短編『ウィッチ達のMS搭乗記』
(ドラえもん×多重クロス)



――ウィッチ達が未来世界に派遣されるようになって既に一年の歳月が経過した。そこで彼女らは溶けこむように努力を重ねた。その内、目覚ましい成績を収めた者は地球連邦軍と連合軍の契約に基づいて、連邦軍に出向していた。

――西暦2201年の新春 ラー・カイラム

「黒江さん、ZプラスD型の訓練終えてきたぜ」

「ご苦労。これでお前は『Z乗り』だぞ、シャーリー」

「全天周囲モニターに慣れるのに時間掛かったよ。あれはどうも感覚が掴めない」

「あれは慣れない内は酔うからなぁ。第一世代機のパネル式のほうが違和感ないんだけどなあ」

黒江もシャーリーも機動兵器搭乗訓練課程でMSに乗っていた。ジムトレーナーに始まり、ジム、ジムUとV、ネモ、ジェガンと、一通りの歴代量産機には乗り込んでいる。全天周囲モニターとリニアシートはパネル式から転換するのに一種の壁であり、黒江やシャーリーは初めて乗った時は見事に酔った。ジム系は操縦感覚こそマイルドなのだが、全天周囲モニターに慣れないと、椅子で空を飛んでいるような感覚に囚われる。ジムUやネモを使った時はその感覚が消えるのに時間を要した。慣れさえすれば、あとは簡単である。高等練習機材であるジェガンA2型を乗り回し、それぞれ得意分野に対する適正を見せた。シャーリーはスピード戦、黒江は接近戦であった。二人はその後に揃って、選択履修である『可変機操縦課程』を選択。元々、VFに搭乗しているために、慣れれば習得は早く、教官からは『優等生』とのお墨付きをもらい、この年の機種転換訓練課程を終えた。これは可変戦闘機が配備されていない地域はMSが主な配備兵器であるので、MSの操縦技能が必須とされているためで、二人の地球連邦軍での兵科は『機動科』である(一年戦争から新設されたMS兵科。MSパイロットはだいたいこの兵科である)故の苦労であった。

「MSって可変戦闘機より高級機と量産機の性能差あるッスよね?」

「しゃーない。ガンダムが戦局変えてからは階層ができちまってるんだ。ザクがガンダム倒した例は歴史上、二例しか存在しないし、しかもそれは一年戦争中の事だ。この時代じゃガンダム倒そうとしたら、ほぼ同等の性能持つ高級機持ってこないと望みもない位の性能があるからなぁ」

「兵器開発としちゃ本末顛倒じゃ?」

「そうのはずなんだが、ガンダム自体が最先端技術の実験材料になってるから、必然的に超高級機をエースに与えりゃ勝てるって寸法が確立されてるんだ。だから量産機はコストパフォーマンスが重視されてるんだ」

「その割には高級機作られてません?」

「MSや可変戦闘機では、エースパイロットには性能が一般機より上の次元にあるチューンされた仕様が与えられるのが通例なんだよなぁ。ジオンのザクの……ほれ、S型にR型……が歴史上最初らしい」

「指揮官用ザクに高機動型ザクッスか。あれって確か要望に応えた結果ですよね?」

「そうだ。うちらの飛行機でも、エースパイロットが時々、機体に独自のマーク書いたり、調整してるだろ?あれを兵器として拡大解釈した結果らしい」

――エースパイロット用にチューンナップした機体を新造するという概念が確立されたのは、旧ジオン公国軍におけるザクUが最初である。ジオン公国軍は人的資源が貴重なので、MSの性能が均一化されていると、連邦軍に対抗戦術を編み出されると損失が大きいという観念と、旧日本軍的な『指揮官先頭』の伝統があった風土がS型を生み出し、戦争の長期化がR型に繋がった。S型の優位性がジムシリーズという、より高性能な敵機の出現で消えた戦場で勝てるように設計された高機動型ザクは、戦場ではジオン公国軍の誇った一騎当千のエースパイロットに与えられたのもあって無敵といえる強さで君臨した。連邦軍のガンダムが実験機からフラッグシップ機に変容した一因には、高機動型ザクなどのエース専用機が戦場で猛威を奮ったのが上層部を恐れさせたからともされる。

「連邦軍は機種を個別にチューンナップするより上位機種を作る手法で対抗したが、それでも独自改造が望まれたから、今じゃ上位機種に部隊独自の改造が許されたそうな。これも戦争の結果なんだから、なんと言えばいいのかなぁ」

「本当、わけわかんねえッスよ。まああたしはスピードあげられるなら、なんでも良いですけど」

「お前って奴はほんっとうスピード狂だな」

「そうでなきゃバイクで速度記録持ってないっすよ。黒江さんだって、一時は試験部隊にいたとは思えないっすよ」

「坂本の奴と違って、退いてもずっと飛んでたしな。それにここで可変戦闘機やらを乗り回したり、ISの試験したりとしてたから実戦のカンを取り戻した。なのは達の面倒も見たしな」

「あー、なるほど。あいつらストライカー無しで飛べる上に、ウィッチとして地力が上ですからね」

「私達は幸運なほうだぞ、シャーリー。あいつらと模擬戦して渡り合えてるんだからな。他の部隊の奴らはなのは達に土をつけられてる。それで自信なくしたのも結構いるし」

――なのは達は時空管理局きっての精鋭空戦魔導士である。ウィッチの中には、完膚なきまでに負けてしまい、自信喪失状態に陥った航空隊の例が多く報告された。これは実戦を生き延びてきたと自負するウィッチ達も対人戦は新兵同然の経験しかないのが原因で、百戦錬磨の二人とは差が出るのだ。

「あたしたちは対人戦なんてしてきませんでしたからね。だから出てるんでしょ?自主退役者」

「ああ。親が家の保全のために退役させたり、本当の戦争の恐怖に支配されて精神的に病んだり、対人戦争をするつもりはないと降りた者とか多数に登る。だから私達のようなエクスウィッチが呼び戻されたんだ」

エクスウィッチが前線に呼び戻された背景には、ティターンズとの戦争に恐怖や憤りを感じたり、親が辞めさせたりしてウィッチがどんどん自主退役していっている背景がある。人的資源を確保するために、エクスウィッチを前線に再び送り込む施策が取られているが、勿論、古参の現役ウィッチからは反発も大きい。交流の名目で送り込まれているウィッチの中には、前線の窮状を理解させるために現役世代の古参も選ばれているのだ。

「黒江先輩、申請書類調達して来ました」

「ご苦労」

「お、あんた確か506の」

「黒田那佳です。お久しぶりですね、シャーリー大尉」

黒田那佳は大戦終結後は三羽烏の配下として活動しており、世話役も兼ねていた。506が活動休止状態なのと、未来に来ても任務が言い渡されたわけでもなかったので、三羽烏の秘書的役割を引き受けた。黒江と髪型が似ていて間違えられるために、現在は服装に気を使っているとの事。

「黒江さん達の秘書してんの?」

「ええ。戦争終わってからは暇だったんで引き受けたんですよ。前線にももちろん出ますけど」

黒田は旧大名家である黒田家(黒田官兵衛の子孫)の分家出身で、華族である。華族と言えども彼女の家は財政的に厳しい、分家の男爵か子爵家であり、506に送り込まれる際に、旧大名であった本家に養子に入った身だ。なので、華族らしい暮らしとは縁が薄く、至って庶民的。祖父母に仕送りするために、実はけっこう金にがめつい面がある。

「ん?申請って、何を申請すんのさ?」

「メガビームライフルかビームスマートガンの配備申請だよ。Z系はオプション装備多いからカスタマイズするの多いんだぜ」

黒江は巴戦も熟練者だが、どちらかと言うと火力重視傾向になり、一撃離脱戦法を得意としている。Z系は機動性重視であるが、火力も高いのでうってつけである。素の装備で満足しないあたりは可変戦闘機乗りでもある故であった。

「お前の分も書くから、オプション選んどけよ」

「分かった」

シャーリーは黒江からアナハイム・エレクトロニクスのZプラスのカタログを受け取り、開く。それは隊長格や艦隊司令官向けのカタログで、アナハイム・エレクトロニクスが如何に高価な装備を軍に買わせようと苦心しているかが伺えた。カタログには『兵站担当者も安心!我が社がしっかりアフターサービスいたします』などの文字が踊っており、まるでどこかのスーパーマーケットの家電製品である。シャーリーはスピード重視なので、本来は銃火器はできるだけ軽量が望ましい。だがMSではそれはあまり関係ないので、珍しく大火力の火器に目が行く。

「クレイバズーカってZ系でも使えんの?」

「火器管制装置が連邦製なら使えるよ。実際に第一次ネオ・ジオンの時にZUが携行していたらしいし」

「んじゃビームスマートガンとセットで頼んます」

「OK」

黒江が書類のセット注文の個所にに印をつけ、黒田に手渡す。黒田はすぐにそれをブライトに手渡しに向かい、提出する。ブライトは思わず渋い表情を見せた。



――艦長室

「うぅーむ……今は資金が大変なんだが……。ニナさんに値切ってもらうように言うか」

「お金ないんですか?」

「マジンガーの新型が来る予定だから設備を改良したんだが、思ったより高くついてな。おまけに今度の遠征でミッドチルダに行くのに、艦の編成替えを命じられてな……」

ブライトが頭を抱えているのは、ミッドチルダへの遠征を通達された際に、艦隊編成を変えると言われたのだ。急な話である。

「急な話ですね」

「それがヤマト級なのだ。あれは特殊だからな」

「ヤマト級を?あれってワンオフで、大和を直した一隻だけしかないと?」

「新造パーツで姉妹艦を作ったそうだ。ご丁寧に名前も武蔵と信濃で、それぞれ戦艦と航空戦艦として造られた。我々にその二隻が充当される事になった」

――ヤマトの姉妹艦がロンド・ベルへ充てられる。これはミッドチルダ政府への軍事力誇示と、政治的示威も多分に含まれた決定であった。ミッドチルダ政府の一部は地球連邦軍の軍事力を『自らの秩序を壊しかねない』と恐怖しており、度々管理世界への編入も議論されている。だが、その度に地球連邦軍の『ペンペン草すら残らぬほどに侵略者には苛烈』な側面を指摘され、閉会するという。地球連邦軍には基になった日本国国防軍から受け継ぐ、『侵略には、死兵となってでも戦う』という気質があるため、これまで多くの異星人や敵対国家などを倒してきた。絶大な科学力がミッドチルダ政府をして『黙認』させている背景にあるが、地球人のその戦闘力に恐れをなした側面も存在した。

「それが我々に配備されると?」

「近日中にも進水式が行われ、部隊に配備される。そのつもりでいるように皆に通達を頼む」

「ハッ」

黒田は艦長室を出ると、いつのまにやら秘書が板についている自分に苦笑した。なんだかんだで秘書もやってみると面白い仕事だが、偶には戦線で飛びたいのである。圭子からは智子か黒江の護衛についてくれと要請も出ている。なんだかんだで黒江達に付き合ってMSの搭乗訓練は受けたので、その気になればジェガンやリゼルで出撃も可能だ。

「私もリゼルのディフェンダーユニットでも要求しておくかな……」

後日、圭子率いるウィッチ班には要望に沿った装備が配備されたが、ロンド・ベルの主計科からはぶーたれられたという。何せ彼女らの頼んだ装備は高価なもので、直掩部隊のリゼルがウィングユニットなりボックスユニットを装備する『標準仕様』なのに対し、彼女の要求したのはディフェンサーユニット。主に宇宙用の高機動型ユニットで、敵からは『メタスになるジェガン』と揶揄されるリゼルの運用に柔軟性を与える。そのうち、黒田が要求したのは運用思想をZZに近づけた『a装備』。ハイパービームサーベル等によって近接格闘能力を強化した仕様だ。扶桑のウィッチが多かれ少なかれ格闘戦に傾倒しているが、MSにおいても垣間見れた。














――原隊に戻っているハルトマンに続き、圭子にも原隊の再編指令が下り、ひとまずロンド・ベルを離れた。次席である黒江は折衝役も兼ねてロンド・ベルに残って、シャーリーや黒田と共にMS搭乗訓練に明け暮れた。

――日本 横浜市内

「なるへそ。確かに旋回性能は戦闘機より悪いな」

「でも航空力学とかほとんど考えてない機体をぶっ飛ばすんだから、科学の進歩はすごいですよ先輩」

「ああ。核エンジンの威力って奴だよな……」

三機のウェーブライダーが編隊を組みながら飛行する。Zプラスとリゼルだ。リゼルはウィングユニット装備の隊長機仕様だ。可変戦闘機と違い、速度は東西冷戦下における戦闘機とほぼ同程度だ。これは航空力学などを考慮の範疇に殆ど入れていない形状故、核エンジンの推力で飛ばしているだけ故に、この時代にしては『遅い』速度なのだ。

「D型って戦闘機としての性能重視したんだよな?そうなるとMSとしての性能はどうなのさ」

「MSとしての運用はあまりされないって聞いたぜ。ウェーブライダーでの運用が主な形式だから。けど、一応ガンダムとしての性能は維持してるって言うぜ」

「なるほどなぁ」

「厚木についたらおごってくださいよ先輩」

「へいへい」

厚木基地までは数分もあれば着く。彼女らが楽しみにしているのは、日本国防軍時代からの神奈川名物『サンマーメン』である。これは彼女らの時代にも存在するご当地グルメであるが、黒江も黒田も海外任務が多かった上に、横須賀だと『海軍カレー』を専ら食べているので、サンマーメンには縁が薄かった。また、ラーメン文化が未来世界ほど普及していない世界故に、ラーメンという食べ物がマイナーなのも大きかった。

『厚木だ、降りるぞ。ランディングギアを出せ』

三機のウェーブライダーがランディングギアを出して着陸態勢に入る。大気圏内用のフラップも引き出す。これは航空機となんら変わりない操作である。違うのは、彼女らの時代では尾輪式から前輪式降着装置への転換期であるので、前輪式での着陸は経験が浅い。管制塔の誘導と指示に従い、滑走路に着陸する。格納庫に駐機し、機体から降りる。

「ふう。緊張したあ」

「尾輪式より楽なんだぜ?この着陸法。むしろ尾輪式できるパイロットは映画とかのスタントとかで引く手数多。私の先輩なんか副業でそれしてるぜ」

「ああ、神保さんですね?」

「そそ。47戦隊で世話になってな。バイトでスタントしてるんだよ」

黒江が慕うウィッチの一人に、先輩の神保大尉がいた。彼女は47戦隊に転属した黒江にキ44での戦闘法を仕込み、よく面倒を見た。当時、『事変での行い』が原因で疎んじられ、前線送りになった影響で腐っていた黒江を奮起させるのに一役買った。そのため、彼女が引退するときは黒江は大泣きしたという。現在は未来世界についたウィッチの講師を務める傍ら、バイトで映画撮影の飛行スタントを努めている。現在では、『三羽烏を使い走りにできる数少ない人材』として名を馳せている。

「へえ。アンタにもいたんだ先輩」

「当たり前だのクラッカーだ。生きてる限り先輩後輩関係はあるからな」

シャーリーは自由奔放に見える黒江にも慕う人物がいるというのは意外そうである。シャーリーは軍入隊直後は無断改造などが原因で、原隊での評判が悪かった。そのために原隊では『浮いていた』ため、原隊復帰指令が来た場合は拒絶か転属願いを出すつもりだ。慕われる側である彼女が慕うのは、今のところは両親やミーナなどであるが、身近と言える関係ではない。そのため、身近に相談できる『お姉さん』的な人物を持つ黒江を羨ましく思った。

「とりあえずサンマーメン食うぞ〜今日はシャーリー。お前のおごりで」

「え?金無いのかよ」

「釣り用具に使い込んじまって今月はオケラなんだよ。お前にP-51H送るように手配してやるから、な?」

「んじゃしょうがないなぁ……」

黒江の釣りキチぶりに呆れつつも、ちゃんと三人分の食券を買ってやる。それで三人でサンマーメンをすすり、舌鼓を打つ。

「うめぇ〜。でもさ、なんでうちらの世界だとラーメンがマイナーなんだ?宮藤に聞いたら『食べた』事あまりないって言ってたよ」

「うーん、これはあくまで推測なんだが……中華文明って知ってるか?」

「昔、ユーラシア大陸東部で栄えてた文明だろ?扶桑文化の原型の多くを作ったって言われる」

「ああ。王朝が定期的に興亡を繰り返してたんだが、扶桑がちょうど織田幕府の時代の前期にネウロイに完全に滅ぼされた。生き残って、亡命した王家の人間がラーメンとかの文化生をみ出したと思われるから、極めてマイナーなんじゃないか?」



「そうかぁ」

――後に、政府に提出された軍のウィッチ世界の調査の結果、『中国相当の文明は明朝時に滅んだ』ことが確定し、ネオチャイナを中心に一大センセーショナルを起こしたという。扶桑の横浜に中華街が存在しないというのもショックだったようで、旧・中華民国(ネオチャイナもその配下)(統合戦争で人民共和国は倒れ、再び中華民国に戻った)は扶桑に積極的に中国文化を輸出するようになり、1950年代には史実通りに中華街が形成されるに至る。






サンマーメンを食べ終わった三人はフル装備での戦闘に慣れるため、午後はシミュレーターを使用しての模擬戦闘訓練を行った。想定された相手は旧ジオン軍のエース部隊『キマイラ隊』であった。シミュレーター上の相手とはいえ、最新機相手に旧型で互角に渡り合うほどの腕は彼女らを大いに苦戦させた。


「クソッ、スペックはこっちが上なんだぞ……それでこんな機動を!?」

黒江は高機動型ゲルググの機動に驚く。その機動は宇宙空間でのデブリを最大限活かした鋭いもの。ビームライフルが全くかすりもしない動きは連邦の下手な部隊がカスに見えるほどのもの。避けるので精一杯である。そして後方から別のゲルググが薙刀で斬りかかってくる。

「格闘戦ならば!」

黒江が歴戦の勇士に対抗可能なところが『近接格闘術』である。彼女はスロットルを全開でZプラスを突進させ、ビームサーベルを構える。示現流の構えだ。これはシミュレーターに自分のカスタマイズしたモーションをかませたおかげだが、ばっちり再現している。(元々、一撃離脱戦法を主にする可変MSは通常型MSより真っ向から格闘戦を行うのは苦手とされている。これはアッシマーやギャプランなどのティターンズ系MSが証明している。Z系とて、格闘戦は苦手の部位だが、アムロら熟練者が乗り込んでいるおかげでそれは問題にされていない。技術の進歩でフレーム強度が長時間の格闘戦に耐えうるようになったのも大きい)そこは地の性能差が有利に働いた。いくら高機動型ゲルググが当時最強クラスを謳われようとも、日進月歩で進むMS技術の前では単なる旧世代機にすぎない。ゲルググがビームナギナタを振るうより早くビームサーベルを上段から振り下ろし、一刀両断する。

「ふう。一機撃破……。シャーリー、そっちはどうだ?」

「こっちは対艦戦闘プログラム中。対空砲火がむずい!アムロ大尉達はいつもこんなの突破してんのかぁ!?」

シャーリーが行っているのは、宇宙空間におけるウェーブライダーによる対艦戦闘プログラムであった。スピードによる一撃離脱戦法を覚えるためのものだが、想定された敵艦はなんとガミラス帝国の戦闘空母艦隊で、自衛火器が空母の枠を超えているため、シャーリーの想定外の対空砲火が襲いかかってきたのだ。

「おおおおおおおっ!?」

シャーリーはミサイルの雨霰を機体をバレルロールさせたり、微妙なヨーイングの操作などで回避する。元の世界でソードフィッシュを操縦した経験があるので、操作に敏感な反応を見せるのはいいが、対空砲火が激烈なので生きた心地がしない。

「ヤマトのコスモタイガー隊はこんなの鼻歌交じりに突破してのけたって言うけど、あの人達が化け物なだけじゃないか?」

思わずそう愚痴る。元々、雷撃ウィッチという分野があまり発達してない(急降下爆撃ウィッチであれば史実同様に戦術は熟成されている)上に、戦艦相手に挑むという出来事に遭遇するなどまず起き得ないので、対空砲火の猛烈さに驚愕したのだ。(後に彼女が遭遇する暗黒星団帝国の艦艇はあまり対空火器が配置されていないので、その辺は救いであった)

「落ち着いて!どんな対空砲火だって隙はあります!そこを突くんです!」

「んな事言ったって!」

黒田は実のところ、未来世界に派遣される数日ほど前にティターンズ海軍の空母打撃群の猛烈な対空砲火に遭遇した事がある。これは黒田が元々はペルシア湾防衛についていたのと関係しており、ティターンズ海軍原子力空母(とは言うものの、彼らの時代には核融合炉へ転換が進んでいたが)の近代火器の猛攻を受けた。CIWS一つとっても、ミノフスキー粒子下でも一定の阻止力を誇るファランクスとRAM、ゴールキーパーなどが一斉に襲いかかってきたのだ。多くのウィッチは虚を突かれて戦死(シールドをミサイル防御に使った直後にガトリング砲の猛射をまともに喰らうなど)していったが、黒田は数少ない『小細工なしで対空砲火を突破して見せた』ウィッチであり、臨時で持っていた250kg爆弾を水平爆撃で護衛艦に当て、中破させている。それが高く評価されたのが派遣メンバーに選定された要因である。その戦闘で苦杯をなめたのが要因で、黒田は対艦戦闘に力を入れるようになったのだ。

「ターゲットロック。行けっ!」

黒田は対空砲火を掻い潜りつつ、乗機に選んでいたリゼルに携行させていたメガビームランチャーを撃つ。対艦戦闘の熟練度においてはシャーリーを上回るのを示す如く、メガビームランチャーの射線は見事に艦橋部を撃ちぬく。

「すげえ……あんたよくあんなのできるな」

「研究したんですよ。ペルシア湾で苦杯舐めたもので」

黒田はシャーリー同様、お気楽な性格であるが、意外にも激戦区にいたので、腕は確かである。それが黒江達から『懐刀』として重宝がられている所以だ。年齢的には扶桑海事変最後の世代にあたる故、未来世界に行くにあたって数年分は若返っている。シャーリーは黒田についていく形で対艦戦闘プログラムを続行。たまたま厚木基地にいた大鷲龍介=初代バルイーグルはシャーリーの操縦データを見て、『う〜む。こりゃ鍛える必要があるなぁ』と評したとの事。








――こうして、シミュレータープログラムを消化した三人は所用を終えて厚木基地に来た智子と合流した。智子は507の迫水ハルカに付き合うのを強いられた影響か、げんなりしていた。

「お前、百合……なのか?」

「な、な、な、なによいきなり!」

「ハルカの奴、お前といるとなんかこう……黒子と同じ匂いがするんだが……」

「うっ……」

白井黒子は美琴に対し百合的な感情を持っている。それは周知の事実だが、黒江はそれ同様の匂いを迫水ハルカに感じたらしい。智子は赤くなって、飲み物を慌てて飲み干している。

「そいやお前、いとか……」

「わー、わー、わー〜〜!」

智子は慌ててかき消す。糸河衛博士(糸川英夫博士にあたる)と過去に一線を超えそうになった事が黒江に知られていたのに大慌てで、ずいっと詰め寄る。

「なんでアンタが知ってんのよ?!まさかあの人か……」

「いやいやいや!ドラえもんのタイムテレビ借りて動かしてたらたまたまお前が……」

「〜〜!」

黒江の不用意なこの一言が智子に火をつけ、首根っこ掴まれてゆさぶられる。ムキになる智子に、シャーリーと黒田は大笑いだ。

「ぐえ〜〜!!お前ら見てないで助けろぉ〜〜!!」

黒江と智子のこの漫才的なやり取りは二人にはもうおなじみであるのだが、大笑いだ。今でこそすっかり夫婦漫才の様相を呈する智子と黒江の二人だが、歴史改変前はそれほど親しい間柄ではなかった(正確には改変後の扶桑海事変の記憶を持っていない時期である1940年〜1944年頃も含まれる)事を思い出し、不思議な気分になると同時に罪悪感も浮かぶ。

(そいや今は本当はフジが占めるポジの一部を私が担当してるんだよなぁ……アイツもそれは知っている。悪い気がするんだよな……)

黒江は自身が、本来の流れならば『武子が担うはずであった立ち位置』にいる事にある種の罪悪感を感じていた。武子がそれを知っている故、自分の立ち位置を『本来の自分』同様にしていることへだ。武子は扶桑海事変での事を恩義にしている事もあり、それは気にしないとの事だが、黒江としては気にせずにはいられなかった。64戦隊の戦隊長に武子を推薦したのは、その事への贖罪も兼ねているのだ。この数日後、武子は64戦戦隊長に正式に就任。ミッドチルダ行きが通達された。未来世界組はラー・カイラムに替わる旗艦『航宙戦艦シナノ』に乗艦することになる。









――宇宙航宙戦艦シナノ。ヤマト級宇宙戦艦三番艦にして、信濃型航空母艦の名を受け継ぐ存在である。当初は純然たる正規空母として建造予定であったが、ヤマト級の同型として建造するのに必要性が生じた事や、次期旗艦候補に戦闘空母が挙げられている事から、実験も兼ねて、折衷案の航空戦艦として建造された。船体はヤマト級のものをストレッチして全長を拡大させたものを流用したが、戦艦部の上部構造物はムサシよりは原型に近い。搭載機数はヤマト級最大の65機以上を誇り、ロンド・ベルの全艦載機を一隻で積めるほどである。ロンド・ベル第一群は同時に波動エンジン搭載戦闘空母主体へ再編され、人員はそのままに、訓練航海も兼ねてミッドチルダ派遣が通達された。同時にヤマトと共同行動を取るにあたって、『第3航空戦隊』を臨時で編成。艦載機も最新最高のものが与えられ、ロンド・ベルはミッドチルダへ発進した。

――数日後 横須賀

『第三航空戦隊、発進!』

ヤマトを先頭に、姉妹艦であるムサシとシナノ、他の戦闘空母と護衛の新型巡洋艦『アガノ級巡洋艦』(白色彗星帝国戦時に大量生産された巡洋艦の後継艦。前型が防御力が低いと文句が出まくったので、新型戦艦『長門型戦艦』のスケールダウン型として建造された)とこれまた新型駆逐艦『カゲロウ型駆逐艦』(いずれも正式表記は漢字)が追従する。波動エンジン艦、それに最新最高の艦ばかりで固められた艦隊はミッドチルダへ向かう。

『全艦に告げる。これよりワープを応用してミッドチルダへ転移する。総員、ワープ準備にかかれ!』


古代の号令で艦隊全ての人員がワープ配置につく。

『3……2……1!ワープ!!』

島大介の号令で次元間ワープを敢行する。これは波動エンジンの膨大な出力だからこそ可能な芸当である。可能なのは、他にはヱルトリウム級やヱクセリヲン級のみだ。ミッドチルダ本星近くに転移、本局に投錨する。





――黒江はミッドチルダへは先行して来ていたため、シナノに乗って来たのはシャーリーと黒田、智子である。同日、武子らがサイパン丸で到着。カールスラント組と合流したが、シャーリーは転移時に酔ったのと、インフルエンザに感染したらしく、戦線参加は遅れたとの事。

――シナノ 医務室

「おうバルクホルン、元気か……?」

「全く……インフルエンザごときにかかるとは!たるんどるぞリベリアン」

「しゃーねーだろ……朝起きたら全身痛いわ、40度出るわで動けなかったんだから……」

「まあまあ。ゆっくり療養して頂戴、シャーリーさん。佐渡先生、彼女の様態は?」

シャーリーが倒れたので、慌ててヤマトから呼ばれて来た佐渡酒造はミーナに答える。

「なあに、2、3日もすれば熱は引くじゃろ。薬も処方しておいたから、三食食ったら飲むように言っとくれ」

「わかりました」

「神様がくれた休憩と思って存分に療養せい。これから厳しい戦いが待っとるからのぉ」


「は、はい……」

顔が赤くなって、完全に病人なシャーリー。この後の三日間、40度〜39.5度の高熱で唸るハメになり、故郷に帰ってしまった芳佳を恋しがるあまり、『助けてくれ宮藤ぃ〜〜!』とうわ事を言いまくったとの事。ちなみにアナライザーにどさくさ紛れにエロ行為の被害を受けたかは、シャーリー本人の記憶が曖昧なために有耶無耶になったとのこと。



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