短編『ロンド・ベル対ジオン残党軍』
(ドラえもん×多重クロス)
――ジオン残党狩りはロンド・ベルに取っても無縁ではなかった。有事即応部隊であるが、平時においては治安維持関連任務にも駆り出されていた。16歳になり、私有のVF-19の整備講習のために再び未来世界に足を運んだなのはもそのままアメリカは旧キャルフォニア(カルフォニアの新名。統合戦争後に改称)ベースがジオン残党に占拠されたという報を受けたロンド・ベルは平時編成へ移行していたものの、その戦力は依然として強力さを維持していた。
――ラー・カイラム 格納庫
「アストナージさん、今回はスーパーロボットは積んでないんですね」
「平時編成に戻ったからな。マジンガー達は博物館で展示されてるし、真ゲッターは実験に使われ、獣戦機隊は活動休止、ダンガイオーチームはあっちこっちに呼ばれてバンカーとドンパチしてる。ガンダムタイプが運用出来てる分、昔よりは優遇されてるんだ」
「確かに。ZプラスとかZガンダムとかがありますからねぇ」
「今回は任務に合わせて、Z系を増やしてある。作戦自体が航空戦力による奇襲と空挺降下だから役に立つ」
Z系はそもそも基地に対する空挺降下をより効果的に行うためと、アッシマーなどの機種へ対抗するために旧エゥーゴがアナハイム・エレクトロニクスに開発させたMSである。Zガンダムの変形形態のウェーブライダーが空戦能力を殆ど持ち合わせていないのは、Zガンダムが開発された当時は既に可変戦闘機が隆盛を初めていた事と、想定された運用目的が『空戦用』ではないためである。しかしその後の時勢の変化に伴い、ウェーブライダーにも一定の空戦能力が求められるようになった。その試行錯誤の末に生み出されたのがZプラスD型である。ロンド・ベルもその空戦能力を高く評価しており、スーパーロボットが運用できない平時に置いての配備要請を多く見積もっているほどである。
「なるほど……変形しても普通の機体より火力ありますからねぇ」
「そういう事。整備は大変だけど、基地中枢の制圧には持ってこいなのさ、あいつらは」
「へぇ……」
アストナージは格納庫で整備を受けるZプラスD型のウェーブライダー形態に視線を移す。Zガンダムと異なる形状の主翼、コスモタイガーのように翼に携行する各種ミサイルなど……MSとしての運用を二次的に捉え、あくまで『大型制空戦闘機』として割り切って運用する思いきりに納得するなのは。Zプラスの塗装はかつての米軍機を思わせるグレーだ。今回の任務に合わせて、旧型になりつつあるジェガンを降ろして可変機に載せ替えたのか、Zプラスの各型が大半を占めており、Zガンダムの三号機仕様も依然として載せられている。
「あれ?ジェガン降ろしたんですね」
「あれもそろそろ旧式化して来たからな。後継機のジャベリンは小型高性能だが、こういう電撃戦には向かないから、今回はジェガンと一緒にラー・ケイムやラー・カイムに写してある。結構大変だったよ」
「寂しいですねぇ」
「まぁ、最近は小型機が持て囃されてる時勢だけど、バルキリーと違って、可変機の小型化だけは難航してるしな」
ジェガンはなのはも講習の際に何度か操縦したことがある。扱い易く、整備もし易い名機だが、次世代小型機の就役で流石に旧式なのが顕著になったか、メカトピア戦争後は減勢が進んでいるようで、一線から退きつつあるのがアストナージから示唆された。可変機はフレーム構造が変形機構に関係しているのが響いているらしく、依然として20m級が主流である。これについてはMSが純地球産技術で生み出されたためでもある。
「そそ、お前のバルキリーだが、エンジンのオーバーホールしといたぞ」
「ありがとうございます。それじゃそろそろ作戦会議なんで」
「おう。行って来い」
なのははパイロットとしては最低限の階級である少尉である。この時期は昇進話が立ち消えになっていた事もあって、子供時代から変化はないが、年齢の成長もあり、周囲からも子供でなく、『一端の士官』として扱われるようになった。そのため作戦上級会議への参加権も得たのである。作戦会議ではブライトとその副官のメラン、艦載機部隊の長であるアムロが状況を最初に説明している。
「今回、キャルフォニアベースを占拠したのは基本的にジオン北米方面軍の生き残りだ。公国軍残党は連邦がガミラスや白色彗星帝国、ゼントラーディと戦争していたせいでかなりの数が温存されている。ネオ・ジオンに合流した者も多いのは諸君も知っての通りだが、ティターンズ残党もジオンに加わっているのが確認されている」
ティターンズは組織が敗北すると賊軍扱いされ、不利益を強いられていた者等の報復によって『過激な反地球連邦政府運動』のレッテルを貼られた。これにより不当な軍事裁判で懲役刑を強いられ、キャリアを絶たれた者も多く、それに怒った将兵らは傭兵になったり、敵であったネオ・ジオンへ入隊したりした。今回のジオンに加わっているのは後者だ。
「ティターンズは戦後に賊軍として大量に処罰された。その際の裁判は実に雑で、適当に罪状をでっち上げられ、軍から追放された者も多かった。政府憎しで所属部隊ごとネオ・ジオンに裏切った者も複数いるのは知っているな?今回もそれだ。……これは偵察機が撮影したマスドライバー周辺の写真だが……周辺にマラサイらしき機体が確認されている」
「この中にはグリプス戦役を経験していない若い者も多いだろうから、説明しておく。マラサイはグリプス戦役の中期から後期においてのティターンズ主力機だ。アナハイムが横流ししたのを量産化した機体で、見た目の通りにジオン系的なMSで、リック・ディアスや百式とほぼ同レベルの性能を持つ。一年戦争中の第一世代機が大半のジオン残党にとっては飛躍的に高性能の機体だ。侮るなよ」
アムロは戦後にロンド・ベルへ志願してきた若者らも多数に上る現状を鑑みて、改めて説明する。マラサイのみならず、一年戦争中の旧型機であっても熟練者の手にかかれば最新鋭機と互角に渡り合える。特にMS戦はジオン残党のほうが一日の長があるのは事実。アムロらロンド・ベル設立当初から残党掃討を行ってきている幹部らに取っても容易ならざる敵なのだろう。
「今回の編成はZ系を中心にした飛行隊だ。それでの強襲が今回の趣旨である。空軍の北米方面軍とも連携し、これを叩く。以上だ」
説明は簡潔だった。可変機で制空権を掌握し、基地中枢を制圧する空挺作戦であるからだろうが、それは敵も察しており、相応の迎撃準備を進めていた。
――キャルフォニアベース 防空司令部
「ギャプランという可変機……使えるのか?」
「シャア・アズナブル大佐のお墨付きだそうです。ネオ・ジオンが噂の『Zガンダム』との空戦を想定した改良を施したとか……」
「ゼータガンダム…。『白いヤツ』の後継機種…。如何な奴か……」
このジオン残党の長である『元・少将』はアフリカ方面軍のノイエン・ビッター少将同様に『戦功で将官に任じられた』旧公国軍将官の数少ない事例の一人だった。ザビ家の私兵とまで後世から揶揄されているジオン公国軍はザビ家の信任を得ても大佐止まりなケースが多数生じた。これはザビ家の人間が将官に居座っていたためである。しかし軍である故に将官が必要である以上、いないわけにはいかない。そこで『信任を得た人間かつ、大局的見地が可能な人間』に限って昇進させる方法が取られた。そのために通常の軍隊の地球連邦軍より将官の数が圧倒的に少なくなった。後々の地球連邦軍も将官の数が少なくなったが、流石にジオン軍ほどでない。ジオン軍の方面軍司令が佐官級が殆どだったのはそういう事情が多分にあった。彼が視察しているのは、かつてのティターンズが強襲用可変機として開発させたギャプラン。そのネオ・ジオン独自のリバースエンジニアリングによって製造させた機体の改良型である。外観は原型機のシルエットは受け継いでいるものの、ジオン系の血が色濃くなっている。ZプラスD型同様にMA形態での空戦力を重視しているようで、可変戦闘機のようにガンポッドを持っている。
「これがドップの代わりとは……大丈夫か?」
「ドップではもはや連邦軍には対抗出来ませんからな。行き場を無くした奴らの手土産にしては上出来です」
「ティターンズか……皮肉なものだな。体制側から切り捨てられた軍隊というのはいつの時代も疎んじられる。帝政期の日本のように」
「ええ。連邦にとってティターンズは『関東軍』のようなモノでしたからね。大佐の誘いに乗ったのも、旧エゥーゴに同調した政府によって賊軍扱いされるのに耐えられなかったからだと」
「かつての日本も第二次世界大戦後しばらく軍隊を放棄していた時、元軍人達は疎まれた。自衛隊が出来ても多くは日陰者に甘んじた。その再来だな。哀れなものよ」
彼は負けた軍隊が邪魔者のように扱われた、20世紀半ばから後半の日本の事例を引き合いに出す。実際、自衛隊も20世紀末の災害で評価が高まるまでは日陰者の扱いだったので、それは間違いではない。負けた軍隊の末路というのは様々だが、最も悲惨な事例として歴史に残った、過去の日本の事例は当事者であった日本人以外から見れば『トチ狂っていた』と取られているのがよくわかる。ティターンズをあっさり切り捨てた連邦軍と政府はティターンズ残党から『憎むべき存在』と見られている。それ故に仇敵なはずのジオンに加担するのにも躊躇いが無いのだろうと推測する。実際、第一次ネオ・ジオン戦争の時期に地上のジオン残党軍に最新兵器が多数流出した原因はこのティターンズ残党が意図的に流出させたためだ。
「まぁ図らずしも我が師団の充足と近代化が果たせたのだからよしとするよ。前の戦争の際の機体もガタが来始めてきたからな」
「ドムもザクも関節部などがガタが来始めてましたからな。最新兵器に更新出来たのは天佑です」
「可変機という新たなカテゴリも増えていたからな。おかげで覚えるのが大変だ」
そう。一年戦争中からのジオン残党軍も可変機の出現までは予期出来なかった。可変MSは連邦軍がアイデア的に本家なので、ネオ・ジオンのほうが後発になる『珍しい』現象が起こっている。連邦軍がジオンやザンスカールなどのコロニー国家群に先行し、開発速度的に優位を誇っているMS分野は本格可変MSなのである。
――この時のジオン軍の編成は最新兵器を主体に、外郭にデコイとして旧型機を置くものであった。旧型機は北米戦線仕様の塗装がなされたMS-06、俗に言うザクの地上仕様とMS-09ドムである。グフはグリプス戦役の時期までに消費し尽くしたとの事。最新兵器はネオ・ジオンから提供されたギラ・ドーガやティターンズが持ち込んで来たマラサイやギャプラン、更にその独自改良型である。それらがやって来るであろう連邦軍へ対抗できる『矛』であり、『盾』である。旧型機はキャルフォニアベースの外郭に配置し、時間稼ぎに使い、本隊で打撃を与えて退けるというのが彼らの基本戦略であった。
――地球連邦空軍北米方面軍との連携でロンド・ベルはキャルフォニアベースに向かった。この時はVF-11Bが20機、VF-19Aが15機ほど動員され、ロンド・ベルと合同作戦に打って出た。有事に1000機もの機体を簡単に動員できる空軍にしては小規模に思えるが、これは可変戦闘機の戦力はかつての航空機より遥かに高いための措置である。なのはは愛機のVF-19Sに乗り込む形で作戦に参加していた。制空権確保の後に魔導師として制圧する前提での行動なので、バリアジャケット姿で操縦している。
――久しぶりの実戦だけど、整備講習受けに来ただけのはずが、どこをどうしてジオンの残党狩りに……。まぁ。ブレイザーバルキリーの久しぶりの全力運転にはちょうどいいけどさ
なのはは愛機の整備講習に出ていたところをロンド・ベルに召集され、今回の作戦に参加するハメになった。ブライトから召集辞令が届いた時は仰天したものだが、ちょうど教導隊内での地位が向上して事務方仕事も多くなってきていて、体が訛っていたのを解消する目的も兼ねられるので強制的な召集には文句はない。小学生の頃にドラえもんが言っていた『どっちも自分が正しいと思ってるよ。戦争なんてそんなもんだよ』という言葉。青年になった今ならその意味が理解できる。いつの時代も戦争に勝った側がその後の主導権を握る。古今東西のあらゆる戦争を見てもそうだ。第二次世界大戦でナチス・ドイツや大日本帝国を打ち倒すために連合国がいくら文化財や国宝を破壊しようが不問に付された事、その後の統合戦争でその報復とばかりに欧米列強たちが日本についた英国以外、根こそぎ粉砕された事……、エゥーゴとティターンズの主導権争いで勝ったエゥーゴがその後の連邦軍を掌握したことで、ティターンズは反政府運動に仕立て上げられた事……歴史は勝者が握るものであるというのを実感する。
「ジオンやティターンズとかは負けた軍隊。いくら理想が良くても、やったことに極悪非道が多ければ同情するものもいない……。古今東西の不変の道理なんだけど、どこも同じような事するんだよねぇ」
そう。古今東西の負けた国は大小であれ、同情できる余地のない行為を働いたケースが多い。ティターンズも31バンチ事件に代表される虐殺事件を、ジオンはオーストラリア大陸の16%と当時の地球の総人口の半数と複数の旧先進国の主要都市を地図から消した。そのためにアースノイドとスペースノイドの双方から嫌われ者にされても仕方がない事だ。それを双方の残党は分かっているのだろうかと考えてしまう。
「それでも戦い続けるから残党なんだろうな」
滅んだ組織が掲げた大義名分に心酔して新たな戦いの火種を生む者達は古今東西、多くいる。中にはナチス残党のように大戦時に掲げた大義名分を捨て去って、別の目的のもとに存在している者もいるが、それらは例外である。残党の多くは自分たちの行為がもはや『テロリスト』と同義に堕ちている事を認めず、『連邦軍と対等の戦闘行為』を自負している。これが政府の悩みの種。なのはは戦いの火種を生む各組織や国家残党を嫌悪しつつも、その行動に揺らぎがないのは認めていた。それ故に、敵を真っ向から打ち倒す事を志向し始めたのだろう。彼女たちは連邦軍航空戦力の先陣を切る形でキャルフォニアベースの外縁部に差し掛かった。
「来たぞ!」
手始めに基地から対空砲火が打ち上げられる。その中にはザクマシンガンによる射撃も含まれている。精度は低い部位に入るが、これはザク・マシンガンは対空戦闘もある程度想定されていたものの、一年戦争での地上での実戦ではイマイチな戦果であったことの裏付けである。(ザク・キャノンはそもそもは対空戦闘用に開発された)VF隊はそんな迎撃網を潜り抜け、上空からのミサイル掃射でザクを沈黙させ、バトロイド形態に各自変形して空挺降下する。
「各機、外郭の前進拠点を確保せよ。ここは広大だ。如何に残党が占拠しようとも、全てはカバーしきれないはずだ」
「了解」
VF-19AとVF-11隊はとりあえず、海岸部の詰所を奪還する事を第一目標に行動する。敵は内陸の地下中枢拠点部を中心に布陣していると思われ、外部の広大な施設を全て守備は出来ないのは彼らも承知しているはずだ。バギーなどの各種戦闘車両を蹴散らし、前進拠点の確保に向かう。旧型MSはこの地点には殆どおらず、それも一番低性能なザクUJ型しか配置されていないことから、ある程度の侵攻に伴う『戦略的放棄』を想定していると空軍部隊指揮官は看破する。
「おかしい。静か過ぎる……この南西方面の守備を初めから捨てているようだ……友軍機に注意されたしと打電しろ」
「ハッ」
彼の憂慮の通り、別方面から侵攻したZプラス隊はまさかの猛反撃を受けていた。ギャプランをジオンの技術で改良して空戦能力に特化した新型機の前にZプラスA型の数機が不時着を余儀なくされる。
――キャルフォニアベース 北方面 上空
「ギャプランの改良型か!?こっちに本命を配置していたとは!」
ZプラスA型をガンポッドの斉射で屠る新型可変MS。かのギャプランの面影を持つが、空戦能力に特化したその姿はほぼ別機に近い。恐ろしいのはガンダリウム合金を撃ちぬくに値する火力のガンポッドだ。原型機はビーム装備だったが、戦闘継続能力が低いのを鑑みたのか、実弾装備に変えられている。弾倉を取り替えれば補給が容易な点を重視したらしい。速力では完全にZプラスA型を凌駕しているらしく、目を見張る疾さを見せる。
「俺たちに任せろ!」
D型部隊が果敢に挑む。空戦能力重視型であるD型はMS形態での運用は二の次で、ウェーブライダー形態での運用こそ真価を発揮する。旋回半径はD型のほうが優れるようで、巴戦に持ち込めればおおよそ優位に立てた。だが、一歩間違えると一撃で致命打を与え得るジオン側のティターンズ系の系譜を継ぐMSに対してはかつての戦闘機乗り達が味わった『空中戦での原初の恐怖』を思い出させずにはいられない。慎重に相手の動きを全天周囲モニターで確認し、可変MSとしては破格の旋回半径の小ささ(可変戦闘機には及ばないが、それでも21世紀頃のジェット戦闘機よりは小さい)を武器に立ち向かう。
「クソッタレ!落ちやがれ!」
ZプラスD型のビームキャノンが火を吹き、ギャプランの改良型と思しき敵新型可変MSを落とす。空戦はD型に任せ、他の型の隊は予定通りの降下地点に向かう。他の型では足手まといになるからだ。しかしそれでも速力に優れる敵機の前に損害が生じ、A型隊の四分の一を戦闘不能にされてしまう。命からがら離脱に成功したA型のあるパイロットはこう漏らす。
「ジオンがギャプランの独自改良型を採用した……こりゃヤバイぞ……可変戦闘機は移民船に優先配備されてるから、制空権確保が危うくなる」
Zプラス隊に出血を強いたジオン側は次なる作戦にとりかかる。既に連邦軍に潜り込んでいる旧ジオン兵から『侵攻軍の主力がロンド・ベルである事』、『その中に魔導師が加わっている』事を通達され、対魔導師用に暴徒鎮圧用大口径ショットガンを転用する手はずを整える。
「魔導師が第4航空基地ブロックに現れた。直ちに暴徒鎮圧用装備を着用、敵は砲撃が可能だ。その前に鎮圧せよ」
「ハッ!」
旧ジオン軍とティターンズの地上戦装備を身に纏った兵士らが手際よく展開し、水も漏らさぬ整然とした行動を取る。それを索敵で察知したなのはは直ちに動いた。
(敵は……歩兵が一個小隊くらい。かなり訓練されてる。まぁ強力なショットガンとかマグナム弾を至近距離で喰らわない限りあたしの防御にダメージいかないけど)
なのはは個人単位としては破格の戦闘力を持つ。ドモン・カッシュらシャッフル同盟や学園都市のレベル5の能力者、歴代スーパーヒーローらに比肩しうるレベル。これは管理局の中でもトップレベルの才覚を誇る彼女故で、地球連邦軍もなのはの単独行動を容認している裏付けとなっている。ただし、格闘戦に持ち込まればやはりプロの軍人相手には不利は否めない。(この頃はまだ飛天御剣流を知る前である。赤心少林拳もこの頃はまだ習得はしていないため、17歳以後のような超人的な戦闘力はまだ得ていない。それでも常人のそれは超えているが、あくまで常識の範疇に収まる程度である)如何にして得意なレンジに持ち込むのかが彼女のこの時期における戦闘方法であった。
「まずはっ!」
ディバインシューターで敵を炙り出す。敵もさるもの、この直撃を躱してアサルトライフルで牽制してくる。しかし現在装備程度でミドルレンジではなのはに勝てるはずはなく、瞬く間に20人ほどがショートバスターの一撃でぶっ飛ぶ。かなり威力を抑えてあるが、それでも骨の二、三本は覚悟するぶっ飛びかただ。
「これで20人は退散させたが……小隊だとあと10人以上は有にいるはず……」
だが、なのははこの時に一瞬の隙を見せた。それは経験の浅い兵士にありがちなそれだが、近くに隠れていた兵士の一団から強烈な閃光弾をお見舞いされる。
「きゃあっ!?せ、閃光弾!?め、目が……!」
強烈な目眩ましになのはは視界を塞がれる。一時的にしろ視界と聴覚を塞がれたのは致命的であった。接近を許し、そこから超大口径のマグナム弾を使う『S&W M500』の改造銃の接射を受けてしまう。
「ぐっふ……!?痛……っ!」
バリアジャケットのお陰で貫通は無かったが、火薬を更に強力にした12.7mm弾がなのはの体に与える衝撃は凄まじい物があり、『物凄く大きい金槌でプロレスラーに力いっぱい体を痛打された』のと同様の痛みを与えた。更にライオットガンによる追い打ちもかけられる。これで肋骨にヒビが入る。
(ガッ……肋骨にヒビが入った……バリアジャケットが無かったら……)
バリアジャケットもけして万能ではない。遠距離からの銃撃をほぼ全て無効化する防御力を持っていても、マグナム弾や散弾銃など、膨大な運動エネルギーを加えられたら、致命傷は避けられてもダメージは否めない。今回のケースはまさにそれだった。なのはは視界を塞がれた故に障壁を展開できなかったのも大きかった。レイジングハートが障壁を展開しようとしたその一瞬を敵は突いたわけだ。お返しに何とか正拳突きと金的蹴りをかまして難を逃れ、その場を離れたものの、ジワジワと痛みが襲ってくる。
(二、三本はヒビいってるかなぁ。帰ったら医務室直行だな、こりゃ)
キャルフォニア攻防戦開始早々、いきなり負傷したなのは。しかし戦闘行動には支障はそれほどなかったので、そのまま戦線に残留。空軍の空挺部隊と合流し、応急処置を受けた後に戦闘へ復帰。ジオン軍との戦闘を続行した。戦いはまだまだ開始したばかりであったが、敵新型機の前に少なからず損害を被ったロンド・ベル。この時にロンド・ベルを襲ったギャプランの独自改良型に対するレポートは戦闘の最中にも記されていき、軍令部に通達された。後にそれは情報部によって『ORX-005EX シュツルム・イェーガー』というドイフ風の名が与えられたジオン独自のギャプラン改良型であることが正式に確認され、その対抗馬の登場が切望された。精鋭中の精鋭であるロンド・ベルでさえ恐れさせる同機は連邦軍に闘志を燃えさせるのに十分であった。
――この時のジオン軍との戦闘データに危機感を持った連邦空軍と宇宙軍は後に、第二次ネオ・ジオン戦争直前にアナハイム・エレクトロニクスから提案され、予てから検討段階であった『ウェーブライダーフリートプラン』を戦線からの要望に応えて、緊急で制式採用、正式に実機の制作を行わせる事になる。これはコスモタイガーの生産ラインの数が全ての戦域に配備できるほど回復していない事、高価な可変戦闘機を単年度予算で請求すると財務省や議会から槍玉に挙げられることから、安価な可変MSは予算が中途半端に余っている時の埋め合わせに使えると軍令部の間で評判だったのも大きいが、アナハイム・エレクトロニクスとしては大きい儲けが得られるとウハウハであり、予想以上の高性能機が生まれていくのである。
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