、ニューレインボープランは」


「ここまでいくと、リバティーを持ってるリベリオン以外は追従するのやめるんじゃない?」

「キングス・ユニオンとリベリオンしか追従できんだろうよ。核兵器に多額の金を突っ込んで、核実験で環境を無駄に汚すよりは、『クリーン』な金の使い方と思うがね」

山口多聞の言う通り、空母は大型化で数を揃えられなくなるため、扶桑は宇宙戦艦を揃えて『宇宙艦隊』を揃えることで、将来の宇宙開発競争に備える事とした。ラ號とヤマト型の基本設計を流用しているので、水上艦としての運用も可能であるため、偽装も兼ねて、水上で運用されている。こうして、地球連邦軍のバックアップを背景に、大艦巨砲主義に思い切り振り切った大きさの艦艇を用意してしまう扶桑に衝撃を受けた連合国構成諸国は、比較的に財政に余裕がある国のみが追従する。これは大和の頃から見られる海軍国の傾向だ。ガリアはフランスのガスコーニュを欲したが、フランスから所在不明と通告され、大きく落胆している。キングス・ユニオンはこれ幸いと、G級巡洋戦艦の代艦としてのラ級をブリタニアは最新鋭のクイーン・エリザベスUをベースで計画する。連合国でラ級を運用できる国は、この二カ国のみであった。安易にイギリスからの貸与を選ばなかったブリタニア。こうなった理由は大戦末期の英国海軍の保守性、既に戦争の終わりが見えてきていた時期である、新戦艦が必要とされる時代でもなくなったためという、大戦時の英国の政治情勢が絡んでいる。条約締結前に一隻だけ完成し、秘匿されていたG級巡洋戦艦をとりあえず改造し、でっち上げた。それがイギリスのラ級の真実だ。そのため、当時の新戦艦に必然的に劣る砲力、防御力など、ネックになる要素が多かった。戦艦が消えた戦後でも使われる事は無かったため、近代化改修はノウハウ不足で軽度であり、イギリス自身が使うのをためらっている。貸与よりも新規調達を選ぶあたり、ブリタニアでの大艦巨砲主義の優勢が覗い知れる。

「ブリタニアは空母をどうするのだ」

「イギリスのと合わせて八隻で妥協して、その代わりに原子力潜水艦と戦艦で海軍力を誇示するそうな」

「政治的に使えんだろうに、原子力潜水艦など。第一、水中型MSのいいカモだ」

「魅せるための装備だろうね。冷戦時代の名残りで。戦艦の質で勝てないのは知ってるだろうから。でも、深度限界が有るから高速原潜の方が対水中型MSには強いっていうけどね」


「そうか。原子力潜水艦というと、冷戦時代のボタン戦争という奴か。東方不敗マスター・アジアとトレーズ・クシュリナーダが忌み嫌った考えと聞くが…」

「ま、それって、戦場に人の血が通わなくなるっていうヒューマニズムの強い考えだから、嫌う派閥もいるんだよね。人手不足の移民星や移民船とか」

戦場に礼節は必要か?近代以降の科学者が悩むテーマであり、MSの登場後に脚光を浴びたテーマで、トレーズ・クシュリナーダが有名な提唱者だ。無人兵器を嫌う風潮は彼の影響もあって普及した。ただし、彼も職業軍人であるため、『戦術単位で人の意思が関わる』のであれば、ある程度は容認していたという。ゼクス・マーキス(プリベンター・ウインド)が批判されるのは、人手不足なのに、無人兵器の使用自体を禁忌のように扱ったためだろう。(上司のレディ・アンはやむを得ない時は使用を考えていた)これがドラえもん時代であれば、人格保有のロボットに訓練をさせて、パイロット扱いにする事も可能であったのだが…。ゼクス・マーキスは『戦争を嫌う故に、人が居なくても戦争を続けかねないモビルドールを嫌っている』が、ヒイロ・ユイとルクレツィア・ノイン以外に、その真意を理解してもらえないという点があった。なんだかんだで職業軍人であったので、妹と違う世界に生きている自覚があるし、本名名義でシャアに似た事もした事もある分、色々とこじらせているという解釈もある男だ。

「まぁ、シャアみたいに、贖罪とか言って隕石落として、ゼクス・マーキスみたいに、超大型戦艦をぶつけようとしても困りもんだよ、多聞丸」

飛龍からのシャアとゼクスの評価が覗い知れる。飛龍からすれば、色々とこじらせていくと、自然への贖罪に行き着いてしまうのが戦乱の世の人間の思考だと言うことだろう。東方不敗マスター・アジアもそうだが、似た傾向に走り、業を背負うことをしようとする。その思考が地球の力『アースフォース』を活性化させ、コスモリバースシステムの効果増大を起こした。アースフォースは電撃戦隊チェンジマンの力の根源であるが、地球の生命エネルギーそのものでもある。それがコスモリバースシステムの効果を増大させたのである。結果、地殻そのものが削られたオーストラリア以外は20世紀からの環境汚染がチャラになり、新たな大陸が形成されるほどの効果を得た。その新たな大陸こそが、ウィッチ世界の南洋島に相当する。デザリアム戦役に前後し、オーストラリア大陸以上の大きさの大陸が日本の近くに忽然と現れたので、太平洋の海流が変わってしまう事が懸念されたが、意外なことに日本海溝の東側が隆起したため、意外なほどに変化は起きなかった。同時にニュージランド付近も隆起していたので、大陸の割合が増えたことになる。オーストラリア大陸の消えた16%はこれでチャラどころか、却って陸地が増えたことになる。地球連邦はこれら新大陸をフロンティアと位置付けている。30世紀には開発がだいぶ進み、元・戦争難民が名を上げるための地域としても有名になるが、23世紀初頭の時点では、大陸のどこも入植が始まったばかりのフロンティア。かつてのアメリカ大陸のような開拓地なのだ。先住民族がいない上、できたばかりであるので、食料品を確保するための動物もいない。過酷な条件での始まりであるため、町は外部との連絡が可能な東西南北の沿岸部から造られ、沿岸部からその大陸の歴史が始まったと、さらなる後世で語られるのである。








――山口多聞と飛龍の会話は未来世界の複雑な世相を示していた。地球連邦の中の日本連邦は超AI技術の復興を目指し、統合戦争で次元の狭間に消えたドラえもん達、猫型ロボットの戦後に残された資料を集めているが、反対論も多い。ただし、ドラえもんの働きにより、『モビルドールが普及するよりはマシ』とする声が勝ったのも事実だ。西洋諸国の多くは技術革新の連続で、日本が完全に科学技術の主導権を握ってしまった事を危惧し、統合戦争を起こした側面もあるが、結局、度重なる宇宙戦争で人手不足が深刻になった時代、軍隊は無人兵器を用いざるを得なくなった。ため、モビルドールとゴーストは制式兵器の地位を追われることはなかった。その時代に一度は特異点を恐れられ、抹消された技術が脚光を浴びたのは、歴史の皮肉であった。――








――プリキュア達がネオ・ジオンとの戦争に参加したのと同じ頃、パルチザンの命で、シンフォギア世界の派生世界の調査を行っていた調。シンフォギアは持ち込まず、クラスカードを自衛目的で借り受けており、それを使用して、現地で戦っていた。ちょうど、その世界は光明結社内の仲間割れが始まっていた時間軸であり、その世界の自分と翼が戦っていた戦闘に巻き込まれてしまった。

「ああ、もう!ややこしいから、しばらくの間眠ってて!『サンダーボルトブレーカー』!」

サンダーブレークの系譜の電撃光線をとっさに放ち、その世界の自分達を一瞬で昏倒させる。そして、どうせ衛星でその世界のS.O.N.Gには見られているはずというやけくそから、クラスカードの力を使った。

『告げる!汝の身は我に!汝の剣は我が手に!聖杯のよるべに従い この意この理に従うならば応えよ!!誓いを此処に!我は常世総ての善と成る者!我は常世総ての悪を敷く者!汝、三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来たれ、天秤の守り手!!夢幻召喚(インストール)!!』

イリヤと美遊から借り受けたクラスカードは『セイバー』と『ランサー』。その内のランサーを使用した。ランサーの英霊はクー・フーリン。アイルランドの英霊である。その証であるゲイ・ボルグを構えた姿を見せた。

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!!』

いきなりのゲイ・ボルグ。因果律を操る槍であるので、有無を言わさずに『プレラーティ』(調の故郷の世界では、彼女は結社まるごと、天秤座の童虎の廬山百龍覇で屠られている)の心臓を貫く。それと同時に大爆発が起こる。ランサーを使ったのは、逃走時の足が速いからでもある。(聖闘士の能力と併用すれば、韋駄天である)

「ややこしくなるから、この場は逃げよう」

とはいうものの、ゲイ・ボルグを放ったのはその世界のSONGにバッチリ確認されている。調が二人いる事になるため、当然ながら、その世界のSONGに追われることになった。黒江から『逃げないほうがいい』と言われていたのを忘れていたのと、その場での説明ができないからであった。また、ゲイ・ボルグを使ったために、SONGからは『完全聖遺物』を持つと解釈された。この辺りは黒江と同じような事になったと言える。似た者同士になりりつつあるからか、その後は黒江が放浪していた時期とほぼ同じように放浪しつつ、持ち合わせの戦闘服と軍服をかわりばんこに着て、野宿やネットカフェで夜露を凌いだ。調はこの頃には、扶桑の新設された統合士官学校を卒業しており、空軍士官の第一期生として少尉任官済みであるので、階級章は少尉のものだ。つまり、最下級の将校であり、基本給はまだまだ安い部類だが、Gウィッチとしての危険手当で通常軍人の中堅下士官級の金額である。金には困る事はないが、黒江が過去にしたのと似たような『ネットカフェ、カプセルホテル、コインランドリーの三拍子』を二週間ほどした。そして、二週間後。




――二週間後。

その日、その世界の切歌が光明結社の首魁『アダム』の攻撃を防ぐために絶唱を使ったため、それを捨て置くことはできず、『セイバー』のクラスカードを発動させた状態で加勢した。



「し、調ちゃん……?本部にいるはずじゃ?それに、その姿は……?」

「私は『ここ』とは別の世界から来た『月詠調』。この世界の私、つまり、『月読調』とは平行世界の同一人物って事です、響さん」

「別の世界って事は、ギャラルホルンで?」

「いえ、根本的に次元がここと離れている世界から、別の手段でやってきたんです。切ちゃんが絶唱を使った以上、捨て置くことはできません。騎士として、ね」

クラスカードを発動させた状態のため、生前のアルトリアと同じ騎士服姿である。この世界の自分自身よりだいぶ長身になっている(163cm)事もあり、二週間前の『調によく似た人物』は別世界の調そのものであると説明を受けることで合点がいった響C。口ではわからない点として、名字の漢字が違うことだろう。


「騎士……だと?貴様は……」

「サンジェルマンさん、貴方なら知っているはずです。この聖剣の存在を」

風王結界を解き、黄金の剣が鞘に収められた状態で現れる。その時には共闘を選択したサンジェルマンが居合わせたので、彼女はその聖剣を知っているため、驚愕し、目を大きく見開いていた。

「どうしたんですか、サンジェルマンさん?」

「エクスカリバー……!?アーサー王伝説で伝えられし聖なる剣!何故、それをお前が持っている!?」

「ってことは……、完全聖遺物!?」

「いえ、これは幻想みたいなものですよ。人が長い年月の間に生み出した『最強の幻想』。聖剣の中では最強のモノ。それがエクスカリバー。私はそれを更に独自に派生させ、自分のオリジナルに昇華させたんです。見せましょうか、手短に説明します。」

一旦、元に戻る。この時はまだ扶桑空軍の軍服が決まってないため、陸軍の軍服を着ている。俗に言う昭和12年制式の帝国陸軍軍装だ。航空胸章をつけ、ダイ・アナザー・デイで叙勲された勲章の略綬もついている。軍帽はないが、それを差し引いても、充分に帝国陸軍軍人感が全開であり、時代錯誤感すらあった。

「そ、その格好は?昔の日本軍のコスプレでもしてるの?」

「仕事着ですよ。なんの因果か、二次大戦が私達の知ってる形で起こらなかった世界の日本軍に志願したんで。これでも一応、将校ですよ」

この次元の自分との違いを際立たせるためか、軍人である事を敢えて示す調。ここからが本番、クラスカードを出す。

「こんな時にカードなんて……」

限定展開(インクルード)!』

クラスカードの本質は『自身の肉体を媒介とし、英霊になる』事。これは錬金術などとは次元の異なる行為であり、阿頼耶識にアクセスし、英霊の力を自らに宿すことだが、今回は宝具を召喚する限定展開に切り替えた。宝具はエクスカリバーだが…。

「このカードは阿頼耶識にアクセスし、歴史上の偉大な英霊の力を行使するためのもの。錬金術を根本的に上回る『魔法』です。その一端がこれ。英霊の持っていた道具を召喚できるんです」

手にはアヴァロンに収められしエクスカリバーが握られていた。鞘から抜くと、炎を纏ったそれが現れる。調は元々、炎剣『シュルシャガナ』を媒介にするシンフォギアを用いていた。その素養が聖域で授けられた聖剣の霊格と合わさり、エクスカリバーの新たな派生を生み出した。『勝利を約束されし、万海焼き払う水平の剣(エクスカリバー・フランベルク)』と呼んでいる。

「聖剣は持つものの心象や願いに応え、形を変える。私が願ったのは、万海を灼き払う炎。私はその聖剣をエクスカリバー・フランベルクと呼んでいます」

「馬鹿な、聖剣があったとしても、完全聖遺物だ。お前の言うように制御できるモノでは…!」

「オリンポス十二神から聖剣の原石になる霊格を授かったとしたら?」

「オリンポス十二神だと…!?」

「ど、どういうこと!?」

「私はオリンポス十二神に忠誠を誓った闘士でもあるんです。詳しくは言う必要はないですね。この世界とは理そのものが違う世界での事ですので、気にしないでください。サンジェルマンさんはお分かりですね?」

「いつだったか、ムー大陸の伝説を読んだ事があった。まさか、お前!?」

「その通りです」

「へ!?せ、説明してよぉ、調ちゃん」

「必要はないと言ったでしょう。サンジェルマンさんにでも聞いてください」

「うぅ、なんだか冷たいよぉ」

「私の世界で揉めた事あるんで…。仕事の都合もあるんですよ、仕事の都合がね」

自分の世界の立花響と反りが合わない故か、この世界の響へも、どことなく塩対応な調。軍人としての職務上の機密対応ではある。

「え〜!?」

「機密に関わる事なので細かい所は私の口からハッキリと言えないんです、良いですね?」

笑顔であるが、目は笑っていないため、響Cは思い切り怯えた。

「うぅ、目が笑ってないよぉ」

「加勢はします。だけど、全ては話せませんよ?それは了承してくださいよ。こっちにも都合があるんですから」

「お喋りはもう終わ……」

「貴方こそ、そのお人形共々、死すら拝せ無くなる覚悟はできてる?神々に失敗作として捨てられたお馬鹿さぁん?」

調はアダムの事をのび太の世界でのアニメで知っているため、酔った時のミーナがする言い回し方を真似して煽ってみる。『お馬鹿さぁん』のイントネーションは意外に難しいが、妖艶な雰囲気で言えれば合格点だ。調は黒江との同調で煽りスキルも手に入れたため、敵の痛いところを突きつつ、煽ることが可能である。そのため、この時点で、サンジェルマンすら知りえないはずの事をスラスラ言ってのけたことになる。

「こ、この、この、こむ……!」

「あぁら、このくらいのことで腹を立てるのかしらぁ?私は本当の事を言ってあ・げ・て・る・だ・け。神々にヒトの試作品として作られたけど、『完璧』すぎて、発展の余地がないからと捨てられたお人形さんでしょお?」

どことなく薔薇乙女の長女チックな口調で煽る調。律儀に声も変えている。黒江もこの方法で敵対者を煽ってみせ、自滅させているので、師弟で同じような方法を実行したことになる。

「違う、違う…。アレは調じゃないデス……調だけど……」

絶唱の負荷をリンカーの過剰投与で軽減したため、気絶寸前の状態ながら、辛うじて意識があった切歌Cは霞む目ながら、調の後ろ姿を見ていた。そこで切歌Cの意識は途絶える。

「でも、神様も薄情よねぇ、学習次第でその在り方を変えられる可能性だって有るのにねぇ……成長しなくても変質という変化を期待もしない神も愚かね」

更に煽る調。アダムは完全に堪忍袋の緒が切れたようで、取り繕っていたキャラを完全に崩し、喚き散らす。そして、ティキに命じて、辺り一帯を吹き飛ばす威力の攻撃を仕掛けさせるが……。


「本当のことを言われたからって、お人形さんをけしかけるのはよくないわねぇ?」

煽りモードを続けつつ、攻撃の全エネルギーを左の人差し指一本で受け止める。切歌が死力を尽くして防御した攻撃の数倍のパワーがあるはずなのに、だ。しかもエネルギーがいつの間にか凝縮されて円形の光球にされている。それを左腕で、こともなげに握りつぶす。何事も無かったように。ここで黒江から受け継いだ好戦的な面を垣間見せた。

「お前の御託は『俺』にとっちゃ聞き飽きてるんだ。こいつで終いにさせてもらう」

「え、お、『俺』!?」

驚く響C。口調が更に変わり、男性的なモノに変わり、一人称も俺になったからだ。黒江から受け継いだ、粗野で好戦的な側面。調が黒江と交わった事で得た最大の特徴であり、気質。黒江の用いる粗野な口調は調も用いることはできる。感応のおかげだ。





――調はエクスカリバー・フランベルクを構え、刀身に炎を滾らせる。そして、この世界の争いの元凶である『アダム』をキッと睨みつけ、聖剣を振るった。錬金術師である以前に、そもそもは神に作られた『ヒトの試作品』である彼には『神や星が生み出した概念兵装』を理解できない。(調の世界の立花響が頑なであったのは、ガングニールの万能性が理そのものが違う世界では発揮できない事を頭で理解しても、心情的に受け入れられなかったためと、調と切歌との仲を気まずくした黒江へ抱いていた一種の遺恨である)その証明がすぐになされた。

『エクスカリバァァァ、フランベルク!!』

エクスカリバー・フランベルクが振り下ろされ、アダムと、その傍らにいた『ティキ』を焔で灼き払う。熱風一閃、これでアダムはその真の姿を開放せんとしたが、次なる攻撃がなされた。

『受けろ、突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!!」

トドメのゲイ・ボルグ。今回はアーチャーのカードを持ち合わせてないため、無銘の弓×偽・螺旋剣(カラドボルグU)から距離詰めて干将、莫耶の連続投擲からゲイ・ボルグのコンボはできない。そのかわりに、エクスカリバー・フランベルクからのゲイ・ボルグという高ランク宝具の連発でケリをつける。

「失せな、この世界からな。哀れな子羊さんよぉ」

アダムはその真の姿を晒らす以前に、宝具の連発で断末魔を上げつつ消滅する。

『こん……、ば……!?』

それが彼の断末魔だった。エクスカリバーは最強の聖剣。それに炎剣の力が上乗せされた『因果律兵器』。それと心臓を貫く因果を発生させるゲイ・ボルグ。これをぶつけられては、どうしようもない。アダムはティキ共々、消滅した。調は颯爽、軍服を一旦脱ぎ捨て、巫女装束になって、キャッチして羽織るという見栄を切った。ヒーロー好きの黒江からの影響だ。本人曰く、『師匠とのぞみさんに仕込まれた』との事で、のぞみはプリキュア仲間以外では、錦としての士官学校の先輩にあたる黒江とつるんでいるのがわかる。(後に、巫女装束の方が軍服より移動時の混乱が避けられるとの判断で、上着のみ身分証明として残置したという)



――こうして、この世界の事変は黒幕があっさりと倒されたことで終息に向かうが、この世界の風鳴家当主『風鳴訃堂』が、結果として、生き残った形となったサンジェルマンとカリオストロの排除を目論んだ事から一悶着が起こり、自分の世界より彼の年齢は若いものの、現在進行系で日本軍の将校(任官され、少尉)である事を活用して、彼を恫喝した。(なんだかんだで、所々で黒江に似てきている証であった)。

「この階級章が目に入らない?風鳴訃堂」

「ぬぬ…、帝国陸軍の階級章だとぉッ!?」

「月詠調。帝国陸軍航空科少尉。こういえば、貴方にも分かるかしらね」

巫女装束に羽織っている軍服についていた空軍の階級章。そのデザインは陸軍のそれを引き継いでいたので、彼を黙らせる権威づけになった。『国防』に執着している彼を黙らす最適解は、彼、もしくは彼の父が属していた戦前の帝国陸海軍の名を使い、その権威で黙らす事。彼が軍国主義的なのは、誤差があるものの、少年期、青年期のいずれかで太平洋戦争を経験したためであると推測されるため。いくら風鳴家が古くから国を守ってきたと言っても、日本の国家という概念が明確にできたのは、江戸期以降の事である。調の故郷の世界では、彼は帝国陸軍軍人(43年志願組)だったため、黒江の大佐(当時)という軍隊階級にびびっていた。この世界では、生年月日にズレが有り、彼は戦後生まれらしいが、それでも『帝国軍人』という箔は彼に恐怖を抱かせるに十分であった。軍人といううモノは平和な世界と時代では、基本的に疎んじられる。だが、極端なまでの国粋主義と軍国主義の生き残りの彼にとっての羨望の的は戦前の軍人である。その軍人が女であれ、自分の前に現われて説教を始めた。彼はその戦中の亡霊と揶揄される軍国主義/国粋主義の思考故か、戦後の新参者である自衛隊などには強いが、旧軍人と対峙すると、自衛隊や警察などへは威圧的なのが嘘のように萎れる。これは世界によるが、概ね、彼の父親が情報畑の軍人であり、場合によれば、自身も学徒動員の軍人だったりしているからだろう。

(やっぱり、大した事ない。ペーペーの少尉でこれじゃ、大尉とか大佐とか聞いたら泡吹くわけだ)

少尉は士官の中でも下級の存在(准尉があれば二番目)だ。それにさえ萎れるという事は、これが大尉や佐官級の将校になったら、どれだけ怯えるだろう。戦前の亡霊と敵対者に揶揄されし彼だが、『軍人』の前では哀れな子羊に成り下がる。これが彼の意外な側面であった。その点では『軍国少年』の最後の生き残りと言え、軍人の前では借りた猫のように大人しくなる。この世界では、学校で軍事教練を受けた世代だからだろうか。黒江が同じことをした時は『貴様、官姓名を名乗れ!』の一言に怯みつつ、軍在籍中の頃の官姓名を名乗り、強気にでたが、黒江が大佐(当時)だったので、それも通じなかったという。それを調はやってみたが、この世界では軍人になれた世代ではなく、父親が軍人だったと言うだけであった。ただし、調の名乗りが荒唐無稽にすぎ、嘘だと思ったのか、やはり強気にでたので、『ものを尋ねるなら貴様も名乗るのが筋じゃ無いのか!』と返したら、途端に萎れ、子供のように、ただ頭を垂れる事から、戦争終結時に国民学校生の世代だろうと目星をつけ、黒江の時と違い、比較的に攻め易しと見た調はここぞとばかりに攻め立てる。この萎れ方には理由があり、まず、調が太平洋戦争当時の軍人のような気当てをしてみせたことで、国民学校生時代の教練の恐怖が蘇った事、情報畑の軍人ながら、明治生まれの厳格な父の躾が怖かった事を思い出し、一気に意気消沈したのである。特に軍国少年であると、軍人が二人称に用いていた『貴様』という単語にも反応するため、そこもポイントだったという。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.