短編『フェイトの行きたくない世界』
(ドラえもん×多重クロス)
――ある時、フェイトは行きたくない世界として、ある漫画の世界を挙げた。
「絶対、ドラゴンボールとか聖闘士星矢の世界には行きたくない!死ぬ死ぬ!ぜぇぇったい死ぬ!」
「あの世界、惑星破壊程度なら亀仙人でも出来るからねぇ。聖闘士星矢は、最近やってたアニメのほうなら大丈夫じゃ?原作と違って、主人公勢の数人が昇格してないし」
「確か原作の続編だと、アンドロメダの瞬は乙女座の次期黄金聖闘士になってたっけか……パラレルワールド多いしなあ、あれ」
「うん。派生作品多いからねぇ。まだドラゴンボールのほうがいいって、フェイトちゃん。ドラゴンボールで生き返れるんだし」
「すぐ生き返らせてくれるとは思えないけど……。それにあれ、超サイヤ人とかのレベル、インフレしすぎ!この間見に行った映画の、あの青いやつなんて、超3をデコピンで死亡させられるくらいのパワーだったっけ?」
「確かにねぇ。あれはちょっとインフレしすぎだよなぁ」
なのはとフェイトはミッドチルダ動乱が本格化し、戦いが激しい最中のある休憩時間に、『任務と言われても、足を踏み入れるのに躊躇してしまう』であろう世界の事を話題にしていた。地球で漫画になったりしている世界は、平行時空にあらかた存在すると言っていいため、バトル漫画系の中でも著名な漫画の世界には行きたくないと、フェイトはぼやく。中学以降、二人は漫画の嗜好がバトル漫画などの少年漫画や青年漫画よりになったらしく、少年ジ○ンプ系の漫画にも手を出した事を示唆している。なのはの場合は荒くれ者揃いのロンド・ベルにいるせいか、流竜馬や兜甲児、藤原忍の影響が大であり、フェイトの場合は仕事柄、行動を共にすることが多い二号ライダー=一文字隼人のせいであった。
「お前ら、何を話してるんだ?」
「あ、箒さん。ISのオーバーホール終わったんですか?」
「今回は姉さんも通信越しに作業に加わったから、長くかかってな……詳しいことは後で話す。愚痴も聞いてもらいたいんでな……」
三人はこの時、ミッドチルダ動乱での連合艦隊旗艦になった、ロンド・ベルの新たな旗艦「航宙戦艦シナノ」内の休憩室にいた。動乱が激しい中、珍しく、夜間スクランブル出撃も無い平和な夜で、久しぶりに休憩時間が取れた日であった。話題はなのはとフェイトが話していた『行きたくない世界』のことに戻る。箒もドラゴンボールや聖闘士星矢の事は無論、一夏が『一時代を築いたアニメ』として知っているため、フェイトに同意する。一夏や姉に付き合って見ていたからだ。
「ああ、超サイヤ人の青い奴だろ?神レベルの戦闘力あるっていうけど、3の時点で界王神より強かったんじゃ?なんていうツッコミを幼馴染も入れてたなぁ」
「破壊神の登場で基準が変わりましたよね、あの漫画」
「そうだな。3が一人で変身出来る最強形態と思ったら、あれで『所詮、超サイヤ人3は人の域でしかない変身』って事になったからな……当時は衝撃的だったんだろうな」
「3って、なんか噛ませ犬ぽい雰囲気ありますよね」
「映画だと、だいたいは噛ませ犬だったし、倒せたの一体だけだしなぁ。そこにお前らが行けば、一回は死ぬの目に見えている。しかし、設定上は遠い未来には、サイヤ人の血は地球人の遺伝子に刻まれたから、超サイヤ人化が可能になるらしいが」
箒はドラゴンボール世界の戦闘レベルが最終的には神の領域に達しているのを、よく知っているためか、フェイトが行きたがない事も至極当然と頷く。箒も、なるべくなら、行きたくない世界なのだろう。しかしながら超サイヤ人を極めていくと、協力が必要とはいえ、やがては神レベルの戦闘力を持つ存在に至るというのも魅力であるので、その辺は迷うところらしい。それと、巻き込まれて死んでも蘇生してくれる可能性があるのが大きいらしく、フェイトは『聖闘士星矢の世界とどっちを選べと言われると、ドラゴンボールにする』と答える。五感剥奪などが普通にされるというのが−ポイントであるとぼやく。
「フェイト……。今日はやけに、ぼやいてないか?」
「この戦いが落ち着いたら、平行時空の地球の調査を再開しろって言われるのは確実ですからね。そこだけは行きたくないんですよ。死ぬの確実ですし……」
「いや、それよりもむしろ恐ろしい世界があるじゃないか。名探偵コ○ンがな!温泉地でばったり会ってみろ。うっかり動くと犯人扱いされるし、かと言って、ベタな死亡フラグの台詞を言ってみろ。次の瞬間には死んでるんだぞ」
「あ、ああ〜それもそうか……。推理モノも恐ろしいなぁ」
「だろう?だから、万が一、行ったら生き残るための方策を考えておけ」
「あ、推理モノといえば、金○一耕助なんて、防衛率低いですよ〜目の前で犯人死なせた事ありますし」
「あったか?」
「ほら、スケ○ヨさんで有名なあの話……」
「ああ、あれか……。って、推理モノは死亡フラグ満載ではないか?生き残るのが難しいぞ」
箒は死亡フラグを推理モノを例に取って、説明する。それを知っている三人は悩む。万が一にもその世界があって、調査に行き、巻き込まれたら、命の危機があるからだ。箒はこの時にはなのはとフェイトのお目付け役として、トリオで行動することが多くなっていたため、フェイトが動けば、護衛役として、自分も行くことになるからで、三人で頭を抱える。と、そこへ客人が現れる。兜甲児と菅野直枝だ。菅野はミッドチルダ動乱には第二次ミッドチルダ沖海戦から参戦し、芳佳が実家にいる&本来の護衛役の松田祥子少尉が長期療養で不参戦なため、単独での出撃が多かった。それを不安に思った源田実三四三空司令(この時点では空軍は発足内定状態なので、まだ三四三空は六四戦隊に統合されていない)が、ロンド・ベルに頼み込み、甲児が面倒を見る事になったのである。
「三人揃って、どうしたんだい?」
「実は……」
なのはが説明すると、甲児達もため息をつく。この戦いが落ち着き、時空管理局が本来の任務を再開出来れば、フェイトは執務官としての責務に戻るのだが、バトル漫画系の世界でも、ドラゴンボールや聖闘士星矢などの超絶的にトンデモ世界に足を踏み入れたら一度か二度は死亡しかねないし、かと言って推理モノの世界に行っても、ベタな死亡フラグがそこらに散らばっている。全てを把握しているわけではないが、孤島にいるパターンでの死亡フラグな台詞『こんなところに居られるか!俺は部屋に帰る!』くらいは五人とも知っている。
「せめてル○ン三世の世界とかなら、大丈夫だと思うんだけどなぁ……」
「フェイトちゃんも大変だなぁ」
「でしょ?本来の任務とは言え、平行時空なんて無数にありますからね……行ってみないとわからないし」
「でも、ウ○トラマンの世界なら安心じゃ?」
「レオの時系列だったら、シルバーブルーメに巻き込まれて死にかねないじゃないですかぁ〜!」
「あ、そうか……あれはショッキングな展開だったなぁ」
フェイトはここ数年間では、最も少女時代に近い振る舞いになっていた。違うのは、目がギャグ顔の涙目になっていて、ソファで器用に頭を抱えながら悶えているという、ギャグ的な振る舞いをしている点だ(少女時代はシリアスである事も多かったため)。甲児はフェイトのそんな姿を微笑ましく思いつつ、話を続ける。
「時空管理局って、政府的業務はしてるのかい?なんか話を聞くと、そんな感じだけど」
「一応、上位に政府があります。ただ、軍部と司法、警察を時空管理局が全部引き受けてる状態なんで、歪な状態なんです」
「軍隊と警察と裁判所を全部くっつけたのか?うまくいくのかよ、そんな事。第一、警察と軍部だって、本来なら仲が悪い部署なんだぜ?」
「大本は昔の戦争で滅んだ、旧体制での軍部が基です。階級が警察式でなく、軍隊式なのはその時の名残りと、自衛隊にいた漂流者が組織づくりに関わったからだと思われます」
「確かに一佐とか、一尉は、昔の自衛隊で使われてた名称だからな。でも、なんで魔法に主体を切り替えたんだい?」
「旧体制がハルマゲドンで滅び、科学技術を嫌う風潮が現れ、それが『安全でクリーンな』魔法に切り替えられる契機になったんです。だけど、今から思えば、魔法だって、ミスれば世界を破滅させかねない危険がありますし、私やなのはのような才覚が全員にあるわけでもない……。だから、前線は万年人員不足だったんですよ」
フェイトのその言葉は、魔法を万能と盲信していた時空管理局と、幼い日の自らへの自虐も含めていた。幼い頃にスバルから、ティアナの事を聞かされ、なのは共々、長年、なんとなくバツの悪い思いを抱いていたからだろう。そして、未来世界からの帰還後に自分たちが報告書を出した途端、10年近くも最終的な未来世界地球の取り扱いで紛糾し、惑星を滅ぼせる真ゲッターロボやマジンカイザーなどの力を恐れたのか、観測指定世界のままに留め置かれたという経緯から、時空管理局の根底には『環境破壊と殺戮に興じる結果を産んだ純粋科学』を嫌悪する思想が少なからずあるが、科学の発達なくばミッドチルダの勃興と中興もない事実がある。そして、それが地球では真ゲッターロボやマジンカイザーの両巨頭を生み出すに至り、宇宙怪獣やそれに匹敵する脅威に対抗するための力となっている事実を勘案し、現在では時空管理局へ全面的に忠誠を誓っている訳ではなくなったと示唆した。
「だから、高ランク魔導師や主要艦船が裏切ったら、一気に組織がガタガタになったわけか。それで対策は?」
「地球連邦軍から銃器やらMSやら買って、配備し始めてるそうです。自前の兵器の開発にゃ、軽く見積もっても、あと4、5年はかかりますからね」
「忌み嫌っていたはずの質量兵器に頼らざるを得ない状況だからなぁ。敵は航空機をジェットへ切り替えを始めてるし、こっちはなのはちゃん達が強い飛行魔法妨害の中じゃ、宛に出来ない状況に追い込まれたのが痛いところだな」
――バダンがミッドチルダ各地に設置した『飛行魔法妨害装置』。これは戦艦や基地に設置し、作動させると、ミッドチルダ式やベルカ式などの飛行魔法に必要な魔力を体内、あるいは大気中から吸収、あるいは供給器官から拡散させ、飛行に必要な魔力量を確保できなくするものである(ただし、原理が根本から異なるストライカーユニットはその限りではない)。この装置の開発でバダンは、大した抵抗無く、制空権を確保した。(逆に言えば、それだけ空戦魔導士を厄介に見ている証でもある)大型の装置が作動していれば、なのはやフェイトと言えども飛行は不可能となる。そのために可変戦闘機などを使用しているのだ。
「ええ。上からは管理世界への沽券に関わるから、とっとと終わらせろなんて指示が出たんですよ?本当、お役所ってのは、前線のこと考えてないんだから」
「どこの世界もソレは同じって事だな。黒江さんや穴拭さんは若い時、『赤レンガ』や市ヶ谷台の連中は前線の苦労をまるで馬鹿にしてるって嘆いてたって聞いたし、地球連邦軍も白色彗星帝国の時は、解体が内定してたから、ヤマトの忠告に耳を貸さなかったそうだし」
「だから反乱起きるんだよなぁ。で、ボコボコにされた後の言い訳は『こんな事になるなんて思ってなかったもん!』だもんなぁ」
――地球連邦軍もだが、中央と前線の実情の把握ぶりはまるで異なる。白色彗星帝国戦役(ガトランティス戦役とも)の時はヤマトがテレザートに行き、テレザートが自爆し、白色彗星帝国に連邦軍の移民船団が襲撃された事で、中央はようやく、未曾有の危機が迫っている事を知った。幸いにも、当時の大統領はリリーナ・ピースクラフトであったため、解体を凍結し、軍隊を使って防戦に入ることを即座に決議した。(リリーナの退任はその数週間後。その間に廃止されていた有事法制の再構築と、行動中の軍隊の地位の保全に努力を払った事で、彼女を疎んじてた軍部から見直された)以後は有事への備えをきちんとすべきという考えが定着した。時空管理局の場合は本土決戦になるという考えがなかった故、このような失態(動乱)を演じたのだろう。兜甲児との長い会話は、いつの間にか話題がずれるが、そこで菅野が口を開く。
「オメーら、話題がズレてんぞ……。で、気づいたけど、フェイト。お前。なんか……やつれてないか?」
菅野の指摘に、フェイトは頷く。箒も、甲児も、なのはも、菅野に言われて、初めてフェイトの顔が若干、やつれている事に気づく。フェイトはその理由を話す。
「実は……ここのところ、平行時空に行って、殺される夢が続いて……満足に寝てないんです……」
「どんな夢なの、フェイトちゃん」
心配そうにフェイトの顔を覗き込むなのは。一同も心配そうにフェイトを見つめる。フェイトは答える。その夢の内容を。
「昨日はさ、聖闘士星矢の世界に行って、乙女座のシャカの『天舞宝輪』食らって消滅する夢だった……その前はドラゴンボールのかめはめ波を……しかも超サイヤ人4の奴……」
何故、どのようにしてそうなったのかはよくわからないが、覚えている限りの具体的な内容を皆に話す。皆は内容が突飛なため、あっけにとられてしまう。最初に口を開いたなのはは、戸惑いつつもなんとかフォローしようとする。
「フ、フェイトちゃん?えーと……良かったじゃん。グレートホーンとかライトニングプラズマじゃなくて」
「なのは、それ、全然フォローになってないから……。冷や汗タラタラで飛び起きるんだぞ……それもここのところずっとだぞ……」
「フェイト、どうせなら夢の中なんだし、抵抗してみたらどうだ?セブンセンシズとか使えるかもよ」
菅野が言う。それにフェイトは『ハッと』した。夢の中なら『超サイヤ人になろうが、セブンセンシズやエイトセンシズが使え、光速拳を繰りだそうが』自由である。この時、フェイトはドラえもんから聞いた話を思い出した。
――夢の中でも、ジャイアンがのび太をいじめた時、ドラえもんが『夢破壊砲』でのび太を助けようとしたら、ジャイアンがポケットからネズミのおもちゃを取り出して、ドラえもんを追っ払ったという。確かにその理屈は正しい。
「ありがとうございます、大尉!よーし、これで今夜はぐっすり眠れそうだ〜!」
と、意外に単純な事に気づいたフェイトは小躍りしながら喜ぶ。菅野はついでに、「イメージトレーニングも兼ねて、聖闘士星矢とか見ろよ〜!」と忠告する。フェイトはその日、それを忠実に守り、夜を迎えた。臨時隊舎の私室で寝、夢を見る。そして、今回は自信満々に応戦した。
――夢
「今回は前回とは違うぞ〜!燃えろ!!私の小宇宙!!」(くぅ〜いっぺんでいいから、こういう熱い台詞、言ってみたかったんだぁ〜)
と、フェイトは昨日と同じ夢の場面を『見ていた』。夢というには偉く鮮明だが、ドラえもん曰く、夢というのは曖昧な時もあれば、鮮明に覚えている場合があるという。ここ最近のフェイトの場合は後者であった。フェイトは菅野の言った事を実行し、小宇宙を燃やす。夢なので、その気になれば、どんな聖衣もまとえる。それは黄金聖衣や神聖衣であっても、例外はない。菅野の言に従い、小宇宙を限界まで燃やしてみる。すると、フェイトの元へ聖衣が飛来する。フェイトがスピードを最重要視する心象を反映してか、光速拳を繰り出していた獅子座の黄金聖衣が飛来する。(本来、聖闘士であれば仮面を被る慣例があるが、派生作品ではその限りでなく、聖闘少女(セインティア)という存在が後付け設定でなされたりしている。)フェイトはボロボロのバリアジャケットをパージし、代わりに獅子座の黄金聖衣を纏う。攻防速ともに、これで相手側と同等となる。
「さあて、どうせ夢なんだし、やってみるか!ライトニング・ボルト!!」
フェイトは漫画をよく読んでいたし、アニメも知っていたので、獅子座の黄金聖闘士に代々伝わる技を撃ってみる。光速の拳を相手に向けて放つシンプルな技だ。これを普段使えたらと考える。幼少期のプラズマスマッシャーが児戯に等しいほどの威力だからだ。
(夢だからって事もあるけど、ここまでの破壊力あるんだなぁ、この技。さあて、他の技は……)
夢の中で思考を回す。しかし、獅子座の黄金聖闘士が代々、ライトニングプラズマとライトニングボルトで戦ってきた事は承知している。だが、例外はある。それは、ある派生作品でのティタン神との戦いの際に、獅子座のアイオリアがライトニングファングという技を放った記憶がある。
(えーと。確か、あれだと『地面に拳を突き立て、拳から雷が地面を伝って相手へ向い、電撃の柱となって吹き上がる』技だったような……4年前に立ち読みしたきりだから、いまいち覚えてないんだよなぁ)
数多い平行時空中、この歴史に於けるフェイトは、『武士道然としながらも、ある意味では最も世俗に適応した』姿である。少年・青年漫画であっても読み通すので、以前に出会った『別の自分』からは驚かれたという。
「ライトニングファング!!(え〜い、もうこうなればヤケだ!夢なんだし、派手に行こう!)」
フェイトはこの光景が、俗にいう夢オチになる事はわかっているので、派手な技を使った。相手は蟹座のデスマスクなようで、『あじゃばー!!』という悲鳴が響き渡る。雷が地面から吹き出、デスマスクを感電させる。この技であれば、魔法での擬似的再現は可能だと思い立った瞬間、なのはに夢から起こされた。なのはは久しぶりに、凄くにやけた顔で寝ていたフェイトを起こすのを躊躇したが、それどころではない事態なため、起こした。
「フェイトちゃん、フェイトちゃん!」
「何だ?やけに慌てて……ふぁぁ〜……」
フェイトはいい場面で起こされたのに、不満たらたらで、不機嫌な顔を見せる。
「せっかく、これからライトニングプラズマでデスマスクを倒そうとしたのに……」
「それどころじゃないって!敵がスーツカでここを直接爆撃しに来たんだって!」
「何ぃ!?迎撃はどうしたんだ!?」
その一言で、フェイトの頭は一瞬で覚醒し、シャンとする。なんだかんだで仕事とプライベートの切り替えが早いのが分かる。
「空母から直接、ここを狙ったみたい。レーダー網の穴を突かれたから、連合軍の迎撃は後手に回った!ジェットは整備中だから、レシプロで出るよ!」
「機体は?」
「キ100(五式戦)の発動機、回してるよ」
「キ100か。あれなら故障率低いから安心だ。出るぞ」
「フェイトちゃん、なんか凄く、嬉しそうな顔してたよ」
「そ、そうか……そんなに」
「うん。まぁ、後でゆっくり聞くよ。今回はスーツカとメッサーのG型のポピュラーな組み合わせだから、キ100なら勝てるよ」
なのはは、レシプロ機では、四式よりも五式戦に信頼を置いているようだ。当たり前だが、史実では、四式戦闘機はカタログスペックの高さを生かせずに終わり、五式戦は帝国陸軍飛行戦隊最後の奮戦を飾ったという輝かしい戦歴を持つ。なのははエンジンの故障率(後期型はハ43なので、稼働率はマシであるが)と、操縦レスポンスの良さを鑑み、五式戦を使用するようになった。三式戦譲りの素直な操縦性はカタログスペック上のドイツ機との速度差を打ち消す程の威力であるのは、なのはは承知していた。だから、使用したのだ。
――扶桑軍から提供された五式戦の1500馬力のエンジンが唸りを上げ、なのはとフェイトは史実上の五式戦よりも遥かに洗練されたアビオニクスと単座機用レーダー完備、排気タービン装備の後期生産型(五式戦闘機三型と名付けられた)を試験運用した。この試作機は後の太平洋戦争中に一定数、ジェット量産までのつなぎとして量産化され、レシプロ機の有終の美を飾った最後期の名機の一つと数えられる事になる。戦場は巡航速度で五分ほど行った空域。そこでレシプロ機同士の空戦が開始された。
「フェイトちゃん、相手方の高度は5000。機数は15。少数機での奇襲をするつもりの模様」
「舐められたものだな。しかし、たった二機だと、落とすのに骨が折れるぞ」
「スバルが扶桑軍に通報してくれたから、紫電改と烈風が援軍に来てくれるよ。それまでの時間稼ぎも兼ねて、撹乱だ」
「了解」
「さて、行くよ」
対Gスーツに身を包んだ二人は、五式戦を急降下させ、上方からの奇襲に打って出た。五式戦は母体が『和製メッサー』の三式戦なので、日本機中最高レベルの急降下制限速度を誇る。(一説によれば、時速1000キロにも耐えたという)その点は、元々は液冷式であった機体設計に感謝した。光像式照準器に護衛のメッサーシュミットBf109Gを捉えると、操縦桿に付けられている引き金を引く(陸軍機は海軍で取られていたスロットルレバー式ではなく、ジェット機同様の操縦桿式であり、それが正しい事はジェット時代の到来で判明し、この時期にはジェット機教育との兼ね合いで海軍機も操縦桿式に戻した)。『ホ5』20ミリ機関砲と『ホ103』12.7ミリ機関砲が同時に火を噴き、メッサーシュミットの操縦席を中心に命中していく。ドイツ機は日本機よりはマシな防弾であるが、さすがに操縦席を狙われてはたまらず、二機がひっくり返って、白煙を引きながら墜落していく。それに気づいた他の機体がドロップタンクを落とし、空戦に入る。
「来たな!スピードじゃ、向こうが断然優位だ。巴戦に持ち込め!」
「了解!」
メッサーシュミットは元々が一撃離脱戦法にほぼ特化した設計で、日本機のような巴戦(ドックファイト)向けではない。世界に先駆けて一撃離脱戦法の有効性に気づいたドイツ軍は一撃離脱戦法を追求し、緒戦は無敵だった。だが、自力で遥かに勝る米軍が全力を出した時、ドイツ軍は抗えなかったし、米軍もベテランパイロットの乗った紫電改や五式戦にはカタログスペックの差を覆されて撃墜されている。なのはは、智子達に、少女期から『戦闘機のカタログスペックなんて、いつの時代もパイロットの差で覆えうるもの』と教えられたため、メッサーシュミットと五式戦の『速度差』は気にしておらず、むしろ、どのようにして巴戦に巻き込むかという戦略を練っていた。
「日本機は基本、低高度の巴戦が得意で、高高度は苦手だ。排気タービンはつけたが、元の馬力が低いからな……敵の誘いに乗らないように……」
1500馬力の金星エンジンは、高高度では排気タービンの補助付きでも1200馬力に低下する。爆撃機迎撃ならそれでもいいが、制空戦闘だと、不利に働く。それを熟知していたなのはは、スーツカを落としつつ、愛機を高度3000以下の低高度に降下させる。すると、練度未熟な一機が誘いに乗ってきた。
「来た来た。こういう馬鹿は、大戦末期に初陣な『若手』なんだよな」
――バダンの兵士も、全ての将兵に東部戦線や西部戦線、北アフリカ戦線の経験があるわけではない。中には大戦末期にヒトラー・ユーゲントから長じて、飛行隊に入った者もおり、それら『若年兵』は実戦経験が過小であるため、実戦経験者が鍛える二軍、もしくは三軍扱いであった。なのはの誘いに乗ってしまい、護衛任務を放棄した一機もそのケースであった。
轟音とともに、メッサーシュミットのMG151/20が火を吹くが、なのははラダー操作を駆使し、火線を避ける。そして、操縦桿を思い切り引き、スロットルレバーを引き、急上昇に移る。ジェットに比べると、だいぶ緩やかであるが、レシプロ機の範疇では速いほうだ。そして、宙返りで背後を取った瞬間に機銃を撃つ。
「そこっ!」
小気味い発射音と共に放たれた20ミリと12.7ミリ機関砲弾はメッサーシュミットの尾翼を吹き飛ばし、片翼をへし折る。パイロットはキャノピーを開けて脱出していく。
「低空の格闘戦なら日本機が上だ。思い知ったか、ゲルマン野郎ども!」
と、一端のパイロットらしい台詞を吐くなのは。次いで、最重要目標のスーツカを発見。下方からの突撃戦法でスーツカを照準器に捉える……。
――この操縦技能の事は別の世界の自分には大いに驚かれており、ジェット・レシプロ機共に操縦が可能と言ったら、天地がひっくり返るくらい驚かれたのを思い出し、なのはは苦笑いを浮かべる。
(そいや、帰る前に飛行機動かせるって言ったら、向こうのあたしが天地がひっくり返るくらいに腰抜かしてたっけ。まぁ、ジェット戦闘機のみならず、紫電改や烈風、キ44、キ84、キ100の運転出来る様になるなんて、あたしだって思わなかったさ)
――なのはは、今次事変では、黒江らとの連携の必要もあり、ジェット戦闘機とレシプロ戦闘機の技能を完全に身につけた。総飛行時間は400時間程度だが、空戦魔導士である都合上、空戦の基本は身についており、即戦力として飛んでいた。その事を併せて伝えたら、腰を抜かされて涙目になられたのだが、当人としては『必要に迫られて身につけたスキル』なため、どう返したらいいのか困ったものだ。あるときは第二次世界大戦さながらのレシプロ機による空中戦、またある時はジェット機による空中戦を行うので、双方の時代の空戦を理解できた。そして、別れる前に別の自分に苦言を呈したことも思い出す。
――魔法が全てだと思っていたら、どこかで必ずしっぺ返しが来るそ。魔法が使えない人間や、才覚に恵まれない人間のことを少しは考えろ!他人の無茶を多少でも許してやれ!自分一人で問題を抱え込むな!
自分はゲッターロボ號に撃墜された事で、『力に溺れれば、更なる強大な力に滅ぼされる』事を痛感している。しかし、別の自分は魔法の才覚に恵まれない他者の事を表面上は理解しても、本質的には理解できないという天才故の弱点の一面がある。それ故に、戒めとして『修正』と共に言い放ったのだ。
(どこの世界もだけど、天才ってのは凡人をどうしても見下す性質あるからな。なんとやらって奴だよなぁ)
客観的に『以前のまま成長した自分』を見ることは、本来、自分が持つはずだったトラウマや性質を見つめるいい機会となった。どうしても言わなくてはならない事だけを、要点を詰めて言い放った。別の自分はまさか自分自身に殴られるとは思ってみなかったのと、『殴られる』事自体が幼少期以来、久しかったから、目を白黒させて呆然としていた。『殴って』叱る事は誰れもが通る道だが、どうにも自分自身を殴るのは気が引けた。だが、やらなくてはいけないという気持ちから行なった。
(やりすぎた感あるけど、まぁ、ブライト艦長も『殴られずに一人前になった奴はいない』って、常々言ってるからなぁ)
――未来世界の軍隊では『奮起や反省を促す意味で殴る』という行為が風習として残っている。なのはも、この8年間で数回は修正された経験がある。軍隊には、体育会系な風習があるからだ。それを当たり前として受け入れている辺り、すっかり地球連邦軍に染まっているのが分かる。空戦中にこのような事を考えられる辺り、元来の空戦魔導士としての才覚が伺えた。
「フェイトちゃん、援軍はまだ?」
「あと5分で到着するそうだ!」
「弾数が減ってきたから、速くしてもらってくれ!」
「了解!」
5式戦はだいたい、ホ5で400発(一門200発)、ホ103で500発(一門250発)を搭載している。一昔前の海軍機より戦闘継続能力が高いが、一機辺り、一回の戦闘で多数の敵機を落とす事は余程の手練しか出来ない芸当である。ドイツ軍は大戦末期には米軍対策で単座戦闘機の重装甲化に邁進したため(これが英軍ならば楽だが)、落ちにくいのも関係していた。」
「さすがに後期型のメッサーはそこそこ頑丈だな。まぁ、フォッケウルフよりは遥かにマシだけど」
なのははスーツカを一機落とし、次のメッサーに狙いをつけつつ、敵機がメッサーシュミットであることに安堵している台詞を言う。ドイツ軍の誇る、もう一方の戦闘機である『フォッケウルフ』の重装甲に手を焼いているのが窺える。液冷式エンジンは被弾しまくると、冷却液漏れを起こすので、メッサーシュミットはフォッケウルフに比べれば『撃退し易い』。エンジンに被弾した一機が任務継続困難と判断し、帰投していく。そして、西方から、空母から発艦した紫電改と烈風の混成編隊が飛来し、メッサーシュミットとスーツカを追い散らしていく。
「お嬢ちゃん達、待たせたな!後は俺達に任せておけ!」
編隊の隊長から通信が入る。なのはとフェイトは燃料と弾薬が少なくなっていたので、後を任せて、基地に帰投する。
――それから数十分後
「ご苦労さん」
「どうでした、大尉。私らの空戦」
「モニターで見てたが、翼で落とすテクニックを身につけておけ。弾薬が無いときとか、結構役に立つぞ」
出迎えた菅野は小柄な(成長期ながら、150台前半)体格かつ、見かけは年下ながらも、出会った時はなのは達のほうが年下であった事や、軍での立場上、なのは達の上官なので、タメ口で接している。それを事情を知らない一般局員が不思議そうに見ているが、菅野は気にしない。
「翼、ですか?」
「そうだ。あれも立派な武器になり得るぞ。今度、レクチャーしてやる。俺は今から、新鋭機の試運転に行ってくる。源田のオヤジに頼まれてるんだよ」
菅野は飛行機の翼をも格闘戦に使えと、二人にレクチャーする。そのコツを教えてやると言い、二人と別れる。何でもジェットストライカー『F-86』の試運転があるからとの事だ。
「源田のオヤジって?」
「源田実少将閣下。史実だと、後に空自の第三代幕僚長になる人だよ。もうじきで扶桑には空軍ができるそうだし、総司令官に内定してるそうな」
「へぇ〜」
菅野と別れた二人は、菅野が言及した『源田実』司令の事を話題にしつつ、自室に戻って休む。その際にフェイトが見た夢は、先ほどとはまた違う夢で、ドラゴンボールの夢だった。
――夢。
「ふふふ……小娘ごとき、この桃白白様の敵ではないわ〜!」
フェイトは今回、ドラゴンボールでも割と初期の敵『桃白白』にボコボコにのされていた。ドラゴンボール世界では、桃白白はミスターサタンより遥かに超人なものの、最終的にはヤムチャにもデコピンで倒されるほどの実力差が生まれ、驚異的なレベルアップを遂げたZ戦士(ドラゴンボールZ以後の戦士達の通称)達から見れば『目くそ鼻くそ』以下かもしれない雑魚でしかない。
(くそぉ〜!なんだってタオパイパイごときに、ボコボコにされなきゃならないんだ〜!せめてラディッツ、いや、ナッパ当たりならいいのにぃ)
愚痴るが、設定上では、桃白白とて常人と比べれば超人の域だ。
(確か、設定上は天下一武道会に悟空が青年として初めて出た時で、戦闘力300くらい。Z戦士の戦闘力は最終的には、クリリンやヤムチャでも数十万、悟空とベジータの子供達で数十億、悟空とベジータは神の領域に突入してる。妥当な線なのか?これ……)
「お嬢さんは所詮、この桃白白様の敵ではない!喰らえぃ!どどん波ぁ!」
――どどん波。最初期に天津飯などが使用していた技である。設定上は『俄仕込みのかめはめ波など到底及ばない』威力とされるが、悟空らが超サイヤ人へ覚醒した以後は形骸化(忘れられた)した設定で、超サイヤ人のオーラに容易くかき消された場面もある。(地の戦闘力に十万単位で差があると、オーラを突破不能らしい)どどん波は真っ直ぐにフェイトに向けて突進していき、展開された三重の障壁を突破され……目の前にエネルギー波が迫る。もう防ぎようがない距離だ。
「うわああああああ!?」
そこで目が覚め、飛び起きる。時計を見ると、まだ朝の5時半であった。カレンダーを見ると、休暇を4日ほど取っていた週の一日目だ。なのはは性格がズボラになったためか、毛布を蹴飛ばして寝ていた。
「クソ……今度はドラゴンボールだ……。しかも桃白白ごときに……。今日から休暇だし、買いに行くか……よっほど行きたくないんだなぁ、私」
如何に飛天御剣流を得た身でも、流石にドラゴンボールの世界を見つけてしまうのが恐ろしいという心情が反映された夢だった。額には冷や汗タラタラで、手も汗が吹き出ていた。恐怖と言っても過言ではない。それを払拭せんと、フェイトはある決意をした。それは……。
「ん?どうしたんだ、フェイト。旅行用のキャリーバッグなんか持って。それに、どうしたんだ、その目のくまは」
「ちょっと、地球に買い物に行ってきます」
「地球って、どこの地球だ?」
この時期、地球は複数あるため、『どこの』と形容詞を付けなくては区別がつかないのだ。
「今回は私達の地球ですよ。確か、今週はブッ◯オフでバーゲンしてるんですよ」
「それで何を買うんだ?」
「ドラゴンボールのDVDと漫画ですよ」
「お前…。昨日、なのはから聞いたが、今度はそれか?」
「はい」
キャリーバッグを引いて、出かけようとしたフェイトを見かけた箒は事情を察した。よほど屈辱的な夢だったのか、フェイトの目には隈ができている。何か鬼気迫るものを感じた箒は、念のために自分もついていくことにし、自分も連合軍の最高責任者となったインテグラに休暇を申請、その場で承認された。フェイトは夢の中とは言え、ドラゴンボール世界でのザコ敵(当初は手ごわかったが)と言える桃白白に倒されたのが悔しかったのか、この休暇でドラゴンボール関連のメディアを買いまくり、箒に「お前、どこに置くんだ?そんなに……」と突っ込まれたとか。後年に『本当に発見された時』、この夢の経験が生きたかどうかは定かで無い。
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