外伝その116『最強の大海獣の宴(U)』


――B作戦はイアン・フレミングのアイデアで、スペクター作戦となったが、そもそもの仮称の『あ号作戦』では、余りにも安直すぎると言うことで、二つの作戦を総括するのをあ号作戦、その下位の内、ティターンズ迎撃作戦を『スペクター作戦』と呼称するようになった。艦隊は総旗艦がGヤマトとなり、二番艦がラ號となり、前線指揮は扶桑艦隊の富士が代行している。これは三笠型は、宇宙戦艦と同等のCDC(戦闘指揮センター)を持っているため、航空部隊指揮艦に、戦艦部隊の次席指揮権も持つ形になっている。ウィッチ達は基本、空母『葛城』がその補給母艦となっており、雲龍型が第一線の艦隊空母として使われた最初で最後の作戦となった――


作戦に参加したウィッチ達は、より上位の存在であるグランウィッチらがほぼいない戦場というハンデはあったが、よく奮戦していた。ジェットストライカーがグランウィッチに優先して手渡されたため、多くは洋上での航続距離を名目に、現役世代は従来のレシプロストライカーを用いていた。雲龍型の中には、元は鈴谷だった重巡を損傷修理の際に、天城の代替措置で雲龍型に改造した『鈴谷』がいた。艤装品の一部は、転覆して放置されていた天城から回収したものが転用されており、鈴谷を伊吹型でなく雲龍型として大改造したのは、小型護衛空母そのものの陳腐化が原因である。艦名は功績が鑑みられ、改名せず、鈴谷のままとされた。同型艦の伊吹、鞍馬ともに雲龍型の欠員補充にされたというわけだ。それらは旧式の零式五二型と九七式艦攻を積んでおり、ウィッチ母艦の葛城の護衛空母という体裁だった。

「雲龍型は第一線機の運用に適さないから、旧式機で良いだろうってか?登場して二年も経ってないはずなんだぞ、この五二型も」

「仕方がない。烈風や紫電改、ついにはジェット機すら急激に配備されているんだ。零式の性能改善型のこいつは時代遅れなんだろう」

搭乗員が愚痴るのも無理はないが、零式も二二型から五二型へ切り替えが始まったところに、技術革新が一気に起こり、瞬く間にジェット機の艦載が第一線空母の証という風潮となっている。相手はF8FやF7Fなどの高性能機を送り出す。紫電改ですら苦戦する相手なため、零式では万に一つの可能性もない。後期型は719km/hを叩き出すため、制空戦闘では零式の出る幕ではない。 紫電改ですらF8Fには苦戦するため、F8Fの対処はF-8ジェット戦闘機が引受け、紫電改/烈風はF4UとF6Fの相手と、世代ごとに相手が割り振られており、基本的に零式/九九式(九六式)は偵察の護衛、ウィッチの後衛、あるいはF4Fの相手と、裏方である。九九式は数合わせと、機種転換が間に合わなかった者達の乗機で、機数は20機もあればいいほうだ。零式も五二型が30機、二二型が20機参加しており、それらは高性能機と相対しない場に使用されている。第一線任務は紫電改と烈風、それと、作戦前までは『特殊戦闘機』と分類されていたジェット戦闘機が引き受けており、扶桑軍はジェット戦闘機を『特殊』という分類にしていたが、日本に『特攻機だ!』とイチャモンをつけられ、海軍の担当者の首が飛びかける事態となり、特殊戦闘機の分類が廃止され、正式にレシプロ機を代替する次期戦闘機に位置づけざるを得なくなった。扶桑軍がジェット戦闘機の可能性を知ったのは連邦軍との接触後のことであり、それまでの甲戦/乙戦/両戦と別種の戦闘機/爆撃機である事から、特殊機と呼称していただけだが、日本の野党から『特攻機を量産してツッコませるのか!』と激しいクレームがつけられ、ついには、海軍の軍令承行令を撤廃させるとまで話が広がり、大手を振って海軍省を脅す事態となった。結局、大改正を行うという形で落ち着いたが、兵科将校はかなり肩身が狭くなっている。軍医でさえ指揮継承権を与えられたからだ。

「近頃はパイロットにも一定の英語理解力が求められるし、空中指揮管制も厳格になった。昔のように自由には飛べなくなって、肩が凝るよ」

「仕方がない。最近はウィッチですら空中指揮管制無しには、まともに戦えなくなっている。ましてや型落ち機の俺らなんて、管制がなければ、捻られて終わりさ」

「あのF8Fだろ?あんな小型機を700キロでかっ飛ばすなんて、どういう発動機積んでるんだ?」

「前任と変わらないらしいぞ?ったく、リベリオンの技術は…」

「作戦空域や訓練空域に入ったら自由に飛べるんだから、民航のパイロットよりはマシよ?」

「加東中佐……!こちらへいつ?」

「今さっきよ。奮進式でかっ飛んできたから。それに好き勝手に飛びたいんなら、プライベートライセンス取ったら?」

兵士達は圭子に敬礼する。ダイ・アナザー・デイ作戦が成功に終わり、真っ先に空母へやって来たのが圭子だ。圭子はZEROの攻撃を避け、かつてのトップエースの面目を保ち、エクスカリバーで被弾を避けていた黒江より一枚上手なところを見せる事に成功した。サザンクロスナイフの追撃も避けきっている。その様子はスパイカメラを通して、空母にも中継されていたため、圭子はトップエースとして、久しぶりに持て囃される事となった。圭子はシールドがなくとも実戦を飛び続け、マルセイユと共に飛んでいた。その経験が対ZERO戦では役に立ち、富士でその映像を目の当たりにしたミーナやサーシャ、フレデリカを驚愕させた。唯一、以前から面識があるフレデリカにしても、アフリカ戦線にいたのは、圭子が既にあがった後のこと。絶頂期の動きは見ていない。グランウィッチとなり、昇神もした圭子は前史の絶頂期をも超える力を手に入れており、かなり強引な機動でサザンクロスナイフ(エネルギー型)を避けている。この点では黒江を上回ると言って良く、黒江も舌を巻き、『ケイのやつ、腕を上げやがったな!』と唸っている。これは攻撃型の機動主体の黒江や智子とは違う、元は狙撃手だった故の圭子固有のアドバンテージだ。

「映像見たわよー、腕上げたわね」

「なんだ、お前が葛城にいたの?瑞鶴」

「葛城が天城のサルベージに駆り出されたから、その代理ってとこ。翔鶴姉も五十六さんの秘書で忙しいし」

瑞鶴がいた。服装は前史とかなり異なっており、改二甲ともいうべき装甲・耐熱甲板を装備した姿だ。

「連邦軍から連絡よ。斬のあなた達用のセッティングが終わったそうだから。智子は?」

「智子はそのままフォボスで飛んで来るわ。しっくりきたみたいで、そのまま別働隊を叩くって」

「元気だわねー。あたしなんてパワーアップしたばかりでヘロヘロよ」

「メンタルモデルに変身はしないの?」

「あの姿になると気が抜けるから、休暇中に見せるわ」

「分かった。……芳佳?智子がフォボスで出てるから、援護お願いね?」

「今、バルクホルンさんに頼んで、パンターUに履き替えました。智子さんの援護に行きますわ〜」

「頼んだわよ、生徒会長?」

「りょーかい、りょ〜かい!それじゃ」

芳佳は通信で、バルクホルンに頼んで、陸戦ストライカーを工面してもらい、当時最新鋭のヤークトパンターストライカーを履き、陸戦に打って出ると明言した。陸戦になると、角谷杏であった頃の技能が活かせるため、陸戦では『宮藤芳佳』は鳴りを潜め、『角谷杏』としての顔を覗かせる。大洗女子学園の生徒会長であった記憶を活かすには、うってつけのストライカーだ。

『いいか、宮藤。こいつはパンターの速度と高防御を両立している。ティターンズが間接的に送り出すM4中戦車は目ではない。たとえM26でも撃ち抜ける。側面はお前のシールドでカバーしろ』

『了解!って、バルクホルンさんまで履いてどうするんですか?』

『お前一人を戦わせるわけにはいかんからな。上空はハルトマンと…不本意だが、マルセイユが守る。行くぞ!』

と、芳佳にわざわざ付き添うバルクホルン。上空はマルセイユとハルトマンに任せ、自分達は陸戦ストライカーで打って出た。黒江の後輩であった『犬房由乃』が陸戦から空戦に転向した事を聞かされているので、芳佳は逆もできるはずと考え、実行した。得物は、芳佳はヤークトパンター用の軽量・新設計のアハト・アハトだが、バルクホルンは陸の知識がないため、ティーガー用を担いで来てしまった。芳佳は思わずつっこんだ。

『バルクホルンさん、張り切ってるところに悪いんですが、そのアハト・アハト、ティーガー用ですよ?』

『なにィ!?本当か!』

『はい。それだと重いですから取り回しが大変ですよ?元は重装甲脚用ですし」

バルクホルンは指摘されて気づいたが、自分のアハト・アハトはティーガー用のもので、『56口径8.8 cm KwK 36』で、軽量化措置と手持ち火器への最適化もなされていない旧式のアハト・アハトだった。芳佳の『8.8cm PaK 43』より無駄も多く、振り回すには大重量であるという難点がある。だが、バルクホルンは開き直り、大笑する。

『なーに、移動と射撃が出来ればなんだって良いさ、怪力も有るしな!』

と、ドヤ顔で言い放つ。上空ではハルトマンが頭を抱えている。ハルトマンは思った。『戦闘後に整備兵に泣かれるだろうけど、気が回らないだろうなぁ』と。

「あいつはアホか?あのアハト・アハトじゃ、サスがへたりきって全交換コースだぞ?」

「トゥルーデのアホ……。アハト・アハトの見分けもつかないなんて。あたしでも分かるつーに。戦闘終わったら整備兵に差し入れしよう。そうでないとあいつらの心が折れる」

「そうしよう。ああ、妹バカも極まれりだな…」

上空の二人の嘆きを余所に、バルクホルンは意気揚々と出撃したのだった。









――今回における大海獣の宴はヒンデンブルク号の存在により、緒戦での優位は確保できずじまいであった。ヒンデンブルクと、それを護衛する『フリードリヒ・デア・グロッセ』、『グロースドイッチュラント」姉妹は強敵であった。ミッド動乱も生き抜いた武功艦だからだ。アイオワ級、モンタナ級も含めた強力な艦隊は侮れない敵である。彼らは艦娘達の突入にも動じず、砲戦開始から一時間が経過した現在、戦局は膠着状態になりつつあった。

「二水戦らによる突撃の効果は限定的に終わりました。敵艦隊はロマーニャ半島を北上しております」

「ふむ。一筋縄ではいかんと見て、ひとまずの応急処置を行おうとしとるのか?」

「いや、おそらくはティターンズの増援を待っているのでしょう。ムーンレイカー作戦を発動しましょう」

「うむ」

「宇宙部隊へ。ムーンレイカーを発動する。繰り返す。ムーンレイカー……」

宇宙からの空挺降下防止作戦『ムーンレイカー』。こちらは地球連邦軍が全面的に引き受けており、Gヤマトは宇宙で戦っていた。30世紀を超えた時代の最強艦に、23世紀の技術で攻撃したところで意味はない。これはティターンズがウィッチ世界に対して行ってきた事をそれ以上の差でお返しされた事になる。23世紀のものでGヤマトに通じるのはスーパーロボットのみ。波動防壁も比較にならないほど強力なものを展開しているため、コロニーレーザーであろうと弾く。Gヤマトは過去の世界に30世紀を超えた世界の技術をもたらす事で、28世紀以後の敵性宇宙人に地球が敗北しないようにする目的があるため、23世紀の連邦軍に、オーパーツとも言える30世紀以後の技術を与え始めた。この成果により、マジンエンペラーGやゴッドマジンガーは、機体スペックの時点でZEROに伍することができたのだ。その恩恵は実のところ、黒江のギアの解析や軍のISの性能向上にも役立ち、篠ノ之束はその技術革新の恩恵で、赤椿を第7世代機に改造し始めた(聖衣の特性を持ち、神の血で進化するもの)。黒江のシュルシャガナの解析は作戦直前には終わっており、フェイトのバルディッシュに『天羽々斬』が組み込まれていた。使用は無かったが、バリアジャケット展開時の効果を維持して、ギアを纏えるという優れものとなった。フェイトの纏う場合のギアの意匠は、フェイトが現時点で獅子座の聖闘士であるのを反映してか、魔法少女事変時の風鳴翼のそれと共通点が多いが、肩や襟などに獅子座の意匠がかなりある。また、箒のアガートラームも射手座と双子座の聖衣の意匠が入っており、かなり心象が反映されるようになっている。箒は初陣時はマリアと同じ意匠だが、二回目以降はそれになっている事から、二回目の起動時から個人パーソナリティが反映されるのだろう。黒江のシュルシャガナも山羊座と天秤座の意匠が入ってきたため、見分けが容易になった。


「少佐、ヴェネツィア方面より敵機多数!これはビルゴタイプです!」

「やはり、開発チームの誰かが横流ししていたか。プリベンターからの情報通りだな。こちらはビルゴUで迎撃しろ!失っても惜しくはない!在庫処分のつもりでやれ!」

富士からの遠隔操作で、各地に待機していたビルゴUが先代モデルを迎え撃たんと起動する。これは本来、マジンガーZEROに与える餌として用意されていたが、ZEROがピンポイントでゴッドの元へワープしたので、その目的では使われなかった。そのため、最後のご奉公として同士討ちの様相を呈するが、それでヴェネツィアから空挺降下してくる初代ビルゴを迎え撃った。モビルドールを在庫処分したい連邦軍は、開発チームの誰かが横流しをするのを泳がせ、同じモビルドール同士で撃ち合い、破壊させる場を設けた。それがこの場だ。マジンガーZEROという大義名分のもと、在庫の全てを集め、破壊させる。そのつもりで砲台代わりに運用していた。書類上は『マジンガーZEROに破壊された』として処分する。それが連邦政府の意向だった。坂本もそれを承知の上で、指示を出している。

『號、翔、剴!モビルドールは百鬼メカやメタルビーストと同じ扱いだ!ストナーサンシャインでも真シャインスパークでもいいから、撃ちまくれ!コスモリバースシステムがあるから、被害は考えないでいい』

『と、行きてぇところだがよ、坂本のねぇちゃん。俺達じゃ真シャインは撃てねーんだ。竜馬さんたちと違って、そこまでの領域じゃねーし」

號は自分達のゲッターとの親和性の度数が竜馬達ほどには高くないと明言し、真ドラゴンでないゲッターでの真シャインスパークは無理だとはっきり述べた。竜馬達は真ゲッターでも真シャインスパークの発動が可能であるが、それは竜馬達がゲッターに愛されし者だからであろう。

『そうか、ならストナーサンシャインでいい。炉心が温まっているなら、連射でも炉心への負担は軽いだろう?鏡面世界に入れ替えておいたから、ポンポン撃っていいぞ』

『なんか、そう言われると興ざめっかーよ…』

『ハッハッハ、ストナーサンシャイン級の技をポンポン撃てる演習と思えばいい』

號は性格的に、他人から言われると興ざめするらしく、微妙な声だった。そこが戦闘では常にハイテンションの竜馬との違いであろう。が、根っこのところでは竜馬に似ているのが號であるので、坂本はその潜在能力を期待していた。

『なんだ、出来んのか。剴、変われ、ミサイルストームで纏めてぶっ飛ばしてしまえ』

『おい!待ちやがれ!俺の出番を!勝手に潰すんじゃねー!!ゲッタービーム!!』

と、ビームを撃ち、その直後。

『言った事後悔するなよ?ねぇちゃんよお!翔!剴!ストナー行くぞ!!』


『おう!』

『ストナァァァサンシャアアアイン!』


ストナーサンシャインを放つ號。それを確認した坂本は笑いながら、ミーナたちに言った。

「號は焚き付ければこうなる奴だ。まぁ、総じて扱いやすい奴だ」

「美緒、あなた、随分と『やり直し』で、ますます豪快になったわね…」

「私らグランウィッチは一度、黄泉の世界を見たし、そこにいたからな。今回の事は僥倖と思ってるよ」



黄泉の世界を見た身として、やり直しで現世に戻れたのは僥倖であると、はっきり述べる坂本。黄泉の世界を見て、知っているのはグランウィッチのみであり、転生に成功した者たちは最近では、絶頂期と言える10代半ば頃の容姿を『好んで取っている』。45年次の年長組は当時、若くとも17歳であるため、芳佳やルッキーニなどの年少組を除いて、年長組は『15歳から16歳頃の容姿』に変えていた。赤松は年を気にしない質だが、一番意識しているのが圭子だった。気が若くなったせいもあるが、実年齢は45年当時で26歳に差し掛かっており、実家(実は武子と同郷で、北海道出身)からお見合い話の矢のような催促にあっている。その事もあって、当人は21世紀には『澪』という後継者を得ているためか、親や親戚からのお見合い話には乗り気ではない。

「私らは一度、人生を終えた身だ。だから、今回は親や兄弟の見合い話には興味がない。加東なんて、見合い話に付き合わされるからって、兄たちにしか連絡入れてない」

「いいの?それ」

「21世紀には、澪くんという後継者を得るからな、あいつ」

「加東中佐って、案外、お見合い話嫌がるんですね」

「アイツは前線にいることで輝くウィッチだ。一時のようにジャーナリストになっていたのは、覚醒前は冗談かと思ってたよ」

「そうですねー。あたしも、絶頂期の活躍知ったの、この間の事件でのことだけど、確かに結びつかないですねぇ」

「そもそも、澪くんのご両親、つまり、あいつの次兄の子供だが……が1986年の航空事故で亡くなって、そこを引き取ったのが始まりでな。あいつも防ごうとしたんだ。その事故は未来世界でも起こる事故だったから、陸路と海路を薦めたりしたんだがな……」

圭子が最も嘆き悲しんだ事件の一つが、甥夫婦の航空事故死である。前史では未来世界の1986年の夏の航空事故で死亡したが、今回は1990年代、澪が8年ほど親元で育ち、自分が預かっている時にその事故で死亡したと判明し、自分の対策は完全で無かったこと、結局は澪が孤児になってしまった事を嘆き悲しみ、付き添った黒江と智子に抱きかかえられるほどに慟哭した。その時の様子を澪から聞かされ、複雑な感想を思い浮かべた坂本。圭子も思わぬ伏兵に愕然とし、いつもは慰める側の黒江に泣きつくほどの衝撃を受けたという。坂本が澪から聞いた話によれば、1994年。澪が8歳の年、澪を圭子に預けて、旅行に出ていた圭子の甥夫婦はその事故で無念の死を遂げた。圭子に甥夫婦が事故機に搭乗し、死亡したという報が正式に伝えられたのは、現役時に小牧基地司令(在任、1977〜80)の経験があった智子からの連絡での事だった。智子は現地に偶々来ており、その流れで同事故の救援の指揮を執っていた。(色々な要因で退役軍人で、同基地の司令だった経験持ちの智子が指揮を執った)その際の乗客名簿に、圭子の甥夫婦の名前を見つけたからだ。智子はその事を黒江に伝え、相談の結果、遺体と死亡の認定が出るのを待って、圭子に連絡をしたのだ。

「その時の加東は激しく動揺し、狼狽してな。穴拭に何度も『嘘でしょ……!?』と問いていたそうだ。それでな…」


――1994年――

「嘘でしょ、智子、嘘よね……!?」

「圭子……。遺体と遺留品のDNAが一致したのよ。貴方の甥御さんと奥さんは亡くなったわ……」

「そんな、そんなこと…!8年前のあの事故は防いだのよ!?なんで、なんで……!?」

圭子の声が涙声になるのは、智子も記憶がない。それほど甥夫婦の死を、懸命の努力にも関わず、避けられなかった、防げなかったのが衝撃的なのが分かる。

「また、また……澪を天涯孤独にしちゃったってことじゃない……。あの子には『今度こそ』って……うぅっ…」

圭子は大姪の澪に幸せな生活を二度目では与えたいと考え、努力を84年頃から続けていたが、運命は残酷だった。坂本も北郷家の関係で、今回は仕事で付き合いがあったため、彼らに『旅行の時は陸路か海路を使い給え』とそれとなく薦めていた。それに彼の妻がうんざりしていたのが不幸の原因だった。その結果、圭子の努力は水泡に帰した。その事は坂本は伏せた。余りにも残酷だからだ。黒江も生前の妻にその事を愚痴られた事があったために知っていたが、それは表には出さなかった。当時、加東家は色々な事の結果、衰退しており、血筋は圭子の次兄系統しか続いておらず、次兄も1980年に死去した事で甥とその子の澪だけが加東家の継承権を持っていた。結局は圭子が翌年に家督相続し、澪が18歳になるまでの10年間、加東家を取り仕切り、2006年に家督を譲る際に、不憫に思った黒江が『戦時中の恩返しだ』と、自身の大甥の一人を婿に入れさせた。以後の加東家はその流れから分化していくため、その後、4代目レイブンズの時代には澪は『加東家中興の祖』と知られるようになる。

「圭子、今の貴方にできるのは、澪を支える事よ。貴方があの子を支えてやるしかないのよ。あの子にとって、頼れる身内は貴方だけなのよ?事実上」

「ともこぉ……」


「――というわけらしい。あいつにとってはそれが最大の痛恨事だろうな。記憶している限りと、澪くんからの証言合わせても、あいつが弱音を吐いたのはこの事故の時だけだ」

「あの中佐がねぇ……。意外だわ」

圭子が弱音を吐いたのは、この時が最初で最後だろう。レイブンズの二人は圭子を支え、事故後の甥夫婦の葬式の際には取り乱して号泣した圭子を、戦時中は逆の立場だった黒江が支える側に立つという光景に、圭子の在任中の時の後輩たちは驚愕させられた。その事をそれよりはるか以前の時間軸である1945年で語るのも変な話である。

「なんか妙な気分ですよ、その話」

「45年の時点で、こんな液晶モニターとか、コンピュータ目白押しの空間にいる時点で、それはないだろう?それに、部下が死んだ時の荒れ様考えたら暴れなかっただけよかったかもしれん。次の戦争で戦死者が出た時なんて、荒れて大変だったんだからな」

フレデリカの指摘にツッコミを入れる坂本。富士の中枢たるCDC(戦闘指揮センター)はオーバーテクノロジーの塊であり、ウィッチ世界の通常の進歩速度では、実現に40年以上は必要と見積もられているほどの電子設備の塊である。本当なら、戦闘指揮所は紙と人とクリアボードで構成されているのが当たり前、最も研究が盛んだったリベリオン艦で、ある。それが高度な電子装備で自動化され、本来なら『生きてる内に見れないだろう』レベルの自動化が実現したものが備えられた軍艦に乗艦しているのだ。その事を考えれば、数十年未来の出来事を語るなど、些細な言だ。

「確かにそうですが、どうもね」

「君は前史では、この戦いには参加しておらんからな。この設備がどれだけ凄いのかをまだ飲み込んでおらんと見える。見てくれ。これは今、宇宙で戦っとる部隊の映像だ。リアルタイム中継で流れている」

「り、リアルタイム!?」

「向こうの世界では、今から半世紀とちょっともあれば実用段階に達する技術だ。我々の世界では、人同士の戦争が行われていなくて久しいから文明の進歩が歪なので、兵法などが未発達なのだ」

「へ、兵法?」

「ああ。昔の中国に『敵を知り己を知れば百戦危うからず』という格言があるが、それすら君らの世代は知らん。おかげで連邦軍や自衛隊からは見下される事もあるんだぞ?」

「何故ですか?」

「私達はまともに大局を見据えられないと見られるのだ。我々はそもそも、『相手がどう考え、どう動くか』を前提にした訓練も、教育もされていないし、申し訳程度の対人訓練も受けていない者すらいる。」

――リーネや転生以前の芳佳のように、対人訓練も受けていないウィッチが多数派の状況において、『効率良く人を殺す』ために組織された軍隊を相手取れというのは、酷な話だ。リーネや芳佳(転生前)などのように、精神的に軍人たり得ない者も多数いる状態で、強化人間すらいるティターンズやネオ・ジオンと相対するのには役不足と言わざるを得ないのがウィッチ兵科の現状だ。ウィッチ閥が力を失い始めたのも、通常兵器の発達がウィッチ用装備の水準を超越し、更に幾多の戦争で成熟した戦略・戦術思想を持つティターンズとネオ・ジオンの出現は、ウィッチ兵科の求心力を奪っている。更に、ティターンズ/ネオ・ジオンの将校の一部には、神闘士なり狂戦士、海闘士、冥闘士である『超人』も含まれており、それもウィッチ閥の立場を危うくしている。グランウィッチらはこの問題には極めて冷淡であり、大半はパイロットライセンスを取っており、戦車兵の訓練(芳佳)を積んでいる例もある。グランウィッチは本来の歴史の流れで習得する資格の他にも多数の資格を有しており、黒江はMS、VF、通常戦闘機、IS、スーパーロボットの操縦を習得し、ライセンスを保有しているし、芳佳は前世の都合、戦車兵の資格を習得している。(軍医と並行して、機甲学校にも通っている)芳佳は今回、世にも珍しい『航空が本業ながら、正規の機甲教育を受け、陸戦ウィッチの資格も持つ』ウィッチとなっている。これは一年後、カールスラント払い下げ品のヘッツァーを買いたかったため、免許を取得した上で機甲学校へ入学を志願する事で具現化する。太平洋戦争開戦までの期間を2つの資格取得に費やす事になり、航空分野でエースでありながら、戦車兵としても一流、医療資格も持つウィッチの先例となるのだった――

「宮藤など、今回は覚醒したので、軍医学校の他に、陸軍の機甲学校に入るとか言ってきてるんだぞ?おかげで陸軍省と機甲本部はパニックだと聞いてる」

「海軍陸戦隊で教育はできないのですか?」

「あれは、新憲法が制定された暁には海兵隊のように軍全体として独立させることが内定してるし、そもそも、陸戦隊は今の時点では、海軍の一部門だから、戦車などの操縦権は得れても、正式な資格は取れんのだ。正式な資格を取るには陸軍の機甲学校に行くしかないから、陸軍省が泡を食ってな。お上直々の勅が出るだろうなー。陸軍大臣が相談しに行ってる日だし、今日は」

「何故、天皇陛下が直々に裁可?」

「宮藤は、あの宮藤博士の忘れ形見だ。博士は世界的功労者として、その名がお上にまで轟いている。その遺児の頼みを断ったと、お上に知れたら、陸軍省の幹部の首が飛ぶよ」

陸軍省は、現在進行系で海軍将校として名が知れている芳佳が、陸軍機甲学校に翌年度の志願書を出した事に大パニックに陥っており、海軍航空本部に電話で問い合わせてまで、真偽を確かめるほど狼狽した。陸軍大臣も、陸軍参謀総長もこれに激しく困り、海軍省の正気を疑い、米内光政海軍大臣の自宅に『陸軍省からの』電話がジャンジャンかかってきたという。米内(当時は存命中)が『本人の自由意志であるし、これは吉田新総理の意向であり……』との回答をしたので、陸軍省は対応に困窮し、ついには陸軍大臣がお上に拝謁し、その裁可を仰ぐ事態になった。ダイ・アナザー・デイ作戦の成功の報告なされた直後、『陛下のお手を煩わせてしまうことなのですが……』と、阿南惟幾陸軍大臣は切り出し、芳佳の志願を伝え、対応に困窮していると告げた。陛下は『宮藤の遺児なら、別段問題あるまい。源田からの推薦状も受け取っておる』と一言発し、陸軍大臣に志願書を受理するよう告げ、

「陸軍からも海軍へウィッチを交換に出しても良い勉強になるのでは?それと、空軍設立準備を進めている将校らを手助けせよ」

この一言により腹を決めた阿南惟幾は、芳佳の志願書を受理するよう、陸軍機甲学校に通達を出し、当時は陸軍在籍の武子や黒江に便宜を図るようになる。。結果、芳佳は『複数の技能習熟をしたウィッチを基幹用員とした部隊の新設の為の人員養成』の第一号になり、機甲学校をトップ3の成績で卒業するのだった。(実技は角谷杏としての記憶が多分に有効に作用し、トップだった)

「と、まぁ。そんなところだ。あいつ、陸戦では精密射撃の鬼だからな。1キロメートルの距離でのアハト・アハトで、八九式をピンポイントでぶち抜けるとか豪語してるからなぁ」

「嘘ぉ!?何よそれ!?」

「私も詳しくは知らんよ。宮藤は、陸戦でもヴィットマンとかカリウス並に熟練の戦車兵になれるとか、黒江が豪語しておったし」

「なんですかその反則!」

「サーシャ大尉、詳しくは知らんと言ったろう?詳しくは、扶桑で同居してる黒江に聞いてくれ。私の管轄外だ」

『坂本少佐、ルーデルだ。アーマードメサイアで敵艦隊を爆撃してくるぞー』

『お好きになさってください、大佐。別に止めませんから』

『おーし!出撃だ、諸君!』

と、ルーデルは僚友を集め、爆撃パーティを通達してきた。坂本は止めない。呆れるミーナ。だが、ルーデルの性格からいって、好きにさせたほうがよほど良い。ミーナはガクッと頭を垂れる。

『坂本ー、私だけどー、斬で出ていい?」

『イケイケドンドンだ。ルーデル大佐にも出撃を許可した。お前らも暴れてこい。ん?お前一人か?』

『私ならゲッターの使者だから、一人でもフルポテンシャル出せるし、智子はフォボスだし、黒江ちゃんは芳佳の援護で陸戦に出たわ』

『分かった。行って来い。奴らにお前の恐ろしさを思い知らせて来い』

『がってん!』

と、ノリノリの圭子。普段とまるでキャラが違うが、絶頂期の頃はこのような性格であり、これが素の圭子だ。更に。

『少佐、こちら山本です。艦隊直掩の任に付きます』

『了解だ、山本中尉。艦隊の上空3000メートルで直掩してくれ』

『了解』

山本玲の声色はミーナに似ているため、ミーナは驚いた顔を見せた。ミーナと山本の声色は殆ど同じだが、山本のほうがドスが効いている&トーンが低いので、聞き慣れれば、容易に聞き分けられる。

「坂本少佐、敵艦隊が変針!攻勢をかけるつもりのようです!」

「態勢を整えて来たな。中将」

「うむ。全艦、突撃隊形!砲雷撃戦用意!」

小沢は未来世界との共同戦線を戦った経験があるため、号令を地球連邦軍の用語に合わせた。小沢は機動部隊指揮官として知られるが、本来は水雷戦隊のプロであるので、砲戦艦隊を率いていても、水雷戦隊のやり方を行う。かの沖田十三も元は水雷出身で知られており、小沢にしろ、沖田にしろ、水雷戦隊の指揮経験があると、戦艦部隊でも突撃を嗜好する傾向がある。

「あの、提督。これは戦艦ですよ!?魚雷積んでる巡洋艦では」

「わかっておる。敵はスペック上とは言え、防御に優れる。ある程度近づき、肉を斬らせて骨を断つ。これが最善なのだ、大尉」

「なんですか、それ!」

「儂は空母の大家と言われとるが、むしろこちらが本業なのでな」

「え〜〜!?」

「航空雷撃とおなじだな、懐に入り込めば躊躇するのは砲撃も雷撃も変わらん」

「敵艦、有効射程距離到達まで、あと1時間ほどです」

「山口君の空母部隊は?」

「交戦に入っています。角田中将の基地航空部隊も交戦に入っています」

「敵機の数は?」

「戦闘機はおおよそ2000機。爆撃機は2500機です。戦略爆撃機がその内、400機ほど」

「機種は?」

「B-29、B-36です。中型はB-25です」

「B-25は恐れるに足らん。問題は29だ」

「提督、ロマーニャ海軍より緊急電!停泊中の戦艦『ローマ』、グランドスラム爆弾の直撃を受けて転覆したとのこと!」

「トールボーイどころか、グランドスラムを使っただと!ローマはもう修理不能か?」

「数発を被弾、衝撃でキールが歪んだとのこと。もはや再利用は」

「ええい、ロマーニャ軍の対空監視はザルか!事もあろうにローマをやられおって」

ロマーニャ軍最大の失態が起こった。ティターンズは極秘に、鹵獲したランカスターにグランドスラム爆弾の搭載改修を施し、戦艦ローマ撃沈に使用した。それは見事に大成功した。ローマは比較的後方に待機していたが、そこを突かれ、爆弾を受けてしまった。グランドスラムを使われては、ローマの修理は不可能に陥る。史実のトールボーイでさえ、ティルピッツを再起不能にさせたのに、グランドスラムを使われては、打つ手がない。これがインペロのラ級としての完成に血眼になるきっかけとなるのだ。

「グランドスラムとは?」

「ブリタニアが研究していた超大型爆弾だよ。9.9トンの重さで、未来世界が使うバンカーバスターの原始的なものだ。これに耐えるには、ガンダリウム合金か、超合金Z以上の装甲材を必要とする。標準的な戦艦ならキールが歪むよ。敵はそれを再現したのだ」

「なっ!?」

「ブンカーの屋根どころか、陸橋の基礎が揺るがされて崩壊する威力だよ。それを標準的な新戦艦に叩き込んだのだ。10トン爆弾など、改修された大和型以上でなければ耐えられん」

「そんな爆弾をブリタニアが…」

「元々は戦艦の船体をボディにした大型怪異を爆撃で倒すためのモノだ。こちらではな。未来世界ではブンカーや陸橋やトンネル、ティルピッツの破壊に使われたそうだが……」

サーシャは驚愕する。そんな爆弾が存在し、実戦で使われた記憶があることに。だが、未来世界では更に倍の大きさと重さの爆弾が研究され、更には反応兵器にまで行き着き、ついには次元兵器になる。目眩がするほどの大量破壊兵器だ。

「でも、サーシャ大尉。未来世界の大量破壊兵器の究極は波動砲よ?伝説の超古代文明を破滅に導いたほどの力」

「フレデリカ少佐の言う通り、未来世界は波動砲という究極兵器を手に入れた。超古代文明を破滅に導き、ガミラスを打ち倒したほどの力だ。それを以ても絶対的危機に陥ったことすらある。それを更に打開するための力がスーパーロボットなのだろうな」




――モニターの一つには、ゴッドマジンガーが『ゴッドブラスター』(前史ではインフェルノブラスターであったそれ)を発射し、半島周辺を丸ごと鏡面世界で入れ替えたのを良いことに、モビルドールを薙ぎ払ってゆく映像が入った。サーシャやミーナには『人同士の戦争で用いて良いものだろうか』という疑念が浮かび上がる。だが、対怪異の名目で、富嶽とその後継機『飛天』、B-29と36が実用化されている現実もあり、複雑な思いの二人。それと対照的に最強の魔神を受け入れ、それに安心した風のフレデリカ。フレデリカにしてみれば、原爆や水爆を積んだ潜水艦が軍事抑止力になるよりも、戦艦が軍事抑止力としてあり続けたほうが平和的と考える『技術畑』としての考えがあり、目に見えて力が分かるスーパーロボットを歓迎していた。そのため、スーパーロボットには当初から好意的であった。

「中佐、大尉。原水爆をミサイルにして、それをボタンで打ち合って終わるよりは、よっぽどクリーンな戦争じゃない。この世界だと、潜水艦への弾道ミサイル搭載が抑制されるだろうから、戦艦が戦争抑止力であり続ける。波動砲積んだ宇宙戦艦が戦争抑止力になるのも、分かる気がするわ」

フレデリカはそう言って、『宴』の前に、自分の立ち位置を明確にした。潜水艦は突き詰めていくと、弾道ミサイルや巡航ミサイル搭載艦に進化するが、ウィッチ閥があり続ける以上、その種の進化は速度が遅くなるか、極端に早くなるかのどちらかだ。二代目レイブンズの時代にそれらを保有するのは、扶桑とブリタニア、カールスラント、統一リベリオンのみ。その四カ国が列強であり続けている。その4カ国のみが技術発展と大義名分を得て、開発者に成功している。フレデリカはそれをけして喜ばず、自分達の星を滅ぼしてまで戦争をする必要はないとし、抑止力としての戦艦の立場を支持しており、航空閥にいながら、大艦巨砲主義と見られるように気を使うという珍しいケースだった。その論調はウィッチ閥に支持され、超大国である扶桑も戦後に戦艦を廃さなかった事もあって、戦艦を4、5隻維持するのが大国のステータスとなっていた。扶桑は現在の規模の戦艦部隊を『世界の警察』という役割のため、冷戦完了後も維持し続けている。それは日本の左派のあの手この手の政治的策略とは裏腹に、史実のアメリカ役を引き受けざるを得なくなるという事であり、実際、未来を知れる立場にあった、この当時の扶桑の上層部の中には、『リベリオンの代わりに、我らが血の献身か…』と嘆く声があったという。



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