短編『フェイトの珍道記』
(ドラえもん×多重クロス)
――フェイトは、自らの性格が引っ込み思案気味だった幼少期とかけ離れてきているのを10代後半には悟っており、『偶には守られる側に回ってみたい』という密かな願望を抱いていた。
「ったく、偶には守られる側に回りたいのに、なんでこういう役回りが多いんだぁ〜!」
と、大空に向けて叫ぶフェイト。勇ましさが近頃は任務の性質上、どうしても必要なため、局の部内からも最近はそういう目で見られている事が密かな悩みであった。
「ハハハ、まぁ仕方がないさ。君は今となっては、刀を挿してるイメージのほうが定着しているからね」
仮面ライダーV3こと、風見志郎が大笑しながら肩をポンと叩く。フェイトの願望はある意味では、彼らによって叶えられているので、贅沢といえば贅沢だ。
「風見さん、それどーいう意味ですか〜!?」
「おっと。すねないすねない。君の次の任務が決まったそうだ」
「話題を逸らさないでください〜!で、どんな任務です?」
「ほら、君がこの間、発見したガールズ&パンツァーの世界があるだろ?そこの世界はか、その更に平行時空かはわからんが、また行くが、今度の舞台は空だ」
「空?どういうことですか」
「その世界は戦車道の他に、学校が大戦期の戦闘機・爆撃機・攻撃機・偵察機・観測機を保有し、縄張り争いをしているらしいのが判明してな。今回、その高校の内の一つに潜入捜査を行う」
「は、ハァ」
――ガールズ&パンツァーの世界は陸で戦車道が、空では学校同士で制空権を争うという、他に類を見ない世界であるのがこれまた判明、フェイトはその高校に学生として潜入捜査を行うことになった。今回の舞台は空であるため、得意分野ではある。自家用に確保しておいた、キ100『五式戦闘機』を持ち込んで、その学校に『編入』することになり、編入試験を合格し、二年に編入される形で、二度目の学生生活となったのだが、その初日からいきなりの空戦であった。
「さて、面白いところに出くわしたな。五式戦での肩慣らしに丁度いい」
フェイトは五式戦を突撃させる。飛行64戦隊のノーズアートが描かれ、旧軍迷彩をばっちり再現した五式戦闘機は、その正面からのシルエットから、フォッケウルフと取られられる事もあるが、飛燕と共通点が多いことから、日本機であると、相手側が認識したのはすぐだった。
「なっ、日本機だと!?あれは飛燕……いや、五式戦!?」
米軍の使用していたP-40に乗る相手方は、フェイトが駆る五式戦に驚愕する。五式戦は紫電改よりも現存数が希少なためか、市井にはあまり出回っていないからだ。
『キ100だと!?どういう事だ、あれは俺の同型機より希少だから、市井ではそれほど出回っていないはずだぞ』
フェイトが乱入した空戦を戦う、紫電改の心の声はその乱入者に柄にもなく『驚愕した』。キ100、即ち五式戦闘機は戦後の現存数が極めて希少で、日本の学生が稼働機を持てる程には数はないはずだからだ。
「五式戦!?どこのどいつだが知らないけど、落とされたいの!?退きなさい!」
P-40とドッグファイトを行っている零戦二一型に乗る少女が無線でそう呼びかけるが、フェイトはお構いなしに突っ込むと同時に、こう返した。
「悪いが、そのつもりは毛頭ないんでね!」
と。金星六二型ル(排気タービン搭載)を唸らせ、ドッグファイトを行っているP-40、スピットファイアの編隊、単機の紫電改、零戦二一型との間に割って入る形で介入した。年甲斐もなく編入先の高校の制服に身を包むフェイトは鍛えたその空戦の腕を見せる。
「あんたいったい何者!?」
「自己紹介しておこう。今日からそちらの学校に編入することになった者だ。私の名前はフェイト・T・ハラオウン。外国にいたんでな、日本は久しぶりだ、愉しませてもらおう」
フェイトはとっさに思いついたプロフィールをぬけぬけと話す。こういう豪胆さも執務官には必須の技能だ。
「あんた、その機体はどこで手に入れたのよ!キ100なんて、普通は軍事博物館でもないとお目にかかれないはずじゃ?!」
「知り合いに旧陸軍の航空兵だった人がいてな。その人が戦後のゴタゴタの時に飛行244戦隊の解散の時にかっぱらって秘匿してたのを譲り受けて、レストアしたのさ。ノーズアートはその人がその前にいた64Fのものだがな」
と、これまた思いついた出任せだ。半分は嘘ではないので、真実味はないわけではない。と、同時に襲ってきたP-40を軽くいなし、日本軍機の長所である『低空での神がかり的な機動性』で背後を取り、後期日本陸軍機の最高武装『二式二十粍固定機関砲』を機首・翼内(扶桑陸軍仕様なので、日本陸軍とは仕様の差異がある)の合計四門をぶちかまし、P-40の主翼を叩き折り、撃墜する。
「な、何よその武装!?五式戦にしては重武装すぎない!?どう見ても20ミリを四門積んでるようにしか」
「レストアの時に、翼内の一式十二・七粍を取っ払って二式二十粍に変えておいた。規格自体はそんなに変わらんから、換装は容易かったよ。君の名前を聞いておこう。名前は?」
「甘粕みやび。『零戦のみやび』って渾名されてる。地元じゃ名は知れてるわ」
「では、みやび。そちらに助太刀する。同じ学校のよしみだ」
フェイトはこうして、編入先の学校の飛行隊に加わる事になった。五式戦の乱入でペースを乱されたP-40側は、度々の動乱で鳴らしたフェイトの熟練した戦技の前に次々と不時着に追い込まれる。
「くそ、あの五式、強いですよ、酋長!」
「狼狽えるんじゃねー!くそ、あの紫電改のマキが第一目標だ!スピットファイア共は適当にあしらえ!ただ、あの紫電改のマキと『あいつ』は私が落とす!」
ウォーホークの隊長機が猛然と紫電改と零戦を追う。スピットファイアもそれに続くが、複数がフェイトに落とされ、隊長機と護衛だけが無傷であった。
「あの五式戦……中々やりますわね。戦い慣れしている」
「私達はウォーホークをお相手します。鮫島はあの子達に任せましょう」
スピットファイアの隊長は列機に指示を飛ばす。そして、ウォーホークの隊長機と紫電改、零戦、五式戦は追いかけられる側と追いかける側となり、市街地を乱舞する。
「みやびちゃん、隣りにいるヒコーキは誰なの?」
「うちの学校の編入生らしいわ。五式戦なんて大層な代物を持ち込んでくれたみたい」
「ふーん」
「と、いう事で一つよろしく。詳しい自己紹介は後だ。今やるべきことは……」
「……うん。分かってる!」
紫電改の少女――羽衣マキ――はフェイトの通信にそう答えると、自然に自動空戦フラップの作動スイッチを入れた。そして、紫電改の『声』に導かれるままに、空戦機動を行う。それはフェイトから見ても、実に見事な機動だった。
「戦技『昇龍』!」
その技は紫電改乗りである菅野がこの場にいれば、間違いなく唸るほど見事な錐揉み上昇からの一撃だった。ウォーホークはこれにより撃墜される。フェイトはちゃっかりとバルディッシュに一部始終を録画させており、後日、64Fにこの機動は伝えられ、扶桑ウィッチの戦技になるのであった。
帰還の途上、マキとフェイト、みやびは改めて自己紹介しあい、フェイトは帰還後、直ちに石神女子高校の義勇部隊『石神新選組』に志願の運びとなった。
――その次の日のこと。石神新選組にて整備を受けるフェイトの五式戦だが、整備のためにエンジン部を開けてみると、金星ではあるが、かなり手が入れられている事に、マキの親友で、整備担当者の長谷川素子は気づいた。
「うーん。こりゃかなり弄くってるなぁ。電装品はドイツの高精度なのに変えてある。ガソリンも凄いハイオク仕様だ」
「どうかしたの?」
「あ、お蛍さん。見てください。あの人の五式なんですが、相当カリカリにチューンしてます。ガソリンも120オーバーの高オクタン価ですよ」
素子に、メガネをしたロングヘアーの少女――石神女子高最高の撃墜王『古嵐蛍』――は答える。
「この近くのガソリンスタンドじゃ、そんなオクタン値の燃料は入手できないわね。今の御時世、せいぜい100オクタンだし。それに今の燃料は車を中心に無鉛ガソリンが大半だから、学校側もそれを推奨してるのよね」
「無鉛ガソリンを有鉛相当にする添加剤をガロン単位で持ってきたみたいなんで、この人にはそれと一緒に入れます」
――この世界ではレシプロ戦闘機が一般に払い下げされ、普及する過程で人体への影響などから、1960年代頃から無鉛ガソリンを航空燃料にする研究が進められ、双方に対応可能なレストアが推奨されるようになった。フェイトが持ち込んだ五式戦は有鉛ガソリン仕様のままなので、無鉛ガソリンを給油する際には添加剤を入れる必要がある。特に有鉛ガソリンが希少品になった都合上、そうそう添加剤を持ち込めるとは限らない。整備担当者としては悩ましい問題のようだ。
「然るべき時に、了解取って手を入れるしか無いわね。日本じゃ有鉛ガソリンは希少品だし、添加剤は遠征の時とかは持ち込めるか限らないし」
「ですねぇ。それと弾薬ですが、日本陸軍仕様の20ミリ機銃弾の確保できました。お蛍さんのはこれまた珍しい、マウザー砲搭載の丁型だったんで、弾薬の規格が違うから、買い物に苦労しました」
蛍の愛機『三式戦闘機飛燕一型丁』は川崎重工が輸入されたマウザー砲の残りを帳簿上の理由で積み込んだ特別仕様かつ機体製造精度が高精度だった『当たり』の個体である。そのため、他の飛燕よりも遥かに高火力で、彼女が名を上げる要因でもあった。弾薬の規格は当然ながら日本機とは違うため、買い物には『工夫』が必要であった。
「全機の弾薬は何発確保したの?」
「おおよそ数万発。当面の間は大丈夫です」
「新しい機体が増えないかぎりは大丈夫ね」
安堵する二人だが、奇しくもこの日、石神新選組を排除しようとする生徒会の差し金で、二式単座戦闘機が放課後に二機攻撃に現れ、たまたま地上でその様子を目撃したフェイトは二式単座戦闘機の動きを『二式単戦の特性を引き出せてはいない』と酷評した。鍾馗を手足のごとく乗りこなしている自らの師らに比べると、動きに『若さ』が目立つからだろう。事が石神新選組の勝利で片付くと、その操縦士だった、今時は化石級に珍しい『番長系ヤンキー』な二人の女子は軍門に下った。だが、計画が失敗した生徒会は、密約を結んでいた下北服飾専門学校からの制裁を受け、超重爆B29による絨毯爆撃を受けてしまう。
「B公だと!?この世界は何でもありか!?」
たまたま、学校に残っていたフェイトはそう毒づくと、暖機運転が済んでいた5式戦で迎撃に出、B29を本気で叩き落とす。これは相手側も驚愕し、密集隊形で迎撃するが、実戦で重爆と対峙していたフェイトには通じず、343空と64戦隊で用いられる逆落し戦法で死傷者の出ないように機銃を当て、不時着という形でB29は撃墜されていく。
「まさかこんなところでB公と戦うとはな……世の中わからんものだ。だが、私がいたのが運の尽きだったな!」
ホ5が打ち出され、B29のライトR-3350エンジンを複数撃ち抜き、停止に追い込んで不時着させる。また、フェイトは菅野から逆落し戦法を伝授されていた事もあり、機銃手やパイロットらからフェイトの顔が見え、これも恐怖を増幅させた。フェイトは『本番前の予行演習』とばかりに逆落し戦法を実践し、戦果を挙げ、すでに3機を『地面にキスさせた』。
「なんなんだっぴ!?あの五式戦は!?本気で私らを落とそうと……!?」
「ああ……、4番機が!?」
B29に乗る彼女らは恐怖した。『本気で自分達を撃墜しようとする』殺気を感じ取り、超空の要塞であるはずのB29がこうも容易く不時着させられるものかと。既に石神女子高の校庭には、不時着したB29の残骸が散乱し、脱出した乗員らが信じられないとばかりに呆然と立ち尽くしている。
「撤退、撤退だっぴ!このままあいつに攻撃されたら、全滅するっぴ!」
と、どこかの方言が丸出しの語尾と共に、B29による『懲罰隊』はその構成機の尽くを不時着させられ、捕虜も出す醜態を晒した挙句に撤退した。また、この時のフェイトの奮戦は直ちに各校にネットで伝えられ、『石神女子高に大物が現れた』という急報が駆け巡ったという。また、その翌日には生徒会が密約を結んでいたのが明るみに出、生徒会の責任問題にまで発展し、生徒会長の鷹司恵は生徒会への批判を躱す目的もあり、自身が潰そうとした石神新選組を活用する方針に180度転換。これに、自身が生徒たちに後ろ指を指されるのを恐れた生徒会役員達も同意し、石神新選組は一夜にして、生徒会公認組織と化した。生徒会は「力の庇護無き話し合いは何ら意味を成さない」事を身をもって思い知らされた結果、腹をくくった会長の一存で、全面的に石神女子高が新選組を支援する事となった。
――放課後、ハンガー
「でも、いきなり生徒会が手のひら返しをするなんて、おかしくないですか?姉様」
「どうしようがない危機になると、それまで疎んじていたものが有益とわかると、途端に手のひら返しをするのが人間よ。昔、旧軍が解体された後、GHQは軍の飛行機を武装状態のままで払い下げ、学生へ支給した。それが今のヒコーキ通学の起源とも言われてるわ。朝鮮戦争が全面戦争になった場合は学生を義勇航空隊として、GHQが送り出す計画もあったって与太話もあるくらいよ。今の自衛隊だって、強行な廃止論が大地震が二度遭ってからは何も聞かなくなったように。かつての私もそうであったように」
蛍はかつて、西東京を巡る大空戦で、羽衣マキの駆っている紫電改の先代搭乗者『紫電改のマキ』の列機として戦っていた。当時は高1だった彼女に取って、先代の紫電改のマキは尊敬する先輩であり、西東京をまとめるのに、彼女のネームバリューを使った程だが、蛍はそれを嫌ったために、後ろ指を刺される一年間を過ごした。それ故、保身を図る生徒会へ理解を示したのだ。
「で、あの編入生……フェイトとか言ったわね……はどこに?」
「あの子は二年に編入したわ。だから、あなたの先輩になるわね」
「え、えぇ〜!?」
「あの子、相当に経験を積んでるわ。去年のあの戦いに参戦していたわけでもないのに、B29を翻弄してみせたあの腕……あなたに匹敵するかもしれないわね」
「なっ!?姉様!」
「あなた、巴戦であの子に勝てる自信は?」
「あります!零戦は巴戦で最強です」
「低速なら、ね。高速戦闘に持ち込まれたら零戦では無理よ」
蛍は『零戦二一型は最高の運動性能を持つとされているが、時速300kmを超えると舵の効きが極端に悪化する』という零戦二一型の最大の弱点を指摘する。そこに持ち込まれれば容易く零戦は撃墜される。それが日本軍が急激に制空権を失っていった要因なのだ。
「ぐぬぬぬ……」
「近いうちに二二型相当に改造しないといけなくなるかもしれないわね。大戦後期の機体が得意な土俵で襲ったら、二一型で取れる戦法は限られるから」
「う〜、分かりました」
蛍は零戦の弱点を改修するには、歴史通りに改修を重ねるしかないと示唆する。みやびは不服そうだが、二一型の限界は熟知している故、近い内の改修は了承した。
「遅れてすみません」
「来たわね。今日はあなたの腕を改めて、確かめさせてもらうわ。良いわね?」
「構いませんよ」
フェイトはこの申し出に応じ、五式戦で石神新選組の古参組に挑む事になった。空で見物となった紫電改の羽衣マキ、地上では、先に軍門に下ったばかりのヤンキー二人組『風神・雷神』が管制塔に控えていた。
「さて、VFで鳴らした腕を見せてやるか」
フェイトは早速ながら、343空の面々から教わった逆落とし戦法を実行し、みやびと零戦を奇襲。ペイント弾ながらも肝を冷やさせる。
「悪いな。先手は取らせてもらったぞ」
「逆落し戦法なんて、味な真似をしてくれるわね!だけど、巴戦で零戦に勝てると思ってるの?」
「零戦の特性は『知っている』さ。よく、な。二一型では私の背後は取れんさ」
「〜〜言ったわね、望むところよ!」
フェイトはみやびの技量を推し量るため、敢えて挑発的言動を取り、巴戦に持ち込んだ。みやびは二一型の得意とする左旋回を活用した巴戦に持ち込むが、フェイトはそれを『読みきった動き』でみやびに背後を取らせない。
「さて、『戦いの年季の違い』というのを見せてやろう!!」
フェイトは無線でみやびに向けて、そう言い放つと、五式戦の飛行性能を活かし、ズームアンドダイブと高速での横転性能の違いを活用し、みやびの射撃を尽く躱す。
「くっ、横転性能が違うだけで、こうも当たらないの!?」
みやびは一度のみならず二度も、自身の攻撃を躱された事で焦りを見せ始める。二機は今、フェイトがハイ・ヨー・ヨーで、優速の五式が零戦のみやびを追い詰める側に回っており、みやびはフェイトの巧みな機動の前に背後を取り返す事もままならない。空戦はジェット機含めた空戦に慣れているフェイトの経験勝ちとも言える様相を呈し始めた。
(ぐぬぬ……!なんであいつはこんな高Gにも音を上げないわけ!?ケロリとしてるし!)
みやびは短時間に立て続けにかかる限界ギリギリの高Gに、肉体が先に悲鳴を上げ始める。対するフェイトは、AVFで常軌を逸した高機動Gに体を鳴らしていたため、顔色一つ変えていない。
「ならっ!」
みやびは最後の手段で急上昇に移った。零戦は6000mまで七分台の上昇力であり、1000馬力級としては比較的高い。だが、五式戦には及ぶものではない。それを熟知するフェイトは追従し、ループし終えた瞬間、みやびが左旋回を再度行ったのを逆手に取り、逆方法に旋回し、正面からの撃ち合いになった。みやびは若さ故、正面戦の判断が遅れてしまい、躊躇なく、ホ5の引き金を引いたフェイトに遅れを取った。
「……くっ…負けた〜〜!」
「言っただろう?『戦いの年季』の違いを見せると」
フェイトは重ねて、どこぞの人気漫画じみた台詞をいう。シャーロット・E・イェーガーとその漫画を貸し借りしている仲なのも関係していたが、とにかく勝利したというわけだ。
「次は私だね」
『あのお嬢ちゃんのキ100、相当弄くってるな。俺に並ぶか?』
「え、本当?」
『本来、あのキ100は飛燕のエンジン換装型に過ぎない。速力も俺に及ぶものじゃなかったが、エンジンをカリカリに弄くって、大戦中の俺様に匹敵しうる速力にしてる。旋回性能じゃ互角だろうな。それにあのお嬢ちゃんの経験度は明らかにそんじょそこらのガキ共の水準じゃねぇ』
と、どこぞのサイヤ人の王子を思わせる俺様キャラなボイスが頭に響くフェイト。自分とマキしか聞こえていない様子から推察するに、マキには魔導師の才覚があるのでは?と感くぐる。
「マキ、その紫電改……喋れるのか……?」
「え、あなたにも聞こえるんですか、コイツの声が」
『ハッハッハ、どうやらテメェにも俺様の声が聞こえるみたいだな』
「お前はドラゴンボールのキャラかっつーの、そのしゃべり方…」
フェイトはため息を付く。フェイトは魔導師である故か、紫電改の声が聞こえたのだ。零戦も意思があるようであり、少なくとも何らかの神格化をしているのは予測した。
『さて、楽しもうじゃねーか、お嬢ちゃんよぉー!』
マキの操縦する紫電改とフェイトの五式戦が対峙する。この空戦が引き金となり、彼女らの運命はフェイト達に巻き込まれる形で大きく変貌していく……。
――後日、ドイツ機を有する高縞平騎士団女子高校が石神女子高に宣戦布告しようと飛行隊を派遣した際に、フェイトは腐れ縁と言える者らと対面を果たす。
「やはり貴様ら、この世界にも潜り込んでいたのか、『ナチ共』!」
フェイトは空域に現れた、鉄十字と鉤十字を持つメッサーシュミットに毒づく。石神女子と、イタリア機を有する子金井ダビンチ高等専門学校との決闘に乱入し、大暴れする騎士団高機をも撃墜したBf109k型に乗っていたのは、かつてコンドル軍団で名を馳せたエースパイロット『ヴェルナー・メルダース』大佐だった。パーソナルマークで判別できたからだが、フェイトは彼が『生きている』事に驚愕し、思わず叫んでしまう。
「そのパーソナルマーク、……ヴェルナー・メルダース大佐!?バカな、あなたは1941年にHe111に乗っていて事故死したはずだ!」
その叫びで、その場にいた誰もがメッサーシュミットの操縦席にいる『青年』に注目し、驚愕する。操縦席にいたのは確かに、コンドル軍団最高のエースパイロットであったメルダース大佐その人だったからだ。
「可愛いお嬢さん。確かに私は一度は死んだ。だが、組織の再生技術によって生き永らえた。それだけのことだ」
メルダースはそれだけ答えると、高縞平騎士団女子高校、子金井ダビンチ高等専門学校を問わず、僚機と共に撃墜していく。Bf109Kの重武装もあり、同じメッサーでも、前型のG型では武装の差、メルダースとの飛行時間の絶対的な差などが立ち塞がった事もあり、騎士団高機の制空隊で無傷であるのは、最終的にエース格のみで、後は尽く撃墜されていった。
「馬鹿な……私達がこうもあっさり……!?」
「そこのメッサー!死にたくなかったら、とっとと失せろ!相手はwwUで名を馳せた撃墜王だ、お前らのようなヒヨッコじゃ、どう逆立ちしても勝てない!」
フェイトの呼びかけに、そのメッサーシュミットのパイロットである学生『湯音・ヘルシュタイン』は吐き捨てるように答える。
「仲間を落とされたのに、尻尾を巻いて逃げろと!?私はそんな事はできない!我が校の誇りにかけても!」
「馬鹿か!?相手はプロの軍人だ!それも地獄の東部戦線を戦ったエースパイロットだぞ!コックピット部を狙われたら、それで人生終了だ!それくらい子供でも分かるぞ!」
フェイトの強い語気に、湯音は気圧され、交戦を諦める。フェイトはこの時、学生としての姿ではなく、本来の姿の片鱗を見せ、周囲を唖然とさせた。湯音の直上からメルダースの僚機が攻撃をかけようとするが、一機の別の戦闘機が阻止する。それは戦後に実機が存在しないはずの艦上戦闘機『烈風』だった。
「あれは!?」
「日の丸の……逆ガル翼戦闘機!?」
『A7Mだと!?馬鹿な、あれは俺様と違って、試作段階だったから、終戦直後に全て処分されたはずだ!』
マキに紫電改が続ける。その声は明らかに驚愕仕切っていた。その戦闘機こそ、紫電改の後継に位置づけられていた烈風だったからだ。
「A7M!?何それ!?」
『零戦の奴の後継に位置づけられていた艦戦だ。あいつが1943年までに完成していれば、俺様は日の目を見る事はなかった。本来、俺はあいつのピンチヒッターで生まれたからな』
――A7M『烈風』は、日本最後の艦上戦闘機として知られる、零戦系統の正統発展型にして最終形態である。本来は零戦の後を正統に継ぐ者とされながら、開発の遅延で紫電改の次の世代として生を受けた。紫電改を凌ぐ性能と、零戦譲りの素直な操縦性から、紫電改の次の世代の次期主力機を期待されたが、時代はジェット機の足音が近づき、レシプロも時速700キロ台に達していたため、後世から有用性は疑問視されている。そのポテンシャルを発揮する前に終戦を迎え、試作段階の機体は全て処分されたため、この時代にフライアブルの現物はないとされている。レプリカを造るにしても、手間がかかりすぎて現実的ではないため、幻の戦闘機とされている。だが、今飛んでいる機体は紛れも無く烈風そのものである。
「イーヤッホーー!!」
烈風に乗っていたのは、なんと連邦軍指折りのエースパイロットのイサム・ダイソンであった。彼はフェイトと三羽烏の定時連絡の現場に居合わせ、くっついてきたのだった。ちゃんとレシプロ機に乗っているあたり、こだわりを感じさせる。
「……何してるんですか、イサムさん」
「何って、助けに来てやったんだぜ?もう少し嬉しがれよなぁ。お嬢ちゃん達も来てるぜ」
「あ、本当ですか……」
フェイトは諦めがついたようで、頭の上で閑古鳥が鳴いていた。イサムに続くかのように、四式戦と五式戦が飛来し、メルダースらの後から現れたBf109kやFw190A-5と『本物の空戦』を繰り広げる。従って、ダヴィンチ校にはドイツ機の残骸や破片が散乱することになり、同校はすっかり荒れ果ててしまった。
「あの機体はいったい何者なのよ!?」
「こっちの味方だ。私の師匠達が乗っている。15分もあれば撃退できるだろう」
フェイトのもとにやってきたみやびはその一言で目を丸くする。自分を模擬戦で圧倒したフェイトの師匠という言葉と、フェイトが上空の機体をそう評するだけの腕がパイロットにあるのを示す空戦技術の数々に、その場にいた誰もが唖然とし、沈黙する。15分かからず、エースパイロット含めた編隊を撃退した四機に否応なく注目が集まる。着陸し、パイロット達が降りてくると、ざわめきは更に拡大した。その直前に、イサムがいつもの竜鳥飛びをやらかしたのもあり、効果は絶大だった。
「オッス、急いできたぜ」
「イサムさん、烈風で良かったですか?あれしか回せなかったんですけど」
「俺にとっちゃ、飛行機がレシプロだろうが、ジェットだろーが関係ねーさ。要は飛べばいいんだよ、飛べば」
「相変わらずですね」
イサム・ダイソンはなんと、普段着で烈風を動かしていた。日頃からVF-19や29の超絶機動に身体を慣らしたため、レシプロ機のGはお遊戯のようなものであるのを示唆していた。
「フェイト、この人達が?」
「ええ。私の師に当たる人達です」
「俺はイサム・ダイソン。見りゃ分かると思うが、飛行機乗りだ。そこにいるお嬢ちゃん達の引率で来た」
「黒江綾香。フェイトの法的後見人で、空自の戦闘機乗りだ」
黒江は21世紀や20世紀後半で公に活動するために、なのはが防大に入る6年前(三人娘が小学校卒業時)に、時空管理局の協力で日本国に戸籍を作り、防大を経て空自に入隊し、未来世界での2202年次では、空自で一尉の位にあった。これは防衛省が時空管理局へ、『旧軍で佐官相当の地位にあるとは言え、こちらで佐官への昇任をするには、最低でも一尉として、数年の勤務実績が必要である』とごねた結果との妥協案で、昇任に必要な時間を短くするという措置が取られた(旧軍出身者がいた時代には、旧軍在籍時相当の階級で入隊した者がいたが、それらが居なくなって久しい時代故、官僚は融通が利かない)という。
「私は穴拭智子。神社関連の仕事をしてるけど、趣味で飛行機に乗ってるわ。綾香とは学生時代からの仲間よ」
「加東圭子、フリーのカメラマン。右に同じく、綾香は学生時代の親友よ」
と、異世界に行く時用の偽装プロフィールをスラスラと述べる三羽烏。この時期にもなると、実際にその仕事をしているところをのび太の両親に見せる必要があったため、完全な嘘では無くなっていた。そのため、すっかり板についていた。
「石神女子高校、石神新選組の隊長をしています、古嵐蛍です。この度はありがとうございます」
「フェイトからの連絡を受けて、着の身着のままで来たから、見苦しいと思うが、まぁ、そこは流してくれ」
「は、はぁ」
三人の服装はバラバラで、普段着代わりの扶桑陸軍戦闘服姿、スーツ姿、フライトジャケット姿と三種三様だった。乗ってきた機体はどれも大戦末期の日本軍機であった事や、披露した空戦技術がすば抜けていた事から、学校の所属を問わず質問攻めにあった。特に、石神女子の、鍾馗を愛機としている風神雷神コンビは、鍾馗の正統後継機に当たる四式戦を駆った智子に質問攻めした。この時期には実年齢は23歳に達しているため、智子は質問に快く応対し、風神雷神コンビを喜ばせた。智子は同時に「二式はドッグファイトできないわけじゃない」とも語り、鍾馗でのドッグファイトを見せると豪語した。だが、戦闘は一応は勝利したものの、目を覆うほどの惨状には変わりなかった。ダヴィンチ校は騎士団高とそれに続いたバダンの襲撃とで、壊滅的損害を被り、最終的な稼働機は、戦闘機がRe.2002が僅かに五機、MC.202が二機、MC.205が一機という惨状となり、まともな制空航空隊としての行動が困難になるほどになった。学校施設そのものにも損害が出ており、学校の授業すら支障を来すほどに痛めつけられた。
――数時間後 ダヴィンチ校
「死傷者が出てないのが不思議なくらいね」
「騎士団高の襲撃に加え、あなた方のいう『ナチス残党』の爆撃で、この学校の稼働機は二桁行けば良い方に落ち込みました。恐らく、生徒会は紛糾するでしょう」
「あいつらは情け容赦ないからなぁ。機銃掃射痕もかなりある。どうするんだ、この学校」
「飛行隊の立場は危うくなるでしょう。稼働機も十機台になれば、活動も縮小せざるを得なくなるし、学校内の批判の矢面に立たされるのは目に見えています」
「奴等はまた襲ってくるだろう。君の学校を拠点にさせてもらう。既に防衛省や幕僚監部、それと文部科学省には許可を得てある」
「手際いいですね」
「これでも『職業軍人』なもんでね」
黒江は職業軍人と言うが、これは自衛隊でも同じで、自衛隊に旧軍出身者がいた時代、自衛官という肩書で自らを評さず、職業軍人と公言する人間は多く見られた。黒江は元の世界で職業軍人な都合、自衛官になっても『職業軍人』と公言していた。黒江はいざという時のために、F8Uも運び込んでおり、日の丸標識の同機が石神女子高に運び込まれていた。
「これからどうなるんでしょうか?」
「奴等は第二次世界大戦の復讐を超えた何かを目指している。君らに喧嘩売ったのは、ウォーミングアップの一環だろう。それであの戦果とは、流石はコンドル軍団だよ」
黒江は蛍に、はっきりと、先ほどの戦いを敵の『ウォーミングアップ』と告げる。
「知っての通り、憲法の縛りもあって、我々が動くと政治屋や市民団体が五月蝿い。君達に矢面に立ってもらうしかないのが現状だ」
そう。どこの世界でも、自衛隊は軍事組織ではあるが、警察官僚がシビリアンコントロールを大義名分に、多くが入り込んでいる上に、憲法の縛りで、悪く言えば『どこかが被害受けなければ動く大義名分が得られない』組織である。これが自衛隊の問題点であった。
「分かっています。私達の空は私達が守ります。それが先輩たちから受け継がれた矜持であり、伝統ですから」
蛍は自らの空域は自分達が守るという決意を改めて示す。だが、前途は多難であった。蛍の機体は飛燕の一型丁であり、性能レベルは1942年前半期までの水準でしかない。対する相手方の戦闘機は基本的に大戦末期の高性能化した最終モデルで、平均で時速700km台に達し、場合によればジェット機もあろうかという軍備だ。
「君のキ61だが、あれは一型だろう?」
「はい。そうですが?」
「エンジンをハ140に変えて、二型相当以上にパワーアップするか、いっそのこと、マーリンでも積むかい?」
「マーリンに?可能なんですか、それは?」
「マーリンなら、エアレーサー機のチューンレシピがいくらでもあるからな。やろうと思えば可能だろう(ヒガシのやつが試験的に、アフリカでやらせたそうだしな)。相当な改修が必要だろうけど」
飛燕を液冷機のままで運用しようとする場合、高性能液冷エンジンに換装する必要がある。特に飛燕のハ40はカタログスペックで1100馬力(実際はそれより低い)しかなく、大戦末期の高性能機には対抗する以前の問題である。そこで黒江はフェイトにマーリン・エンジンを鹵獲させておく一方で、サンプル代わりに川滝から埃をかぶっていたハ140を取り寄せるように取り計らった。
――同時刻 石神女子高
「オーライオーライ」
自衛隊の73式大型トラックから梱包されたハ140とマーリンエンジンが卸される。その運搬を担当しているのは、黒江が自衛官として属する部隊の部下や同僚だったり、その自衛官の命令で動く、この世界の自衛官だ。
「飛燕の装備レイアウトは倒立用だったから、エンジンカウルを新造したが、届いているか?」
「ハッ」
自衛官が梱包を開け、エンジンとエンジンカウルの噛みあわせ、マーリンをつけた場合、飛燕にどうやってつけるのかという試行錯誤を行った後らしく、エンジンカウルは両方が用意されていた。
「しかし一尉も無茶言うもんだ。飛燕にマーリンエンジン積めるか検討しろ、なんて」
「あの人、本当に何者だ?官庁にも顔が効くようだし、背広組をいとも簡単に丸め込むなんて……」
「女にしておくのが惜しいくらいだよ。背広組のナニでも握ってるのか?」
「さあ。あの人の気質はどこか、完全な武官だった旧軍人に近いモノがあるからな。背広組からは受けが悪いらしい」
「ああ、警察からの出向や、防衛官僚共は旧軍人のような気質にアレルギーあるからな」
自衛隊は現場などの制服組と官僚組の派閥に大別できる。官僚組は当初、旧軍人を排除しての再軍備を目論んだが、現実はそうはならなかったため、GHQの擁護で復権を果たした旧軍人らを疎んじた。対する旧軍人も官僚らを「軍事の素人」と侮蔑したのが、双方の派閥の始まりである。世代交代で旧軍人と旧内務省出身官僚がいなくなった後も、依然として対立は続いており、黒江の折衝力は制服組に大いに重宝されていた。自衛隊が持つ組織上の問題点は、21世紀になっても、旧陸海軍軍人と内務官僚が対立していた時代の悪弊が排除しきれないところが大であった。旧軍人の武人的雰囲気は背広組の嫌う所で、それを持つ黒江は疎んじられているのが現状だったが、実家がかつての国会議員かつ、航空幕僚長であり、旧海軍343空司令でもあった源田実と何かかしらの関係があった事を匂わせている事もあり、背広組からは必要以上に警戒されていた。
「一尉の雷電はどうか?」
「ハッ、あと数分ほどで到着見込みです」
「よろしい」
彼らは黒江の手配に則って仕事を進めていた。今回、黒江は自身の乗機の一つとして、J2M『雷電』を確保し、運ばせていた。雷電は海軍が誇ったインターセプターで、陸軍航空審査部時代、キ44改良型のテスト中、常に同時期に海軍でテストされていた試作段階の雷電と比較されていた事から、その性能に興味を持っていた。その縁で元の世界の厚木空の余剰機を貰い受けたのだった。(なお、海軍局地戦闘機は最終的に空軍に移管になったため、機体の確保がしやすかったのもある)
「来たな」
運搬担当パイロットにより持ち込まれる雷電。フルチューンされており、R-3350をチューンした上で無理矢理積まれているため、側面のシルエットが原型機と違い、大根に尾翼を付けた様なシルエットの外観となったなどの差異があり、武装は五式三〇ミリ砲四門(機首装備は撤廃された)、機上電探完備であるなどの特徴があり、雷電の胴体を持つ『別の何か』と言っていいほどの差異がある機体だった。
「あのーこれは?」
「我々の上官が使う機体だよ。雷電をベースに、スカイレイダーのエンジンぶっこんでチューンしまくった『魔改造』機だ」
「これが雷電!?」
雷電である事の面影は見いだせるが、アビオニクス関連中心の魔改造ぶりに、紫電改などの整備担当者『長谷川素子』はびっくり仰天した。
「雷電って、あの雷電ですか?」
「そう。あれ」
「嘘ぉ!?」
戸惑いまくる素子だが、この後、自衛官からレーダー機材などについての即席講座を受け、更に自衛隊の整備担当者がF8Uを担当する事が伝えられ、ひとまず安堵するのであった。
――この世界での戦いの続きはまた、別の機会に語ろう――
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