短編『反地球探査&防衛決死圏』
(ドラえもん×多重クロス)
――ドラえもんの道具の多くは統合戦争の動乱で技術が失われたが、それだけでなく、忘れ去られた星もある。それは反地球である。ドラえもんの時代には知られていたが、統合戦争の折に、反統合同盟軍の手で記録を抹消された結果、かつて同様『伝説』として処理されていた。しかしドラえもんの来訪で抹消されていた記録が復活すると、23世紀になってから探査団が同空域へ送り込まれた。惑星磁場などから、存在は遅くとも東西冷戦下の時代には発見されていてしかるべき存在だが、公には『21世紀頃に発見された』とのことなので、東西冷戦下のソ連邦か米国が発見報告を闇に葬った後、ひみつ道具時代に『確認された』のだろうという推測が立てられた。本来ならあり得ない存在であるべき反地球は疑問を投げかけていた。
――太陽系 L3ポイント
「これが伝説の『反地球』か……まさか大陸分布までそっくり同じとは。恐れいったな」
「我々の地球と違う点があります」
「なんだ?」
「引力や惑星自体の質量が我々の地球より弱く、体感重力は月などにいるのとほぼ同程度であります」
「なるほど。文明はどうだ?」
「前世紀初期の文明が存続した場合のそれ同様の文明がありますので、軍事力では我々のほうが優っていると思われます。コスモタイガーによる空撮で判明いたしました」
「何故、このような星と文明が生まれたのだ?」
「地球のような惑星が生まれている可能性など、宇宙から見ればありふれたものです。同様に生物も同じような進化を辿る。だから反地球が存在しても何ら不思議ではないのです」
科学者は探査団長に言う。23世紀の天文学は21世紀における常識がかなり覆るほどの進歩を見た。なので反地球が存在しても、もう誰も驚かなくなっていた。そこには月もあり、ちゃんとアポロ11号の足跡が残っている。フォン・ブラウンやグラナダクレーターはまだ自然のままであるらしい事から、スペースコロニーを作るほどではないのが伺える。探査写真からは、統合戦争が起きなかった場合の地球の繁栄というIFの具現化がありありと現れており、欧州諸国が懸念した技術的特異点が杞憂であったのを暗示する文明だった。ただし探査で判明した軍事レベルは相応のレベルで、ワープは実現されたらしいが、地球連邦のそれに比べると攻防速いずれも劣るレベルだ。
「一昔前の金剛型宇宙戦艦と同レベルの性能か。これでは星間国家との戦闘では役に立たんな」
「あれでも当時としては高性能でしたよ。ガミラス艦が強すぎたんですよ」
――金剛型宇宙戦艦とは、一年戦争後に建造され、宇宙戦艦ヤマト進水まで使われた最後の旧来機関による外宇宙用戦艦で、俗にいう『前ヤマト級戦艦』である。マゼラン級やサラミス級やグワジン級よりも高性能の機関を積み、当時は地球圏最高を謳われた。だが、敵の波動エンジンとの隔絶した性能差の前に失われ、ヤマト進水までに生き残ったのは、第3番艦の「英雄」(沖田十三座乗艦として著名)のみであった。そのレベルという事は、少なくとも冥王星まで2週間以内に行ける程度の航行技術はあるというということだ。波動エンジン艦と核融合炉主体の艦との間には埋めがたい性能差があるのを改めて実感した。
「人型機動兵器は存在しない……か。まぁ我々の軍事的進歩はイレギュラーのようなものだしな」
「そういう考えは存在しないでしょう。おそらく、過去のネコ型ロボットらが存在したままだと文明の進化が異なるでしょうしね」
――人型ロボットを兵器として軍事利用しようとしたのはスペースコロニー国家である旧・ジオン公国が最初だ。それまでは『SFの中の与太話』と誰もが思っていた(歴代ヒーローらは例外である)人型ロボットが戦場で在来兵器を駆逐していく様は当時の軍事に関わったすべての人間を驚愕させたが、その革命が起きなかった場合の軍事レベルに、ある意味で安心感もある団長であった。
「奴さんの警戒網にこちらは引っかかるか?」
「ミノフスキー粒子とアクティブステルスを活用しているので、目視でなければ発見は困難です。レーダーは無効化しているので、我々と同程度の技術がない限りは発見されません」
「そうか。引き続き探査を実行せよ」
「了解」
探査は主に宇宙空間からの空撮を中心に行われた。数日掛けて詳細な宇宙地図も作成された。成り立ちについては、地球が形成されたのと同じく、太陽の裏側で唯一形成された星であり、火星・地球と組成などを同じくする『兄弟星』である事が推測された。火星がその後、地球人によるテラフォーミングで太古の姿を取り戻すまでは赤く朽ち果ててしまっていたのとは対照的に、環境を保ち、地球圏同様に文明を得たという結論を導き出した。だが、その星を狙うものがいた。白色彗星帝国の残党軍である。地球連邦軍の戦後の残党狩りから逃れるために、地球侵攻軍の残存部隊は反地球の月から少し離れた、別星系との中間地点のアステロイドベルト地帯にたどり着いた。そこを根城に白色彗星帝国再興を夢見、地球への復讐を目論んでいた。
――白色彗星帝国残党軍旗艦「メダルーザ級殲滅型重戦艦メダルージ」(メダルーザは遠征艦隊旗艦として、対地球遠征時には複数が生産・竣工していた。『火炎直撃砲を装備するだけのヘッポコ戦艦』という評を頂く同艦級だが、それはメダルーザは火炎直撃砲のテストも兼ねて『敢えて艤装を一部省略した』作りで竣工していた試作艦で、同二番艦からは当初の武装がきっちり施された完成型として竣工している。完成型の能力は白色彗星帝国戦時のヤマトを凌ぐ。メダルージはその2番艦である)
「地球連邦め。この星を調べにきおったか」
「いかがなされます、提督」
「またとない復讐の機会である。直ちに艦隊は発進!星は巻き込むな。これはあくまで地球と我々の戦いだ」
「了解」
彼らは地球連邦軍の虚を突くべく、ワープで地球連邦軍の近くに移動した。だが、そのワープ航跡は地球連邦軍に察知されていた。電子戦機から白色彗星帝国製エンジンがワープの際に発するノイズを通報された地球連邦側は駆逐艦らが対亜空間戦闘を開始、この時期に配備されたばかりの対潜兵器「波動爆雷」を投下しまくった。これは23世紀初頭現在、もっとも地球連邦軍を恐れさせている兵器が次元潜航艦であり、それを狩るために波動エネルギーを充填させた爆雷を開発するという状況であった。波動爆雷は単艦行動が多かったヤマトに先行装備された後、巡洋艦以下の艦へ配備されていき、現在に至る。新型艦は当初より配備されている。そして投下後の爆発で通常空間に艦首を突き出す形で撃沈する駆逐艦や巡洋艦が続出した。
「波動爆雷はばっちり効いてるぞ!!次いで第二派用意!」
団長は護衛艦隊に更なる爆雷攻撃を用意させるが、ここで思わぬ反撃にあう。火炎直撃砲である。亜空間からでも撃てるように改良されたそれはワープ中の亜空間から駆逐艦に向けて放たれ、駆逐艦を溶解せしめる。その光景に団長はニィと笑う。
「やはり持っていたな、メダルーザ級!来てみろ、拡大波動砲の餌食にしてくれる」
彼らは無論、メダルーザ級の情報を得ていた。完成型メダルーザのスペックは確かに白色彗星帝国戦役時には驚異だが、波動スーパーチャージャーを開発した後の地球連邦軍主力戦艦程ではない。これはヤマト含めた全戦艦の防御力が対火炎直撃砲に耐え得るモノに強化されていたためで、火炎直撃砲を食らおうとも平然と砲撃戦遂行可能である。それが地球連邦軍の自信であった。問題は反地球への艦砲射撃のみ。なので、敢えて反地球から離れた空域での砲撃戦を遂行した。
――現れた白色彗星帝国残党軍艦隊はおよそ20隻ほど。撃沈された船を入れると30隻であろうか。メダルーザ級を含めて戦艦が大多数で、艦隊決戦挑む気満々の編成である。しかしすでに地球圏の技術的進歩はメダルーザ級すら『時代遅れ』と化していたのだ。
『全艦、我に続け!主砲は波動カートリッジ弾を装填!彗星帝国をギャフンと言わせてやれ!!』
探査団の旗艦である、地球連邦宇宙軍所属『戦略指揮戦艦アンドロメダ改級三番艦ガイア』は23世紀初頭当時の地球連邦軍最強の戦艦である。これは国家戦略目的に使用可能なヱルトリウム級を除くという意味だが、ヱルトリウム級は運用に膨大なマンパワーを必要とするため、通常は運用されない。なので、戦術的自由度という点でアンドロメダを始めとする波動エンジン艦は好まれている。波動カートリッジ弾を使用した場合のショックカノンの射程は白色彗星帝国艦艇の更に倍であり、波動カートリッジ弾の開発で地球連邦軍はついに白色彗星帝国の衝撃砲に対し、完全優位を得たのである。
『撃てぇ!!』
51cm〜40cm砲が火を噴く。波動カートリッジ弾を用いた遠距離射撃は白色彗星帝国の大戦艦を見事に撃ち貫き、粉砕する。白色彗星帝国にとっては旧時代の遺物である実体弾で、ものの見事に粉砕されていくのは信じがたい光景であろう。
『次いで第二射を火炎直撃砲発射口に当てる!!あれは今でも厄介だ!!発射される前に潰せ!』
ガイアの51cm砲塔が動く。原型艦と異なり、ヤマト同様のマニュアル方式に回帰している。これは微妙な照準調整が可能という利点があるためと、ダメージコントロールの点からの切実な要望からだ。砲撃手も相応に優秀な者が配置されていたので、単独射撃も対応した。重武装を誇る完成型メダルーザといえどこれには揺らぐ。
「何ぃ、火炎直撃砲が使用不能だと!?どういうことだ!?」
「先程の砲弾の誘爆で瞬間物質移送器が破損しました!使用不能です!」
「馬鹿な、実体弾という旧式で本艦が……!」
砲弾に波動エネルギーがこめられていたのだ。波動砲の100分の一のエネルギーとは言え、タキオン粒子が火炎直撃砲のエネルギーと反応すれば爆発は起こる。それが火炎直撃砲を封じる手立てとなったのだ。同時に彼らを恐怖のどん底に陥れたのがあった。航空支援だ。
――コスモタイガーがフェーベ航空決戦で無双に近い活躍をした戦訓から、地球連邦軍は実体弾を重視しており、コスモタイガーの後継機開発要項にミサイル搭載数の増加を盛り込むなどの影響を与えた。新コスモタイガーは旧型よりもパイロン数の増加、加速力・機動性の強化などがなされていたため、白色彗星帝国には余計に脅威であった。だが、全てが最新鋭機ではない。中には一年戦争中に設計された旧型のコア・ファイターバリエーションも複数含まれていた。
「なんで俺たちに充てがわれたのが一年戦争の時のポンコツなんだよ」
「しょうがないだろ。コスモタイガーは殆どが高練度の奴に回されちまってるんだから」
「だからってブラックタイガーですらないんだぞ!今更、コア・ファイター持ってきたところでだな」
「レイヴン・ソードだって悪くない機体だぞ。セイバーフィッシュよりは性能高かったんだぞ。若いのは知らんと思うが」
「博物館から引っ張っておいてそのままじゃないだろうな?」
「部材はコスモタイガーの奴に変えられてある。エンジン周りの形状見てみろ」
「あ、本当だ」
「わかったらとっとと出撃してこい。航続距離は大丈夫だ。コスモタイガーのジェネレーターだから戦闘中は気にしなくていい」
「分かった」
――その機体は退役していたものを博物館から持ってきたと言うべき感覚で語られていた。今やイスカンダルの技術で宇宙戦闘機もMSと並ぶ戦力としての地位を回復していたが、飛躍的進歩が続くMSや可変戦闘機に押されて『旧時代の遺物』扱いされた次期があった。その時期に生を受けたのが『FF-S5 レイヴン・ソード』であった。元は一年戦争中に計画されていた次期F-X計画で生み出され、主力機として期待されていた。だが、小型であった事で飛躍的進歩が続くMSに対抗が不可能であった事(内部兵器庫にミサイルを収納する設計であったのが災いし、MSを貫くミサイルを収納する事が出来なかった。更に登場時期にパルスレーザー砲が実用化されたことで、旧態然とした機銃搭載なのも評価を下げた)、コア・ファイターサイズであった事が皮肉にも災いし、実用配備から僅か数年後のガミラス帝国戦の時にはさらなる次元の性能を誇るブラックタイガーの配備とともに退役していた。だが、地球連邦軍が未曽有の危機を迎えた白色彗星帝国戦役の際に、博物館行きが内定して倉庫で誇りを被っていた同機が引っ張りだされ、皮肉にも本土決戦に参陣している。モスボール保存されていた200機全てが前線に立ち、セイバーフィッシュ以上の生存率を以て、その秘めたポテンシャルを見せた。(以後は引退を撤退しての現役復帰措置が取られ、払い下げの旧・北京工廠を買い取ったアナハイムエレクトロニクスの子会社化した『ハービック社』が保守製造を担当)。探査団に回されたのは、その近代化改修型新造機であり、コスモタイガーの配備が追っつかないのに焦った連邦軍にハービック社が提案したプランで製造された機体だ。大気圏内で『重戦』相当の飛行特性を持つコスモタイガーに不満がある者はかなりおり、かつてのF-16に相当する『安価で運用的取り回しが良い』軽戦闘機ポジションを求める声が挙がった。そこで、F-XX計画が立ち上げられ、コスモパルサーに敗れたコスモファルコンが選定された。しかし実戦機としての洗い直し中であり、生産はまだ先であったため、それまでの繋ぎも兼ねてレイヴン・ソードの再生産が認可されたのである。ただし現在の主力であるコスモシリーズの規格に合わせる必要があるため、エンジン周りの形状が原型機と異なる。(具体的にはエンジンノズル形状がコスモゼロと同一になり、三発から単発になっている)
――彼らは旗艦の援護も兼ねて、メダルーザ級の側面を突いた。攻撃隊はコスモタイガーがあくまで主力であったが、対空兵装に劣る同艦に手傷を負わすには十分な数はおり、砲撃の妨害に貢献する。
『コスモタイガーが急降下爆撃を仕掛けてきます!』
『ええいうるさい小バエ共め!蹴散らせ!!』
地球連邦軍の戦闘機は基本的に人的資源の問題で単機能機を揃えるだけの余裕がないためにマルチロール機が主流である。そのために敵国の多くは『たかが戦闘機の爆装』と侮っては痛い目に遭うというのが通例であった。メダルーザ級の対空砲はわずか16基。いくら無砲身回転砲であろうと、機動性の増したコスモタイガーらに当てること叶わず、練習台代わりに装甲にどんどん傷を負わせられていく。(皮肉だが、これで地球連邦軍のミサイルの高威力化が促進される事になる)
『敵旗艦はドレッドノートタイプか!?』
『いえ、アンドロメダタイプであります!』
――白色彗星帝国にとって、取るに足らない艦艇のリストにはドレッドノート級主力戦艦(俗にいう主力戦艦)も含まれていた。これは衝撃砲で一発轟沈したからで、近接戦闘であれば遅れは取らないという戦訓が示していた。ただしアンドロメダ級には、遠距離射撃で蜂の巣にされかねず、彼ら最大の脅威はアンドロメダ級戦艦であるのが伺えた。
「ほう。意外にしぶといな」
「ハッ。白色彗星帝国製にしては頑丈ですな。航空隊のミサイルは効いとらんのか?」
「いえ、確かに直撃しとります」
「元々、こちらの硬化テクタイト板よりも向こうのこうが頑丈な素材ですからな。持ちこたえているのは無理かしらぬことです」
「うぅーむ。こりゃミサイルの高性能化を推進せんとなあ」
――白色彗星帝国製超合金は地球連邦製超合金の多くより頑丈で、白色彗星帝国戦役初期の頃にヤマト初代機関長の徳川彦左衛門がヤマトにあった如何なる形式(実体刃、レーザートーチなど問わず)のカッターでも装甲板すら斬れないと嘆いた通り、大抵の地球製超合金より上の性能を持っていた。それがメダルーザ級の耐久性に結びついていた。最も同型艦は20隻による集中砲火に長時間耐えたので、航空支援を受けながらも弱る様子を見せない敵に、探査団長は思わず唸る。これには艦載機隊も同義であった。レイヴン・ソード、ブラックタイガー、新コスモタイガーの三機種が入れ替わり立ち代り、対艦ミサイルをぶち込みまくっても全く堪えない。
「隊長、もう第三小隊はミサイルの残弾0です」
「ミサイルの残弾は?」
「各部隊共に、対艦ミサイルはあと一発だと」
「クソッ、今回はマジンガー並にタフネスだぞ。敵機が上がる様子は?」
「ありません」
「パルスレーザーで適当に撃ちまくれ。適宜、ミサイルの補給に帰還せよ」
「了解」
艦載機50機、戦艦30隻の猛攻に耐えるメダルーザ級。武装を破壊はされるが、主砲副砲は未だ健在であった。艦載機は撹乱を担当していたが、呆れるほどの抗堪性にうんざりしてきているのが通信でも分かる。しかも戦艦は波動カートリッジ弾を用いているというのに持ちこたえるというのは予想外であった。
「何発撃った?」
「本艦だけで40発は当てています」
「戦闘能力喪失でもいい。とにかく撃ちまくれ!」
――この戦闘中に届けられた反地球発見の報はレビル将軍のもとに届けられていた。彼はこの頃には良識派政治家などと共に地球連邦の改革案を構想していた。内容は『地球連邦を旧各国の連合体から、地球とその植民惑星で連邦を組む形態へ移行させる』ことで、地球の強権性を嫌うスペースコロニー出身者を納得させるのに腐心が成された改革案であった。(これは西暦2203年頃に改革法として議決され、地球連邦政府はその正式名称を『地球星間連邦政府』と改める。同時に銀河連邦内の強大な新興星間国家としての道を歩む事になる)
「地球星間連邦はどうかな?レビル。アースノイド共を納得させる名前に大分苦心させられたよ」
「アースノイドは地球こそが人類のシンボルとしている。確かに地球こそ人類の発祥の地だが、同時にシャア・アズナブルの言う通りに地球から巣立つべきなのも事実だ。フォン・ブラウンへの遷都はそれへの布石だよ」
二人は地球連邦政府を緩やかな形で新体制へ移行させる案を議論していた。銀河連邦からは『内戦中の国家など野蛮』との評もある地球連邦は『旧時代国家の集合体』から脱皮せんと、『地球と地球からの植民惑星との連邦制』に移行させようとしており、水面下でその準備が進められていた。だが、その事はまたもジオンや各スペースノイド国家残党の攻撃の口実に使われてしまう。
――大半のスペースノイドにとっては、宇宙大航海時代を迎えた以上は、ジオニズムにかつてほどの魅力を感じなく始めて来た。そのために地球連邦政府が体制の再編予定を公表しても、一年戦争時ほどの世論の二分は起きなかったという。だが、依然として内乱を招来してしまう事に連邦政府の良識派と主流派は頭を悩ませたという。
――探査団には時空管理局から招かれた形で、フェイト・T・ハラオウンがいた。ミッドチルダ動乱開戦から一年が経過し、20歳になろうかという頃であった。長年の鍛錬の成果で、儚げな印象を与えていた少女期の面影は薄くなっていた。頑健な引き締まった体、金髪をポニーテールで纏め、くせ毛が次第に強くなったために、幼少期と見違えるほどの差異があった。
「中尉、第二波の出撃指令が下されました。発進してください」
「了解だ。フェイト・T・ハラオウン、シュトゥルムフォーゲルU、出る!」
フェイトはVF-19Aにバージョンアップしたなのはと異なり、VF-22Sを引き続き愛用していた。ただし地味にカスタマイズ度が増しており、武器に日本刀が追加されている、師である黒江が属した経験のある飛行64戦隊と47戦隊のノーズアートが混合して描かれ、地球連邦軍の国籍マークも描かれているなどの特徴があった。ゼネラル・ギャラクシー系VFを子供時代より愛用しており、総合ポテンシャルで最高級を誇るVF-22を乗機にしていたが、彼女が戦果を上げ、『いっぱしの可変戦闘機乗り』に成長するに従って次第にノーズアートを増やしていった。19歳時に地球連邦軍の軍籍を中尉相当で処された後に追加されたのが、後部に描かれた稲妻である。これは彼女が機動六課でライトニング分隊を率いた事に由来する。
「今回は単独で敵艦にミサイルをぶちかまし、拿捕されたしか……ちょうど偵察飛行に飽きてきたところだ。腕鳴らしになる」
あまりの頑強さにメダルーザ級の撃沈を諦めた地球連邦軍は拿捕に目標を切り替え、フェイトが持ち込んだVF-22Sに任務を言い渡した。メダルーザ級の完成型の資料を欲した技術部からの要請でもあり、いたずらに弾を浪費するよりも拿捕したほうが費用対効果も高いからだ。フェイトはスロットルを引き、速度を早める。フロンティア船団当時より腕が向上した事を示すかのように、鋭い機動を見せた。特務こそが、この機体の真骨頂である。ヘッドアップディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイがミノフスキー粒子の軍事利用に伴って衰退したため、ヘッドアップディスプレイが有人機の主流に立ち戻っている)を始めとする計器類は機体速度を高いレベルで示し、レーダーが目標を補足する。瞬間的に新コスモタイガーをも凌ぐ速度を発揮したシュトゥルムフォーゲルはメダルーザ級に電光石火の一撃を浴びせる。
「ターゲットロック、行けぇ!!」
対空砲に向けてマイクロミサイルを乱射する。火力は低いが、対空砲を沈黙させるには十分だ。そして艦橋の目の前でバトロイドに変形し、バトロイドサイズの日本刀(バルディッシュと同じく、天羽々斬と名づけた)を突きつける。超合金ゴッドZとエネルギー転換装甲を組み合わせた刀が光る。
『投降しろ。既に貴艦以外の艦は撃沈している。貴艦とて栄光あるガトランティスの名が絶えるのは忍びなかろう?私がこの機体の腕を動かせば艦を一刀両断するのも容易だ』
フェイトはドスの効いた声で最後通告を言い渡す。声色を普段より低くしているのは、職務上、普段の声ではナメられてしまうからだ。この頃には手慣れたもので、絶妙な立ち位置で刀の切っ先を突きつけている。機体が刀を振るえば一瞬で艦に致命傷を与え得るのをアピールするかのように、示現流の構えを見せている。
『て、提督!』
『う、うぅーむ……捕虜の扱いは南極条約に則ってくれるんだろうな?』
白色彗星帝国艦隊提督はガトランティスの血を後世に残すという選択を取った。彼が『南極条約』と言ったのは、地球圏での不文律として存在しているのを知っていたからだ。白色彗星帝国は国家中枢こそ消滅したものの、国家の末端統治機構そのものはアンドロメダ銀河中心恒星系に設置されていたため、たまたま地球遠征に参加しなかった良識派の治安維持部隊によって存続していた。国家そのものは有名無実化が進み、実際は戦後処理と、地球連邦への賠償などの残務目的で存続しているに過ぎないが、残党軍は書類上は彼らの指揮に入っている。南極条約はいつしか形を変え、宇宙戦争のルールの規範として存在していたのだ。
『もちろんだ』
――こうして僚艦を失ったメダルーザ級2番艦『メダルージ』は投降し、地球連邦軍は白色彗星帝国残党軍の投降に纏わる処理を終え次第、本来の任務へ戻った。その翌日、レイヴン・ソード隊は副次目的である観測任務に駆り出された。宇宙図の作成や、近隣に惑星があるかの調査である。太陽系の中で地球から見て極西と言える方向にある反地球がなぜ存在が成立し、ハビタブルゾーンに存在し得たのか。22世紀後半に発見された、太陽の伴星『メネシス』の存在を考慮に入れても、なお謎が残る。
「なぜこうまで地球と同じ条件なんだろうか?」
「こういう惑星があるという考え自体は昔からあるしな。古代ギリシャの時代から『アンチクトン』などと言われて囁かれていたのは事実だ。近代の天文学の発展が反地球を『机上の空論』と化したかに思えた。だが、最近発見されて復元された東西冷戦下の二大国の極秘資料によれば、米ソの探査機のどれかが金星か水星か何かを調査したついでに太陽の近影を撮影したのが発見の起源とされている。偶然に撮影したそれは、そこにはあるべきものではなかった。それから10数年後、進歩したコンピュータ技術で解析してみると、その姿は地球そのものだった。当時の首脳らは混乱と地球人というアイデンティティを失うのを恐れ、封印した。その後に科学の発展で存在が実証されたんだが、統合戦争でご破算ってわけさ」
「全く……旧アメリカとロシアは世界大戦後は自分たちが世界の命運を握ると思ってやがったからな。総統閣下が最後に予言したっつー事はある意味で正解だったかもな」
――彼らは反地球の存在を認めずに封印した東西冷戦下で世界を動かしていた米露を詰ると同時に、旧ドイツのアドルフ・ヒトラーが予言したと囁かれていた『1990年頃の戦後秩序の崩壊』は1991年のソビエト連邦の終焉で実証された。そしてラストバタリオンはナチス残党で構成される歴代暗黒組織とその影響下の人々とする解釈を言い合う。これは歴代仮面ライダー達の存在により、アドルフ・ヒトラーの妄言は『現実にあることの予言』に姿を変えた事から、アドルフ・ヒトラーの実像について再検討が進められ、普及した解釈だ。アドルフ・ヒトラーは大戦終結数年前にはパーキンソン病を発症し、認知能力が顕著に低下し、往年の宰相としての冴えを完全に失った。何故、1930年代の頃は名宰相として名を残してもおかしくない冴えを見せていたヒトラーが40年代以降は急激に頑迷な老いた小男に堕ちたのか。それは当時の医療では不治の病である(パーキンソン病の根治法は宇宙時代の22世紀を待たねばならない)パーキンソン病と、更に認知症を併発し、彼の心身を急激に蝕んでいったからであった。彼は若き日から信仰してきた、バダン総統であるJUDOの意思代行を努められなくなったと判断したのは敗戦のおよそ数ヶ月前。極秘指令を発し、ラストバタリオン結成の下準備を初めさせ、ヒトラーが自殺した後はJUDO自身が公式に進めさせたそれらこそが歴代暗黒組織の大半の土壌となった。ヒトラーの予言はJUDOの薫陶を受けていたからこそ可能であったと言えるだろう。反地球は地球の秩序を崩壊させかねないと当時の首脳は考えたのだろうが、逆に言えば、人類の偉大な発見を自らの精神的安定などを目的に『無かったことにした』と後世に揶揄されかねない決定をしたとも言えた。
『文明レベルはどうだ?』
『降下してみよう。ミノフスキー粒子のおかげで奴さんの警戒網は無力化してある。念のため、高々度からの写真撮影に留めておこう』
彼らはほぼレーダーの探知範囲外の超高々度から写真撮影を行った。撮影位置は日本列島の関東地方。そこから得られた情報は一攫千金もので、地球連邦軍にとっては数世代前の宇宙戦艦(えいゆうに代表される、M-21741式宇宙戦艦)がドックに鎮座している様子などが確認された。MSなどの人型機動兵器も存在しない事から、『OTMが存在せず、なおかつ統合戦争もコロニー国家との対立も、ガミラス帝国の襲来も起きなかった』場合の進化を辿っていると結論された。護衛についているVF-22Sのフェイトは拍子抜けしたようだった。
『その程度だと、コイツと渡り合えそうな奴はいないな。緊張して損した』
『まあまあ。格闘戦になれば、その世代の戦闘機でも、ある程度の時間は渡り合える。注意は怠るなよ』
『了解』
――確かに速度性能や機動性、火力などを含めた総合ポテンシャルは連邦軍現有機が優れていると思われる(ちょうどガミラス帝国戦役初期における航空戦力差ほどである)が、格闘戦になるとパイロットの腕に左右される。それはガミラス帝国戦役初期の絶望的な戦力差においても、ベテランパイロットらは渡り合って見せた事例から証明されている。隊長はぶーたれたフェイトを諌め、調査を続けた。
『お、セイバーフィッシュか。懐かしいな』
『確かこっちだと一年戦争中に使われてた機体ですよね?』
『そうだ。一応、トリントンや南極とかの辺境だとまだコスモタイガーとかへの置換えが進んでないから現役だぞ。当時としては一級品だぞ、ゴブルやガトル程度なら圧倒してたんだから』
『初期の頃にMS相手に渡り合えた唯一無二の兵器だとか?』
『ああ。今はギアナで空軍主計局にいる俺の5歳上の兄貴が一年戦争の時に乗っててな。ザクを落としてみせたとか言ってたぞ。当時でもう36だったから、MSはジムしか乗らなかったけど』
――一年戦争中からMSに転科した戦闘機乗りは多い。戦闘初期に連邦軍がジオン相手にある程度渡り合ってみせたのは、セイバーフィッシュのおかげである。それも細部に差異があるものの、存在したというのは嬉しいらしい。妙な縁に感心しつつ、飛行を続けた。
――この後、反地球の軍隊の月駐留軍が探査団をようやく発見。スクランブル発進した。地球連邦軍は穏便に接触しようとしたが、軍隊を騙る宇宙海賊と誤解され、一悶着が起こった。向こうから問答無用で撃たれたが、ヤマト型以降の技術で造られた硬化テクタイト版と超合金の多重空間装甲には彼らの艦砲であるフェーザー光線砲は通じずに弾かれた。撃たれつつも侵略者ではないとの弁明に必死になる連邦軍だが、反地球側は恐怖心から攻撃を強めた。双方が停戦したのは反地球側の艦載機が発進しようとした瞬間であったという
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