外伝その68


――ハンナ・ユスティーナ・マルセイユは、この時には既にニュータイプ能力が覚醒し、ティターンズのガンダム部隊の発進を感覚で感じ取り、体も自然と動いていた。

『マルセイユだ!あれを使うから、核融合炉を温めておけ!』

「テスト用のセッティングのままですよ、中佐!やめてください!」

『今は機体を遊ばせておける状況か!直にそちらへ着艦するから、用意しとけ!』

マルセイユはそれだけ言うと、通信を切る。彼女が使おうとしているのは、アフリカでテストしていた最新鋭のガンダム『RX-105』Ξガンダムである。なんとなくプレッシャーを感じたマルセイユは、Ξガンダムを使って迎え撃つのを決意。猛スピードで、連邦軍の空母に向かった。それを無線で聞いていた圭子も便乗して、アフリカの秘密兵器たるスーパーロボットを用意させる。

『黒江ちゃん、傷はどう?』

『今さっき、包帯が取れたところだけど?』

『そう。なら、格納庫に行ってちょうだい。ウチが持ち込んだドラゴンを使うわよ!』

「お、おい。ちょっと待て!ゲッターは三人必要だぞ!ポセイドンはどーすんだよ!」

『ドミニカ大尉か、シャーリーでも、適当に誰かとっ捕まえて乗せておいて!』

「わ、分かった!人使い荒いぞー!」

『文句は後!マルセイユが敵のプレッシャーを感知したみたい!ガンダムタイプでも使うつもりかも、奴ら』

「そういう事なら了解だ。ライガーに乗って待ってるぜ」

通信を終えると、黒江はゲッターロボ用のパイロットスーツ(竜馬達の着ている旧型のものではなく、新ゲッターチームと同じデザインの新型)に着替え、ちょうど補給しに降りてきたシャーリーを捕まえる。

「おい、シャーリー。ちょっと面貸せ。話がある」

「なんスか?」

「実は……」

要点をかいつまんで説明する。それを聞いたシャーリーは乗り気であった。

「そういう事ならライガー、代わってください!高速戦闘はあたしの領分ですから!」

「分かった。ポセイドンは引き受ける。その代わり、今夜の飯はおごれよ」

「了解ッス」

格納庫に行き、シャーリーがライガー号、黒江がポセイドン号に乗り込む。このGは、改修したとはいえ、大本は量産型Gがベースなので、真ドラゴンへ進化途中のオリジナルに比すると、フォルムがマッシブである。操縦系は簡便さが増したネオゲッターロボに準拠するように改修されており、動力源もオリジナル同様の増幅炉となっている。12分ほどで圭子がやってくる。シャーリーを捕まえたのを報告されるが、ライガー号を譲ったのに納得し、自身もゲッターの新型パイロットスーツに着替える。

『よおし、準備はいいわね!黒江ちゃん、シャーリー!』

『言われるまでもねーぜ!』

『おっしゃあ、久しぶりに暴れてやるぜ!』

『ゲッターロボG、発進!』

ドラゴン、ライガー、ポセイドンがカタパルトで射出され、そのまま編隊を組んで、戦場へ向かう。その時に入れ違いで補給に向かうサーニャとエイラとすれ違う。

『お、エイラにサーニャだ。お〜い、入れ違いで行ってるぞ〜!』

『え!?お、おい、大尉〜なんじゃそりゃ!?』

『え、えぇっ!?シャーリーさん!?』

目が点になる二人を置き去りにし、ゲットマシンは超音速で飛び去った。サーニャはゲッターエネルギーの反応を感知し、エイラに言う。

「エイラ、さっきのあのマシンに去年の真ゲッターロボと同じエネルギーの反応があったわ」

「なんだって!?じゃ、あれもゲッターロボなのか!?」

「そうじゃないとしか言えないわ。だけど、真ゲッターロボに比べると型が古そうだったから、前世代機なんじゃ?」

「確かに、真ゲッターのマシンよりは曲線が多かったからなぁ。もしかして、あれがアフリカで使ってたっていうゲッターGか?」

どことなく新型であるとわかる滑らかなデザインの真ゲットマシンに比べると、無骨な強いデザインの新ゲットマシンは旧世代機であると一目で判別できた。数分後、着艦した空母で、智子にそのゲットマシンは第二世代型のゲッターロボGで、真ゲッターロボの先代機であると知らされ、納得する。

「ゲッターGを持ってたの、中佐は知ってるのか?」

「練習機はあるのは知ってるけど、実戦機まであるのは知らないはずよ。防諜もあって、実戦機の事は伏せてたのよ」

「なんでそこまでする必要があるんですか?」

「内部のスタッフにスパイが入り込んでる可能性があったからよ、サーニャ。私が昨日戦った佐々木勇子の事もあるわ。敵がこっちの行動を先読み出来る謎もこれで解けるわ」

「人同士で腹の探り合いかよ……噂でしか聞いた事なかったな、そういう話」

「そういう事よ。506なんて、各国の探り合いやガリアの内輪揉めで空中分解だもの」

「まったくもって、嫌な感じだなぁ。中佐、これで胃に穴開くんじゃ?」

「胃潰瘍まっしぐらよ。グレートマジンガーはまだしも、ゲッターロボGやΞガンダムを持ってきているなんて知らされていないし」

「可哀想にな。あれじゃしばらく寝こむんじゃね」

エイラはそう結論付ける。頭ごなしに自部隊の重要事が決められていた事、いくら上層部の達しがあったとは言え、隊長の自分になんら知らされぬまま、各種未来兵器が搬入されていたなど、生真面目なミーナにしてみれば堪ったものではない。

「一応、書類上は隊員の連邦軍から貸与された員数外の私物扱いにしてあるわ。連邦軍のパワードスーツの類と違って、公的にテストが委託されてるわけじゃないしね」

「あんたらの人脈にゃ驚かされるぜ……。特にΞガンダムだっけ?どう見ても出来立てほやほやだったぞ?」

「アナハイム・エレクトロニクスを通して、ストームウィッチーズにテストが委託されてた新鋭機よ。圭子がそのまま501に搬入させておいた、本格空戦型のガンダムって奴よ」

「うっひゃ〜空戦型かよ。もうわけがわかんねー!」

「連邦軍にも、まだ二機しかない第5世代MSの片割れだもの。それも兄弟機のネガを潰した改良型。人型のままで音速行けるわよ」

「第5世代?MSにも世代があるんですか?」

サーニャが質問する。第5世代というのが気になったのだろう。

「MSの場合は曖昧になってる点があるけどね。骨格フレーム構造になってて、高級機で初代ガンダムの装甲材だった『ガンダリウム合金』の改良型を装甲材にしてたりした設計のが第二世代機。Z系はそれに可変機構をつけた『第三世代』、ダブルゼータとか、それに大火力とサイコミュシステムに準じるシステムを積んだ超高級機を『第四世代』、機体にミノフスキークラフト積んだのが第五世代機。F91とかはそれと別の『第二期MS』に分類されるわ。ややこしいでしょう?」

「ええ。Ξでしたっけ?なんでギリシア文字の名前を持ってるんですか?』

『アナハイム・エレクトロニクスが初めて、本格的にガンダリウム合金を使って使ったMS『リック・ディアス』の開発コードが『γガンダム』だったのが由来。それから慣例で、アナハイム・エレクトロニクス製ガンダムの多くがギリシア文字の開発コードを持つようになったのよ。Ξは、開発系統で言えば、連邦軍の象徴になってる『νガンダム』の後を継ぐって意味で、名がつけられたって聞いてるわ。開発コンセプト的にも、『νガンダムとZZガンダムの長所を併せ持つ、空戦型ガンダム』だし」

Ξガンダムはサイコミュシステムを積むという点でνガンダムの、大火力デバイスを持つという点でZZの特徴を併せ持つ。その特徴がよく現れていた。




――戦場

「なっ!?」

ミーナを攻撃しようとしたマラサイとドダイ改が、四方八方からの誘導ミサイルのような物体に撃ちまくられ、各部をバラバラにされながら撃墜される。ミーナは思わず、そのミサイルがやって来た方角に振り向く。すると。

『危ないところだったな、ミーナ中佐』

「その声、マルセイユ中佐!?そ、そのガンダムは!?」

『アフリカでテストしていた、RX-105/Ξガンダムだ。MSの相手は私に任せろ!』

「クスィーガンダム……。」

マルセイユはニュータイプ能力が覚醒し、尚且つMSの操縦に慣れ、Ξの当代最高峰の空戦能力もあって、敵機に対し、圧倒的な強さを見せる。ライフルでドダイごとぶち抜いたり、ファンネルミサイルでオールレンジ攻撃をかますわ、どこで覚えたか、見事なビームサーベル捌きを見せる。ミーナが思わず見とれるほどの華麗な動きだ。

「中佐、その機体、どうやって!?」

『元々、ウチの部隊がテストを委託されていたんだ。アフリカ陥落時にゲッターロボGと一緒に持ち込んでおいたというわけだ』

サーベルでまた一機、斬り裂きながら会話をするマルセイユ。ニュータイプに覚醒した恩恵か、ティターンズの兵士と比べても、かなり動きが鋭い。

「え!?書類にはそんな事…」

『防諜も兼ねてたんだよ。ケイや黒江中佐達のところで書類の細かい記載内容は別紙になっているんだが……、知らないで決済してたのか…?もしかして』

「え、ええ……」

戦闘しつつ、あからさまに落ち込むミーナ。自分の知りえぬところで重大事項がやり取りされていたのが、よほど堪えたらしい。

「そんな重大なものなら、なぜ私に話が行かなかったの?」

『防諜と言ったろう?あんたが知らないで済めば、敵に警戒を抱かせないで済むからだ。何処に敵のスパイがいるか分からなかったしな』

「そ、そんなぁ……いくら軍事的には必要って言っても……分かってれば、いくらでも戦略を練れたのにぃ……」

ミーナは『知らなかった』事で、戦略的自由度を自分から削いでいたという事実に打ちのめされた。VFの事に続いて、ΞガンダムとゲッターロボGの実戦機をストームウィッチーズが隠し持っていて、それを自分に知らせていなかった。これもミーナには堪えた。防諜の事があったとは言え、超マシーンを持っている事が自分に通達されなかった(書類の別紙には記されていた)事、書類を全て確認しなかった自分の迂闊さを恥じた。これ以後、ミーナは部隊の完全な掌握に力を注ぎ、また未来兵器を勉強し、それを活かす戦略を練るようになるのだった。






――グレートマジンガーと三人は、ティターンズのMS部隊の主力と遭遇、戦闘に入った。ここでもグレートマジンガーはその大パワーを以って、大暴れであった。

『アトミックパーンチ!』

グレートマジンガーのロケットパンチと言える『アトミックパンチ』が回転しながら、ガンダムMK-U高機動型のシールドを粉砕し、そのままコクピットに凄まじい衝撃を与え、パイロットを気絶させ、そのまま海中へ落下させる。

『動きは少々良かったが、mk-U程度でグレートの相手になるものか』

ガンダムmk-Uは名機ではあるが、この頃には廉価量産機のジェガンにさえ性能面で追いぬかれていた事、火力面でも、就役当時でさえ標準の域を出なかったため、地球で有数の強度を誇る超合金ニューZには通用しなかった。そこがグレートに一蹴された原因だ。


「すげえ。ガンダムを一発でのしたなんて……」

『まぁ、型落ちになって久しい形式だけどな。小手先の改良がされたところで、グレートの敵じゃない。お、次が来たな。今度のは……珍しいな。ガンダム・ヘイズルだ』

ガンダム・ヘイズルは正式に言うと、ガンダムタイプではなく、ジム・クウェルのアッパーバージョンに相当する。ティターンズが崩壊して、幾年も経っている2201年においては、博物館の展示品になった機体、アナハイム・エレクトロニクスの手に渡って、性能検証に用いられた物、白色彗星戦役の最前線に駆りだされ、奮闘した個体もあった。今回、グレートマジンガーと対峙したのは、空戦ユニット『イカロスユニット』を装着した個体だった。


『ほう。空戦型のようだが、スラスターのパワーで飛ばしているに過ぎんもので、グレートに勝てるか!マジンガーブレード!』

そう。ヘイズル・イカロスユニットは所詮、バイアランのテストも兼ねたもので、空中での自由度はグレートマジンガーに遥かに劣る。スラスター推力で殆ど飛ばしているにすぎないヘイズル・イカロスユニットはグレートマジンガーの軽やかな機動に翻弄される。

『おっと、直線的な機動でグレートが捉えられるものか!でぇい!』

グレートはヘイズルのビームサーベルを避け、マジンガーブレードで肩口を切り裂く。肩にスタビライザーとロケットエンジンが設置されていたイカロスユニットは、それだけでバランスを失い、制御不能となって海中へ突っ込んでいった。サブジェネレーターが爆発したか、海中で大爆発が起きる。

『ブレストバーン!』

胸のV字型放熱板からブレストバーンを放ち、ヘイズル・イカロスユニットのもう一機を溶解させる。摂氏50000度の熱線はイカロスユニットごとヘイズルを溶かすのには充分であり、数秒ほどでルナ・チタニウム合金とチタン合金セラミック複合材のヘイズルはパイロットごとドロドロに溶け、崩壊する。

『よし、敵艦隊を攻撃する!君たちも続け!』

「了解!」

ヘイズル・イカロスユニットのエレメントを一蹴したグレートと、芳佳、菅野、黒田は降下し、敵艦隊の増援であるヴェネツィア艦隊に攻撃を敢行した。

『ネーブルミサイル!!』

ネーブルミサイルを乱射し、ヴェネツィア海軍の主力戦艦であるカイオ・ドゥイリオ級戦艦の30.5cm(46口径)砲塔を派手に破壊し、煙突、艦橋も炎上させる。同型艦の『アンドレア・ドリア』が砲をグレートに当てたが、超合金ニューZの装甲は通さず、砲弾を弾く。

『ドリルプレッシャーパーンチ!!』

ドリルプレッシャーパンチはヴェネツィア艦を薄紙の如く貫いていく。いくら戦艦が舷側装甲250mmなどと言っても、所詮は鋼鉄。超合金のドリルプレッシャーパンチを防げるわけはなく、アンドレア・ドリア、コンテ・ディ・カブール級が大穴を開けられ、浸水で沈没していく。


『グレートタイフーン!』

『サンダーブレーク!!』

暴風が吹き荒れ、駆逐艦を空中へ巻き上げ、互いにぶつかりあって爆沈する。これでヴェネツィア海軍は戦意喪失、サンダーブレークで新鋭艦のヴィットリオ・ヴェネトが黒焦げにされ、唯一の空母『スパルヴィエロ』が粉砕された事もあり、撤退に移った。

『おっと!逃がすか!ブレストバーン!』

ブレストバーンの照射の余波で大波が発生し、その波に中小型艦艇が飲み込まれていく。このグレートの追撃の余波でインペロが大破し、駆逐艦・巡洋艦はほぼ全滅という有り様であり、ヴェネツィア海軍は戦艦数隻と、巡洋艦・駆逐艦が6隻しか生き残らず、そのうち使い物になる戦艦は2隻という惨状であった。ヴェネツィア海軍の生き残りはグレートを『悪魔の使い』と呼び、恐れるのであった。この惨劇を『夏の悪夢』と記憶し、ヴェネツィアが冷戦中、扶桑皇国に敵対的な態度を取るきっかけとなるのだった。(扶桑皇国としてはとばっちりだが)

「やりすぎですよ、鉄也さん」

『念入りにシメただけだ。20年位はヴェネツィアの顔見ないで済むくらいにな。船はやったが、人はそんなに死んじゃいないさ』

黒田に鉄也が言う通り、ヴェネツィア海軍は人員の損害そのものこそ小さかったが、空母ウィッチの全員が死に、司令部も壊滅した。この人員の損害は大きく、ヴェネツィア海軍がその後、この時の規模での再建が半ば諦められた原因は、国家そのものが衰退したせいで、複数の大型艦艇の維持が不可能となったからだった。



――頼みの海軍がウィッチごと壊滅したヴェネツィアはその後、リベリオンからの払い下げ品を使うなどで急場を凌ぐが、1950年代以後のヴェネツィアそのものの衰退で海軍は沿岸警備隊に近い様相に陥っていき、そのままで冷戦終結を迎え、1991年にロマーニャ公国と合併する形で、その歴史の幕を閉じる。だが、ロマーニャ主体の合併に反対する者は多く、冷戦後の民族紛争の火種となっていく。ルッキーニの孫娘はそんな混迷の時代に生を受け、統一国の空軍のエースとなっていく。その容貌は祖母にそっくりだったが、祖母が天真爛漫であったのとは反対に生真面目な性格であるという違いがあり、いち早く、501統合戦闘航空団の第三世代の隊員に選ばれる名誉を賜るのだが、それは遠い未来の話。



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