外伝その13


 

−さて、アフリカ戦線に到着した芳佳達はロンメル将軍より状況説明を受けた。
アフリカ戦線は以前より流動的になっており、3つ巴の戦いと化している事を。

「ふえ、大変なんですね……」
「そうだ。ネウロイも進化を重ね、ストライカーユニットを空陸問わず更新を行わざるを得ないほど
強大となっている」
「それはティターンズのジェット機のせいでしょうか?」

坂本はロンメルに問う。すると彼は首を縦に振った。

「そうだ。奴らが色々してくれたおかげでこちらは大変なのだ、少佐」
「ああ。超音速ジェット機に追われるわ、ヘリに狩られそうになるわ……正直死ねる」

帰還したマルセイユがフリーディングルームに入ってくるなり、ため息をつく。
その姿は心労のためか、ハルトマンが知っているそれより幾分痩せたように見えた。

「ハンナ、しばらく見ない内に痩せた?」
「ハルトマン……言ったろ、隊長代理になったって。おかげで3キロ痩せた」
「微妙だね」
「チャーハンにラーメン、メンチカツとかを時々食ってスタミナつけてるんだ。
そのおかげで体重変化は最低限だ」

マルセイユは未来部隊の合流により2000年代頃の日本人とほぼ同じ食生活を送るようになった。
ただしほぼ同年代である10代の高校生と同じような食生活なので、酒と煙草は禁止された。
無論、彼女はこれに猛烈に抗議したが、ティアナによりきつく言われ、さすがのマルセイユも
引き下がった。これには理由があり、ティアナが元・時空管理局の局員であり、
そこで培われた攻撃魔法を使えるというのであった。
無論、理論上は同じ魔力を持つウィッチにも同じ芸当は可能だとの研究結果が出ており、
未来世界に行った圭子の戦友たちの中にそれを試している者がいるとの話が耳に入って来ている。
マルセイユもティアナが以前の所属先で使っていた砲撃魔法を目にする機会があり、
その威力に驚いたものだ。そのため、マルセイユは大人しく引き下がったわけである。

「へえ。ハンナもあれ食ってるんだ〜」

ハルトマンが嬉しそうにはにかんだ。ハルトマンも未来艦隊がやって来た事で、並行世界で
培われし食物の数々を口にする機会を得たからだ。
ちなみに501の面々は様々な反応で、ペリーヌは日本で生まれた、
「洋食」を初めて目にした時、「これは欧州の料理ではありませんわ」と言いながらも
美味しく食べ、バルクホルンは「確かにこれは扶桑の料理と言っていいな」、
シャーリーは「なんだこれ、うまいな!!」、ルッキーニは「うん!すっごくおいし〜♪」と。
ミーナは「扶桑独特の味付だけど……美味しいわ!」、リーネは焼肉につけられた卸醤油に苦戦しつつも
「美味しい……醤油にこんな使い方が……」(リーネは以前薬と勘違いした両親に風邪を引いた時に
飲ませられ、それ以来苦手意識がある)と関心したり。エイラは「なんだこれ、食ったこと無い
味だぁ〜!!」とメンチカツをもりもり食い、サーニャもエイラと似たような感想を残した。
芳佳は「未来の扶桑って色々考えてるんですね〜」(正確にはこの時代には既に出現していたものもあるが、
1940年代頃の日本人には洋食は贅沢という思考があり、学校や軍などで出される場合を除くとめったに食べていない)
との感想を残した。北郷、菅野と坂本はもう慣れてしまったためか、特別、感想として特筆すべきものはなかったとか。

「ま、まあな。それにしてもハルトマン、お前やヨシカ達は分かるが、なぜ少佐が?」
「なんかサンバルカンが使ってる必殺剣を習うとか意気込んでるんだ〜」
「ああ、飛羽返しか。大佐も大変だなぁ」

マルセイユは菅野が芳佳に特訓を課す過程で2人と面識ができており、
芳佳からも「マルセイユさん」と呼ばれている。飛羽返しも見ているので、坂本が飛羽返しを習いたがっていることにも
納得しているようだ。

「大尉、報告を聞いておこうか」
「将軍、マイルズ少佐の救出はサンバルカンとの共同行動により成功しました」

ロンメルにマルセイユは報告する。ロンメルは嵐山長官との作戦協議との事で 部屋を出ていく。
そしてマルセイユは柄ではないが、呉が攻撃された事を聞いてみた。

「ヨシカ、呉がやられたというのは本当か」
「はい。北郷さんから聞いたんですけど、戦艦3隻(金剛型と紀伊)沈没、空母3隻(呉にいた雲龍型航空母艦)大破、
一隻沈没だそうです……」
「ああ。紀伊さえ容易く屠るリベリオン製の大戦艦……何者なんだ?」

坂本は話に聞く「紀伊の41cm砲を弾き、たった数回の斉射で屠った超弩級戦艦の事が気になっていた。
紀伊型戦艦は八八艦隊計画の残照として、1930年代初頭に計画された「扶桑型戦艦の代艦」である。当初は46cm砲を
有する戦艦として計画されただけあり、その攻防力は最新鋭の大和型戦艦に次ぐ。それすら容易く屠るとは、と。

「パットン将軍から聞いたが、あれはモンタナ級戦艦。アイオワ級戦艦の拡大強化型で、`対大和型`の超弩級戦艦だそうだ」
「馬鹿な……`対大和型`だと……?」
「ああ。リベリオン海軍は大和型に嫉妬していたそうだ。ネウロイに対抗できる攻防力を持つ唯一無二の大戦艦という響きにな。
そこでアイオワ級戦艦を強化する形で設計し、極秘裏に竣工させたまでは良かったが……」
「`良かったが`?」
「公試運転中に何隻かがティターンズに奪われたんだ。奴らとしても戦艦は魅力的なものだからな」
「何故だ?ミサイルとかがあるんだ、戦艦にこだわる必要は……」
「あるのさ。`戦後`の艦艇はミサイル戦が主体になったから殆ど装甲は無い。戦艦というものが1950年代以降は急速に廃れたから
宇宙戦艦用はともかく、水上艦のミサイルは戦艦の頑丈な装甲をぶち破れるほどには造られてない。それがミソらしい」

マルセイユが話すのはティターンズ海軍の実情の一部。戦後型艦艇は戦艦相手には、はなはだ不利である。ミサイルでアウトレンジ
攻撃したところで装甲をぶち抜けるほどの破壊力は無い。せいぜい戦闘能力を奪うことくらいが精一杯である。
(現在型ミサイルで戦艦の装甲をぶち破ることはできない。)まして、大和型が量産されている世界では大和型に匹敵する戦艦が
空母の護衛に必要であった)それでモンタナは格好のターゲットになったのだ。

「資料によればモンタナは大和型とほぼ同等の装甲厚、40cm砲12門の大火力で大和型に匹敵する戦闘能力を誇るとある。
それにフェーズドアレイレーダーとかCIWSとか積み込んだはずだから……`超弩級イージス戦艦`だな」
「イージス艦化?どうしてですか?」
「彼等にとってイージス艦は貴重だからさ」
「飛羽大佐……!」

マルセイユと芳佳達は慌てて敬礼する。部屋に飛羽高之が入ってきたからだ。
飛羽はひとまずハルトマンと坂本に自己紹介して、説明を始める。

 

「イージス艦は大型ネウロイには打撃力はあまり期待できないが、防空能力はこの時代の防空駆逐艦を超越している。
損失を恐れたティターンズはあまり表立って運用はしていないが、太西洋沖で飛鷹と隼鷹の艦爆隊を相手取った時には至近弾こそあれど、
被弾は許さなかったと聞いている。」

扶桑が誇る改装空母「飛鷹型航空母艦」には比較的高練度の航空歩兵や搭乗員が配置されていた。だが、
それらを撃退してみせたところにイージス艦の真骨頂がある。

「イージス艦そのものを作るにはそれ相応のインフラが必要だが、機材を既存艦に乗っけるだけならずっと楽に出来る。
改装すればいい話だからな。それに戦艦の防御力は生存性の高さを保証してくれる。その上でもモンタナはいいものなのさ」
「何故です?サウスダコタでも……」
「あれらは自分の砲に対応する防御力は備えていない。特に彼等も使うアイオワ級は30ノット以上の速度での斉射は不能だという
欠点がある。モンタナ級なら全力航行でも主砲斉射可能、大和型と同等の安定性、防御力がある。その点を重視したんだろうな。
それをイージス艦化したとなれば……恐るべき艦になる」

「モンタナとは……そこまでの艦なのですか?」
「ああ。俺達の世界じゃアメリカ人達が「戦艦大和など粉砕出来るはずだったのにぃ!!」と息巻いてるほどの……ね。
このぶんじゃたぶん……超大和型戦艦も産まれるかもしれないな」
「超大和型戦艦…?」
「日本海軍が対モンタナ用として計画していた`51cm砲搭載`の大和型の強化型だよ。大和型を4隻も量産配備出来る
国力があるならたぶん今頃、艦政本部が躍起になって計画してるよ」

飛羽はモンタナへの対抗心から、扶桑海軍が慌てて超大和型戦艦(大和型の後継艦)を計画していると推測したが、
実際、その通りだった。

 

 

−扶桑皇国 艦政本部

 

「おのれ!!何がモンタナだ!!今に見ておれよ!!」

艦政本部長「杉山六蔵」中将は執務室に入るなり、そう怒鳴った。そして、開戦で棚上げされていたマル5計画での大和型の後継艦を急ぎ建造することを
上層部に上奏。紀伊を撃沈されたことへの危機感から認可され、主砲の策定を急いでいた。

「51cm級は?」
「だめだ、モンタナは46cm砲を弾ける防御力を持っているという情報が入ってきた。22インチ……56cm砲ならば……」

造船官らは51cm砲への不安を見せ、更なる大口径への指向を見せた。その結果が56cm砲の開発なのだ。
造船官らは呉の一軒以降、モンタナが扶桑皇国の宝「大和型戦艦」を粉々に打ち砕く悪夢に魘されるようになっていた。
その悪夢への強迫観念が超大和型戦艦を生み出させたと言っても過言ではなかった。

「超大和型戦艦が完成すれば……」

彼は大和型戦艦を超えるべき戦艦へ希望を見出そうとしていた。全長350m級へ拡大した大和型戦艦にも見えるその模型は
本来は日の目を見ないはずの艦が止むに止まれぬ事情で日の目を見た事に悲しさを見せた杉山中将の姿はまだに飛羽が推測した通りであった。

−超大和型戦艦。大和型戦艦の後継艦として期待されながら日の目を見なかったはずの大戦艦は今、確かに生まれようとしていた。

 

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