外伝その285『転生者と艦娘』


――ウィッチ世界では、パナマ運河はあるものの、史実より規模が小さいため、地球連邦軍もすぐに抑えたものの、軍事的意義は低いものだった。実質的にほぼ影響はないため、艦娘(プリキュアのエミュレート技能がある者含め)による敵泊地へのハラスメント攻撃や、陸での支援砲撃が主な艦娘の活躍の場であり、それまで艦艇が砲台として担っていた役目を実質的に引き継いだ形となった。戦艦の艦娘達は特に重宝され、大和はウォーモンガー的側面も見せているので、アースの古代進からの影響も垣間見せている。黒江達が休暇で不在の間は智子が戦線の要として動き、休暇ではない三人のプリキュア(ラブ、みゆき、みなみ)が矢面に立って戦い、その支援砲撃が戦艦の艦娘達であった。

「大和ちゃんー、支援砲撃頼むわー」

「はーい」

大和型戦艦の火力を陸で使用した場合、大戦前期に第一線に配置されていた列車砲を上回る。M粒子で21世紀式の多輪式自走ミサイル発射機の命中率が低下しているのと、怪異対策という大義名分もあり、列車砲は維持されていたが、クルップK5やドーラは使い勝手が悪い上、21世紀のスタンドオフ兵器は飽和破壊に使うには高価過ぎた。そこで列車砲よりも火力があり、ロケット砲よりも単位面積あたりの破壊力が群を抜く戦艦の艦娘達が注目された。特に大和型は重宝され、45口径46cm砲の破壊力を陸上で行使する点で、戦略にも影響を及ぼしていた。キュアハッピー(星空みゆき)は生前のアホの子ぶりが鳴りを潜め、角谷杏としてのドライさを発揮しており、艦娘・大和の支援砲撃を効果的に使い、定期的にマドリードに進出しようとする師団を吹き飛ばせていた。

「うわぁ、なんか可哀想なくらいだよ、ハッピー」

「敵には容赦は無用さー、ピーチ。連中は裏で操ってる連中の駒なんだ。なんとか法典じゃないけど、『目には目を、歯には歯を』だよ」

二人がいる小高い丘からは、艦娘・大和の46cm砲の支援砲撃でこの世の地獄を味わっているだろう敵軍のいる地点が見える。艦砲射撃級の火力を陸上で撃ったらどうなるか。ドーラに比べればだいぶ可愛いが、それでも市境の無人の区画ごと敵軍を吹き飛ばす破壊力を見せる46cm砲。大和の5分ほどの砲撃で敵軍団の何十%かは確実に吹き飛んだ。

「大和は歴史上でも活躍出来なかったからね。こうした仕事でも喜んでしてくれる。長門と違って、プライド捨ててるし」

「ああ、いかにも頑固そうだもんね、あの子」

プリキュアたちにも、艦娘の性格は知れ渡っており、大和は坊ノ岬沖海戦で上層部の政治的駆け引きの犠牲にされたという認識があり、本来は巡洋艦で事足りるような任務にも志願する『ウォーモンガー』的気質を見せていた。長門は『武人の気質だから、雑用を頼めそうにない』と認識されており、『連合艦隊旗艦』のプライドに凝り固まっておらず、なおかつ、自分の存在意義を証明せんと必死である大和は、前線の支援砲撃に重宝されている。長門としては心外だろうが、そう認識されていた。

「長門は重要な戦以外に出るの嫌がるってキャラじゃないんだけど、長門自体が古い船だから、軽んじられてるフシがある。41cm砲は火力低くないんだけどなぁ」

「えーと、つまり?」

「大砲の口径が41cmあるってこと。アメリカの戦艦は40.5cm砲だし、ヨーロッパのは35cmから38cmなんだ。戦艦が主力張ってた時代じゃ、重要なファクターだったんだ、これ。この世界で大和が46cm積んでたのをバラした時に文句が出たくらいなんだから」

「えーと、つまり攻撃力が一番って事だよね」

「うん。戦艦は『自分の砲に決戦距離で耐えられる』装甲を持つのが近代のお約束なんだ。日本海海戦とかでの殴り合いで重視された事なんだ。大和はその到達点なんだけど、足が遅いって謗られてる。だから、ドラえもんの世界で『ドリルつけて空飛ばした』、ここでの『ドイツの機関技術で無理して、速度のカタログ値を引き上げた』なんて事になってたんだ」

「足?」

「うん。東京駅より大きい物体を時速55キロで動かすのって、20万馬力級の蒸気機関でやっとこさだよ?ジェットエンジンの応用のガスタービンでも高出力の積まないといけない。ましてや、大和の世代の戦艦は武器てんこ盛りで40000トン超えてるのが大半だよ?核融合炉を使わないと出せないよ。アメリカの戦艦だって、コンピュータとミサイル積んだら31ノットがせいぜいなんだし、日本の一般大衆の言うことは無茶なんだよ」

「船に飛行機みたいなことは出来ないしねぇ」

「そういう事。言うなら、ジャ○アント馬場にウサ○ン・ボルトと徒競走させるみたいなもんさー。戦艦大和と武蔵は『殴り合い前提で戦闘艦が設計された時代の掉尾』な存在なんだ。汎用性を重視してるアイオワ級とは想定自体が違うんだけどねー」

大和型はともかくも、艦隊戦に勝つことを前提に設計された機能特化タイプの到達点である。アイオワ級への劣位を嘲笑する風潮が戦後にあるが、戦艦の進化そのものが袋小路に入っていた頃に生まれた大和型は『古来の伝統に則った』戦艦としての究極であり、ガレオン船以来の系譜の掉尾を飾る存在である以上、汎用性を考慮し、巡洋戦艦的発想で設計されたアイオワ級をライバルと言うには語弊がある。キュアハッピーの自我意識は博識で、駆け引きを得意とする角谷杏の要素が強いと言える状態なのがわかる。

「だから、あの子の持つ火力は必要なのさ。浄化技エネルギーを攻撃エネルギーに転換して撃つプロセスがある分、あたし達の必殺技はエネルギーのロスがあるからね」

「確かに」

フレッシュプリキュア以降のプリキュアは浄化のための能力はあるが、純粋に攻撃力の高い攻撃を繰り出せるプリキュアの数は意外に減る。キュアハッピーとキュアピーチはその自覚があるようだった。

「昭和と平成の仮面ライダーの共同戦線がなるには、時間がかかる。あたしたちには、初代みたいなステゴロで勝てる力はないしね。それに今は軍人だから、それなりの銃の専門知識いるし、本当は服に階級章とかないと、不味いんだけどね」

本来、階級章などが分かるデザインの服を来ていることなどが軍隊の戦闘員の必須条件だが、歴代のプリキュア達は『ヒーロー&ヒロイン枠』で大目に見られていた。仮面ライダーやスーパー戦隊、メタルヒーロー達も参戦しているためである。また、日本の技術供与などで完成した陸戦/航空兵器が対人戦で使用されているためもあるのか、サボタージュで陸戦/空戦を問わず、ウィッチ部隊は殆ど活動しておらず、64Fと501が実質的に統合運用され、ほぼ唯一無二の実働部隊と化していた。上空では、散発的に出現した大型怪異を真ゲッター1がゲッタートマホークで一刀両断する光景が見える。怪異はリトルボーイやファットマン程度の核出力では消滅させられないという無情な研究結果が判明し、ルーズベルトの進めたマンハッタン計画の無意味さが強調されてしまった(怪異のコアは拳銃弾程度でも破壊できるが、防御フィールドを持つ個体やデュアルコアを持つ個体もいたため、ウィッチ以外で倒すには、神の如き力を持つスーパーロボットか、サイコフィールドを出せるモビルスーツか、バスターライフルを持つアナザーガンダムか、気力で物理法則を覆すモビルファイターが必要な力の条件である)ため、未来世界の兵器への依存が今以上に高まる事に懸念を示す勢力が、Gウィッチの優遇を進めるのを容認し始めるのだ。(客人に甘えるわけに行かないとする考えからでもある)

「あれを見て」

「真ゲッター1?」

「うん。スーパーロボットの最たるもんさ。怪異は下手な核兵器もコアが露出した条件下でない限りは無効化できるけど、流石に超常現象を操れるスーパーロボットには無力さ。コアを引きずり出して握りつぶせるんだし。サボタージュの連中は特権が侵されるのが怖いだけさ。プリキュアや仮面ライダーが普通に怪異を倒せて、転生者がそれまでの摂理を覆す、スーパーロボットがそのパワーで世界を守る光景は、ウィッチありきで成立してる世界を変えちゃうとか言ってさ」

ウィッチに非があるとすれば、ウィッチだけが正面から怪異に対抗できる事にあぐらをかいていたとは言え、超常現象からの外的要因で科学力に変革が起こったことを認めず、立場を守るための保身に走った事だろう。21世紀の技術のみならず、オーバーテクノロジーで長足の進歩を遂げた23世紀の科学力を得た以上は使うに越した事はないし、ウィッチの抱いていた特権意識を苦々しく思っている者はかなり多いのも事実だ。そして、宇宙怪獣よろしく、星の知的生命体への免疫反応が怪異だとするなら、人の意志力がウィッチを生み出し、死した艦船の意志が艦娘となったとも言える。生存競争を生き延びるには、優しさよりも激しさが必要なのだ。

「言えることは一つさ。傷つく状況が続いたとしても『可能性はゼロじゃないこと』と、『過ちを恐れない』。この二つさ。あたしらはそれを信じていたから、神様がそれを認めてくれた。周りがなんて言っても、貫こう。私らの信じた道を」

「たとえ、プリキュアとしての力を戦争で使っても、ね」

「まあ、陰口は叩かれるだろうけど、あたしらは『よい子達』の希望と憧れの象徴なんだし、やるからにゃ負けるわけにはいかないっしょ」

声色は角谷杏としての飄々としたものなので、生前と打って変わっての重みがあった。伊達に大洗女子学園の生徒会長だったわけではないのだ。それでいて、芳佳としての一途さも持つ状態は極めて複雑な精神状態であると言える。

「大和ちゃん、ご苦労さん。次はC地点に向かってくれる?」

「了解です」

キュアハッピーは生前の要素が薄いため、参謀役として活躍できる要素を持つが、生前とかけ離れているために、表立っては見せないとも言っており、生前のキャラを保つように努力を払っている。ただし、そのままでは、キュアドリーム/のぞみとキャラが被るために変化はつけるようにしているとも。それが参謀役としての知的な振る舞いなのだろう。のぞみが成人後の精神状態で転生したため、現役時代と変わった事がわかる振る舞いを見せるため、みゆきは10代当時の精神性を概ね保ちつつも、時たまドライな振る舞いを見せるのだろう。インカムで大和に指示を飛ばし、自分は大和が吹き飛ばした地点を高みの見物する。

「この世界の脅威だった怪異は、通常兵器じゃ、原爆でも決め手にならないって触れ込みだったけど、それ自体が超常的な力を持つモノに弱い。スーパーロボットに弱いのがその証明だよ。だから、核兵器もこの世界じゃ、積極的には造られないし、使われない。大型を倒すには、コアを破壊しないと、核爆発にも耐えるからね。だけど、魔力を直接ぶち込むか、スーパーロボットの必殺技なら倒せる。ルーズベルトはマンハッタン計画にどんだけ金使ったんだか」

「あるいは、あたし達の必殺技みたいな異能か、怪異を取り巻く物理法則を変えられる力が必要ってことだね?」

「そういう事。学園都市出身者が異能でぶっ飛ばしてるって話だし、この世界はウィッチが全てを左右するって思ってる連中が多いが、魔導師に比べりゃ儚い力でしかない。なのはなんて、魔力で地形変えられるしね。しかも魔力は永続的だ」

「ま、普通はそうだね」

「それにコアの防御フィールドをぶち抜くには、ウィッチの攻撃か、コアに大砲を当てるしか方法がないってされてたから、マジンガーやゲッター、はたまたあたしらが流れ作業的に大群を蹴散らしたりするのは恐怖の対象にしか映らないのさ」

「なんだか、呆れちゃうよ」

「利権とか、そういう問題が絡むからね。ウィッチは特権意識が強いんだ、元々。それが、超兵器とかヒーローが軽く倒していくのが怖いんだよ。怪異を倒せるってんで、魔女狩りがごく小規模で収まった世界だしね。その点で言えば、オラーシャで魔女狩りを起こしたコミュニストは大罪人なのさ」

オラーシャ革命(頓挫)を引き起こした日本人達はオラーシャの法で裁かれたが、ロマノフ王朝の古びた政治への批判も大きいため、穏当な統治がされていたという事で皇室の解体を免れたにすぎないことを突きつけられ、次第に立憲政治に移行するが、魔女狩りと、疑心暗鬼で引き起こされし内乱を鎮めるに時間がかかりすぎ、国の分裂で国力が衰退。ウィッチの亡命で軍事的存在感が低下してしまった。サーシャが送還後に大罪人同然に扱われたのは、うら若き新皇帝の怒りを買った(皇太子時代からサーニャの大ファンだった)からとは暗黙の了解であった。

「それを見た扶桑は新規に入ってくる連中がグンと減るから、今いる連中を定年退職まで使い倒すつもりなのさ。血気に逸る連中が2.26まがいのこと起こしたら、日本はウィッチでも銃殺刑にする。そうしたら、年頃の娘がいる親達は子供を軍人にしようとはしないでしょ?お上の玉音放送で、不敬罪を恐れて出すのは出るだろうが、左翼連中がうるさいしな」

扶桑が自国生え抜きの強力な次世代ウィッチを得られるのは、ここから10年以上後の頃であるので、クーデターへの厳格な対応が如何に当時の若年層の親世代を萎縮させたか。Gウィッチとそれに従うRウィッチ達が戦乱期の屋台骨とされ、丁重に扱われたのは、あらゆる敵と戦ったからで、後に『ウィッチ界の支配層』が彼女たちとなるのは、職業軍人として、あらゆる敵と戦った第一世代となったからだ。この時に反発した世代が後の世で軽んじられるのは当然の流れだが、古参である事を示すための記章が必要になったのも事実なため、数少なくなった事変経験者達の特権の正当性の担保のため、『扶桑海事変従軍記章』(自衛隊では防衛記念章扱い)が創設され、軍に残っている古参勢の居場所づくりに役立ち、黒江達への嫌がらせもそれを期に、親たちが娘達を叱責し始めたことで減り始める。ウィッチは年功序列の意識が薄かったが、菅野や西沢であろうとも、黒江達には逆らえず、その黒江達も最古参の二巨頭には服従するという点では、扶桑のウィッチ社会は分かりやすいピラミッド型階層社会となっていく。つまりは赤松と若松が絶対的存在として君臨し、その腹心としてレイブンズとその戦友が位置し、その下に後輩達と言ったものである。ウィッチ社会は軍隊や通常の社会の常識が通じないところが多かったが、一般常識に合わせての変革を余儀なくされる。扶桑で内乱が既定路線と裏で囁かれ、しずかにまで当然のように口に出す理由は、ダイ・アナザー・デイ中には、現役世代を差し置いて、天下無双の活躍をするレイブンズ、ウィッチでありながら、それ以外の異能(プリキュア)を用いる自分たちへの嫉妬や怒り、ウィッチ以外では倒せないはずの大型怪異を倒してしまうスーパーロボットへの恐怖が彼女たちのクーデターへの原動力であり、竹井(海藤みなみの姿を取れるようにはなったが、自我意識は保った)と武子がいくら融和しようとしても、無駄な努力なのだ。

「みなみちゃんや隊長(ここでは武子のこと)が一生懸命、融和しようとはしてるけど、一部の連中はだめだね。お上を誑かしてるとか思ってんだから。一にも二にも訓練で、銃後に媚びない連中を日本は軍国主義者とみなすからね。たぶん、首謀者は見せしめ的に公開処刑されるかもね」

ハッピーの言う通り、後々、クーデターを引き起こした部隊の首領とその腹心(階級は佐官)は全員が公開処刑される結末となり、その公開処刑が結果的にウィッチ新規志願を『壊滅的に』落ち込ませる結果を生む。圭子の著書が映画化されたのは、その落ち込みを回復させようとした軍部高官の意向も大きい。日本側の意向もあり、オリンピックや万博の開催が最優先とされたことで軍部の増員と戦時動員が遅れたのも、太平洋戦争の長期化の遠因であり、二年間での短期決戦を狙っていた扶桑の思惑は完全に崩れ、実に10年近くも戦時状態を保つ事となる。

「そうしたら新しい子を親が入れさせないようにしない?」

「そこだよ、ピーチ。これからの問題は。軍隊が戦うと人員補充が必要じゃん?でも、徴兵を嫌ったり、戦時動員に日本の教育界が反対でもしたら、ウィッチの補充は間違いなく出来なくなるし、新規志願も落ち込む。今のうちに集めるだけ集めて、必要な手続きを簡略化して、戦略爆撃機の迎撃の時は該当する地域の全航空隊を全力出撃させるとかの軍規を整えないと、旧日本軍みたいに、50年、60年すぎてもおおっぴらに無能扱いされるしね、扶桑軍」

「なんか、大変だよね、ハッピー達が生まれ変わった先の国」

「そもそも歴史の土台が違うのに、理不尽に叩かれて、軍のお偉方や技術者、外務官僚の首が軽く飛ぶような事になったからさ。それを他国にも言うから、問題なんだよ。アメリカなんて、カーチス・ルメイ大将が病院で唸ってるよ。同位体の罪を日本の左翼に喚かれて、挙げ句に車に突っ込まれて、入院だよ」

カーチス・ルメイは今後の戦略会議のために扶桑本土へ立ち寄ったら、日本の市民団体にリンチされた挙げ句の果てにワゴン車に轢かれて軍病院で唸る羽目に陥り、扶桑当局を顔面蒼白にさせた。扶桑空軍の防空部隊が世界最高峰と言われるようになる背景は、衛星軌道のミサイルも迎撃可能な迎撃兵器と隙がないレーダー網で、戦略爆撃機を寄せ付けないとまで言われるからだ。『戦略爆撃機の損害を覚悟で大規模空襲を敢行する』か、『低空から超音速で接近し、スタンドオフ兵器を撃つか』しか打つ手がなく、B-29とB-36の戦略爆撃機としての現役期間はウィッチ世界では極めて短く、その代りに『ウィッチの空中母艦』としては、後継機の『B-47』がペイロードに余裕がなかったのもあり、比較的長期間、現役であり続ける。本国側でのB-52の就役が遅かったためでもあったが…。

「ああ、なんか聞いた事ある、その名前」

「東京大空襲ん時の爆撃部隊司令官さ。同位体の事を言われてリンチじゃ、可哀想さ。ま、戦略爆撃自体、ベトナムで無意味なのが分かったけどね」

古典的な戦略爆撃そのものは21世紀ではピンポイント攻撃が可能なので、取られない選択肢だが、この時代の戦争では『最新の理論』であった。日本側が配備を進めるスタンドオフ兵器は高価過ぎるという認識があり、空軍へ移籍予定の井上成美大将も『ピンポイント爆撃は効果的だが、戦略爆撃本来の意味は失われる』と懐疑論を持っている。(史実で重慶爆撃を主導したためと、海軍提督としては珊瑚海海戦で無能と判定されているため、空軍軍人になったほうがいいと判断し、移籍予定)

「日本が防空部隊を時代を超えたミサイル装備で充実させるから、多分、この時代のレシプロ爆撃機は日本本土にゃ近寄れなくなるよ。誘導ミサイルで狙われちゃ、脱出も出来ない危険があるしね。要撃部隊はジェットに更新され始めるだろうから、こっちでレシプロ戦闘機に見せ場与えないと、メーカーの連中が可哀想だしね。ゼロ戦や隼にとっちゃ、これが最初で最後の見せ場だろうね」

ウィッチ世界で零戦と隼が第一線機として見做され、戦果を挙げた大規模戦闘はダイ・アナザー・デイが最初で最後になる。中には水エタノール噴射装置が部隊単位の判断で積まれ、栄エンジンの製造工場の在庫部品が全て出荷されるといった事も起こっていた。レシプロ戦闘機の最後の見せ場な事は日本連邦軍は認識しており、鍾馗や飛燕などは各戦線の全個体をかき集めて運用されているほどだ。そのため、史実にないバリエーションも生まれ、鹵獲したコルセアのエンジンを載せた鍾馗もいたし、F6Fのエンジンを載せた隼も出現する珍事も起こっている。その過程で、ホ5/九九式二〇ミリ砲が全面的に普及し、隼の三型乙が現地生産される事にもなった。

「なんかノスタルジーな物言いだね」

「そりゃ、45年時点で1930年代末期の開発の飛行機が一線級だよ?本当なら、3000馬力の飛行機もチラホラ出始めてる時代だし、のどかだよ」

戦闘の様相が集団での編隊空戦に急激に移行し始めた時代、零戦や隼は旧式と見做されていたが、メーカー側にとっては普及途上にあったはずの機体であるので、史実の開発速度でメーカーを酷使させることには反対論があったため、アメリカに残る実機を見せ、日本に残る設計図を与えるなどの施策で紫電改/烈風の開発速度を早めたが、疾風は完成した実物が日本の実物とかけ離れていたため、義勇兵に『司令部偵察機の代わりしかできんものを作ってどうする!』と言わしめた。長島飛行機は『要求仕様通りに作ったのに、文句言われるなんて!』と憤慨したが、翼部の搭載機銃が一式十二・七粍固定機関砲前提であり、二式二十粍固定機関砲に適合してないという不備が判明。翼部の全面的再設計を余儀なくされてしまう。その間に、瓢箪から駒で現れたキ100が普及してしまう悲劇に直面するのだ。二人のプリキュアが空を見上げると、隼や飛燕が真ゲッターロボの横をフライパスし、敵戦闘機と空戦を行う光景が見えた。第二次世界大戦に相応しい光景とSFじみた光景が交錯している。特に飛燕にとっては、義勇兵に嫌われ、政治家にも嫌われ、官僚にも役立たずと嫌われの三重苦の状況であるが、現場の判断でコピー元のエンジンに換装される個体が大半であった。圭子もそれを進めた一人である。そのため、現場で使われていた飛燕は『飛燕の革を被ったメッサーシュミット』と評判であり、開発元の川崎/川滝に屈辱感を与えた。しかし、現場としても『空中でエンジン止まったらどうするんだオラァ!』という切実な問題があるため、五式戦闘機の生産促進で妥協されたという。

「ドイツのジェットは生産される前に調達中止された機種もあるしね。それに比べりゃ幸せだろうさ。アメリカの戦後式ジェットが市場を独占するのは目に見えてる。ドイツは今頃、航空メーカーが顔面蒼白だろうね」

「おーい、キュアハッピー」

「あ、川内ちゃん。どうだいー、偵察は」

忍び装束を身にまとった川内型軽巡洋艦の一番艦『川内』が現れた。まさにくノ一と言った様相であり、真ん中の神通が女武者、末妹の那珂はアイドルであるという変わった三姉妹。上の二人が実戦任務についている。

「敵は大和の砲撃にブルってるよ。空軍での攻勢に切り替えたみたい」

「自衛隊や米軍の出番だな。本当なら震電を横須賀から出したいんだけどね、焼かれる前に」

「無理だね。上の命令を志賀少佐が断ったっていうしね。震電の技術資料を強引に出させるので精一杯だったよ。それも岡田の爺さんに怒鳴りこんでもらって、やっとだからね」

「やれやれ。アニメみたいに、震電使える機会はなさそうだなぁ」

川内が触れたように、横須賀航空隊に異動した志賀はこの時の判断を後悔し続ける事となる。震電の実機/ストライカーユニット(試作機)がクーデター派に焼却されたからで、みゆき(芳佳)が震電と出会うには、後の次元震を待つ必要があった。その時に現れた芳佳Bが使用したモノを借りて使う程度でしか震電とは縁がなく、横須賀航空隊の管理職にいた志賀は『罪悪感』に苛まれ、戦後は民間軍事会社を興す事となり、芳佳への償いを第一に考えるようになる。また、対立していた黒江との和解を選ぶ事となるなど、クーデターは各方面に影響を残すことになる。



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