外伝その206『つかの間の行間』


――ハルトマンが言うように、黒江は元々、遊び心に溢れる人間であるため、空中元素固定能力の応用で、アニメキャラに変装する事が多い。特に訴訟を起こされていた時期に顕著で、2006年から2010年の間は特にストレスが溜まることが多かったため、のび太の両親がいない(のび太は一年ほど浪人したため、結婚までは両親と同居していた)タイミングを見計らい、それを披露する事が多かった――


――2007年頃――

「黒江さん、今日は裁判所帰りですか?」

「それで疲れたから、容姿を変えてある。もちろん、声も」

「巷でエ○ァがリメイクされてるから、その姿なんですか?」

「そうだ。もっとも、私の言葉使いじゃ、らんまになってるけどな」

「ご丁寧にプラグスーツも再現してますね」

「買い物は調に任せてある。この姿じゃ出歩けねぇしな」

「確かに」

青年のび太。当時は19歳。一浪しているため、大学一年生である。頭脳面は浪人で改善されており、頭脳が戦闘面に追いついた初期の段階である。黒江はストレス解消のためと、佐官になり、尚且つ、この頃には経歴が明らかになり、持て余され気味であることもあり、有給休暇を自由に取れるようになっていたため、野比家に上がり込んでいた。綾波レイの姿を取っているのは、裁判所通いの気晴らしである。声も同じにしてあるが、黒江のキャラでは、綾波レイというよりは、らんま1/2のらんま(女性時)になっている。もちろん、外には出歩けないので、室内でのお遊びだ。

「黒江さん、最近は『それ』で気分を紛らわせてますね」

「まーな。そうでないと訴訟で裁判所通いなんてしてられねーよ。旧軍の高級将校だっただけで訴訟なんて馬鹿げてやがるが、あいつらは親の代か兄弟から仕込まれた教えか、若い頃からの惰性で『反権力』がカッコいいと思ってるファッション野郎共も多いからな。そういう連中に限って、年金はしっかりもらってやがるから、質わりぃんだよなー」

2007年の春から夏に移り変わり始める時期であったため、黒江が空中元素固定で生成したプラグスーツは意外に丁度いい格好でもあった。もちろん、エ○ァに乗るわけではないが、気分を紛らわせるにはうってつけであった。

「確か、二年前の時からでしたね」

「ああ。本当の身の上を公表した途端に訴訟されたし、野党は本当の年齢的に定年退職してるだろとか好き勝手言ったもんだ。だから、最近は姿をちょくちょく変えてる」

黒江は身の上を公表した辺りから、姿をちょくちょく変えるようになった。綾波レイの姿もそのレパートリーの一つだ。訴訟理由に拙いものが多く、また、その件数が多いことから、精神的にストレスも凄いため、気分を紛らわせるために能力を使い始めた。主に使うのは『見慣れていて、尚且つ身近な人物』の容姿だが、アニメキャラの姿にもなれることがわかる。そのため、かのキューティーハニーになろうと思えば、なれるのである。

「キューティーハニーやれますって」

「考えとく。声的にジャンヌかペリーヌにやらせたいがな」

と、冗談めいた一言を言う。実際にジャンヌは黒江から話を聞くと、ペリーヌより乗り気であったらしく、英霊かしらぬノリノリさでキューティーハニーに扮したとの事。(Gウィッチの持つ空中元素固定は、『彼女』が持つ空中元素固定装置を自己の能力として実現させたのと同義である)

「この格好じゃ髪が目立つから、外回りするなら、ダークブラウンに目と一緒に変えるか」

「碇ユイのティーン風ですね。」

「うるせー」

「あ、今日の新聞見ました?」

「ああ。海軍の多数機撃墜者を対外的に持ち上げてるくせに、部内では誇っていけない風潮だろ?あれな、統合戦闘航空団ができたあたりの頃に、坂本達が絶頂期だったから、海軍航空の予算確保のためと、人材の安定供給を得るためにし始めた事だ。それを問題にされるたぁ考えてなかったのさ。矛盾だよ、矛盾」

「どうなんです?実際に報道された反応」

「そりゃパニックさ。今度の大きい作戦が終わった(ダイ・アナザー・デイの事)が終わったら、暴発は目に見えてる。未然に鎮圧しないで、大義名分をこっちが得た段階で討伐する手筈だ。フジのやつは未然に防ごうとしてるが、歴史の流れ的に無理だから、やめておけとはいったんだけどな」

「ああ、前史だと近江が撃沈された内乱」

「おう。今回は太平洋戦争があるから、撃沈しないように言ってある。まあ、この世界で言えば、あと10年後くらいのことだけどよ」

「今は連邦国家化交渉がしばらく暗礁に乗り上げるか、くらいですからね」

「軍隊の栄典と表彰とか、海保と海援隊、空軍の問題とかあるからな。それに、身分が分かった連中の階級調整……。挙げるとキリがねぇ。警察の問題、貨幣価値の調整もあるかから、野党が横槍入れて暗礁に乗り上げるんだよ。4年後の地震と再度の政権交代がないと交渉もお手上げだ」

「その姿でいうと、アキバのオタク連中がコーフンしますよ」

「だろうなぁ」

黒江は苦笑いするが、事実、その通りである。調も2015年以降にアニメが放映されたので、それ以降に苦労をすることになる。黒江が能力をこうした気晴らし目的で使い始めたのは、2005年の記者会見以降に起こされた訴訟に対応してゆく内に溜め込んだストレスの発散のためである。のび太が言うことは事実で、後に自衛隊の基地祭でコスプレと称して、能力を使ったら、ニュースに取り上げられ、ネットの掲示板が盛り上がったほどである。黒江は公の場ではコスプレと称して使うが、自衛隊の部下や同期達の周知の事実で、忘年会などでは披露していたりする。


因みに、この頃には野比家は街の再開発で元々、住んでいた一軒家から立ち退き、マンションへと移転した直後である。G機関の計らいで、彼らの息がかかったマンションのワンフロアまるごとを邸宅にすることに成功しており、この時代以後の野比家は再開発区画に置かれるため、ジャイアン達の実家とは離れたところに移動したのである。(裏山も地主の代替わりで再開発され、『千本杉』があるあたりに『ヒルトップマンション』が建設されたが、23世紀の戦乱の果てに、コスモリバースシステム発動で裏山は1990年代以前の姿に戻るので、結果的に開発は無駄になった)

「で、今の処の混乱は?」

「海軍に多いぞ。急降下爆撃と雷撃が廃れるからって戦闘爆撃機に統一される動き、ジェット機を特殊機に分類するのを止める、レーダー装備や誤射を避けるために機銃の自動化推進……。だから、戦艦も空母も乗組員が余るそうだ」

扶桑は45年度に旧型装備が急激に21世紀基準の電探、ソナーなどの新式装備に駆逐され始め、役所仕事でそれら旧型駆逐艦などをスクラップにしていったので、元々、装備払い下げを約束されている海援隊を戸惑わせている。(これを2010年代後半の海保長官が問題視し、海援隊の存在意義を否定したので、双方で問題になり、結局、迷惑を被った海援隊を宥めるために、防衛省はなんとか策を捻り出し、当時に艦齢が進んでいた自衛隊の護衛艦を『有償援助』として払い下げる事になる)

「おまけにウチじゃ、海援隊が存続して、民間軍事会社になってるから、海保がうるさくてな。あいつらが太平洋共和国の海防なんぞ担えるかよ」

海援隊が扶桑皇国の友好国である太平洋共和国の国防を担っている事が通達されると、時の海保長官がヒステリーを起こし、事態を悪化させたため、結局、海保は日本連邦国内の海上警察と位置づけられるものの、懲罰的に予算が減少したため、再建が余計に遅延する事になった。しかし、日本が介入したことで扶桑海軍も混乱し、航空隊の再建に五年以上の歳月を必要とし、更に練度不足を理由に、空軍に航空決戦決戦主力の地位を占められるという屈辱を味わう。扶桑海軍は艦艇予算こそ豊富になるが、空母機動部隊に関しては、日本側との思惑のすれ違いと、日本側のミスで一からの再建になった不幸もあり、空母戦闘群の空母航空団は64Fが殆ど担うことになるのである。

「予想できる混乱は…64がずっと最前線にいることですかね」

「洋上航法できないとウチの隊に入れないことになったから、新人はアニメの主人公級の連中しか置けない。フジのやつがお冠だが、日本側が求めるのは『日本の44戦闘団』だからな」

「やれやれ。軍隊に冷たいのが日本ですからね、戦中の反動で」

「陸軍も、チトとチリが廃棄されたのに機甲部隊の参謀が目を回してるが、日本はT-34-85とIS戦車、M26やM48がある前提なんだよ。ウチの世界じゃ、T-34の実車はまだ初期型がラインに載った段階なんだぜ?」

「これからどうするんです?自衛隊式の戦車はインフラを整えないと戦地に運べないし、そもそもクルスクの戦いみたいな大規模戦闘に動員できるほどの数を短期間には」

「チトとチリのいいとこ取りのもんを造るしかないだろ。自衛隊式は単価が高価なんだ。第二次大戦型の戦場でホイホイ使い捨てられるには高すぎるんだよ」

黒江の言う通り、第二次大戦の戦場では戦車は大事に扱うものでもなかったが、21世紀の戦車は単価が第二次大戦とは比較にならぬほど高価であり、その点で消耗戦向きでは無くなっているので、同時代の技術を使用した『消耗品』的な戦車が必要とされたが、日本側が『厚意』で90ミリ砲を主砲に選択したため、結果的に従来品より高価になるのである。この戦車こそ、チリの砲塔バスケットに61式のトーションバーと、チトの量産性を備えた『チト改』であるが、実質的は戦後第一世代主力戦車の開発になったので、備蓄していた75ミリ砲の弾丸の消費ができない事になったのが、『破砕砲』の開発に繋がる。


「チヌは?」

「数両が日本に送られた以外は旧式を理由に廃棄予定になってる。奴らは塹壕戦させる気かよ」

「チハ系列の最終発展型のはずなんですけどねぇ」

「お役所仕事は融通がきかないから、機甲部隊はパニックだよ。ハ号やチハは大半が次世代の戦車の資材としてリサイクル、チへも一線から下げられて、今度はチヌだ。自衛隊式の生産が短期間にできると思ってやがる」

1945年のダイ・アナザー・デイ前当時、日本は機甲部隊の近代化を名目に、旧軍式戦車を処分しており、博物館に送る目的で確保した車両以外は基本的に廃棄する方針を通達し、扶桑皇国の抗議を食らっていた。当時、仮想敵国の戦車はいいところ『M4』と『T-34』の初期型で、日本が言う重戦車群は試作段階に行っているかも怪しかった。しかも、戦訓による改良以前のまっさらな状態であり、日本が異常に怯える『T-34-85』、『IS-2』などは影も形もないので、チヌでも必要十分であったのだ。そのため、扶桑機甲部隊は『なんで90ミリ砲を中戦車に積まないとあかんの?』と疑問を呈したら、出現も時間の問題と日本側に見られていた『M46パットン』の写真が送られてきたという。

「ウチの世界じゃ、影も形もない重戦車を前提にしてたから、それらへの対応策とされてた砲戦車部隊の存在が浮いちまってな。結局、自走榴弾砲に改造して使用する事になった」

「M46やIS戦車とかの重戦車は戦訓で始めて開発されて出ますからね。それがないと、それまでのドクトリン的に出ませんからね、重戦車」

「戦車駆逐車を敵は余裕で使ってるんだぞ。IS戦車をぶっ潰すための装備を持ちだしたらオーバーだよ」

黒江は砲戦車部隊が時代遅れとされる事に同情してるようであった。しかしながら砲戦車は21世紀の120ミリ砲を積んだ一部の車両が駆逐戦車として改良されて使用され、砲戦車最後の華を飾るのである。これはティターンズが持つ61式(型式番号は米軍式のM61)戦車の性能に慄いた日本が、リバースエンジニアリングを強く警戒した故であるが、61式は22世紀後半の技術力が生み出したものなので、いくらリベリオンでも、リバースエンジニアリングは不可能に近い。155ミリ砲を積んで時速90キロの速さで爆走させる事など、21世紀の技術力でもできなかった事だ。究極のMBTを謳われ、地味に現役復帰している同車は戦車開発の到達点だ。21世紀陸自は155ミリ砲を積むために大型化した車両に驚愕したという。21世紀は次世代の戦車に140ミリ砲を積むよりも、120ミリ砲を長砲身化するなどの変更で新型を作っていた時代だ。それが軽巡洋艦の主砲をそのまま積んだかのような61式にカルチャーショックを受けた。戦車は61式で究極の域になったが、宇宙時代ではデストロイドという発展型もある。しかし、人型戦車というのは、ニッチなジャンルであるので、あまりメジャーではない。VFやMSの汎用性に隠れがちだが、一応、地球防衛に貢献はしている。陸戦兵力は白色彗星帝国でも戦車であったからだ。マジンガーなどはデンジ星から伝わっていたテクノロジーを軸にして、OTMや既存テクノロジー、それぞれの研究成果を盛り込んでいるので、内部構造はそれらと共通性を持つ。(因みに、グレートマジンガーは構造的に補助エンジンを持つため、Zよりレスポンスやパワーウエイトレシオに優れるのが売りであり、カイザーが補助エンジンを持つ構造になったのも当然の帰路である)

「61式戦車が出てきて、自分達に牙を抜くとでも」

「あれは虎の子だから、連邦との対決以外には使わないはずだ。あれでも、10式をアウトレンジできる性能だしな」


「それで空軍は?なんで急に攻撃/爆撃ウィッチのバスターウィッチへの転科を?」

「たかが250kgや500kg爆弾を抱えて急降下爆撃すると、今やCIWSやRAM、パルスレーザーの餌食だ。攻撃ウィッチなんて、魚雷を抱えてるんだぞ?そんなんでVT信管付きのボフォースとか突破できるかよ」

「航空雷撃は廃れる分野ですからね」

「だから、天山の使い所は次の戦しかねぇんだが、所謂、流星までの繋ぎだから、生産数が伸びてねぇんだ」

「日本に2機を提供して、後は実戦で全部使い潰すしかないですね。防弾ないし、天山」

「補助空母に全部積み込んで、使い潰すしかねぇか」

「流星もスカイレーダーに比べるとパンチ力不足ですしね。日本軍攻撃機は駆逐される運命なんですよ、スカイレーダーに」

「3100kgの搭載量はB-17に匹敵するからなー。長島の開発陣にスカイレーダーの情報流したら泣いてた。R-3350の2700hpエンジンは、ハ43や誉より格段にパワーあるし、戦闘機にも転用できるしな…」

「そりゃ大型爆撃機用エンジンを単発機に乗せれば、ねぇ」

「だから、大変だってこった」

この時代ののび太の私室はマンションのワンフロアまるごとを貸し切った新生野比家のちょうど真ん中あたりにあり、当時には既に運転免許証も得ており、スポーツカーを買っている。のび太は子供時代は嗜好品を買うのを学業の成績をアップさせるためと称して、実質的に玉子によって制限されていた(子供は大金を持つべきではないとする考えから)が、流石に大学生になると、年相応に付き合いもあることを分かっていたので、玉子はのび太が18歳になってからは息子の金銭の使い方には文句を言わなくなった。なお、この時代になっても、ドラえもんはいる。正式に野比家を去るのは、のび太が大学を出る23歳頃なので、この時期はドラえもんがいる時期の晩年に差し掛かっている時期と言うべきだろう。

「師匠、コーラ買って来ました」

「お、ご苦労さん」

調がコーラを買ってきたので、それを受け取り、飲み干す黒江。変身している状態なので、なんとも言いがたいものがある。

「ドラえもんは?」

「向こうの世界で航空兵器の頭数を揃えるための仕事に行ってます」

「あいつも忙しいなー、5年後くらいにはここを離れるだろ?」

「ええ。私が役目を引き継ぐんで、引き継ぎの準備中です」

調はダイ・アナザー・デイ前の時点では、黒江に従い、複数の時代の野比家を行き交う日々を送っていた。また、ドラえもんがのび太を見守る役目を調に託す事をのび太が大学に入る頃に公言しているため、事実上、調はのび太から約四代に渡り、野比家に仕えるが、その準備はこの時代に始まったのである。調の公的な身分は『扶桑と日本の仲立ちの担当者の一人である、ウィッチの下宿管理人兼連邦の対日本エージェント』で、形式上、ドラえもんから役目を継ぐ形で以後、任務につく事となる。

「まー、お前はこれから、野比一族の歴史の生き証人になる。その覚悟はあるな?」

「できてます。そうでなければ、のび太君のところには出てませんよ」

「いい子だ」


調は2013年以降、ドラえもんの役目を事実上継ぐ形で野比家に仕えていく。その事はたいていの世界の自分とは違う道を歩む事になるので、切歌が小宇宙に目覚めようと修行をするのも当然の流れである。

「で、師匠。今回はその姿ですか?綾波レイの」

「基地祭に向けて、レパートリーを増やしたかったからな。外には行かねぇつもりさ。これは目立つしな」

黒江はそう言って、コーラを飲み終える。実際、綾波レイの容姿では目立つのが難点なのだ。コ○ケのサークルや基地祭で客寄せパンダには使えるだろう。逆に言えば、普段はあまり使い出がないとも言えるが。

「数年後の続編の黒プラグスーツにしたら」

「余計に目立つだろ、あれ」

しかし、ある意味、黒江が基地祭でこの変身を披露した事がエ○ァンゲリオンの映画新シリーズに一定の影響を与えたとされる。ある意味、黒江のお茶目さが元ネタのアニメに影響を与えた例の一つと言える。(一説によると、映画新シリーズ第二作の公開後、黒江が綾波レイの容姿を使い、プラグスーツ風の黒皮のツナギライディングウェアで横田基地へスーパー1から借用したVジェットで通勤するのを、映画製作スタッフの誰かが見かけたことがきっかけで、『アヤナミレイ』のアイデアが生まれたという)

「あ、お前。調べて来たけど、2015年あたりのアニメでのお前だが、私の性格がベースになってたわ」

「うーん…。ま、いいか。私も元々の性格とは変わってますしね」

「仕方ねぇな。お前の経歴が表向きは『フィーネの方針に疑念を持って脱走し、日本に流れついて、二課に協力した装者』って事になってるのと一緒だ。今後、別世界のお前と会ったら、別人だっていうしかないのと一緒だな」

「ですね。この私は師匠から色々と受け継いだ物がある代わりに、切ちゃんたちとの繋がりは薄れた。別の私は多分、あのまま切ちゃんに依存してたと思うんで、別々の道を歩んだと説明すればいいですかね?」

「そうだなぁ。私だって、未来世界の介入が起きなくって、ドラえもんたちと会わなけりゃ、お局様のテストウィッチとして退役してたし、こんなキューティーハニーみたいな芸当はできなかった。今回は不老不死になって戦う宿命を背負ってるが、たいていの世界での『時を経て、現役時代の功績が忘れ去られて、周囲に軽んじられる』よりは、レイブンズとして英雄と讃えられる方が幸せだよ」

黒江はハッキリと、ウィッチの宿命に逆って生きて、レイブンズという英雄としての居場所を持った事を幸せだと断言する。黒江は前史以来、アイデンティティが『ウィッチ・黒江綾香』ではなく、『レイブンズが一人、黒江綾香』へと変貌しており、レイブンズが自分が『やっと得られた本当の居場所』であるとした。これは黒江の家庭環境の不幸(母親が女優にしようとするあまり、虐待に近い英才教育を施していた)、前史で『上官であるグレーテ・M・ゴロプに見下され、自分を利用して見捨て、あまつさえ、自分が敬愛する仮面ライダーらの不倶戴天の敵に与していた』などの出来事は黒江のアイデンティティに多大な影響を残し、レイブンズとしての自分こそが『子供の頃から、周りに求められた役目を演じるしかなかった自分が、自分で始めて得た大事な居場所』だと認識し、それを誇りにしている。そのため、前史で黒江の願いが起こした奇跡を自己保身のために利用した経験がある智子は強い罪悪感を抱いているし、圭子は黒江に智子がそのような事を考えていた事があると悟られぬように気を払っている。このように、黒江はシャイながら、本質的に子供っぽさが残るため、良くも悪くも純真である。その純真さが年月のうちに、智子を改心させ、圭子が保護欲を掻き立てられる理由である。冷徹な女戦士としての一面がある一方で、友人を大事にする。特に『特異点』であるが故に、前史の記憶を持ち、尚且つ、自分の全てを受け入れてくれるのび太やドラえもん達を『家族』と認識しているという乙女な一面もある。調にもその性格が感応で受け継がれたため、黒江の強い誰かへの情景はのび太の持つ暖かな家庭への情景に反映され、一本筋が通った戦士としての想いと信念は結果的に、ダイ・アナザー・デイでシュルシャガナの本質に至る一助となる。

「この姿で言うのもなんだけど、私は今の自分になれて幸せだと思ってるよ」

黒江は綾波レイの姿ながら、レイブンズとしての自分が本当の自分であるとし、不死になって戦う宿命も受け入れている事を明言した。それが黒江が数度の転生で見出した幸福であった。第三者が見れば歪んだ幸せだというだろうが、平和な時代に疎んじられ、転属先で陰湿ないじめにあった経験は黒江にある種の強い強迫観念を植えつけたと言えるため、それが扶桑陸軍航空審査部の『原罪』であり、昭和天皇がテスト部隊に不信を抱く理由であった。(航空審査部の上層部は黒江の能力を歓迎していたが、現場が疎んじたのがそもそもの不幸の始まりで、黒江が昭和天皇の寵愛を受けている事もいじめの温床になった)結果、航空審査部の系譜は横須賀航空隊共々、色々な要因で断ち切られ、戦中に空自の尽力で飛行開発実験団の影響下にある64F内の部署として再建されるまで、専任のテスト部署は置かれなかったため、昭和天皇は事件をきっかけに、かなり強い不信を抱いていたかが分かる。当時、昭和天皇の怒りに触れたことで、『不敬罪』を恐れ、航空審査部のかなりの人員が自主的に退役し、海援隊へ天下ったが、日本で問題を蒸し返されると、その海援隊からも追放されて困窮する事となり、黒江自身が救済を申し入れるまで、航空審査部のこの不祥事はタブー視されるのだ。また、海保も2019年以降、海援隊が『第二海軍』として国防省の傘下に入ったことで口出しできなくなり、結局、ある時の海保長官が目論んだ『海保を海援隊の兵力で再建し、海自と海軍への抵抗勢力にするとする』プランは幻と消えた。この時に、三笠や筑波などの日露戦争から一次大戦時の艦艇の存在について、彼が問題化したことで、海援隊は大規模改修を行ったばかりの前弩級戦艦や準弩級戦艦などを手放す羽目になったのはかなり内閣で問題視された。三笠などはせっかく、大規模改修したのをオリジナルにできるだけ戻せとする世論が煽られた結果、エンジンがタービン化されていたので、かなり内閣で問題になった。その結果、海援隊用に護衛艦の提供と巡視船の新造による準弩級戦艦や前弩級戦艦の代替船の調達が決議される。また、クーデター後には、クーデター関係者への見せしめとして、しばらく大破状態で室蘭に放置されていた近江が太平洋共和国の要請で修理されて海援隊に提供され、その後、代替の戦艦が用意される10年ほどの期間、海援隊のシンボルとされたという。

「師匠、届いてましたよ、デア○スティーニの『世界の軍艦コレクション』。定期購読頼んでたんですね」

「なのはの奴がプラモコンテストに軍艦プラモ出すから、資料用に頼まれてたんだよ」

調は黒江に持ってきたダンボールを開封して手渡す。なのははミッドチルダ住まいなので、黒江を経由して、こうしたプラモ用の資料としての完成品を購入していた。幸い、黒江達が実物を見ているので、なのはは中学から高校までの時期、プラモコンテストを総なめし、女子プラモ部の役職に恥じない実績を残していた。届いたのは扶桑が実物を完成させていた『紀伊型戦艦』(八八艦隊)であり、扶桑で実際に完成した同艦を模型化している。日本と異なり、完成が1930年代前半から中盤頃にずれ込んでいるため、艦橋構造は日本側の設計図と違い、長門型の檣楼デザインを持つ塔型になっている。加賀型戦艦の運用実績を経ての進化である。デア○スティーニが記した解説には『1930年代に現れた、1920年代型戦艦』という一文で始まる辛辣なものだが、大和の前段階的役目もあったため、船体構造は完成当時は最先端に属していたことにも触れていた。『ワシントン条約に即しての代艦という名目で造られたため、装甲を妥協しており、それがモンタナとの撃ち合いで不利に働いた』という文で閉められており、紀伊が爆沈する寸前の艦首をもたげてへし折れる瞬間がカラー写真で載せられており、見出しが悲運の新鋭艦とされていた。紀伊型戦艦は本来、フッドに予定されていたような大規模近代化が控えていた事情があり、予定では『兵器換装、タービン・ボイラー軽量化、装甲甲板強化、対魚雷バルジ強化』という大規模なものであったが、日本がより新式で強い大和型戦艦の増強を扶桑の懐疑論をねじ伏せて推し進めたため、このプランはキャンセルされ、航空戦艦化が代替とされた。大和型戦艦の増強は扶桑海軍にも予定外であったのが分かる一文として、『扶桑はこの紀伊を当面の間、使役馬的な艦として運用するつもりだったが、対大和型戦艦想定の次世代艦が台頭したため、早々に第一線艦と見なされなくなった』という解説が載せられていた。

「そいや、小沢のおっちゃんが黄金仮面にぼやかれたとか言ってたっけ。大和型戦艦は量産を想定していないとか」

扶桑がダイ・アナザー・デイまでに直面した問題が『量産想定外の大和型戦艦を量産しないと、戦艦戦力が陳腐化する』切実な問題で、播磨型は三笠型と大和型の問題点を解決した実用生産型の大和型といえる。最も、戦艦の大量造船など、最盛期のブリタニアやリベリオンしかなし得ないことであるが、日本はタンカーのノリで量産を指示したため、それが大和型戦艦の増強分たる信濃から三河に繋がった。モンタナ級を量産するリベリオンに対抗するために大和型戦艦を量産する。ある意味では新・大艦巨砲主義と言える競争である。立ち消えになった信濃型航空母艦の仕様は最終的に『格納庫72機、甲板繋止13機』で、天城と赤城の代替艦として提案されていたが、ミッドウェイより小さいことと、甲板幅が狭いこと、工事が進んでいたのを理由に却下された。空母閥は天城型よりも幅が広いと反論したが、ミッドウェイを引き合いに出され、のされた。日本側の空母としての認識はスーパーキャリアであったのが不幸だった。そのため、設計でもめている間に工事が進んでいた信濃は戦艦になり、111号も空母にできる時期を逸してしまった。そのため、その代替が雲龍の増産だったが、それも20番目の完成で却下されたため、プロメテウス級の購入に踏み切ったのが扶桑海軍だった。プロメテウス級は大鳳の二番艦から六番艦、雲龍型21番艦以降の代替品を兼ねていたのだ。しかし、空軍の設立に伴う防衛省の重大な不手際がその努力を水泡に帰してしまう。そのため、せっかくのプロメテウスも宝の持ち腐れ感が否めず、ダイ・アナザー・デイで使用され、その能力を認めさせた一方、プロメテウス級のために雲龍の払い下げを行うしか無く、扶桑海軍の思惑は成功したとは言い難くなる。そのため、プロメテウスは扶桑の空母機動部隊のシンボルとしての側面と、見栄っ張りの象徴とも揶揄される事になった。(日本側が自らのミスからの不手際を隠蔽するためにそうでっち上げただけだったが)結果的に見れば、64Fの災難は、防衛省のとある職員の事務処理ミスに発端があるといえ、後に、再建なった601航空隊は『日本はゲーリング並の夢想家』と揶揄したという。

「次号は信濃の空母バージョンか。こっちにとってはIFだが、ここじゃ完成した姿。面白いもんだぜ」

信濃は空母としてマリアナ沖海戦までに間に合えば、かなり有力な空母たり得たともされるが、実際は艦上機の陳腐化が顕著だった時期に現れても戦力たり得たかは怪しいと見られている。ある意味、練度充分な空母航空団を載せて一航戦か第三艦隊旗艦を拝命する可能性はウィッチ世界でも潰えたため、この次号はかなり扶桑軍関係者に売れたという。黒江がのび太が小学校時代から使う机に置くそれは後に、なのはがプラモコンテストで優勝する作品を作る礎となったという



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