短編『宮藤芳佳と鉄の神』
(ドラえもん×多重クロス)
――さて、1946年の春頃。宮藤芳佳は坂本美緒や三羽烏の勧めもあって、欧州留学を決意。ハルトマンの手引もあり、改装前の最後のご奉公として、空母天城が芳佳を欧州まで運ぶ手はずとなったが、そうは問屋が卸さないかのように、空母天城を撃沈しようとティターンズ海軍の潜水艦やMSなどが追尾していた。
――ティターンズ海軍 ロングアイランド級潜水艦(ユーコンの基になった攻撃型潜水艦の攻撃型としての改良型)
「艦長、空母天城が出港しました」
「行き先は?」
「ハッ、欧州に向かうそうです」
「ふむ。僚艦に打電。追尾を怠るなと。この時代のソナーでは我々は補足できんからな」
ティターンズは潜水艦による索敵網を敷いていた。同時代の装備を備える連邦軍はともかく、連合軍には補足すら不可能であり、彼らは連合軍の軍艦の動きを逐一報告していた。中には旧ジオン製水陸両用MSを積んだものもおり、通商破壊戦に威力を発揮した。天城の後を追う彼らが攻撃に移ったのは、丁度南洋島を過ぎ、喜望峰ルートを取ろうとした日であった。
――天城
見張りに立っていた兵士は一気に青ざめる。天城に魚雷が向かっているからだ。艦長にすぐに報告され、回頭して回避しようとする。だが、その魚雷は艦の回避する方向に進路を変えたのだ。一瞬で艦橋は大パニックになる。
「ダメです!魚雷、こちらを追ってきます!!」
「噂の音響追尾魚雷か!?撃ち落とせ!!」
「ダメです!本艦の装備では魚雷のスピードに対応できません!!命中します!!」
それは23世紀で採用されている魚雷であった。旧式空母の水中防御ではもちろん耐えられない。天城はバルジを破壊され、浸水に襲われる。二発であったが、空母には致命傷にもなり得る。船体が傾斜し、誰もがダメージ・コントロールに必死になる。大して護衛艦を引き連れていなかったのが扶桑海軍の判断ミスであった。ロマーニャで大破し、ようやく修理された直後にこれでは、艦長の首が飛びかねない。
「左舷バルジが破壊され、浸水が生じています!!」
「ダメージ・コントロール急げ!!本艦はこんなところで沈むわけにはいかんのだ!!!」
天城は行き脚がグンと落ちる。芳佳と静夏が慌てて外が見える場所に行くと、船が傾いていた。浸水を止めるために要員が右往左往するのを目にした芳佳は元来の性質から見過ごせず、復旧作業に加わった。だが、浸水との戦いは苦闘であった。
「か、角材が簡単にへし折れた……!?」
静夏はダメージを受けた軍艦が遭遇する浸水を目の当たりにし、思わずへたり込んでしまった。角材がマッチ棒のようにへし折れ、鋼鉄がベニヤ板のようにしなる。隔壁を閉め、破孔を塞ごうと芳佳は周りの兵士とともに、必死に板を打ち付ける。外では決死隊が必死に破孔をどうにかしようと応急処置を行う。
「ぐぬぬ……ダメ……水が押し出そうとする力のほうが……」
芳佳は魔力を発動させて必死に板を抑えつける。だが、その状態を以ても水圧には抗いきれないようで、腕が震え、体の安定が崩れそうになる。鉄板が水圧でしなるのを抑えきれないのだ。静夏はそんな芳佳の姿に、自らを奮い立たせ、芳佳を支える。
「静夏ちゃん!」
「宮藤中尉は私が支えます!皆さんは速く処置を!」
「わ、分かった!」
芳佳の支える場所に、何重にも鉄板を打ち付け、穴の開いた隔壁をとりあえず補強する。同時に水が流れ込む音が小さくなる。外の応急処置に成功したのだ。
「……はぁ〜〜、よ、よかった……」
二人はその場にへたり込む。兵士達が歓声を上げ、二人を胴上げする。なんとも嬉しい事である。静夏との関係を深められたことと、皆を守れたことに安堵した。
――こちらは欧州。バルクホルンとハルトマンはあるスーパーロボットと遭遇していた。それは。
『ルストストリーム!!』
暴風が吹き荒れ、ネウロイを分解する。二人はこの攻撃に見覚えがあった。昨年に自分達を救ってくれたスーパーロボット『グレートマジンガー』のグレートタイフーンだ。だが、グレートタイフーンは単なる暴風で、分解作用は持っていない。そして声には二人共、聞き覚えがあった。剣鉄也でないマジンガーのパイロットと言えば、マジンカイザーのパイロットであり、かつてのマジンガーZの操縦者であった『兜甲児』である。だが、マジンカイザーとは異なる武器名を叫んでいる。怪訝そうに上空を見上げた二人の目に写ったのは、グレートマジンガーやマジンカイザーとは違う魔神であった。
『お、何だ。バルクホルンちゃんにエーリカちゃんじゃねーか』
「やはりお前か、兜。そのマジンガーは何だ?新型か?」
「ああ、こいつはゴッドマジンガー。グレートマジンガーの後継機さ」
それは嘘ではない。開発系譜としては、Z→グレート→ゴッドである。兜剣造曰く、ゴッドマジンガーこそがマジンガーの目指すべき場所であり、完成形である。マジンカイザーがゴッドマジンガーに酷似した姿を持ったのは、運命なのだ。違うのは放熱板と翼の形状とエンブレムの位置くらいだ。
「それじゃ完成したんだね?例のあれが!」
『そうだ。やっとできたこいつがゴッドマジンガー!!鉄の神さ!』
鉄の神という諢名を持つ魔神。実戦テスト第二段階を兼ねて投入されたのだが、テストは良好なようだ。これまでのマジンガーと異なり、反陽子エネルギー炉を動力源としている分、データ集計の必要があるのだろうとハルトマンは感くぐった。
「兜、私達の基地には全高30mのマシンを受け入れられるかどうかわからんぞ?ミーナに取り合わせてみるが……」
『まっ、いざとなったら露天駐機するさ』
大笑する甲児だが、バルクホルンとしてはマジンガーを夜露に晒すわけにはいかないので、ミーナに急いで連絡を取り、設営隊をフル動員で臨時の格納庫を数時間で用意させた。そこにゴッドを格納するように伝え、基地へ帰還した。途中、バルクホルンが何故、甲児がこの世界にいるのかと問う。すると、驚きの返答が帰ってきた。
『いやあ、エーリカちゃんの家に泊まり込んでたんだよ。綾香さん達はこっちのほうに自宅移してたし、ツテがなかったんだ』
「……」
「おーい、トゥルーデ?おーい〜〜。あ、こりゃダメだよ、完全に考えるのやめてるよ」
あまりの衝撃に茫然自失となって、上の空のバルクホルン。ハルトマンが自宅に招くほどの仲というのに、変に想像力があったらしい。ハルトマンと甲児は顔を見合わせ、ため息をついた。
――その後も芳佳は困難を乗り越えつつ、欧州へ到着。ペリーヌやリーネと再会した。二人との対話で芳佳のことを少しづつ理解していった静夏だが、元々が武士・軍人の家系であり、自らも職業軍人である故に、現場の叩き上げである芳佳とは心の壁がどうしても存在し、関係を踏み出せずにいた。そして、ペリーヌやリーネと別れ、留学先の医学校に向かおうとした時だった。とある町をネウロイが急襲したのだ。芳佳と静夏は奮戦するも、数に押され、芳佳は撃墜したネウロイの破片が直撃し、重傷を負い、墜落。静夏は怒りに任せ、撃ちまくるが、やがて弾切れを起こす。助けを呼ぶために、通信がクリアになる上空まで飛ぶ。ティターンズが各地にミノフスキー粒子をばら撒いていた影響と、ネウロイが散布するチャフにより、通信を妨害されるのに気付いた静夏はとにかくミノフスキー粒子の濃度が下がり、チャフの影響を受けないであろう高度12000mまで上昇を続けた。そして叫び続ける。
『誰か!!宮藤中尉を助けてぇ!!』
――服部静夏の悲痛な叫びに、ミーナたちはすぐに反応した。
「ミヤフジが危ないよ、トゥルーデ!」
「分かっている!!」
既にパンツァーファウストまでを背中に抱え、準備万端のバルクホルン。こういう時は率先して準備するあたり、芳佳に入れ込んでいるのが窺える。そして、甲児も動く。
「どうするのコウジ!」
「先に行ってるぜ!」
甲児は臨時で設営された格納庫に停めていたゴッドファルコンを起動させた。反陽子エンジンの吹き上がりは良好。滑走路を一気に駆け抜け、離陸する。
『マジーンゴー!』
そして、地下からゴッドマジンガーが迫り出、ドッキングする。ゴッドマジンガーは兜甲児用に設計されたマジンガーであるが、系統的にはグレートマジンガーの系譜に属する。武器はグレートマジンガーとマジンカイザー、それとゲッターロボGの影響が垣間見えるもので、反陽子エンジンの膨大なパワーにより、基礎スペックはマジンカイザーに匹敵する。放熱板周りの形状は独自のもので、Zのエンブレムが放熱板の上にある。グレートマジンガーの発展型であることを示すように、パイルダーに当たる『ゴッドファルコン』のアビオニクスのレイアウトなどはグレートマジンガーに準じる。
『スクランブルダァッシュ!!』
カイザーのカイザースクランダーに似通った形状の翼が展開され、発進する。それは新たな魔神の咆哮であった。続いて、集結した501の人員が次々と発進していく。
「あれがスーパーロボット……未来世界での希望の象徴……」
この時、501と行動を共にしていたハイデマリー・W・シュナウファー少佐がゴッドマジンガーの雄姿に思わず声を出す。(彼女はカールスラント最強のナイトウィッチであったが、ここ最近はミノフスキー粒子のせいで索敵魔法の精度が低下した故にスコアは伸びていない。彼女はどことなく儚げな雰囲気を持つ美少女である。幼いころに度々、魔法の暴走から視力に障害を負い、眼鏡を使っている。)この時に初めて、未来世界で崇拝の対象にすらなっているスーパーロボットを目の当たりにしたわけだが、どことなく神々しさを感じたらしい。ミーナたちとは任地であったベルギカ(ベルギー)からの縁であり、この隊列に加わったのだ。(後に正式に501へ招かれるが)
「一機で戦局を支配できるなんて、とても信じられませんよ、ミーナ中佐」
「ええ。私達もあなたと同じ思いだったわ。でも、力を目の当たりにしたら信じたくもなるものよ。彼らを」
ミーナは真ゲッターのストナーサンシャインを目の当たりにしてから、スーパーロボットの持つ神秘性や圧倒的な力を知りたがっていた。ミッドチルダ動乱での活躍は心踊るほどに清々しいものだったが、スペックだけでなく、搭乗者の強き心もその力の根源にある事を実感し、彼らを信頼するようになったのだ。リーネとペリーヌも仕事先から直接参加し、501のメンバーの多くが集まりつつある。先ほどの悲痛な叫びは他の部隊にも届いているはずだ。
「頼んだよ、コウジ……」
ハルトマンが一言つぶやき、一足早く戦場へ向かうゴッドを見送る。それはハルトマンが抱く思いを垣間見せるものだった。
――この時、ミーナはエーリカが剣鉄也に淡い好意を抱いている事も察している。エーリカ自身が鉄也の事情を察しているために、あるところまでしか進展しないであろうが、あのエーリカをして、好意を抱かせるほどに友情に熱い者が多い。兜甲児もそうだ。友人の危機にどんな時にも駆けつけ、いの一番に戦場へ向かう。彼らの行為が味方を鼓舞し、ロマーニャやミッドチルダの戦況の好転に繋がった。ゴッドの背中はなんとも言えない高揚感すら感じさせる。ミーナは自分が子供らに与えていた『モノ』を、彼らから受け取っている感覚を覚えつつ、皆を率いて戦場へ向かった。
――戦場では。
「もう…駄目だ……」
とうとうネウロイに取り囲まれ、死を覚悟する静夏。自分の無力さを呪う。地面の下で戦う芳佳は弾無し、刀折れ矢尽きるという満身創痍の状態で、片膝をついて意識朦朧の状態である。今、芳佳を支えてるのは父親の言葉と、皆との約束。それが芳佳を戦わせていた。しかし、さしもの彼女も疲労と負傷から来る激痛と意識の混濁には勝てず、遂に倒れ伏してしまう。芳佳を狙い打たんとするネウロイの一群。静夏も同様にビームが放たれんとチャージが開始された。思わず目を瞑り、自らを今一度呪う。
(ごめんなさい宮藤中尉……私は何も守れなかった……何もッ……!!)
心の中で芳佳に許しを請う。絶望感に苛まれされようとする静夏。だが、その瞬間。『声』が響いた。それはとても雄々しく、同時に暖かさを感じさせるような、そんな声だった。
『ゴッドサンダー!!』
晴天だった空が突如として曇天になり、雷が周りのネウロイを消滅させる。
――偶然だろうか。いや、今の雷槌は明らかに『誘導』されてネウロイに命中してる。いったい……。
静夏は思わず曇天の雲が晴れた中心部に注目してしまう。そこにいたのは、言うならば『鉄の神』だった。雷鳴が轟き、まるでそれを操っているかのような神々しさがそれにはあった。静夏の前に現れしゴッドマジンガー。話にしか聞いたことのないスーパーロボットの姿に、彼女は息を呑む……。
――地上では、芳佳に異変が起こっていた。芳佳は皆の声に導かれるように、体を懸命に動かそうとする。だが、動かない。芳佳の体は地面にたたきつけられた時に重傷を負い、骨が折れているのだ。だが、芳佳の胸は確かに熱くなっていた。そして、消耗していたはずの魔力が一気に光となって芳佳の体から放出されたのだ。
「こ、これは……!?」
芳佳自身にも分からない現象であった。負傷は瞬く間に治癒し、魔力は溢れんばかりに魔法陣を描いている。ただ、みんなの声が自分に力をくれたことは漠然と理解できた。そして、芳佳の前に一機の戦闘機が姿を見せる。それは艦上戦闘機『烈風』であった。操縦者は坂本だ。
『受け取れぇ!』
烈風の翼に携行されている輸送ポッドが芳佳のもとに届けられる。その中に入っていたのは、兼ねてより採算度外視で試作されていた、扶桑軍独自の第二世代ジェットストライカー『震電改二』であった。宮藤芳佳の使用を想定し、当時最高性能のJ79エンジンを試験的に二機搭載し、ダブルデルタ翼を持つ機体であった。
「こ、これはジェット!?橘花じゃない……新型?」
「そうだ。お前の親御さんが送ってきた手紙の理論を基に開発された最新鋭のモノだ!」
「お父さんの……!」
芳佳は本能に突き動かされるように、直にそれを『履く』。
「発進!」
辺りにジェットエンジン特有の轟音が響き、飛び立った。それは宮藤一郎博士が娘に最期に残した遺産が生み出した扶桑軍の夢の結晶。芳佳が得た、第三の翼はここに産声を挙げたのであった。
「ミヤフジ、これを使え」
「ハルトマンさん、日本刀を用意してくれたんですか?」
「うんにゃ、正確にはトゥルーデさ。ミヤフジのためにって、わざわざ取り寄せておいたんだよ〜。ね、トゥルーデ」
「あ、ありがとうございます、バルクホルンさん!」
「いや、その……お、お前の役に立つと思ってな。お前は『守りたい』んだろう?」
「は、はい!」
バルクホルンから日本刀と銃を受け取り、芳佳は戦闘を開始する。
――漁夫の利でも得るつもりか、ラムズコック、アクアジム、水中型ガンダムが陸に上がってくる。坂本とエイラ、サーニャを運んできた空母『葛城』を追尾してきていたらしい
「やれやれ。漁夫の利を狙ってきたらしいが、まさに陸に上がった河童だな」
『ああ。ああいう手合は俺が引き受けるぜ』
ゴッドマジンガーがMSとの戦闘を引き受ける。坂本は潜水夫のような風体のアクアジムへの感想を『河童』に例えた。一年戦争中の旧型であるが(水陸両用機のジャンルそのものが廃れているので)、そこそこの数がいるので、ゴッドマジンガーが相手を引き受けた。
『ゴッドブレード!』
甲児はZ搭乗時より肉弾戦派である。剣を使うのは珍しかった。が、今回は実戦テスト第二段階も兼ねているので、使用した。ゴッドマジンガーが両手にエネルギーを集束させ、右腕を天空に向けて掲げる。すると空中にカイザーブレードとは柄のデザインが異なる大剣が召喚され、それがゴッドの右手に収まる。超合金GZ(ゴッドZ)製の剣であるので、威力は推して知るべしである。
『来やがれ!ゴッドブレードに断てぬ物無しだ!』
剣を構えるゴッド。全長30m(グレンダイザーと同等)の巨体が唸りを上げて突進する。ラムズコックがクローを突き立てようとするより速く、ゴッドは剣を振るう。ラムズコックは胴体を横からまっ二つにされ、爆発する。
「す、凄い……!」
静夏はゴッドの姿に思わず見とれる。未来世界の戦争の光景を垣間見ながらも、ゴッドの姿がヒロイックに思えたからだ。
『ん!敵の戦闘機が来るぞ!!』
甲児から注意が発しられる。飛来したのはF4UコルセアとF6F-5ヘルキャットである。烈風の仮想敵機とされていたモノ達だ。烈風の戦闘力では遅れをとるだろうと一般には称される名機群だ。だが、それはあくまで『追い詰められた大日本帝国』での話。工作精度、使われる燃料や弾薬の品質が遥かに上である扶桑皇国製のそれは機体基礎スペックの時点でそれらに対抗できる水準なのだ。
「各機はネウロイと交戦しつつ、敵機の排除を!MSは甲児さんに任せます!」
『了解!』
――静夏の叫びに動いたのは、501の構成人員経験者のほぼ全員であった。赤ズボン隊が動く中、それに護衛として随行する一機のエステバリスがあった。スバル・リョーコが駆る機体だ。
『頼むぜリョーコ』
『おう。でもよ、あんたがいきゃいいのによ、どうしても抜けらんねーのか?』
『私はデスクワークも多くなってきちまったし、その処理がおわんねーんだ。ちくしょー!』
飛行64戦隊はこの頃、地球連邦軍の宇宙空母で研修中であった。黒江は部隊の事実上の取りまとめ役として大忙し。デスクワークの処理に追われ、とても出撃どころでは無くなっていた。なので、代表して圭子を行かせ、その僚機をリョーコに頼んだのだ。
『悪いわね黒江ちゃん、行かせてもらうわよ♪』
『いいよなお前は。非番でよ』
『拗ねない拗ねない。あとでお菓子とか買ってくるから、ね?』
圭子は年齢的にアラサーに差し掛かっている(肉体は若返ったが)ので、どことなくお姉さん系な振る舞いをするようになっている。黒江をちゃんづけで呼んでいるのは、年齢が3、4歳離れていたからという、若き日の習慣の名残である。
『わかったよ。上等なの買ってこいよ!』
黒江にしては珍しく、子供っぽい発言である。デスクワークがよほど腹に据えかねているようだ。
『はいはい。んじゃ行くとするか!』
赤ズボン隊の後に続く形で圭子とリョーコが発進していった。
――この時にリョーコが使っていたエステバリスは量産型である『エステバリスU』のカスタム仕様である。主に行動可能距離を延伸するためのカスタマイズが施され、小型化された外装式の追加バッテリーをスラスター周りに装備されている。装甲形状が変わっているので、判別は容易だ。西暦2201年の動乱後に軍に制式採用されたエステバリスだが、母艦のサポートが前提である事や、行動可能範囲が狭いという難点が指摘され、生産台数は伸び悩んでいた。そこでバッテリーを外装式で追加装備し、母艦から遠い戦場でも数時間の戦闘行動を可能にした仕様が試験的に生産された。これは割と好評であったようで、以後はこの仕様が隊長機仕様として生産されていく事になる。この後に取り付け位置が洗いなおしされていき、正式型に至る。
――戦場では、ゴッドマジンガーの援護のもと、芳佳達が奮戦していた。
『食らえ!!ルストストリーム!』
ゴッドマジンガーの武器の破壊力はマジンカイザークラスの『破壊的』なものである。超暴風(しかも強酸付き)が吹き荒れ、地面ごとMSを塵へ帰していく。ネウロイも外殻を一瞬で剥ぎ取られ、コアを晒す。そこを突く形で芳佳達は撃墜スコアを伸ばしていく。そして、坂本も戦闘機で敵に立ち向かった。
「烈風、見せてみろ!!お前の持つ力を!!」
この時に坂本が操っていたのは、武装強化がなされた地球連邦製の機体で、30ミリ砲を搭載するモデルである。当然ながら、F6FやF4Uの重防御でも貫通する威力を持つので、当たれば一撃必殺である。問題は当てることができるのか。坂本は戦闘機同士の空戦は始めてである。Gに体は鳴らしたつもりだが、ジェット機のように高度なG低減テクノロジーがない故、体にかかる負荷は大きい。それでも対Gスーツが実用化され、数年前よりは遥かに楽にはなったが。坂本は単機である故に、敵機に殴りこんで編隊を乱した後に攻撃する手法を選んだ。これはマルセイユも選ぶ手法で、危険性が大きい故に余程の手練でなければ出来ない。だが、ウィッチとして経験を積んできた(引退はしたが)坂本はできる。時速720キロの高速と重武装を兼ね備える連邦製烈風の高性能もあり、坂本は暴れてみせた。
「そこだ!」
坂本は光像式照準器の中央にF4Uを捉え、操縦桿につく機銃発射トリガー(扶桑海軍で普及していた、スロットルレバーにトリガーがつく方式はエンジン操作が繊細なジェット機の登場と同時に取りやめられ、この方式で落ち着いた)を引く。30ミリ砲弾がF4Uを撃ち抜き、墜落させる。坂本はできればウィッチとして戦いたい気持ちに駆られるが、自分でこの道を選んだのだ。後悔はない。ウィッチでなくなろうとも『戦う』術はある。そのために飛行機の操縦技能を得たのだ。
「少佐、大丈夫ですの!?」
「なあに、心配するなペリーヌ。こう見えてもきっちり訓練は積んできている。それに、たとえウィッチでなくなろうとも、私はこのような輩に遅れはとらんさ」
心配するペリーヌにそう言いながら、操縦席からサムズアップしてみせる。坂本は烈風を突っ込ませるが、航続距離は零式より短め(燃費の都合もあり、史実よりは長めの2100キロ前後であるが)であるゆえに、ペリーヌはどうも心配なようだ。もっとも、長距離行である彼女らは旧来のレシプロストライカーを使用している故、欧州勢はそろそろ息切れが見える機体も出てくる。
『みんな、近くに連邦軍の空母がいる。燃料が少なくなったりしてるのは空母で補給と整備を済ませてくれ!連邦軍の援護ももうじき来るはずだ』
『わかったわ。各機、燃料が少なくなってきた者は付近にいる連邦軍の空母で補給を!座標は……』
甲児の提言をミーナは即、採用する。同時に連邦軍より誘導信号も出される。これは戦闘中には危険に繋がるが、マリアナ沖海戦の戦訓を鑑み見た結果のものだ。連邦軍の空母は宇宙空母という利点があるので、戦場の中継地点としての役目も可能だ。奇しくも、扶桑が大鳳で一時期に検討した運用法を地球連邦軍の宇宙空母が理想的な形で実現したことになる。
『芳佳ちゃん、俺が援護する。コアが見えたら斬るんだ。いいね?』
『はい!』
『よし、トルネードクラッシャーパーンチ!!』
ゴッドの右腕がターボスマッシャーパンチと同等の回転をしながら発射される。大型のネウロイはその圧倒的な貫通力の前に、外殻を容易く貫かれながらコアを露出させる。そこを芳佳は坂本、黒江の両名から伝授されていた『秘剣・雲鷹』を以てして突いた。バルクホルンが気を利かせて、日本刀を用意しておいたのが功を奏したのだ。
『秘剣!雲鷹ぉぉぉッ!!』
コア部をマッハ1の速度で突き、見事にネウロイを打ち倒す。だが、これで戦いが終わるわけではない。ネウロイの母艦が姿を見せ、更に子機を展開する。しかもその数は雲霞の如く。静夏はその数に思わず怯んでしまう。
「まだ来るの!?しかもこんなに……!?」
「狼狽えるな服部。ここで怯めば敵の思う壺だぞ」
「し、しかし教官!」
「数は多いが、倒せん数ではない」
「そうだよ静夏ちゃん。甲児さん達はこれより凄い数の敵と戦って来たんだよ?これくらいで負けていられないよ!」
芳佳は震電改二という新たな力を得、意気軒昂である。日本刀と銃を使い分ける辺り、黒江と竹井の影響が垣間見える。そして物量に屈する事が無くなったあたりは剣鉄也らに影響されたところもある。
「その意気だよ、ミヤフジ。んじゃ、そろそろあれでも使うか!」
ハルトマンはストライカーの燃料補給と整備のの間を惜しんだらしく、ストライカーを投棄し、その代わりに待機状態のISを展開した。これにミーナは苦笑いし、バルクホルンは怒る。ISがあるとは言え、ストライカーをポイポイと投棄するというのはもったいないからだ。
「ハ、ハルトマン!!お前というやつは……。ストライカーは高いんだぞ!」
「でもさ、ストライカーの連続使用は魔力も体力も消費するんだよ?カールスラントのは行動可能時間短めだし、時間もったいないよ」
「う〜む……。すまんミーナ、私もハルトマンに付き合うぞ!」
「わかったわ。存分にやって頂戴」
「恩に着る!来い、バンシィ・コメート!!」
バルクホルンもハルトマンに付き合って、ISを展開する。バルクホルンのそれは連邦軍の間で『ユニコーンガンダム二号機にそっくり』と評判であり、正式名は『コメート』ながら、愛称として『バンシィ』の名が定着してしまった。件のバンシィの映像を見たバルクホルンも納得し、この時点では愛機を『バンシィ』と呼んでいる。
「宮藤、射線から離れろ!ビームマグナムを使う!」
「は、はい!」
バルクホルンはさっそく、ビームマグナムを撃つ。ビームマグナムの取り回しの悪さには閉口しているバルクホルンだが、一発あたりの威力の高さには納得で、MSであろうと一撃必殺の威力でネウロイを薙ぎ払う。
「威力はともかく、一発でカートリッジを消費するのはなんとかならんのか?燃費が悪すぎる」
「しょーがないよ。一発の威力を重視して造られたのがそれなんだから。とりあえず雑魚を片付けるよ!」
ハルトマンはビームガトリングを使用し、雑魚の小型を追い散らす。未来装備を使用するのはいささか反則に思えるが、使わない手は無い。レシプロストライカーでは反動を吸収できない装備を、ISであれば扱えるからだ。シャーリーもこの頃にはISを得ていたが、P-51は航続距離に余裕があるため、普通に燃料補給に向かう。坂本の直掩はペリーヌと芳佳が担当していたが、太陽を背にして一機のF4Uが突っ込んできた。
「少佐!」
「坂本さん!」
ペリーヌと芳佳が射撃を行うが、F4Uは多少の被弾は物ともしない。そして機銃の射程に入ろうかという瞬間、横合いからのレールカノンの射撃で爆散する。圭子とリョーコが到着したのだ。
「援護に来たわよ、芳佳!」
「ケイさん!」
『騎兵隊の到着だぜ!坂本少佐は補給に行きな赤ズボン隊も直に着く!』
『恩に着る!』
「ミーナ中佐も補給を。そろそろBf109Kでは燃料が少なくなっているかと?」
「そうですね、加東中佐。補給の間、指揮を頼みます」
「了解です」
ミーナは空母に補給に行き、その間の指揮は圭子が担当する事になった。圭子は赤ズボン隊も含めた部隊を指揮しつつ、自らもIS(試作10号機)で戦果を上げる。
「さて、こいつのテストだ!」
90ミリカノン砲という、ISの風体には不釣り合いな巨砲が手持ちの折りたたみ式で展開される。明らかにどこぞのロボットアニメの影響が見え隠れする武器だが、元々狙撃担当でもあった圭子にはうってつけの武器である。発砲する。反動は強いが、威力は折り紙つき。ネウロイを衝撃波で蹴散らしつつ、母艦に直撃する。
「うわぁ〜すごいですケイさん!」
「伊達に若いころにスナイプしてないわよ、芳佳。連射は効かないけど、威力はばっちりよ」
この頃には芳佳も圭子の事を『ケイさん』と呼ぶようになっていた。智子と黒江のお目付け役として、宮藤家に出入りするようになったからである。若返って最盛期の能力を取り戻したのが影響したのか、若き日のやんちゃな面が出るようになっていた。そのためにアフリカでの指揮官としての姿とは、多少のギャップが有る。
「あれがアフリカでハンナ・マルセイユを含めた部隊を纏めてる人?なんかちょっとイメージと違うわね」
「フェルさんも来たんですね」
「あたしらは天下の赤ズボン隊よ?何処にでも駆けつけるわよ〜」
旧504の人員はほぼ新・501に編入されているが、赤ズボン隊は元々が王家の直掩部隊である都合上、ロマーニャの戦乱が収まったあとは遊撃小隊として活動していた。だが、友人の危機には駆けつけるということで駆けつけたらしい。圭子のやんちゃな面には面食らいつつも、芳佳の救援に駆けつけたのが窺えた。
『テメーらのきやがれ!ゴッドサンダー!!』
MSにゴッドサンダーが炸裂し、MSを破壊する。だが、一機だけ直撃を避けた機体がなおもゴッドを狙う。陸上型のジム・ストライカーである。赤ズボン隊の支援攻撃をウェアラブルアーマーで凌ぎ、ゴッドにツインビームスピアを突き立て、甲児はゴッドブレードで応戦する。ここからは剣風と槍風が吹き荒れた。風が吹き荒れるたびに、地面が抉られ、暴風が引き荒れる。
「す、凄い……。これが人型兵器の威力……」
大きさはまちまちだが、槍と剣がぶつかり合い、暴風が吹き荒れる。ネウロイなど意にも介さない戦いである。むしろ、運悪く剣風に巻き込まれたネウロイが分解され、消滅する様はスーパーロボットの力をハイデマリーや静夏に理解させる一助となった。そして、雑魚はリョーコがエステバリスのディストーションアタックで突撃して消滅させ、圭子、バルクホルン、ハルトマンの援護射撃で数を一気に蹴散らす。こういう時は未来兵器の面目躍如である。
『おおりゃあ!!』
リョーコのエステバリスの右手をナックルガードが覆い、機体周囲にディストーションフィールドが展開される。音速を超えた速さで突撃し、雑魚を一気に消滅させる。それに気づいた雑魚の敵機はネウロイも戦闘機も関係なく、三人が援護射撃で消滅させる。エステバリスはフィールドを破られた場合は『耐弾性は低い』部位に入る。それを知っているからだ。
『よし、雑魚はあらかた落とした!本命を落とすぜ!潜水艦は捕捉できたか?』
「今、ドン・エスカルゴ隊から打電があって、捕捉して攻撃態勢に入るそうよ」
「撃沈出来りゃいいが、MSいりゃ不味いぞ?まっ、撤退に追い込めばいい方だな」
リョーコは対潜哨戒機を当てにしていない口ぶりだが、23世紀初頭時点の対潜戦闘は水陸両用MSの登場でハンターキラー部隊が不利な立場に置かれてしまっている。対潜哨戒艦隊がまるごと返り討ちにされた事も多い。ドン・エスカルゴはミノフスキー粒子下でも対潜哨戒能力は低下しておらず、優秀性をそのまま維持できた。しかしビーム兵器を持つ水陸両用MSがいれば、その能力を活かせない。リョーコがあまり当てにしない理由はここにあった。数分して、『直掩の水中型ガンダムに落とされた機体も出たが、魚雷を当てた』と報告が圭子のもとに入った。リョーコは予測通りになった事に「やっぱりか」と前置きした上で、こう言った。
「やっぱりか。まぁ、魚雷一発で撃沈されるほどマッドアングラーやユーコンは脆弱じゃねーし、撤退に追い込めただけでも良しとするか」と。相変わらず雲霞の如く小型ネウロイは出現しつづけるが、その速度が次第に低下する。母艦型そのものにダメージを与えたことで、生産と再生を両立しきれなくなってきたのだ。
「少佐、母艦型の生産速度が下がった!もう一回、さっきのカノン砲で攻撃してくれ!」
「了解だ!」
バルクホルンの要請で、圭子は再度、カノン砲による射撃を行う。今回の弾種はAPFSDSだ。もっとも強固な箇所を貫通させる為のセレクトである。圭子のスナイパーとしての能力は扶桑全体を見回しても指折りである。弾頭は狙い通りにネウロイの中央部を貫通し、大穴が開く。同時に悲鳴とも受け止められる咆哮が響き、一時的に小型ネウロイの製造が止まる。
「さて、甲児君の方はっと……。」
甲児の方に目をやると、最終的にジムストライカーを撤退に追いやったらしく、付近にツイン・ビーム・スピアが突き刺さっている。ゴッドマジンガー相手に互角に渡り合ったあたり、ジムストライカーの基礎ポテンシャルの高さを窺せた。
「大丈夫?」
『かなり苦戦したぜ。かなりの手練だった。俺は鉄也さんのように剣戟にゃ慣れてねーから』
「あなたは肉弾戦派だからね」
『今度、健一のところに行って教わってこようかな?』
「ああ、ボルテスVの?」
『そそ。正確にはその弟の大二郎だけど』
甲児はZの頃から肉弾戦を得意とした。剣戟はどちらかと言うと、『素人』の部位に入る。ジムストライカーとの戦闘で、剣の腕を磨く必要性を感じたようだ。
――連邦軍戦闘空母「瑞鶴」
「ミーナ中佐、火器はどれにしますか?」
補給のために連邦軍空母に着艦したミーナは機体の整備にかかる時間の間、携行する火器を選定していた。連邦軍の空母に用意されていたのは、『後世』で採用されている軽機関銃であった。
「M249、M60などを取り揃えてますが……」
「そうね。M249にするわ。銃身交換が楽だもの」
「最終生産型なんで、砂づまりにも対応していますからご安心を。弾倉をいくつ持っていきますか?」
「4つもあればいいわ。銃身も2つほどで」
「分かりました」
ミーナに手渡されたのは、空挺部隊用に軽量化が施された派生型の最終生産ロットであった。同時に高オクタン値(120オクタン)燃料を補給され、機体は規定以上の速度を発揮。部隊に合流した。ミーナは母国の規定よりも高数値の(帝政カールスラントは93オクタン前後が航空燃料である)な燃料を入れただけでスペックに差が生じるのを実感し、燃料事情の差を思わず嘆いた。
「120オクタンだと、規定より速度が数十キロは速まるのね。反則だわ、これは」
途中、試射も兼ねて数機のネウロイを屠る。120オクタン値の燃料を入れた結果、時速700キロを突破する速力を発揮する愛機へ思わずそう漏らす。規定燃料以上の高オクタン値燃料で性能が上がるのはレシプロ機ならばの技だが、如何に自国が燃料事情に苦慮しているかも自覚させてしまうので、諸刃の剣である。
「シャーリーさん。貴方のP-51が如何に凄いか分かったわ」
「まぁ、マーリンエンジンと最良の空力特性の組み合わせあって初めて成り立つもんだけどな。アリソンエンジンの時は平凡だったしな」
「まさか高オクタン値燃料入れるだけで性能上がるなんて……」
「高オクタン値の燃料は偵察機とかに回されがちだが、戦闘機に入れても効果は出る。意外に気づいていないんだよな、これ」
シャーリーの言う通り、この時代はレーダー網がまだ初期段階である。それ故、戦術偵察機が重視されている。レーダーの発達で彩雲のような専用機、はたまた水上偵察機は廃れ、爆撃機や攻撃機、後には戦闘機までも兼任するようになる。高オクタン値の燃料を戦闘機に入れれば、多少の内装の強化だけで設計値以上の性能を手っ取り早く出せる。ノッキングも起きないし、整備に優しい。これに気づいた軍隊は未来世界の出先機関がある扶桑軍のみ。会話をしつつ、援護射撃とばかりに、ゴッドマジンガーがインフェルノフラスターでコアを露出させる。勝機だ。ミーナはここぞとばかりに号令を発する。
「全機、突撃!母艦型ネウロイに止めを刺すわよ!!」
「了解!」
『露払いは俺達に任せな!』
「頼んだわ!」
圭子、甲児、リョーコが露払いをしつつ、501の全員(ハイデマリー含め)が突撃する。もっとも防御力がある芳佳が先頭に立ち、一斉に火器による攻撃を加える(芳佳はバルクホルンから、IS用の武器である、ジェガンのそれをダウンサイジング化ビームライフルを受け取った)。母艦型ネウロイはこの攻撃で止めを刺し、勝利をもぎ取った。残存する敵機も撤退し、ここに501は勝利を収めたのだ。坂本が着艦した空母「葛城」で501一同は太平洋戦争の可能性が強まった事が知らされた。
「太平洋戦争があと一年もあれば勃発間違いなしと!?」
「ええ。友軍のスパイ網がミッドウェイ級航空母艦及びデモイン級重巡洋艦などの竣工を察知し、通報して来ました。いずれも我が方のほとんどの空母や巡洋艦を超越する性能を持つ艦です。戦力化され次第、敵は南洋島に侵攻してくるでしょう」
「防衛準備は?」
「無理です。一昨年以来、我が陸海軍は人事的粛清の嵐が吹き荒れておりまして……それに対する不満が強まっています。秋にも反乱が起きるでしょう。1947年に整えばいい方でしょうな」
杉田大佐は海軍の派閥では山本五十六=山口多聞=小沢治三郎の三人が重鎮の改革派閥に属する。本来なら、天城が大破させられた責任を負い、赤レンガ勤務になっても不思議でない。いや、赤城撃沈時に共に沈むべきだったと非難されても不思議でない。彼は『死に場所を失った』と自嘲しつつも、赤城戦没後は「天城」艦長、次いで「葛城」の艦長を歴任し、芳佳や坂本の理解者となっていた。ミーナに伝えたのは、501が重要な扶桑防衛に必要と判断したからだ。
「大佐は今後、どうなさるのです?」
「小官は47年からは武蔵の艦長を拝命しております。次の戦には間違いなく出向く事になりましょう」
杉田大佐は翌年から戦艦『武蔵』に乗り込んで指揮を取るのが内定していると言い、太平洋戦争で自分の死に場所を得るつもりだと示唆した。(武蔵はこの頃には51cm連装砲と後部航空艤装を誇る航空戦艦へ改装されており、ウィッチを陸空統合して運用する部隊の護衛艦隊旗艦となると内示されていた。とはいうものの、武蔵は46cm対応防御の51cm砲艦でしかなく、真っ向から20インチ砲艦と砲撃戦を行えない。それ故に真っ向から砲撃戦を挑まずに遊撃する方法が取られる予定だ)ミーナは大佐は死に場所を求めているのだと直感するも、あえて何も言わなかった。死に場所を求める軍人、それも艦長クラスが取る選択は何か。大佐の気持ちを汲んだからだった。この後、ミーナは501の面々に太平洋戦争へ備えるようにという旨を伝え、次なる戦いは太平洋であることを全員に通達する。501はこのままの編成で太平洋戦争に参戦、ジェットの時代を迎える事になる。
――後日 戦闘空母「瑞鶴」
「あれがこの世界を混乱に陥れた元凶なのですか、加藤大佐」
「そうよ。二年前以来、世界を混乱に陥れ、自分達の思うがままの世界を造らんとする集団。私達は『人との戦争』に直面しているのよ、少尉」
「どういう意味ですか、大佐」
「服部静夏少尉、貴方に問う。貴官は人との戦いに赴く決意があるのか?」
大佐に昇進した武子は64戦隊戦隊長として、静夏に問う。これはウィッチに戦いを拒否し、退役する者が後を絶たなくなった故の振るい落としであった。だが、静夏に迷いはなかった。家族の期待に応えるという義務感でなく、芳佳や坂本を始めとする501の見せた勇気、そして、魔力を持たないながらも、超兵器を以てネウロイに立ち向かう甲児たち……。思いは決めていた。
「はい。あります!私は宮藤さんや坂本少佐らの見せてくれた想いを無駄にはしたくないんです」
「……いい目をしている。これなら心配ないわね。少尉、貴方は今年の秋付で空軍に移籍することが決定しているわ。書類に目を通すように」
「え!?じ、自分が空軍に!?」
「空軍設立の話は知っているわね?」
「は、はい」
「あなたは海軍兵学校卒業を待って、書類上は空軍所属になるわ。卒業後は、夏まで343空で勤務するように。秋には我々64戦隊と正式に合併し、空軍の航空隊として再編されます。これが空軍総司令に内定している源田実少将からの通達です」
「り、了解しました!謹んで拝命致します!」
――空軍移籍をいつの間にか決められていた静夏。それを推薦したのは坂本であるのが後に判明する。黒江たちの歴史改変の影響が生じたのである。同じ頃、その坂本はそれを圭子にネタにされて弄られており、501一同を笑わせていた。格納庫では芳佳が甲児に会っていた。礼をいうためだ。
「あの、静夏ちゃんを助けてくれてありがとうございます!」
「なあに、お安いご用だぜ。どこでも救いの手を差し伸べるのが俺たちの役目さ」
甲児は微笑みながら言う。自分は当然のことをしたまでだと。剣鉄也同様に、仲間のためならば命を燃やす男の中の男である。鉄也がストイックな第一印象なので、話しかけづらい感じがあったが、甲児は見るからに好青年なので、芳佳も楽に話しかけられたのだ。
「あれが甲児さんのマジンガーなんですか?」
「ゴッド・マジンガー。鉄也さんのグレートマジンガーの兄弟さ」
「兄弟……」
芳佳は格納庫に佇むゴッド・マジンガーの勇姿を改めて仰ぎ見る。見るからに逞しいボディ、攻撃的な意匠、グレートマジンガーを更に強くしたらこうなるというデザインを体現している。
「ゴッドなんて大きく出ましたねえ」
「そう。ゴォォッド・マジンガー!現時点最新のマジンガーさ」
と、どこかで見たようなやりとりをする二人。甲児が誰とでも(さすがに鉄也とは確執を経たが)最終的に打ち解けられる才能の持ち主であるのが分かる一幕だった。
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