外伝その1


連邦政府はなのはやフェイトからもたらされた「時空管理局」という組織の情報を入手。その存在を認知し、平和的な共存を目指して彼等の痕跡を探索した。そして7月の中頃、管理局側の新鋭艦であるXV級次元航行艦の一隻が補給物資を現地の局員に届けるべく、衛星軌道に出現したのを、処女航海中だった、連邦の中でも強力な部類に入る、波動エンジン搭載艦の中でも、最新鋭のできたてホヤホヤの戦艦“アンドロメダU級一番艦 メネシス”(かつての本星防衛艦隊旗艦であった、宇宙戦艦アンドロメダの改良型。本来は同級同型艦の一つとして、対白色彗星帝国・本土決戦に備えて建造されたが、完成率80%の状態で終戦を迎えた。その後に建造段階であった本艦は波動砲を拡散式から収束式に直すなどの改良が行われた上で、2199年4月に就役した)が接触。ここに管理局との正式な接触が行われたのである。


――ファーストコンタクト自体は決して良いものではなかったが。

















「あなた方はいったいこの世界に何をお望みなのです?」

「……フゥ。一言で言うなら科学兵器を一切放棄し、我々の管理下に入るのです。さすればこの世界を我々が守りましょう」

このXV級の艦長は出会い頭にこう言った。この一言は後にリンディ・ハラオウンを始めとする、穏健派をして、『我々の最大の失態』とも言わしめるファーストコンタクトであったと記録される。当然、地球側の彼等への第一印象は最悪そのもの。この後、管理局は色々な理由で、この世界との関係改善に躍起になり、この艦長は失態の責任を負わされて、僻地送りとなったが、それはまた別の機会に語る。時空管理局の問題点は上層部にさえ国粋主義的な極右思想が少ながらずあることで、時空管理局の内部の間でも管理世界とのトラブルを招く要因であると問題視されていたが、ここでそれがこの士官によって表に出てしまったのである。事実、この航行艦の艦長は「科学兵器の放棄」を自分達と対等に接する条件として平然と突きつけた。これが彼が後に左遷焦られる要因となる。これが局員の総意でないにしても、危険な香りが漂っているのを連邦宇宙軍側は感じ取った。


「なるほど。それがあなた方の、いや、あなたご自身の『未開の地』に対する考え方か。勘違いも甚だしいですな」

ため息をつきながら『メネシス』の艦長はおどけた動作を見せた。こういう態度は自分が一番だと思い上がった国々によく見られた傾向で、ベトナム戦争前の米国の軍人らもこのような傾向があったと、艦長は苦笑する。



「ほう?それはどういうことですかな」

「あなたはどうも、歪んだ選民意識をお持ちのようだ……。多くの脅威と戦ってきた我々の力を甘く見ないでもらいたい。それを今ご覧に入れましょう」

彼は窓に映っているメネシスに視線を移す。―すると。メネシスの艦首の二つの砲門からまばゆい青色の光が収束していくのが見える。目標はこの艦の近くで漂っている、100年ほど前の某国の廃棄資源衛星である。砲門から溢れんばかりのエネルギーが充填されたと思った瞬間。2つの閃光が発射され、直撃された廃棄衛星は塵一つ残さず消滅した。

「これが我々の持つ力の一端、波動砲です」



彼は勝ち誇るように微笑を浮かべ、「あれはまだ五分の一程度。最大出力なら惑星をも貫いて破壊できる」とも付け加えた。これはまさしく、連邦軍による砲艦外交と言えるものだった。強力な戦艦を用いて相手を恫喝、とまではいかないもの、相手側に重大な衝撃を与える事に成功し、連邦側と管理局側が対等に交渉を行えるところにまで持ち込んだのである。

「……さあ交渉を再開しましょう」

ニヤリと笑いながら「メネシス」艦長は何事も無かったかのように振舞う。それは管理局側にはかえって恐怖心を煽られる形となったという。この後の交渉はすんなりと進み、やがて政府間の交渉に写った。相互の防衛を分担する 『安全保障条約』の締結と、通商の開始、連絡機関を置くことが合意され、第120管理外世界は観測指定世界へその分類を変えられた。そして地球時間の2199年7月19日を持って双方の国交が開始されたのだ。





―後日 日本 地球連邦軍 時空連絡局(管理局との外交を担当する所轄。条約に基づいて設立)

「局長、管理局より通達が」

「何?で、内容は」

「ハッ、『我、並行時空の地球を発見』だそうです。」

「ううむ。たしかロンド・ベルにガンダムタイプを運ぶ任についていた空母艦隊がいたな?」

「第一航空艦隊ですか」

第一航空艦隊。それはかつての白色彗星帝国との戦いで損傷し、辛うじて帰還したもの、大破状態のままだった波動エンジン搭載型戦闘空母を戦後に修理、今後の反攻作戦に合わせる形で急ぎ、再就役させた艦船で構成されている艦隊。現在の連邦軍の立て直し中の体制下ではほぼ唯一の純粋な空母機動部隊(空母中心編成という意味では)と言える。

「今の旗艦は赤城だったな?」

「はい。艦隊司令に電話が繋がっています」

「分かった」

局長は電話を取り、しばらく話をすると苦々しい表情を浮かべて受話器を置いた。


「管理局と共同調査だそうだが、はたしてどうなることやら」

「奴らの動きしだいですか?奴らはまだ我々に恐れを抱いているらしいと噂ですが」

「そうらしい。まあ下手に我々がでしゃばるわけにはいかん。しかし大いに役立つぞ。何せ赤城には例の機体があるのだからな」

「ああ、ガンダムF91の量産試作機にダブルゼータですか?あれなら奴らも我々をなめることはないだろう。君、その世界の詳細は掴めているのか?」

「通達と共に送られてきた書類によれば、どうやら`ネウロイ`という脅威のせいで、WW2が起きずに世界規模で戦闘状態にあるようです。目的地はこの世界における日本に当たる、扶桑皇国だそうです」

「縁起が悪い名前だ。扶桑はたしかレイテで真っ二つに折れて瞬時に轟沈した戦艦だろ」

「ですが、その国の国力はこちらの大日本帝国を遥かに超越しており、20世紀終わりごろの戦後日本にも引けを取りません。どうやら鎖国が行われずに積極的な海外進出が行われた結果のようです。最盛期の大英帝国並ですよこれは」

「それはすごい物だな」

「艦隊は既に現地に向けて出発したとのことです。果たしてどうなる事やら」

「さあな。後は天命を待つのみだ」

現地に派遣された第一航空艦隊はかつての大日本帝国海軍の栄光ある第一航空艦隊の名を受け継いだ精鋭部隊だ。そう簡単にやられるハズはない。彼はそう思いながら政府へ報告書を提出した。「第一航空艦隊、出征ス」と。物語はここから始まる。行き先は微妙に違う歴史を辿り、国の名前も「ブリタニア連邦」、「帝政カールスランド」など`何となく似てるけど、どこかが違うパラレルな世界。国の組み合わせはこちらとほぼ同じ。日本は扶桑と言われているらしい。そんな世界に派遣されたのは空母6隻を基幹とする一大機動艦隊。彼等は異なる世界で如何なる活躍をするのであろうか。












――並行時空の1940年代 扶桑皇国領海  第一航空艦隊旗艦空母「赤城」 

「司令、転移は成功です。僚艦は全艦とも本艦の周囲にて待機中です」

「御苦労。さっそく各艦長を集めて今後についての会議を行う。通達を」

「了解」




艦隊司令兼、赤城の艦長を努めている、この老境に差し掛かった一人の男、エイパー・シナプスは副官の報告に頷き、直ちに行動を起こした。彼は一年戦争以前からの戦歴を持つベテラン艦長で、曰くつきのデラーズ紛争の際に、ペガサス級強襲揚陸艦の7番艦のアルビオン」艦長を務めていた。しかし当時はティターンズに代表されるようなタカ派が跳梁跋扈していて、改革派に属していた彼の立場は危うい物だった。戦後は独自行動を理由に極刑が下される予定だったのだが、その直前で、改革派が裏で支援していた半政府運動のエゥーゴの台頭に伴うグリプス戦役の勃発で先送りされ、死刑囚同様の扱いで数年の時を過ごした。しかし第2次ネオ・ジオン戦争〜彗星帝国戦役の際に人材不足に陥った連邦軍の判断で現役に復帰させられた。その際に過去からの帰還者(偶発的に未来にタイムスリップした人間の総称)である、レビル大将(一年戦争当時の総大将であった関係で、未来に来た後では宇宙軍司令長官の任に付いていた)の参謀に抜擢され、現在は連邦軍改革派の中枢を担っている。

会議は赤城の作戦室で取り行なわれ、シナプスは扶桑皇国が自分たちの存在を掴むのには時間はそうかからないとし、自分たちの方から動かなくても向こうのほうから接触してくるだろうと説いた。各艦の艦長たちもこれには同意を示した。

「しかし司令、この世界の脅威、ネウロイですか?あれにどのように対応なさるのですか?」

「我々に攻撃してくるのであれば全力で排除するが、場合によっては現地の軍と共同戦線を張ることもあると考えていてくれたまえ」


「資料によると、WW2の戦闘機が実物に加え、同名の魔法を用いた推進機もあるとのことですが、我らの知識でこれらの開発を促進させるつもりですか」

別の士官が声を上げる。護衛艦の一つの「夕雲」の艦長だ。

「援助を持ちかけられた場合はそれで対応するしか無かろう。我々の技術はこの時代から見れば理解不能なほどに高度すぎる。ビーム兵器は論外と言っていいし、ミサイルがやっと作れるようになる時代になっているさえも怪しい。それでもジェット機の登場を早めるのなら可能だろう」

「確かに史実ではもう頃にはメッサーシュミットがシュワルベを造っていますからね」


知識を与えるのはこの世界の科学を発展させるのに役立つだろう。連邦にしても初代マクロスやイスカンダルから得た知識の存在が現在の繁栄の礎を築いたので、必須とまではいかなくても知識の存在は大きいのである。この世界にオーバーテクノロジーをもたらすことは善行なのかは分からない。しかしネウロイを完全に倒すには技術革新を促すしか無い。たとえそれがどの様なことを招くにしても。大戦が起ったら自分達の手で終わらせるしかない。

「とりあえず皆、向こう側からの接触待ちと言う事でよろしいな?下手にこの世界の人間を敵には回したくはない」

「かまいません」



艦長達のほぼ全員がこれに同意し、艦隊の行動指針は定まった。しかし問題は向こうがこっちを見つけてくれないと行動が起こせない事にある。この後、シナプスは事の進展が上手くいくことを願い、艦内神社にお参りしたという。



















――同じころ、扶桑皇国でも訓練航海中の戦艦日向によって、「謎の空中戦艦出現す」との電文が打たれ、本国はこの対応に追われていた。


「何、空中に浮いてる戦艦?」

「ハッ、海上からの写真を解析したところ、ネウロイではなさそうですが現在、我が国を初めとしてこのような物を作れる国などどこにも存在しません」

「フム。我が海軍で手が空いている部隊は?」
「新型ストライカーユニット「零式艦上戦闘脚二二型甲」の受け取りの為に一時的に召還した遣欧艦隊(本来は物資を前線に輸送すれば済むのだが、ここのところ頻発して目撃されている「機械の巨人」の襲撃を考慮して潜水艦でわざわざ人員を本国に戻しての受領となった)の人員です」

「よし、直ちに偵察に出る様に要請してくれ」

「ハッ」

軍令部より命令が通達され、呉の航空基地より一人の士官が出撃した。名を坂本美緒。
扶桑皇国海軍所属の女性士官で、この世界における『魔法使い』と形容すればいいのだろうか―の力を持つ。彼女はこの世界の大戦における海軍のエースとして名高く、それもあって今回の任務に抜擢されたのである。

「調査にわざわざ私が駆り出されるとは…まあいい。新型零式の慣らしにはちょうどいいかもな」
彼女は一人、単騎で調査に行かされることに不満を覚えるが、新型の慣らし運転にはちょうどいいと自分を納得させ、目的地に向かった。



――護衛艦秋月 艦橋

「レーダーに反応……あれ?」

「どうした?別世界だからって昼寝でもしてたのか?それともエロい事でも考えてたのか?」

「レーダーの反応ですが、航空機にしては小さすぎますし、鳥にしては大きすぎます…これはどうやら人間サイズのようです。スピードは零戦中期型の時速540kmほどです。それと魔力らしきエネルギー反応も出ています」


「航空戦隊に通達し、偵察機の出動要請を」

「了解」

護衛艦から空母に偵察機の発進要請がなされ、空母「蒼龍」に配備されていた偵察型のRVF-171“ナイトメアプラス”が確認のために発艦した。



「こちら彩雲。目標をレーダーに捕捉。これより接触に移る」

「了解。接触の際には十分に注意せよ」

ナイトメアプラスはその性能をもってして瞬く間に超音速に加速、目標への接触を図った。接触のときにはスピードを落とさなくてはならない(超音速飛行の際には衝撃波が付き物で、人間などひとたまりもない)という制約があるが、それでもこの世界の戦闘機――情報によれば、大戦が起こっていないせいか、発達スピードが遅いため、史実での九六式艦上戦闘機がまだ最新機らしく、零式艦上戦闘機も二一型がようやく一部配備され始めたらしい――よりは遥かに早い。2分ほどで目標が視認できる距離になった。












――キィィンと甲高い轟音が響き、物凄い速さで、プロペラの無い流線形をした飛行機がこちらに近づいてくる。思うにブリタニア連邦、帝政カールスラントなどの各国が研究していると聞く新式の推進機関の噴流推進式(要するに後の世でいうところのジェット機)の機体だろうか。実用化には至っていないはずである。機種に操縦室らしきものが見えるので、「ネウロイ」ではなさそうだが、微かに尾翼に扶桑刀らしきマークが描かれているのが見える。

「いったいどこの国があんなものを作っ…な、何!?」

それは彼女には信じられない光景だった。先ほどの上部に妙な物(レーダードーム)をつけた飛行機が自分の目の前であっという間に巨人のような姿に変形したのだ。あいた口が塞がらないとは、まさにこのような事を言うのだろう。ナイトメアのパイロット達は機体をUターンさせて、彼女の目の前でファイター形態からバトロイド形態への変形を敢行したのである。


「そこの飛行中のウィッチに告げる。そちらの所属を明らかにせよ」(連邦側は既にある程度の情報を事前に手に入れていたので、ウィッチを見てもたいして驚かない)

拡声器超しに操縦者の声が響く。どうやらこちらの事をお見通しのようだ。美緒はとりあえず自分の身分を“巨人”の操縦者に明かし
た。

「私は扶桑皇国海軍遣欧艦隊第 24航空戦隊所属、坂本美緒少佐。貴官らはどこの国の所属か?」


「我々は地球連邦宇宙軍第一航空艦隊所属210航空隊。貴官をとりあえず我が艦隊の旗艦に案内する。我々に続いてくれ」

ナイトメアのパイロットは短めに告げると、彼等は坂本を艦隊の居る空域に誘導していく。彼女は540キロという、零式艦上戦闘脚二二型の出しうる最大速度で追従したが、音速を遥かに超える相手側のあまりの速さに何度も置き去りにされそうになったと後に同僚に語ったが、これが革新的な飛行機のジェット戦闘機とウィッチとの友好的な意味での初邂逅であった。







――案内された彼女は眼前に空中に浮かぶ超大型航空母艦の姿に目が飛び出そうな衝撃を受けた。さらにその艦の構造は彼女の知る空母とは異なっていた。飛行甲板が通常のものに加えて、別の用途に使われると思しき甲板が斜めに配置されていると言う見たことのないものであった。(彼女は知る由無いが、それは後の世で発明されるアングルド・デッキと呼ばれる方式の甲板で、大戦後の20世紀中期以降に普及している。飛行甲板には空母の搭乗員が待機しており、彼等から拡声器による誘導を受ける。


「そのままの速度を維持して…進路を若干修正してください」

「了解」


ここは坂本のの技量がモノを言った。ベテランだけあって、確かな動きでゆっくりと降下していく。その様子は甲板に出て来たシナプスと副官も確認している。

「あれが噂のウィッチという奴ですか」
「ああ。無線の報告やあの制服…おそらく日本兵だろう」

「帝国海軍ですか。しかしあの恰好はどうにかならんですかね」

双眼鏡で坂本を視認した副官は頭を抱える様な仕草を見せた。何せ情報で知ってはいたもの、ズボンのような下着を一切履いておらず、パンツ丸出しである。目のやり場に困ると言った感じだ。

「……全く、この世界での常識はわからんな」

……と、シナプスも同意のようだ。2人は出迎えの為に甲板の中央部にまで赴いた。

「君たち、ご苦労だった。後はゆっくり休んでくれたまえ」

「ハッ」

偵察機の乗員が敬礼を返すこの将校こそ、この艦の指揮官だろうと踏んだ美緒は偵察機の乗員の後に続く形でシナプスに敬礼をして自分の身分を明かした。

「閣下、扶桑皇国海軍所属、坂本美緒少佐であります」


「この艦隊を預かっているエイパー・シナプスだ。少佐、本艦―「赤城」にようこそ」


シナプスと坂本。本来ならば決して出会うはずの無い2人が出会ったこの瞬間、この世界の歴史は新たな可能性を求めて動き出した。時に1944年の事である。坂本はこの直後、軍令部より調査を命じられ、この空母に乗艦することになった。そのため、シナプスに赤城の艦内を案内されていた。当然のことだが、艦内に置いてあるものはどれもこれも300年近く後の時代の産物のため、彼女には何もが目新しく見えた。









――艦内通路

「どうだね少佐。本艦の乗り心地は」

「快適です。しかし自分には未だに信じられません。あなた方が異世界の人間、まして異なる時代の人間などとは」


坂本はシナプスらが異世界の300年近く後の未来人である事に驚きを隠せない。これだけの大艦――この艦の大きさを例としてあげれば、未来の地球でこの時代の世界最大だと言い伝えられている戦艦大和を軽く上回る規模を誇る――を空中に浮かべられる推力を軽く捻りだす機関、見たことのないような重装備を備えたこの巨艦が自分の母艦である赤城の名を受け継ぐことの説明はどうつくのか。


「一つ聞いてよろしいでしょうか」

「なんだね?」

「自分の母艦、赤城は閣下の世界ではどのような運命を辿ったのでしょうか」

坂本はここで気になる疑問をぶつけた。異なった道を辿った祖国で自分の乗艦していた空母がどんな道を辿ったのかを。シナプスはこの質問に答えるか窮した。何せ自分の世界では、赤城は空母同士の海戦での敗北者であると同時に、栄光と悲劇を味わった日本海軍航空隊の象徴と記憶されているからである。しかし歴史的事実なのはたしかだ。





「我々の世界では最終的に撃沈されたよ。たしか……1942年だったな、アメリカ合衆国という国との戦争の重要な海戦のミッドウェー海戦で無残な敗北を喫した末にな。この時、同時に出撃していた、加賀・蒼龍・飛龍も全艦失われている。これを境に帝国海軍は坂を転がり落ちるように敗北を重ねていき、最期には栄光は地に落ちた」

「…!」

坂本にはこの事実はショックとしか言いようがなかった。まさか赤城が異世界でそのような最期を迎えるとは……と。

「ただし、あくまでこちら側の記録での事だよ。この世界でそうなるとは限らん。この艦が赤城の名を継いだのは、進水式に立ち会っていた武官が日本人だったせいで、その戦歴に肖る形で名付けられたと聞いている」

シナプスは赤城の運命が自分達の世界の様になるとは限らないと説明する。そして改めて機動兵器の格納庫部に案内した。格納庫にはおよそ、この時代からは想像のつかない兵器が数多く収容されていた。美緒を驚かせた人型に変形するプロペラの無い飛行機、それとは別の種類の戦闘機、さらには人型の大型ロボットなど…、SF小説にでも出てきそうなものがズラリと並べられている。

「艦長、その子が日本…じゃなくって扶桑皇国の?」

格納庫で艦載機を整備していた一人の整備士がシナプスに敬礼しながらやって来た。30代程の年齢の壮年の男性である。



「そうだ。君達にも正式に通達が行くと思うが、当面本艦に乗艦することになった坂本美緒少佐だ」

「おぉ〜!」

シナプスは格納庫にいた整備士達に坂本を紹介したが、彼等は瞬く間に仕事を中断し、凛々しい美緒の美貌に見惚れつつも自己紹介をちゃっかりと行い始めた。普段女気の少ない現場で働いているのだから、美人の女性に群がるのは無理も無い。しかしこれではキリがない。


「オホン。……諸君の気持ちは分かるが、今日はこれまでにしてくれ」

「そ、そうですね。気を取りなおして…。少佐、我が艦隊の兵器をご覧に入れましょう」

整備士は格納庫にある各種機動兵器についての説明を始めた。最初は戦闘機の「コスモタイガーU」だ。坂本はここで初めて噴流推進機を目の当たりにしたわけだが、



「こいつは一式艦上戦闘機‘コスモタイガーU‘。2199年時点での最新機で、宇宙と地上で運用可能な機体です」

「宇宙?宇宙って言うとあの?」

この時代には宇宙開発など夢のまた夢の絵空事にすぎない。美緒も以前、休暇中にキネマ(この時代での映画の呼称)などで見たり聞いた事があるくらいの単語である。それをこの艦にいる連中にとっては当たり前な単語らしい。

「そうです。我々の時代には人類は地球だけで維持できるか怪しくなっているので、宇宙にコロニー……分かりやすく言うと、人の住む環境を巨大な箱の中に作ったような物に移民したり、火星とかの他の惑星などにも版図が広がっているので、宇宙を行きかう軍艦が普及しましたが…こいつはその中でも長距離航海艦用の艦載機として造られています」

コスモタイガーに関する説明に聞き入る美緒。まだプロペラ機が当たり前に飛んでいるこの時代では信じられないが、近い将来にプロペラ機に代わってジェット機が飛行機の主流となるのは歴史的事実である。坂本もも軍人なので、零戦、零式水上観測機などの飛行機に乗った事は何度かある。しかし、目の前のこの機体はこんの時代のいかなる機体とも隔絶された外観をしている。

「乗ってみるかね?少佐」

いつの間にか乗りたそうな顔をしているのに気がついたのか、シナプスが笑みを浮かべながら言った。



「え!?い、いや自分はその……」

心を見透かれたように大いにうろたえる坂本。どうも彼の方が自分より一枚上手のようだ。

「曹長、整備は終わってるかね」

シナプスは整備士に問いかける。

「万全です。念のために武装も対空戦用を…いいんですか艦長?(艦載機をいじらせて…)」

耳打ちをして疑問を言う整備士。客に艦載機をいじらせる等、前代見問であるからである。増してや坂本はジェット機の「ジ」の字も微塵も無い頃の日本(扶桑)の人間。いくら軍人でもジェット機に触れた事も無い人間に、いきなり動かせと言うのはいささか無謀ではないか。

「かまわん。(少佐をこちらの味方に引き込んでおくのにちょうどいい機会だ。それにこちらへの印象を良くするのには有効だろう?)」

と、言う訳で、連邦側の思惑もあっていきなりコスモタイガーUに乗る事になってしまった坂本。ジェット機時代には欠かせない、耐Gスーツとヘルメットを渡される。更衣室を借りて海軍の軍服からスーツに着替える。同じ部隊の同僚たちが見たら面白がるのは間違いないだろうが、音速の世界ではこの装備は当たり前らしい。

「これも時代の流れって奴か。…思ったよりは動きやすいな」

着替え終わると、20分ほどジェット機の動かし方に関する即席講座を受けた。驚く事に、動かし方自体はこの時代のレシプロ機とそんなに大差無かった。

「動かし方自体はそんなに変わらんのだな」

「車とかの仕組みは何百年経っても同じですからね。飛行機もそうですよ。操作法は同じです。エンジンが違うだけで」

との事。納得するといよいよ発進である。エベレータで格納庫から甲板に運ばれ、エンジンを吹かしながらカタパルトがある位置まで機体をランディングさせる。装着が完了し、甲板員から準備OKの合図がなされる。

「少佐、良いフライトを」

通信の声に「ありがとうございます」と答え、一気にスロットルを引く。

「……!!」

射出の瞬間、体がシートに押しつけられる。プロペラ機とは段違いの加速である。その加速はストライカーユニットをつけていても早々味合えないほどに物凄かった。瞬く間に高度5000mに上昇していく。

「ハァ……ハァ………。な、なんて加速だっ!こいつはシャーリーの奴が喜ぶだろうな、ハハハッ」



一人ごちつつ、コスモタイガーを操って周辺空域を飛行する。旋回性能・加速性・上昇力のどれをとっても良く、さらに自分の操縦に機敏に反応してくれる。ただしレシプロに比べると旋回半径は大きいが。上昇力は桁違い。高高度に弱い1万メートルを超えても発動機は快調だ。

「300年分の技術革新という奴か?凄いな」


高度14000mの目の前に広がる青空、雲を眼下に眺める気分は最高だ。仲間にも味わせたいくらいである。この事を軍の同僚や戦友に言ったらなんと反応が返るだろうか。特に同じ部隊の部下のシャーロット・E・イェーガーに至っては、おそらく目を耀せ、「ええ〜!?ずるいですよ少佐〜私も乗せてくださいよ〜と」言ってくるのが目に見えるようだ。

「フフ、アイツらへの自慢の種にはなりそうだ」

彼女は一人満足気に音速の世界に足を踏み入れたことへの興奮に身震いし、自然と笑っていた。これで、坂本はは扶桑皇国で初めて音速の世界に足を踏み入れた人間となった。時代相応の形ではないが、致し方ない。コスモタイガーUは未来世界の技術の結晶なのだから、音速超えなど容易い。できればストライカーユニットで音速の世界に足を踏み入れたいが、技術的限界でそれは今のところは無理だ。彼女はちょっと寂しげにコスモタイガーUのコックピットの近未来的な計器を見つめていた。ただしデジタルな表示も多く、わけがわからないので触ってないが。




――この後、ジェット戦闘機の登場は皮肉にも、連合軍に技術革新をもたらす。『ジェット戦闘機の前にはどんなエースを以てしても苦戦は免れない』。その恐怖が本来ならもっと遅くなるはずのジェットストライカーユニットの登場速度を飛躍的に早めたのだ。何れ消え行く宿命であったとはいえ、レシプロストライカーユニットはこの後、急激に旧式化していった。必要に駆られたとはいえ因果な運命であった……。










その数週間後、第一航空艦隊は主に扶桑皇国に協力する形でストライクウィッチーズ達の戦いに介入することを決定。扶桑皇国の軍事産業へ、史実での大戦末期に活躍した「紫電改」を始めとする高性能機の図面と、その実機(タイムマシンで終戦の日の日本軍各部隊からかっぱらった)サンプルを送った。そしてそれを彼女達の力にする(ストライカーユニット化する)計画も同時に開始された。坂本は未来空母に乗り込んでからは日記をつける習慣を始めていた。与えられた部屋で寝泊まりしつつ、この艦隊をつぶさに観察していた。









「X月Y日」

私がこの未来空母に乗艦してから早くも一週間が過ぎた。当然だが、どれもこれも真新しく見える。今日は図書室に案内されて歴史書を読んでみたが……驚いたことに、向こうでは織田幕府は成立せずに徳川が政権を取り、「リベリオン合衆国」は存在しないらしい。その代わりにアメリカという国がそれに当たる役割を担ったらしい。異なる歴史の流れを辿った世界というのを目の当たりにした気分は……正直言って言葉も無かった。日記を書き終えた坂本は一言漏らす。

「この艦隊には確かに扶桑の艦船の名を継いでいるものが多数ある。赤城に加賀、蒼龍に飛龍だと?戰前に上層部が考えていたという、空母の集中運用思想を具現化させたような感じだな」

彼女のいるこの世界では、人類同士の戦争は既に遠い昔の出来事になっており、人間同士の大戦が勃発しなかったために空母の編成もかなり異なっており、世界初の空母機動部隊であるはずの第一航空艦隊も設立されていない(そもそも第一航空艦隊は戦争準備の過程で小沢治三郎が提案したもので、大英帝国に当たる「ブリタニア連邦」と同盟関係にある扶桑皇国にはリベリオン合衆国と対立する可能性は無い。そのため戦争準備も1935年あたりまで行われてはいないので、構想だけに終わった)本国ではこの艦隊から送られたレシプロ機を物にし、制式採用を目論んだとの情報が入ったが、それがモノになるのはどう早く見積もっても翌年の夏以降と見積もられている。ストライカーユニットの改良も早まったようで、今年中には二二型のさらなる改良機の零式艦上戦闘脚五二型と五四型の実用化に目処がたつようだ。正に第一航空艦隊様々である。その他の各国にも技術支援を行うとの意志を示している。連合軍の構成各国は思わぬ援軍に歓喜。ウイッチの派遣も検討されているとの事だ。(後にこれは交流に大いに役立ち、お互いの技術交流、観光などで彼らが外貨を稼ぐ手段となる)



「坂本さん。時間だよ」

――部屋に一人の少年が入ってきた。彼の名はジュドー・アーシタ。この艦隊に乗艦している少年パイロットで、未来世界ではトップエースの一人として名を馳せた人物らしい。正規の軍人ではないが、その力は戦況をも左右したという、にわかには信じがたい逸話の持ち主だというが……。

「そうか。もうそんな時間か……。」


今日は艦載機の演習に混ざって参加することになっている。未来兵器がどれほどのものか楽しみだ。私にも意地はある。

坂本はジュドーに案内され、赤城の甲板にせり出すストライカーユニットの格納設備(接触後に扶桑皇国の一等輸送艦から提供されたもの)に行き、ユニットを装着する。見た感じはレシプロ機の後部をそのまま人間の足につけた様なものか。

「そんじゃ俺も行くか」


ジュドーもエレベーターから甲板に出されたZZガンダムの変形形態のGフォートレスに乗り込む。発艦順は坂本の後である。美緒がストライカーユニットで発艦していくのを見届けると、魔法的であり、レシプロ機にも通じる先程までとはうって変わって、現代的な発艦作業が行われる。カタパルトに接続され、Gフォートレスの巨体の後部ロケットエンジンが唸りを上げる。合図と共に爆撃機のような形状のGフォートレスが射出され、大空に飛び上がった。次いで、コスモタイガーUが数機と今回のアグレッサー機の役目を負った九九式宇宙艦上戦闘機、通称ブラックタイガーが相次いで発進していった。ブラックタイガーの制式塗装は黄色と黒を基調に、機種に顔を描く、かつての「Pー40戦闘機」などを彷彿とさせる勇ましいノーズアート。この機体はコスモタイガーUの配備が進むにつれて一線からは引退しつつあるが、使い勝手の良さからか一部はまだ現役運用されている。この時代には有り得ない、ジェット機の発艦の光景だが、どことなく安心させられると坂本は思った。

「いつの時代もこれだけは変わらんのだな……まあ当たり前か」


空母の発艦の風景に不思議な安心感が湧いたのか、美緒はクスっと笑い、高度6000mに上昇、僚機との合流に備えた。この空戦演習に当たって、第一航空艦隊より、それまで彼女が用いていた13o機銃に代わるものとして、九九式20o二号機銃四型(サンプル用に持ち込んだ紫電改や雷電に搭載されていたものを未来の最新技術でコピーし、大幅な軽量化をされたもの)の提供を受け、この演習で試用していた。13o機銃と形状は同じだが、威力は以前の二〇ミリより大幅に上がっていると言う。次世代(坂本から見れば)局地戦闘機の搭載機銃のコピー品というのはいささか変だが、これも過ごしている時代の違いか。


「さて……行くか。」


300年後の噴流推進機(ジェット機やロケット機)の速度性能や機動性は自分で操縦してみてよく理解しているつもりだ。僚機はなんでも人型に変形できる「可変MS」という代物だ。変形や合体をこなせる機体を量産するというのだから、科学の進歩というのは恐ろしいと苦笑いする。ややあって、轟音と共にアグレッサー役のブラックタイガーがその姿を見せる。コスモタイガーに比べれば、旧態依然としたズングリムックリなフォルムだが、鮫にも似た精悍さも感じさせる。スピードはこの時代の航空機の全てを超越しているし、通りすぎる時の衝撃波も凄まじい。時速540キロ程度の零式では追従するのは困難だ。(理論上はストライカーユニットは偶発的に超音速飛行も可能としたが、戦闘中に出せる速度では無い)。模擬弾が装填された機銃を(帝国海軍は口径に関係なく機銃と呼称)を撃つが、軽くいなされる。やはり噴流推進機を敵に回すと恐ろしい。



――そう。戦後にジェット機が何故レシプロ機を駆逐したのか。かつてのナチス・ドイツが生み出したメッサーシュミットの中でも最後期の登場となったシュワルベはその圧倒的速度で連合軍の爆撃機を撃墜し、レシプロ機の陳腐化が始まった事を世に知らしめ、さらに朝鮮戦争の際には共産国側がmig−15を繰り出し、その火力とスピードの前には大日本帝国を瓦解に追い込んだB−29さえ無力さを露呈、同機を一線から下げられる結果を生んだ。歴史上、この2つの事例がレシプロ機を空中戦から引退させた要因である。次いで味方のコスモタイガーが姿を見せる。銀を基調としたカラーリングの機体と、一部には扶桑皇国海軍が最近、制式塗装とした濃緑と同じ塗装の機体が見受けられる。細部の仕様も違う。
「お先に失礼〜!」

コスモタイガーはこれまた凄まじい速度で通りすぎていく。音速を超えた戦いに、はたして自分がついていけるのか。不安をただ寄せながらも最大戦速で空中戦に突入した。








――高高度へ上がろうと零式の栄エンジンを吹かすが、高度6000m当たりでエンジンが息をつき始め、上昇力が鈍る。

「くっ……こっちは7000に上がるのさえ苦労してるのに、向こうは楽々上がっていく。これが噴流推進の力なのか」

坂本は高高度では零式が本来のポテンシャルを出せない事をここで初めて知った。栄エンジンは中低高度では1130馬力を発揮するが、高高度では出力低下が起こり、本来の性能を発揮できない。これは零式ストライカーが中高度までの戦闘を前提にした艦載機として作られているためだ。坂本はこれまで零式が万能とも言える性能特性を見せていたためにその限界を初めて実感した。




「さて、行きますぜ!」

アグレッサー機のブラックタイガーが8000m付近から急降下し、模擬弾を撃ってくる。パルスレーザーを取り外し、実体弾の機銃が取り付けられているためだ。坂本は自機をとっさに射線から逸らして回避するが、衝撃波で吹き飛ぶ。


「おわっ!くそっ、これが音速を超える戦闘機……!流石に動きが早い!」

坂本は段違いの速力を見せるブラックタイガーに付いて行こうとは思わず、すれ違う一瞬で模擬弾を当てることに賭ける。零式は格闘戦でなら世界最強(当時)を誇る。開発に関わった者として、これは誇るべき点だと自負している。

「格闘戦ならこっちのものだ!」

そう意気込んで格闘戦を挑むが……。ブラックタイガーのパイロット達は編隊空戦では古典的な(この時代では最新戦術。高度な空中戦が行われていなかったので、発展が遅れている)サッチウィーブを使った。これは対ゼロ戦戦法として有名な戦法で、無線で互いにカバーしあい、蜘蛛の糸に昆虫を絡めとるが如く敵を打ち落とす。この戦法は第二次大戦以後の空戦の基本戦術となり、地球連邦軍の教習でも必須科目になってもいる通り、坂本はこれにまんまと引っかかってしまった。

「まてぇ!」

一機を追うが、背後からもう一機が攻撃をしかける。坂本はなんとか逃れようとするが、これまたチームワークに優れたブラックタイガーに翻弄される。

(サッチウィーブに嵌ったことに気づいていない。やはり典型的な日本海軍の空中勤務者だな)

ブラックタイガーのパイロットは坂本が単騎空戦の技量に頼っていることを見ぬいた。彼は旧米地域の出身で、先祖代々、空軍か海軍に属している家柄。そのため日本海軍の搭乗員らしく、一対一のドックファイトに固執しているのを冷めた目で見ていた。

(愚かな奴だ。ご先祖もこうして日本軍機を落としていったというが……)


彼は射的の標的に当てるような感覚で坂本を狙う。そして掃射を行い、僚機と交代で追い立てていった。


(何故だ、何故落とせん!)

この時の坂本は当然ながら508統合戦闘航空団が確立させたばかりの『サッチ・ウィーブ』の存在を知らなかった。連合軍内でも508しか使っていない『最新戦術』の存在は『ネウロイの強力化を避けるため』という名目で秘匿されていたからだ。しかしそれも地球連邦軍にとってはひよっこが最初に習う、古典的な基本戦術にすぎない。その違いが坂本の劣勢を招いていた。幸いにもこの時はジュドーが助け舟を出した。





『何してんの、敵の思惑に引っかかっちゃってるよ!』

『何ぃ!?ど、どういう事だ!?』

『理由は後でたっぷり教える!とにかく相手の動きをよく見るんだ!』

『わ、分かった!』

この時、坂本はまんまと編隊戦術に乗せられていた。サッチ・ウィーブとは、第二次大戦中期以後、日本海軍の零式艦上戦闘機に引導を渡したとされる編隊戦術である。後方支援を重要とし、攻撃している味方が敵の攻撃を回避し、敵が隙を見せている内に僚機が銃撃を加えるというものだ。無線での連携が鍵を握るため、日本海軍は無線を重要としなかったために機体の性能差が逆転し、練度差も縮まっていった中期以後は劣勢に陥る。その要因の一つとなった戦術がこれだ。

――背後を取ったブラックタイガーへの銃撃に全力を傾ける坂本を別の機体が隙を突くように割り込んで銃撃しようとする。そこをジュドーが阻止する。これで実戦かつ、ジュドーの援護がなければ撃墜されていたところだ。


『ありがとう。おかげで助かった。』

『これが実戦なら坂本さん、落とされてたぜ?もっと全体に気を配んな』

『戦況には気を配ってるつもりだが……』

『チッチッチッ。目の前の敵に全力を傾けるのはいいけど、他から不意打ちとかされることも頭に入れておいてって事さ。訓練と実戦は違うよ』

『ああ。心得ておく。私もそういう経験はあるからな』

坂本も過去に、訓練無しで初陣を迎えた事があるし、新人時代には、今はアフリカ戦線にいるという加東圭子から編隊空戦の重要性を説かれた事がある。事変の時は彼女らに面倒を見てもらった事もある。ジュドーの物言いがかつての彼女らにかぶったらしく、坂本はどこか懐かしく思った。








――同時刻 欧州 ブリタニア連邦領空

レーダーに謎の反応があり、緊急任務に上がったブリタニア連邦空軍の航空隊。今では統合戦闘団にネウロイとの戦いを任せきりにしている感の強い軍だが、防空任務は引き続き行っていた。

「隊長、のどかですねえ」

「ああ。だが気は抜くな……!?」

轟音と共に編隊の内の一機が突然火に包まれ、落ちていく。その時、編隊の誰もが己が目を疑った。彼らの目の前に現れたのは漆黒の鷲、もしくは鷹か鮫のような姿を持つプロペラの無い戦闘機だった。その編隊は想像もつかない様な速さで襲いかかり、プロペラ機(おそらくホーカー ハリケーンか、スピットファイア)しか存在しないブリタリア機を圧倒した。
「隊長、相手が遅すぎて狙いが…」

「落ち着け。射的の的と思えばいい」

その編隊はこの時代には存在しないはずのジェット機。(それもただのジェット機では無い。2197年頃まで地球連邦の防空を担っていた九九式宇宙艦上戦闘機『ブラックタイガー』で構成されていた。その垂直尾翼には猛禽類に星をあしらったマークが描かれていた)

――かつて、そのマークを軍旗にしていた軍団がいた。その名も「ティターンズ」。地球至上主義者達の巣窟と揶揄された、未来世界で悪名高い軍隊。その生き残りが何故この世界に存在し、ブリタニア連邦軍をカモにしているのか?





「隊長。ロシア方面に侵攻したMS隊より入電。


『我、敵基地を制圧セリ。これより『ハエ』と『ゴキブリ』どもの掃討に移るとのことです』

「例の変な格好の歩兵達か。捕虜に出来るものは捕虜にしておけと言っとけ。偵察もこれまでか。各機、これ以上の戦闘は無用だ。離脱する」
彼等は隠語を用いていた。『ハエ』とは航空型ストライカーユニットを身につけたウイッチ、『ゴキブリ』は同じく陸戦用のストライカーユニットを纏うウィッチを示している。これは双方の基礎戦闘力の違いから生じた。この時代の火器ではMSの多重空間装甲を正面から撃ち抜ける可能性は高射砲や艦艇の主砲レベル以上で無ければない。そのため、各地でウイッチ達は絶望的な戦いを強いられ、やがて弾薬が尽きていき、壊滅していった。一年戦争序盤の連邦軍はザク一機を落とすのに戦車一個中隊分の犠牲を強いられたと言うが、正にそれの再現であった。ある者はマラサイに踏み潰され、またあるものはビーム・サーベルの直撃を不意打ちで食らい、その熱量の前に何も残さずに蒸発していった。ただしこれは初戦のみで、さすかに彼等も一方的な虐殺は本意でなかったらしく、次第に閃光弾やトリモチランチャーでの捕虜の獲得へ切り替えていった。そして、現地で防衛戦を戦った第505統合戦闘航空団は幾度かの空中戦における数名の戦死者と隊員の大半に渡る捕虜を出した末にティターンズ残党軍に降伏。事実上の解隊に追い込まれたのであった……。







――『ウラル方面戦線崩壊!!』



ある日の新聞をセンセーショナルな一面が飾った。精鋭のはずの統合戦闘航空団の一つが謎の機械の巨人の前に為す術も無く蹴散らされ、事実上の壊滅に追い込まれたというニュースは各国の新聞の一面を飾り、たまたま戦闘区域に滞在していた記者が移したという写真には全長が20mはあろうかという鋼の巨人が銃火器を用いて、写真には地域の防衛に当たっていた陸戦担当のウイッチを虐殺する瞬間の光景がまざまざと映し出されていた。この日。この世界の人類の誰もが、ネウロイではない新たな脅威の出現を確認した。そしてこの事件は「ウラルの虐殺」として歴史に刻まれ、各国政府はその対応に迫られる事になった。第一に義勇軍の援助を真っ先に受けた格好の扶桑皇国は建造途中の大和型戦艦3番艦「信濃」(史実より航空戦力が充実しているために空母に改造する必要がなかった)、雲龍型正規空母を始めとする各艦に未来技術による「対ビームコーティング仕様装甲」に換装・装備(これは第一航空艦隊に随伴していた工作艦「明石」の乗員が取り付けを担当)させた。未来装備の取り付けは後付となってしまうので、取り敢えずは船体の拡大のために工事が延長された。同時に航空戦力の近代化を急いだ。次いでその恩恵を受けたのはブリタリア連邦。上層部は建造が棚上げされていたライオン級戦艦の復活を宣言するなど息巻くが、現場は航空戦力の充実を懇願したとか。歴史は第一航空艦隊の介入によって変化しつつあった。






――第505統合戦闘航空団が壊滅し、その結果、ウラル方面戦線が崩壊したという報は直ちに各国及び、その他の統合戦闘航空団にも伝えられた。当然ながら、各国では巨人に対抗できる火器の開発が急がれたが、対戦車ライフルやロケットランチャーの砲撃すらも効果が薄く、砲撃を回避可能な驚異的な機動力を誇る敵にどう対抗すれば良いのか?各国の科学者は巨人を覆う金属(第502統合戦闘航空団が回収した破片を調べた結果、超軽量・高高度の金属であると判明)を貫徹できる術を模索し始めていたが、目撃証言のどれもが科学者を絶望させるのには十分だった。




「機関砲の弾が装甲で弾かれる!!」

「対戦車ライフルの弾道を見切られて避けられたんだけど」

「ランチャーを至近距離で撃っても装甲を凹ますだけじゃん!!」

など、ウイッチの敢行可能な銃火器が通用しないという報告が次々に入ってきたからだ。
そしてその脅威は欧州方面にも及んだ。ネウロイの侵攻こそ鈍ったもの、空戦型の巨大兵器(円盤から人型に変形するものなどが確認された)の爆撃に対応した第501統合航空戦闘団も敗退し、一部の隊員が撃墜されたという。そしてその混乱を扶桑付近で停泊していた第一航空艦隊もキャッチしていた。



――赤城 アイランド内部 作戦司令部

「提督、これを」

「これは……バカな、アッシマーだとぉ!?」

参謀から手渡された一枚の写真にシナプスは我が目を疑った。調査に赴いた偵察機が撮影したその写真には`この世界には存在しないはずの可変モビルスーツであるアッシマーが写っていたからだ。これでは第2次大戦中の軍隊ではどうにもできない。ビーム兵器標準装備、重装甲と高機動をあわせ持つ可変MSが何故存在しているのか。

「機体に鷲と星をあしらったマークが確認されました。おそらくはティターンズの生き残りかと思われます」


連邦正規軍が開発したMSであるアッシマーはその優秀性から一部の機体がティターンズに流れたのは記録に残っている。しかし何ゆえこの世界に……。

「ティターンズ残党か……。何故奴らがこの世界にいるのだ……?確認されたのはこれだけかね?」

「いえ。他にギャプランやマラサイなどが確認されています。それも複数です。他にも空軍や海軍戦力も確認されています。有に一個軍団はいるかと」

「かなりの規模だな……グリプスの時の記録には残っていないのか?」

「グリプスの時のティターンズの記録は解散時のゴタゴタで殆どが破棄されていましたから。上の政治的判断のせいで行方不明として処理された部隊もかなりの数に上ったと聞いていますが、これはその内の一つでしょう」

「この機体が確認されたのは何処だね」

「欧州方面です。おそらく欧州方面軍の内のどこかが軍団規模で転移してきたものと推測されています」

「まずいな。この世界はネウロイに対応するだけでも精一杯なのに、奴らが軍事行動に出ているとなると、さらなる混乱を招くぞ。偵察機は今どこに?」

「現在、中国大陸付近を飛行中。あと1時間ほどで帰還します。」

「分かった。偵察機からは他に何か報告は?」


「ウィッチを一人保護したとの報告があります。気絶していたのを救助したとの事ですが、
幸い軽傷のようです」

「それは良かった。医務室に受け入れ準備をさせてくれ。それと緊急会議を開くように各艦の艦長に通達を。今後の対策を協議する必要がある」

「了解」


参謀は通信を用いてシナプスの命令を各艦に通達する。そして、報告書に添えられたティターンズ空軍の戦闘機の写真に目をやる。それは彼らが正規軍に戻したいと願うほどの逸材がこの世界にいることを示していた。それも灼熱の大地であるアフリカに。


「クルセイダーとティーガー……彼らのいる軍団とはな」



『F-8クルセイダー」と『F-104スターファイター」。旧米軍が用いていた戦闘機だが、尾翼のエンブレムはそれぞれ、騎士と虎が描かれている。それはティターンズが誇ったエースの証であった。シナプスは彼らに対抗できる逸材を呼び寄せる事を決意。本国に連絡をとる。復讐の女神の名を頂く宇宙軍航空隊の切り札の一枚として名を馳せる撃墜王を。



























――荒涼地帯付近(中国大陸付近)の上空 RVF-171EX ナイトメアプラスのコックピット

「お、気がついたか」

「!?!?わ、わわっ!どこだここ!?」

パイロットはキャビンの後部に寝かせたウィッチが目を覚めたのに気づき、声をかけた。大腿部から足にかけてレシプロ機の後部を着けた様なユニットを付け、ウサギの耳を持つこのウィッチの名は「シャーロット・E・イェーガー」。階級は大尉で、元はリベリオン合衆国陸軍航空隊所属のウィッチである。現在は第501統合戦闘航空団に所属し、美緒の部下となっている。容貌はもちろん美人である。彼女は同僚のフランチェスカ・ルッキーニとともに偵察に出ていたのだが、任務の途上で謎の円盤(アッシマーのMA形態)と交戦し、奮戦空しく、撃墜された。(正確にはビーム・ライフルの高出力ビームを防ぐのに魔力を消費し、気絶。そのまま落下していった。)幸い、落下した場所に木があり、それが衝撃の緩衝剤替わりとなったおかげで、軽傷で済んだ。

「ええと……、取り敢えず大丈夫みたいだな。見りゃ分かると思うが……ここは飛行機の中だ」

「飛行機ぃ!?」

シャーリーは言われるままに周りを見回す。どのレシプロ機とも違う、未来的な雰囲気が漂っているのが分かった。計器や操縦桿などの形態も先進各国の機体と比べても洗練されているのが見える。先程からキィーンと聞こえてくるこの音はなんだろうか。




「ああ。この音か?ジェットエンジンの音だよ」

「ジェットエンジン?なんだそれ」

ここで年代ゆえの知識の差異が出た。この頃、ジェットエンジンはレシプロエンジンに代わる次世代発動機として研究が進められていたもの、実用段階には至っておらず、ブリタニア連邦や帝政カールスラントで実験機が飛行試験を行っている段階に過ぎないので、一士官に過ぎないシャーリーが知るわけはない。一方、未来人にとってはジェット機など普遍化したものの一つに過ぎない。パイロットは一応ジェットエンジンの説明をするついでに、自分は連合軍の援軍に加わった義勇軍(……と第一航空艦隊のことは扶桑皇国などの各国に伝わっている)の将校だと告げ、この機は扶桑付近にいる母艦に帰還する途中であると告げた。シャーリーは何故自分がこの飛行機に乗せられたのか?訳も分からぬまま、そのまま赤城へ連れていかれた(安心したのか、また眠ってしまった)さらに医務室のベットに運ばれた。(ストライカーユニットは脱いでいる)それからしばらく経っただろうか。眠ってしまったようで、いつの間にか毛布がかけられている。



「う、うぅん……」

「気がついたかシャーリー」

「し、少佐!?どうしてここに!?」


ベットの横に坂本が立っていた。彼女は模擬戦が一端休憩に入り、艦に戻った所でウィッチを保護したという報を当直勤務の下士官から聞かされ、確認のために医務室を訪れたのだが、そのウィッチが同じ部隊の、それも部下の一人だった事にさらに驚かせられた。



「話せば長くなるが、新型の受け取りに戻ったついでに扶桑の上層部からこの艦に乗れと言われてな。義勇軍が現れたという情報は知っているか?」

「乗せられた飛行機の搭乗員から少しは。それじゃここは……?」

「ああ、その義勇軍の空母の中だ。普通の空母とちょっと違うから、そこの窓から外を見てみろ」

シャーリーは言われるままにベットから降りて部屋の窓を見てみる。すると……。

「へ……?」

空を飛んでいるのだ。しかも巨大な航空母艦が、である。

「く、くく…空母が空飛んでるぅ!?夢だ……そう。これは夢だ。アハハ〜」

あまりのびっくりな光景に思わず己が目と正気を疑った。『空母が空をとぶ』など、3流小説でも見かけないような話(史実ではアクロンとメイコン飛行船が航空母艦的な機能を持って1930年代に存在したが、この世界では作られていない)目の前にあるのだ。空母を浮かべられるだけの揚力を発生させられるエンジンなんぞこの世に存在する訳が無い。頭がパニックを起こしそうになる。

「信じたくない気持ちはわかるが……これは現実だぞシャーリー」

「で、で、でも少佐!!そ、空飛んでるですよ空!!」

シャーリーは坂本からこの空母−第一航空艦隊の事を教えられた。この空母は超未来の
とんでも無い技術で造られた「宇宙空母」である事、さらにこの空母の乗員たちは皆、
異なる歴史の流れを辿った平行世界の住民である事を伝えた。証拠として、艦内の図書室から世界地図を持ってきてそれをシャーリーに見せた。その世界地図は市販されている極当たり前な世界地図だが、シャーリーはすぐに差異に気づいた。何せ彼女の母国の『リベリオン合衆国』および、『北リベリオン大陸』が無いのだ。代わりに「アメリカ大陸」とアメリカ合衆国なる国がその位置に収まっているのだ。


(リベリオンは星のような形をしているのだが、この大陸は全く普通の形なのですぐに分かった)空飛ぶ空母やさらにこの世界地図を見せられ、さらに坂本が嘘をつくとも思えない。シャーリーはひとまず坂本の言葉を信じることにした。


「わかりました。少佐を信じます」


「ありがとう。おっ、そうだ。お前のP―51なんだが、発動機が損傷しているらしい。扶桑で修理しようにも殆どレストアしないと無理だそうだ」

「ええっ!?」

「何か心当たりはあるか?」

「そう言えばあの時……敵のビームを防いだときに余波で装甲の表面が一部溶けたけど……もしかしてそれで?」

「何、余波だけでストライカーユニットの装甲の表面を溶かすだと?その敵はどんな姿をしていた?」

「円盤みたいな形で……でも物凄く速い奴でした。追うだけで精一杯で……ルッキーニの狙撃を軽く避けたり、機関砲の直撃を弾いて……歯が立たなかった……ッ!」

悔しそうな表情で拳を握り締めるシャーリー。自分達の攻撃がまるで通じないという絶望感、P-51Dの快速を以てしても、振り切れないという事実。そしてビームの圧倒的火力。それらを勘案すると……。

「少佐、ちょっといいか?」

医務室に一人の将校が入ってきた。赤城の航空隊の隊長(階級は中佐)だ。坂本が敬礼を返したのでシャーリーも将校に対して反射的に陸軍式敬礼をした。



「なんでしょうか?」

「扶桑から電話がかかってる。何でも新型の試作機が2機ロールアウトしたとかで……」

「本当ですか!」


「ああ。早く行ったほうがいい。先方は待ちかねてるらしく、催促してる」
「わかりました!」

坂本は駆け足で通信室へ走っていった。中佐には心なしか、その後ろ姿がはしゃいでいるように見えた。だが、坂本の予想は外れた。お目当ての機種ではなかったからだ。





――扶桑皇国 宮菱重工業 航空事業部

「ついに完成したのか。一四試局地戦闘脚……」

工場の一角に置かれている真新しいストライカーユニット。その名は「一四試局地戦闘脚」
開戦時からマイナーチェンジを重ねたもの、陳腐化は避けられない零式艦上戦闘脚の後継を欲する扶桑皇国海軍がこの重工業社に資金援助して生み出した。最新鋭ストライカーユニットで、上昇力・速度共に零式を凌駕する。モックアップの完成にこぎつけたのを義勇軍(第一航空艦隊の技術援助)によって早期開発に成功。試作機がロールアウトしたのである。

「はい。試製烈風の開発の遅れを憂慮していた軍が待ち焦がれた新型です。我々は雷電と呼んでいます」

「雷電」。それは史実でも日本海軍が生み出した名機の一つで、迎撃戦で戦果を上げたことで有名である。彼等は第一航空艦隊が援助の一環として提供した`日本海軍`の局地戦闘機「雷電二一型」からそのまま名を頂き、その戦歴に肖ったのだ。機体そのものも雷電二一型をそのままストライカーユニットにした設計だ。

「軍は烈風の開発を諦めたのか?」

「いえ発動機の設計にミスが見つかって、換装を余儀なくされているのです。軍はあれを本命視していたですので、顔面蒼白ですよ」






烈風とは、当初は零式艦上戦闘機の正当な後継機として期待された試作戦闘機。史実では発動機選定のミスや遅すぎた完成、完全に逸した登場時期などから『悲運の戦闘機』、「軍の政策の犠牲者となった幻の次期主力戦闘機」ともされる。運に見放されたこの戦闘機はたとえ、大日本帝国より段違いな国力と工業力を誇る扶桑皇国においてストライカーユニット化されても史実同様の運命を辿っていた。そのこともあって、雷電は烈風の開発の遅れによる零式艦上戦闘脚の旧式・陳腐化を救う救世主と目されているのである。試作機は義勇軍に合流した第501統合戦闘航空団の坂本美緒少佐用とその予備機として3機が配備される。しかし坂本は雷電を着陸速度が速いなどの理由で、結局乗らずじまい(これは坂本の局地戦闘脚への無理解に起因している)で、その代わりにシャーリーがP-51の代わりにしばしば使用したとの記録が残されている。



「くっくっく。見ていろ山西航空機!!海軍の次期主力戦闘脚の座は我社が頂く!!」


彼の意気込みを示すように、海軍の新制式塗装がなされた「雷電」は主を待つかのように、静かに鎮座していた……。が、結局雷電も烈風も、ものほかの理由で次期主力機となるには至らずじまいで、紫電シリーズが『海軍最後のレシプロ主力機』となっていく。烈風と雷電の生産量は両機種を合わせても紫電シリーズの半分にも満たなかった。ジェットストライカーや未来技術の装備が台頭してきたためだ。烈風と紫電改の退役は戦闘機がF-8Uクルセイダーが空母機動部隊に配備完了した1949年、ストライカーが1951年であったという…。






















地球連邦軍は空母機動部隊で平行世界の地球に介入したが、ティターンズ残党軍が現地にて軍事行動を取っていると報告を受けた連邦軍上層部は万が一に備え、さらなる増援を送ることを決定。その白羽の矢が立てられたのが、当時、就役して間もなかった改アンドロメダ級戦艦一番艦『春蘭(しゅんらん)』を旗艦とし、新造空母「雲龍」「天城」「葛城」を擁する第2機動艦隊(これは7月末に連邦軍の艦隊命名基準が変わったためである。元は第三艦隊といった。)が新たに送り込まれる手はずとなった。艦隊の陣容は新鋭艦が揃えられ、アンドロメダ級宇宙戦艦一、ラー・カイラム級機動戦艦二、クラップ級巡洋艦一六、戦闘空母三、駆逐艦三十隻あまりである。(一航艦も含めて、これだけの艦船を送り込めるようになったのは兵団との戦線が優位になりつつある事によって軍に余裕が生まれた事による)この事はすぐに一航艦のシナプスにも伝えられ、扶桑皇国の海域にて合流することとなった。










――扶桑皇国 横須賀 


「未来の艦隊かぁ……」

未来空母赤城の飛行甲板でシャーロット・E・イェーガーは複雑そうに空を見つめていた。未来の科学で固められた艦隊の介入によって戦いが楽になればいいが、その技術を不正に入手して悪用しようとする輩だって必ず出てくるだろう。どうなることやらとため息をつく。(特にブリタリア空軍のマロニー大将は真っ先にそれを実行しそうで、必ず自分達を排除しようとするだろう)

普段明るい性格である彼女も、人類が超科学を悪用しようとする心の闇の闇を危惧していた。その辺は将校としての素質を備えていると言える。そんな彼女は、美緒に案内されて赤城の艦内を見て回ったが、見慣れない飲み物だらけな自動販売機やTVゲーム(この時代にはコンピュータはまだ発明されていないので、シャーリーには何が何だか分からなかったが)ビリヤードにマージャン、卓球などの無駄に遊戯関連が充実した設備の休憩室。さらに温泉完備……軍艦かしらぬ居住性の良さに驚かれた。

「なんでこんなに居住性いいんですかぁ!羨しいぃぃ〜!!」

――そう。この時代の軍艦は武装を強化する代わりに居住性はあまり良くない。(イギリスや米国艦は比較的良い方だが、それでも客船には一歩及ばない。居住性が最悪なのは、特に日本海軍に見られた傾向)

「何でも宇宙を長期に渡って航海するからその関係らしい。それは私も驚いたよ」

そして今日は新たに援軍として「未来」から派遣された艦隊が合流した。戦艦3隻、正規空母3隻を基幹とする有力な編成。巨人の掃討を担当するとのことだ。2つの艦隊の統合運用を円滑に行うための事務作業と業務に時間がかかるため、当分は横須賀に停泊する。

シナプスにとって朗報だったのは、援軍の第2機動部隊には新型の可変戦闘機「VF-25 メサイア」が一個中隊分(9機ほど)搭載されていた事だった。この機体はマクロス・フロンティア船団 (第25次新マクロス級超長距離移民船団)が次世代機として採用した、最新鋭機。かのVF-19「エクスカリバー」をも凌ハイエンド機としての性能を備えていたために、他の試作機を差し置いて、マクロス・フロンティア以外の連邦軍としては初のライセンス獲得による先行量産が行われたのである。シナプスにはこの新型機を含めた航空戦力の弾力的運用が求められていた。彼は上層部からの無茶な指令にため息をつきながら航海日誌に愚痴を書き込んだとか。ちなみにシャーリーと美緒の扱いは客員士官とされ、第501統合航空戦闘団での待遇をそのまま当てはめて扱われる。(2人は早くも生活に慣れたらしく、連夜、温泉卓球でしのぎを削っていた。それを教えたのはシナプスら艦の首脳陣)。ブリタリアにいる501統合航空戦闘団には美緒が無電でシャーリーの無事を知らせた。司令官のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは美緒の無電での知らせに安堵し、その他の隊員も仲間の無事に歓喜した。坂本は義勇軍が援軍に加わるが、自分はそれに同行することになってしまったので、それまで待っててくれと告げた。軍艦生活が始まって6日ほどが立っていた。この日、美緒は扶桑本土に戻っていた。目的は第一に試作型ストライカーユニットの受け取りで、試製雷電を4機(予定では3機だったが、先行量産型が一機ロールアウトした)ほど。そのうちの一機はP―51を失ったシャーリーに与えるが……。
今日は親友の竹井醇子(リバウの貴婦人の異名を持つエース。史実で言うところの「ラバウルの貴公子」の異名を持った大日本帝国海軍のエースパイロット「笹井醇一」海軍中尉に相当する存在と推測される)大尉と会う予定である。なんでも彼女が推薦するウィッチ候補生がいるとの事だが……。はたしてどんな人物なのか?









――横須賀鎮守府 

「久しぶりだな。醇子」

「ええ。義勇軍の調査に行った……というのは本当なのね?」

「上の指示でそうなったんだが、今のところ我々に敵対する意志はなさそうだ。あの艦隊の技術はこの星の全てを遥かに上回っている。敵に回ったらその上無く恐ろしい」

「ええ。だからこそ彼等は味方であって欲しい」

「そうあってもらいたいが……。ところであなた知ってる?第343航空隊の事」

「ん?ああ、あの源田の奴が各地からエースを引きぬいて作った防空航空隊だろ?何でまた……気に入らん」



――第343海軍航空隊。それは史実では大戦末期に開戦時からの技量劣化が顕著に現れていた大日本帝国海軍航空隊にあって、激戦を生き残ったベテランが比較的多く、防空で勇戦奮闘した部隊。もし笹井醇一などが生きていたら配属されていただろう。坂本が言った『源田』とは第343海軍航空隊を創設した源田実大佐その人で、史実では戦後に航空自衛隊の空将に上り詰めた。しかしながらその手腕には艦隊参謀時を中心に疑問符が付くもの、どちらかと言えば当時の海軍では有能な方である。しかし坂本はその強引な手腕に反発しているのだ。



「実はね。直枝があなた達の応援に行くって
言ってきてるの」

「なっなっ……何ぃ!!??あのデストロイヤー野郎が!?久しぶりにその名を聞いたな」

『直枝』とは、菅野直枝海軍大尉(それまでは中尉だったのだが、第343航空隊配属の際に昇進した)の事。ストライカーユニットを幾度となくぶち壊し、上官にも臆さないで逆に食って掛かる程の豪胆さを持つ事から次第に「菅野デストロイヤー」としてその名が知れ渡っていた。現在は第502統合戦闘航空団に所属している。坂本は彼女の元教官で、教え子の一人でもある。





「……んで、誰がデストロイヤーだって?坂本さんよ」

「おわあっ!?な、直枝!?お前、何でここに!?」

「あんたと同じ理由で急に前線から本国に呼び戻されたんだよ。502のオレがだぜ!?上の指示だからしゃーねーけどさ……」


その当人が姿を見せた。黒髪・ショートカットの美少女で、特徴としては後の世で言うところの「ボク少女」に相当する口調で、とんでもなく荒い言葉づかいをする所。使い魔は史実の菅野大尉の異名の一つ「ブルドッグ」。年齢は15歳。階級は史実のこの時点ではまだ少尉だが、この世界では既に大尉へ昇進ずみだ。同じ軍に属する関係で、美緒とも面識あり。直枝は美緒の元上官(直枝と同部隊に居た時点での美緒の原隊での実階級は中尉)にあたる。ただ5歳年上である美緒と主にタメ口を聞いてはいるが、軍人なので、タメ口は基本的にプライベートの時や慌てた時に限る。ただしいつの間にやらクセになっていたので、中々徹底出来ていない。それに坂本とは、基本的に年の差を超えた`友`なせいもあって、ついついタメ口を聞くのだ。美緒の出向先での元上官というせいもあるが。(ちなみに菅野の343航空隊での相棒は後に508統合戦闘航空団へ派遣される松田昌子少尉。彼女とは長い付き合いで、502へ代理にいかせたのも菅野の命によるものだ)


「醇子さんから話は聞いたろう?テメーを手伝ってやんよ♪」

「それは嬉しいが……お前の502統合戦闘航空団は激戦地の部隊のはずだろ?独自行動をとって良いのか?」

「アレクサンドラさんやラル隊長には許可はもらってある。それに俺の代理に松田の奴を行かせた。奴なら十分にやってくれるさ。……ところで醇子さん。アンタが言ってた候補生って……」

「この子よ」

醇子は一枚の写真を二人に見せた。一人の女学生がそこには写っていた。彼女の名は「宮藤芳佳」。類稀な魔力を持っていたことを潤子が見抜き、ウィッチ候補生としてスカウトした。現在は教育が無事終わり、部隊への配属を待っている状態。醇子は芳佳を第501統合戦闘航空団に配属させる腹積もりでいるらしい。


「ふぅ〜ん。コイツが……。アンタが見どころあるって言うんだから相当だろう。まっ、今は候補生に毛が生えたようなもんだろうがな」

菅野は予言とも取れる一言を言った。彼女は醇子の人を見る眼が確かであるのを知っていたからであるが、半ば後の芳佳の奮闘を予見していたかも知れない。本来の流れでは、芳佳と直枝は別々の部隊にいた関係で、相まみえる事は無かった両者だが、歴史が変わった、この世界では出会う事になった。そして、1945年次以降、療養を余儀なくされた松田昌子に代わる僚機として芳佳が付き、343空の誇る武闘派として、両名は名を馳せていく。)





「ところで、アンタが受け取ったストライカーユニットってどんなんだ?」

「私は局地戦闘脚を4機も受け取ったよ。名前は雷電とか言ったな」

「オレは紫電。なんか性能を力説されちまったよ。まっ、俺には新型でもどうでもいいけどな」


この頃、扶桑皇国海軍は開戦時から主力を占める、零式戦闘脚を後継する新型ストライカーユニットの開発に血眼となって取り組んでいた。各社はこぞって独自のストライカーユニットを試作しては海軍航空本部の試験に提出。制式採用通知を待つという状況であった。その中でいち早く採用されたのが宮菱(史実で言うところの三菱重工)の雷電と山西(こちらは川西飛行機に当たる)航空機の紫電。史実でも最重要機種として名が上がった(雷電は零戦の代換機種を本命視され、紫電及び紫電改は事実上の後継)機体だが、ここでも真っ先に量産されるだろう。試作機をエースに重点的に贈るというのはほぼ制式採用が決定したようなものだからだ。

「んで、そういう事で501に出向する事になったからよろしく頼むぜ、美緒……いや坂本さん」
「ああ。お前の敢闘精神、アテにさせてもらうぞ。」


2人は固く握手を交わした。直枝が501に出向する事になったのは各国が第505統合戦闘航空団「MIRAGE WITCHES」を殲滅させた『機械の巨人』を恐れているためであり、次に狙われるのが第501統合戦闘航空団「STRIKE WITCHES」(ストライクウィッチーズ)の担当する、ブリタリア方面であるのが分かっていた。苦肉の策で、各統合戦闘航空団の中から比較的巨人に対して奮闘した人員を選抜し、第501統合戦闘航空団に助っ人として贈る事が決定された。最初に、謎の円盤を数機落とした実績のある、第502統合戦闘航空団「BRAVE WITCHES」(ブレイブ・ウィッチーズ)に真っ先に白羽の矢が建てられた。そこからさらに選抜された結果、一番敢闘精神があり、「菅野デストロイヤー」の異名を持つ菅野が選ばれたわけである










――これも奇妙な運命の巡り合わせというもので、史実でも坂井三郎と菅野直は第343海軍航空隊にて同僚(階級は菅野の方が上)となった。これは世界が違い、さらに性別が変わっても変わらなかった運命であるのだろう。ちなみにこの中の3人の中でのパラレルワールドの姿−史実での撃墜王達−の中で天寿を全う出来たのは、坂井三郎のみである。笹井醇一はガダルカナル島の戦いにて、米軍海兵隊のエースパイロット「マリオン・カール」大尉との空戦に敗北、戦死。菅野直も終戦間際の8月1日の空戦でMIA(戦闘中行方不明)となっていた。(その正確な行方は21世紀になっても不明なまま。通説は空戦にて機銃が暴発した影響で墜落、あるいは撃墜。)。唯一、坂井三郎のみが平成12年(2000年)まで天寿を全うしている。それを踏まえてみると中々感慨深いものがある。3人は時間も忘れて談笑した。これから始まる戦いの前に母国との別れを惜しむかのように……。3人の撃墜王達はそれぞれの戦いに身を投じていくのである。


















「少佐はどこで何してんだぁ〜!!もう半日経ってるぞ」

「まあまあ、落ち着いてシャーリーさん。コーラでも飲む?」

「ジュドー、お前は気楽でいいよな……。おまけにあんなカッコいいのに乗ってるんだから」

「そりゃ俺、ガンダムのパイロットだし。カッコいいのは当たり前よ」

「今度アレに乗せろ〜!!どれくらい速いか知りたいんだよぉぉぉ〜!!」

「でも俺のダブルゼータの変形形態は爆撃機だよ?俺としては勧めないよ。ゼータプラスにしたら?」

「合体変形は漢のロマンなんだよ!!」

「早くも染まってるねぇ……」

「な〜、いいだろ〜」

「う、うん。あとで艦長と話してみるから」

何時までも坂本が帰ってこないので、シャーリーがジュドーを捕まえて暇を潰していた。この時の会話は後に可変戦闘機に乗る形で実現し。2201年時には、未来世界での可変戦闘機を用いたエアレース「バンキッシュレース」にエントリーし、初出場で10位以内に入賞を果たす大健闘をしたと記録されている。
























――機動部隊は3つの地域に派遣された。シナプス座乗の第一航空戦隊「赤城」と「加賀」はブリタリア(現実世界で言うところのイギリス)方面へ。第二航空戦隊の「蒼龍」「飛龍」は505統合戦闘航空団の救出のためにウラル方面に、第五航空戦隊の「翔鶴」と「瑞鶴」はカールスランド(こちらはドイツに相当)」奪還の任を負った第502統合戦闘航空団の支援とティターンズ残党軍の本拠地の調査のために赤城と同様に欧州に赴いた。予備群として扶桑に「雲龍」らを配した。(場合によれば、アフリカ方面に派遣されるらしい)








「……状況は?」

赤城のアイランド(島型艦橋)で副官からの報告を受けたエイパー・シナプスは渋い表情を浮かべた。管理局からの増派は彼等の本国「ミッドチルダ」での会議での決定待ちになるという事で、提督の「リンディ・ハラオウン」から謝意の通信が届いたという。

「やっこさん、だいぶ揉めてるようです。ウィッチの存在がどうも向こうの言うところの世界の位置づけに引っかかるようで……」

副官は管理局上層部内部の穏健派と強硬派の揉め合いにうんざりしているようで、『もうやだ』といったため息を見せている。お詫びに補給物資(食料など)が届けられたもの、どうにも地球在住経験者以外の管理局上層部は地球をまだ信用していないと言った様子だ。


「ところで少佐達の処遇はいかがなさいます」

「うむ……。艦載航空隊付けの客員武官ということになるな。彼女たちのストライカーユニットの発進促進装置の正式な設置は上手くいったか?」

「最後部の第3エベレーターを使う形でどうにか」

「よし……。決まったな。通信班にこの時代のモールスで打電してくれ。『第501統合戦闘航空団に援軍として馳せ参じる』との趣旨で」

「分かりました」



副官はシナプスの命令を通信班に伝え、指令は直ちに実行に移された。通信で暫定的な措置で坂本とシャーリーを指揮下に加えてあると伝えられ、501統合戦闘航空団に通達がなされた。その通信から4日後。扶桑からウィッチの補充要員として「宮藤芳佳」一飛曹(他国で言うところの軍曹)が乗艦。それを期に「赤城」と「加賀」は一路、ブリタリアを目指して発進した。(史実では宮藤芳佳は突発的戦闘の結果、採用された。しかし微妙に異なる歴史の流れを辿ったためか、扶桑本土であらかじめ訓練を積んだ上で採用された)








――後日、飛行甲板の上空では、ウィッチ達と航空機の合同訓練が行われていた。コスモタイガーUや歴代の各種可変戦闘機や可変MS達の銀翼の快音が空を華麗に切り裂き、ウィッチ達の時代的なレシプロストライカーがジェット戦闘機達に果敢に挑んでいた。機種は扶桑の試作機である「紫電」と「雷電」。(リベリオン合衆国出身のシャーリーは自国製のPー51マスタングD型/H型を希望したのだが、時間的余裕がなかったために扶桑のストライカーユニットを使用している。それと訓練相手が優にマッハを超える速度の戦闘機なのは、今後、超音速のネウロイが出現する可能性を見越して、坂本がシナプスに直接要請したのである)





「く〜あのスピード……羨しい〜!!950超えてるんじゃないか!?」


シャーリーは訓練相手の未来戦闘機の圧倒的な速度に憧れを持っていた。彼女は元々、バイクでリベリオン合衆国(史実のアメリカ合衆国に相当)のボンネビル・ソルトフラッツを300キロ近くでぶっ飛ばした記録を保持しているほどのスピード狂で、趣味が高じて軍人になった。(その辺はロンド・ベルのコウ・ウラキ中尉と似ている)そのため、未来世界から持ち込まれた戦闘機などの乗り物に乗りたがったのは言うまでもない。彼女が今、追尾しているのは後期型コスモタイガー。パイロットは加賀所属の飛行隊隊長で、かつて、宇宙戦艦ヤマトでコスモタイガー隊長を務めた経験を持つ坂本茂大佐。最大戦速で追尾しているが、圧倒的なスピードの差によりグングンと引き離されていく。



「イヤッホゥ!!どうした嬢ちゃん!!遅い、遅い、遅いぜ!!」

「く、くく……くそぉ!!負けてたまるかぁっ!!」

坂本茂のあからさまな挑発に乗せられた形でコスモタイガーを追うシャーリーだが、ストライカーユニットの性能的限界が要因で、グングンと引き離されていく。しょうが無い事だが、コスモタイガーの性能は純粋な戦闘機としては、2199年現在の最高峰を誇る。(ちなみに前型機のブラックタイガーでさえ、惑星イスカンダルの技術援助の結果、大気圏内速度はマッハ7を優に超える速度を常に維持可能。これは学園都市が使用していた大型機に若干劣る数値。一般のテクノロジーが学園都市に追いつくのには各種オーバーテクノロジーを入手しても、約百年を要したということになる。後継機のコスモタイガーUはさらに上回る速度を発揮可能)超音速飛行をシャーリーの固有魔法と合わせて、やっと可能にするレシプロストライカーユニットではコスモタイガーに追いつくのは、ほぼ不可能だった。雷電の火星エンジンを最大出力で吹かしているが、コスモタイガーに追い付くことすらままならない。

「やっぱり最大出力でもこれかよっ!魔法力を使ったら扶桑皇国製のじゃ空中分解しかねない……どうする?」

扶桑皇国のストライカーはリベリオン製と異なる設計思想の下で作られている。後世のTVゲームで言えば、速度性能よりも格闘性能にパラメータを振りかけた結果だ。これは重戦闘機を求める若手と軽戦闘機万能主義のベテランとのせめぎあいの最中に設計されたからでもある。これは宮藤一郎博士が残していたアイデアを基に、曽根嘉年副主任が用兵側の局地戦闘脚の要求に答えんと造り上げた。しかし不遇なことに、重戦闘機よりの飛行特性はこの当時のベテランウィッチに受けず、陸上戦闘脚としての零式の代替機にはなれなかった。紫電のほうが格闘性能が高かった故に、紫電シリーズが大量生産されたからだ。紫電改はP-51レベルの速度性能と格闘性能が両立されていたため、1946年までに大量生産されており、ジェットストライカーの普及まで主力を務めたために、雷電は少数派で終わった。しかし、外国人には受けが良く、シャーリーなどの優秀な外国ウィッチが愛用し、相応の戦果を上げたとの記録が残されている。




――スピードで追いつけないと判断したシャーリーは機銃を撃つが、坂本茂の技量の前に軽くいなされ、当てられない。コスモタイガーの意外な機敏さが光るシーンだ。

「……っ!!じっとしてろよ……ッ!くそぉっ!」


模擬弾は巧みな動きで躱され、レシプロ機より機体の反応速度もいい。奇襲をかけようと急上昇したその時だった。耳のインカムにさらなる通信が入る。

「嬢ちゃんに見せてやんよ。ジェット戦闘機時代の空中戦闘機動って奴を」

そう言うとコスモタイガーの機首が上部に上がり、270度以上の角度に向く。この一連の動きこそ、航空機が行える機動の中でも最高峰の難易度を持ち、ジェット戦闘機の中でも機動性に優れる機体のみが行える空中戦闘機動である。その名もプガチョフ・コブラ。これは発想がなされた20世紀当時は極一部の機体のみが行えた。22世紀終盤においては機動性重視の機種ならばどれでも実行可能となっているもの、それをさらに戦闘に活用できるのはエースか、ベテランパイロットに限られている。坂本茂はかの宇宙戦艦ヤマトに乗艦していた時期に実戦を経験していたのと、元々士官学校の航空部門を首席で卒業した経歴持ちのエースなので実行できたわけである。この、レシプロ戦闘機時代ではありえない動きの空中機動にシャーリーはど肝を抜かれた。

(いいっ!?嘘だろ!?あんな動きネウロイの奴らだって、やってるの見たこと殆ど……!)


その瞬間、コスモタイガーの翼内機関砲10門が火を吹いた。口径はこの時代の航空機関銃と同じ12.7o余り。シャーリーはすんでのところで回避に成功するが、模擬弾とは言え、機関砲の弾幕に囲まれると肝を冷やされてしまう。



「危ないところだったぁ〜……あれが数百年先のジェット戦闘機の機動性かよ……」


やたらと小回りの効くところはストライカーユニットの方が有利であるが、あのような意表をつく空中戦闘機動ができるとは。世代の違いというのは恐ろしい。あれでは試験機で、近々量産配備予定のグロスター・ミーティアや、P-59エアラコメットなど、まるで子供のおもちゃにしか思えなくなってくる。

「少佐や宮藤、菅野の奴は大丈夫かな?心配になってきたぞ……」

シャーリーは水平飛行に戻るコスモタイガーを尻目に、他の空域で自身同様に未来の兵器と模擬戦を行っているであろう3人の事を心配していた。スコアは今のところゼータタイプの可変機を2機ほど。思ったより稼げていない事に悔しさを見せるとコスモタイガーをさらに追尾する。知らず知らずのうちにシャーリーはレシプロ式ストライカーユニットの限界にチャレンジしていた。

「!?」

坂本茂のコスモタイガーは急上昇でシャーリーの前から姿を消す。あっという間である。彼女の『ケツ』を取った瞬間、模擬弾が火を噴く。シャーリーは撃墜判定をもらい、大いに悔しがったとか。





(余談であるが、1944年の時点の科学力で作れるジェットエンジンは黎明期というべき、第一世代のターボジェットエンジン。搭載形式も『P-80シューティングスターが先便を付け、後の朝鮮戦争以後に普及した胴体内装式でなく翼にぶら下げる形式などが普通だった。機動性はレシプロ機に及ばず、対戦闘機戦闘は出来ず、爆撃機迎撃用の機体とされていた。この世界においてはストライカーユニットへの搭載はまだ実用試験段階に過ぎない。ジェットエンジンを言葉でしか知らない人間がいきなり20世紀後半以降に考え出されたジェット戦闘機のマニューバであるプガチョフ・コブラを目にしたのだからその驚きは当然と言えた。)

 
さて、こちらは菅野直枝。敢闘精神溢れる彼女は主に可変戦闘機の編隊に戦いを挑んでいた。相手の機種は可変戦闘機の中では旧式化しつつある、普及量産機のVF-11 サンダーボルト。レシプロストライカーユニットを纏っている彼女だが、思い切った戦法でジェット戦闘機の子孫とも言える可変戦闘機達と渡り合っていた。

「好き勝手やりやがって!!ナマイキなんだよコノヤロウ!!」

手に持つ九九式二号4型20o機銃を至近距離で乱射し、サンダーボルトの翼に模擬弾を炸裂させ、赤いペンキをつける。



――史実での菅野直はB-24の垂直尾翼に乗機の主翼を引っ掛けて吹き飛ばして撃墜したという逸話を持つが、その並行世界での存在である彼女も同じような事をするのは目に見える。連邦軍側が今回の模擬戦闘で一番恐れているウィッチは彼女であったとか。

「さすがデストロイヤー……。こうも戦うか……」

連邦軍側はただただ菅野の戦いぶりに感心していた。彼女は並行世界の自分が「日本海軍屈指のエースパイロット」として歴史に名を遺したのを聞かされると嬉しそうだった。ただし彼が終戦直前に戦死していることを知ると悔しそうな表情を見せたとか。彼女の奮闘ぶりはデストロイヤーの異名から言ってむしろ当然と言えた。







――模擬戦が行われているのと同じ頃。赤城の通信室にウラル方面に向かった第5航空戦隊から通信が入っていた。ウラル方面といえば、第505統合戦闘航空団が壊滅した後はネウロイとティターンズの小競り合いが行われているはずだが……

「はい。こちら赤城。」


「こちら翔鶴通信班。艦隊司令部に通達。第505統合戦闘航空団の生き残りと思しきウィッチを保護した。繰り返す。第505統合戦闘団の生き残りと思しきウィッチを保護した……」
「それは本当か!?」

「壊滅した基地から飛んできたようだ。ティターンズの『狩り』を免れた元ウィッチで、官名は原隊は扶桑陸軍航空審査部飛行実験部所属、現在は505統合戦闘航空団所属の黒江綾香大尉だと言ってきている」

黒江綾香とは、史実での「魔のクロエ」の異名を持ったエースパイロット、黒江保彦少佐に相当するウィッチ。かつては扶桑陸軍きってのエースとして知られたが、年齢が前線で戦うウィッチとしての寿命である20歳に達したために退役していたが、魔力の減衰が遅い体質だったので軍に復帰していたのだが……。

「わかった。直ちに司令に伝える。そちらの状況は?」

「現在、何度かティターンズのMSと交戦し、二個小隊を撃滅した。大尉を保護したのもその過程でだ」



「しかしよくまあティターンズの追撃から生き延びたもんだ」

「彼女も必死だったみたいだ。仮面ライダーアマゾンばりのサバイバル生活を送ってどうにか逃れたとか……」

「大尉の容態はどうだ?」

「医者が通常の治療じゃ間に合わんからとかで、アレを使った。タイムふろしき。それで肉体の状態を若返らせたんだけど……医者の奴がとんでもなくエロで、もののついでとか言って、大尉をローティーン(12〜13歳)の状態にまで若返させちまったんだ」

「……そうか。あのロリコンめ」

「こちらからは以上だ」

「ご苦労様」

通信班長は溜息をつくと、シナプスに以上の内容を伝達した。あまりの内容にシナプスは頭を抱えたとか。(この後、黒江はその足で未来へ送られ、翌年には地球連邦の文化に一番馴染んだウィッチの称号を得、陸軍(空軍設立後は空軍)三羽烏筆頭として活躍する。そしてこの事例に発想を得た連邦軍と連合軍はウィッチ不足を補うための『エクスウィッチ若返り作戦を立案、実行する事になる)
















――翌日 飛行甲板

「初めて甲板に上がったが……何考えてこんなの作ったんだよ。空母と戦艦を一緒にするなんて」

「何でも平行世界の『大日本帝国海軍』がその末期に伊勢と日向を半戦艦半空母の航空戦艦にしたのがその由来。それをさらに推し進めたのがこの戦闘空母らしいが……」

坂本は赤城や加賀の姿に若干疑問を抱く。それぞれ別々に作った方が効率良さそうだが、
未来世界では用途特化型は巡洋艦などの一部除いて廃れ、たとえ戦艦であろうとも、空母と同等の搭載能力を持つ、万能型が大型軍艦の主流になったという。人型機動兵器の普及故らしい。



「あのコスモタイガー……ったけ?中々早い機体だそうじゃないっすか」

「ああ。前に乗ってみたが、中々楽しめた。直枝、お前はどうなんだ?」

「オレか?噴進式には興味ありまっせ。シャーリーの奴は…って、おいぃぃ〜!!」

菅野は呆れたように甲板に駐機されている`一式宇宙艦上戦闘機『コスモタイガーU』に擦り寄っていくシャーリーに視線を向ける。
どうやらスピード狂であるシャーリーからして『乗りたい』というのは美緒から話を聞いていて知っていたもの、早速行動を起こすとは……。




「でも、シャーリーさん、凄く嬉しそうですよ」

芳佳は微笑ましそうにシャーリーを見ている。この艦に乗り込んでからはもっぱら訓練と家事手伝いに明け暮れている彼女だが、シャーリーがひたすらスピードを追い求めているのは、本人から聞いていた。この間の訓練でも雷電でコスモタイガーを追い回していたし、何よりもこの艦の搭乗員の誰もが体験済みの音速の世界に足を踏み入れたいという気持ちはこの場にいるウィッチの中では一番強いだろう。それを芳佳は悟っていた。

(動かしてみたい……。マッハの世界って奴がどんなのか見てみたい!)



それはスピードを追い求めているシャーリーの羨望とも取れる気持ちの発露だった。ネウロイに超音速のスピードを持つタイプが出た場合、現有のストライカーユニットでは対応出来ない、もしくは追従することさえ困難だろう。しかし開発中のジェットストライカーはカールスラントの技術力を以てしても未だ実験機の域を出ないし、燃費は最悪だという。(初期のジェットエンジンの弱点そのもので、燃料の魔法力の消費率が高い)コスモタイガーのスピードは坂本が試乗して、絶賛する程に早い。ここのところの演習でも4人の攻撃を軽く振りきっている。

「乗りたいか、大尉」

「中佐」



何時の間にこの艦の航空隊隊長で、元・宇宙戦艦ヤマトのコスモタイガー隊の2番隊隊長であった『山本明』が来ていた。(彼は『別の歴史』では戦死している、宇宙戦艦ヤマト建造当初当時のクルーで、地球圏有数の戦闘機乗り。この歴史では白色彗星帝国との戦いでベイルアウトし、どうにか戦死を免れ、ヤマト艦載機隊幹部での唯一の生き残りとなった。戦後は戦死を恐れた軍の上層部からの命令で地上任務に付いていたが、赤城の再就役に当たって、航空隊隊長に抜擢された。その際はヤマトの事を教え子の一人に託した。それが坂本茂だが、彼も一時出向中)

「コイツは製造間もない、できたてホヤホヤの機体だ。慣らし運転が必要だから、俺がやろうと思ったんだが……良ければ乗っていいぞ」

「本当ですか!?」


山本はシャーリーがコスモタイガーに乗りたがるのを見抜いていたのか、あっさりと搭乗を許した。隊長の許しを得たので、シャーリーは勇んでそのまま乗り込もうとしたが、流石に山本に「耐Gスーツくらい着ろ」と止められた。(いくらウィッチが魔法で体を保護していると言っても、ジェット戦闘機時代の機動はプロペラ機とはケタ違いのGがかかるため)装備一式を着込んで、偵察飛行を兼ねたシャーリーのスピードへの挑戦が始まった。

彼女の知る、どの戦闘機とも違う、流線型の機首、無尾翼デルタに属する外観。ジェット戦闘機の一つの到達点らしい(オーバーテクノロジーが用いられたとは言え、純地球製戦闘機の系譜に属する)洗練された機体に乗り込む。操縦法は『レシプロ機さえ操縦できれば簡単』との事なので一安心だ。思い切って一気にスロットルを引き、カタパルトで一気に射出される。

「おおおおおおおっ……!!こ、この加速……、ケタ違いだ!!」

シャーリーは瞬く間に加速していくコスモタイガーでの初感想をこう述べる。プロペラ機とは段違いの加速であるので、体がシートに押しつけられるが、あっという間に艦を離れ、大空を飛翔する。超音速飛行を味わえる事が嬉しかった。





艦へ通信を入れようと通信回線を開くとノイズ混ざりだが、声が聞こえてきた。それは聞き慣れた仲間の声だった。聞き間違えるはずはない。




『…ーネ…さん……対装甲ライフルで……』

『……メです……かない……!!』

『う……ああ……!!』




この3つの音声がなんであるか瞬時にシャーリーは理解した。501統合戦闘航空団が敵と戦っているのだ。敵はネウロイではない。そんじょそこらのネウロイに遅れをとるほど、501は烏合の衆ではない。エース級の集まりである統合戦闘航空団を追い込めるのは……ただひとつ。例の機械の巨人しか有り得ない。つまり艦隊の言う『モビルスーツ』。

「中佐、リーネ、それにルッキーニ……!……くっそ!何があったってんだ……!!」

一気に焦りの表情となった彼女は急いで通信回線の電波発信を最大にして、通信のチャンネルに割り込みをかけた。コスモタイガーの通信設備ならこの程度は余裕だ。

「中佐、ルッキーニ!!聞こえるか!?おい!!」

返事はすぐに返ってきた。彼女を非常に慕っていた、フランチェスカ・ルッキーニからだ。

「シャーリー!!無事だったんだね〜!!」

「心配させたな、ルッキーニ。そっちの状況はどうなってる?」

「例の巨人が襲ってきたんだ。応戦してるんだけど、リーネのライフルもサーニャのフリーガーハマーも効かないよ〜!!」

「……分かった。あたし達が行くまで何とか持たせろ!!中佐にも言っとけ!……いいな?」

「うん!!」

ルッキーニとの通信を終えると今度は艦隊へ打電する。内容は`501が敵の攻撃を受けている。至急援軍を派遣されたしと。シャーリーからの通信を受けた艦隊は501救援を決意。艦載機動部隊を緊急発進させる事を決定した。

「なんだか慌ただしいぜ」

「本当だな。山本中佐、何があったのですか?」

「君たちには悪い知らせだ。501統合戦闘航空団が敵の襲撃を受けていると大尉から通信があった」

「何だと……!!それで……それで何と…ミーナは……あいつらは!?」

「美緒……じゃなくって、坂本さん落ち着け!!……それで?」

詰め寄ろうとする美緒を菅野が抑えつけながら山本に聞く。坂本は仲間たちの危機と聞いて、完全に感情が高ぶっている。そこで冷静さを保っている菅野が聞いたのだ。因みに本来、階級が上な(直枝が大尉なのに対し、美緒は少佐)美緒を最初、名前で呼んだのは、坂本は以前、本国の第343海軍航空隊で教官を務めていて、そこで菅野と同僚となった。原隊での階級は直枝の方が上(坂本の本国での階級は1944年前半で中尉、後半で大尉)だったので、色々反抗し、殴り合いになったこともままあったとか。その後は打ち解け、『戦友』として接するようになったので、二人きりの時はたまに名前で呼んでいたのである。(この後は後輩である芳佳達の手前、『坂本さん』で統一するが。)




「俺達を始めとする機動部隊に直ちにスクランブルがかかった。君達にも出てもらう事になる」

「了解しました。でもここからじゃ501が守っているブリタニアへは……」

「この艦が大気圏内の最大戦速で行けば、数時間もあればリベリオン東部、いやブリタリアに行ける。そこでバルキリーを含めた、俺達戦闘機部隊は大気圏ではほぼ無限の航続距離があるから、一番槍として先行するわけだ」

そう。オーバーテクノロジーが組み込まれた22世紀終盤の宇宙戦闘機は大気圏内運用に限って言えば、無限に等しい航続距離を誇る。
それを活かすわけである。




「分かりました。オレ達の発進はブリタリアに着いてからですね?」

「そうだ。モビルスーツ隊などと同時に発進してもらう」

「了解っす」



菅野は敬礼し、出撃していく山本を見送った。501の事は今は彼等に任せるしかないというのが実情。帽振れで見送る彼女はこれから訪れるであろう、技術の福音に、複雑な気持ちを浮かべるのであった。






――ブリタリア とある空域

「……駄目ッ……こっちの攻撃は効果なし……ああっ……ビスマルクが!」

501統合戦闘航空団の隊長であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは敵の巨人の圧倒的な装甲の前に部隊の敢行火器が通じない事に悔しさを顕にした。なんとか苦労して、円盤状の数機を数機不時着に追い込んだもの、敵はあまりにも巨大かつ、強大だった。敵の圧倒的火力の前に連合軍のヴィットリオ・ヴェネト級戦艦のローマは真っ二つになって轟沈。カールスラントの誇るビスマルク級戦艦は1番艦「ビスマルク」が3番砲塔喪失の損害を負っている。さらに航空攻撃で「キングジョージX世」級の「プリンス・オブ・ウェールズ」が瞬時に爆沈するなど、その被害は散々たるもの。敵との技術力の違いは明らかであった。欧州の最新鋭戦艦群を容易く屠る火力のビームや誘導ロケットなど、どう考えてもどの国も実用化していないし、第一、国々が実用化してるのなら、ネウロイなど自分達に頼らずに粉砕できるはずだ。



『さて、どうする?`フュルスト`…いやフュルスティン」

彼女が対峙した巨人(バーザム)から声が響く。

「……あなた、私を知ってるの?」

『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、フュルスティンの異名があるエース。調べていれば分かる。それに君、いや平行時空の君と、言うべきか。そのヴォルフ・ディートリッヒ・ヴィルケには我が先祖の借りがある』

バーザムのパイロットはそう言うとコックピットハッチを開けて、その姿を見せる。その瞬間、ミーナは驚愕した。`人`が巨人を操っていたのだから。

「そ、そんな……人が……?」

「そうだ。これは『兵器』だよ。人が殺し合うための道具だ」

ミーナは呆然とそのパイロットの言葉を聞いていた。巨人は人間の手によって操られる兵器だった。その事実はそれほどに衝撃的だった。

「我々にはもう帰る場所も、生まれ故郷`もない。私は我が先祖の悲願を達成するだけだ」

彼は言った。先祖の悲願と言う単語とヴォルフ・ディートリッヒ・ヴィルケと言う名前。それはミーナの平行世界における、自分に当たる存在。バーザムのパイロットの先祖は、第二次世界大戦中、連合軍の搭乗員として、『スーパーマリン スピットファイアMk. IX』を駆っていた。ある日の空中戦で一機のFw 190D-9に為す術も無く撃墜された。彼は当時、5機撃墜のエースだったのだが、生還後に相手は彼を超越した腕を持つ、ドイツ有数の撃墜王だと聞かされた。雪辱の再戦を望んでいたが、その前にヴィルケが戦死したため、その望みは絶たれた。彼は死の直前までこの望みが果たされなかった事を悔やんでいた。その意志を継いだのがこのパイロットである。転移後はヴォルフの平行世界での姿である、ミーナと戦う事を望み、彼が慕う、方面軍司令の計らいで2個小隊が指揮下に入り、それらを率いて501を襲撃したのである。







「さあ、闘争といこうじゃないか、Nazi fellow(ナチ野郎)」


彼はそれだけ言って機体を再起動させてミーナに襲いかかる。ただしナチスドイツでは無く帝政が存続してる世界なので、その単語は通じないのだが。

ミーナも訳も分からぬまま、応戦する。心の中でこう、自問しながら。

(これは……私のせいなの……?)

彼女は自責の念に搦め取られてた。この事態の原因は自分にあるのだろうか……と。彼が言う、先祖の悲願とは一体、何か?そして`ヴォルフ・ディートリッヒ・ヴィルケ`とは?彼女が必死の防戦を行う最中、シャーリーの駆るコスモタイガーUが戦場に向かっていた。マッハを超えるスピードで、『守りたいもの』を守るために`無敵の勇気を持って。

「待ってろよみんな……あたしが行くまでなんとか……!!」








――空に銀翼の快音が響く。一匹の空を切り裂く『宇宙の虎』が太平洋を駆けていった。シャーリーは異世界の新鋭戦闘機(当時)にて、501を救おうと急行した。ティターンズ残党を撃滅すべく急派された航空部隊。その先鋒はシャーリーの駆るコスモタイガーU。そしてその後を追いかける山本指揮下の航空編隊。それらが出撃していった後は第二陣たる、可変機を含めたモビルスーツ隊と残りのウィッチが発進する。ウィッチ達は自分達がどんなに頑張っても届かないスピードである、音速(時速1200q以上)を軽くひねり出せる未来兵器の後を追う形で飛行甲板で発進準備を進める。そこで彼女等は初めてモビルスーツの勇姿を目の当たりにする(坂本除き)












――赤城 飛行甲板

飛行甲板の第二エレベーターから続々と迫り出すモビルスーツ群。機種は通常量産機のヌーベルジムV、ジェガン、ジャベリン、ジェガンの上位機種として作られた最新鋭機の`ジェスタ`。さらに量産型ゼータ系統の各種。(ZプラスA型〜D型や空挺部隊用のA/FMSZ-007Uと呼ばれる機種、改めて量産開始されたリ・ガズィ)さらに……。

そこに真新しい機体がせり出してくる。Zとメタス系統の機体を足して2で割り、さらにジム系の成分を混ぜたような外観の可変モビルスーツ。火器はそれまでのZ系統と同様らしく、Z用のライフルやハイパーメガランチャーを敢行している。


「おっ、新型の可変モビルスーツか?」

「ええ。Zの量産型に当たるRGZ系統の最新型で、試験配備段階のリゼルですよ」

「リゼル?」

「新型の量産型TMS(可変モビルスーツ)の中でも廉価版みたいな物で、性能的にはジェガンにZとメタスの中間みたいな変形機構をくっつけただけと揶揄されてますが、
新兵でも扱える機体です」

「確かに……高性能を追求すると、どうしても新兵では扱いにくくなるからな」





坂本は整備兵の言葉にうなづく。扶桑のストライカーユニットも新兵では扱いにくい機体が出始めている。他国は『扱いやすさと高性能さ』を両立させているのに、扶桑はカタログスペックだけを追い求める傾向が強い。美緒は改めてそれを自覚した。確かにRGZ-95リゼルはそれまでのZ系統の機体の傾向であった、『乗り手を選ぶピーキーな操作性』を新式のサポートOSで緩和することに成功し、生産性も良好だ。その対価に性能が多少低くなったが、廉価版と考えれば十分なレベルだ。それら可変モビルスーツの操作性の改善には一説にはオリヴァー・マイという、元ジオン軍の技術中尉だったアナハイム・エレクトロニクスの技術者が関わったという話もあるとか。リゼルの姿を見て、坂本は高性能を求めるだけが兵器ではないのだと肝に命じた。(しかし彼女はこの一年後に零式の旧式化を認められないあまりに暴挙にでてしまうのだが)



因みに、もはや彼女達は艦で生活するうちにモビルスーツも当たり前のように認識していたので、このような会話も普通になされるようになっていた。朱も交われば赤くなるとは正にこの事だ。


「うわぁ〜かっこいい〜!!」

芳佳も甲板に出されていくモビルスーツ群に思わず見とれたような声を出す。未来の世界では人型機動兵器が戦争の花形とて扱われているのを聞くと何となく納得してしまうのは、`ウィッチ`が活躍しているのが当たり前なためだろうか。


「よう芳佳ちゃん、初陣だって?」

「あ、皆さんどうしたんですか?」

ジェガンやジャベリンのパイロット達が芳佳に話しかける。芳佳が初陣だと言うことを聞いていたのでそれをねぎらうためにやってきたのである。20〜30代の荒くれ者はそのいかつい顔に似合わぬ気さくな態度で芳佳と雑談を楽しむ。初陣である芳佳の緊張を解すためではあるが、搭乗員達は死地に赴くとは思えない平静ぶりに芳佳は彼等の優しさに安心感を持つと同時に決意を胸に秘める。

(そうだ。この人たちも守るんだ。私は守りたいからウィッチになったんだ……それをやらなくちゃ!!)

そう意気込むと芳佳はストライカーユニットが備えられた第3格納庫に急ぐ。`守りたいものを守るために`。

「さて俺達も行くぞ」

「了解!!」

芳佳が走っていったのを見届けた搭乗員達も各自のモビルスーツに乗り込む。通常型ジェガン、指揮官用のスタークジェガン、ジェスタのゴーグルアイに光が灯り、動力源の核融合炉がまるで心臓が脈打つように稼動を始める。火器を腕に持ち、何時でも出撃できる態勢を整える。カタパルトに脚部を接続させる。

「こちらアルファ1、発進準備完了。いつでも出れる」

「よし。命令があるまで待機せよ」

「了解」


こちらは菅野。彼女は一足早くストライカーユニットを纏い、いつでも発進できるようにそのまま甲板に出る。

「もう出る準備はできてるってか、ナオちゃん」

「おうよ。オレを誰だと思ってるんだよ?」
「そりゃそうか、デストロイヤーだもんな」

Zプラスの搭乗員は楽しそうに彼女をからかう。因みに菅野は艦の搭乗員から「ナオちゃん」と呼ばれていて、(直枝だからナオらしい)この時代(連邦軍から見た)としては極めて珍しい強気な性格、その敢闘精神から連邦軍の精鋭たちに一目置かれている。

「オレ達に遅れんなよ?」

「ジェットだからって馬鹿にすんな。こう見えてもオレは第343海軍航空隊の新選組隊長だ。第二陣の一番槍はオレがやる。いいな?」

「それは別に構わんが……、ナオちゃん、もしかして芳佳ちゃんにいいところ見せたいのか?」

「バ、バカ!!そんなんじゃねーって!?」

思わず否定する菅野だが、すっかり照れで顔が赤くなっている。案の定、後輩にいいところを見せたかったらしい。その気持ちは分からないわけでも無いので、搭乗員はからかいつつもフォローしてやる。

「頑張れよ。応援してるぜ〜」

「か、からかうな!!」

そんな中、ついに発進命令が出される。静寂を破る、戦闘配備の警報が響き、オペレーターの声が艦内の各部スピーカーを通して伝えられる。いよいよ戦いが始まるのだ。各モビルスーツの射出準備が進められ、大気圏内用に調整されたウェイブライダー形態の可変機やVFにはハードポイントに対空・対艦ミサイルが、ウェイブライダーにはそれらに加え、増槽が取り付けられる。

『各モビルスーツ隊は順次発進。航空部隊と合流しだい、ポイントγに向かわれたし』


指令が出されると同時に各モビルスーツが発進する。先陣を切って可変モビルスーツ群がスラスターを唸らせ、次々に発艦していく。

そしてウィッチ達の発艦の番がやって来る。


魔導エンジンを唸らせ、扶桑海軍制式塗装の濃緑のストライカーユニットを纏った乙女たちが出撃する。機種は「雷電」と「紫電」。

「菅野直枝、出る!!」

「宮藤芳佳、行きます!!」

(芳佳と直枝はモビルスーツ隊などとの交流があったため、すっかりこの台詞を言うのがクセになってしまったとか。これは後に未来世界に行ったウィッチの間で通例化し、未来へ行った者はみな言うようになる)いの一番に直枝が魔法陣を展開させ、発艦する。それに続くように美緒と芳佳も発艦し、合流する。

「空域までエスコートする。私達に続いてくれ」

ウィッチ達を導くため、RGZ-95リゼルの一編隊がエスコート役を務める。3人はリゼルのエスコートのもと、空域に向かった。


 ―ドーバー海峡


501統合戦闘航空団のウィッチ達は苦戦を強いられていた。空戦用の可変モビルスーツの圧倒的な機動性に歴戦のウィッチ達も翻弄されていく。それはカールスラントきってのエースと言われる、ゲルトルート・バルクホルン、エーリカ・ハルトマンの2人も例外ではなく、彼女らは『ギャプラン』や『アッシマー』を相手に必死の防戦を行っていた。(ミーナたちとは別の空域)


チュインという音とともに機関砲の弾丸が弾かれ、何一つ損傷を与えられない。

「くそっ!!何故こちらの攻撃が効かない…!!どういう装甲なんだっ…」


その内の一人、ゲルトルート・バルクホルン(通称、トゥルーデ)は自身が翻弄されるばかりなのに悔しさを顕にする。火器は装甲に阻まれて通じない。ネウロイが相手でもここまで追い込まれたはずはないが、音速のスピードと戦艦を一撃で大火災に追い込むほどのビーム砲を備える相手に対し、生き残っているのは彼女の意地だ。そして自分が倒れたら`妹`はどうなるのか。彼女はかけがえのないものを守りたい一心で防戦に当たっているが……。一瞬の隙を突かれ、ビーム砲(メガ粒子砲)の一撃が彼女めがけて発射される。そのビームはネウロイのそれがお遊びに見えるほど太い射線で、バルクホルンを覆い尽くさんほどであった。シールドで防げない威力があるかのように、ネウロイのビームと異なり、ビームが紫電の雷のような閃光を纏っている。

「トゥルーデ、避けて!!」



それを目撃したハルトマンは必死にバルクホルンに呼びかける。ネウロイのそれよりもはるかに高速で迫るビームを避けられる保証はないが、こうするしかハルトマンには出来なかった。。


「くそっ……!!」

しかしバルクホルンにはそれを回避できるだけの時間的余裕も長時間の行動によるためか、ビームを防ぐ魔力の余裕もなかった。目の前に迫るビームにバルクホルンは`死`さえ覚悟した。

「トゥルーデぇぇぇぇぇッ!!」

エーリカは必死に愛機の魔導エンジンを唸らせ、手を伸ばす。それは普段ののほほんとしている彼女からは想像のつかないほどに感情を顕にした叫びだった。仲間を失いたくないという感情がハルトマンを叫ばせていた。その一心で手を伸ばす。ビームがバルクホルンの手前30mほどまで迫った瞬間。エーリカは目を閉じて神に祈った。


―お願い!!神様でもなんでもいい!!トゥルーデを…助けてぇ!


そしてその瞬間。都合よく『バシュ』と音が響き、桜色の光がビームとぶつかり、爆発する。祈りが通じたのだろうか。

バルクホルンもハルトマンも何が何だか分からずにキョトンとしてしまう。光が走った先には3機の航空機が編隊を組んで接近しててくる。

「ZZにドッキングする!」

それはZZガンダムを構成する、『ネオコアファイター』、『コア・トップ』、『コア・ベース』であった。それらは二人が唖然とするのを尻目に、変形合体を行い、一つの『巨人』となる。20mに達するであろう巨体とダブルビーム・ライフルを構え、額にキャノン砲を備えた機体。そして特徴的な人のようなツインアイがその輝きを見せる。

「ええっ、飛行機が合体!?そんなのありぃ!?」

「信じられん……あのような事が可能だというのか……馬鹿な!」

ZZへの合体はこの世界の科学力を遥かに超越した光景であった。そのため、バルクホルンとハルトマンは戦闘中でありながら呆気にとられてしまう。よくよく見てみると、どこかの兵器と分かる塗装やエンブレムが入っているのが分かるが、ロボット兵器などはどこの国も作れないはずであると困惑する。




『へへっ、真打ち登場ってね』


ジュドー・アーシタの駆るZZガンダム(もしくはガンダムZZ)は颯爽と登場した。コックピットでジュドーはそう言った。坂本美緒の仲間を守るために、第一次ネオ・ジオン紛争を終結させた英雄はゆっくりとエーリカやバルクホルンを守るように降り立つ。これがエーリカ・ハルトマン、ゲルトルート・バルクホルンの両名と連邦軍最強のモビルスーツの一つ「ZZガンダム」との邂逅だった。

「何あれ……?」


「私たちを守ったということは……味方なのか……?」




――見るからに逞しそうな、青と白のツートンラーの鋼の巨体は威圧感たっぷりだった。そして一つ目の機体とは一線を画する、『人間らしい』ツインアイを持つ機体―ZZガンダム−はエーリカとバルクホルンと守るかのように『敵』の前に立ちふさがる。2人はこの思わぬ『味方』の出現に目を丸くしてしまう。そして同時に『声』が響く。それはこの世界では戦いから遠ざかっているはずの男性、それも自分達と同年代の少年の声だった。

『下がってろ!!』



その声と同時にZZの腕に持つダブルビーム・ライフルが火を噴く。強力な『メガ粒子砲』はエーリカやバルクホルンがどうやっても削るのが精一杯だった敵の装甲を一撃で溶解せしめ、墜落させる。バルクホルンはその圧倒的な火力に絶句し、立ち尽くす。

『あんたら、501統合戦闘航空団の隊員だね?』

「あ、ああ……。それよりお前は何者だ?何故、私たちを知っている!?」

『詳しくは坂本少佐やシャーリーさんにでも聞いてくれ。とにかく、俺達は味方だ!今、証拠を見せる!』

ジュドーは「論より証拠」の要領でZZに持たせているハイパービーム・サーベルを振るい、ギャプランを上段袈裟懸け斬りで薙ぎ払う。ガンダリウム合金をも容易に切り裂く光の刃はギャプランを文字通りに一刀両断し、粉砕する。流石にガンダムタイプの面目躍如と言った強さを発揮している。その強さはバルクホルンやエーリカから見ても『一目で分かる』程であった。

「凄い…私たちがあれだけ苦戦した敵をたったの一撃で……!」


『しっかしまあ、よくあれだけの攻撃に持ちこたえられたもんだ』

「それは「どういうことだ?」

『アレを見な』

ジュドーはバルクホルンとエーリカが可変モビルスーツの猛攻に持ちこたえられた事に感心し、エーリカ達に基地の惨状を見せた。モビルスーツは大半の通常兵器に対して圧倒的な優位性を誇り、それはこの世界においても同様で、辛うじて機械化航空歩兵(ストライクウィッチーズ)や扶桑(日本)の戦艦大和や武蔵がその火力で対抗出来ている状態だった。エース足り得るバルクホルンとエーリカを以てしても撃墜は叶わず、基地上空の制空権は殆ど旧・ティターンズ側に写っていた。それを示すように基地の地面の至る所にクラスター爆弾で開けられた穴が点在し、さらに格納庫は敵が若干数保有していると言う、ブラックタイガーの機銃掃射による弾痕が確認できる。これだけの打撃を受けてしまった以上、基地を再利用するのは当分無理だろう。何故、事前の探知ができなかったのか?それはティターンズ側が501統合戦闘航空団側の装備するレーダーを一切無効化する電子戦装備を多数揃えていたのと、サーニャ・V・リトヴャクの固有魔法の「全方位広域探査」やミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの「三次元空間把握能力」をも欺瞞するアクティブステルス(現地でティターンズが対ウィッチ用に独自に改良を加えた現地改修型)装備機が空襲を加えたためであった。501が全員でティターンズの迎撃に成功したのは偵察中のルッキーニが幸いにも肉眼でブラックタイガーを確認し、スクランブルしたおかげである。しかし、ネウロイよりも遥かに高速を誇るジェット戦闘爆撃機のスピードの前に全員が空へ飛び上がったと同時に爆撃ポジションの占位を許してしまった。その瞬間、ミーナとサーニャは敵を探知出来なかった事を悔やんだ。基地は20世紀後半により完全な形で殺戮兵器として洗練されたクラスター爆弾や地中貫通爆弾の洗礼を受けたのだ。さらに対地ミサイルや誘導500ポンド爆弾など……20世紀後半以降の航空戦術のバーゲンセールといった様相を呈し、たった一回の攻撃で無力化してしまったのだ。




「酷い……一瞬でこんなになるなんて」

「あのジェット機の爆撃か……!くそっ!!たった一回でこれほどになるだと…‥!」

エーリカは基地の惨状に思わず落ち込んだ声を出し、バルクホルンは悔しげな表情を見せる。2人は過去にネウロイに故郷を蹂躙された経験を持つ。自分達の力が及ばなかったために故郷のカールスラントは炎に包まれた。その凄惨な光景を脳裏にフラッシュバックさせたのかバルクホルンは悔しさを一層強めた。


「お前、そいつに乗っているのならアイツらの事を知っているのだろう?なら教えてくれ。アイツらはいったい何者だ!?」


「そうだよ。音速で飛べる飛行機なんて、まだどこの国も造れてないはずだし、それにロボットが動いて、ビームを撃つなんて、夢のまた夢のはずだよ。それが何で……?」

『それは色々とややこしいんだけど……分かった』


ジュドーはバルクホルンとエーリカにかいつまんで事の概要を説明した。あれらはバルクホルンやエーリカから見れば、別の世界の、更にこの時代から200年以上先の世界の超技術が生み出した兵器である事。さらにその時代の一勢力が何らかの事故でこの世界に漂着し、軍事行動を起こしたこと。自分はさらにそれを排除するためにその時代からやって来た艦隊の一員であると。




「つまりアレはとんでも無く未来の兵器だってこと?」

『正確に言えば、こことは微妙に違う歴史を辿った世界の未来だけどね。……おっと自己紹介がまだだった。俺はジュドー・アーシタ。見ての通りパイロットさ』

ジュドーは軽く自己紹介を済ますと、すぐさま愛機を十字砲火の中に突っ込ませる。巧みな動きで敵の航空兵器(ギャプランやアッシマー)の砲火を躱し、的確に反撃を返すその姿にエーリカやバルクホルンは思わず唸らせられる。バルクホルンはジュドーも同僚のエイラ・イルマタル・ユーティライネンのように『未来予知』を持っているのでは無いか?と探りを入れる。それほどまでの機動をZZは見せていた。しかも弾丸より遥かに早く、ネウロイのそれよりも高速なビーム兵器を華麗に回避するから余計にその腕の冴えが際立っていた。エーリカもジュドーが相当な技量を持っている事が分かったらしく、目を丸くしている。

『一気にここを片付ける!!行くぞぉっ!』

ZZの双眼が輝きを増すと、額のキャノン砲にエネルギーが集束していく。ZZの象徴的武装の『ハイメガキャノン』である。パワー重視だった第4世代モビルスーツ群の中でも最高レベルの火力を誇るZZの真骨頂であり、連邦軍(旧エゥーゴ)の力の象徴とされた武器。それに火が灯されたのだ。チャージが完了した瞬間、一気にエネルギーが解き放たれ、空に桜色の光が走った。桜色の光が何者も飲み込み、消滅させる極太いエネルギーの奔流は遠くからでも確認できた。ハイメガキャノンを撃った後もジュドーはZZの圧倒的(ダブルゼータのジェネレーター出力はF91をも遥かに越える)パワーで敵を粉砕していく。そのあまりのパワーにバルクホルンやハルトマンも絶句する。

「そぉれ〜スト●ートファイターの某プロレスラーが使ってた……スクリュー…パァァイルドライバーぁ!!」

ジュドーは巧みな操縦でその技を完全再現した。相手を抱えたままメインスラスター全開でジャンプし、きりもみ式に回転しながら上昇し、なおかつ回転を維持したまま落ちていく。

「……この技ってどう見てもプロレスだよね?」

エーリカは思わず突っ込む。はたして彼女がプロレスの試合を見ていたかは定かでは無いが、ゼータ系列の柔軟なムーバブルフレームならば可能な芸当だ。ジュドーはその操縦テクニックでハイザックを思い切り海面に叩きつけた……。

「よし私も今度、アレを使ってみるか……」

この後、バルクホルンはZZのこの行為をどうやってマネするか思案を重ねるが、それはまた別の機会に語ろう……。



――ハイメガキャノンの光芒はミーナやルッキーニのいる空域でも確認できた。光が走った中心では爆発が連鎖的に起こっている。


「な、何……?あの光は……」

ルッキーニがそう呟いた瞬間。轟音が響き、一機のジェット戦闘機が目の前に現れた。濃縁と白で塗り分けられた機体に乗っていたのはシャーリーだった。彼女は通信回線を開き、すぐにルッキーニに通信をかけた。

『ルッキーニ!!』

「シャーリー!!ってどうしたのその飛行機は!?」

シャーリーはいつものストライカーユニットでなく、飛行機を、しかもジェット機たるコスモタイガーUを駆っていたのだから、ルッキーニでなくても誰でも驚く。しかもジェット戦闘機など、技術大国のカールスラントでも作られていないのだから……。

『それはあとで教える。とにかくここは任せろ。お前は一旦下がって`援軍`に合流して補給を受けるんだ』

「援軍って、坂本少佐が電話で言ってた『義勇軍』のこと?」

『そうだ。もう来るはず……』

その瞬間、海中から波飛沫を立てて『一個航空戦隊』が現れた。アングルド・デッキを備えた戦闘空母と『何かの発射口』を備えた超弩級戦艦にその護衛艦が海から空へ一直線に上昇していく。このとんでも無い光景にルッキーニは唖然とし、息を呑む。

――その超弩級戦艦は『戦略指揮戦艦 改アンドロメダ級一番艦 しゅんらん(春蘭)』。戦後にアンドロメダ級の改良タイプとして作られた最新鋭艦で、艦首の拡散波動砲が3門に強化され、各種武装も増加された連邦軍太陽系防衛部隊の次期旗艦(後に太陽系連合艦隊へ再編)。その力を発揮する時が来たのである。

「嘘ぉ!?せ、戦艦が空飛んでる……」

唖然としているルッキーニをよそに空母から通信が入る。

『フランチェスカ・ルッキーニ少尉へ。直ちに本艦に着艦して補給を受けられたし』

『え!?なんであたしのこと知ってるの?』

驚きと共にルッキーニはシャーリーや空母の通信に促されて`赤城`への着艦コースを取る。どういう訳か甲板にはストライカーの着艦受け入れ準備が整えられている。

(これがシャーリーや坂本少佐が言ってた義勇軍?でも…ただの義勇軍にしては凄い装備だよ、これ……。)

彼女は半信半疑で着艦する。不思議な気持ちで赤城の艦容を見つめながら。そしてシャーリーがジェット戦闘機で戦っている事。訳がわからなかった。シャーリーが言うのだから味方には違いないが、と考えるが……。

「もしかして、敵は人間なの……?」

この時、ルッキーニは勘がいい故、周囲の様子から、敵が同じ人間であると、薄々と感づいていた。敵が自分達と同じ人間同士でないかと。そうでなければこちらの攻撃に機敏に対応できるはずはないし、統制の取れた集団戦闘行動を取れるはずはない。体に`人間同士の殺し合い`をしている事への悪寒が走るのを感じ、ただ震えていた。彼女のような幼い少女に本来の戦争の形`は容赦なく重くのしかかっていった。

そして彼女の頭上を一機のガンダムが通りすぎていった。そのガンダムの名は『HI-νガンダム』。アナハイム・エレクトロニクスにてロールアウトしてから間もない機体だが、赤城の機体の状況を鑑みて、急遽実戦投入されたのだ。本来はロンド・ベルへの補給物資であり、かのアムロ・レイの乗機となるはずのものだ。しかし今動かしているのは、ガンダムF91のパイロットであった『シーブック・アノー』。彼は愛機でないガンダムを動かすことに抵抗があるが、ニュータイプの素養を備えているためか、それなりに動かしてみせるのは流石である。(この時の武装はビームサーベルを除けば、νガンダム用のものを間に合わせで使用している)

「何……アレ」

ルッキーニは騎士を思わせるHI−νガンダムの姿に不思議に安心感を覚える。

(うじゅ?!おっきい〜〜!!カッコイイ〜!!あっ、目があっちゃった!……あれ?なんであったかい気分になるんだろ?)

HI-νの青を基調とした、中世の騎士のような流麗なフォルムは、『これならどうにかしてくれる』という安心感と頼ましさを不思議とルッキーニに与えていた。それはHI-νのサイコフレームが垣間見せた力でもあった。










――次にルッキーニが目撃したのはビーム・サーベルを持った連邦軍主力機のRGM-89「ジェガン」が「マラサイ」相手にチャンバラを繰り広げている様だ。双方の光の剣がぶつかり合い、光があたりを照らす。18m以上ある巨体がまるで人間のような動きで剣をぶつけ合い、時には蹴りやパンチなどの手段も入り混じる。年式はジェガンの方が新式である。グリプス戦役時のから使われている機体であるマラサイで連邦軍の次世代機であるジェガンに勝てというのは酷な話で、やがて地力で負け、一刀両断される。

「うわぁ〜凄い、凄過ぎるよ……これ」

自分たちがどうやっても勝てなかった兵器同士の戦いはルッキーニに衝撃を与えていた。補給中に艦隊の人間から聞いた話によれば、「この戦いは人間同士の戦いである」という。巨人は未来の世界の武器で、未来ではアレを使った戦争が日常茶飯事だそうだ。

――人間同士で戦うなんて嫌だよ。だけど……あたし達が戦うしかないんだ。アイツらをやつけないとシャーリーやみんなが……!

ルッキーニは人間同士で血みどろの争いをするのを嫌悪する。嫌と言って戦わないのは楽だ。しかし故郷があれに蹂躙され、友や愛する家族を失ってしまうのは許せない。自分がやっと見つけた居場所―かけがえの無い仲間を守りたい―その気持ちがルッキーニを突き動かした。そして何もせずにただ泣いているよりも、戦って傷つく方が何倍もマシだ。

――この艦隊の人は未来からあたしたちを助けるために来てくれた。だったらあたしも何かしなくちゃ!!

ルッキーニは休息を打ち切り、ファロット G55チェンタウロを纏い、魔導エンジンを再び吹かす。武装は未来のロマーニャの機関銃『ベレッタM12』という奴らしい。(無論航空用に改良してある)。シャーリーを援護すべく、ルッキーニは空へ舞い上がった。




「各艦、主砲副砲、パルスレーザー、一斉発射!出し惜しみせんでいい!撃てぇ!」

ルッキーニの発艦を援護するかのように、しゅんらんのあらゆる火砲が火を噴く。ティターンズは二個MS中隊と一個戦闘機中隊をこの空域に送り込んでいたが、連邦正規軍の参戦により一気に殲滅されていった。練度が高いとはいえ、連邦正規軍のそれに比べれば一世代から二世代は古い装備でしか無い。平均練度の差を、兵器の性能差で埋める形で、連邦軍は制空権を確保していった。ルッキーニはコスモタイガーのエスコート付きで戦闘に復帰し、アッシマーに損傷を与える大金星を上げたとの事。




――こちらはミーナ。遥か後世のジェット戦闘機の機動性の前に苦戦を強いられていた。音速の壁を容易く突破し、この時代の飛行機からは想像もつかない空中戦闘機動を見せている。その戦闘機の名は九九式宇宙艦上戦闘機『ブラックタイガー』。この時代の戦闘機とは隔絶した速さを見せつけるこの機に翻弄され、反撃もままならない。スピードや特性がプロペラ機の延長線上でしかない。レシプロストライカーユニットでは、この時期に実験段階にある第一世代から見ればかなり発達し、洗練されたジェット戦闘機に追従するのは不可能に近かった。BF109(我々の常識で呼ぶならば『メッサーシュミット』というべきか)G型の魔導エンジンを限界まで吹かしても、まるで自分が静止しているかのような錯覚さえ覚えてしまう。

「は、速すぎる……ッ!!」

ブラックタイガーはマッハ7の速度を出すことが可能なエンジン出力とそれに見合うだけの機体構造の頑丈さを持つ。そのため、ミーナを振りきって連合軍の軍艦に攻撃を加えることも可能なのだが、わざと遊んでいるようにも思える。それとミーナ自身が冷静さを欠いてしまっているせいもあって、すっかり翻弄されている。それもしかたがない。相手は瞬く間に基地を火の海にし、連合軍の戦艦を一発のロケット弾攻撃で大破に追い込める火力を持ち、なおかつこの世のものとは思えない速さを持つのだから。








「……くっ!!」

ブラックタイガーの放った対空ハイマニューバミサイルが彼女めがけて突進する。サーニャ・V・リトヴァグの手持ち武装「フリーガーハマー」のロケット弾とは次元が違う速さと誘導システムが装備されているロケット弾(ミサイル)は必死に回避行動を取る彼女を嘲笑うかのように追跡してくる。

――いくら速くても急激な回避にはついてこれないはず!!

ミーナはミサイルがいくら速度が速くても急激な回避行動には追従できないだろうと踏み、
直撃寸前で小回りがきくレシプロ機の特性を生かした機動を取った。そこは公爵の異名を取る彼女の機転を効かせた。しかしミサイルの一機が爆発した。−ミサイルに仕込まれていた近接信管が作動したのだ。


――因みに`近接信管`とは、かつて米海軍が第二次世界大戦末期のマリアナ沖海戦より用いた兵器で、同海戦での日本海軍の敗北の要因ともなった事で有名。それとは技術的には違うが、原理的には同じ物が炸裂した。近距離で炸裂したため破片こそシールドで防いだもの、爆風までは防ぎきれ無かった。爆風で吹き飛ばされ、バランスを失って失速してしまい、キリモリしながら高度を落としていく。爆風の衝撃で気を失いかける。

「ミーナァァァァァッ!!」

「……美緒ッ!!」

「クソッ!!間にあえぇッ!」


現れたのは大日本帝国海軍の士官服を纏った(正確に言えば扶桑皇国海軍だが)坂本美緒だった。(今回は雷電での初陣である)リゼルにエスコートしてもらい、この空域に到着したのだ。纏っているストライカーユニットは「雷電」。坂本としては局地戦闘脚などは使いたくはなかったが、仕方がなく落ちていくミーナをなんとか受け止め、ひとまずその場から離脱する。

「……美緒……?」

「ああ。……間に合って良かった」

坂本の言葉通りであった。彼女が引き連れて来た援軍の発する轟音が響く。ウェイブライダー形態のRGZ―95「リゼル」とMSZ−006A1「Zプラス」が美緒とミーナを守るかのように編隊を組んで現れ、2人の目の前で変形を行う。ただしミーナは美緒の顔を見て安心したのか気絶している。

『少佐、援護は私たちに任せてください。そちらのウィッチはリゼルの`ホーク1`(コールサイン)に運ばせます』

「頼む。……では行くぞッ!!」

リゼルの一機がミーナを運んでいくのを見届けると、美緒はZ系モビルスーツの援護を受けつつ、モビルスーツ2個小隊を率いて航空戦の王道とも言えるシュヴァルム戦法(ロッテ戦法とも)でブラックタイガー隊に挑もうとする。

『少佐!!回避を!!」

「……何っ!?」

不意に一機から回避を促す通信が入る。すると進行方法から強力なメガ粒子砲がやって来る。とっさの事だったが、坂本は見事に回避してみせる。しかし不意を突かれての援護射撃に戸惑を見せる。

「長距離射撃だと……?」

−艦船はいないからモビルスーツだとして、長距離からの射撃にも関わらず正確にこちらを狙撃できる照準機能を持つモビルスーツと言えば……。

坂本はとっさに頭の中で艦隊で見たデータベースを思い出し、記憶を探る。多種多様なモビルスーツのバリエーションの中でも`狙撃手`の役割を負って開発され、そのように運用されたモビルスーツは主に一年戦争当時に作られている。連邦軍ではジムスナイパー系列。ジオン公国軍はゲルググイェーガーがそれに該当する。ティターンズが元々は連邦軍の特殊部隊だった事や、ゲルググイェーガーが一年戦争末期の製造だった故に公国軍残党の保有数が希少数な事を考えると、やはり前者のほうが合点が行く。しかし初期型の`スナイパーカスタムは完全に旧式化し、ティターンズも辺境の地の警備にしか使っていないとの事だから、その系列で唯一第一線で活躍している機体……ジムスナイパーUしか無い。

「ジムスナイパー……Uか」

その通りだった。美緒を狙い撃ちしたのは専用の狙撃用装備を持ったジムスナイパーUだった。
連邦軍内でも希少とされた、最強の第一世代型ジムは静かに獲物を待ち受けていた……。旧ティターンズカラーのダークブルーの巨体と盾。近代化改修の証として、狙撃用ライフルが新型かつ小型の物に替えられ、より狙撃手としての風格を醸し出していた……。


「アレは後回しだ。まずは…アイツだ!!」





坂本は得物を探す鷹のように目標を見つける。そのターゲットは近くを飛行しているアッシマーだ。

菅野直枝と合流し、さらにZプラス隊とともにティターンズのモビルスーツに挑んだ。

美緒は自らのシールドが弱体化しているのを承知していた。モビルスーツのメガ粒子砲を防げないのは自明の理だが、それでも彼女は戦う。かつての自分の師匠「北郷章香」から何を教わったのかを思い出す。宮藤や菅野を教練する立場の者の立場だけではない。

−ウィッチに不可能は無い!!

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

そう決意を心のなかですると、叫びながら刀を抜刀し、立ち塞がるアッシマーに向けて一気に急降下する。

−扶桑海事変から鍛錬を続け、6年の間にモノにした奥義を以てしてガンダリウム合金を斬る!!

「坂本さん、無茶だ!!」

さすがの菅野もこれには思わず叫ぶ。相手は可変モビルスーツだ。今の坂本のシールドではビーム砲を防げない。もし、直前で気づかれ変形されれば坂本の命は無い。それに坂本はネウロイを外殻ごとコアものとも両断するほどの決定的な必殺奥義は身につけていないハズだからだ。

「黒江ぇ!!技を借りるぞ!!」

坂本はかつての戦友の名を叫ぶと、魔力を刀の切っ先に集中させる。それは魔のクロエこと、黒江綾香の持つ秘剣をそのまま再現したものだった。菅野は目を目開いて驚愕した。

「あれは!?」

−その時、オレは驚いてそれしか言えなかった。あの時、美緒…いや、坂本さんが放ったのはそう。あの魔のクロエの……。

「秘剣!!雲耀(うんよう)ぉぉぉっ!!」

それは黒江綾香が得意とし、彼女をエースたらしめた秘剣。坂本も扶桑海事変より特訓を繰り返してはいたが、実戦で使うのはブッツケ本番。


坂本はこれを以てしてアッシマーに特攻した。ガンダリウム合金の多重空間装甲をこれで切れるかどうかは分からない。だが、やって見なければわからない。超大型ネウロイを斬った剣がいくらこの時代の金属より遥かに強靭な装甲を纏っているとは言え、20mほどでしかないアッシマーに通じないハズはないのだ。

「物理法則無視してないかアレ」

その光景を目の当たりにしたZプラスの搭乗員達は口をそろえてこう言った。それは物の見事に的中していた……。


坂本は上段から一気に刀を振り下ろし、敵の装甲を切り裂く。見事にガンダリウム合金の装甲を切り裂き、墜落させる。それはウィッチに不可能はない事を示す一例であり、美緒の信念が具現化した結果だった。

「まったく……無茶しやがるぜ」

菅野はMSをも両断せしめた秘剣雲耀の威力に驚嘆しつつも、美緒の一歩間違えば、死にかねないこの行為にハラハラドキドキしていた。自分もデストロイヤーと言われているが、ここまでやれるかと言われると微妙だと心ごちながら美緒の無事な姿に安堵する。美緒は自分らの予想を遥かに上回る無茶をやってのけ、可変MAの初撃墜を記録した。連邦軍内の記録によれば、この撃墜時刻は、後に2199年の世界で高町なのはがモビルスーツを初撃墜するより1時間ほど速い事が判明し、美緒は史上初の正式な連邦軍所属、もしくは出向扱いのウィッチによるモビルスーツの撃墜の名誉に預かる事になった。

「まさかあんたが`雲耀`をモノにしてたなんてな……。驚きだぜ」

「いや正直言って、ブッツケ本番だったんだが……上手くいってよかった。黒江のやつが聞いたら、笑い飛ばすだろうな」

「オイオイ……マジかよ」

雲耀は陸軍のエースであった黒江綾香の必殺技であり、扶桑に伝わる剣技秘伝の一つ(分類別では、示現流奥義に属する)。剣を扱う扶桑のウィッチなら習得を目指す奥義の一つ。それを坂本はブッツケ本番で成功させた。一応鍛錬は行っていただろうが、これは凄いことである。今回、坂本は振り下ろしの形で発動させたが、黒江は平刺突で用いる事が多かったという。一年後、宮藤家で黒江と談笑した時に、この事で散々にいじられたとか。










――艦隊を援護するべく降り立つ連邦軍モビルスーツ隊の戦闘も凄まじい。標準量産機のジェガンにしても、中にはかつて接近戦用のモビルスーツとして名を馳せた「ジム・ストライカー」のメイン武装であったツインビーム・スピアを通常武装の他に敢行する強者もおり、ジェガンが2本のビーム刃を持つ槍を振るい、マラサイを一刀両断する。

――これには理由があった。第2次ネオ・ジオン戦争後に普及型の18m級モビルスーツがジェガン系列に一本化される課程で、過去に開発された専門用途モビルスーツは自然淘汰されていった。戦乱後の軍縮の機運もあり、旧型機は狙撃型と水中型以外は全て退役する手筈になっていた。しかし現場の搭乗員たちのその施策への反発が根強く、結局ジェガンの第2次改修型開発と同時に一部旧型機を改修するか、武装をジェガン用に改良して使用可能にする案で落ち着いた。その産物がこのツインビーム・スピアなのだ。

――被弾したのか、火災の煙を上げるビスマルクやティルピッツ、デューク・オブ・ヨーク などの欧州製超弩級戦艦群。勢ぞろいするキング・ジョージ5世級戦艦だが、五隻の内、一隻欠けている。歴史の事実を考えるとプリンス・オブ・ウェールズがティターンズの魔手にかかって沈没したと考えるべきか。通信の傍受でも裏付けが取れている。

「プリンス・オブ・ウェールズ ……どこまで不運なんだ、あの艦は」

ジェガンのパイロットはそう呟く。平行世界といえど、死神の魔手からは逃れられない事を認識し、残る戦艦の援護に全力を挙げる。

上空にはVF-11やVF-17、VF-19などの可変戦闘機(バルキリー)の姿も見える。どうやらあれらも投入されたようだ。飛行機雲とミサイルの軌跡がハッキリと残っている。撤退する戦艦群の安全を確保するためだろう。大げさだが、万全を尽くすのは越したことはない。

HI‐νガンダムも、一機で戦局を左右するとまで謳われたRX‐78の正当な血統を持つガンダムはその力を以てして、暴れていた。
騎士を思わせるそのいでだちもそうだが、ニュータイプであるシーブックの腕前も相まって、圧倒的強さを見せる。

「抵抗するんじゃない!いっちゃえよ!!」

相手の攻撃を避けた間隙をまったく見せない動きでビーム・ライフルを用いて、2機のハイザックを一斉射で撃ちぬき、さらにカスタム仕様のビームサーベルでマラサイを斬る。

「あれがガンダムの……シーブックさんやジュドーさんの力……」

その様子を目の当たりにした宮藤芳佳は一騎当千の強さを見せつける`ガンダム`、そしてそれを操る自分とほぼ同年代の少年たちの力に呆然とする。正に格の違いを見けつけるほどの性能差。それに振り回されないで手足のごとく操れるシーブックの熟練度。どれをとっても一級だ。


そして芳佳のもとにも一機のモビルスーツが襲いかかる。第一世代の中では最後期に属するジム・クゥエルだ。

「ジム・クゥエル……!」

`鎮圧`の名を冠するジムシリーズで、ティターンズの象徴的な兵器の一つ。これによってこの世界でどのような事が引き起こされたのか。芳佳は決意を持って迎え撃った。手には対MS用として急遽艦隊の工廠で作られたジム・ライフルのダウンスケール版が握られ、背中には試作型のウィッチ用ジャベリンユニット(俗にいうショットランサー)を担いでいる。重装備もいいところだ。

「あなた達なんかに私は負けません!!」

芳佳はジム・ライフルを撃ちまくりながらジム・クゥエルに突進する。この敵に対する攻撃性は言うならば、『この世界の宮藤芳佳』のみが持っているであろう側面である。芳佳は基本的に父を奪った戦争を嫌悪はしている。だが、この世界では自分が当事者となれば、『戦って、みんなを守る』という考えを持っていた。そして、恐らく、この場にいる『彼女』だけが持っているであろう奥義がこれ。

『真っ向!唐竹割りぃぃぃ!!』

(誰だか分かんなかったけど、子供の時に陸軍のウィッチさんにこれ、教えてもらったんだよなぁ。今は軍に入ったから、調べられるかなぁ)

唐竹割りの一刀は断空光牙剣を思わせる光の刃を発生させ、振り下ろさずに放つのがコツ。衝撃波と魔力でジムクゥエルを両断する。これが芳佳の単独での初戦果であった。


――芳佳は幼少の頃、家にフラリと陸軍のウィッチが立ち寄った思い出をふと、思い出す。覚えている限りの記憶では扶桑人形のような容姿で、綺麗だなと思った。剣技を仕込まれ、ある程度の心得があるようになったのは、その人のおかげである。そのウィッチへの恩で、剣技は時々、二天一流の道場に顔を出したりして、ある程度の技能を維持している。(後にこのウィッチは穴拭智子であった事が判明すし、後に宮藤家に黒江が居候するようになった際に芳佳に事の真実が語られる)


ジム・クゥエル小隊ははすぐに反撃を返す。火線が集中し、芳佳は回避しきれないと思われたが……。

「芳佳ちゃん、下がれ!!」



駆けつけたHI-νガンダムのシーブックがカスタム仕様のビーム・サーベルで一気にジム・クウェルを斬り裂く。大上段から振り下ろされた一撃はチタン合金を一刀両断し、ロールアウトカラーに軽い塗装を施したHI―νガンダムの初戦果を記録する。他の機体も瞬く間に剣豪を」思わせる動きで鮮やかに斬り捨て、機体性能の高さを示した。このジム・クウェル部隊の撃墜をきっかけにティターンズは撤退を開始する。

「退いていく……」

「形勢の不利を悟ったんだろう。鮮やかな引き際だよ」


――こうして、地球連邦軍の軍事介入によりひとまずの難を逃れた連合軍第501統合戦闘航空団「STRIKE WITCHES」(ストライクウィッチーズ)。彼女らはそこで別世界の地球が辿った殺戮と欲望に満ちた歴史を知る事になった。Zプラスによって連邦軍の空母に運ばれた「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ」は事情説明の為に医務室を訪れたエイパー・シナプスの口から事の顛末を知らされた。彼女には再び卒倒しかねないほどの衝撃だった。別の世界があり、そこでは戦争が絶え間なく続いているという事を。


「そ、そんな……ッ……」

ミーナはネウロイが現れなかった世界の地球では、本来この時期は2度目の世界大戦が行われている事、祖国が一人の独裁者によって破滅を迎える事、それらが終わっても争いがさらに続く事。そして遠い未来(20世紀前半頃の人間である彼女には22世紀という時代はそう感じられた)には地球そのものが人間の重みに耐えられなくなる事などを知らされ、強い精神的ショックを見せた。そして宇宙移民時代に迎えた破局の一幕`第一次星間大戦、一年戦争を初めとする、人類同士の宇宙戦争……。

「我々の世界ではこれが真実だ、中佐。残酷だが、これらは我々が辿った道だ」

そう言って彼は部下に命じて映像機材を用意させ、多くの戦乱の一幕をミーナに見せた。(証拠画像も兼ねている。)

まず見せたのは歴史上、外せないギレン・ザビの演説。(連邦軍が保有するギレン・ザビの映像資料の多くはガルマ・ザビの国葬時のものだが、今回はジオン軍が最終防衛ラインと言える要塞『ア・バオア・クー』まで追い込まれた際の演説で、珍しいケースであった。)

『我が忠勇なるジオン軍兵士達よ 今や地球連邦軍艦隊の半数が我がソーラ・レイによって宇宙に消えた。この輝きこそ我等ジオンの正義の証しである。決定的打撃を受けた地球連邦軍に如何ほどの戦力が残っていようとも、それは既に形骸である!! ……敢えて言おう、カスであると!!!それら軟弱の集団が、このア・バオア・クーを抜くことは出来ないと私は断言する。 人類は、我等選ばれた優良種たるジオン国国民に管理運営されて、初めて永久に生き延びることが出来る。これ以上戦い続けては、人類そのものの存亡に関わるのだ。地球連邦の無能なる者どもに思い知らせ、明日の未来の為に我がジオン国国民は立たねばならんのである!!』




誰もが彼の演説を見ると酷い衝撃を受けるが、それはミーナも例外では無かった。ギレン・ザビの演説は劇的かつ勇ましい。彼等の行ったという多くの大量殺戮行為は彼女としては決して肯定できない。だが、彼等に開放の大義を与える結果となった当時の連邦政府の無策ぶりに憤る宇宙移民の気持ちも理解出来る。だが……それを理由に多くの人々を戦争の犠牲にしていいはずはない。それは彼女の偽りなき気持ちだった。

続いてはデラーズ・フリートの宣戦布告。ジオン残党軍が引き起こした、戦後最初の騒乱の際の演説。『敗北を認めない彼等の行為はもはやテロに過ぎないはず。なのに何故……?』とミーナは思った。しかし彼女としては、過去にネウロイに敗れて亡命政権を設立した「帝政カールスラント」の軍人である以上、どこかで共感できる所もあり、複雑だった。愛する者をネウロイに奪われているから尚更であった。


『宇宙市民の心からの希求である自治権要求に対し、連邦がその強大な軍事力を行使してささやかなるその芽を摘み取ろうとしている意図を、証明するにたる事実を、私は存じておる!見よ、これが我々の戦果だ。このRX‐78GP02Aは、核攻撃を目的として開発されたものである。南極条約違反のこの機体が、秘かに開発された事実をもってしても、呪わしき連邦の悪意を否定できる者が居ろうか!?……顧みよ!何故、ジオン独立戦争が勃発したのかを。何故我らが、ジオン・ズム・ダイクンと共にあるのかを!思い返して欲しい。我らの目的を。我らの理念を。一人一人の胸に刻まれた、その熱い使命を!我々は3年間待った。もはや、我ら軍団にためらいの吐息を漏らす者はおらん!今、真の若人の熱き血潮を我が血として、ここに私は、改めて地球連邦政府に宣戦を布告するものである。かりそめの平和への囁きに惑わされることなく、繰り返し、心に聞こえて来る祖国の名誉のために……。ジーク・ジオン!!』





「祖国の名誉というy美辞麗句で飾った裏にどれだけの犠牲を強いたのか。それを考えただけで反吐が出そうだった」と、後に一端501が解散となり、祖国奪還の戦いに赴く際にバルクホルンにこう語ったと、後々の戦いの際にハルトマンによって伝えられる。バルクホルンもテロ行為でしかない、デラーズ・フリートの行為を嫌悪していたのである。この時、ミーナもだが、カールスラントのウィッチ達は、理想に託けて殺戮を平然と行う人間の負の側面を垣間見、その行為を美辞麗句で飾る組織に怒りさえ覚えていたのだ。

「なんて事……!これが未来の可能性の一つだというんですか!?」

「そうだ。全ては連邦政府の無策や宇宙移民への蔑視が招いた結果だ。だが、彼等はそれを理解しようともせずに一年戦争の勝利と共に増長し、今回の騒乱の原因となる集団を生み出すに至るのだ」

――そう。一年戦争とデラーズ紛争の結果に漬け込んで、連邦軍のタカ派が生み出したジオン残党狩りを名目上の存在意義とした特殊部隊「ティターンズ」。彼等こそがこの世界に争いを持ち込んだ集団なのだ。その誕生の瞬間。先のデラーズ達の行為を事故と偽ってまでその存在意義を力説するティターンズ実戦部隊の責任者「バスク・オム」。そしてそれに共感した地球連邦軍の教導隊の名乗った「ニューディサイズ」。これら集団の信じた地球至上主義の影響は2199年でも継続しており、未だに連邦地上軍はエゥーゴに恭順したリベラル派と飽く迄ティターンズの理想を信ずるネオコン派に分裂した状態なのだ。それが今回の事件の原因となってしまった。

「そもそも我々はこの世界には調査任務のために派遣された。だが、彼等ティターンズ残党の存在が明らかにされた以上、この世界に留まり、戦うだろう。我々は君たちウィッチと共に戦う事を約束する。」

「いいのですか?」

「ああ。この件はすでに連合軍に伝え、アドルフィーネ・ガランド少将も我々の存在を承認してくれている。」

シナプスはここで連合軍上層部の中で最初に接触した、ウィッチ出身の将軍の名を出した。アドルフィーネ・ガランドはカールスラント空軍の元ウィッチで、カールスラント皇帝フリードリヒ4世(史実の時世を考えると、ヴィルヘルム2世の子のヴィルヘルム・フォン・プロイセン か、その子「ヴィルヘルム・フォン・プロイセン」が祖父、あるいは曽祖父のフリードリヒの号を継いだ事になる)の信任も厚い将軍である。過去にはミーナも美緒も世話になった。彼女はミーナを説得する際には、自分の名を出して良いと言っていた。その効果が発揮されたのだ。

「分かりました。少将閣下同様、小官は501の責任者として、あなた方を受け入れ、歓迎いたします」

「ありがとう。君の体調が回復次第、今後の事について協議しようと思う。よろしいかな?」

「分かりました」

シナプスはこの時、心のなかで折衝を引き受けてくれたガランドウィッチ総監(後、空軍総監)に感謝したのは言うまでもない。空母には続々と501の人員が着艦しつつあった。彼女らを待ち受けるのは何か?そして残酷な事実を突きつけられるのは間違い有い。果たして何人があの殺戮の歴史に持ちこたえられるのであろうか。



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