外伝その130『Red fraction』
――紆余曲折を経て、ダイ・アナザー・デイ作戦にはジェット機も使用されたが、それは援助する側の部隊のものが大半であり、主体となった軍の航空部隊の大半はレシプロ機を使用していた。工作精度や燃料のオクタン価の違いなどから、日本側の多くの予測を覆す健闘を見せた。当然ながら、扶桑海軍には、無敵を誇っていた頃の南雲機動部隊を構成していたパイロット達が健在であるし、機体の工作精度や燃料オクタン価も連合国軍のそれであり、日本側の概算性能がウソのような性能を、大戦後期世代機は出せるのである。従って、リベリオン軍が作戦にあたり、先行生産させた最終世代レシプロ機にも見劣りしないのだ。紫電改で694キロ(概算。実測は700キロ)、烈風でも680キロの高速が出せるのである。日本側の予想が大外れなのは、彼らが『敵うはずがない』とした最終世代レシプロ機のF8FやF4Uの後期型達は生産数とは裏腹に、初期トラブルや、現場の反対で各空母に分散配備されていて、数の上の主力はF6FとF4U前期生産型と、紫電改と烈風と同世代に当たる機だった(一部はF4Fを運用)事に由来する。そのため、連邦軍の協力で、空戦の模様がリアルタイム中継されると、日本の左派は面目丸潰れになった。彼らの流布した情報は史実だと正しいが、ウィッチ世界は全体的に軍備の進歩が遅れている上、ウィッチの存在により、通常兵器の予算が通りにくい世界。そのため、ティターンズが強権を振るおうとも、せいぜいF6FとF4Uの本格生産が精一杯、他の兵器は試作品にすぎないのだ。その要因であるウィッチ閥は国によって、発言力に差異がある。Gウィッチを最も多く抱える扶桑皇国は軍部の統制が比較的容易であった。各地の敗北で、ウィッチを見る目が冷淡になっていた事、Gウィッチ達がその中での『共存』に舵を取っているからだ。扶桑は作戦までには、Gウィッチ達が派閥を形成し、それがかつての主流派を衰退に追い込んでいた。智子もシンパや同志(ハルカなど)をまとめ、それをバラライカの口調で束ねている。作戦までに、当時の陸海軍双方にいた自分のシンパと同志を纏め上げ、『遊撃隊』なる派閥を形成していた。非公然な活動も行うため、智子は『バラライカ』(ソーフィヤ・イリーノスカヤ・パブロヴナ)の外見と口調を用い、組織運営している。その活動をしているため、元の姿であってもその影響が生じ始めており、前線司令室の執務室では、ソ連軍が使用していたような軍用コートを羽織っている。(黒江と対照的に、タバコをよく吸ってもいる)また、バラライカの口調で一回、異論を挟んできたロスマンと赤ズボン隊のフェルに『忠告』している。
『私がこの世で我慢ならんものが二つある。一つは訳の分からんフレーバーテイストの炭酸飲料、もう一つは中途半端な誇りに凝り固まっていて、尚且つ自己弁護だけは上手いクソ野郎だ』
智子はその時、元の姿ではあったが、羽織った軍用コートと、凍てつくような冷徹さを感じさせる雰囲気もあり、二人を戦慄させている。
『困ったものだ、そうだろう?私らの『弾』にだけは当たらんよう、頭は低く生きていけ』
これで二人は元来の目的どころではなくなった。智子はバラライカの『演技』を研究しており、その試行錯誤の一環だったが、どういうわけか、コートを羽織ると自然にスラスラと言えた。また、声色も普段の声よりも冷徹な成人女性のものに(普段はどちらかと言うと、吹雪に似た声色である)なっていたので、ドスが効いていた。ロスマンとフェルは完全に冷や汗タラタラで、本来の目的などすっかり忘却の彼方である。そして、智子が作戦に当たって司令部付の要員として呼び寄せたハルカも『ご報告いたします、大尉殿。敵の主力はF6FとF4Uであります』と別人のような落ち着き払った態度で報告したのだ。
『日本の連中のネガティブキャンペーンより世代が古いな。現場が嫌ったようだな、中尉』
『ハッ。リベリオンのウィッチ閥は意外と保守的であります。おそらく、通常兵器の予算増額に反対したのでしょう』
『ティターンズの強権も、流石に二世代先のF8Fの普及までは成し遂げられなかった、という事か。これで連中の馬鹿げたプロパガンダを粉砕できるというものだ』
智子は強い口調で言った。元の清楚な姿ながら、羽織ったコートと声色のせいもあり、周囲に威圧感を感じさせる。ハルカも、見かけは変わらないが、口調が軍人然としたモノに変貌しており、元がギャグ担当だった事を微塵も感じさせない。
「中尉、敵部隊の動きはどうか?」
「ハッ。敵は現在、比較的御しやすいとみた方面に戦力を集中させており、司令部は南ロマーニャ方面から一時撤退、同方面の戦力はヒスパニア方面に回すとのことです」
ハルカはギャグ担当とは思えない、有能な副官ぶりを発揮していた。元は駄目駄目キャラだが、智子と同じく、何かがあったらしいのが窺えた。
「ふむ。北ロマーニャは一時放棄か。ルッキーニが『G』でなければ、今頃喚いていただろうな」
「あそこの防衛には旧式のW号H型が使われておりました。おそらく、パーシングか何かでも投入したのでしょう」
「W号相手に、重戦車で蹂躙か。リベリオン共は相も変わらず、火力と物量主義という事だな」
智子はタバコを咥えつつ、報告された事項から、状況を読んで見せた。鏡面世界を舞台にした戦闘は、ロマーニャ方面の守備が崩れ、ヒスパニア方面から挟撃を伺う連合軍、ロマーニャを一気呵成に制圧せんとし、機甲軍を突出させるティターンズ(リベリオン)軍。陸戦の主体は北ロマーニャとヒスパニア方面に移行し始めていた。のべ数千機の陸海軍機を投入したリベリオン軍は、局所的には大敗北を喫しているが、全体的には優勢を保っていた。どしどし本国からフェリー飛行や空母で運搬すればいいため、実質的に小型機は無尽蔵であった。(鏡面世界に入れ替えても、当然ながら彼らにも移動手段はあり、それで補充していると思われた)
「海軍は?」
「ドイツ戦艦群を撃退しましたが、ブリタニア艦隊に打撃を被り、工作艦や浮きドックも活用して修理しておりますが、旧式戦艦は処分せねばならぬモノが出てきています」
「首相閣下が俄然元気になるな。あと三隻はなんとか戦艦を造れそうな空気になるからな」
「キングスユニオンになって、財政の枷はある程度解決致しましたからな。しかし、大尉殿。ブリタニア海軍には、閣下の推進するあの建艦案に反対論があるようです」
「ほう」
「未来技術前提で仕様を策定したので、ブリタニアの既存技術の使用率が低いと」
「セント・ジョージ級は機関を在来技術で作ったら不具合続出、日本産に変えるハメになったのだ。御仁が未来技術を入れるのも当然だろう。連邦を組んでいなければ、首相閣下のクビは飛んでいただろうな。超大和型戦艦を七隻など、無茶もいいところだ」
セント・ジョージ級、クイーン・エリザベスU級を併せた維持費は連邦を組んでいなければ、ブリタニア連邦を破綻させていただろうことは目に見えて明らかである。試算だけで、ブリタニア政府を瞠目させる結果は出ていたが、連邦化で容認されたという経緯がある。この一連の会話は、高度な軍事・財政知識を前提にしてのものなので、ロスマンとフェルは呆然とし、立ち尽くすだけだった。
「……さて、行こうか、『同志諸君』。撃鉄を起こせ!」
智子の号令がカフスボタンに仕込まれた隠しマイクを通し、駐屯地に響く。すると、執務室に同志達がズカズカと入ってくる。近代的な完全武装の兵士らであり、皆が智子の信奉者だ。智子のロングストレートの黒髪以外は、軍用コートの羽織り方からして、完全にバラライカであった。
「勇敢なる同志諸君、我らの住む世界は、ティターンズ共によって蹂躙された、犠牲になった者達の魂で、我らの銃は奴らへの復讐の女神となる。アーマライトの裁きのもと、SS109で奴らの顎を喰いちぎれ!!」
智子もスイッチが入れば、バラライカになりきれるらしい。姿は変えてないが、言い回しは完全にバラライカとなっており、彼らは完全に『遊撃隊』と化している。ロスマンとフェルは完全に置いてけぼりの状態だが、場の空気に流され、そのまま遊撃隊に参加するハメとなったとか。
――こちらは黒江達。アムロからの指示を受け、他の戦線の援護に向かっていた。すると、カミーユからまた連絡が入った。
「なんすか?」
「シンから連絡が入った。そちらへルナマリア……いや、ジャンヌ・ダルクがそちらへ向かっている。君、シンがキスでオルタ化を解いたと言ったろう?」
「ええ。時間の流れが違うんで、休憩時間中の事ですけど……マジっすか!?」
「そうだ。もうじきそちらへ到着する。色々あったらしいな?」
「ええ。ちょっと先代黄金聖闘士達に協力してもらって。決心ついたみたいですね」
「ああ。ガランド大将が連絡を入れて、すぐに参加すると伝えて来たそうだ。おそらく、君の言うとおりに、心に整理をつけたんだろう」
「おそらく。それは良かったんですが、ジャンヌの扱いは?」
「ルナマリアのそれを宛がうしかないな。当人も、ルナマリアの身分証を使って参加しただろうからな」
カミーユから、ジャンヌ・ダルクがルナマリアとして、作戦に参加した事を知らされた。肉体はルナマリアのそれであるので、MSパイロットとしての技能を備えているはずである。何に乗って来るだろうか。轟音が響いてくる。ウェーブライダーのものだ。だがプロトZ(Zガンダム)や、Zプラス系でもない。リゼルにしてはエンジン音が五月蝿い。それに当てはまるのは……。
「ぜ、ゼッツー!?試作機が完成してたのか!?」
ZU。リゼルの元になったZガンダムの後継機種で、メタスとZの間の子にあたる。試作機が完成しており、アナハイム社でリゼルのテストベッドとして使用されていたはずであった。
「つか、こいつ、宇宙でしかウェーブライダーになれねぇはずじゃ?いや、リゼルからのフィードバックで改良されたのか?」
よく似てみると、各部が改良されており、ZZからのフィードバックも入ってるように見受けられたが、その姿に見覚えがあった。
「だ、ダブルゼッツー化した増加試作機か、これ!?」
MS形態で降り立ち、コックピットのハッチが開くと……。
「ふう。アナハイム社からそのまま持ってきたけど、ご機嫌ね」
「おい、ジャンヌ……ダブルゼッツーで来たのか!?」
ジャンヌが甲冑姿で搭乗していた。そのまま機体は膝をつき、ジャンヌは機体を降りる。どうやらルナマリアから引き継いだ技能を使ったらしい。なんともシュールな絵面であるが、依代となったルナマリアの技能を考えれば当然だった。
「ええ。会長に言ったら、この機体を用意してくれまして」
「あの爺様も相当だなぁ」
メラニー・ヒュー・カーバインも、ジャンヌ・ダルクの要請には二つ返事で応え、ダブルゼッツーを与えたという事を聞かされ、乾いた笑いの黒江。これも、かつての威光のおかげだろうか。
「つーか、お前。ルナマリアを依代にしたんなら、『誤射』すんなよ?」
「うっ!そ、それはそれ、これはこれで……」
「どこぞの『黒のライダー』だ?お前」
カーっと赤面するジャンヌ。ルナマリアは実はMSでの射撃は苦手で、射撃ミスをしたことが多い。もちろん、ジャンヌにも引き継がれているのは容易に想像できる。そこを突かれたため、どこぞの『アストルフォ』のような反応を返した。
「お前、射撃戦が本位のZ系に乗って来たんなら、後で特訓だなー」
「し、新型のZ系でバリバリ格闘戦してる貴方に言われたくありませんっ!」
「そりゃ、私のプルトニウスは格闘戦こなせるしー」
黒江はVF乗りでもあるので、可変機を好む。その中でのお気に入りが、格闘戦もこなす機体強度を持つ『Zプルトニウス』である。年式はダブルゼッツーよりも若干新しく、高い機体強度を誇る。黒江が乗機にしているのは、生産三号機だ。
「でもよ、すげえの持ってきたな、ルーラー、いや、ジャンヌ。ペリーヌが俺の中で泣いてるぜ」
「貴方は私と違う現界の仕方ですね、モードレッド」
「おかげで、行動に制限があるがな。参ったぜ、俺とした事がフランス人のガキが依代になるなんて」
「私は遺伝子操作されたコーディネーターなので、貴方のほうがマシですよ、ある意味」
「それもそう、か?」
首を傾げるモードレッド。モードレッドはチンピラのように口が悪い。そのため、『中』のペリーヌはショックで泣いている。その叫びを届ける手段がこの時点ではなく、ペリーヌはモードレッドに物申す手段が殆どない。しかし、徐々に『現代のジャンヌ・ダルク』と謳われたペリーヌのおかげで、モードレッド自身の性格にも変化が生じ、『母』よりだいぶ世俗的になり、概ね、人当たりの良い『口は悪いが、実はいい人』系の不良になっていく。モードレッドは生前の経緯から、元々、『オレは王になるべき存在だ。王が人間を同類と見なしてどうする。王が人間たちと共に泣き、笑えば救えるのか?そうじゃねえだろ。王とは、そういう存在であってはならないはずだ』と、近世の王権神授説のような考えを持っていたのだが、ペリーヌから『王のその傲慢さがいくつもの王朝を滅ぼしたのですのよ!』と諭された。モードレッド自身もフランス革命やロシア革命などの市民革命で王が失墜する姿を見た事で、『王というのは、市民が怒れば一族郎党が一夜で処刑される脆い存在』である事に落胆し、王位というものへの興味を殆ど無くした。(近代以降の『君臨せれど統治せずの概念が普及した』お飾り的な王位に意味はないと考えたからだろう)時代が進み、市民たちが国の主役になっており、政治家が国を動かす。やがて『政治家=民衆の選んだ王』という認識に至り、戦後、モードレッドはペリーヌを焚き付け、ペリーヌ・クロステルマンとして、彼女は20世紀の政治の世界に飛び込む事になる。元々、ノーブルウィッチーズの事もあり、政治の世界に飛び込む決意だったペリーヌだが、『円卓の騎士』というブリタニアの騎士であった者の人格を持つ点では風当たりが悪いのだが、モードレッドのおかげで1950年代の選挙で見事、当選するのだった。
「んで、どうすんだよ。これから」
「そうだなー、とりあえず……ガキ共は連邦軍に回収してもらったし、私のプルトニウスを手配してはおいたから、司令部に戻るぞ」
と、司令部でプルトニウスを受領した黒江だが、ここでアルトリア/モードレッド親子の存在も公になったので、彼女らは陸戦の要になることを期待され、大騒ぎとなった。参加している陸戦ウィッチの10人や20人より、英霊数人の方がよほど戦力になるからだ。そして、ジャンヌ・ダルクの登場もまた、司令部に波乱を起こした。強力な戦力だが、ジャンヌ・ダルクは仏の英雄であるため、ド・ゴールが自分の指揮下に入れろと喚いたのだ。
「なにィ、ド・ゴールがヒステリー起こしたぁ?」
「いま、モードレッドがペリーヌに一時的に体を返して、『交渉中』だそうだぜ。ったく、あのおっさんは愛国バカだぜ」
レヴィもド・ゴールの愛国バカぶりには呆れ返っているようで、愛国バカと断言する。タバコ型の喉薬をあいかわらず愛用しており、元の姿とは似ても似つかない。
「お、ミーナがジャンヌにペコペコしてやがるぜ」
「ああ、ミーナが助力を個人的に頼んでるらしい。一応、連邦軍の軍籍を『ルナマリア』として持っているが、英霊だしな、あいつ」
英霊達の登場は連合軍を震撼させ、一波乱を巻き起こした。ミーナはアルトリア/モードレッド親子のみならず、ジャンヌ・ダルクが出現したため、ガランドから『丁重に扱え』と厳命されているからか、下手に出ていた。
「おい、アヤカ。アドバイスしてやれよ」
「フェネクスの事もあるし、してくらぁ」
黒江はミーナに声をかけ、『ロンド・ベルの交換交流要員の希望に入れとけよ、ウチからエイラ出して向こうでフェネクス仕上げさせるのに出したいし。ジャンヌは近々、ロンド・ベルに配属される予定だしな』とアドバイスした。ジャンヌは甲冑を脱いでいる時は、第二次ネオ・ジオン戦争当時に制式となった現世代の連邦軍軍服姿であり、軍人の体裁を整えている。士官学校は促成コースで、元々、ザフトの赤服であったルナマリアの経歴のおかげで、早くに任官され、尉官の階級を持っている。ただし、ルナマリアとしても、戦略はどちらかと言うと苦手であり、ジャンヌも史実の経緯的には戦略は駄目駄目で、戦略に優れる誰かの指揮下でないと良さを発揮し得ないタイプであった。そのため、黒江の指揮下である事への疑問を口にするミーナへ『私は戦術で戦略をひっくり返すタイプなので、戦略は駄目駄目でして。中佐の指揮下で構いません。表向き、私は中尉なので』と返し、黒江の指揮下で行動すると明言した。
「こいつの取り扱いの答えは作戦中には出ないだろう。とりあえず、私が預かる」
そうミーナへ告げ、ジャンヌを連れて行く。過去の英雄らまでも戦争に駆り出すことに罪悪感を感じるが、レヴィに諭されるのだった。
――この戦いで21世紀日本に示された結果はいくつもあった。まずは扶桑製在来兵器の性能は大日本帝国のそれと『皮が同じだけの別物』であることだ。紫電改や烈風は同世代機であれば、優位に戦闘を行える事、旧式の零戦達でも、ベテランが操れば、一定の効果を新型に発揮しえるのがビジュアル的に効果を発揮した。これは航空無線が史実の20倍の感度の良さであり、元々、通常兵器は裏方だったため、無線での連携を重視されていたのも効果大だった。また、動かすと壊れると嘲笑の対象だった陸軍の三式戦の潜在ポテンシャルの良さ(三式二型も使用されていたため)も驚きの目で見られた。当時、扶桑の液冷機は飛燕最終型たる五式戦闘機に駆逐され始めていたが、一部は運用されている。(義勇兵達は五式戦を好んだが)そのため、元日本軍の航空兵がいる部隊での人気は人気という点では海軍系が紫電改と零式二二型、陸軍機では隼三型、五式戦が筆頭格であった。旧日本軍出身者達は老人らが若返って戦線に参加している事もあり、若き日の記憶を頼りにすることもあり、史実で高評価の機体に群がる傾向にあった。また、陸海軍出身者の交流で紫電改や烈風にも水エタノール噴射装置を取り付ける者も出た。これと併せ、推力式単排気管に換装する者も続出。部隊によっては20キロ前後の速度向上を果たした。(日本軍では現地改造も当たり前だったので)これは扶桑では欧州の高性能エンジンに取り替えたりしていたため、推力式単排気管と水エタノール噴射装置の有効性があまり顧みられていなかったものの、ジェットの実用化以前にはそれなりに研究はされてもいた。従って、今回の作戦で義勇兵らにより、その実用性が実証されたわけだ――
「ここの搭乗員は巴戦のとの字も知らねぇ。末期の絶望的な戦しか知らねぇ俺達のほうが強いとはどういうこったい」
ある義勇兵は、最後の一年のみ空戦に参加していて、ブランクが半世紀以上ある自分よりも、現役バリバリのはずの扶桑搭乗員らの平均練度にムラがある事を訝しった。扶桑の搭乗員達の実戦経験者達は当時だと、ミッド動乱を経験した者達だが、人数は多くはない。扶桑が実戦経験者を、日本からの義勇兵を募ってまで集めたのは、その実戦経験者の補填も理由だった。戦場の主役の一つと言える空戦は練度が機体性能よりモノを言うので、(空中指揮管制の概念が薄いこの時代の空中戦では、練度が最重要だった)義勇兵らの帝国陸海軍軍人としての敢闘精神が必要とされたのは言うまでもない。前線の各飛行場に駐機されている、日の丸を背負うレシプロ戦闘機達は、『1945年8月15日』以来の凱歌を歌い上げるべく、エンジン音を轟かせていた…――
――アルトリア/モードレッド親子は円卓の騎士であったので、剣士としては強いものの、東洋の武士相手には優位に立っているとは言い難く、黒江に腕試しをされたモードレッドは組手甲冑術をかけられ、あえなくノックアウトされた。黄金聖闘士である黒江はモードレッドの視力で認識できる疾さを超える事も、甲冑を真っ向から原子に還せる破壊力の拳を叩きつけられる。そのため、甲冑組打術をかけられた瞬間には、モードレッドは丸裸にされ、宝具も通じず(エアでかき消された)、プライドを木っ端微塵に砕かれていた。
「どうした?さあ、立てよ。鎧を再構築しろ!剣を組み直せ!傷を治してみろよ。早く!早く!」
黒江の薩摩武士の狂奔ぶりを表す言葉と視線に、モードレッドは完全に怯えていた。王立国教騎士団の吸血鬼を彷彿とさせる台詞回しである。流石のモードレッドも自身を赤子同然に圧倒する相手は始めてだったようで、始めて味わう本能的な恐怖に震え、涙すら流していた。黒江のパワーは甲冑を粉砕し、騎士服ごと胸ぐらを掴み上げて持ち上げる。
「絵面は悪役だな、こりゃ。おいおい、もっと張り合いがあるかと思ったが…。円卓の騎士と言っても、所詮は末席。剣頼りのガキか」
「……は、ははうえぇ……」
モードレッドは普段の粗野でチンピラじみた姿からは想像だもつかないような醜態を晒していた。母親に惨めったらしく助けを請い、全く闘志を失っている姿は、正に騎士の恥である。手を離してやると、モードレッドはへたり込んで大泣きする。
「……んでだよ、なんでオレがんな事になるんだよぉ……」
「それでも騎士か?自分より圧倒的に強い者と戦ったことがあるのか?負けた事はあるのか?親を意識してばっかで自分の事を顧みねぇ野郎に、この『山羊座の綾香』は倒せん」
黒江はペリーヌの体にモードレッドが宿っている事を考慮し、甲冑組打術を主体に戦ってみたが、モードレッドが宝具を使用しても、自分には及ばない(黄金聖闘士にはアルトリアでも及ばないだろう)事から、哀れむような視線を向ける。モードレッドとしては、仮にも英霊の自分が、神の闘士に選ばれた人間相手とは言え、戦闘力で及ばないのはショック以外の何物でも無いらしく、モードレッドは黒江の体から溢れるオーラがアーマー状に形作っている(山羊座の黄金聖衣)のを目撃し、根本的な実力差を感じ取り、茫然自失の状態となる。それを目の当たりにしたアルトリアは、生前はモードレッドに対し、何の気持ちも抱いていなかったのと正反対に、始めて明確に親らしい事をした。
「貴方……。我が『娘』に何を!」
「なーに、腕試ししただけだが、他愛のない奴だったぜ?アルトリア。お前の子供はな」
「……いくらなんでもここまでやることは……!」
「手加減はしたぜ?剣は使っていねぇからな。お前、生前は不義の子だからって理由で、『王の素質がないだけだ』とか言って、顧みなかったのに、情が湧いたようだな」
わざと冷酷な口調で煽ってみせる黒江。アルトリアは確かに生前、モードレッドの気質から、『王の器ではない』と断じていた。そこを突いてみる。
「確かに、私はかつて、この『子』を自分の子と感じなかった。そのためにブリテンは滅びた。だが、それは遠い過去のこと。この娘は私の娘です!!」
「は、ははうえぇ……」
「いいだろう。その覚悟が本物か見定めてやろう。このカプリコーンの黄金聖闘士『山羊座の綾香』がな」
両者は激突した。アルトリアはエクスカリバーを、黒江は空中元素固定で用意した日本刀を使った。ここからが黒江の真骨頂だった。
「チェストォ!!」
いきなりの一撃であった。アルトリアは開幕劈頭の一撃になんとか対応したが、あまりのパワーと疾さに、受け身しか取れなかった。アルトリアは剣を払い、反撃に転じるが、西洋剣と日本刀の性質の違い、黒江が元々、天性の見切りの才能を持ち、様々な流派や忍術、更に黄金聖闘士になったことでの反応速度により、アルトリアの剣は尽く空を切る。黒江の一撃は元からのバカ力がセブンセンシズで増幅された事もあり、アルトリアに冷や汗をかかせる。アルトリアはとっさに風王鉄槌を使うが、黒江は手刀で風を払い、逆にそれ以上の威力の同様の技を返してみせ、そこから黄金聖闘士としての闘技を見せた。
「ジャンピングストーン!!」
一気にジャンピングストーンで天井に叩きつけられ、そこから床に落ちる。アルトリアはこれで大ダメージを負う。
「今、いったい何を…!?」
「これがセブンセンシズの真髄よ。さて、一気にとどめといかせてもらう!」
「!!こ、これは……右腕が黄金の輝きを……エクスカリバー!?」
「言ったろう?私も聖剣使いなんだよ」
ニヤリと笑う黒江。右腕が黄金に輝き、エクスカリバーの切っ先を手刀で生成する。アルトリアは『元祖』としての意地か、エクスカリバーを両手で天に向けて掲げ、発動態勢に入る。
『勝利を約定せし聖剣!!』
『それは私の台詞です!!貴方が聖剣使いなのなら、こちらも聖剣で応えよう!!』
『その意気やよし!!』
『エクス!!カリバァアアアア!!』
二人は同時にエクスカリバーのエネルギーを放った。同様の攻撃であるため、対消滅が起こった。アルトリアは自身のエクスカリバーが今度は相殺された事に目を白黒させるが、その勢いでショルダータックルを行い、よろけさせ、そのまま膝でカチ上げ、エルボードロップでフォールする。黒江はわざと殆ど対応せずに受ける。
『モードレッドに対し行った所業、ここで償ってもらう!!』
アルトリアはハインリーケの持っていた知識を使い、黒江を押さえ込む。精一杯の力で。モードレッドを名前呼びし、怒っている様子を見せ、モードレッドの涙は感涙へ変わる。
「おおおお…っ!」
アルトリアは必死に押さえ込むが、黒江はここでセブンセンシズを使い、一息に起き上がり、コスモを爆発させてアルトリアを吹き飛ばし、態勢を立て直す。黒江はここで、秘技である左腕を『抜く』。
『いいフォールだったぜ。……さて、こっちが私の本気だ。英雄王の持っていた最古の剣。それは分かるな?』
『まさか……天地乖離す開闢の星!?馬鹿な、あの剣は英雄王しか用い得ないはず…!?」
『我が二剣二闘、垣間見て貰おうか。天地分かつ神剣!!エア!!』
黒江はエアを放ってみせる。モードレッドは悲鳴を上げるが、アルトリアは最後の切り札『全ては遠き理想郷』を発動させ、エアの力を防ぐが、黒江はここでギャラクシアンエクスプロージョンをぶつけてみる。
「ぐ……この力は……!?エヌマ・エリシュだけじゃない……宇宙も破壊するような……!?」
「聞いてみるか?銀河の星々の砕け散る音を」
『ギャラクシアンエクスプロージョン!!』
アルトリアのエクスカリバーの鞘『アヴァロン』は理論上、この世最強の守り。エアでも防ぐほどのもの。だが、黒江はエアに頼ってはおらず、更に銀河破砕級のエネルギーをぶつける。アルトリアは銀河破砕の幻影を垣間見、その破壊の奔流に飲み込まれる。
「こ、これが彼女の力……神殺しの……!」
かつての円卓の騎士の訓練中の何気ない一言を思いだし、ギャラクシアンエクスプロージョンを受け流す。誰が言ったかは朧気だが、確かに場を乗り切るのに最適な一言を。
「打ち合いて真っ向から受けたら剣は折れる、それは未熟者の遣り方で、熟練の騎士なら少し角度を付けて力を流し、弾くか鍔(ポメル)で組んで力比べするんだ」
『おおおおっ!!!」
ギャラクシアンエクスプロージョンを受け流す事で威力を弾き、持ちこたえる。これを賞賛する黒江。
「アヴァロンの威力、流石だ。悪いが、アヴァロンに限界があるか試させてもらう!大昔、太陽神軍をも一撃であの世に送り返した闘技!!、インフィニティブレイク!!!」
インフィニティブレイク。射手座の最高奥義の一つ。太陽神軍を全滅させた最高奥義の一つ。黒江の持つ秘技の中でも上位であり、セブンセンシズで起こせる最高レベルの大技。そのため、流石のアヴァロンも効果が消えるほどにアルトリアは消耗した。
「はぁ……はぁ…。まさかアヴァロンを限界まで消耗させられるなんて……英雄王のエアでも……不可能だったのに」
「ここまで使わせたのは、お前が始めてだよ。これより上だと、基地ごとぶっ飛ぶナインセンシズのアーク放電技もあるが、オーバーだしな」
「まだ上が……!?」
「神域ってのはそういうもんだ。靖国で十把一絡げだが、なっちまってるから、ナインセンシズに届いた。ビックバン以上のエネルギー出せるから、アヴァロンも治癒が追いつかんだろうな」
「宇宙創造以上の……力……」
「大した英霊だよ、お前。子供のために、二連続の神軍粉砕級奥義を受け流すたぁ思わんかったぜ」
「これで、前世の償いはできたのでしょうか…?」
「十分さ。少なくとも親の顔にはなってるぜ。見ろ、あの輝いてる目。まるでテストでいい点取れた時ののび太だ」
「本当ですね……あ、駄目です。魔力も体力も限界みたいで……」
「倅の面倒は見てやる。のび太に連絡とって、来てもらう。あいつの家で休んでろ。一週間したら迎えに行く。こっちで言うと3日くらいだな」
「あ、流れる時間が違いましたね」
「ああ。メールしてあるから、そろそろくるな」
「ハインリーケ少佐、いえ、アルトリアさん。お迎えに上がりました」
のび太が妙にカッコつけた台詞で、どこでもドアで現れた。黒江は大笑いだ。
「おま、柄にもねぇこと言いやがって。ブハハ…」
「偶にはギャグキャラ返上したいんですよ。それに忙しいんですよ。アルトリアさんをウチに届けたら、調ちゃんから援護要請入ってるから、とんぼ返りですよ」
「あいつ、お前が好きだもんなー。しかし、あいつ、いつ惚れたんだろうな。皆目分からん」
首を傾げる黒江。調がのび太に好意を持つ事には気づいていたが、それがいつからか見当がつかないらしい。調はある意味、黒江の本質の一つである『あーや』とも共鳴しており、お兄ちゃん属性に弱くなった。のび太に好意をいつの間にか持つようになったのは、実はあーやとの共鳴が原因でもあったが、調が心のどこかで望んでいた事でもある。
「んじゃ、送ってきます」
「頼む」
「娘のことは頼みます」
「ビシバシ鍛えてやんよ」
と、アルトリアを送り出した黒江。モードレッドをみると、見る目が変わっており、『姉御!!』と言い出した。菅野と同じタイプだと悟った黒江は、菅野と同じ要領で、モードレッドをペリーヌと共に躾けていくのだった。
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