短編『西暦2208年』
(ドラえもん×多重クロス)
――23世紀の地球はおおよそ、前世紀末期からのスペースノイドの相次ぐ蜂起と、異星人の襲来が定期的に起こるという、有史以来類を見ない規模の戦乱期を迎えた。その中で、人類史上最も輝かしい戦歴を誇った一隻の宇宙戦艦があった。その名をヤマトと言った。元は20世紀半ばに戦没した大和型戦艦『大和』を母体として生み出された移民船であったが、波動エンジン技術が手に入った事で『宇宙戦艦』として重武装化され、誕生した。後世でも、地球圏最大最強の戦闘艦が艦名である『ヤマト』を継承する慣習を残すほどに輝かしい功績を残した。初代ヤマトは西暦2205年に水惑星『アクエリアス』の水柱を断つために自沈、その船体をまっ二つにし、水柱が氷結した氷塊にその姿を永遠に留めた。次いで、2番艦ムサシ、三番艦シナノの実戦データを基に、3年後の西暦2208年頃に改ヤマト型戦艦(「M-2210式零等軍艦」)として造船された二代目ヤマトが竣工。実戦データを基に造船された同艦は初代ヤマトクルーがほぼそのまま乗り込んで運用された(予算上も初代ヤマトの代艦扱いであった。)。この頃になると、ロンド・ベル隊も人員が入れ替わりが起き、ブライト・ノアも少将に昇進。30代半ばを迎えていた。副長はメランに代わって、シーゲン・ハムサット中佐となり、アムロ・レイも功績によって大佐に昇進(これはアムロが、軍内の人材不足の結果、メカトピア戦争後に改めて、将校正規教育コースを履修した事によるもの)していた。
――西暦2208年 日本 呉
「二代目ヤマト、ですか。昔のアメリカ軍がバカみたいにエンタープライズ造ってたみたいですね」
「それと同じ理屈だよ、ドラえもん。人々は縋る偶像を求めるものさ。俺達のガンダムのように」
「アムロ大佐も大変ですねぇ。今は指揮官としての責任も増えたでしょ?」
「ああ。だから最近は単機突撃を気楽にやれなくなったよ」
この頃になると、ドラえもんはのび太達が中学生を迎えている頃から来るようになっていだが、ドラえもんはのび太が心配なために、大学卒業まで野比家に滞在することを決意。最終的にはのび太が大学を卒業する2011年頃まで(従って、野比家の引っ越しも見届けた)居候生活を続けた。この日はドラえもんが単独で訪れており、(のび太達は中学校二年の中間テストであった)アムロとばったり合い、歓談を楽しんでいた。
「シャア・アズナブルとはどうなったんですか?」
「奴は今はディンギル帝国戦役での功績で恩赦が下って、大統領候補の議員さ。キャスバル・レム・ダイクンとして」
アムロの言葉からは、最終的にシャア・アズナブルとの最終決戦に勝利した後は、シャアもまた、地球圏の事を憂いていた事を改めて理解し、和解に成功。シャアはシャア・アズナブルとして、数年間の連邦刑務所服役に処した後、『キャスバル・レム・ダイクン』に戻った上で議員に転身した事が示唆された。アムロとシャアとの間に横たわっていた『ララア・スンの殺害』という禍根も、ララア・スン当人の残留思念がサイコフレームを通して、二人を導いた事で氷解したというのは、暗黙の了解であった。シャアの転身には、ゴップ議長の根回しが存在する事もだ。
「良かったですね、和解できて」
「ああ。なんだかんだで俺と奴は腐れ縁という事さ。一年戦争の時の禍根を断てたのは奇跡だよ。あの奇跡は……俺の若いころからの無念や怨念を殺してくれたからね……」
アムロは自身もシャアとの和解をする気はなかったが、HI-νとナイチンゲールの対決がヒートアップするうちに、サイコフレームが起こした『奇跡』により、ララア・スンの残留思念が具現化し、二人に取り付いていた一年戦争以来の禍根と怨念を拭い去った事を振り返る。シャアは投降した際、カミーユ・ビダンとジュドー・アーシタの証言で『憑き物が落ちた』ような清々しい顔を見せており、カミーユに驚天動地なほどに腰を抜かされた、と記録されている。
「二代目ヤマト、か……。あの時、まさか自沈するとは思ってもみなかったよ」
「ええ。のび太くん達も驚いてましたよ。まさか自分を犠牲にしてまで、地球を守るなんて……」
――宇宙戦艦ヤマトはその初代艦長『沖田十三』がその歴史に終止符を打つ形で戦没した。その顛末は誰もが衝撃を受けた。同時に地球の精神的支柱の喪失をも意味するため、二代目ヤマトの建造は必然と言えた。二代目ヤマトは初代ヤマトの姿をそのまま受け継いでおり、船としての機能性よりもシンボルとしての意味合いが強いのが分かる。もちろん、元設計より改善されたところも多く、艦内工場の生産力増強と居住性の強化が成された兼ね合いで、船体サイズが初代ヤマトより巨大化している。主砲塔の口径も拡大されており、51cmショックカノンとなっているなど、各所にアップデートが施されている。波動エンジンは試験的に炉心を6連装にしたモデルが搭載され、艦載機は主に新鋭機のコスモパルサーが予定されている。艦長は引き続き、古代進である。
「でも、こうしてすぐに二代目作るってのはどうなんでしょう?」
「しょうがないさ。今やヤマトは精神的支柱になっているんだ。元乗員達の喪失感も大きいから、やる気を出させるためという側面と、ヤマトがあるという事で、周囲への砲艦外交になってるからね」
――砲艦外交。それは古くはマシュー・ペリーが江戸幕府に行った事で有名な外交手法である。この手法は白色彗星帝国が降伏勧告を行った際にも活用され、屈辱を味わった事から、ヤマトやマクロス、ヱルトリウム級で積極的に砲艦外交を推進するようになった。内部から異論も出ているが、国民はズォーダー大帝に味わされた屈辱感を払拭するために、容認していた。
「連邦政府内部から異論は出てるんですか?」
「出てるさ。だが、今の時勢は度重なる防衛戦争で平和的解決が通じない時代だから、外務省は苦労してるって話さ」
――連邦外務省はここ最近、戦争続きでいいところ無しであった。ボラー連邦とは、古代進の独断で戦端が開かれたし、ディンギル帝国は余裕で国際法違反をやらかした。そのため、外務省の仕事は『戦争の後始末』に終始していた。平和的話し合い不能な国との生存競争が立て続けに起きたため、話し合いをするために軍事力を背景にしなければ、相手国がまともに取り合わないという切実な事情もあり、軍事力を後ろ盾にしなければならない不本意な状況が生まれていたのだ。
「今は大分落ち着いたが、それでも新しい国家が襲って来る危険性は大きい。軍隊の意向で予算は軍隊に多く割り振られてるままになってる。世間向けは『旧式装備の更新用』でね。」
――地球連邦軍は戦役のたびに大損害を出し、戦艦だけで、毎回100隻単位で失う。ボラー連邦戦役ではアリゾナなどがあえなく撃沈されたし、ディンギル帝国戦では長門型戦艦の就役数の7割と、ヤマトが戦没している。ハイパー放射ミサイル、火炎直撃砲、次元潜航艇などの兵器の前に多大な犠牲を払った故、地球連邦軍は装備が短期間で入れ替えが進む軍隊と化し、コスモパルサーの正式量産開始で、コスモタイガーは順次、前線から下げられ始めているし、VF-25の増産も軌道に乗りつつあった。MSはジェガンの退役が最終段階に達し、最後まで装備している二部隊を残すのみになるなど、更に入れ替えが進んでいる。この呉で建造されている艦艇は、ディルギル戦役の際に最新型であった艦艇の更なる改良型であるのが容易に分かる。
「人員の損害も凄いから、移民船団から有能な人材を呼び戻すとかして対応している。育成しても、次の戦役で六割は死亡するから教育が追っつかないよ。MSなんて、練度が両極端になったし」
アムロはMS隊の練度が、精鋭部隊ならば一騎当千に値する練度に到達したものの、通常部隊はジオン残党の旧型に手もなくひねられる程度でしかないレベルが多いという状況を愚痴る。
「ん?電話だ?……ベルトーチカか」
「ベルトーチカさんとはその後?」
「結婚して、子供も生まれたよ。だから今じゃパパさ」
彼もこの頃には、ベルトーチカ・イルマとの間に子を設け、一児の父となっていた。そのために現在では、一年戦争当時のオタク少年であった面影は大分薄れていた。第二子を設ける予定もあるらしい。
「ああ。夜には帰るよ。それじゃ。……シーブックの奴は予備役になって、セシリーとくっついたよ。子供も生まれる予定だっていうし、ジュドーは木星船団の護衛任務についてる。みんな、それぞれの道を歩んでるっって事さ。前線にいるのは、俺やカミーユ、ウッソくらいなもんだ」
ちゃっかりと新生活を謳歌しているアムロに、ドラえもんはメカトピア戦争からの歳月の流れを実感した。シーブック・アノーは予備役編入後はセシリー・フェアチャイルドと結婚し、ジュドーは木星船団の護衛任務についている。この時期に前線に残っているガンダム乗りは数人のみである事が示唆された。
「ナデシコはどうなんです?」
「ルリ君がナデシコCの艦長してるよ。ユリカ君は今は軍令部付きの仕事してるって聞いたな……」
ロンド・ベル隊の人員の消息がいくつか判明する。隊を離れて別任務についた者、予備役になり、軍を離れて別の生活を送る者など……様々であるのが分かる。戦時には以前の編成に戻るという規則はあるものの、今は久方ぶりの平時である故、ロンド・ベルもさすがに規模を縮小されたのが分かる。アムロとドラえもんの会話からは、久方ぶりの平和に安堵する人々の姿があった。
――同じく、日本
宇宙科学研究所では、IS勢が模擬戦を行っていた。この時期にもなると、セシリア・オルコット、ラウラ・ボーデヴィッヒや更識楯無、更識簪も派遣されていたが、時期の違いにより、初期に派遣されていた三人との機体性能差が顕著に表れていた。
「ぬぬ……腕を上げましたわね、篠ノ之さん」
「こちらで大分鍛えられたからな。今なら、お前から5本連続で取る自信があるぞ」
「何をっ!」
箒は奇しくも実戦経験を豊富にした結果、正規軍人であるラウラにも遜色ない動きが可能となり、セシリアのブルーティアーズの改修後のファンネル(ブルーティアーズは攻撃端末用脳波通信装置をサイコミュシステムへと換装され、攻撃端末もファンネル化された)攻撃を見切って回避する。元のブルーティアーズから受け継がれた、ビーム偏向機能を活用したセシリアの攻撃だが、箒も強化後の産物であるフィン・ファンネルを繰り出して応戦する。
「ならばこちらも……!フィン・ファンネル!!」
元々、自動制御によるビットを備えていた赤椿だが、長年の強化と独自改修の末にフィン・ファンネルを持つに至った。赤椿自身の自己進化で搭載数及び稼働時間、装備レイアウトも変化した結果、HI-νガンダムのような形態と化している。箒は主に、フィン・ファンネルを牽制に使った後に巴戦に持ち込む戦法を用いているが、それがうまく作用した。
「くっ!オールレンジ攻撃は……元々、私の得意分野であるのをお忘れですの…!篠ノ之さん!」
オールレンジ攻撃の練度は確かにセシリアのほうが高い。だが、セシリアの操縦技能は射撃手として特化されたもので、接近戦には対応が甚だ困難である。そこを箒は突いたのだ。セシリアがフィン・ファンネルを改修型ブルーティアーズで撃ち落とした爆炎を隠れ蓑に、懐に飛び込み、燕返しを叩き込んだ。模擬戦故に、これで決着はついた。
「……〜!」
「接近戦には相変わらず対応できんな、お前は」
「私は射撃手ですのよ!ドックファイトにはあまり……」
「実戦ではそんな事言ってられんぞ。ドックファイトの腕を鍛えるんだな」
「ぐぬぬ……」
箒はセシリアの知る『以前』とはまるで、別人のような強さを見せている。束の愚亭ぶりもあながち嘘ではない才覚を見せている。それを見つめていた楯無(本名は刀奈。この世界では、一族のネームバリューがないので、久方ぶりに本名で活動している)は、箒の才覚を心の中でこう、評する。
(さすが、篠ノ之博士の実妹ね……超人じみた姉と比べれば落ちるけど、十分に才覚を持っている)
それは簪が自身に抱いていた思いを、箒もまた抱いている事を知った故での独白であった。束は格闘・射撃・頭脳などのほぼすべての点で並外れた(箒曰く『超サ○ヤ人』じゃないかとの事)水準の能力を持っていた。それに比べて『凡人』である箒は引け目を無意識に感じていた。だが、それは超が二個ついてもまだ余るほどの超人な姉という、突然変異的な人物との対比であり、常人に比べれば、箒も十分に超人と言える能力を持つ。自信をつけた箒の姿からは、もはや転移以前の引け目は微塵もなかった。
「ご苦労様」
「楯無さん」
「しばらく見ない間に、腕を上げたわね」
「否応なく戦場で戦ってましたから。それに赤椿もずいぶん改造されましたから」
「確かに、それはもうISの体裁をとった別の何かに等しいものね」
思わず苦笑する。箒、鈴、セシリアのISは装甲を始めとする各部が飛躍的に小型化され、コンバットスーツのような体裁を取っている。ラウラや自分達のそれも同様に改造する予定があると聞くので、この世界の技術力の高さを伺せると楯無は頷く。
「そういえば、今度バスターランチャーのテストするとか聞きました」
「ば、バスターランチャーぁ!?」
楯無はズッコケる。それがどういうものかを理解していたからだ。それは80年代に放映され、彼女らの時代でも一定のファンがいる『重戦機エル○イム』に登場する、『エル○イムmk-U』の最強の火器であり、ペン○ゴナ最強の火器と設定されていた。楯無は妹の簪がアニメ・特撮オタクなので、付き合う形で見ていたから理解しているのだ。
「バスターランチャーって、まさかあれじゃ?」
「そのまさかですよ」
「あんなのISに搭載するの?信じられない。機体のほうが音を上げるわよ、あんな代物」
「確かに。赤椿でもない限り、機体が自壊しかねませんからね」
――バスターランチャーの起動と発射に耐えられる機体はヘビーメ○ルの中でも、高級な機体に限られた。 それを模倣した物なら、赤椿でないかぎりは機体の発電量がバスターランチャーの要求する量に追いつかず、オーバーロードして自壊する可能性大である。楯無は思わず苦笑いする。
「この世界って恐ろしいよね、ラウラ」
「ああ。UFOロボグレンダイザーまで実在しているからな。ここ」
「おじいさん世代が聞いたら狂喜乱舞するよ、あれ。ゴルダックってタイトルで視聴率100%出たとかないとか」
シャルはグレンダイザーが、かつて自国で大人気だった事実を近所の老人から聞いたことがあり、グレンダイザーの実在に最も驚いた一人である。宇門大介との面識を持った事は自慢の種だ。
「さて、今度は鈴と簪か……」
ラウラは既にISを展開し、模擬戦の準備を進める。第二戦が開始される中、改装なったISの力に身震いしつつも、自身もその次元の力を手にしたい衝動に駆られ、鈴の小型化された甲龍の雄姿に目を見張るラウラだった。
――楯無は暗黒星団帝国戦の頃に、第二陣として派遣された。その過程で、小型化されたISに面食らい、宇宙刑事ギャバンらのコンバットスーツに度肝を抜かされ、パルチザンのレジスタンス活動に加担し、地球連邦軍大尉の待遇を宛がれ、軍籍を得た。その際にのび太達と面識を得た。元の世界での仲間の多くは一族当主の名であり、通り名である『楯無』と呼んでいるが、この世界では一族の責務から開放されているために、のび太らの前では本名を名乗っている。元々、彼女は元の世界での日本の名家(旧士族にして、旧軍や幕府での暗部で活躍した)の17代当主であり、楯無は歴代当主の襲名してきた通り名である(比古清十郎の襲名のようなもの)。本名の刀奈と呼んでくれる人間が少ないが故、この世界に来たことを密かに嬉しがっており、ロシア語に堪能なので、野比玉子へは『ロシア在住だった』との方便を通している。
(この世界は本当に驚異的ね。ブラックホールやワープ、はたまたタキオン粒子を兵器にする科学力が宇宙を席巻し、人型機動兵器……ニュータイプ、スペースノイド……)
彼女は極秘裏にIS学園への地球連邦の調査報告という裏の任務を仰せつかっていたが、地球連邦の危機に立ち向かう内に地球連邦への帰属意識に目覚め、結果的にはダブルスパイとなっていた。元々、千冬はバダンの襲撃後のIS学園の上層部の無策ぶりに呆れていたため、束共々、事実上は楯無の動きを承認していた。楯無はニュータイプの存在とその奇跡を目の当たりにしたため、性別の違いだけで優越感に浸るような価値観が馬鹿馬鹿しく思えるようになったという。
(今、元の世界に蔓延ってる女性至上主義も馬鹿馬鹿しいわね。ニュータイプや、ゲッター線に選ばれた者に比べると、ISを動かせるなんて些細な事だもの)
楯無はこの世界に来ることで、少なからず自らも持っていた女性至上主義の思想(楯無は元々、その思想は薄い方だが)が完全に消え去った。そして、今、彼女は次元を股にかけた暗黒組織『バダン』を追っていた。自身を退け、RXを始めとする歴代仮面ライダーらが死闘を繰り広げているナチスの残党である。
(それにしても、ナチス・ドイツの残党が何故、日本神話の神の手先になったの?それが、ヒトラーが演説で言ったという『ラスト・バタリオン』なの?……あの男は冷戦を予知したような事を言っていたけど……)
――アドルフ・ヒトラーは生前の晩年、パーキンソン病に侵されながらもスターリングラード戦の敗北で、近い将来の帝国の敗北を悟っていた。そこで自らが崇めていた『JUDO』(ヒトラーはかの方と呼んでいた)の啓示を受け、側近であったマルティン・ボルマンに命じて『ラスト・バタリオン』計画を実行させた。演説でヒトラーが言及したのは以下の事だ。
『米ソは、国際連盟に変わり得る組織を作り、おそらくは1990年代まで対立と妥協を繰り返しつつ、世界を運営しようとする。しかし!しょせんは背後からユダヤ国際資本達によつて操られている国家・代理人に過ぎない。その内に、復興するヨーロッパと、同盟国の日本を始めとする東アジア、イスラム諸国、インドに中国などの国家の台頭で、いずれ世界は 米ソの手に負えなくなるだろう!その結果、哀れなアラブ四ヶ国がまず征服され、やがて東西は激突することになる。それにユダヤは勝利し、全世界を支配するだろう。何故ならそれが彼らの旧約聖書にある約束だからだ。黙っておけばそうなるだろうが、私がそうはさせない。その為に私は死ぬ前に手を打っておく。それが最後の秘儀である。その秘儀により、真のハーケンクロイツの日にラストバタリオンは姿を表し、ユダヤを倒し世界を支配する。そしてナチスは蘇るのだ!』
これは演説の一節だが、実際に東西冷戦は1990年ごろまで続いたし、アメリカの覇権は60年代の日本や2000年代の中国とインドの台頭で揺らいだ。ソ連に至っては崩壊している。ヒトラーは予期していたのだ。米ソの築き上げた秩序は1世紀も持たない事、ソ連がいずれ社会システムの限界に突き当たり、崩壊する事、暫くすれば、日本が再び大国に返り咲く事……。ヒトラーが、日本が大国に返り咲く事に言及したのは、実は日本列島こそがヴァルハラであり、神々の聖地だったからという事情もあるが、日本人の不屈の精神をトルーマンやマッカーサーよりも知っていたからだ。バダンを産む土壌になったのが、マルティン・ボルマンが南米に運び込んだ人員と富であり、その技術が生み出し存在が改造人間である。
(仮面ライダー一号は1971年に生み出された。しかも当時では絵空事と言えるような、高度な技術で。バダンこそがラスト・バタリオンの行き着いた姿かもしれないわね)
楯無はバダンがラスト・バタリオンの行き着いた進化であると知り、身震いさえしている。だが、それでも戦うのだと決意を固めていた。それが妹を始めとする世界を守れる手段なのだから……。
――そして、バダン大首領の下に、ヒトラーの側近であったマルティン・ボルマンが謁見していた。彼は1960年代頃にゴルゴ13の襲撃の際に死亡したとされていたが、実際はサイボーグ手術を受け、1930年代当時の容姿に戻っており、ゴルゴの魔の手からも逃れていた。(つまりネオナチ・第4帝国のマルティン・ボルマンは自分の容姿に整形させた影武者であった)
「大首領、完成いたしました」
「随分遅れたな」
「はっ。プロジェクトを平行時空に移管して続けていたもので……」
マルティン・ボルマンが大首領の前に並べた数人の改造人間は仮面ライダー型だった。デザイン的には仮面ライダーV3の色調を暗くしたような個体が一体、仮面ライダー一号や二号の発展型であるようなデザインの個体が一体、ジェット戦闘機のパイロットのようなボディを持つ個体、仮面ライダーXをよりリアル調にしたような個体の姿があった。
「これが仮面ライダーシリーズか?」
「左様で。仮面ライダー3号、アナザーV3、4号に5号です」
仮面ライダーは、元々は彼らの生み出した改造人間である。その仮面ライダーシリーズの第一陣が大首領に謁見する。その戦力は未知数である。マルティン・ボルマンが用意した、南光太郎、本郷猛らの打倒手段は彼らであったのだ。
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