短編『Z飛行機・富嶽の後継者』
(ドラえもん×多重クロス)



――ミッドチルダの動乱は扶桑皇国が航空技術の粋を集めて完成させた富嶽でさえも急激に旧式化させた。更なる次世代機であるジェット戦闘機の前には富嶽といえどもハエでしかなく、損耗率は参戦より3週間で第一陣の200機中120機に達するという有様であった。ここに至って、扶桑軍は設立予定の空軍が初めて手がける本格的戦略爆撃機開発プロジェクトを立ち上げた。時に1945年3月のことである。その日は奇しくも史実の九州沖航空戦の日であった。









――これは経営が傾いた長島飛行機への救済策も兼ねており、連山、富嶽に至る爆撃機を生んだ実績は高く評価されていた事が伺えた。彼等は連邦軍から史実戦後通常型戦略爆撃機の行き着く先であるB-52の実機と開発資料を取り寄せ、そこから扶桑の事情に合うように再構築する事から始められた。これはその前段階であるB-47では性能不足であると判定されたからだ。いきなりB-1やXB-70というのはいくらなんでも無理難題であったからである。史実米軍機を参考にすることに扶桑皇国の技官からは不満や異論も出たが、日本独自の戦略爆撃機と言うのは戦後日本が攻撃的軍備を放棄していた期間が長かった故に扶桑の技術で再現可能な範囲の航空機にそれが存在しなかったので諦められた。本国の工場では久しぶりの大仕事に張り切ってラインが稼働し始めた。この時期には扶桑で工業規格が制定され、工業製品の規格統一が始められていたが、この爆撃機が事実上の国産機では量産性と実用性を両立させた初の事例となった。予定されたペイロードは23トンあまり。これはネウロイやティターンズ拠点に痛打を与えたい用兵側の都合上の産物であり、B-52より若干搭載量が増した格好となった。(人類史上最大の航空機であるガルダ級を目の当たりにしたことで、軍内部にジェット戦略爆撃機への抵抗感と懐疑心が薄れたことも開発を促進させた)。











――富嶽後継の新戦略爆撃機は開発難度の高さもあり、試作機の完成は1947年4月にまでもつれ込んだ。外見上はB-52の模倣としか言いようがない凡庸なものであったが、スペック面では微妙であるが原型機より高性能であり、B-52では最終的に廃止された防御機銃は用兵側の要望で備え付けられていた。空軍第一世代戦略爆撃機とも言える同機は非公式に『富嶽改』と呼ばれた。飛行性能はB-52に毛が生えた程度であったが、在来レシプロ機に比べれば高性能であり、直ちに生産が号令された。その第一次生産型はミッドチルダ戦線に損耗補充も兼ねて配備された。リベリオン式設計の爆撃機は軽快さを爆撃機にも求める古参には受けが悪かったが、新参である若手には好評で、都市爆撃に真価を発揮した。これは扶桑軍が追い求めた『戦闘機の護衛を必要としない爆撃機』という思想と理論が未来情報で否定された事と無関係ではなく、扶桑空軍はそれまでの二つの前身組織とは別のドクトリンを形成していった。しかしながら陸海軍航空隊出身ウィッチが多数である故、双方の伝統が交じり合った側面も多数であった。


――ある日のミッドチルダ 前線基地

「圭子、若い連中の整備講習の履修状況は?」

「必修にしたから以前よりは増えたわ。整備班の負担軽減にはなったってところ」

「ジェットは整備手順がレシプロとはまた違うから、マニュアルも作らないといけなかったけどね」

「かなりウィッチの篩い落としにはなったけど、その分は質のいい子が得られたわ」

「訓練学校の学生じゃない、市井にいる子でも金の卵はいるものよ。芳佳のように」

「ええ。それはよく分かってるわ。だから市井からスカウトした子も多いわ」

この頃、飛行64戦隊の各飛行小隊には新人も本国から送られてきており、その育成用小隊を設置し、手空きの第一線級ウィッチが交代で教官を努め、実技と機体整備の講習を行うという育成法が取られた。これは旧陸軍飛行戦隊の伝統の一つであった『搭乗員やウィッチも手空きの時には整備を手伝え』というものが必修化したもので、機械が苦手でも簡単な整備は手伝うようにという表れである。(芳佳や菅野も空軍移籍後は行うようになり、後で苦労したとか)この頃には二人が市井の学生を能力の発現と共にスカウトしたウィッチも複数在籍するようになっていた。これは竹井醇子が宮藤芳佳で成功した事例を鑑みてのものであった。もちろんすべてが芳佳のように才覚溢れるとは限らなかったが、総じて下手な正規の軍教育を受けた者より柔軟性に富む思考をするという点で重宝されていた。

「爆撃訓練はさせてるけど、新型は500キロ爆弾も運べるのね。驚いたわ」

「あなたは長らく43使ってたから、戦闘爆撃任務につくのが少なかったからね。ジェットだともっと運べるわよ、翼が延長されて、そこにパイロンが設けられたから」

「制空戦専任の機体が消えたのは何故なの?」

「向こう側での事例だけど、第二次大戦が終結した後は先進国による国家正規戦が忌み嫌われるようになって、大抵は大国が小国やテロ組織を制裁するか、代理戦争なんていうのが常になった。その過程で発展していったのがマルチロールファイターって概念。戦闘機と爆撃機を兼ねられる機体が好まれるようになった。確か、前に黒江ちゃんが坂本や芳佳達に講釈たれてたけど、そういうことよ」

「コルセアやP-47、九九式襲撃機がやってる事を一機種で出来るって事?」

「九九式のはさすがに専任機種が存続したわ。ヘリコプターがいくら発達しても、他機種が頑張っても専任機種には及ばなかったって記録もあるしね。まあ軽爆撃機が不要になったのは確かだけどね」

「技術の発展で選択肢の多種多様化が進んだってこと?」

「大抵は戦闘機の爆装で事足りるけど、機甲師団やテロ組織の掃討には近接航空支援機が重宝されるのよ。制空権さえ取ればあとは好きに出来るからね」

「戦略爆撃機はなぜ存続したの?」

「都市を爆撃して地ならししたり、テロ組織の拠点を地図から消した『実績』よ。日独の国家戦略を挫いたっていう実績と、代理戦争やテロ組織への制裁で拠点制圧に度々使われたから、大型爆撃機の存在意義が再評価された。それで宇宙時代になっても作られているの。富嶽の後継機として採用されたのは、戦略爆撃機と空中給油機を兼任する機体よ」

そう。圭子の言うとおり、富嶽改と部隊内で呼ばれている新型機はB-52を模倣した上で扶桑用に手直しした機体である。まず、核兵器や有力な誘導兵器が存在しない世界(地球連邦軍&ティターンズが保有するもの除き)なので、最初から通常爆弾を搭載するようにされている、(設計のベースも最終型のH型である)B-52が捨て去った後方機銃が敢えて備え付けられているなどの違いがある。1947年当時の扶桑機としては空前絶後の巨体であった。この頃になると戦線も大規模戦闘が小康状態になり、小競り合いがメインに移行していたのだが、依然として戦闘機などでの空戦は起きていた。陸戦も子競り合いは毎日発生しており、戦略爆撃機は敵生産力減退のために配備されたに等しかった。

「武子、あなた用のMSの調整は?」

「済ませてきたわよ。宇宙用はフルアーマーガンダムのタイプB型ってのを充てがわれたわ」

「実機あったのねフルアーマーガンダム。シミュレーション上の産物だって聞いてたけど」

「当時の計画が立ち消えになった影響で月の基地に保存されてたそうよ。完成していた数機もベース機がすぐに後発のガンダムによって時代遅れになったから投入計画も立ち消えになったまま忘れ去られたみたい」

「政治的に闇に葬ったかもね。連邦軍も守旧派とかは改革派が主導権とってたFSWS計画を疎んじてたし」

「いやね。兵器開発にまで政治が絡むなんて」

「まあ近代の兵器開発にはありがちな事だしね。噂だとフルアーマーガンダムの後継機として、『パーフェクトガンダム』なんてのまで計画されてたとかいうし、もう…一年戦争だけでガンダム何機作ってんだか」

圭子は呆れ顔だが、西暦2201年7月頃、一年戦争中だけで30機(陸戦型ガンダム系統含め)以上のガンダムタイプが建造されていたという機密情報が開示された。そこには予備機&機能実証機を兼ねて、RX-78のファーストロット機は数機が余分に建造されていた事、それが末期にフルアーマーガンダムの素体に流用されていた事が記されていたという。かろうじて投入が間に合った、ある個体はハインツ・ベア中尉(当時)の手に渡っていたともされている。そこで明らかになった問題点を改善し、主目的を艦隊殲滅に絞り込んだ上で白兵戦に対応可能にしたプランが『タイプB』なのだ。このプランBフルアーマーガンダムの性能は当時としてはありえないほどの重火力と一点突破力を備え、パイロット次第ではZ系のガンダムにも比肩し得るとのアナハイムの調査報告書には記されている。その後継機計画も俎上には載せられたというのは、ガンダムの性能に連邦軍が惚れ込み、その強化に血眼になっていた事の表れであった。既に『前大戦』でのハワイでプランA型の改修型の試験運用が上手くいったのに気を良くした軍が調査をアナハイムその他に更に進めさせた結果、発掘されたのがこのB型である。レビル派がジャミトフ・コリニー派に排除された際に闇に葬られた機体も、遂に日の目を見たのだ。この日はまだ近代化の途上なので、機体のみがバージョンアップされている。

「RX-78のファーストロット型をなんで素体にしたの?もっと進んだ技術でブラッシュアップされたセカンドロット機がロールアウトしてたんでしょ?」

「アナハイムの技術者曰く、セカンドロットは実フラッグシップ機としての役割を担い初めてたから、本来の実験機としての面影を残すファーストロットが技術者としてもいじりやすかったかららしいわ。それで追加装備の実験も兼ねて、色々なパターンが試された。あなたに与えられたのは、フルアーマー構想の中でも重武装が極まった機体よ」

「重武装か。MSも戦車みたいに発展していったのね?」

「戦車みたいに大型化していったけど、運用費の高等やものほかで小型化が推奨されたけど、それも弊害が出た結果、20m級で落ち着いた。まあ小さすぎても大きすぎても問題あるってことよ」

――モビルスーツの歴史上、20mを祖とし、15m級、16m級、30m級などが生まれた。サイコガンダムやクィン・マンサなどの例外を除いては15mから20m級が主力となり、数多の機体が生まれた。結果、大型化しすぎてもダメで、小型化しすぎても使いにくいということで16m級から20mで収まった。技術発展で大型機と小型機の明確な違いが無くなったからだ。圭子は武子に先行すること1年、MSに搭乗している。そのためにMSの扱いに関しては上だ。そういうことに関しては詳しい。話は続く。




――戦線では、扶桑の日付で1945年の春頃から旧ジオン公国系MSなどが各地で投入され始め、地球連邦軍のMSと戦闘を行っている。連合軍の在来陸戦兵器では無力に等しいため、ウィッチ達は様々な方法で対抗策を練った。その内の一つがこの64戦隊の『同じ土俵に立ってみる』である。そのため、ウィッチの内の3割ほどがMSの搭乗訓練を正式に受けていた。3割というのは、未来機器に興味があり、なおかつ機械に囲まれた閉所に耐性を持つ者を選抜した結果である。そのために戦隊長及び分隊長格を除けば、一個飛行中隊ほどの人数しか確保できなかったという。機材調達は黒江と圭子に一任されたが、連邦軍からの提供もある。訓練用に旧型のジムUとジムVを、実戦機としてジェガンを確保した後、隊長格は連邦軍の『厚意』という名の押しつけでガンダムタイプを与えられた。ガンダムタイプと言っても、基礎設計そのものは一年戦争末期と旧い機体である故、戦中に出来なかった実験をやらされている感は否めないが、ジム系に比べればマシである。(連邦系量産機は主に反応性などでエースパイロットには不評で、同じ量産機でも、Z系やF91系などの上位機種を切望される。そのためジム系でエポックメイキングとされたジェガンが開発された後でもZ系の需要は多いという)



「隊員用は型落ち気味だけど、ジェガンは確保できたわ。最終型だからそこそこ使えるわよ」

「まぁ、兵器は本来なら『訓練すれば誰でもそこそこ使える』のが理想なんだけど……量産機と高級機の間には覆し難い差があるっておかしくない?」

「MS自体が新しい兵器だし、他の兵器とは違う進化辿ってんだからしゃーないって」


そもそもMSという兵器は発祥自体が2201年から10数年前と『新しい兵器』である。運用法は軍によって様々で、ジオン軍のように兵種の『花形』として君臨するもの、地球連邦軍のように、従来の兵器体系に新たに組み込んだ上で既存兵器と組み合わせて短所を補い合う構成を取るものとに大別できる。たいていの場合は前者が多い。スペースノイド国家が考えだした兵器故に、既存の兵器体系のノウハウが薄いコロニー国家にはうってつけだった。

「とりあえず慣らし運転してみるわよ。圭子、付き合って」

「OK。ちょうど例の爆撃機の試験飛行の護衛任務が着てるし、やろう」

――と、いうわけで二人はサブフライトシステムに乗った二機のガンダムで富嶽改の護衛任務についた。基地から飛び立って、編隊と合流する。富嶽とほぼ同等の巨体を維持したままそれよりも遥かに優速というのは驚きだが、リベリオンの航空技術は遅くとも1950年代にはこの規模の機体を完成させられるというのだから驚きであると無線で武子は漏らす。

「うちらが苦労してこれを作っても、リベリオンはどんなに遅くても50年代頃にはほぼ同じ規模の機体を飛ばして大量生産できるようになる……なんか虚しくなるわね」

「兵器なんてそういうものよ。戦艦でも大和に対抗できそうな船が続々就役してるじゃないの。それと同じよ」

「兵器開発は終わらないマラソンみたいなもんね」

「モロ○シ・ダンみたいな台詞言わない。重いんだからあの話」

何気ない会話に後世で放映されるはずの特撮ヒーロー番組ででた台詞が出る辺り、武子も以前より大分砕けたのかもしれない。もっとも、自分達が使う兵器がガンダムというMSの時点でかなり贅沢ではあるが。ちなみに圭子はGP04を、武子はプランB型のフルアーマーガンダムを使用している。富嶽の護衛という任務の性質上、サブフライトシステムを操りつつの戦闘もあり得る。この時期、二人は一通り訓練は受けているとは言え、MSでの実戦経験は浅い。それが不安要素ではあった。







――富嶽改は13000mを飛行し、試験飛行の目的地である敵前線工場上空に達する。

「よ〜い……撃て!!」

胴体部の爆弾庫が開かれ、自由落下爆弾が次々と投下され、手当たり次第に工場を破壊してゆく。ベトナム戦争時のB-52を想起させる光景だ。なのに、不思議と迎撃はない。いや、12.8cm・FlaK40を以っても有効射程は10500mでしかないという情報がある故に、高射砲陣地での迎撃は諦めたのが伺える。ジェット機の配備されている基地を避けるあたりは扶桑軍の用心深さは伺えた。と、そこで、圭子が敵を発見する。レーダーが捉えたのだ。狙撃用MSを。

「爆撃隊、散開しろ!早く!!」

圭子が無電で警告する。ややあって、旧ジオン系MSがスナイパーライフルを持って鎮座しているのが光学観測で確認された。ビームは圭子の警告のお陰で当たりはしなかったが、脅威である。武子は三次元空間把握能力をレーダーと組み合わせることで精度を補い、敵の配置をつかみとった。

『敵はおよそ6機前後、スナイパーと護衛がそれぞれ東西南北に配置されてると見ていい』

『武子、フルアーマーの武器ならそこから狙えるはずだ。使ってみろ』

『ちょっと待って。火器管制システムの操作難しいんだから……これか!』

FCSが起動し、OSを操作して狙撃に使えそうな武器を選ぶ。選んだのは360ミリロケット砲である。照準はオートではなくマニュアルで行う。武子は圭子ほどの腕はないが、それでも弾道を計算し、見越し射撃を行えるだけの腕は十分にある。そうでなければ撃墜王にはなれない。360ミリロケット砲はかつてのMLRSのごとき使用はされず、どちらかというと旧日本軍の四式二〇糎噴進砲に近い使用がなされた。武子はスナイパーがいる付近へ揺動に一発、本命を三発撃つ。噴射炎からこちらの位置が特定されるのがロケット砲の難点である。連射するのは、狙ったところに当たるとは限らないという砲熕兵装の宿命故であるのと、連射すればどれかは当たるという確率論である。そして着弾に恐れをなしたか、スナイパーが射点を変えようと移動を始めるのが確認された。

『次はビームライフルで行く!』

武子はフルアーマーガンダムの腕部に固定されている三連装ビームライフルを使う。このモデルは一年戦争中最強の火力を持つが、技術発展により、現在では『ジェガンよりはマシ』程度の威力である。これは備え付けられたビームライフルのモデルがまだ改修前で、原型の一年戦争中のものである故だ。撃ってみる。発砲音は一年戦争中の連邦軍製ビームライフル特有のものだ。射程は現行モデルより短いが、使えないわけではない。特に旧ジオン系を撃破するのには十分な威力はある。

『ぬ!こちらを発見したか!』

ビームライフルはスナイパーの内の一機の護衛を撃ちぬく。ザクUJ型で、陸戦MSとしては極初期のものだ。ジオン残党とコネクションでもあるのだろうか。スナイパーはザクTを大戦末期にスナイパー用に改修したモデルが大半だが、地上用に改修されたゲルググにスナイパーライフルを持たせたものが確認された。機体のカラーリングがジオン軍のカラーリングではなく、旧ドイツ軍戦車と同様のカラーリングであるあたりは芸が細かい。

『ジオン系のMSだ……と、いうことは共和国にシンパがいたな』

『どういうこと、圭子』

『彼らサイド3の独裁政権が独立戦争と称した一年戦争が敗戦で終わった時に公国軍はかなりの部隊が部隊や艦隊ごとアクシズに逃げたし、徹底抗戦を叫んで各戦線に潜伏したんだけど、共和国内部にも公国復興を望む者が多くいるの。そいつらが彼らの憧れだった旧ドイツ軍に装備を横流ししたのは十分にあり得る事だ』

圭子の言う通り、ジオン共和国(公国政府が改組した)は敗戦後にかなりのMSを民間に払い下げしたという記録が確認されている。その内の大口顧客がバダンのシンパで、間接的に買い上げたと考えられる事であった。現にアナハイムのグラナダ支社は黙認されはしているとは言え、旧ジオン軍工廠があったところである故に、ネオ・ジオンを大口顧客にしている。そのルートを使ったのは予測できた。

『彼らはドイツ軍にシンパシーを感じていたと?』

『地球連邦軍が日米英と、設立時の有力だった旧世界の軍隊をベースに生まれたのなら、ジオン軍は第三帝国と大日本帝国の軍隊の間接的な後裔なのよ。特に旧ドイツ軍を参考にしたらしき風土や慣習が数多くあったって言うしね』

『死の商人って奴ね。よく咎められないわね』

『資本主義社会じゃ金さえあれば許されるのが当たり前だしね。アナハイムは連邦政府のお偉いさんのケツを握ってるってゴシップも日常茶飯事。だからジオン軍相手に取引しても黙認されてんの』

ジオンとナチスの死の商人を通してのつながりに感づいた圭子は呆れ顔だ。アナハイムはフォン・ブラウン工場で連邦向けMSを生産する一方で、旧ジオニック社やツイマッドなどのジオン系人材が多いグラナダでネオ・ジオン向けMSを生産して利益を上げている。軍需産業としては問題のある振る舞いが多い同社がなぜ連邦政府の咎めを受けずに済んでいるのか?いくらグリプス戦役以後はエゥーゴのスポンサーであったとは言え、ネオ・ジオンにMSを売っていたというのは、普通なら『利敵行為』と糾弾されても文句は言えない行為である。しかしアナハイムが既に地球圏最大級の企業へ成長しているのと、連邦政府は曲がりなりにも資本主義で生きる側面がある故に企業活動にあまり文句が言えないのである。武子はそんな軍需産業の取引にげんなりしつつも、仕事はきっちりこなす。三連装ビームライフルを選択し、護衛のザクを撃ちぬく。ゲルググは一機が狙撃用装備を投棄して、跳躍して斬りかかる。

『この機体、接近戦用の武器あったっけ!?』

『たしか左腕部にビームサーベルがついてるはず!』

『ええと……これか!』

武子はとっさに機体のビームサーベルを引き抜き、起動させる。これはビームライフルと異なって優先的に新型へ変えられていたので、最新型である。動作は俊敏で、剣術の達人である彼女も関心するほどの速度であった。しかしモーションには不満を漏らした。

『なるほどね。確かに機械の動きとは思えないくらい俊敏だけど、モーションに無駄があるわね。どうにかできない?』

『後でアナハイムのニナさんにでも要請してみれば?パソコンの知識がある程度あれば自前で作れるから、パイロットによっては教導隊にモーションデータを提供してるっていうけど』

『帰ったら要請書類用意してくれる?』

『はいな』

接近戦であれば武子はその剣術を活かせる。MSはこの時期にはMF(モビルファイター)からの技術的スピンオフが進んでおり、OSに記憶されるモーションが適切であれば『すり足』、『居合』などの日本剣術の高度な動きも再現可能なまでに進んでいた。ナギナタをソードとして使うほうが多かったジオン系MSであっても例外ではない。残党内ではゲルググのモーションデータも見直され、ナギナタとしてきちんと使えるようになったという。

(これがMS同士の白兵戦……たいていは白兵戦に移る前に撃ち合いでカタつくから、『白兵戦に移れる者は素養がある』って聞いたな)

機械を通しての白兵戦にこみ上げてくるモノを感じる彼女。訓練通りに動かせているとは言いがたい動きではあったが、それでも剣術の猛者らしく、『どこで剣を振るえばいいのか』はわかっていた。いくら操縦に関しては新米でも、戦いに関しては熟練者だ。その点ではMS導入から日が浅いドイツ軍も言えるが、武子に軍配が上がった。ナギナタを受け止められ、反動で弾かれ、バランスを崩したゲルググをサブフライトシステムからいったん跳躍し、そのまま横合いから薙ぎ払うように斬る。その点はウィッチとしての経験値が役に立ったと言える。

『初めてにしちゃ上出来ね』

『まあね。いくら機械を使うって言っても、使うのは人間でしょう?人間の差は機械に左右されない要素よ。それで対抗すればいい』

――武子の言う通りである。MSでは戦車や戦闘機以上にパイロットの練度が強さを左右する。それはカタログスペックの多少の差を覆し得るものだ。一年戦争中にガンダムタイプを撃破し得たパイロット達がそれを証明している。連邦軍がエースパイロットを優遇し始めたのも、一年戦争以来の戦乱で常に一握りのエースパイロットと高性能機に一個艦隊や一個師団を根こそぎ殲滅させられてきた苦い経験からだ。そういうところでは前近代的な『一騎当千』というものが復活を遂げたと言っていいかもしれない。それがボタン戦争全盛期から科学者達が望んだ『人間の戦争』を再現したMSを生み出すに至った理由の一つかもしれない。


『敵は?』

『私達の機体を見て戦略的撤退を選んだみたい。なにせ古めだけどガンダムタイプだから』

『ガンダム、か……』


当代最高の性能を誇り、連邦軍や抵抗のの象徴として、ヒロイックな役割を担わされた機体。その意義を噛みしめる武子だった。



――二人の護衛もあり、富嶽改の初陣は成功といえる物だった。この後、富嶽改はいくつかの改良が施された後に富嶽後継として本格生産が開始されたが、根本から新設計なために、富嶽とは別の正式名称が検討され、『飛天』、『飛鳥』、『八咫烏』などが最終候補になったとのこと。正式配備に伴い、三沢・厚木・百里・横須賀・松山などの本土重要飛行場で滑走路拡張が行われた他、南洋島各地の中枢飛行場に優先配備がなされた。こうして、富嶽の後継機の産声は高らかに響き渡ったのであった。



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