外伝その104『ダイ・アナザー・デイ3』
――扶桑皇国は強烈な外圧を受けつつも、日本に影響を確実に及ぼし、間接的に日本が連邦の覇者になる道を決定づける事に貢献した。これは2014年。日本側に取って、国交成立からおおよそ8周年を迎えた年までに終結した『韓国への軍事制裁』の影響でもある。戦艦播磨を前面に押し出しての韓国の無力化は、各国に衝撃を与えた。戦艦大和の後継が最新のイージス艦を容易く無力化したというインパクトを誇張して、日系マスコミは書き立てたが、普通に考えれば、イージス艦は装甲が大戦時の日本駆逐艦よりはマシ程度のものしか無く、戦艦主砲弾はどうあがいても防げない。当たり前だが、大和をも凌駕する超大和型戦艦と打ち合える船など、21世紀には一切合切、存在しない。たとえアイオワ級を引っ張り出したり、作り直しているモンタナ級を出しても無意味だ。20インチ砲に耐えられる重装甲、しかも宇宙戦艦基準の装甲は21世紀の劣化ウラン弾を含めた全ての砲弾を弾く。これが『扶桑の象徴たる、第二世代の大和型』という宣伝になった。日本海軍もそうだが、もし、戦艦建造が継続していた場合、ベース艦は八八艦隊型の長門型戦艦から大和型へ確実に移行していたのは火を見るよりも明らかである。軍事史に興味のある日本人の垂涎の的となったのは、扶桑海軍の財政である。大和とその発展型、更に八八艦隊型の紀伊型戦艦改装の航空戦艦を維持できる余裕がある。更に加賀型を強襲揚陸支援艦に再利用予定という官報は、日本の海軍研究者を興奮させた。更に空母と超甲巡を両立させているなど、史実の計画艦の幾つかが本当に具現化した世界という事が知れ渡るにつれ、報道も過熱した。――
――扶桑の横須賀
扶桑の横須賀は呉壊滅の代替措置で工廠機能が大拡充されたのと、主力艦隊の港に認定されたため、大和型が二、超大和型戦艦が一の兵力が常駐している。『ダイ・アナザー・デイ』作戦に当たり、その作戦を指揮する参謀本部も『サンダーボール』のコードネームで正式に置かれた。ロマーニャ半島では半島を丸ごとブレストファイヤーで焼かれてしまう可能性が高いため、扶桑に置かれた。その議長は亡命政府の首班と軍総司令を兼任するドワイト・アイゼンハワー大統領(兼元帥)。その次席はエルヴィン・ロンメル元帥となっている。ジョージ・パットンと共に次席を担う。モンティは失敗続きであった都合、第三席となった。オブザーバーが山本五十六と今村将軍と、参謀本部の重要ポストは日米英独の四カ国の将軍/提督が占めた。これは当事者のロマーニャ軍には大部隊指揮経験者がおらず、ガリア軍はド・ゴールが自分の保身にご執心であったのがアイゼンハワーの逆鱗に触れ、実質的に排除された。その為、作戦参加部隊にガリア軍系部隊は殆どおらず、カールスラントや扶桑が主力を投じる覚悟であるのと対照的であった。
「アドミラル・ヤマモト。ダイ・アナザー・デイまでに投入できる兵力は」
「わが方の主力には全て作戦待機指令を出しました。軽空母、潜水空母に至るまでの全ての航空兵力を参加させます」
「よろしい。連邦もモビルドールやゴーストに至るまでを投入すると通達が来ました。あとはウィッチ部隊の状況が気がかりですな」
「ええ。彼女らはこのような人類の存亡がかかった戦は初です。しかも逃げ場が一切合切ない条件での。しかも相手はマジンガーZEROという破滅の邪神ばかりではない」
「今回の戦闘で当てになるのは、百戦錬磨の精鋭部隊のみと見て良いでしょう。いくらプロパガンダで煽ろうとも限界はある」
ダイ・アナザー・デイ作戦の概要はある程度開示されており、ウィッチ達の使命感を煽って参加を呼びかけるポスターが軍関係施設の至る所に、扶桑では智子や坂本、孝美などの撃墜王を使い、少年少女の志願を呼びかけるポスターも作成している。緊急事態であるので、ウィッチであれば11歳からの志願も認めるという破格の条件での求人だが、日本の左派の逆プロパガンダの効果により、志願数は伸びていない。そのプロパガンダのせめぎあいは日本のインターネットで話題に登るほどのものだった。どういうものかというと、こういう争いだった。
『子どもたちに銃を持たすな!』
これは日本の左派関係者が日本/扶桑で貼ってまわったポスターの一例だが、彼らは軍事的常識がヘタすると、日露戦争当時の日本国民よりも劣る水準であり、日本の若者から失笑を買ったほどだ。相手は米英ではない。破界神と名高いマジンガーZEROなのだ。しかも、防衛省が集めた人材は主に神職関係者の子女であったり、航空高校防衛学科学生として選抜された日本人であり、予め訓練を受けたウィッチ達なのだ。日本では、この左派の行動はすぐに沈静化した。相手がマジンガーZEROであることが公的に発表されたからだ。むしろ、日本のネットでは『スーパーロボット軍団結成だなwww』、『マジンガーじゃZERO倒せね―だろ』、『マジンガーとはいい難いグレンダイザーを連れてこい!』、『真ゲッター、いやゲッペラーだ!』と勝手に盛り上がっていた。2014年当時、ZEROの存在が描かれた漫画は絶賛連載中であったが、ZEROはその通りに圧倒的に強いことがわかり、あの魔神皇帝『マジンカイザー』でさえも一蹴しかねないレベルであると発表があると、当時に最強の魔神として人気のマジンカイザーでさえも勝てないというので、ネットは荒れた。だが、ZEROに対抗できる新たな魔神皇帝の存在がすぐに明らかにされた。マジンエンペラーGの事だ。これはZEROにも同種のスーパーロボットで対抗可能と示すためのモノで、グレートマジンガーの後継機であるとの情報も明かされた。第一報は敢えて大手新聞社を選ばず、週刊誌に流した。
『マジンカイザーをも凌ぐ、新たなマジンガー!?』
と、第一報を週刊誌に流したのは、大手新聞社だと真面目に取り扱わないであろうことを見越した山本五十六の案であった。圭子が取った鉄也とエンペラーの写真はインパクト大で、『偉大な勇者の再臨か?搭乗者は剣鉄也』との第二報もすぐに発した。エンペラーがグレートマジンガーの後継機という報は、マジンガーZのファンから反発があったが、Zがゴッドにパワーアップしていると報じられた事で沈静化してゆく。マジンガーの正統なパワーアップは、形状的にグレートマジンガーの発展になる事が判明したからだろう。それらの様子はウィッチ世界からも容易にインターネットで見れるので、黒江らは話のタネにしていた。
――501 基地――
「おい、宮藤。見てみろ、これ」
「黒江さん、昨日カミングアウトしてから、変身しっぱなしですねぇ」
「お前だって、覚醒進めば、会長になれんじゃんかよ―」
「まっ、それもそうなんですけどねー。メリットあまり無いしなぁ。これから出会うだろう西住ちゃんとは別の世界だったかもしれないしー」
黒江はカミングアウトしてからは、体を慣らすという名目で調の姿を取っていた。ギアも纏っているので、その姿でPCをいじっているのはシュールだ。芳佳はその前世が角谷杏であると明言したが、杏としては小柄であるので、黒江と違い、メリットが殆どないため、例え、それになれる様になっても使わないつもりのようだ。
「それもそうだよなー。まっ、出たとこ勝負で行こうぜ」
「アムロさんには?」
「連絡取った。サイコフレームのおかげで前史の記憶が宿ったみたいで、ハイν持ってくるってよ」
「早まってますね」
「改修を急がせたそーな。最終形態のバージョンKaだから、サイコフレーム増量してるだろうし」
「ユニコーンとガチでやれますね」
「だろ?改造しすぎだよ」
「えーと、ν系統の全部に?」
「確かそうのはずだ。ハイも含めて、シナンジュと殺るために強化したとか聞いてる」
「量産型もやったんですかね?」
「あり得る…。赤い人、ロリコンシスコンマザコンのくせに腕は一流なんだから、シナンジュに乗られたら並のガンダムより強いんだぜ?参る」
「確か、ZPlus乗った時に、シミュレーションでクワトロ・バジーナとしての百式とやったんですよね?」
「ああ。格闘戦になるとケリが入るから、強かったぜ」
「でも、あの人、初期の頃にキャリア積んだ人だから、グリプスのときは昔の神通力はなかったとか?」
「カミーユさんから聞いたんだが、クワトロ・バジーナとしては本気になれてなかったのか、周りが強かったとかで、赤い彗星時代の神通力は無かったとか。で、アムロさんいわく、相手が俺だと張り切るのが奴だ、とか」
「うわぁ。コンプレックスじゃないですか」
「アムロさんにはララア・スンの事で遺恨ありまくりだしなーあの人。まぁ、キュベレイとジ・オに達磨にされても生き延びたから、腕は本物だよ。アナベル・ガトーやシン・マツナガも目じゃない」
「それがどうして、本当なら乗らないはずのシナンジュ手に入れたんですか?」
「連邦がゴルゴ13使って、ジオンのクローン計画を粉砕したろ?その破壊されたクローンにフル・フロンタルになるはずのクローンがいたらしくてな。で、当人が生還したから、そのまま赤い人専用機に落ち着いたそうな。ナイチンゲールと交互に使用してるらしいぜ」
「ナイチンゲール、宇宙用じゃ?」
「ありゃ、モビルアーマーに近いシロモンだしなー。だからハイνを強化したんだろうな。スペックはナイチンゲール、モビルアーマー級だし」
「あれ見せました?」
「ケイの奴が見せてるはずだ。今日はケイが講義の担当だしな。νとサザビーのガチ格闘戦はMS名勝負セレクトになるくらい有名だしな」
νガンダムとサザビーの勝負は、νのデータレコーダーから再現されているので、それを見せる事になっていた。実は黒江、この姿でシンフォギア世界にいた際、立花響と本気でやりあった時に、この時のνガンダムの動きを真似していた。パンチは流星拳にしているが、大体の動きは同じである。が、響のタフさに手を焼き、彗星拳からのローリングクラッシュとなったのが本当のところだ。
「みっちゃんと話せるようになったからいいとして、みっちゃん、陸が分かるかなあ」
と、ため息交じりの芳佳。杏としての知識は陸と空が主体である。世界の都合もあるが、みっちゃんは海軍オタクであると思われるので、その辺りが不安なようだ。
「うーん……。当たるも八卦当たらぬも八卦だよなぁ、あの子。まぁ、今回は私が相手できるから、な?」
「頼みますよー。で、準備はどうなんですかね?」
「陸の準備はそこそこだが、空の集まりが悪いそうだ。日本の志願者待ちだとよ」
「この時期の連中はZEROみたいな圧倒的な破界に向き合った事ないからなー……。アタシたちがやんなきゃ誰がやるつーの…」
「年長組には私らの威光が通じたが、この時代のお前くらいだと、映画の中でしか見たことないような遠い昔みたいな感覚だしなぁ」
「黒江さん、確か一度目の時は代役でしたね?」
「ケイの映画ん時には、上の兄貴が絡んでるから出てるけど、あん時はなぁ。やり直したから、どうだろうなー」
「ああ、そういうことだったんですね。アレ」
「上の兄貴が動いてたし、断るわけにもいかなくてな。親父が逝って、お袋もそんな長くないだろうってのは分かってたし、あれが最後の親孝行だったかも知れねーな…」
「どうしてそれが?」
「お袋、元気の見本な私と違って、体が丈夫じゃ無くてな。親父が若い頃に強引に結婚したのも、それが本当の理由だって、盆の帰省ん時に聞いたんだ。前史の46年の盆だったかな…。その時に分かったんだ。親父が、お袋に夢を諦めさせた理由。親父、お袋が私を夢を叶える道具って見てた事を咎めたのが遅すぎたって謝ってなぁ。それもあったんだ。親父がガンって宣告されたのは、それから半年くらい後のことだった」
「そうだったんですか……」
「親父、今わの時に『お前の好きに生きなさい……。母さんから夢を奪ってしまった私にできる事は……。せめて末子のお前くらいは……』って言ってな。その一言で、私ゃ救われたよ。お袋に背いて、なった道だったしな…」
黒江は母との確執は今回もあるため、前史のその言葉が救いとなり、その時に軍人を続ける決心がついた事を明かす。黒江は両親の体調が少しづつ悪化しているのを悟っていたり、兄から病状を聞かされていたため、実は介護のために退役も考えていた。が、父親はそれを知っており、『軍人を貫け』と手紙で書いている。黒江はその時を知っているがため、帰省時は父に甘えている。前史では圭子の著書の映画の公開を見届けるかのように逝ったのもあり、今回は早期に軍病院に入れたい黒江。だからこそ、今回の作戦の事を話したのだろう。
「だから、今回は親父を助けたいんだ。今なら発病してたとしても初期段階。23世紀の医療なら治せる。前史みたい思いは嫌だ。だから今回の事を話したんだよ」
「黒江さん……」
「黒田が、自分の立場のせいで当主の孫娘の事を救えない事が分かって、凄く気に病んでいるからな……。だから協力してくれてると思うと、悪い気がして……」
「今回もやっぱり……?」
「直談判したらしいんだが、『分家の末席の小娘が!』って相手にされなかったそうだ……。クソ……。いくら私でも、こればっかりは……。ビターエンドなんて望んでねぇのに」
「いや、それは多分、そうなるべきなんでしょうね……」
「のび太、お前……」
「僕にもおばあちゃんがいましたから、黒田中尉の気持ちはよくわかります。おばあちゃんと死別する運命は変わらない。だけど、おばあちゃんはわかってて、ぼくを……」
のび太のおばあちゃん、即ち、のび太の父方の祖母は心優しく、のび太の人格に多大な影響を与え、自分が近いうちに病没する事の明示である『成長した孫』を見ても受け入れてくれた。その事もあるのか、似た境遇の黒江や黒田に協力するつもりなのだろう。
「そうだな…。もしもボックスとタイムテレビで調べて見たけど、黒田の家はそうしないと変われない。 もし、助けられたとしてもその代で身代を食い潰すか、次代で資産経営失敗して無理心中する未来だった。これでいいのかよ、クロノスのじっちゃんよぉ……」
「中佐…」
やって来たのび太に心中を吐露する黒江。黒田のその事が悔しいらしく、時の神であるクロノスに愚痴りたいらしい。
「それも全部持っていっちゃうのがZEROなんでしょうね……。あいつにとって、人の未来なんて、自分が最強なことを証明するための舞台でしかないんでしょう」
「そんな事させるもんか。偉大なる魔神皇帝がいる、宇宙の王者がいる。黒鉄の神も、ゲッター線の化身もいるんだ。あいつの好き勝手になんて……」
「おぉーっと!『荒神』も忘れてもらっちゃ困るよ、みんな!」
「ガイちゃん…、お前……」
「クロガネ頭をぶん殴るのは、あたしの役目でもあるからね。あのクロガネ頭が世界を滅ぼそうってんなら、このガイちゃん・ザ・グレートが止めてやる。みんなの焔があたしを強くする。だから、この作戦は成功させる。んでもって、生まれてくるクロガネ頭をぶっ飛ばす!これで万事解決っしょ!」
大笑するガイちゃん。ガイちゃんは前史で黒江に恩義があるため、今回も協力する意思を見せる。更に言えば、ゼウスから聖剣『デュランダル』を授かった身。その事もあり、ロボットガールズではもっとも黒江に協力的であった。
「話聞いてたけどさ、こんなの思いついたんだけど」
「何ぃ、どんなだ!?」
「うっ!相撲取り張りのがぶり寄り!」
「言ってみろ」
「今の当主、その子のおじいちゃんなわけじゃん?ご注進すれば?話は聞いてくれるだろうし」
「おー!それだそれ!おい、宮藤!黒田のやつ、今日の予定は?」
「えーと、確か……ド・ゴールのおっさんを脅しに行くとか?」
「電話は確か通じるはず……。黒田?私だ。喜べ!風子ちゃんを助けられるかも知れん!ガイちゃんが妙案を考えてくれた!」
「え!?ど、どういうことですか!?」
「ガイちゃん、せつめー頼む!」
「あいあい。ども〜。実はね――」
ガイちゃんが思いついたのは、現当主に注進し、嫡男を廃嫡して、黒田を後継にした上で、風子を現当主の養子に引っ張るというものだった。邦佳がド・ゴールを脅した帰りに、一同は扶桑本土に行き、吉田邸に行き、吉田茂総理大臣に頼み込んで、その随行という形で黒田邸を訪れた。
――黒田邸――
「吉田。儂に話とは?」
「うむ。この子らの頼みでな。君の倅の悪い噂は聞いたろ?」
「倅は不肖の息子だ。君のところにも響いておったか」
「いっその事、廃嫡したらどうだ?お上には邦佳くんが話を通し、彼女を次期当主に、その次に君の孫か曾孫を添えれば良い」
「大義名分はあるのか?」
「うむ。まず、風子ちゃんの肺結核だが、儂の力で特効薬を回そう。静養よりも安上がりで済む。君の倅の女房は旅行気分なんだろうが、23世紀の特効薬を服用させたほうが確実だ。もし、廃嫡に文句が出るようなら、宮内省、ひいてはお上の介入もあると脅せ」
「お上の聖断を?」
「そうだ。邦佳君は事変の際の活躍がお上の目に留まっているし、確か金鵄勲章ももらっていたはずだ。継ぐことになんら問題はない。それと。黒江中佐からご注進がある」
「侯爵、このような格好で失礼致します。小官は国内では有名過ぎるので、このような仮の姿で参りました」
「うむ」
黒江は仮の姿である調の姿で、侯爵の前に姿を見せた。黒江は『やり直し』では端役で扶桑海の閃光に、この時間軸から数年後には『来た、飛んだ、落っこちた』では主役級で出演する。この時点でかなり『レイブンズ復活』のプロパガンダがなされていたので、元の姿では満足に動けない。そこで月詠調の姿をカモフラージュに使っている。
「失礼して」
と一旦、変身を解いて一礼し、話を始めた。話の内容は『風子が助かる方法が有るけど、次代である息子ががうんと言わない。 人の話を聞きもせず、自分の子を殺す選択をするような者が次期当主とは如何なものか?』というものであった。当主は葉巻を吸って一服した後、『あの馬鹿者が!』と言ったのち、黒江に『あいわかった』と頷いた。
「わしゃ決めたぞ、吉田!……邦佳、お主を我が黒田家の次期当主とする!わしゃ決めた!!」
どこぞの大河ドラマのノリで当主はハッスルした。その日の内、吉田茂の臨席で黒田家の方針が伝えられ、邦佳を次期当主にし、醜聞がお上にまで轟いているので、息子を廃嫡すると当主が宣言した。周りからは『父上は耄碌なされた!』、『こんな分家の小娘ごときに!』と非難轟々であった。が、それもそこまでだった。
『皆様、お静かに願います。天皇陛下のおなりでございます』
「へ、陛下ぁ!?」
吉田の一言とともに、黒江と芳佳が随行しつつ、天皇陛下が姿を見せた。全ては吉田のお膳立てだった。天皇自らが一華族のお家騒動に介入する。黒田家にとってはこれ以上ない醜聞となりかねない。家中の全員が顔面蒼白である。当主が慌てて、上座を空けようとするが「そのまま」と抑え、当主の脇に座る。
「一応忍びゆえ、気にせぬよう」
「は、ははーっ!」
天皇陛下の登場により、状況は一気に逆転した。この後、邦佳に高位の金鵄勲章が授与され、箔付けを行ってみせる。そして、大尉昇進の沙汰が統合参謀本部準備室よりあるだろうと言ってのけた陛下。その合わせ技により、邦佳の当主就任に何ら障害は無くなり、その日の内に大尉へ昇進した。黒江もついでに大佐に任ぜられた。これは前史よりも早い。その為、ミーナも指揮権の都合で大佐昇進と、帳尻合わせが行われた。陛下が気を効かせて、空港のチャーター便を用意してくれたので、どこでもドアは使えず、数日程は飛行艇を、あとはプライベートジェットを乗り継いで、ロマーニャへ戻ったという。
――道中の機内――
「まさか九七式の民間転用型で帰るとは、思わなんだ」
「横浜港を出て、それから八時間でサイパンですか?」
「ああ。ウチの領土だから、そこからジェットに乗り換える。安全と機密保持で一気に飛べんから、寄るとこは多いけど」
当時、扶桑本土には未来世界のジェット旅客機が離着陸できる民間飛行場は皆無に等しく、飛行艇を経由して南洋や欧州と行き交うようになっていた。それと、1940年代当時の空の便の利用料金はベラボウに高く、実質的に富裕層専用の乗り物だった。しかも、レシプロ機前提であったので、草地も同然。21世紀に運行されているジェット旅客機はとても着陸不可能。しかも、当時の飛行場の過半数は軍用飛行場。扶桑が困ったのはそこだった。日本はなんと、自分たちが出資して、羽田の21世紀と同規模に拡充、成田飛行場の建設を始めた。自分たちのためにだ。これには反対が多かったが、強引に推し進めている。それと並行して、弾丸列車(新幹線)も建設させるなど、戦時中にあるまじき大盤振る舞いに、扶桑側から猛反対があったが、日本は『雇用の確保とインフラ整備』を大義名分に推し進めていった。(連邦による軌道修正が入ったが)扶桑は国家総動員法を日本の左派に強引に潰され、戦時体制への移行が阻害されたため、その埋め合わせを日本に迫った。日本の左派は戦時中のネガティブさをアピールすることで、戦時動員を潰した。その過程で、ウィッチの学校からの排除も進めてしまったのが連邦の逆鱗に触れた。連邦は政治的示威のため、日本向けの軍事力アピールにνガンダムやジークフリートを動員し、2015年の自衛隊観艦式に参加させた。当然ながら、実物のMSの参加にネットは祭りとなった。ガンダムが本当に実現しているのだから。21世紀でのアニメと違い、歴代ガンダムには開発資産を活かすため、派生機が複数存在する。どでかいGフォートレス、サブフライトシステムに跨ったνガンダムは21世紀に衝撃を与えた。そして。黒江たちが機内にいる間に行われたのが、マジンエンペラーGのお披露目だった。
――基地――
「おお、これが……」
「そうです。これこそが『偉大なる魔神皇帝』、マジンエンペラーGであります」
マスコミへの応対をする圭子。グレートマジンガーの後継機がマジンカイザーと同系統の機体になるのは流れ的に当然であった。Gカイザーもオリジナルのグレートマジンガーからの進化で存在するが、今回は使えないという事情は伏せ、マジンエンペラーGを『グレートマジンガーの後継』として、大々的に公表した。スーパーロボットは通常の兵器とは違い、『英雄』なので、このようなお披露目も必要であった。ペリーヌやアンジーはこのような大げさなお披露目に疑問を抱いたが、バルクホルンが諌めている。
「いいんですの、少佐。このような」
「あれは一人乗りだが 軍艦みたいな物だ、式典の一つもやらねば格好がつかん」
「ぐ、軍艦!?」
「そうだ。MSはガンダムタイプでも替えがきくが、あれは効かん。ハルトマンが用で不在で良かったな、二人共。奴に知られたら、しごかれていたぞ」
「お、脅かさないでください、少佐!」
「しかし、軍艦と同等の価値とは?」
「ヘタをすれば、もっとだな。大体、21世紀の空母艦隊と同等の戦力を、時と場所を選ばずに行使できるので最低限だからな」
「なっ!?」
「あのマジンエンペラーはその中でも最高峰の一つだ。あの破壊神を止めるために造られたんだぞ?最大出力でグレートブラスターを撃ったら、この星を貫通して、月も溶かすぞ」
「……常識はずれですね……」
「それがスーパーロボットと言うものだ。ガンバスターというスーパーロボットは、天文学的単位の宇宙怪獣を蹴散らしたそうだし、ヤマトの波動エンジンが暴走した場合、最悪、この宇宙が滅ぶそうな」
バルクホルンは、エーリカがグランウィッチに覚醒したのに引っ張られ、自身もグランウィッチに覚醒し、その末席に加わっていた。その為、グランウィッチである事を示す証が軍服につくようになり、これまで以上に温和な態度を見せるようになっていた。その眼差しはペリーヌが見たことないほどに優しく、冗談を口にするなど、人物像が自身の晩年期のそれに変わっていた。
「お前たち。今の事はエーリカには黙っててやる。お前らも、あいつのシゴキは嫌だろう?」
「少佐……」
ハルトマンがこれまでと逆にシゴキを行うようになり、バルクホルンが穏やかになった。これはお互いの晩年期の性格が反映されての事だ。ハルトマンは50年代以後はF-104Gの扱いを後輩らに仕込むため、鬼教官的な振る舞いをしていた都合、今回のやり直しの訓練では厳しくしている。これはバルクホルンと役割が逆転した事を意味する。
「貴方方はいったい、何があったんですの…?」
「グランウィッチになると、自分の一生の記憶を今の状態で宿すし、死んだ時の人物像で「固定される。あいつは50年代、マルヨンの運用や教導で苦労している。そのせいだ」
「それでは、ハインリーケ少佐も?」
「彼女も覚醒している。最も、彼女の場合はややこしいがな。……噂をすれば」
「少佐、こちらの訓練は終了したぞ」
「ご苦労」
「あ、あの、ハインリーケ少佐、その格好は?」
「連邦のある連絡将校から頂いたものじゃ。プロパガンダの必要もあって、着用しておる。元々、妾は騎士道的な事を家で仕込まれているから、剣を持ち歩くことは違和感が無くなったがの」
ハインリーケはセ○バー・リリィそのままの格好であった。最も、カールスラント貴族であるハインリーケ、元ネタのセ○バー・リリィ(アーサー王に当たる)と全く別の国出身であるが、声色が酷似していた事などから、黒江が気を利かせた結果、ハインリーケは、アテナからカリバーンを授かった。そのため、ある意味では『一番似ている』と黒江も太鼓判を押すほどのもので、2015年の夏コミに引っ張ったという。
「その剣は?」
「時空管理局に特注で用意させた、剣型のデバイスじゃ。カリバーンの媒介にしておる。黒江中…いや、大佐のように手刀をするのは性に合わぬのでな」
ちなみに、ハインリーケは大淀と声が似ている。聞き分けかたは、声が高めでおっとりなのが大淀、声が凛々しく、低めなのがハインリーケである。最近はカリバーンを得たためか、凛々しさ成分と食いしん坊成分が増えているが。
「少佐は確か、カールスラントの出でいらっしゃるはずでは?」
「それもそうなんだが、黒江大佐の人脈の都合、アテナからもらうからどうしても、な」
「エクスカリバーの大安売りじゃありませんの、全く。芸がありませんわね」
「デュランダルは別の奴が宿しておるし、心象的に、エクスカリバーはたどり着きやすいのじゃ。それでいて、勝利を約束されておるからの」
「ぐぬぬ……」
「良いではないか。連邦最強の可変戦闘機がデュランダルなのだぞ」
「微妙ですわ……それは」
「まぁ、そなたには直接は関係のない事じゃからの。妾としては、ジークフリートの剣『バルムンク』が良かったのじゃが、あいにくそれはオーディーンの管轄と言われた」
「ニーベルングの指環の剣でしたものね」
「正確にはニーベルンゲンの歌の剣じゃ。どの道、アテナの管轄ではないな」
「エクスカリバーになりそうじゃが、それはそれで良い。それに、ケルトやシュメール、ヒンドゥーや神道なら友好的交流が有るから煩いこと言われないそうだ」
「なんですの、それ!?」
「黒江大佐の奥の手はシュメールの王の宝物が一つの無銘剣ぞ?」
「!?!?」
「少佐、ペリーヌ中尉、気絶しましたよ」
「いかん、ショックが強すぎたかの?つーか、中尉はこのような事に弱いの。アンジェラ大尉、中尉を医務室に運んでおくように」
「ハッ」
「やれやれ…先が思いやられるのぉ。さて、食事じゃ」
501は大所帯となったが、食事は真美、下原、芳佳、リーネが引き受けていた。この4人が大抵の料理がこなせるウィッチであったので、食事は4人で作っていた。その内の芳佳が不在であっても、真美と下原がどうにかする。下原は主に真美のバックアップだ。
――基地の厨房――
「定子、そっちの鍋見てくれる?」
「はい!真美先輩」
下原は真美より志願年度が遅いので、年と階級は上ながら、メンコ(年功章)の数により、下原は真美に敬語を使っていた。真美は下原が志願する年には、アフリカで既に戦っていたため、下原に対しては目上として接していた。そのため、厨房では、腕と経験の差により、真美を頂点に、次席を芳佳とするヒエラルキーが完成されていた。
「先輩、こんな感じでどうですか?」
「う〜ん。もうちょっと工夫しよう。確かこのへんに鶏ガラが……」
二人はラーメンを作っていた。ラーメンは未来世界で食べた事があるため、味は覚えているのだが、自分たちで作るとなると、馴染みがないため、熟練の料理人である二人も苦戦していた。中華文明が明時代に滅亡してしまった世界の悲哀とも言うべき現象だ。ラーメンは大衆料理であり、料理の素人である黒江でも作れるため、それに対する対抗心からだろうが……。どういうモノができたのか。後に写メールをもらった黒江曰く、『努力は認めるけどよ……。なんか違くね?』とのこと。
――着実に近づく『その時』。ハインリーケや黒江、ガイちゃんの『聖剣』、偉大なる魔神達。輝くゼウスの名の下に、ZEROを原子に打ち砕かんとする兜甲児、魔神の名の下に、ZEROを切り裂かんとする剣鉄也。剣は集う。ZEROという魔物を打ち砕かんがため。
「『約束された勝利の剣』。エクスカリバーの加護はいったいなんなの?教えて……美緒」
「分からん……だが、アレにもまだ上がある。エクスカリバーがもし破られた場合の切り札。それが黒江の左の聖剣なのだろう」
「左の…?」
「ああ。扶桑海で一度使うのを見たが、次元すら切り裂いた。シュメール神話の無銘剣だそうだが…」
「なっ!?」
「あいつがそれを使う事は、あいつの全力を意味する。赤松大先輩はそれを生き延びたとかなんとか」
「貴方達は何なの!?」
「こっちが聞きたい!あいつはとにかく、神の域だよ。まぁ、今となっては私もだが」
「あなた……」
「転生者というのは、神の域に達した存在のみに許された所業だ。因果なモノだが……と言っても、十字教とかあの辺の全知全能の創造主とは違うからな?」
転生者。それは神に愛され、尚且つ神域に達した者達がたどり着く姿。超常的な力を行使はできるが、全知全能ではない。それを念押しする坂本。それは海軍大佐であった前史の自分自身としての言葉だった。
「美緒……。」
「お前には見せておくよ。前史で最終的になった私自身の姿を」
坂本は服装を退役間近の頃の軍服姿に変えた。この頃に比べると、意匠が海上自衛隊に近づいており、飾緒の有無以外は自衛隊に近い。軍服のデザインを日本にだいぶ近づけたのが分かる。
「それは……!?」
「今から数十年後に採用されたデザインだよ。私らが50近い頃の最新デザインになるなぁ」
「そんな先まで軍に?」
「他につぶしも効かんしな。私は小学校から軍へ直行した世代だしな。もっとも、途中でで高等教育受け直したよ、一般兵科士官の資格取るために」
「そう……。あなたはこのまま引退するのね。美緒、私達は何をすべきなの?」
「今の現役世代や次の世代を正しく導く事だ。それが1930年代末の志願の私らにできる事だ。若きレイブンズの勇姿を見た最後の世代としてな」
「あなたはあの人たちに?」
「ああ。あの時は憧れの先輩だったからな。手の届かない。クロウズと言ってのぼせた時期もあるが、あいつらには及ばんだ。それが娘との確執になってしまったんだがな」
「……」
「今回はそうならないようにするさ。なーに、娘を産むのも、ここから随分先のことだしな」
「美緒……」
「その前に、あの破壊神をどうにかせんとな」
「ええ……美緒……今はあなたに…」
「ああ。誰も見ていない」
と、いささか百合な場面を繰り広げたという。そんな事もつゆ知らぬ黒江達は。
「大佐、もうすぐサイパンですよ」
「お、おお。そっか。サンキュー……」
元の姿で寝ている黒江をのび太が起こす。のび太のほうが早かったらしい。貸し切りなので、変身してもいいのだが、搭乗手続きなどの都合、元の姿である。
「あと、どんくらいだ?」
「えーと、あと30分だそうです」
「おし、トイレ行っとく」
「それじゃ僕も男子用に」
「いや、大艇は一つだ。お前、先行け。お前、割と漏らす確率あるし」
「お、お言葉に甘えて……」
黒江達はこの後、サイパンでジェット機に乗り換え、そこから南洋島で更に乗り換える。南洋島で一泊するため、黒江は南洋島と縁が深いのが分かる。数年後に常駐するであろう任地からは遠いが、港湾都市の一流ホテルに泊まれたので、そこは嬉しかった。一同で夜の暇潰しに、のび太がスペアポケットから壁掛けテレビ(液晶テレビの最終形態で、持ち運び型と言えるもの)を取り出し、DVDの再生装置を付けて、一同でマカロニ・ウエスタンを見たとか。
――その次の早朝。変身した姿で寝ていたらしく、変身する事で気が楽になっている事を自覚する。そして。自分が玉突きする以前の調の記憶も明瞭となってきている事も。
(お前の記憶は受け取った……。お前が本来担うはずの役目を奪っちまったからには、お前を聖闘士として育てなきゃな…)
調の役目を担った身として、その当人を聖闘士に育てることで『罪滅ぼし』をするつもりだった。老師・童虎に迎えを頼んだのもそのためだ。自らが老師・童虎の門戸を叩いたのもその一環である。その童虎は黒江から状況を聞いていたため、シンフォギア世界に来訪すると、そのまま奏者に味方して参戦した。
「あ、あなたは……天秤座の黄金聖闘士『天秤座の童虎』!」
「如何にも。綾香から話を聞いてはおったが、お主らの敵というのは、随分と珍妙なものじゃのぉ。だが、我らが戦ってきた者達に比べれば、児戯のようなものじゃ。よく見ておくのじゃ。これこそが小宇宙の真価ぞ」
『廬山!!百龍覇――ッ!!』
如何な防御をも貫く百龍が出現し、敵を貫く。調は黒江からのフィードバックで覚醒していたために百龍が視認出来たが、立花響などは状況を理解できない。が、力を感じ取った。それも強大な。童虎を自分の師の一人になり、二回の聖戦を戦った黄金聖闘士と理解しているため、調は童虎に畏まっていたが、雪音クリスなどは童虎の見かけが若いため、『その兄ちゃんは誰だ?あいつの仲間か?』という口ぶりだったが、すぐに顔面蒼白となった。調が『この人は260年くらい生きてる聖闘士で、天秤座の黄金聖闘士です。綾香さんより上の立場の老師ですよ…』と言ったからだ。
「260年んん!?」
「師弟でもなし、それにこの姿じゃ。気にせんで良い。最も、神々の都合で何回か生き返っておるからのー。ハッハッハ」
「!?」
「ハーデスとの戦い、ロキとの戦いと、儂は二度死んどる。神殺しの属性を持つ我ら黄金聖闘士は神々からも重要な戦力と見られておるということじゃ」
「神殺し……」
「老師と言われておるが、神々からすれば使い走りの小僧みたいなもんじゃ。儂の名は童虎。この調が綾香との共鳴で、儂らの事を知っておる。話をしてくれぬか?」
「ハッ」
奏者達が出揃ったところで、黒江を含めての聖域のことを話す。フィードバックで玉突きまでの記憶が共有されたためだった。童虎は頼まれごとを果たすために来訪したのだが、またもシンフォギア世界に動乱が起こり、なし崩し的に巻き込まれてゆくのだった。が、最強の聖闘士の一人である童虎が助勢した結果、数度の交戦の後、敵ボスを初見撃破という廬山百龍覇サマサマな結果となり、童虎は無事に黒江の頼みを果たすのだった。事後、調は切歌とともに聖闘士を志願し、聖闘士世界へ渡る事になるが、どういうわけか、奏者達全員が行くことになってしまい、童虎は黒江に『困った事になってのぉ』と連絡した。ZEROとの決戦を控えた黒江も困惑し、決戦の後詰め戦力にするか、童虎と協議を重ねる事になったのは言うまでもない。
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