外伝その9
―さて、501の面々はその後も無事に任を果たした。
モビルスーツなどとの模擬戦でメキメキと平均練度が上がった彼女らはネウロイを順調に撃破。
そんな中、宮藤芳佳の名を一躍有名にする戦闘が生起する。
この日、芳佳は新型ネウロイに対し、零式ではなく紫電一一型で応戦した。
これに坂本は窮した。新型相手には強力な魔力を誇るとはいえ、まだ未熟な芳佳で
どうにかなる相手ではないからだ。
「おい菅野!!宮藤が心配だ。助けに行ってくれ〜!!」
「落ち着けよ。今のアイツなら問題無いぜ」
「何っ!?しかしアイツは零式じゃなく紫電を使ってるんだぞ、トラブルが起こるとも……」
「やれやれ。それ山西の技師が聞いたら泣くッスよ」
坂本は山西航空機の作る「紫電」系統を信用していない。坂本は宮菱、川滝などの戦闘機・
ストライカーユニット分野で一流と称されるメーカーはともかく、「飛行艇しか能がない」と
までベテランたちの間で揶揄された戦闘機分野では「ポッと出」の『二流メーカー』
のでっち上げは使いたくないと公言する。菅野は坂本に零式からの機種転換を勧め、
北郷との共同作戦でどうにか説得に成功させていたが、
「若い奴らには使えない」と評する姿には閉口していた。
零式は確かに新兵にも扱いやすく、その機動性は歴史上の戦闘機としても有数だ。
だが、その真価はベテランやエースの手で初めて発揮出来るものである。
第二次世界大戦での零式艦上戦闘機(ゼロ戦)が大戦後期以降には苦戦必至な状況
になったのは、飛行技能抜群のエースやベテランを消耗し、未熟な新兵
が多くなったのと、新型機との性能差が大きくなったのが大きい。
ベテランが乗れば「米軍最新鋭の`F4U コルセア`を叩き落せる」が、
それは操縦者の技能による所が大きい。ジオン軍などでも似たような事例が多く
確認されている。実際、終戦近い頃の1945年には零式艦上戦闘機のあまりの陳腐化で
新兵達は零式艦上戦闘機に乗るのに自信を失い、紫電改に乗りたがっていた
ものも多かったという記録が残されている(第302航空隊など)。
坂本が信用置けないと言うのは、
時々、紫電の空戦フラップが誤作動を起こすのと、旋回半径が零式より大きいという点だ。
旋回半径については、制空戦闘に転用されたとは言え、計画時においては大型ネウロイ迎撃用に計画された「乙戦」である。
それを考えれば仕方がない所である。
― だが、零式が旧式化した今、戦況に適応するのは紫電しか無い。ようやく完成した烈風は本土防空や空母艦載部隊へ優先配備されている
以上はこの紫電が派遣ウィッチが入手可能なストライカーユニットとしては「最新最強」なのだから。
「まあそう悲観すんなって。宮藤にはオレの剣術を伝授してある」
「なん……だと……」
「某ジャ◯プ漫画みたいな反応だなぁオイ」
菅野はそう言って肩を竦めるリアクションをする。実は菅野、宮藤を僚機とすべく、育成していたのだ。
これは菅野の扶桑での原隊「343航空隊」の司令「源田実」が宮藤の原隊を343空に変えておいたと
菅野に連絡したのが原因であった。
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その時の様子は以下の通り。
「なんだって、オヤジ。宮藤を343空に?」
「そうだ。坂本に横須賀からの誘いが来ていてな。その後のための補充だ。
……松田の事は残念だった。アイツの命が助かったのが儂にとっても幸いだよ。だが、お前の僚機は必要だろう」
「でもオヤジ、アイツはまだ未熟なペーペーですよ」
「竹井大尉から推薦があってな。そこで儂が手を回したのだ」
源田実の実行力は海軍随一である。そのため本土防空部隊として「第343海軍航空隊」を設立できたのだ。統合戦闘航空団に選抜される
ような俊英を中核としたのは彼の思索であった。この世界の彼は並行時空の自身より先見の明を持っており、
扶桑海事変の例を鑑みて、本土防空強化を急いだ。それを実践したのが343空であった。菅野は遣欧艦隊所属時の勇名などから
源田に目をつけられ、一時帰国と同時に343空へ原隊が異動した。
それ以来、松田庄子と共に「新選組」の2トップとしてきたが、松田が508へ配属になった後は菅野の僚機を努められるだけの
逸材に苦慮してきたが、宮藤芳佳という金の卵を504の竹井醇子より推薦され、源田はまんまと宮藤芳佳の扶桑での原隊を343空に転属させておいたのだ。
「相変わらずッスね」
「まあな。とりあえずお前は彼女を育ててやってくれ。儂は宮藤博士とも面識があるからな……どうも、な」
源田は十二試艦上戦闘脚開発時に同僚の柴田武雄と揉めに揉めた。宮藤博士はその2人の提案の折衷で零式艦上戦闘脚を作ったという経緯がある。
その結果、坂本ら現在のベテラン勢を始めとするウィッチには操縦の容易さ、運動性能の高さから多いに愛された。
だが、今の世代交代した新兵達からは「シールドに回せる魔力のマッピングの幅が低い〜!!」と不評であり、新型ネウロイとの性能差から
海軍ウィッチに自信を無くすものが続出。後継の烈風も宮藤博士の残していた設計図の一つを用いたもの、誉エンジンの不具合から完成が遅延。
そこで急ぎ作ったのが雷電と紫電である。
「あい。了解ッス」
菅野はその日から宮藤を鍛え、剣術を伝授した。その成果
の一端がそろそろ垣間見えるはずだと菅野は言う。
「成果だと……?」
「ああ」
その言葉の通り、芳佳は成果を見せた。この日の哨戒ローテーションの相手はハルトマンで、珍しい組み合わせであったが、
芳佳は紫電で敵編隊に真正面から吶喊した。紫電の特性を理解した一撃離脱戦法だ。
「ちょ、宮藤!真正面から突っ込むな〜!!」
ハルトマンさえ思わず心配してしまうほどの無茶ぶりは地上待機組のバルクホルンを終始狼狽させた。
バルクホルンにあるまじきソワソワぶりはミーナが「トゥルーデ、落ち着きなさい!!」と叱責するほどで、
この時のバルクホルンの狼狽ぶりは後々にまで語り継がれたとか。
この時の芳佳の武装は背中に九九式20ミリ5型、日本刀(扶桑刀)といういでだち。芳佳は鍛えられたためか、
真正面から突っ込み、敵の意表を突く機動を見せる。
「くぅっ、シュトゥルム!!」
援護すべく、ハルトマンは固有魔法を使用する。大気操作系に分類されるこの魔法は地球連邦軍の搭乗員から
「あのゲルマン忍者を思い出す」との評をもらっている。威力は高いが、新型ネウロイは耐久性が強化されており、
決定打に至らない。
「うぇっ、嘘っ!?」
これにはハルトマンも狼狽えてしまう。自身の固有魔法は殆どの敵に痛打を与え、時には一撃必殺となった。
だが、今回の敵は装甲が抉れていない。装甲が飛躍的に強化されたということだろう。そこへ芳佳が突っ込む。
「ハルトマンさん、ここは私に任せて下さい!」
「宮藤、何をするつもり!?」
ハルトマンがそう心配するのも無理かしらぬ事である。飛行時間で言えば芳佳はまだペーペーの新兵。
戦闘技能はまだまだであるし、固有魔法は治癒魔法であるなど、悪く言えば余り戦闘向きではない。
だが、芳佳の持つ日本刀に眩い光が点る。それは菅野がアフリカ戦線で活躍する太陽戦隊サンバルカンから
極意を伝え聞き、それを芳佳へ、更に伝えし技。その名を。
「私は託されたんだ!!お父さんやみんなから……!!みんなを守るんだ、この力で!!」
そう言い、刀を構える。そして心なしか、太陽の幻影と後光が見えるようにハルトマンには思えた。
『飛羽……返し!!』
その技は2代目バルイーグル=飛羽高之が決め技とする必殺剣技。菅野は持ち前のネットワーク
でアフリカ戦線からその噂を耳にし、赴任して間もなくの頃、サンバルカンへ連絡を取って彼等と面識を得た。
それで非番の日にサンバルカンの元へ赴き、2人でトレーニングに励んでいたのだ。
この時には空母から辛うじて視認可能な距離に接近していたので、坂本は飛行甲板からその様子を確認していたが……。
「なんだとぉぉっ……み、み、み、宮藤があんな剣技をぉぉ〜っ!?」
これには坂本も度肝を抜かれたようで、魔眼で見たこの光景に目を奪われ、白黒させている。何せ未知の剣技を宮藤が使った
のだ。驚かないはずは無い。
菅野の方は北郷とハイタッチして喜びあっている。
−どうやら主犯格は……。
「せぇんせぇい〜、かんのぉぉ〜」
2人に思わず不満気な顔を見せ、膨れる坂本。北郷は上手く理由を説明してやり、坂本をなだめる。
−こういう時に北郷さんがいてよかったぜ〜。
菅野はこの時、心からそう思い、安堵した。そして技を芳佳へ伝授してくれた飛羽高之へ改めて感謝した。
アフリカ戦線で戦う彼へ……。
−あとがき
本日、仮面ライダーストロンガー役の荒木しげるさんが、1984年のライダーマン役であった山口豪久(V3時は山口暁)氏に続き、死去されました。
ストロンガーは私が子供の頃ビデオで見て、一番見返したシリーズだったので、残念でなりません。
せめてもう一度素顔の7人ライダーが揃う所を見たかったです。素顔のライダーが揃ったのは、ストロンガー最終話「さようなら! 栄光の七人ライダー!」が、
本当に最初で最後となってしまっただけに悔しいです。
ご冥福をお祈りします