外伝その238『心はサムライ』
――黒江や智子は鎧擬亜の資格も得ていた。その事は坂本たちを苦笑させたものの、軍の要望である東洋風の力の要項は満たした。扶桑軍に取って、聖闘士の力は西洋的であり、あまり好ましくないとする声もあった。その反面、東洋的とされた鎧擬亜の力はプロパガンダには最適とされた。軍部の国粋主義的発想ではあったが、実際、オリンポス十二神は欧州の神であり、軍部には東洋が長年育んで来た『儒教』や『神道』への郷愁から、聖闘士の力への反発もあったのは事実だ。鎧擬亜というものは元々、とある世界で、仁・義・礼・智・信・忠・孝・悌・忍の心に対応する形で制作されたプロテクターの一種である。十つめの『勇』の心に対応するモノは制作されず、実質的に上位互換を持つ『輝煌帝』が十番目のものであると取れる。神道としては『レイブンズは行った先の神々からも祝福を受けた精鋭』だから問題ないという見解であったが、軍部の一部にはけしからんという声もあったのは事実だ。智子はその兼ね合いで烈火の鎧擬亜を実戦で初使用していた。聖闘士としての星座は氷技で鳴らす水瓶座であったので、反転した属性を持つ事になった。
――戦場――
「こっちは実戦で試すのは初めてなのよねっ!」
鎧擬亜はまずアンダーギアを纏う必要があるため、それを身にまとう。それを経て、鎧擬亜を召喚する。
『武装ぉぉぉ・烈火ぁぁ――っ!』
智子はここで自身が得ていた力の内、聖闘士由来ではない力を披露する。武装・烈火。赤を基調にしたカラーリングのプロテクターを纏う。背中には二刀を背負っている。日本の鎧兜を連想させるが、メカメカしさがないわけではない。
「どう?東洋的でしょう?」
「でもさ、妙にメカメカしいような気もするぜ?」
「多分、数代前の時点で改良したんじゃない?誰かが。そこまでは知らないけど」
雪音クリスに智子は言う。鎧擬亜は時期によって形状が異なるとされたりするので、智子が纏った烈火の鎧は『オーソドックスな形状』のものだ。
「綾香がそっちで使った技の一部は本当は擬亜を纏うのが前提条件なのよ。それを見せてあげるわ」
智子は背中の二刀を抜き、それをツインブレードにし、空高く舞い上がって構えた。
『そぉぉえぇぇんざぁああんッ!!』
ツインブレードから放たれた炎が敵の戦車軍団を飲み込み、爆破する。これこそが本来は烈火の鎧で放つ事が前提条件である『双炎斬』である。黒江はこれをシンフォギアを纏った状態で放っていた。しかも超弾動状態のものを。
「芳佳は素で使うけど、アレは魔力で無理矢理ブーストしている似て非なる物なんだけど、燃費はアッチの方が良いのよね、威力が段違いだけど。綾香の奴はガチで撃ってるわよ」
黒江は超弾動に目覚めているため、シンフォギアを纏った状態であろうと放つ事が可能であり、小宇宙でブーストをかけることすら可能という反則ぶりを発揮している。(黒江は雷光斬のほうが本職と言えるので、双炎斬については再現である)また、雷光斬で風鳴翼の炎鳥極翔斬を打ち砕いた事もあり、風鳴翼は一時、黒江を(正体不明とされた時期)ライバル視していたりする。
「でもさ、ばーちゃんが炎の属性なら、綾香ばーちゃんはなんなんだ?」
「あの子は光輪。光の属性よ。だから聖闘士としての属性と珍しく一致してるのよ。あの子、雷系統の技を持ってたでしょ?」
「た、確かに」
「電気を扱うのは俺が最初だぜ。改造電気人間だしな」
「なんだよ、その電気人間って」
「体内に強力なダイナモが埋め込まれてるからだよ」
「あんたら、全身を改造されてんのに、どうして生身の姿だった頃の姿を取れるんだ?」
「ナノマシンで作られた人工皮膚が骨格と人工筋肉を覆ってるんだよ、俺達は基本的に」
仮面ライダーは極初期の改造人間にあった『改造前の皮膚を被るタイプではなく、一号の段階でナノマシンが人工皮膚を構築する高度な構造のものとなっている。元々が組織の大幹部、あるいは首領の後継ともされるほどの贅を尽くした改造人間だったからこそ、高性能だったのだ。
「俺は電流に耐えられるナノマシンができなくて、妥協されたんだ。大学ん時のダチがプロトタイプの被検体になったんだが、電流によるナノマシンの暴走で死んでる。だから、腕までは人工皮膚で覆えない」
ストロンガーはそのプロトタイプにスパークという個体がいた。その被験者は城茂の大学時代の親友『沼田五郎』であった。改造手術はナノマシンの暴走で生命維持装置が破壊されて失敗に終わった。ストロンガーは人工皮膚を腕までは覆わないこととナノマシンの改良で克服した個体である。『ビートル計画』と呼ばれた仮面ライダー第三世代製造計画の産物である。
「今は遥かに改良されたナノマシンで覆えるけどよ、ダチの思い出は忘れたくなくてな、普段はこのままさ」
その思い出には岬ユリ子、立花藤兵衛との思い出も含まれているため、改良されても、コイル状の腕をトレードマークにしている茂。もっとも、超電子ダイナモそのものはブラックサタンが健在時に正木博士が研究していて、実証された理論だったが、脳改造コントロールやサタン虫によるコントロールが困難になるというのでボツった理論である。ブラックサタンが倒れた後、正木博士が茂を再改造した結果、ブラックサタンの上位組織たるデルザー軍団をもぶちのめす切り札となったのも皮肉な結果と言えるが。
「あんた、初期の七人の末席だそうだけど、いつが現役だ?」
「現役ン時は1975年。お前が生まれるずっと前だよ。俺たちは70年代前半に改造された改造人間ってこった」
茂までの7人ライダーはクリスの時代には老境に達した世代の人間である。ある意味、ジェネレーションギャップがあるといえる。最も悪の組織が活動し、そのカウンターになるヒーローも雲霞のように存在した時代。それが日本が先進国として成熟する時代に重なったのである。
「俺達みたいに凱旋できたヒーローは幸せさ。相打ちになって果てたロボットヒーローや人工心臓の寿命で死んだ奴だっているんだぜ」
それは大鉄人17(ブレインに特攻)、宇宙鉄人キョーダイン(自爆技で死なば諸共に滅び去った)、鉄人タイガーセブンの事である。鉄人タイガーセブンに至っては自分の死が迫り、敵を倒した段階で正体を明かし、その直後に人知れず最期を遂げている。それに比べれば、人々の希望の光として凱旋した7人の仮面ライダーは幸福である。ジャイアントロボも宇宙へ姿を消しているなど、意外にビターエンドに終わったヒーローの戦いは多い。因みにマッハバロンは世界によっては『ラスボスと相打ちになって果てる世界』も存在するとのことである。
「なんか、昭和ってハッピーに終わるかと思ってたけど、意外にビターなんだな」
「正義の味方が勝って終わりゃいいが、何かを失う場合も多いしな。古くはエイトマンだぞ」
エイトマンを引き合いに出す茂。意外にヒーローの戦いはビターエンドも多い。大鉄人17や宇宙鉄人キョーダインはその典型である。7人ライダーは人々に勝利を祝福されての凱旋を果たした最も幸福なケースなのだ。
「俺達みてぇに新聞に『大勝利!』って書かれたヒーローのほうが意外に少ないぜ?」
――ヒーローは最後には消える定めだが、中には歴代仮面ライダーやスーパー戦隊のように、代替わりした後輩の為に再び現れる者もいる、皆それぞれなのだ――
「立つ鳥跡を濁さず、なんてあるが、俺達も代替わりが頻繁にあった時は半年で入れ替わりあったんだ」
隼人も付け加える。昭和仮面ライダーで最も早い交代は仮面ライダーXからストロンガーまでの時期にあたる。デルザー軍団との決戦が短期決戦になったのは第三陣の半機械化人のジェットコンドルとミミズミイラが米軍に倒されて戦死したからである。
「あんたら、週刊誌のネタにされそうだぞ、そのぶっちゃけ話」
「ヒーローが実在してると信じてるのは当事者とお偉方だけさ。後は特撮と思ってるさ」
仮面ライダー達、ヒーロー達の事は極秘にされていたため、表向きはその時代の特撮ヒーローという事にされている。だが、実際には本当に戦っていたし、メタルダーも本当に旧日本陸軍最終兵器であった。ただし、特撮の轟天号はラ號の欺瞞の過程で生まれた派生物であったが。最終兵器であったはずのラ號が従来の46cm砲を積んだ理由は『まほろばに供給する分しか51cm砲が用意できなかったから』で、意外に世知辛い。また、計画より低下した打撃力を四連装砲塔で補おうとした合理性は理解された。21世紀日本もそこは理解を示した。本来は45口径51cm砲三連装九門。ラ號が目指した性能は超大和型としては安全牌を踏んでいる。
「特撮でドリル戦艦ってのがあるが、本当に俺達の世界じゃ作られてたんだよな。戦艦大和をベースに」
「戦艦大和って何隻あるんだよ」
「計画では四隻だった。大正の頃の古い戦艦を取っ替えるのが急務だったからな。戦前は戦艦の質で戦争を左右するって信じられてたしな」
「あんなバカでかいのを四隻ぃ?」
「君の時代の米軍空母よりは小さいよ。だが、海の戦艦としては排水量で最大だった」
「砲艦外交、華やかなりし頃、って訳だ。戦艦陸奥ができてから20年経って、日本の戦艦はどれも運用寿命の折り返し地点過ぎたオンボロだったしな」
「どうしてだ?」
「君の時代の空母と同じ理由だ。戦艦は強く大きくなると、金食い虫になってしまったんだ。大和ができる前にそれで軍縮の流れになったくらいにね」
「そう言えば、おっさんたちにばーちゃん達が話してるの聞いたけど、そんな事だったのか?」
「たいていの世界じゃ、武蔵で打ち止めだったからよ、戦艦は。でも、ドラえもんの世界だと、それも超える戦艦が作られていたのよね」
ラ號は大日本帝国海軍史上最後の大戦艦であり、その集大成であった。大和型の系譜であるが、船底までも溶接構造になっているなど、三次元戦闘を考慮した構造にされている。完全気密仕様の船体であったのが幸いし、宇宙戦艦への強化は容易であり、大和型ベースの宇宙戦艦では一番に工期が短い。そこがモンタナが元の設計からして急ごしらえで、『リバティー』の前座という立場であるのを強調させ、ラ號の船体設計の完成度が覗えるというものだ。
「あのバケモン連中がそうなのか?」
「元はドイツが考えたアイデアだそうだ。だが、それを察知した主要国が合法・非合法を問わず技術を得て、急いで作ったのがあのドリル戦艦達だ」
「急いでぇ?」
「計画が世に完全に知れ渡ったのは1944年。日本軍もドイツ軍も敗北寸前に追い詰められた頃なんだ。連合国は枢軸国ほどの情熱を持たなかったし、唯一完成したイギリスのは保管されてた旧式戦艦の改造で、とても他国最新鋭艦と渡り合えるものではない」
枢軸国は凄まじい情熱でラ級を完成、もしくは戦後に完成させ、一方は世界征服の尖兵として、もう一方は人類を守る盾として存在する。本来は轡を並べる事も有り得た、ドイツ第三帝国の最後の大戦艦と大日本帝国の最後の大戦艦。ドイツ第三帝国がキール運河に縛られない設計で作り上げたため、その戦闘力はラ級最強を争うフリードリヒ・デア・グロッセ。ラ號の正真正銘のライバルはこの艦である。同じ枢軸国を出自とする。
「たいていは最新鋭の戦艦をベースに造られたから、相応の性能がある。イギリスだけだ、ケチったのは」
イギリスは第一次世界大戦直後、こっそりと一隻だけ完成させたG3型巡洋戦艦をベースにしたが、その攻撃力は陳腐化している。それ以上の存在がいない戦後なら抑止力となり得たが、フォークランド紛争投入が頓挫した事で21世紀になって存在が公にされた『大英帝国の忘れ形見』は戦後世界には存在意義に疑問を呈されたが、機動性の問題を波動エンジンで克服すれば、地球連邦軍の並の宇宙艦艇顔負けの機動力で三次元戦闘ができる。ラ號とモンタナの戦闘機さながらのドッグファイトがその証明である。その戦闘で優劣を決めたのは『設計で三次元戦闘を考慮していたのか』の一点だ。
「宇宙戦艦ヤマトの波動エンジンでもないと、あんな激しい機動戦はできない。だから、イギリスはフォークランド紛争でも艦砲射撃に使う程度しか検討しなかった。だが、逆に巨体に見合うエンジンさえあれば、そんじょそこらの戦闘機はお呼びじゃない」
ラ號は波動エンジンの搭載で生まれ変わり、21世紀の戦闘機を凌ぐ機敏さを手に入れた。列強の宇宙戦艦としては、これで戦艦の標準の範囲である。
「でもよ、戦艦があんだけ激しい動きをできるなら、艦載機いらねーんじゃ?」
「いや、色々な兼ね合いもあって、艦載機は載せられる。元々、水上偵察機を観測機として積める設計だったし」
「それだけすごいの作ってたら、間に合わねぇわけだ」
「そういう事。どんなに凄くても、負けたら終わりだ。だが、日本海軍の生き残りたちは本当に作っちゃったわけだ」
クリスは呆れるが、日本海軍残党は本当にラ號を作ってしまい、デスパー軍団から日本を守った。その後に遺志を継ぐものたちが宇宙戦艦としたのである。
「サムライ達の心意気ってやつか?」
「かもね。この烈火の鎧も元は戦国時代くらいの頃に別の世界の化物が纏っていた鎧に宿った怨念を分割、浄化する目的で造られた内の一個よ。聖衣とは成り立ちが根本的に違うのよね。一個を除いて」
その一個は輝煌帝と呼ばれるもので、上位互換の力を持つが、その出自は明確に異なるものだ。少なくとも六つは時空融合の影響で23世紀に現れ、普通の鎧兜と思ったどこかの博物館に収蔵され、展示してあった。その後に三つ(烈火、光輪、輝煌帝)は素質があった二人の手に渡り、ダイ・アナザー・デイで公に戦闘に供されたわけだ。
「先輩が見たら大いに憤慨するぜ?細かい部分はメカメカしいけど、大まかには戦国時代くらいの鎧兜を模してるだろ、それ」
「上位種って性能の輝煌帝って鎧もあるし、それを使ったら、あの子の力では打ち合うことで精一杯かもね」
「どうなってるんだよ、それ」
「要するに、人智を超えた力を宿す分、人為的に聖遺物の力を勃起させたシンフォギアとに格差が出ちゃうって奴よ。コイツは東洋の聖衣に近い代物だし」
「また来るぞ!」
「あらよっと!」
智子は烈火の鎧の烈火剣を奮い、襲いかかるM4中戦車を乗員ごと両断する。元々、人智を超えた相手を屠るための剣であるので、M4中戦車程度は軽いものだ。左腕で砲弾、右腕の剣で轢き殺そうとした戦車を切り裂いている。
「あの子(風鳴翼)に伝えなさい。二刀流の真髄を教えてあげるって」
「先輩、アンタらにジェラシーだったし、それ聞いたら泣くぞ」
「あの子って、弟子の一人に声が似てるのよね。聞き分け難しいのよ」
「それは綾香ばーちゃんも言ってたっけ。曰く、先輩の方が声低めらしいんだけど」
フェイトと風鳴翼は声色がよく似ていた。違うのは、風鳴翼のほうがトーンが低めであるところで、黒江がおもちゃにした一因である。これはマリアと箒も同じようなものだが、箒はマリアと違い、女性言葉をあまり使わないので、聞き分けは簡単だ。
「翼って子、なんでちょっと中二病入った口調なの?」
「ああ、それはあたしも人づたいに聞いただけなんだけどよ……」
クリスは智子に風鳴翼の口調について、自分の知り得る範囲での情報を教えた。翼は異常な血統主義の祖父が母を犯して孕ませた末の子供というもので、血縁上は『祖父』が父である近親相姦ぶりであり、黒江が軍隊階級で黙らせた時には喝采が起こったほどだ。
「……でもよ、軍隊の偉い順ってそんなに重要か?」
「翼も感謝してると思うわよ。厄介なジジイの横槍を軍隊階級で止めたんですもの。綾香はもう大佐、翼のおじいさんは終戦時は少尉くらいだから、絶対に逆らえない」
軍規が厳しい日本軍で階級に差があると、絶対に逆らえない。それは風鳴家の後継者であった彼であろうと同じ。軍隊経験があれば、その規律は叩き込まれている。そのため、黒江が『貴様、官姓名を名乗れ!』と凄むと、傲慢不遜な態度が嘘のように縮こまって黒江に答えるという光景があったという。黒江は当時で既に大佐であり、ポツダム中尉だった翼の祖父より遥かに階級が上である。しかも、1943年以降の召集であろう彼と違い、日中戦争相当の時点から軍歴がある。その差がモロに出、黒江は完全に風鳴訃堂を圧倒した。日本の軍隊では古参兵が絶対に偉いため、さしもの風鳴訃堂も青年期の若年兵時代に逆戻りしたかのような縮こまりぶりであった。
「でもよ、あんな爺さんがああも狼狽えるとみっともねぇもんだよな」
「あら。いい薬にはなったんじゃない?家柄抜きに『貴様、官姓名を名乗れ!』、『自分は帝国陸軍大佐である。貴様は陸士、いや、海兵何期か』といわれりゃ、嫌でも軍隊でしごかれた時の記憶を呼び覚ますでしょうし」
「日本の軍隊ってそういうもんだったのか?」
「ある高官は自分より成績が悪いと、挨拶もしなかった(宇垣纏)し、また別の高官はアル中だもの」
日本の軍隊の風土は特殊であるため、風鳴訃堂(かろうじて軍隊経験があることからすると、2015年では有に90歳に達する)も日本のフィクサーとされる雰囲気を活用できず、黒江の前では単なる新米士官に戻る。太平洋戦争開戦時に実戦部隊にいた黒江とは隔絶した差があるので、黒江に何も言えず、更に今村大将、栗林中将、本間中将などの高官の名を出し、彼をとことんいびった。風鳴一族は元々、帝国陸軍中野学校に深く関わっており、彼の祖父は明石大佐の同期だったという。それで彼の父がドイツルートでもたらされた聖遺物の調査に駆り出された事から、聖遺物との関わりを持ったという。また、時の権力者に小姓や御庭番などの立場で仕えてきた家柄なうえ、訃堂は軍国教育を自分の父親から施されたというバリバリの国粋主義である。それは端的に言えば、東条英機が権力を握った後に先鋭化した統帥派の受け売りでしかない。(統制派ともいうが、皇道派が衰退した後に権力を握った軍閥)。また、響のガングニールはそのルートでもたらされ、ドイツ第三帝国により、『ロンギヌスと同一説』が流布されたと思われる。因みにそれは、ドイツ第三帝国が日本に渡すためのセールストークと黒江は推測しており、実戦でゲイ・ボルグに当たり負けした事からも証明されている。
「だいたい、ロンギヌスとグングニルが同一って、ヒトラーのセールストークよ。同じだったらヴァチカンが黙ってないわよ」
「そっちの世界みたいに、非合法の異端殲滅専門機関もってねぇぞ、ウチの世界のバチカン」
「ドラえもんの世界のヴァチカン、最強のアンデットと互角にやり会える神父やら、キチガイに刃物を地でいくシスターとかいるし、裏で異端殲滅しまくりの恐ろしいとこよ。あなたが見たらションベンもらすわよ」
イスカリオテの名を持つヴァチカンの非合法戦力。その力はダイ・アナザー・デイ時点では相当なものである。キリスト教(カトリック)の狂信者揃いであり、Gウィッチもその名を聞くと身構えるほどの戦闘集団である。智子に言わせると、『異端殲滅キチガイの集団』との事。
「でもよ、なんでそんな恐ろしい連中が一つの時代に集中してるんだよ」」
「戦争の時代には英傑が出る。平和になれば用無しにされるような人間も有事では英雄になれる。呂布奉先とか董卓、劉備とか」
戦争の時代には平時では埋もれる人材が発掘され、綺羅星のような輝きを放つ。レイブンズも平和な時代には疎んじられ、有事には英雄にされる。それは自分自身で証明されたことだと智子は言う。
「あたしも、戦が落ち着いて、記憶が封印されてた時は半分疎んじられててね。親友の意図はどうであれ、左遷って揶揄されたわ。記憶が戻って、本来の力を出したら、出したで異端視されたのよね」
武子もそれは不覚だったと述べているが、武子は覚醒のタイミングが遅めであり、覚醒後にはレイブンズを崇拝する古参世代と若手から中堅世代の対立が決定的になっており、どうにもできない状況になっていたため、ダイ・アナザー・デイでレイブンズ寄りの立場であることを周囲に示すことで、自分の立場を公にする必要があったのだ。
「大変なんだな」
「転生を繰り返して、存在の位が神位になっても、使ってる肉体は『人間』そのものだから、色々と陰口叩かれんのよ。それに神様って言っても末席だし、聖闘士の力は神と同質の力ではあるけど、神特有の力でもないんだけど。それに神様だから、完全無欠でいろってのは人間の傲慢よ」
智子は愚痴る。自分達にある陰口は無神経とも言えるものも多く、その対応で疲れも見せていると。『不死になったなら、ゴルゴに勝て』などの無茶も平然と言われるのだ。
「まったく、神様が全知全能だったら、役割の神なんて生まれないと思うんだけど」
「そいやそうだ」
「日本にしてもギリシャにしても神話みなさいよ、真っ当な性格の神様すらほとんど居ないじゃない。ゼウスなんて、何人とヤッたんだか。本人もわかんないっていうから、ウラノスやガイアが呆れてたわよ」
智子はゼウス(Z神)の絶倫ぶりが想像を絶するほどであることを引き合いにして、自分達への陰口に愚痴る。鬱憤が溜まってるらしい。
「ヒトから神になるってのは苦労が多いのよね。まぁ、この戦いでの上の人間達への誹謗中傷よりはマシかもしれないけど」
「あ、ああ――だいたい飲み込めてきたよ」
「上の将軍や提督なんて大変よ。評判如何で罷免か重宝の二つに一つよ。海軍なんて金食い虫って理由で軍縮が検討されてるし」
――太平洋戦争が勃発し、海援隊に装備を払い下げるどころではない事態に陥った扶桑海軍は結局、海上保安庁に充てる予定だった予算で海援隊が前弩級戦艦や弩級戦艦を手放したことでの補償を行う事になった事、空母が新式に入れ替わり、相対的に数が揃えられない&多く持つ必要が大型化で薄れた事もあり、数で言う軍縮は一応は成功する。扶桑の軍構成で『空母より戦艦の数が多い』のは、空母が大型正規空母になり、軽空母の役目がほぼ強襲揚陸艦に代替されたなどの変革によるものである。また、戦艦は大和型の系譜に属する『大型重武装の中速戦艦』の他、戦中に紀伊型戦艦の代替とされる『巡洋戦艦寄りの高速戦艦』が提案され、実際に造られる。これは高コストな大和型ファミリーを量産するのに、扶桑側に不満があったためである。また、51cm砲は殴り合いには良いが、地上に艦砲射撃すると、威力がありすぎる問題が出たので、60口径41cm砲を持つ高速戦艦が『使い勝手の問題』で設計される。これは結局、アイオワの存在を日本側が異常に恐れたことで、必然的に大和型の影響から脱する事ができなかったため、史実大和型を細めにしたような艦型に落ち着く。また、巡洋艦は軽巡以下は護衛艦型へ入れ替えが進むが、阿賀野型ベースの打撃巡洋艦が一応は艦砲射撃要員も兼ねて生き残る。また、重巡洋艦は存在意義に疑義が呈されたが、元々、戦艦を含まない艦隊の旗艦としての運用が主であったので、その目的で生き残った。また、元は超甲巡への代替が目されていたが、その超甲巡が船体の大きさで戦艦枠に入られそうになったので、伊吹型巡洋艦や改高雄型の計画が棚上げとならなかったのだ。また、超甲巡は巡洋戦艦とする政治家や官僚と実務で揉め、第二ロットの建造が遅延したため、条約型巡洋艦の生産が止まらなかったのだ。また、究極の重巡洋艦と名高いデモイン級を引き合いに出されたため、結局は利根型の系譜ではなく、高雄型(妙高型)重巡洋艦の系譜が建造されていく。デモインが量産されたため、そのカウンターパートが必要とされたこともあり、殆どの重巡洋艦を更新するほど量産されたという。超甲巡は結局、日本側の『巡洋戦艦でいいだろ』との一声で巡洋戦艦扱いで落ち着いたため、艦種種別が『BC』と連合軍に登録され、主砲の速射性を引き上げて運用されたという――
「でも、ゼロ戦とジェット機が同じ戦場で戦うってのもシュールじゃないか?」
「ドイツ軍への嫌味入ってるらしくて、ドイツから違約金ふんだくる話だって聞いたわ」
「はぁ!?」
「戦闘機のライセンスをぼったくってた報復だって」
「子供かよ」
「自分達の最新鋭機だってんで、初期の設計とエンジンを渡したら、日本が平行世界から遥かに進歩したジェット機を買うなんて考えてなかったみたいで、今更改良型売るとかいうけど、もう遅いわよね」
「つまり、アメリカからあたしらの時代のを買ったってことか?」
「アメリカって太っ腹よ。実戦テストも兼ねて、F-14の抱き合わせでF-20のライセンスを与えてくれたもの」
アメリカは抱き合わせ商法も行ったが、基本的には太っ腹であり、カールスラント製ジェット機を一気に駆逐する勢いでライセンスを公認し、矢継ぎ早にジェット機を与えた。それは扶桑海軍に空母の大型化を強いるものでもあったが、概ね高性能であるので、好評であった。2010年代後半の大統領は亡命リベリオンの支持を公言していたため、その当座の主力として売り込んだものだ。シャーリーの後押しもあり、カーチス・ルメイは主力機として採用。F-104の後継機種の一つとして、1949年には亡命リベリオンの全部隊へ行き渡る。こうして商機を逃した機体は最後に異世界で花道を飾り、製造一号機はシャーリーが受領するなど、逸話を生んだという。
「で、ドイツはなんて?」
「数十年後の機体を買うなんて反則だって言ったけど、ヘルマン・ゲーリング元帥を国際法廷で訴えるとか言ったら、シュンとなったわ」
カールスラントは空母愛鷹の復帰工事費とこの違約金問題で同じ連邦を組むドイツ連邦共和国に責められたこともあり、海軍整備を諦め、潜水艦に傾倒してしまう。カール・デーニッツがこれを機会に潜水艦の近代化に予算の八割をぶち込んだからである。
「あ、また来るぞ!」
「ここは任せてください、智子さん!」
「あ、来たわね、調」
「秘技・真っ向両断ッ!」
「お、お前!その格好…」
「軍隊の戦列に加わったんで」
「あいつには言ったのか」
「色々と気まずいんで、まだです。元の世界に戻るつもり無いって言って、こじれてもいやですし」
クリスはやってきた調が完全に扶桑皇国軍のウィッチの服装である事から、調の思いを悟ったようで、寂しくも納得したような表情だった。響が折り合いをようやくつけた頃には、調に『話がこじれる』とする一種の嫌悪を持たれてしまったらしく、調にしては辛辣であった。
「お前、ばーちゃんに似てきたぞ」
「精神感応したんで、否応なしにそうなりますよ。響さん、強引なところありますし。見たんですよ、その時に」
「うーん……。悪意はねぇんだし、許してやれよ」
黒江に役目を無理に演じさせたのも、調が嫌悪感を抱く要因になった事は響やクリスの誤算であった。調は『黒江が苦言を呈したのに、強引に押し通した』事に嫌悪を抱いた。いくら善意であろうと、押し付けがましい。そう判断したのだろう。
「ここは先輩や未来さんの顔を立てますけど、本当は超弾動閃煌斬でぶっ飛ばしたいくらいですよ」
調は超弾動閃煌斬を放つことができると明言した。それが黒江が雷光斬を放つことができるようになった後での感応の結果だろう。(後日の鍛錬も大きいだろう)
「お前もその超弾動って力を?」
「私は徳の心らしいんで。最も、その心は鎧擬亜にはならなかったみたいですけどね」
「お前、そういうドライなとこ、ばーちゃんに似てんぞ」
「仁義通し礼忘れず、智を磨き信に足る、其が徳たり。響さんのやった事は仁義とは言えませんからね」
「忠たりて、孝悌過ぎれば徳、悪たり、其れ忍べば徳ともなり足る。その心は容易に悪にもなる。とある世界でのある人達が証明してるわ。響は『孝悌過ぎれば徳、悪たり』を地で行っちゃったのよ」
「なんか儒教じみた格言になってきたな…」
「里見八犬伝もそうだけど、こういう観念は東洋的な観念よ」
東洋は儒教が長く栄えていた。ウィッチ世界では明国の滅亡とともにほぼ滅亡したが、人々の基本観念としては残った。そのためにそういう倫理を持つ。鎧擬亜は聖衣と機能が似通うが、姿が日本の鎧兜を連想させる。召喚に必要な心が東洋の儒教の教えを思わせるものなのも、東洋人が制作に関わったためだろう。
「うーん。聖衣と違って派手さがないと言おうか…」
「和の造形美と言いなさいよね」
聖衣は星座の形を模したプロテクターだが、鎧擬亜は日本の鎧兜を模した形状である。目的も、聖衣はアテナの権威の示威、鎧擬亜は悪意の封印浄化装置を兼ねているという違いがある。(鎧擬亜で聖衣と同じ機能があるのは最強の輝煌帝のみ)そのため、鎧擬亜は力の増幅器としての役目は輝煌帝以外はあまり持たされていないと言える。
「五徳の心と五行を以て、最強の輝煌帝を呼ぶのが切り札よ。聖衣も鎧擬亜も力の器だけど、それを扱えるかは当人次第。あたしたちも素養があるから呼べるってだけよ。鎧擬亜は」
智子も今回の転生で仁の心に至ったため、烈火の鎧擬亜を纏えるようになり、双炎斬に開眼した。黒江は礼の心に至り、光輪の鎧擬亜を得た。また、二人は神位であるが故の存在の位により、輝煌帝を比較的楽に呼び出せる。最高位の聖闘士でありながら、『サムライトルーパー』の資格も有するというのは反則極まりない事実だ。
「鎧擬亜を纏う戦士って名前あんのか?」
「漢字表記で鎧戦士、とある世界だとサムライトルーパー』と呼ばれてたみたいよ」
「サムライトルーパー…」
「多分、あたし達は聖闘士でありつつも、サムライトルーパーでもある稀有な例でしょうね」
双方の資格を有する事は容易ならざる事である。しかも二人は黄金聖闘士にまで登りつめながら、サムライトルーパーに覚醒したという反則極まりない事態となった。逆に言えば、それから生き残れるデューク東郷は『異能生存体』ということになる。また、如何に緋村剣心や斎藤一が人間離れした強さを持つかの証明でもあった。
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