外伝その182『大空中戦4』


――こうして、501は血みどろの戦いに巻き込まれたわけだが、復帰した雪音クリスは、自分が発射した大型ミサイルを乗り物にして、皆が集まってる場所に来たが、自分がネタにされた事に怒ったようで、お冠であった――

『テメェら、笑うんじゃねー!』

「あ、お久しぶりです、先輩」

「お久しぶりですじゃねぇ!アタシをネタにしやがったな!?」

「流れ的にそうなったんだよ、クリスちゃん」

「あ?誰だよ、お前」

「僕だよ、のび太」

「なぁ!?ど、どういう事だよ!?」

「タイムマシンで別の時間軸から来たのさ。25、6くらいのね」

「!?ち、ちょっと待て!なんで同一人物が同じ時間軸に何人もいられるんだよ!?」

「ドラえもんのタイムマシンで分かったことだけど、別々の時間軸の自分同士は同じ時空にいられるのさ。学生の時は小学生の自分と中高の自分で喧嘩したの一度や二度じゃないけど。それに平行世界ができるだけだしね、たとえ過去の自分が死んでも、ね。だから過去へ行って未来に帰ると元々居たのとは違う時間軸になってたりするからね、そこの覚悟だけは必要かな?

「!?」

「それは君や調ちゃんにも言えることさ。同一人物が出会うことはできるのさ」

「なんでだ?」

「遺伝子学的には同じ姿、同じ名前の別人扱いになるからさ。対消滅の危険もない。僕は小中高の自分で殴り合いになったし、ドラえもんなんて、二時間おきの自分同士で殺し合いしたし」

「それ、のび太君のせいだけどね」

「あ、覚えてた?」

「うん。あれはどら焼きで釣ったのび太くんが発端だし」

ドラえもんは過去(野比家滞在中の時間軸)、二時間おきの自分でのび太の宿題を解こうとした。二時間おきの自分を呼び寄せたのが仇になり、八時間後のドラえもんの堪忍袋の緒が切れ、『野郎、ぶっ殺してやる!!』という、ドラえもんかしらぬ荒い言葉づかいを見せている。調もその一部始終をのび太と見に行ったため、のび太に苦言を呈した事がある。

「うーん…」

「とりあえず、君を本郷猛さんに紹介するよ」

「本郷猛?どっかで聞いた名前だな」

「君も見ただろ?仮面ライダー一号に変身する人だよ」

「あの人かよ!?」

「そう。若い頃の藤○弘、にそっくりだから、驚くよ?」

本郷猛はある有名俳優の若かりし頃にとても良く似た風貌なので、歴代仮面ライダーの中でも、顔出しを比較的する人として知られているが、これは仮面ライダーとしての体のメンテナンス費用などを捻出するためである。クリスは本郷猛に面通しする事になったが、彼に会うことで、調の思いを知る事になる。








――野戦病院で手当てを受けていた風鳴翼は、早々に戦線を離脱した己を恥じつつ、戦場で黒江、調が見せた『約束された勝利の剣』に惹きつけられていた――

「こ、これは……!馬鹿な、月詠本人にこれほどの力があるだと……!?どういうことだ!?」

「気がついたみたいね、翼」

「マリア、これはいったい!?」

「私じゃ説明出来ないから、彼女に説明しに来てもらったわ」

マリアは、黒田に連絡を取り、風鳴翼が目を覚ました事を伝えた。黒田が説明のために送り込んだのが、リネット・ビショップ改め、美遊・エーデルフェルトである。外見年齢はリネット・ビショップの元々の年齢よりも若々しい12歳前後だが、その外見に不釣り合いな落ち着いた雰囲気を感じさせた(リーネは、元々の引っ込み思案を美遊になる事で打ち消し、使命のためならなんでもする気質を得ている)。

「風鳴翼さんですね?」

「君は……?」

「私は美遊・エーデルフェルト。ブリタニア空軍の少尉です」

リーネはG化による特権により、ブリタニア空軍の少尉に任官された。変身後も身分は適応されるため、不都合はない。また、21世紀日本が『終戦時に階級が元に戻る『野戦任官』を財務・人事記録処理の観点から嫌ったことが連合軍全体に影響を与え、扶桑だけでも、戦功で大量の戦時昇進や野戦任官が起こり得たため、試験で人員の階級の調整を図ったというのが本当のところだった。だが、これは悪手そのものであり、扶桑のクーデターを決定的にしてしまったのであるが。

「その年齢で将校だと…!?」

「私達ウィッチは本来、力を奮える期間に限りがあったのです、なので、10代前半で少尉は珍しい事でもなかったんです」

美遊は言う。その儚げな印象を与える白い肌もあり、翼に鮮烈に美遊の姿は焼き付けられた。

「貴方を黒田大尉の命でお迎えに上がりました。風鳴翼さん」

「黒田女史の命だと?」

「はい」

「戦場にはいつでも赴く覚悟はある。しかし、その前に一つ、教えてほしい。月詠や黒江女史が見せた、この力はなんなのだ?」

「約束された勝利の剣。アーサー王伝説の聖剣そのものです」

「馬鹿な!?その剣は私の世界では発見されていないし、聖遺物と聖遺物がぶつかりあえば、対消滅を…」

「貴方方の世界でいう『聖遺物』は先史文明期の人類が、真の聖遺物を模して造られた模造品でしょうね。神造武装が一回ぶつかりあっただけで使い物にならないのは困るでしょう?」

「なッ!?」

「私達は聖遺物そのものを扱う立場にいるのですよ。貴方方よりも聖遺物の事は存じているつもりです」


それは美遊によって突きつけられた『事実』である。そして、彼女は風鳴翼とマリアにあるモノを見せる。

『告げる!汝の身は我に!汝の剣は我が手に!聖杯のよるべに従い この意この理に従うならば応えよ!誓いを此処に!我は常世総ての善と成る者! 我は常世総ての悪を敷く者――汝、三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来たれ 天秤の守り手―――!夢幻召喚(インストール)!!』

それは言うなれば、英霊の力をその身に宿し、一時的に英霊の力を借りる『夢幻召喚(インストール)』。クラスカード『セイバー』を使い、アルトリア・ペンドラゴンの力を借りる。それはアルトリアの絶頂期の頃の象徴である青い騎士服を身に纏う事でもある。もちろん、その右手には『約束された勝利の剣』を携え……。

「変身した!?」

「その騎士服、その剣の形……、まるで……」

「これが私と友達の持つ力、英霊の力を借り、その力を擬似的に自分という存在に宿す『夢幻召喚』。私が借りたのは、アーサー王――その真の名はアルトリア・ペンドラゴン――の力です」

「アーサー王だと……ッ!?」

「この場にいる皆は全てを知ってますので、ここでシンフォギアを起動させても問題はありませんよ」

「ならば!」

「翼…!」

美遊のインストールを見せつけられた後では、風鳴翼は対抗心が抑えきれなかったようで、シンフォギアを起動させ、ギアを纏う。

「しょうがないわねっ!」

そんな翼の姿に諦めたのか、マリアもその場でアガートラームを纏う。

「私が手続きを行います。貴方方はジープに乗ってください」

「待て、私は自前でオートバイを持ってきたはずだが?」

「ああ、それは敵にタイヤをパンクさせられ、ガソリンタンクにも穴が空いていたので、回収して修理中です」

「な、何ッ!?」

「前線に放置していれば、そうなりますよ」

「それにその姿では、敵の部隊の良い的ですからね」

「シンフォギアを以てすれば、この時代の装備などは問題ないはずだが?」

「そういう問題ではありません。局所で勝っても、戦線全体で負ければ意味はありません」

「さすがに、最下級とは言え、将校と言うことかしら?美遊」

「ぐっ、それが戦争と言うことか」

「そういうことです」

野戦病院の外に止めてあるジープ(戦地にあったものなので、ただの純正のジープではなく、ウイリスMBとフォードMA製のニコイチであったが)のエンジンをかけ、マリアが運転席に座る。

「まさか第二次世界大戦の骨董品であるジープを運転する事になるとはね」

「基本はフォードT型の時代から変わりませんからね、こういうのは」

「いやいやいや、エンジンキーないでしょ、あれ」

「末期型にはついてますよ」

「そうか、あれは20年くらい製造してたものね」

「そういうことです」

「しかし……この姿でミリタリー全開の乗り物に乗るとは思わんだ」

「私達は昔、ヘリを使ってたけれど、これはね」

「感覚が麻痺してるけれど、黒江さん達はシンフォギア姿で満員電車に乗ってますよ?」

「何ッ!?」

「修行の一環だとかで。黒江さんの場合は着の身着のままで飛び出して、ブラブラしてた時期も入るそうですけど」

「しかし……魔導と科学が入り混じってないか?」

「超科学と魔導が複雑に絡み合った戦争なんです、この戦争は。上を見てください」

「あれは?」

彼女たちが見上げた空にある飛行機雲は、VF-11やVF-19の編隊がファイター形態で、B-29を迎撃しに赴く時の航跡であった。敵としても、超戦闘機に狙われるのは勘弁被るだろうが、地球連邦軍が介入している以上は当たり前の光景だ。

「地球連邦軍のバルキリーがB-29を落としに行くんですよ」

「B29はプロペラ機よ?わざわざ、未来の可変戦闘機で迎撃しなくてもいいはずだけど?」

「日本が扶桑のレシプロでの迎撃を差止めそうになった影響ですよ」

「は?B29はこの時代の高性能レシプロ戦闘機で対抗できる存在に過ぎないはずよ」

「日本にとって、アレは『難攻不落』の象徴なんです。専門部隊でも落とせなかったっていうイメージが根付いてて、扶桑のウィッチやパイロットの一切の努力を政治家連中が否定して、大問題になったので、バルキリーで迎撃することに」

「排気タービンがあれば、大丈夫のはずよ?」

「日本型戦闘機は高高度性能が低いっていう先入観もあるんですが、限界高度付近なので、日本型戦闘機だと損害も馬鹿にならないんですよ」

「それはそうなんだけど…」

「向こうは四桁で爆撃してくるのに、日本が上げられる数は三桁がいいところ。これで防げると思います?」

「無理ね」

「高射砲が届かない上、空中指揮統制システムすら整ってないこの時代の日本に、B29の迎撃は困難ですよ。それを後世の政治家は攻めどころと見て、軍参謀の多くを心療内科送りにした」

――この作戦時までに日本連邦軍としての活動に支障が出るレベルで、扶桑軍参謀(大尉から中佐まで)の多くは軍病院の心療内科行きになるほど、日本側に理不尽に叩かれていた。恩賜組などはペーパーテストだけ優秀な野郎共と罵られ、多くが心療内科に通う羽目になるほどであり、日本側の『温室で作戦考えてないで、前線の兵隊の苦労を知れ』と大声での罵倒に耐えかね、多くは心療内科に通う事になり、作戦に参加できた参謀は連合艦隊の幕僚、源田実の信頼する幕僚、小園大佐などの一部の者達だけだ。

「身勝手極まりないわね」

「日本は空襲で国土を焼かれたトラウマがあります。そこを攻めどころにしたんですよ。懲罰的に機材テスト部隊の幕僚連中を左遷した上、活動自粛指令まで出す始末で、扶桑の事情に無頓着で」

美遊の言う通り、この頃には日本により、かなり扶桑軍の方針に横槍が入り、乙戦(要撃機)を甲戦より優先する生産指令、乙戦を軽視した幕僚の更迭と左遷などの懲罰と取れる指令を出していた。元凶は与党ではなく、防衛官僚の警察組、扶桑の軍備を変えようとする政治派閥の者達だ。そのため、安倍シンゾーは扶桑に理解がある、黒江のシンパ達の起用を急いだのだが、作戦には人事の発令が間に合わなかった。しかし、東二号作戦の頓挫を理由に、一気にそれは進む事になる。そのため、扶桑軍の実力を見せることも彼の意思であり、扶桑軍への過度な干渉を抑えるため、扶桑に兵器の出し惜しみをするなと要請し、地球連邦軍にも大っぴらに活動する事を要請した。その結果が地球連邦軍の公然とした介入と、扶桑海軍の秘蔵っ子、三笠型の投入だ。

「大変なのね」

「ええ。だから、あんな光景が起きるんですよ。バルキリーにB29を要撃させるっていう。あれを持ち出さなくても、朝鮮戦争の初期レベルのジェット戦闘機でお釣り出ますよ」

「しかし、どうして、人型ロボットが主力になれた?戦車の良い的だろうに」

「色々な理由があります。ボタン戦争の到来を恐れた科学者達が敢えて、戦争の形態を有視界戦に戻すことを目指したり…」

23世紀は色々な理由で人型ロボットが主力兵器に落ち着いた。その理由の一つは元々がドラえもんを製造できる高度な技術を日本が有していた事、時空融合でそうなるように流れが確定した事、ドラえもんの時代から実用化されたパワーローダーが人型ロボットの公的な始祖(スーパー戦隊のロボはデンジ星やバード星の科学力を基礎としているため、厳密には地球製ではない)となったことだ。それらが融合した結果、一つは航空機と混ぜあった可変戦闘機、パワーローダーから発達していった系譜がMS、戦車を人型ロボットとして再構築したのがデストロイドへ、そして、超物質や超エネルギーを拠り所にしたのが特機(スーパーロボット)となる。

「多くが生まれていったけれど、一番需要がニッチなのが、アメリカ発祥のデストロイド。腕を武器のプラットフォームにしたりして、戦車の要素が強いんで、昨今はあまり見ない兵器です」

「ああ、あの如何にもアメリカっぽい外見のロボット」

「はい。腕を武器のプラットフォームにしたりしたのが仇になって、汎用性を重視した可変戦闘機に需要を奪われたんです。戦車の延長ですから、火力だけはあるんですけど」

MSがあり、バルキリーがあると、デストロイドは殆ど、その長所を見いだせないとされ、昨今(メカトピア戦争以後)はあまり見ない兵器になっている。旧式の機体もまだ多数が稼働状態だが、後継機種の開発は殆どされていない(モンスターはケーニッヒモンスターという形で後継機種が出た。シャイアン系列が意外にも後継機種を最近出している)。

「あなた達が元の世界で見た『グレートマジンカイザー』はその中でも一番に『機械仕掛けの神』と謳われる代物、スーパーロボットです」

「あのロボットはマジンガーZの系譜を継いでいるの?」

「その後継であるグレートマジンガーの進化の一つの結果ですよ」

「マジンガーの系譜なのか」

「ゲッターエネルギーで進化させた代物ですので、正確に言うと、とんでもなく強くなったグレートマジンガーですね」

「!?」

「ゲッターロボのゲッターエネルギーは機械にすら進化を促します。グレートマジンガーに浴びせたらああなったんです。ただし、ある理由で新規に後継機種は造られましたが」

「つまりあれは、グレートマジンガーと同一の個体なの!?」

「そうです。別プロジェクトで後継機種は結局は用意されましたが」

マジンガーの系譜は途中から、デビルマジンガーやマジンガーZEROに対抗するという意義が加えられた。GカイザーはZEROに対抗できないという光景を甲児が垣間見た事で、マジンエンペラーGを造らせた。ゴッドに並び立つ魔神皇帝として。甲児がマジンカイザーの改造に拘ったのも、ZEROを抑え込むためであるが、弓博士の理解を得にくい(人の制御を外れ、自分から悪に走ったマジンガーを受け入れにくい土壌があったため)事項であったのが災いし、ゴッドでZEROを倒す事になった。改造されたマジンカイザーが届けられた時には、最大の仮想敵のZEROは倒れた後であり、甲児はぼやいたが、もう一方の仮想敵たるデビルは健在である。また、ZEROの中枢が、回収された大量のマジンガーZの残骸の内の一つのパイルダーで眠る甲児の躯が抱えていたカプセルを媒介に転生したのがZちゃんであり、ZEROの善性が集まり、具現化した存在である。

「他にもスーパーロボットはあるので、後ほど時間を設けて説明します」

「わかった。それで戦況はどうなってる?」

「一進一退といったところです。向こうも色々と出してくる上、アメリカ相当の国家の物量攻勢ですので」

「しかし、アメリカ相当の国家が単独で他の全てを敵に回して、戦線を維持できるのか?」

「この当時のアメリカならば容易ですよ、そんな事。物量攻勢が効いた時代ですから、第二次世界大戦は」

風鳴翼の疑問に美遊はサラッという。この当時、超大国と目されたブリタニアが国力に陰りを見せ始め、扶桑も国力を消耗していたため、潜在的国力はリベリオン本土が他の追随を許さない水準だった。日本が神経質と揶揄されるほどに怯えていたのは、その気になれば、66000人の兵力を一つの島に容易に送り込める輸送力と輸送量も理由に含まれる。そのため、日本の官僚達は『絶対的な兵器の優位性』を扶桑に求めたのだが、その要求水準が高すぎたのが、扶桑を今後何年も振り回すこととなる。

「だから、この時代の時代背景を無視した要求を日本がしてくるんですよ。最低でも1970年代後半期の水準だなんて、この時代からすればオーバーにすぎます」

美遊も呆れるように、扶桑に日本の防衛官僚達が規格統一と称して突きつけたのは、『兵器の技術水準を1970年代後半期の水準にしろ』というもので、財務省も乗っかってのいびりといえる要求だった。それに窮した扶桑は作戦を大義名分に近代化を進めたものの、予算には限りがある上、旧式兵器も一定数は必要という事情もあり、扶桑軍全体の近代化はインフラが更新される1949年以降となる。しかし、少数であるが、VFを独自調達で運用したり、アメリカを介して、既にF-14やF/A-18E/Fのライセンスも得ていたりする。これは日本の一般人が扶桑空母を旧型と罵倒する事に備えた措置であり、1945年当時では、『気が早い』とアメリカにも忠告される買い物とされた。だが、現行レシプロの殆どを研究などの名目で持って行かれた扶桑としては切実な問題で、1947年までにジェット化が急がれるのは、自衛隊との連携の都合も大きかった。しかし、その性急なジェット化に反発した層がクーデター事件で震電焼却事件を引き起こすのも事実であり、旧343空を飛び出した志賀を長く苦しめる事になる。

「正直言うと、この時期はジェットに実績がないんで、レシプロの末期型で充分なはずなんですよ。ドイツもまだメッサーシュミットMe262を配備して喜んでる段階で、私の国はもっと保守的な機体だったんですよ?その水準の時に、F-14やF-15、F-16が要ります?」

「確か、グロスター・ミーティアだったわね」

「ええ。その水準の時にF-14世代を持って来たら、技術者が仕事投げ出しますよ」

美遊の国であるブリタニア初の実用ジェット機『グロスター・ミーティア』はMe262と比べてでさえも凡庸な機体であり、初期型は烈風以下の速力であった。橘花はそれと比較されていたので、扶桑技術陣に慢心を生んだのも事実だ。その技術水準の頃に、ジェット戦闘機の完成形と言える世代を持ってきたら、技術者がショックのあまりに仕事を投げ出すという懸念も扶桑にはあった。しかし、実際は『目標が出来た』と研究に邁進させるきっかけとなり、扶桑がジェット先進国になる原動力となるのだ。当時のジェットへの疑念が強かった時代の技術者は『これで研究予算をたんまり貰える』と逆に大喜びなのだ。実際、扶桑は青天井の予算を与え、後世アメリカの戦闘機を研究し尽くす事で、太平洋戦争でのスムーズな戦闘機の近代化を果たす事になる。

「でも、ある意味じゃ、後世のジェット機の早期出現の理由になるかも」

「どういうことだ」

「こういう進化をたどるって分かれば、膨大な開発時間を短縮できる。21世紀の主流であるターボファンエンジンが得られれば、大幅に燃費が改善されますし」

「思い出した。訓練か何かで見たけれど、メッサーシュミットは機体に2570リットルの燃料タンクがあって、600リットルの増槽つけても、航続距離は短かったと」

「ええ。メッサーシュミットの配備がこの時点で上手く行ってないのが、いくら軽油で動くと言っても、3000リットルを超える燃料を前線で確保できるかっていう」

メッサーシュミット『シュワルベ』が、この当時に前線で嫌われ者であったのは、利点も多いが、欠点の多さも負けないくらいに多いことでもあった。ミーナが覚醒前にVF運用を控えていたのもそれが理由だが、今回は前史ほどは恥を欠かないで済んだばかりか、覚醒後は自分に機体を用意しろというほどであるので、黒江と坂本を苦笑させている。

「そうか、通りで……」

「どういう事だ、マリア」

「つまり前線の飛行隊は燃料消費の増大を嫌う上、今はジェット機のジャンル自体が黎明期なのよ?いくら未来のが持ち込まれても、多くのパイロットは従来型を選ぶはずよ」

マリアのいう通り、カールスラント系部隊も多くはレシプロ機を使用している。そのため、ガランドは『保守的な連中め、未来のジェットがその威力を見せつけているのに、嫌がるのか』とぼやいているが、実際には当時主流のレシプロ機は航空用有鉛ガソリンを使い、ジェット機は専用の灯油に近い燃料が新規に必要となるから、という兵站上の都合が大きい。上層部を擁護するなら、『前線では爆発の可能性が低いケロシン系の燃料が使えるなら嬉しいが、そのための補給システムの改造を考えたら当時としては現実性が無かった』のだ。扶桑がジェットに邁進できているのは、日本、アメリカ、地球連邦軍に追い立てられているからこそ、なのだ。

「なるほど」

「詳しいですね、マリアさん」

「私や調は元々、世界相手に戦うために訓練されていたの。だから、元からある程度はそういう知識を持たされたのよ。まさか、本格的に地球連邦軍に行くと言い出すとは思わなかったけど」

マリアは調から『地球連邦軍に志願する』と知らされており、野比一族を守るためとは言え、そこまでするとは思わなかったらしい。のび太の何に惹きつけられたのか。それはマリアもまだ知らない。

「野比のび太。あの少年に、月詠は何故惹きつけられたのだ?皆目見当もつかない」

翼もこの始末だが、のび太の全てを優しく受け入れる優しさにだんだん心を惹かれていったのが真相である。修行期間中、無意識にのび太の手を握りしめたり、それを終えても、自分から野比家に居座り、ギア姿で買い物やのび太の級友達に混じって野球をすることに違和感を感じなくなっているのが、現在の状態だ。のび太青年期には、すっかり家政婦として定着しており、のび太青年とは『家族』関係にある。のび太の背中を、静香に代わって守る事を己に課しているため、後に現れる『月読調』とは、そのアイデンティティが根本的に違うのだ。切歌への情愛が切歌自身の行動で薄れてしまった代わりに、野比家への強い家族愛を行動原理にし、のび太とその子孫を守るために、聖闘士になったほどである。この愛は切歌Bが後に戸惑う原因となり、『切ちゃんをないがしろにしていないか』と調Bに疑念を持たれる要因ともなる。事態を憂慮した切歌Aが、『ワタシと調は今までと違う形で友達でいようと考えたのデス』と説明しなければ納得しなかったので、調AはBを見ることで、過去の自分の依存ぶりにため息をついたのだった。



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