外伝その211『大空中戦18』
――日本では防衛不祥事も多いが、防大にいっても任官拒否をする者は一定数いたので、統合士官学校に統合されることへの反対はあったし、21世紀の倫理で軍隊のしごきを叩かれることに扶桑軍の反対があり、クーデターを促す。日本は即時の懲戒免職とそれに伴う軍籍抹消で扶桑軍不満分子を押さえつけようとする世論があったが、結局、軍隊というのは、一定の懲罰がなければ成り立たないし、自衛隊でもシゴキ文化は残っている事で、結局は有耶無耶になる。しかしながら、扶桑軍の改革派(Gウィッチ派)が実権を握ってゆくことの大義名分として使用され、クーデターを経て、Gウィッチ派が組織の中枢に位置することになる。結局、『日本の思い込みで組織を混乱させるだけさせといて、自分達に非があると分かると、潮が引くように手を引き、尻拭いを現地に押し付ける』ことへの不満が日本連邦実現に奔走したレイブンズへの不満と合わさって起こったが、日本側が徹底的に粛清人事を行ったため、海軍ウィッチ隊は死に体になり、空軍は形骸化した空母航空団に部隊を派遣する羽目になる。そのため、扶桑空軍は米海軍の空母航空団との交流が深くある空軍と化し、海軍航空隊の自己完結的な人員の補充体制が完全に再建されたのが太平洋戦争も最末期である事もあり、空軍は結果として、太平洋戦争の航空戦をほぼ一手に担う事となる。逆に言えば、本来は数年で間に合うはずの海軍航空隊再建が『練度と経験に優れる空軍を使ったほうが費用対効果が高い』という理由でおざなりにされた裏返しでもある。これは日本側に『あ号作戦』のトラウマが根深く、再建間もない部隊は戦力にならないと断じていた事が理由で、これが海軍航空隊の抗議を招いてしまうことになる。しかし、日本側には『極度に損耗したら、また補充に金と時間がかかる』という費用対効果の観点と、あ号作戦で実際に起った結果を鑑みたという大義名分があり、海軍航空隊は形骸化の誹りを扶桑国民から受け続ける屈辱に甘んじる。それを宥めるためか、機材は速いペースで更新され、太平洋戦争末期には米海軍に質が追いついてしまうという、日本側にも驚きの結果になる。日本側が急かしたせいもあるが、主要艦上機は数年で第4世代ジェット戦闘機になり、トムキャットが甲板に並べられるという、なんともオーバーな光景が40年代終わりには出現する。トムキャットは空母艦載機としては高い性能であるため、パテントを取得した後、F-8/F-4EJ改の後継機として、なんと、1949年度に配備され始める。当時、ようやくシービクセン改の配備が完了したキングス・ユニオンの追従を許さぬ圧倒的性能差である。当時、初期のジェット艦上機で運用を模索していたリベリオン海軍を思いっ切り引き離している。45年の段階では、まだ紫電改/烈風が数的主力だが、クーデターを境に、ジェット化が急速に進むのである――
――ジェット艦上機の登場は空母の大型化を一層促進させ、史実信濃サイズでも小さいと判定され、結局、扶桑の自前空母はミッドウェイサイズに落ち着く。ジェット艦上戦闘機の登場は、扶桑海軍航空隊の常識を覆し、コンパクトな航空母艦の構想はメタ情報で完膚なきまでに叩き潰され、信濃の空母化すら潰された。信濃はもし、予定通りに空母化していれば『格納庫72機、露天駐機13機』という予定で、当時としては最有力とされた。しかし、紀伊の爆沈で工程が早められたこと、建艦運動で空母より戦艦を造れという圧力が国民からかかったなどの理由で、信濃型航空母艦は死産に終わった。しかし、改信濃型航空母艦そのものは名目上、大鳳改良案という形で用意されていた。そのプランを改良したのが一三号型改装空母なのである。具体的には、山本五十六や井上成美が『大和型の船体設計を流用した大型装甲空母』として提案していたのが改信濃型航空母艦である。しかし、スーパーキャリアを欲する日本側との折り合いが中々つかず、ダイ・アナザー・デイの時点で着工仕立てであった。なお、決定までに、竜骨が半完成状態で放置されていた14、15号、船体が組み立て途中で放置されていた16号艦が大和型に代わってベースとされた。その際に決定された寸法は『最終形態ミッドウェイ』相当のもので、当時としては異常に大型である。そのために各地工廠の拡大も同時に行われたので、竣工までに5年近い時間をかけた。そのために各地工廠の拡大も同時に行われたので、竣工までに5年近い時間をかけた。プロメテウスはその場繋ぎも兼ねて、調達されたのである。その余波で空母改装が見送られた伊吹は巡洋艦としてそのまま完成させられる。これは『空母にしても使い物にならないとされた』こと、今更、巡洋艦改装空母にしたところで、烈風や流星の運用すら覚束ないという軍事的意義の消滅が関係していた。史実での杜撰な計画策定が批判されたこともあり、伊吹は結局、巡洋艦として生まれいでた。井上成美が空軍に移籍するのを決意したのも、実はこの時期で、散々に戦前の構想を否定され、自分がしていないことも批判された(珊瑚海海戦など)事に反論できなかったためでもある。また、空母不要論も史実基地航空隊の連戦連敗と朝鮮戦争、あ号作戦の大敗北で事実上否定され、彼自身が激しい衝撃を受けたことも関係した。彼は『負けたからって、鬼の首を取ったように罵られることは違うと思うが』と憤慨してもいる。また、空母不要論自体はソビエト連邦が事実上、達成したものの、結局は外洋海軍志向となった後に取得に走ったのもあり、井上が望んだものとは違う結果になった。また、21世紀の空母不要論は平和な時代、巨大空母が金食い虫になってから生じたものであるので、彼はその歴史を読みふけり、海軍から空軍へ事務方高官として移籍し、太平洋戦争に入ってからは国防大臣にも任ぜられた。米内光政亡き後の改革派の重鎮と見なされた事で、彼はその後、空軍第1世代の高官として歴史に名を刻んだという。なお、海軍は山口多聞/角田覚治のツートップが小沢治三郎の辞任後に海軍に君臨し、屋台骨となる。小沢治三郎が事務的理由で空軍に移籍することになったので、山口多聞は歴代連合艦隊司令長官で有数の長期政権であったという。山口多聞は空母機動部隊出身であるため、太平洋戦争の司令長官に相応しいと日本側からも見做されており、小沢治三郎がクーデターを理由に連合艦隊司令長官の辞意を表明した後の後任に指名された時は喜ばれたという。日本側にとって、交流で予想外であったことはいくつかある。それを例に挙げると。
・戦艦同士の砲撃戦は机上の研究こそ史実と同レベルにになってはいたが、情勢的理由で机上の空論と思われていた
・空母はウィッチ運用母艦の扱いに半ばなっており、ウィッチ12人は艦上機70機と同等の価値があると考えられたこと
・史実より潜水空母が多い
・魔力の素養があれば、一桁の年齢だろうが実戦に出し、20代に入ればお払い箱
などだ。このうちの『魔力の素養があれば、一桁の年齢だろうが、実戦に出す』を日本側がジュネーブ条約を理由に規制しようとしたら、ウィッチクーデターが起こるのである。武子や竹井は作戦前まで、Rウィッチ化の周知に努めたが、黒江や坂本は冷ややかである。これは武子や竹井は黒江や坂本のような『いじめられたり、疎んじられた』経験がないからでもある。黒江は審査部事件や505、坂本は前史の後半生でそれぞれネガティブな体験をしているので、『クーデターを阻止すれば、改革は中途半端に終わる』と考えており、規模の縮小があればラッキー程度に捉えていた。一方の竹井や武子は『事変のクーデター』で同じ扶桑人同士が相争う光景が起きてほしくないと心に誓ったのもあり、クーデター抑止に必死だった。黒江は『オレたちが戻った以上、クーデターはどうやっても止まらねぇよ』と述べているように、自分達の前線復帰そのものがウィッチの倫理に反すると考えているのが多数派だと見抜いている。前史の坂本がそうであったように、『襷を引き継いだ自分達はそんなに頼りないのか』と反発されるからだ。
――作戦直前――
「貴方はどうして、クーデターは起きたほうがいいって考えるのよ」
「改革を完全にするにゃ、膿を出す必要があるからだ。それにオレたちは出戻りだ。ガランド閣下みたいに実戦部隊に籍置き続けたわけじゃないし、扶桑じゃ、オレたちは物好きって言われてんだぞ」
黒江は後輩達に疎んじられつつ、上層部には寵愛されている現状をそう評する。黒江はゴロプに『極東の老いぼれ田舎者』と見下されていた事などから、『自分達の居場所を作る』ことが目的になっていたので、本国で後輩達に疎んじられている事は肌で感じていた。その老いぼれが『約束された勝利の剣』を撃てることが分かると、羨望の声が出る一方で嫉妬を買うことはわかっている。
「約束された勝利の剣の映像を旧504や502、506の連中に見せたら特撮だって言われたんだぜ?当時の時点の合成技術でできるかっての」
覚醒前のミーナが引きつったように、約束された勝利の剣は江藤の箝口令が悪い方向に作用した例である。江藤が箝口令を敷いたのは、黒江たちが若いうちから持ち上げられることを嫌ったのもあるが、チームプレーを覚えさせたかった事、ウィッチ隊の士気に関わると、当時の関係者各位が秘匿を選んだための事務処理でもあった。江藤が作戦中に拗ねた理由は主に、日本のマスメディアから『妬みで秘匿したのではないか』と理不尽に叩かれたからでもある。また、それで従軍経験がある父親に激しく叱責されたらしく、江藤は覚醒後に真意を説明する機会を得られるまで、地元での評価は一時落ち込むことになる。江藤は記者会見で日本のマスコミに、しつこく『妬みで秘匿した、日本軍にありがちの部下いじりではないか?はっきり認めろ』と責められたため、『戦闘諸報にハッキリと記したし、部隊記録にもきちんと残した!』と一度答えたが、『戦闘諸報は恣意的に使われた。レイテ沖海戦の日本海軍がそうだったように!所詮は軍隊しか知らぬ小娘が!』と罵られた。職業差別とも取れる罵りであるし、喫茶店を営んだ事もある江藤にはこれ以上ない屈辱だった。
「私は正当に記録して報告していました」
「またまたぁ、そんなこと言っても部下がやたら挙げてくる戦功を妬ましく思ってたんじゃ無いですかぁ?」
「なんでそんなことしなきゃならないんですか!? 部隊の皆、戦場に居た皆、戦友は家族も同然、喜びこそすれ妬むなんて有るわけ無いじゃ無いですか!同じ死線を潜った仲間に申し訳がたたないでしょ!そんなことも、いえ、ごめんなさい解って貰える訳ないんですよね、戦場から離れたこの日本では…」
「な、何を言って…」
「私の言うことなど結果を見れば通ることの無い話なんでしょ!」
普段は中性的な言葉づかいの江藤だが、場の問題と素が出たこともあり、女性言葉を多用し、途中から泣き声だった。江藤は元々、素が女性らしかったらしい。普段の態度は意識して変えていたものであるのだ。堪りかね、泣き崩れる江藤。会見に同席していた艦娘・陸奥は『彼女に非はありません。参謀本部作戦課が必要と判断して秘匿したのです』と代わりに続ける。事変当時からはすっかり世代交代していた陸軍参謀本部作戦課(第二課)はその日から抗議の電話が業務の支障をきたすほど鳴り響く羽目になった。すっかり人員が入れ替わっている作戦課の人員に責任を負わせるのは魔女裁判に近い。しかし、何らかの処分がなければ、日本側が納得しないため、現在の責任者の給与自主返納の処分はなされたという。また、スオムスにもいらん子中隊の事でこの騒動が飛び火し、マンネルヘイム元帥の立場を揺るがしてしまう。マンネルヘイム元帥が慌てて機密を全解除したのは、作戦直前の事。智子の事で報復措置が取られるのを彼が怯えたせいもある。マンネルヘイム元帥としては『当時の連合軍の共通認識として秘匿が選ばれたのであり、穴拭智子大尉(転属時)を冷遇する意図はなく、白バラ勲章を授与している』という認識であった。しかし、日本のマスコミはお構いなしであり、それを見かねたフィンランドも動いてしまったため、マンネルヘイムは智子に自分用に制定していた『宝飾・剣付スオムス白薔薇勲章』を授与する羽目になる。このように、必要以上の秘匿がウィッチの世代間対立を煽っていたことがレイブンズの復帰で白日の下に晒されていったわけである。マンネルヘイムとしてはとばっちりであったが、日本連邦の抗議からの経済制裁を本気で恐れたのは事実だ。そのため、智子に与えられる名誉は全て与え、口を噤んでもらいたい本音がある。しかし、日本から伝わったライトノベルがその努力を無に帰した。全ての詳細が子供でも買える値段の本に書かれていたのだ。日付の誤差があれど、出来事自体は正確に。しかも書かれた日付は日本にウィッチ世界のことが伝わる前の事。また、運悪く、情報の秘匿を主導したモントゴメリーはアフリカでの敗戦で失点していた事もあり、元帥を解任され、2階級降格になってしまった。懲罰的だが、アフリカの敗北の責は問わねばならなかったため、二階級降格になってしまった。当人は史実よりだいぶポジティブであるため、『私は裏方の方が向いてるみたいだし、突撃オヤジと彷徨くオッサンのケツ持ちに専念するか』と前向きである。ロンメルとパットンは人気があるために降格は免れ、給与の30パー減額で済んだ。また、ロンメルは『既存の装甲戦闘車両が日本のおかげで陳腐化しそうだし、レオパルト2ちょーだい!』とドイツにレオパルト2戦車の供与を催促したため、ドイツも驚いたという。
――大艦巨砲主義全開な海戦。その裏で行われる黒江達の死闘。イリヤはクロや美遊と違い、黒江たちと行動を共にしている。その関係で間近でヒーロー達の戦いを目撃することになり、彼等の獅子奮迅ぶりを目の当たりにした――
『レーザーブレード!』
『ツインブレードッ!』
ギャバンとスピルバンがブレードを取り出し、それにエネルギーを注入する。剣を正式な武器にした等身大ヒーローはおそらく、彼等が最初であろう。最も、スピルバンはシャリバンの後身(代替わりの後に、伊賀電が新たなコンバットスーツとコードネーム+偽名を与えられたという特殊な事情がある)であるという事情があるが、とにかくも獅子奮迅ぶりを目の当たりにしたイリヤ。
『チュウ!!』
宇宙刑事やそれに似た特性を持つヒーロー達はレーザーブレードやその派生系の技を持つことが多い。磁雷矢の磁光真空剣もその一つだ。スピルバンやギャバンは事実上、その『はしり』と言えるので、剣技は熟練されている。イリヤがアルトリアの借り物に頼る状態であるのに対し、彼等は『敵』を倒し、戦闘力が完成された状態であるので、基礎的戦闘力に差があった。ツインブレードを持つスピルバンはブレードの扱いが薙刀に近いので、ある意味では、黒江達にとっても勉強になる。
双刀のツインブレードから、如何にアークインパルスに繋げるのか。そのお手本をスピルバンは見せた。
「トウ!」
ツインブレードの片側の刀身を伸ばし、敵に突き刺す。ダメージが入ったところで引き抜き、アークインパルスを決める。
「アークイン・パルス!!」
スピルバンはアークインパルスの決めポーズもバシッと決め、いいところを見せる。彼の元々の技『シャリバンクラッシュ』よりもケレン味ある技であり、シンフォギア世界で黒江が度々、真似したほどカッコいい技である。要するに、ツインブレードをXの字を描くように動かして斬るのだが、意外に技に熟練を要する。既存の武器で言えば、薙刀とも、手槍とも言えるツインブレードを縦横無尽に操るには相応の訓練が必要で、武芸に才能があった黒江も扱える様になるには数週間を要したほどだ。
「おお、さすがスピルバンさん。手慣れてる」
「なに、俺も相応に訓練したさ。前のコンバットスーツは普通のレーザーブレードだったしね」
「確かに」
黒江でも数週間を要したツインブレードだが、芳佳と黒田は初見で覚えており、そこは黒江より才覚に優れる点だろう。芳佳は類似の双炎斬を既に会得していたので、黒田は槍と剣の双方の経験があるために習得が早く、剣技にほぼ特化した黒江が難儀したのは当然と言える。
「おい、ちょっと待ってくれ。すると、なんだ?ばーちゃんはこの人から習ったのか?」
「半分は見様見真似だよ、クリス。あらかたモノにできた頃にお前んとこに飛ばされたって事だよ」
黒江にタネ明かしされるクリス。スーパーヒーローが実在した世界というのも驚きだが、その技を再現できる黒江の才覚に舌を巻く。
「でもよ、ばーちゃん。まだばーちゃんの事がわかんなかった時に何度か戦っただろ?よくシュルシャガナのギアであいつとやれたよなぁ」
「まー、あいつは猪突猛進だから、割にあしらいやすかったしな」
黒江自身、転移したての頃に立花響とは数回戦闘し、そのうちの一回はエクスカリバーで昏睡状態にしているが、素手の格闘で圧倒した事もある。
「あいつ、拳を交えた時に別人みたいに思えたとか言ってたけど、分かるもんなのか?」
「まー、オレと調とじゃ気が違うしな」
戦法の違いもさる事ながら、別人であるので、拳がぶつかりあう際の気の勢いも全く違う。格闘の心得がある響は疑念をこれで抱くようになったと言っていた。
「あん時は、ギアのお陰でウッカリ全力出せなくて良かったわ、ホント」
「え、ばーちゃん全力じゃ無かったのかよ?!」
「おう、下手したら銀河ごと無に返しちまいかねんしな」
「銀河ぁ!?」
ナインセンシズの聖闘士は単独でアテナエクスクラメーションと同等の破壊力を引き出せるので、生身でも火星から金星は粉砕できる。そのため、黄金聖闘士の特に強い者が全力を出すと、シンフォギアといえども一瞬で塵芥にされると言っていい。
「あんまり本気出すとギアの機能に異常起きるんだ。うっかり寝ぼけて小宇宙燃やしたら、ギアの全リミッターが物理的にぶっ壊れて、一週間くらいエクスドライブ状態になった事あるし」
「んなぁ!?」
「それに、私が普通に歌って、サウンドエナジーを高めてもリミッター外れたしなぁ」
黒江はミレーヌ・ジーナスに比肩するレベルのサウンドエナジーを引き出せるため、シンフォギアのリミッターは任意で外すことができる。(ミレーヌ・ジーナスはシェリル・ノームとランカ・リーの二人分を上回るサウンドエナジーを引き出せるため、それと同レベルの黒江はある意味、ジャミングバーズより凄い)逆に言えば、シンフォギア世界で起こせるチバソング値は比較的低いという事である。素でサウンドエナジーの波動を可視化できる熱気バサラやミレーヌ・ジーナスなどはシンフォギア世界からすれば、喉から手が出るほど興味を惹かれるだろう。黒江はDr.チバとはガムリン木崎を介して知り合い、彼の研究に協力しているので、歌をエネルギーとしても考えている。だが、シンフォギア世界は先史文明の遺物を制御するためのキーとして、歌を見ている。そこが黒江が垣間見せたサウンドエナジーを理解しきれない点だろう。可視化された波動は余波だけで翼、響、クリスのギアを強制起動させかねない(翼は本当に強制起動してしまったが)ものであったし、黒江の歌はシンフォギアを操れるというのは解析されている。だが、どうして聞こえてくる歌でシンフォギアが強制起動したのか、解除が一時的にできなくなったのか?その謎はシンフォギア世界の研究では答えを出せなかった。後に、調の持ち込んだシュルシャガナを解析したDr.チバは『強力なサウンドエナジーがシンフォギアに干渉した結果、シンフォギアの機能が一時的に変調したのだろう』という見解である。
「こっちには、お前らの言うフォニックゲイン、私達は―サウンドエナジーと呼んでる―の権威がいるからな。こっちのほうがむしろ研究進んでるよ」
「何だって!?」
「仕方ないさ。こっちには歌で戦争を終わらせた実例があって、それからグンと研究が進んだし、科学力も段違いなんだ。それに宇宙人のテクノロジーを自家薬籠中の物にしてきてるんだぞ。先史文明の遺産の解析くらい簡単だ」
「でもよ、フィーネが作ったモンをそう簡単に解析できるのかよ?」
「ウィル博士がそうだったろ?シンフォギアを完全にお前たちと同等レベルで具現化させていた」
「で、なんであいつの姿を取ったままなんだよ?」
「ウチのガキが来てるからだ」
「ばーちゃんの子供かよ?」
「正確には姪っ子だ。兄貴の方の子供なんだよ。オレにそっくりだから、見分けつけるために容姿は変えてるんだ」
黒江は作戦中、調の容姿を取っている。慣れているからだが、瞳の色と背丈は変えてある。
「変えるにしても使いやすい姿がコレか綾波レイくらいだし、アレは色味変えてもギャグにもならん、調の姿で2Pカラーの方がマシだ」
「何気に凄くね?」
「キューティーハニーの空中元素固定装置を能力として持ってると思え。服装は素の戦闘服に着替えたしな」
黒江は戦闘時には調の容姿を使うことが多いと明言する。綾波レイの姿でアクションするのはどうにもしっくりこないらしい。
「で、やってることはガン=カタかよ」
「まー、ツインテール姿でガンアクションだと、ガン=カタになるし」
「なんだよそれ!」
『ギャバン・ダイナミック!!』
そんなことを言い合う内に、宇宙刑事ギャバンがギャバンダイナミックを決める。オーソドックスだが、一撃必殺だ。
「ギャバンさん、もうすぐデスクワークでしょ?」
「お義父さんがそろそろ退官なんだよ。その後任に娘婿の俺が推されてるんだ」
一条寺烈=ギャバンは、義父のコムの銀河連邦警察の退官が迫っており、この任務が終われば、後任に推挙されると明言する。それに従い、現場を引退するらしい。
「デスクワークって柄でもないっしょ」
「それがな、太陽系パトロール隊での功績が評価されて、昇進は間違いないんだよな。柄じゃないんだがなぁ」
「そう言えば、ギャバンさんも後継者を見つけたんでしょ?」
「俺は十文字撃という若者を見出して継がせるつもりだよ。シャリバンはまだ若いから、特命捜査官になって、スピルバンになったが」
「ややこしく無いっすか?」
「レーザーブレードを撃が折っちまったから、ジャスピオンの故郷に行って研ぎ直してきたし」
「ジャスピオンいるんすか!」
「俺の知り合いだよ」
「何気に同じ世界だったんすね…」
「ダイレオンを考えてみてくれって」
「確かに」
巨獣特捜ジャスピオンと知り合いであることを烈は明言する。従って、彼から『コズミックハーレーを伝授されていることになる。
「あれ?ジャスピオンと知り合いってことは、コズミックハーレーできるんじゃ?」
「できるよ。ギャバンダイナミックが破られていないから使ってないだけさ」
宇宙刑事の必殺技はまず破られないため、技のバリエーションを持っていても使わない事が多い事を告げるギャバン。
「俺はレーザーZビームからのギャバンダイナミックでドン・ホラーも倒したからなぁ。覚えても機会ないのよね」
ギャバンは二枚目半なので、時たまコミカルなところを見せる。銀河連邦警察の俊英ながら、意外に金欠だったりするので、お固くないのが彼の魅力だ。
「そう言えば、シャリバンのコードネームは誰が継いだんですか?」
「日向快。元は巡査で、俺が見出したんだが、まだまだ計算に頼りがちの青い奴だよ」
「スピルバンさんが?」
「俺も昇進でデスクワークになる予定だったんだが、フーマやマクーの残党がいてな…」
スピルバンが言う。
「因みに俺、大金持ち歩いても落としかねないしカードも嫁さんに報告上げないと基本使えないし。宿代専用だよ」
「変身した姿で言うと、シュールですよ、ギャバンさん」
「隊長、俺やシャイダーにまで借りるんだから」
「うん、太陽系パトロール隊の隊長で、もうじき連邦警察高官の座が約束されてるって人のセリフじゃないなぁ」
「しばらくは君とは会えなくなるよ。バード星でしばらくはお義父さんから引き継ぎしないとな」
ギャバンは現場からの引退が義父の引退で訪れるのは寂しそうである。
「お金、どうするんすか」
「良いんだよ、偉くなったら側近に金銭管理投げられるから。だいたい、お義父さんもお金には疎いし」
「ミミーさんに怒られますよ、隊長」
「嫁さんにはお前から言っといてくれ」
「もう」
スピルバンになっても、伊賀電と一条寺烈の関係は変わらないようだ。もっとも、今は伊賀電を名乗っていないが。
「えーと、今は城洋介ですよね、地球名」
「ああ。その名は俺と同期で、フーマの攻撃で命を落とした悪友から頂いたものさ」
初代シャリバン=伊賀電には城洋介という名の同じ地球人の悪友がおり、フーマの攻撃で殉職した事が語られる。彼とは訓練生時代の悪友であり、彼の戦死後、伊賀電がシャリバンを辞した後に特命捜査官に任じられた際の地球名として使用するに至った経緯がある。偶然、彼とは容貌も似ていたため、伊賀電が仮名として使うのは当然の帰路と言えた。
「いいんですか?」
「遺族には許可もらってるさ。快の奴にシャリバンの名は渡したから、俺は時空戦士スピルバンとして戦うさ」
宇宙刑事の代替わりはシャリバン、次いでシャイダー、最後にギャバンとなる。これは昇進の順番でもあり、ギャバンは一条寺烈のイメージが強く、更に彼自身が現場向けの気質である事から、高官にするのに反対論があったからだ。更に言えば、縁故人事になるという批判が生じ、間に人を挟むかで問題になった経緯がある。また、コム長官もギャバンも、娘婿(義父)の力に頼ったと勘ぐられるのを嫌ったため、ギャバンはコムの在任中は特捜司法官止まりであり、コムの退官後に銀河連邦警察高官の座を射止める。その間に一代挟んでおり、銀河連邦警察もかなり苦労した事が分かる。こうして、ダイ・アナザー・デイはギャバンがそれまでの太陽系パトロール隊長として担当した戦いの最後を飾ることになる。銀河連邦警察を30年以上も支えたコムの後任は突然のことであり、組織が混乱し、結局、場つなぎでギャバンの教え子が抜擢された後、数年を挟んで、ギャバンが本命として就任するため、黒江とは本当に数年ほど会えないのだ。そのため、スピルバンがギャバンの代理ということで協力してゆく事になる。コム長官はそれを見越して、スピルバンに最新鋭超次元戦闘母艦『グランナスカ』を与えたのだろう…。グランドバースを嚆矢にした『人型へのトランスフォーメーション』機能保有の母艦の最新型がグランナスカであり、バビロスよりも洗練されたフォルムを持つ。カノンフォーメーションはシューティングフォーメーションの発展であり、元々、マクロスの元になった宇宙戦艦の持ち主「監察軍」の砲艦を参考にして練り上げたものだ。その銀河連邦警察すらも監察軍の正体はつかめていない。一説によれば、プロトデビルンに洗脳されたプロトカルチャーの軍隊の生き残りともされるが、確証はない。プロトカルチャーの軍隊はゼントラーディともされるため、プロトデビルンにコントロールされているゼントラーディの説が通説だ。そのために謎も多く、転生を重ねた黒江達すらも全貌はつかめていない。それがプロトカルチャーの滅亡なのだ。
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