外伝その114『ダイ・アナザー・デイ7』
――決戦は近づく。芳佳はレイブンズの動きを警戒し、ヘイトの気配すら伺える現役世代を懐柔するべく、立ち回った。角谷杏としての記憶から、以前と違い、飄々とした立ち振る舞いを見せる。ミーナから『巨神の戦いは巨神の都合だから我々は基本ノータッチか所在確認のみでいきます』との通運を引き出し、リーネに『リーネちゃん、スーパーロボットって人の希望の象徴なんだ。 ウィッチと同じなんだよ!』と言って見せ、リーネを味方に引き入れるなどの振る舞いを見せた。また、グランウィッチにも、西沢という強力な援軍がやって来た。グランウィッチに覚醒した際に、使い魔の影響が人格を変えたらしく、一般に知られる自由奔放さは鳴りを潜め、どちらかと言うと、坂本/北郷に近い性格となっていた。
「おー!来たか、西沢!」
「ウッス。覚醒したんで、来ましたよ、黒江の姉御」
「お前が早くに来るとは思わんかった。親父さんの差し金か?」
「ええ。親父さんに掛け合って、そのまま」
元は軽い性格だった西沢だが、同位体であった日本海軍の西澤中尉と、彼女自身の使い魔の影響がグランウィッチへの覚醒で多分に作用したが、荒武者的な雰囲気に変貌していた。また、以前は『人に教えるのとか、命令するの苦手なんだよね―』と軽い調子で言っていたが、覚醒後は一転して、『馬鹿者!貴様等、無闇に飛び出して死にたいのか!』と、180度異なる言動で教官をするなど、周囲を唖然とさせている。以前と違い、普段から帯刀するようになっていて、特務中尉として名を馳せている。これは同位体の西澤広義中尉の影響によるものだ。同期らからは正気を疑われ、『悪いもんでも食ったか?』、『気でも狂ったか』と散々であるが、当人は「いやぁ、ちょっとは成長しないと、なぁ。いい加減に。あたしもそろそろ19歳だしよ」と、誤魔化し入った受け答えで煙に巻いている。また、『苦手とは言ったが、出来ないとは言ってない!』とも公言するようになり、変化が顕著であった。西澤と関係がある菅野にも変化が出ており、口癖が『バカヤロウ、コノヤロウ!』に変わっており、性格が悪くなっていて、ハリセンを持ち歩くようになっていて、同位体の影響が出ていた。芳佳の場合は角谷杏としての飄々とした立ち振る舞いの他、同位体の武藤金義少尉のような勇猛さが表れ始め、『いずれ生まれ来る娘達のためにも、凱旋してみせますよ』とも言っている。そのため、グランウィッチ達の態度は大まかに、ドイツ空軍の騎士道精神を持つ者と、大日本帝国陸海軍の荒くれ者、アメリカ空軍のハンバーガー好きに大別できる。
「お前、何のストライカーを持ってきた?」
「烈風一一型ッス。採用が中止されて宙に浮いてた試製烈風の一機を史実の制式採用型に改造したオーダーメード機っす」
「烈風、採用が中止になった時、何機があった?」
「空母用にかなりのストライカーが造られてて、中止通達が出たときにゃ、瑞鶴や雲龍とかのウィッチ隊が受領するはずで」
「お、義子。来たのか。烈風貸せ。試運転してやる」
「壊すなよー。採用中止になったんで、宮菱も保守部品あまり持ってねぇし」
「お前や菅野じゃあるまいし。前史じゃ履けなかったから、今回は履こうと思ってたんだ」
と、坂本は西沢が持ち込んだ烈風をテストしてみた。零式を現世代級にパワーアップした性能を有するが、機体が大きくなっている事によるロール性能の悪化による鈍さ(改良はされているので、零式二一型よりは圧倒的に早いが、紫電改よりは落ちる)、マ43に換装した事によるエンジンの大パワーに機体進歩が追いついていない印象を受ける。
『ん、思ったより鈍い。これは零式に慣れた玄人向けだ。紫電改の方がジャク(新米)向きだな』
『ダイブの加速も鈍いから、紫電改に慣れちまうとやりにくいかもな。パワーアップした零式でしかないからな、こいつは』
烈風はストライカーとしての採用が黒江らの提言、日本や連邦からの資料提出で中止され、戦闘機のみが生き延び、戦闘爆撃機としての道を辿った。零式と九九式の代替として、既に大規模生産ラインが用意されていた戦闘機のほうは投資費用回収が問題になったので、コンコルド錯誤で戦闘爆撃機に転用されたが、立ち上げ途中のストライカーは、東南海大地震を理由に中止された。だが、既に三桁の数が完成し、納入を待つばかりであったため、それらは誉からマ43に換装され、零式に慣れているエース・パイロット専用機として送り出された。が、既に紫電改との当初の性能差は埋まっており、今となっては零式を使い続けたいエース・パイロットや古参を満足させるための道具でしかない。既にジェットストライカーが未来から持ち込まれているので、使う意義もない。烈風はこの後、幾度かのテストがなされた後、予備機扱いで格納庫に置かれる。すぐに、二代目レイブンズの持ち込んだ『Su-35』に機種変更したからだ。2006年から持ち込まれた第4世代ジェットストライカーは『Su-35』、『F-15J』で、レイブンズの権限で入手可能な最高性能機を持ち込んだのだが、ペリーヌや赤ズボン隊、アドリアーナなどからは不満が生じた。欧州機が一切無いからだが、『ミラージュ2000』や『ラファール』、『ユーロファイター』は入手困難であるため、そこは妥協してもらわないといけない。武装も相応のモノで、ミサイルとガトリングガンだったり、21世紀の技術で改良された『航空機関砲』である。これは革命騒ぎ以後、オラーシャは扶桑の保護国化しており、サーニャがオラーシャ軍除隊後、に扶桑へ移住し、太平洋戦争後半を『扶桑皇国軍人』として戦ったなどの問題もあって、ロシア系機材は入手し易い。これはサーニャの今後のキャリアは扶桑皇国軍人としてのそれになる事を意味するため、サーシャは特に困惑した。革命騒ぎはとても大きい問題だが、移住を決意するほどのものだったのか、と。
「サーニャさんの戦う拠り所だったご両親が、革命騒ぎでの迫害を逃れるため、扶桑へ亡命しておられたのです。加えて、騒ぎの際に、サーニャさんの同期のウィッチ達が暴徒化した民衆に虐殺されていた事も判明しております。それが結果として、サーニャさんの移住に繋がるのです」
「翼ちゃんのいう通り、サーニャちゃんに移住を斡旋したのは私です。サーニャちゃんの親友達がカティンの森で虐殺されたのが分かったんです」
「カティンの森事件……。やはり起きたか」
「あれは未来の記録だと、ポーランド関連の虐殺だったはずだが、ここでは同胞同士での虐殺か……」
坂本と西沢が唸る。その事件の概要は知っているからだ。この歴史においては、革命騒ぎの一環で起きた虐殺事件として記録された。この時に暴徒化した民衆に虐殺されたウィッチの大半は当時に15歳前後だった者、つまりサーニャの同期らであり、この日の1日前、親の命令で虐殺に駆り出されたが、良心の呵責に耐えられなくなった一人の青年が告発した事で判明した。扶桑軍、連邦軍、自衛隊、米軍が合同で大々的に調査した結果、当時の15歳ほどのウィッチ達が何百人も、それを庇った将校や兵士らに至っては数万人規模で惨たらしく虐殺された事が判明した。即日で行われたドラえもんズの作戦で、ウィッチの八割は救えたが、それでも数万人規模なのは変わらず、遺体の損傷や打撲痕などから、ゲバ棒を突き刺したり、火炎瓶で焼いたところにゲバ棒で殴打し、女は犯してから殺すなどの惨たらしい殺し方が行われた事も判明した。サーニャの親友『エカテリーナ・ブダノワ』(士官学校時代の親友で、カーチャと呼んでいた)がそのやり方で殺された事を知ったサーニャは激昂し、『ペテルブルクを爆撃してやる!』と叫んだという。この事件で士官学校時代の一番の親友を失った事が、サーニャの祖国への忠誠心を消し去り、エイラが困惑するほど荒れる要因になっており、芳佳の誘いに二つ返事で乗るほどだった。
「サーニャ、まさかお前……本当に扶桑に?」
「親友のカーチャ達を殺して、それを喜んで見てるような連中、それを有耶無耶にして忘れようとしてる街、国……お父様達から居場所を奪った国に未練は無いもの。だから、この格好なのよ、エイラ」
扶桑の軍服(陸軍のもの)を誂え、それを着込んだ姿を見せるサーニャ。虐殺事件と両親の亡命がサーニャの怒りに火をつけたのがよく分かる。見慣れた服装ではなく、この時点での扶桑陸軍の軍服である辺り、サーニャは芳佳の誘いに乗り、源田実にも移住を確約していた証と言える。
「くっそ、私も元帥に頼んで、扶桑の駐在武官にしてもらおう!」
と、息巻くエイラ。呆れる姉のアウロラ。サーニャはこの一連のロマーニャの作戦が終わった後、サーシャの慰留も断り、扶桑へ移住。新憲法施行後の1947年に予定通り、『空軍軍楽隊』初代隊長に少佐として就任。3年後に魔弾隊に出向し、前線復帰を果たすのだった。
――マジンガーZEROの顕現はそれから約数週間後であり、扶桑主力艦隊が到着した数日後だった。扶桑の参謀本部、コードネーム『サンダーボール』から、コード『オーダー、ウォッカ・マティーニ』が発令された。これはイアン・フレミングの著作から取られたコードで、マジンガーZEROの出現予測地点が『カジノ・ロワイヤル』、作戦名も『ダイ・アナザー・デイ』であるなど、彼の著作の人気が伺える作戦になっている。作戦はZEROの顕現と同時に、時空管理局が封時結界を何重に渡って強力に張り、その中でスーパーロボット軍団とグランウィッチ、フェイト、急遽、呼び出されて参加したなのはが戦うというモノで、結界を張っている間に、結界の周りを鏡面世界に入れ替える大がかりなものである。ドラえもんとのび太、呼び出されたドラえもんズはその作戦の裏方に徹し、ミーナ達現役陣はそれと並行して起こった『バダン=ティターンズ連合艦隊の迎撃の直掩』に駆り出された。敵旗艦はもちろん、バダン最強のヒンデンブルク号。その護衛がモンタナ級とアイオワ級などである豪華な編成で、こちらも激戦が予想された。隊の主力の約半数がグランウィッチに覚醒したため、芳佳、菅野、西沢、レイブンズ、シャーリー、ハルトマン、バルクホルン、邦佳、ハインリーケはグランウィッチとしてダイ・アナザー・デイ作戦に参加。それ以外のメンバーがB作戦である『スペクター作戦』に参加している。ルッキーニはB作戦にグランウィッチ代表で参加し、二代目レイブンズ、自らの孫娘『トリエラ』らを率いて参加した。ガイちゃんらはそれぞれが割り振られ、ガイちゃん、ゲッちゃん、ジークさんがA作戦に、ガッキー、バラたんなどはB作戦に参加した――
――作戦発動前、リーネはグランウィッチでない自らを呪った。坂本は愚か、ルッキーニさえ、自分の孫も呼び出して参加させたというのに、自分にはそれができない。芳佳と共に戦えない。その事から、作戦前日には坂本に詰め寄るほどに狼狽した。
「なんで私には、記憶が蘇らないんですか!?私が、私が一番芳佳ちゃんを想ってるのに!」
直球である。坂本も困惑した顔を見せる。坂本は知っていた。リーネは自衛隊の設立に携わり、実際に幹部になったが、政治的闘争を忌み嫌う性分からか、戦中はペリーヌの従卒的なポジションに留まっていて、芳佳が最も辛い時期である最中にも、その地位であり続けた事を。戦いの中に意義を見いだせず、戦後から自衛隊の設立に携わるまで、普通の主婦としての生活を送っていた。レイブンズとの接点も薄かった事から、グランウィッチになれる要素がない。だが、坂本はリーネの心を救う一言を言う。精一杯の言葉で。
『リーネ、そのままのお前が居るから、宮藤は戦えるんだ、大切な『護りたい友達』として。 だからそのまま、お前が思うように宮藤の助けになってやれ、何かと頼りにしてるからな、アイツはお前を。確かにお前は将来、男の子を生み、その子は長じた後、フォークランド紛争に従軍する。が、そんなことは遥か未来の出来事だ。今のお前自身には直接の関係はないだろう?。お前はリネット・ビショップとして、できる事をしてやれ』
『少佐……』
坂本はリーネをこの一言で救い、B作戦の中核となる旗艦の『戦艦富士』で作戦指揮を取る。空母の指揮管制官としての経験を活かすべく、坂本はこの役割を選んだ。
『皆聞け。泣いても笑っても、この一戦に全てがかかっている。悪魔どもが次元世界を蹂躙する悪夢を招来させるのか、我々が神をも超え、悪魔を倒すのか。全次元世界の興亡を賭けて、この一戦に期待する!』
坂本が演説をかまし、富士にZ旗が掲げられる。それを合図に、全艦と全部隊が戦闘態勢に入る。参加した主力艦隊の内、扶桑艦隊は以下の編成である。第一戦隊の三笠型戦艦『三笠』、『富士』。第二戦隊が播磨型戦艦『播磨』、『越後』、第三戦隊は改大和型戦艦『大和』、『信濃』である。これは当時に扶桑が前線に出せる最大規模の戦艦部隊であり、最低でも大和型以上の戦艦で統一されているのがその海軍力の象徴だった。これはブリタニアの動員可能な戦艦が、最高でライオン級に留まる(セント・ジョージ級、アイアン・デューク級などの超大和型戦艦は、当然ながら建艦中である)故の事情だ。連邦軍がラ號とGヤマトを動員したので、正確に言うと、三笠型はその控え扱いであり、大和の系譜が主力艦隊を独占していた。そのことに不満を漏らす者がいた。自由ガリア海軍だ。今回は自由ガリア海軍も事情の変化で参加できたが、足元を見られるような陣容であった。アルザス級戦艦は起工され、船体が完成していた二隻がティターンズに接収され、敵艦として完成したし、起工していたが、工事中で開戦した残り二隻は未だ工事中だ。リシュリュー級戦艦はネームシップと、解放後に完成した『ガスコーニュ』が参加していたが、主砲配置がまるで違うため、准姉妹艦の二隻は連携に支障が出ていた。リシュリューは前方集中配置だが、ガスコーニュはオーソドックスな配置になっている。これは元来、リシュリュー級とその改良型として両艦が造られていたため、そもそもの艦級が違うのを一括りにされたための編成で、ド・ゴールが無理に参加させたため、戦隊規模でしか参加できなかったためだ。彼はカールスラントが参加しない(相手がドイツ艦を含むため)事を政治的チャンスと捉え、海軍に『どうにかして軍艦を参加させろ』と無茶をいったからである。ド・ゴールはどうにかして自国の権威を見せつけたいのだが、リシュリューは欧州では最強ランクに近い性能を誇っているが、太平洋を制覇できる女王達の前では『中流階級の女性が無理して着飾っているような』と例えられるほどに性能差がある。
「坂本少佐、ガリア海軍の戦隊はどうするね?正直言って、足手まといなのだが」
「小沢中将、ここは奴らに装甲巡洋艦の役をやらせましょう。前大和型では、超大和型戦艦が跳梁跋扈する戦場には場違いですから」
「あいわかった。全艦、距離23000で砲撃!目標は敵の先導艦だ。闇雲に旗艦を撃っても堪えん。先導艦から蹴散らす!」
艦隊戦は実際の所、互いに25キロから20キロの距離で撃ち合うのが常である。これは大抵の戦艦の装甲の想定安全距離の都合で、ヒンデンブルク号は先頭におらず、普通なら3番艦の位置にいた。小沢は早期に砲力を減ずるのを恐れ、ヒンデンブルク号の前方に位置するH39型から狙い撃つ事を下令し、その一番艦が三笠型の餌食となった。
『長官、距離、23000!』
『撃てぇ!』
三笠型から大和型までの超大口径砲が火を噴く。三笠型の砲が直撃すれば、一撃で大抵の戦艦のキールが歪むが、それは散布界の共鳴で外れ、大和型の砲弾が数発命中する。H39は命中した箇所の砲塔がへしゃげ、周りの甲板が炎上する。次いで、敵弾が放たれる。
「大和、被弾!CIWSがいくつか吹き飛んだ模様」
「フン。その程度か。次弾装填後は発砲タイミングをずらせ。共鳴して、影響しあったようだ。砲術長」
「了解です、提督」
H39型はビスマルクの少改良型に過ぎず、大和型と戦えば、ものの数発で戦闘能力を大きく減ずる。扶桑は砲術のノウハウをこの瞬間にも吸収してゆく。バダン=ティターンズ連合艦隊は変針し、ロマーニャの沿岸へ向かおうとするが、扶桑を中心とした多国籍艦隊は、それを阻止せんと、回り込む。ここで友軍のリシュリューが幾度かの発砲後に第一砲塔が発砲不能に陥る。砲の駐退制御機構がイカれたのだ。
「提督、リシュリューより打電。ワレ、ホウトウコショウセリトの事です!」
「ガリアの整備士は仕事サボっておるのか?このような時に被弾でもなしに壊れるとは」
「中将、フランスのあれは壊れやすいですから。ブリタニアよりはマシですが」
「なぜこういう時に壊れるのだ?坂本少佐」
「砲がかなり無茶な設計だと聞き及んでおります」
「残り二門は撃てるのか?」
「だそうですが、整備不足でしょうか」
坂本は呆れ気味だ。ガリア最強と言われている『1935年型 正38cm(45口径)砲』はスペック上は舷側装甲393mmを貫通せしめるが、その性能の実現のため、かなり砲塔の構造に負担がかかっており、これが真横に向いていたら、砲塔の間でバウンドして並んだ内側の砲室が故障して四門射撃不能であるところだ。リシュリューは主力艦隊の横合いから牽制しているが、サウスダコタ級からの砲弾で僚艦のガスコーニュが被弾し、衝撃で艦が震える様子が見えた。そして、リシュリューに最大の災厄が襲いかかる。ヒンデンブルクの砲が遂に火を吹いたのだ。その内の一発が命中したのだ。船体に大穴が開くが、幸いにも甲板であったため、兵員室が吹き飛んだ程度で済んだ。だが、榴弾であったのが災いし、火災が発生する。48cm榴弾の威力である。前史でのウォースパイトの役割を演じていると言えるこの災厄だが、ウォースパイト同様、一矢は報いる。五回目の斉射がヒンデンブルクの副砲の一つを見事に吹き飛ばす。副砲は主砲塔ほどの防御力はないので、戦艦主砲弾ならば容易に吹き飛ぶ。これは万国共通事項だ。小沢は水雷屋として、ヒンデンブルク号の被弾をチャンスと見たか。別働隊である艦娘達に突撃を下令した。指揮は神通、他は史実で二水戦に属していた経験がある艦娘達である。神通は今回、華の二水戦としての本領を発揮できる場を得たことでノリノリなのか、姉の川内のようなセリフを言うなど、ハイテンションだった。しかも、姿は俗にいう改二姿だが、艤装は前史で開放された護衛艦娘としての姿であり、火力は桁違いに上がっていた。あぶくま型護衛艦の艤装を装備しているため、艦対艦ミサイル(ハープーンミサイル)をぶっ放つ神通。しかも4連装を一気に。大盤振る舞いだ。これに敵連合艦隊も唖然とし、迎撃態勢が一瞬遅れる。
「戦果は……プリンツ・オイゲン級一、炎上、駆逐艦2を撃沈。不意打ちとは言え、上手く行ったわね。このまま敵艦隊を撹乱します!私に続いて!」
艦娘の登場に驚いたのは敵ばかりではない。アドリアーナやイザベル、赤ズボン隊と言った者達が思わず、目をこするほど瞠目して唸った。
「なんだあれは!?人がスキーのように海上を走っている…!?それも艦艇のような武装を……」
「しかもあれ、よくみると、扶桑艦みたいな武装使ってるわよ!?」
「にしし〜。ジンツウも来てたのか〜」
「知っているのか?ルッキーニ少尉」
「あれが数年前に噂になった『マリンウィッチ』の正体さ」
「噂には聞いたことがある……リバウ撤退戦の折に活躍した海上のウィッチがいたって。でも、まさかそれが金剛さんたちの同族の事とは……」
「極秘だったからね。コンゴウもオオヨドも、ナガトも船の化身。神様だから、人の姿になった戦艦みたいなものだもん。それに八割が扶桑の艦だったから、色々と問題があったし」
ここで、ルッキーニは皆に『マリンウィッチ』の噂は本当であるが、それは実際には艦娘であると説明した。言葉づかいの様子が変わり、多少年齢が上がったようだが、これは孫娘のトリエラが同じ戦場にいるため、精神的に10代後半を迎えた頃の状態になっているからだろう。ここで、もう一人の艦娘と出くわす。
「川内、たっだいま参上!」
「あー、センダイ!アンタ、何してるのさ!」
「あたしは忍者だよ?ちょっと上のほうから調べ物頼まれててね。それが終わったから、そのまま来たわけ。あらよっとぉ!」
クナイを怪異に突き指し、そのまま海へ着地してポーズを決める川内。本来、彼女は第三水雷戦隊旗艦だが、今回は単独行動らしい。
「あれで第三水雷戦隊の旗艦なんだよなぁ、アイツ」
「あれで旗艦なのか?うーむ……」
アドリアーナは驚く。川内がとても旗艦のように見えないからだが、若い赤ズボン隊などからは受けが良いらしく、羨望の的だ。川内も神通も、艦としての凄まじい戦闘経験に『人としての姿』を得た事による戦術的柔軟性が加わった事で、敵艦に乗り込んでの拿捕も行えるようになったため、敵艦に乗り込んで大暴れの川内。殆どアクション映画でも見ているような感覚だが、川内は格闘戦でも本当に強く、忍者の名は伊達ではないところを見せる。暗殺もお手の物のようで、背後から斬り捨てる、頸動脈を切るなど、忍者の本領発揮である。
「ありゃプリンツ・オイゲンを一隻、単騎で拿捕しちゃうかもね」
「強すぎないか?」
「一応は旗艦だった戦歴持ってんだよ?このくらいはね」
ルッキーニ達の目の前で、プリンツ・オイゲンと同型艦を一隻、本当に拿捕せんとする川内。次々と乗員が吹き飛んで海に落ちていく様はシュールな光景である。まさに艦娘の面目躍如だった。
――こちらは今回のメインとなるZERO迎撃作戦。次元の影を破り、現れたZERO。ゼウスに切られたキズが残ってはいるが、他は真っさらな状態であり、再生をフル稼働させたのが分かる――
――コンドコソ、タオシテクレルゾ!マガイモノドモ――
「出たな、クロガネ頭!お前をぶっ飛ばして、ゲドゲドのギタギタにしてやるっ!」
「マジンガーZERO、お前の予測を超えてみせる!」
「ZERO、お前はこの世にあっちゃなんね―魔神だ!お前を生み出した責任は俺にある!このゴッドマジンガーと兜甲児が引導を渡してやるぜ!お前を最悪の魔神たらしめた根源を、今回こそ断ってやるぜ!」
「神を超え、悪魔を倒す!それが俺達スーパーロボット軍団に託された思いだぜ!ZERO!テメーを超えてやるぜ!」
「行くぜ、みんな!!」
『やぁぁってやるぜ!!』
ガイちゃん、鉄也、甲児、忍が代表して啖呵を切る。ゴッドブレード、エンペラーブレード、ミラクルドリルランス、断空剣をかざし、ZEROに啖呵を切る。それ以外のスーパーロボットたちも迎撃態勢を取っている。ゴッドマジンガーを筆頭に、ウィッチ世界をZEROの災厄から救うべく、その力を結集する。同時に、封時結界が管理局の魔導師らの手で展開され、ダイ・アナザー・デイ作戦は開始の狼煙が挙げられる。
――オーダー・ウォッカマティーニ――。そのコードが参謀本部から再度放たれ、一斉に行動が始まった。ダイ・アナザー・デイ作戦。スペクター作戦。二つの作戦が始まった――
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m