外伝その164『英傑の力2』


――智子がS.O.N.G.でやりとりを交わし、黒江達が戦場で死闘を展開している。黒江達の死闘はスーパーヒーロー、スーパーロボットすら入り乱れし混沌とした様相であった――

『これが正義の魔神の力だ!!』

甲児は全力のパンチでキングダークのかち合わせた左拳に罅を入れ、そのままターボスマッシャーパンチを発射し、キングダークの左腕を肩口を吹き飛ばす。マジンカイザーのパワーはZモードの時点でも、マジンガーZの20倍、グレートマジンガーの15倍の出力がある。あくまで、指標にされるマジンガーZは初期の出力だが、目安には未だに使われている。有名な話だが、マジンガーZは完成時は50万馬力で、ビューナスAと同程度の出力であった。グレートマジンガーが90万馬力であるのに比べると非力であるが、当初の目的である陸戦では充分な出力だった。(Zがいずれミケーネに敗北し、グレートマジンガーが後を継ぐ事は、兜十蔵にとっては既定路線であったことでもある)兜十蔵は生前の時点で、Zは基本フォーマットの確立と陸戦型の機体としての運用しか考えておらず、息子から渡されていたグレートマジンガーの一部のアイデア(スクランダーやアイアンカッターの素案になるメモ)は甲児がいずれ弓弦之助に渡すだろうとして、遺品にまとめていた。元々、十蔵はZを完成させた時点で末期癌であり、余命幾ばくもない状態に病んでいた。しかしそれまでに『オジイちゃん』をプログラミングしたり、後輩の早乙女博士に頼み込んでエネルガーにゲッターエネルギーを照射させておくなどの行動を起こしている。更に言えば、機械獣の事を、十蔵は『ヘルのアレは、ミケーネの遺産を使っているだけだ』と評価しておらず、ヘルの機械獣対策はついでのようなものと考えていると、剣造に告げている。つまり、ドクターヘルは『Zで倒せる』相手であるが、『戦闘獣は無理』と割り切っていた証である。そのために『ゴッドマジンガー』の構想を練り、息子に託していた。オリジナルのグレートマジンガーはその試作機とも言える。そして、ゴッドの開発の頓挫に備え、『神を超え、悪魔も倒せる』魔神皇帝を生み出しておく事、魔神皇帝に合わせたハイテンションな遺言を残す辺り、ファンキーな老人であったのは確かだ。

『Zは究極の体ではある、この構造は完璧にして足すも引くもあたぬ究極の魔神だ! だが、それゆえ万能ではなく、力を誇るくらいのものじゃ。 剣造よ、この骨と肉に戦神として必要な皮を、衣を纏わせるのはお前の役目だ、その為に必要な資材と資料は纏めてある、持っていけ!!』

これが息子との今生の別れの際の言葉だ。マジンカイザーが発見される際に備え、第7格納庫の機器で録音しておいたメッセージは『甲児よ!これがマジンガーZを、グレートマジンガーも遥かに凌ぐスーパーロボット!マジンカイザーだ!!マジンカイザーがあればお前は、神をも超える、悪魔をも倒す事が出来るのだぁーーーーーーーー!グハハハ!!』である。このように、終始ハイテンションなおじいちゃんなので、息子が生真面目になるのも当然の帰結である。兜家は代々、発明物のパテントで資産を築いたパテント長者で、十蔵の代でロボット工学者となった。十蔵は歴代の兜家でも傑出した天才で、その才能がマジンガーを生み出したのである。そして、歴代一のファンキーな老人になった。そのファンキーさは隔世遺伝で孫の甲児に受け継がれており、甲児がハイテンション気味な要因ともなっている。

『光子力を炎に変えろ、カイザー!!』

マジンカイザーの胸部エンブレムと放熱板が輝き、ファイヤーブラスターの態勢に入る。胸のエンブレムがZから神にマークが変わり、エンジンが高出力モードに移行し、放熱板に凄まじいエネルギーが収束されていく。それはZやグレートの比ではない。

『ウオッ!?」

『ファイヤーブラスター!!』

ファイヤーブラスターが放たれる。射線軸にある全てを塵にし、地面をあまりの高熱でガラス化させるほどの高熱であり、キングダークと言えど、ひとたまりもなく溶け去っていく。

『フフフ、キングダークは我以外にもいる……我は呪が残した、そのうちの一体に過ぎぬ』

『へっ。だったら、全部倒してやらぁ。それが俺達の役目だかんな』

キングダークをファイヤーブラスターで一蹴した甲児。ノリがすっかりかつてのものに戻っているが、年齢が20代に達しつつあるため、相当に過去の自分を意識している。これは周囲から甲児自身に求められるキャラがZ登場時の自分自身であるがための枷に等しい。ある意味では、甲児も鉄也同様に『周囲の期待が成長した自分に寄せられず、常に過去の自分、少年のような振る舞いを求められる』事で苦労する人物と言える。マジンカイザーのこの強さはシンフォギア世界にも中継されており、シンフォギア世界に先行して現れていたグレートマジンカイザー同様の圧倒的戦闘力は、シンフォギア世界の一同を呆然とさせる。それはウィッチ世界に来ている者達も同じである。

――後方――

「これが…魔神皇帝の力なの、レヴィ……」

「あいつらは数あるスーパーロボットの元祖の最強進化形だ。神を超え、悪魔も倒すんだ、アレくらいはお茶の子さいさいだ」

レヴィ(圭子)はマリアに事もなげに言う。マジンガーの正統進化系がマジンカイザー系であり、その力は神を超え、悪魔も倒すと。実際、グレートマジンカイザーも錬金術の産物を一撃で破壊せしめていたので、マジンカイザーの力は凄まじいの一言だ。

「…で、なんなの、その斧は」

「こう見えても、斧と槍使いだぜ?あたしは」

ハルバード状のゲッタートマホークを担ぎ、銃を用意するレヴィにマリアがつっこんだ。圭子は今回、ゲッターの使者になっている面も多く出ており、扶桑海事変では、ガランドが『Axe benutzen』(直訳で斧使い)と渾名したほど多用した。刃以外が赤く彩られ、時より見せる『目がグルグル巻きのドワォ顔』もあって『扶桑陸軍の狂気』なる異名も与えられている。欧州系の観戦武官からは『血まみれの処刑人』とも渾名され、畏れられた。もちろん、それを覚えている者はこの当時には、未だ現役に留まる事変世代のみとなったので、それが復帰後の真・501の現役者との相克となったが。


「復帰した後は現役のガキ共と揉めちまってな。仕方が無いんで、この姿を戦闘が終わったらお披露目ってわけだ」

「確か、貴方の生年月日は…」

「1919年。テメーらの時代にはまず生きてるかあやしー年代のババアだぜ、あたしはよォ」

圭子は大正8年生まれ。2015年まで生存している可能性は黒江より更に怪しい年代である。1945年の時点で圭子は既に25歳であり、七勇士でも年長に入る。そのため、黒江達を諌めたりするための『母性』をあらゆる場所で求められるため、理性の枷を緩め、黒江同様に奔放に振る舞いたいがため、レヴェッカ・リーの姿になっている事情がある。

「この時点で26歳になるのに、そんなアウトローみたいな姿と口調を通してるの?」

「綾香と智子の面倒をいつも押し付けられて飽き飽きしてるから、こうやって羽目を外さねぇとやってらんねーんだよ」

三度目の転生になると、お母さんキャラを演ずるのも飽き飽きらしく、今回は一貫してアウトローなガラの悪い姉御キャラで通している圭子。江藤が事変時に愚痴ったのは、そこの点である。アフリカ赴任時は記憶の封印で元々の性格に戻ったが、封印がマルセイユの墜落事故を引き金に解けると、キャラをアウトローに戻している。黒田はそれを承知の上で、アフリカに赴任し、圭子の護衛を勤めていた。真美はGウィッチであるので、圭子のキャラの事は真実を知っていたが、マルセイユには黙っていたが、覚醒後に大いに愚痴られたのは言うまでもない。また、結果的にだが、覚醒順は『アフリカ組→いらん子中隊の三人→黒江→菅野・下原・孝美→英霊組→501主要メンバー→ミーナ』となっている。武子はタイミング的にはM動乱中と遅い部類に入り、クロウズは事変中と早めである。黒江はレイブンズでは突出して遅めだが、引き金となる出来事が1944年であるので、それを経験しなければ、封印は解けなかったためである。

「ウチの元・隊長が公認スコアを過小にしてなきゃ、今頃はアタシらは羨望の的だったんだがな。まぁ、アン時は年齢が年齢だから、しゃーねーと思うけどな」

「貴方、根に持ってるでしょ、参謀の事」

「そりゃな。過小に報告しても撃墜王と言われるくらいだったんだが、後のことは考えて無くてよぉ。ガキ共とおかげでやり合うハメになりやがった。姉御達の手を煩わせたし」

江藤は怒り狂う若松に、『転生者と分かってれば、スコアの差し引きはしませんでしたよぉ〜!!』と命乞いに等しい言葉で言い訳をしている。よほど黄泉比良坂を見させられたのが怖かったのか、顔から出る物は出し尽くしながら叫んだ。。江藤は当時の時点では『三桁撃墜は夢物語と考えていた』と泣きながら告白しており、自分のスコアは10数機である事から、『充分誇っていいはずですよね…』と当時の心境を吐露している。嫉妬心はこの時に必死に否定しており、『若いうちにのぼせ上がらないようにしたかったから』とも言っている。『転生者と知らせてくれれば、スコアを全て公認したし、上層部への武器にもできたのに!どうして私に教えてくれなかったんですか!?あいつらの直属上官だったのに!』と精一杯の反撃も返している。江藤にしてみれば、隠居生活から呼び戻されたところに、長じた自分の後輩の事で、自分の元・教官に喧嘩を売られるという理不尽極まりない光景だったからだ。若松がヒートアップし、江藤の精神を壊しに来たのは、赤松さえも予想外であったが…。赤松は泣きじゃくる江藤をなんとか落ち着かせ、当時の日誌を提出させた。そのデータを急ぎ、連合軍参謀本部に送り、真・501への自分の赴任を以て、問題を落ち着かせた。この後になされた二度目の査問は、若い整備兵の待遇への不満からの通報による形式的なものであるので、一度目の査問は本気で、統合戦闘航空団そのものの立場すら危うくしかねない大事だった。ミーナがG覚醒で減点をチャラにできなかったのも、二度の査問で人事評価が大きく下がっていたためである。ミーナはG覚醒前、覚醒を『今いる自分の消失』と考え、覚醒を自分で抑制していたので、芳佳の覚醒に引きずられて覚醒したのは『遅すぎた』のだ。それは自分でも自覚しており、覚醒後は『大尉として、向こうで勉強できるいい機会と考えるさ』とあっけらかんと言っている。そのため、芳佳から『さっすが西住流継承者ですねぇ』とからかわれている。実際、覚醒後はパンツァージャケットを一貫して着込み、空軍なのに、戦車に乗って指揮する行動力があることから、減点をかなり挽回したのは確かだ。そのため、留学計画当初の『少尉待遇』から決定時の『大尉待遇』へと待遇が改善されている。士官学生教程から始める予定で少尉扱いから始めるつもりだったのもあるが、ミーナがその直前に行った行為の一つの『出撃シフトから意図的に外し、教官としてしか扱わない』事への懲罰も意図されたからだ。ミーナが覚醒し、西住まほ化した事で、それまでの行為を直接謝罪した事、『どんな罰でも、自分は受けるつもりであります』と率直に三将軍へ述べた事、覚醒による戦功が効いたのだ。また、課せられた筆記試験で高得点をマーク(本来専門外である機甲戦の知識も問われた)し、面接でとっさの戦術もパーフェクトであったことから、留学で課せられる課程が指揮幕僚課程に変更されたのである。この時に、Gとの対立組へ赤松が確認し、三将軍や山本五十六、今村均が公認した正式な撃墜数も公開され、対立組は一気にひれ伏すことになった。1937年時点では紛れもなく、最強無比だったからだ。現役当時の威光が通じない時代に舞い戻った黒江達に取って、この燦然と輝く撃墜数だけが、過去に築いたキャリアの証明だった。英霊達のように、確かに伝説は築いたが、世代交代で忘れ去られていた。但し、口伝の形で『昔に戦局を動かした扶桑ウィッチがいた』という伝説は残っていた。年月の経過で相当にねじ曲がって伝わっており、また、掘れば掘るほど、各国にねじ曲がって伝わった事での資料が出ており、当人たちの退役後、二代目が活躍する2006年以降でさえ、完全なスコアは確定していない。そのため、二代目は親の現役時の活躍の観察も来訪目的に入っている。

「私達のガキ共にも手伝わせてるんだけどよ、どうも、ガキ共の時代でもアタシらのスコアが確定してねぇんだってよ」

「その要因が参謀だと?」

「ああ。面倒なことしてくれたもんだ。おかげで、ガキ共の時代になっても、最終スコアがわからねぇと来てるからな」

三人の最終スコアは1980年代の退官までに、おおよそ数千機(数千体)とされるが、これとて?マーク付きである。そもそも、この時点までに江藤が公表していた記録である、圭子が21機、智子が15機、黒江が19機という記録が相当に差し引いた数値であると判明したので、江藤は梅津美治郎参謀総長直々の叱責を受け、昭和天皇にまで説明する羽目に陥ったのだ。梅津美治郎は江藤に、『天皇陛下にどう説明するのかね、大佐。聖上がお怒りになられたら、首が飛ぶのはワシだよ?』愚痴っている。その際に交わされた会話は以下の通り。


――半壊した江藤の自宅兼店舗――

「困った事をしてくれたな。天皇陛下にどう説明するのかね、大佐。聖上がお怒りになられたら、首が飛ぶのはワシだよ?」

梅津は自分が嘘をついたと天皇陛下に叱責され、虚偽報告で処分を下される可能性に触れ、江藤に愚痴る。若松の制裁から立ち直った江藤は、梅津にこういう。

「三人に親心があったのは事実ですが、三人への嫉妬は微塵もありませんし、三人のものと思われる戦果は自分が未確認も含めて、日誌にまとめていました。当時は三人が転生者とは知らされておらず、『若いうちにのぼせ上がらないように』という戒めのつもりで、自分がスコアを申告したのです。それはご理解いただけますでしょうか、参謀総長」

「それは分かった。だが、今後は『後のこと』も考えてくれたまえ?今は三桁撃墜王も珍しくない時代だ。君が若い頃の時代とは違うのだ。これは我が日本連邦の沽券に関わるのだ」

梅津美治郎は江藤が麾下の隊員のスコアを過小に発表していた事へ、かなり露骨に不快感を示した。梅津は日本から『陸軍予算を削って、海軍予算に回す』とかなり脅されており、日本に向けての『日本陸軍より開明的なところ』を見せなければ、予算は確実に四割減らされる(実際、減らされた)からだ。

「未確定にしてある分が詳報に書き留めて有るので、それを確定に直せば、現在の6倍位に成ります、纏めてある分も有ります。資料は先輩方に提出しておりますが」

「君は厄介なことをしでかした。日本と金鵄勲章などの事で最終的な決定が出ておらんというのに、これでは野党の議員に責められる。君にも場合によれば、国会で証人喚問に立ってもらうかもしれない」

この当時、日本連邦化で金鵄勲章や従軍記章の事の最終判断がついていなかった。海軍航空隊はかなり日本からネチネチ責められ、功労賞の創設を検討している。(この時に創設をしておけば、政治的に不利とはならなかったのだが…)しかし、海軍航空隊にはいつしか、『統一基準をもち、協同撃墜の4分の一機まで記録するような習慣のあった国と同じような比較は無理なのである』とした認識が根付き、『海軍には個人戦果を記録し、それをもとに個人をたたえる習慣はなかった』とする公式見解がクロウズの高齢化と共に生まれた。これはクロウズの絶頂期が終わりを告げる頃、クロウズの撃墜数が思ったより伸びずじまいだった事(クロウズに争う意識がなかったこともあるが)クロウズが模範的な海軍軍人であり、政治的回答を控えていた事、時代が編隊空戦の時代に入ったからだが、皮肉なことに、ティターンズの介入でウィッチの存在意義が問われると、かつてのレイブンズのような『絶対無敵・熱血最強』の逸材が求められた。レイブンズそのものの復帰が上層部で大歓迎なのは、当時にMATに流れているウィッチの流出の防止の観点も含まれる。当時、ウィッチ界には『ティターンズの圧倒的火力』の噂が浸透しており、扶桑でも、16歳から18歳の年頃の働き盛り世代がMATへ大量に流れ、すでに20ほどの飛行隊が丸ごと移管されていた。ウィッチの年齢層は元々、隊の中核になる16から18歳が働き盛りとされるため、それが抜けると、後は高齢者か若手しかいなくなる。所謂、空洞化だ。しかも、ちょうど育った世代が抜け、日本連邦で14歳以下が軍属に再定義されたため、現場からいなくなっており、もはやウィッチ部門は機能不全である。そのため、検討段階であった『東二号作戦』が持ち上がり、扶桑の判断で実行されたのだ。しかし、それも防衛省・背広組の勘違いで阻止されたので、黒江が尻拭いに追われ、日本陸軍・零部隊の元隊員、もしくはその直系の子孫を手当たり次第にスカウトし、更に自分達の子孫を呼ぶ羽目になったのだ。

「江藤大佐。黒江君が週あたり120時間を超える労働時間になっとるのだよ?土曜日だろうか、日曜だろうがのべつ幕なしだ。日本で過労死が問題になっているので、これは実に好ましくない」

「それを自分に言われましても……」

江藤はそこまで言われても困ると言った。実際に困るのだ。今は直属上官ではないし、むしろ黒江が今は上なのだ。


「だから、君が聖上に黒江君達の真のスコアを直接奏上してくれ。私が奏上すると、過去の発言で首が飛ぶ」

「参謀総長?それは自分が閣下の尻拭いをするので?」

「元はと言えば、君が小細工したせいだ。私がお許しを得るから、君が直接、奏上したまえ」

梅津美治郎は江藤に『対策込みで奏上しろ、お前の権限で』と遠まわしに言った。江藤はここに至り、三人が軍の中枢部にさえ影響を与えられるほどに天皇陛下の信が篤い事を実感した。更に、時代はもはやレイブンズの撃墜数を元に戻さないと、後輩に舐められてしまうことも。実際、赴任当初から撃墜数の不足で舐められてしまう事が多く、当時を知る坂本が若手を一喝することも多かったのが本当のところだ。なので、坂本も『お前らのスコアが正確にならんことには、若手の統制ができんよ』と溜息だった。実際、当時はレイブンズの威光が通じた時代から10年近くも経過し、当時の新兵の坂本と竹井が最古参と扱われているような時代なので、連合軍時代では、個人撃墜数は重要な実力指数だった。扶桑陸軍はそれをよく理解していたが、海軍は対外的な体面のための指標としか、現場は考えていなかった。その事を昭和天皇は憂慮したのだ。これは海軍は当初、『他国と合同でウィッチを運用すると考えていなかった』からだが、この戦間期の間違った認識が海軍をこの時代以降に苦しめる事になった。この後すぐの海軍ウィッチのクーデターで海軍航空隊に粛清の嵐が吹き荒れ、海軍航空隊は機能不全に陥るからだ。坂本の引退という事態、太平洋戦争の勃発という予想外の事態が海軍にウィッチ隊の再建の余裕を与えなかったのだ。これは日本が粛清人事を徹底し、少尉以上は軍籍抹消で網走刑務所に収監、もしくはアリューシャンへ部隊ごと島流しを敢行したための現象で、海軍ウィッチ出身軍人からかなりの抗議がなされたが、後の祭りだった。折しも、扶桑ウィッチの出現の休眠期とも戦争勃発が重なる悲運もあり、空軍部隊は一時的とされたはずの『空母乗艦』が常態化してゆく。この時に育成された新世代が後のベトナム戦争での佐官級から大尉、古参下士官にあたる。この世代とその一個上の世代が最も対立が激しい代になる。それは教育が戦時速成と詰め込みであるかの違いで、軍人としては後者のほうが優秀である。黒江達の代に教育が回帰するので、必然的に教育期間が伸びるため、『戦争で実戦を経験した若い世代は、45年に志願し、1947年までに教育を終えていた世代から1950年志願世代まで』になる。黒江達の世代が実質、太平洋戦争で幹部級を担うのは当然のことだった。

「――梅津美治郎参謀総長から、隊長が奏上を押し付けられたーとか愚痴ってるが、まぁ、今回は我慢してもらうさ。どの道、隊長は今度の戦争が終われば、空軍司令だ」

「気楽に言うのね」

「人材不足だよ。アタシらのすぐ上の代は殆どいなくなったから、隊長は空軍司令の座が約束されてるんだよ。源田実閣下の後継に推して、恩を売っとくよ」

とは言うものの、江藤は生来のカッとしやすい性質が彼女の同期に問題視されたので、人事案はレイブンズの推薦と言えど、すんなりと採用されず、江藤の育成期間として、源田との間に一期後輩の『牟田弘子』大佐(1945年当時は第100飛行団長)が挟まるのだった。そのため、江藤は現役時の熱い性格が災いし、出世を遅らせたことになった。



「アタシは出るが、お前らは休んどけ。今はお前らには良い休憩になる」

「貴方のそのアウトローでヤサグレな態度、どこからどう見ても将校に見えないわよ」

マリアがツッコむ。圭子は現在のキャラでは、おおよそ将校とは思えないため、日本自衛隊の高官からは『兵隊やくざ』と呼ばれているし、若い自衛官からは『ガンスモーク』と渾名されている。タトゥーをしていて、タンクトップ、ナイスバディな姿であるのもあり、アメリカ軍からはウケが良いらしいが。

「よく言われんさ。自衛隊の上の方からは『兵隊やくざ』だとよ。自衛隊に勤務するときにゃタトゥーは消すがな」

そう言って、圭子は戦線に戻っていく。その背中はどことなく迫力に満ちたもので、シンフォギア装者たちには出せない貫禄に満ちていた。百戦錬磨の猛者という。







――リーネは覚醒し、美遊・エーデルフェルトとなっていた。魂魄に刻まれていた記憶によれば、紆余曲折を経て、その名で落ち着いたという。リーネは元の姿では持てない勇気を変身する事で持ち、戦っていた。そのため、変身後の容姿が元の年齢より3歳前後若くなることになったが、戦闘能力は遥かに上であった。アルトリアの力を借りている状態であるので、アルトリアが絶頂期の頃に纏っていた青い騎士服姿である。もちろん、得物はエクスカリバーであり、身体能力などは英霊のそれだが、戦闘経験の絶対的浅さは如何ともし難いものがあった。今、彼女が相手をしているのは、デルザー軍団の猛者の一人『ヨロイ騎士』である――


「つっぁっ!」

騎士服をヨロイ騎士の剣に貫かれ、苦悶の叫びをあげる美遊。ヨロイ騎士は不敵な笑みを浮かべ、確実に追い詰める。美遊は力押しするが、神敬介をライバル視していたヨロイ騎士の力は相応に強く、その能力で美遊を押し始める。体格差もあるが、戦闘経験の絶対的な差によるカンの差。そこがヨロイ騎士が押している要因と言える。

「高速熱線、発射!」

ヨロイ騎士は熱線を超高速で発射する能力を駆使し、物理的に美遊の防御を弱めていく。

「小娘、英霊の力を借りろうとも、それが貴様を強くしているわけではないという事だ」

ヨロイ騎士の突きは英霊の身体能力になっているはずの美遊でさえ反応できないほどの疾さであり、ダメージが蓄積し、遂には片膝をついてしまうが――

「!貴様は……いつの間に!」

思わず飛び退くヨロイ騎士。彼の剣を阻み、美遊を救ったのは、かつて、日本を世界忍者から守りし『ファイティング忍者』であった。

『戸隠流正統、磁雷矢ッ!!』

黒江や調の忍術の師であり、戸隠流の35代宗家『山地闘破』。忍者としては磁雷矢と名乗っている。現役当時からそれほど経っていない時代の彼なので、現役当時の青年忍者の姿である。地球の危機なので、磁光真空剣が手元に戻っており、まさしく往時の勇姿そのままである。バッチリ印も決めている。如何せん、忍者という割に目立ちまくりだが。磁雷矢は戸隠流の継承者であり、世界忍者戦を戦い抜いた猛者。美遊を守るように立ち塞がり、背中の磁光真空剣を抜く。小手調べといったところか。改造魔人であるヨロイ騎士とまさしく互角に渡り合ってみせる。

「ハッ!!」

「ヌゥン!」

ヨロイ騎士の剣と磁光真空剣が唸りをあげ、かち合う。鍔競り合いを空中で行い、磁雷矢のジライバスターが弾かれたり、ヨロイ騎士のマントの切れ端が宙に舞う。そして、磁雷矢はヨロイ騎士の頭を踏み台に、更に高く跳ぶ。

「ぬぅ!俺を踏み台に!?」

『磁光真空剣ッ!!』

空中で印を結び、磁光真空剣を発光させた磁雷矢はヨロイ騎士へ必殺技を目にも留まらぬ疾さで放った。

『飛翔斬りッ!』

空中でカーブしながら、相手をX字に斬りつける必殺技『飛翔斬り』。空中戦で放つ技の一つだ。ヨロイ騎士はこれで大きく吹き飛ばされ、大ダメージを負う。

「ぬううう…覚えておれ!」

毎度おなじみの捨て台詞で撤退する。些か三下感の否めないのがヨロイ騎士、その仲間『磁石団長』の特徴だ。これでも他の組織の大幹部より強いはずなのだが、捨て台詞が小物臭いところがある。

「大丈夫かい?綾ちゃんの娘さんから連絡を受けて、君の援護に来た。俺は戸隠流第35代宗家『山地闘破』。またの名を磁雷矢」

「リネ……じゃなくて、美遊・エーデルフェルトと言います、磁雷矢さん。助けてくれてありがとうございます」

リーネはここで自らの意思表明と言わんばかりに、リネット・ビショップではなく、美遊・エーデルフェルトと名乗った。それが彼女なりの自らへの、魂魄の記憶へのけじめであった。黒江はこの事を磁雷矢から後で聞かされ、思いっきり驚き、磁雷矢と相談して『美遊・エーデルフェルト』を、リーネの扶桑ウィッチとしての仮名にしておこうと決定する。(魂魄の記憶では、それも仮名であり、本名は朔月美遊。そこからの紆余曲折を経て、エーデルフェルトに落ち着いた)リーネはこれ以後、ブリタリアのウィッチの名家『ビショップ家』の8人姉妹の真ん中という微妙なポジションの自らから脱皮し、美遊・エーデルフェルトとしての自らを確立させてゆくことになる。それはファラウェイランド軍に呼び戻された長姉『ウィルマ』に迷惑をかけないよう、彼女が選んだ道であった。これは母と長姉の後を継ぎし、ビショップ家の後継としての重圧に押しつぶされそうになっていた頃の自分を振り返っての考えであった。元々の引っ込み思案な性格もあり、軍人に向いてないのに、能力を得た事で長姉の次の世代のビショップ家ウィッチとして送り出された彼女は芳佳の友情に応えるため、リネット・ビショップとしてではなく、美遊・エーデルフェルトとして戦う道を選んだのだった。(前史で嫌々、士官教育を受けたが、任官直後に辞めたいといった事で、周囲に迷惑をかけているので、その反省から、リネット・ビショップとしては檜舞台を降り、美遊・エーデルフェルトとして檜舞台に立つ事で、前史で自分を推薦してくれたチャーチルへの償いの意図もある。それは前史で、ファラウェイランド軍に呼び戻され、『Rウィッチ』として、30歳上の夫との結婚生活を擲ってまで、妹の分も戦ったウィルマへのせめてもの罪滅ぼしだったのかもしれない)



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