外伝2『太平洋戦争編』
第十話


――ミッドチルダ動乱で浮き彫りになった戦艦同士の砲撃戦のコストパフォーマンスの悪さは各国海軍を悩ませた。だが、核兵器の開発や使用そのものが国際条約で制限されてしまい、かと言ってミサイルを自主開発していくと、およそ半世紀ほどで軍事予算を圧迫するほどに開発費が膨れ上がるという事実と、『小型艦艇ではネウロイのビームに耐えられない』という現実問題から、戦観の発達は1950年代も続いた。そして、戦艦のあり得ぬはずの『18インチ砲時代』が訪れ、リベリオン軍は大和型へ真っ向から対抗し得る新戦艦を計画。それをモンタナ級で未起工に終わった艦名を流用する方向で話は進み、量産性も考えるリベリオンの性故、速度を犠牲にする、重装甲・重火力傾向の戦前の思想に本格的に回帰し、50口径46cm砲を12門備え、大和型を艦橋部以外では上回るバイタルパート装甲を備える事が計画された。空母機動部隊の高額化を睨んでの建造で、核兵器が事実上、封印措置が取られた世界では、必要性が薄いためにミサイルの発達が史実より緩やかになるため、戦艦の発展が1945年以後も続くことの表れであった。その情報を掴んだ扶桑は戦艦主砲弾の貫通力を強化するべく、徹甲弾の炸薬や弾芯の硬度改善、榴弾の延焼力の強化などのソフト面の改良で対応した。これは三笠型の登場でハード面の限界を極めたと判断されたためだ。



――扶桑海軍 艦政本部

新体制下でも、なんだかんだで名称が存続した艦政本部は、一時に傾倒していたドイツ式船体構造は取りやめられ、今度はリベリオン式船体構造へ傾倒するようになった。これは未来情報でドイツ軍の船体基本設計が『フランスの20年前の水準である』事に驚愕した結果でもあり、最も先進的とされるリベリオンのそれを模倣する事に血道を上げ始めたからだ。


「新型装甲の研究は?」

「向こう側から多重空間装甲のデータを得た。デッドコピーして、新型は装甲構造を変えよう」

……と、この時期に大戦前の保有艦の損失埋め合わせで大量建艦がなされている巡洋艦や駆逐艦、近江と紀伊の代換の改大和型などの装甲構造を研究する造船官達。これには理由があり、第二次ミッドチルダ沖海戦で大量に補助艦艇を喪失したショックが大きかったからでもある。



「しかし、楽になったよ。向こうのおかげでコンピュータが導入されたから、設計速度も製造速度も戦前よりグンと早くなった」

「本当なら、あと20年から30年もしないと、あんなの導入もされないからな。その辺は感謝だな」

この時期には扶桑軍隊にコンピュータ化の波が押し寄せてきており、兵器設計・製造分野や作戦立案・指揮などの分野は1950年代後半から60年代前半時の米軍と同等の水準に飛躍していた。そのため、兵器設計は以前よりも省力化され、扶桑はデルタ翼や可変翼の製造能力も得たのだ。

「次期艦載機はF-4だって?」

「ああ。早ければ、来年には一個航空隊を稼動状態にしたいそうだ。その次はF-14が有力視されてる」

「ああ、今、64戦隊でサンプル品が動いてるあれか」

「そうだ。F-4の導入はあくまでターボファンの実用化までの場繋ぎだそうだ」

「早くないか?二年前にF8Uを導入したばかりだぞ」

「今は戦時中だぞ。モデル寿命は平時の数倍は短くなる。レシプロ機なら、2年もあれば2代は進みかねんが、幸いにも今はジェット戦闘機の時代だ。世代交代のペースは緩やかなほうだ」

――戦争中は戦闘機の更新速度は早くて、半年である。それを良く自覚している扶桑軍は遅かれ早かれ、能力面で追いつかれるであろうF8Uに代わる戦闘機を欲しており、F-14やF-15などの第4世代ジェット戦闘機を望んでいる。だが、扶桑のエンジン製造能力がターボファンエンジン製造を可能とする水準に到達していないため、ストップギャップも兼ねて、F-4Eを導入することが決議されている。既に教導隊や本土防空部隊を中心に試験配備が始まっている同機は、『ハイローミックス』のハイの役目をF8Uから引き継ぎ始めていた。それが1947年初頭の状況であった。


――飛行64戦隊の前進基地

「F-104が行き渡り始めたわ。47戦隊も機種更新を終えたそうよ」

「そりゃ良かった。これで防空力は高まる」


「でも、扱いにくい機体だって、若い連中から文句来てるのよ。なんでも着陸がやりにくいとか、旋回半径がでかいとか」

加藤武子は、先任中隊長の黒江綾香に部隊の若手からの愚痴を伝える。当時の前線で使用されている陸上運用のジェット戦闘機の中では最新型であった『F-104J』は、性能面では要撃戦闘機としての性格が強い上、乗りこなすのに相応の腕を必要としたため、経験の薄い若手からは嫌われていた。しかしながら、戦前より飛行経験がある武子や黒江は乗りこなして見せ、高評価を与えている。それは卓越した上昇力と速力が大きく、ベテランパイロットほど高評価になる傾向にあった。

「しゃーねーよ。あれは格闘用の戦闘機というよりは要撃機なんだ。運動性はあまりないんだぜ?それこそ、あの世代に運動性求めるほうが間違いだぜ」

「若い連中は新型=全ての性能が上だって思ってるからなー。グレートマジンガーだって、翼の強度はZより低かったつーに」

「まー、キ43だって、運動性が前型に及ばないとか言われたから、しょうがないって言えばしょうがないわね」

「だな。しかし、今じゃ、剣の奴もグレートをカイザー化させたっていうし、あの世界は兵器をどんどんバケモノにしてると思わねーか?」

「そうね……三年前の真ゲッターロボ、一昨年のグレートマジンガーとスーパー戦隊ロボ、、昨年のゴッドマジンガー……どれもバケモノみたいなパワーを持ってる。あんなものを持っていいの?」

「向こうには向こうなりに、使う理由があるかんな…。核兵器なんて、23世紀じゃ戦術兵器に地位が落ちてるしなぁ。しかも使ったところでスーパーロボには致命傷にならねーし。逆にエネルギーが吸い取られる」

「そんなバケモノがいるの?」

「ああ、何度か戦ったことがある。デビルマジンガー、奴は超能力、魔力、爆発エネルギー、精神エネルギーに至るまで食える悪魔のスーパーロボだ。ありゃ反則だぜ……」

「正にバケモノね……どうやって倒すのよ、それ」

「ゴッドマジンガーはそのためのマシーンだと言うが……デビルマジンガーの頭脳は未来世界切ってのマッドサイエンティストだしなぁ」

黒江は、この時期までに何度か交戦した事がある悪魔の魔神を引き合いにだし、未来世界におけるスーパーロボの存在意義を話す。デビルマジンガーの威力はもはやロボットの次元を超えたものであり、魔力や精神エネルギーまでも吸収し、自己進化を行う存在として猛威を奮い、並み居るスーパーロボ軍団でも大苦戦したと伝え、武子を納得させる。デビルマジンガーはその頭脳が『悪知恵』に長けるドクターヘルなので、未だがっぷり組んでの戦闘は行ってはいないが、マジンカイザーにさえ当たり負けしないポテンシャルを持つのは判明している。彼女の口ぶりから、武子はスーパーロボの恐ろしさを改めて実感した。

「デビルマジンガー、か…。それってどういう目的で設計されたの?」

「聞いた話だと、兜の祖父さんがマジンガーZのプロトタイプとして、設計してたのが起源らしい。それが負の精神エネルギーに強く反応する欠陥ができちまって、設計図を封印したけど、敵がそれを奪取して完成させてしまったという事で、その息子の兜剣造博士がグレートマジンガーをプロトタイプに、生み出したのがゴッドだ。あれが本来なら最高のマジンガーらしいが、偶発的にカイザーが生まれたから影薄いと、そんなわけらしい。そんなのがいるから、こっちもバケモノを造らざるを得ないのが実情という事らしい。」

――そう。本来ならばゴッドマジンガーこそ、デビルマジンガーを倒せるマジンガーであるとされるが、カイザーが誕生した事で、2つの可能性が生まれた。『皇帝がその名の通りに、悪魔をも統べる』のか、『神が悪魔を倒す』のか、である。ミケーネ帝国残党がデビルマジンガーを使い、戦力を温存している百鬼帝国と共に何を為すのか?それがスーパーロボ軍団の最近の命題だ。

「やれやれ。どこも同じって事ね。私達も急激にジェット化したけど、二年で超音速になるとは思わなかった」

「敵がいる以上は開発速度は早いからな。昔だって、事変には間に合わなかったが、二世代は進んだだろ?戦時中なんて、そんなもんだ。同じ機体でも、最高で三世代、四世代は性能が進んだ例があるからな

「スピットファイアの事?」

「そそ。あれなんて、エンジン換装が繰り返されて、今じゃ2300馬力だぜ?爆戦扱いだが、第一線で使用されてるからな」

――扶桑は潤沢な軍事予算により、第一線戦闘機はジェット戦闘機へ世代交代が進んでいるが、ブリタニアは予算不足で、『ヴァンパイア』、『シービクセン』、『ハンター』と言った機種が使用され始めたものの、レシプロ戦闘機およびストライカーが多数残存していた。これはブリタニアの将兵の多くが『ジェット戦闘機』への信頼があまりないという現実問題も大きく、扶桑に比べるとジェット化は遅れていた。(チャーチルが海軍予算を増大させて、戦艦を作ったせいでもあるが)

「あれはチャーチル閣下が戦艦を作りまくった弊害でもあるけどね……。なんで今さら」

「核兵器が開発抑制された影響だよ。今の技術で作ったところで弊害のほうが大きい事が分かったし、リベリオン本国のウォレス政権は軍備よりも経済力重視だから、核兵器開発は事実上は棚上げ状態だ。未来から純粋水爆取り寄せて、落としたほうが環境に優しいからな。だから、戦艦整備のほうが『安上がり』と判断されたんだよ。多分、宇宙戦艦の時代にならないと、核兵器は使われないだろうな」

――皮肉にも、リベリオン本国で炸裂した二発のアトミックバズーカは各国政府に決定的に核への恐怖を埋めつけ、核兵器開発を抑制する効果を上げ、核開発抑制の旗振り役を史実で『世界最大の核保有国』であった国がする光景を出現させた。そのため、軍事的には陳腐化しつつあるはずの戦艦の立場を、ある程度回復させる効果を生み出したのだ。

「それで戦艦がある程度は復権したと?」

「そうだ。ロケット兵器は発達していくと、戦闘機を30機作るよりも『お高くなる』事も分かった上、潜水艦を攻撃型にして量産しようとすると、ウィッチ派閥から文句が出る。その兼ね合いだよ」

――海軍の多くは運用費が安い潜水艦を次世代主力艦艇にしようと目論んだが、ウィッチ出身者らは『潜水艦はウィッチ運搬艦だろ!』と言い、その兼ね合いで『潜水空母』というカテゴリーが定着しつつある。潜水艦の本来の役目が『隠密性による敵索敵網の突破と、奇襲攻撃』な事を考えると本末転倒気味だが、未来世界でも『潜水空母』が普及した事実と、何よりも、1940年代の技術力では、『潜水艦にミサイルは積めない』ということが大きく、とりあえずは戦艦が中興したのだ。その理由が「核兵器不在」と「中小艦艇ではビームでへし折れる」という身も蓋もない事情のものだったが、潜水艦では地上支援の継続性を維持できないという実情が未来情報で証明された事が、戦艦を復権に導いたのだ。



「派閥ねぇ。坂本が聞いたら憤慨するわよ?」

「あいつは北郷さんの一件があってから、派閥抗争を嫌うからな。一昨年なんて、汚物見る目でモントゴメリーを睨んでさ。あの人、後で泣いてたぞ」

「あの子、北郷さんを引退に追い込んだ奴らを憎んでるからね。そのせいか、モントゴメリー閣下、トラウマになったみたいよ」

「嫌味なんて言うからだよ。あいつの今の性格からして、ああいうの嫌いだし、私が止めなきゃ、グーで歯をへし折ってたところだったんだぜ?」

「あの子って、意外に喧嘩早いのね。子供の頃は大人しい子だったけど」

「北郷さんに憧れた結果かもな。それとあん時、隊長が殴ってたろ?」

「あ、ああー……あったわね」

――扶桑海事変の御前会議の際、江藤敏子は余りにも子供じみた言い争いをする参謀総長や参謀次長、軍令部総長、次長らに嫌気が差し、思わず軍令部次長を殴打した。これは改変前と後でも共通するが、違うのは、江藤が叛逆と難癖つけられて銃撃され、そこへ黒江が海軍の手引きで『少佐』として、御前会議の参加者らに陛下の意志を伝え、それでも御前会議を取り仕切っていた内親王を粛清しようした輩は三羽烏が一個大隊ほどを皆殺しにした。この時の三羽烏の暴れようは、今は隠居した山本五十六や、偶々、様子を目撃した山口多聞大将などから話のネタにされるほどの凄まじい阿修羅ぶりであった。武子は未来世界で三人がどれだけの鍛錬を積んだのか、血で血を洗う戦場に身を置いていたのかをこの時に察し、身震いしたのを覚えていた。そのため、遠い目をする。

「お、おい。なんだ、その遠い目は」

「いや、あの時のあなた達大暴れしたじゃない?今から思えば、よく『元の通り』に出世できたわね?あなた」

「その後からのことのほうが今は曖昧なんだけどな。欧州で戦果上げて、お偉いさんのケツを『なめて』、少佐にまで登りつめた。あとは今の状態での努力だよ」

黒江は上官の補佐が上手い。大暴れした後も順調に出世出来たのは、部隊を纏める能力が高い上に、エリートコースで士官になったのに関わず、気どらないし、兵達に気軽に話しかける気さくさがあるのが上層部に受けたのだ。更に戦果は前線で挙げてくるという現場主義ぶりも兵たちからの信望を集めた。それ故、元・第一戦隊出身者の中では有数の昇進速度となったのだ。

「でしょうね。ところで、整備部隊に上げるF-14Dの試験報告書は書いたの?」

「レポート付きで出しといた。あれは単座型に改造されてるから、史実とは違うスペックになってる個体もあるからな。ただ、うちらでのF-14の製造はこの戦争中には無理だと思うから、F-4Eの運転に慣れとけよ」

「あれって、どう扱えばいいの?」

「F-14が運動性のいい艦隊防空戦闘機なら、あれは超音速重戦闘機みたいなもんだ。制空戦闘機と思って、下手に格闘戦すると食われる。E型はかなり改良されてる型だが、それでも基本、ドッグファイトには向いてない戦闘機なんだよ、あれは。格闘戦になる時は14でいくぜ」

――そう。F-4系統はミサイル万能論が華やかりき頃の所産。ミサイルキャリアーとして期待されながら、想定されてない格闘戦に引きずり込まれ、犠牲を産んだ機体である。だが、1950年代から60年代を通して、米軍系最高の空戦能力を有した事も事実だ。黒江はF-4Eを使いつつ、機動性を要する局面ではF-14を使用するつもりなのだ。最も14とて、設計時はミサイル戦闘主体の機体であったのだが、意外な運動性の高さにより、F-4を圧倒的に上回る機動性を持つ。そこが切り札とする面だ。


「全ては14のため、か。でも空軍としては15なんでしょ?最高は」

「14は海軍が買うだろう。うちらは15になるな。あれは空自も同じ選択したしな」

「違うのはフルスペックで生産するところでしょうね。米国ってなんで、ライセンス生産とかを勧めてきたの?」

「東西冷戦下じゃ、核戦争すら予測されてたからな。軍備を均一化したい狙いがあって、わりかし当時の新兵器を日本に売ってくれてたが、冷戦が終わって、価値が下がると新兵器の輸出を露骨に渋り始めた。そこが日本の軍需産業の復活のきっかけになり、軍事技術の民間企業へのスピンオフを推進している事がわかると、これまたバッシングし始めた。21世紀前半に当時最新最高と言われたF-22を輸出しなかったのが決定的になって、日本は学園都市のオーパーツ的技術で軍備を整え初め、その努力は統合戦争の圧倒的勝利で証明されたってわけだ。その事例や、インカ帝国がスペインの一個小隊くらいにひねられた事実から、22世紀末に、サンクキングダムが提唱した完全平和主義は日本人から反対論が多かった。安全保障分野での微力さが原因で、1945年以後に辛酸を嘗めてきた彼らからすれば、論外な理論だったしな。まぁ、現実主義的でもあったリリーナ・ドーリアン外務次官……当時は本名のピースクラフトで活動していたが。……は『平和は一人ひとりが自分の力で勝ち取るもの』って折り合いつけて、軍隊の存続決定には反対しなかったし、一丸となって戦うのを導いてくれたそうだ」

――そう。かの完全平和主義は安全保障の軽視であるとバッシングされた。平和維持の方法は軍事的手段だけでないはずだと、リリーナは説き、実践していった。だが、実際には軍事的手段は『最後の手段』として使うのが外交である。リリーナとしても、外交官の養父がそう言っていたのを覚えており、連邦政府大統領となった頃には、科学技術と軍事は歴史上、切り離して考えられられない事を熟知しており、国防的観点から、悩んだ末に白色彗星帝国戦役(ガトランティス戦役とも)勃発が決定的になった頃に、危急存亡の時が間近であったため、『科学技術の維持も兼ねた軍事研究の存続』を事実上、公認した。これは過去のインカ帝国の事例を鑑みたもので、『軍事技術を完全に放棄してしまえば、インカ帝国よりもひどい虐殺が銀河系に広がる地球圏全体で起こってしまう』事が否応無く示されてしまい、軍備放棄を理想としていた彼女を苦しめた。だが、いつしか彼女の信条となりつつあった『平和は一人ひとりが自分の力で勝ち取るもの』という概念を完全に根付かせる結果ともなり、ガトランティス戦役で人々が一丸となって立ち向かうのを導く役目を果たしたのだ。

「向こうの世界には色々あるのね」

「向こうは最大で、世界に大小200カ国以上あったからな。それを統合するのも波乱あった世界なんだぜ?兵器だって、1950年代には30年代とは比較にならない性能のが造られてるんだ。血で血を洗う戦争ってのは、逆に科学技術を大きく進めるんだ。皮肉なもんだが。同時に向こうの世界は悪だらけってことだから、色々なヒーローがいたみたいだって、ライダーの皆さんから聞いた事がある」

「あそこはバーゲンセールね」

「少なくとも、最も激しい戦闘が続いた70年代には複数のヒーローがいたというのは確からしい。名前とかは不明だ。記録の散逸もあって、その辺はハッキリしないんだと」

仮面ライダーらが直接、共闘したであろう70年代当時に現役であったヒーローは少なくとも実際にいたというのは確かだが、名前などは日本政府記録の統合戦争による散逸もあり、ハッキリとはわからない。有名なキカイダー兄弟らしき二体のロボと現役時に共闘したとは、仮面ライダーV3の談だが、確証はない。

「それじゃ実際に何人居て、どういう組織が暗躍してたのかも分からないの?」

「ヒーロー達に悪の組織ってのは、完全に根絶やしにされるのが多いし、悪の組織同士の足の引っ張り合いもあって、記録が殆どないそうだ。その時々の政治家達の暗部だったりするからな。人知れず戦って、その後に市井に消えていったヒーロー達は多いんだろうな。まぁ、神々がぶつかり合った『あの世界』よりはマシだが」

――黒江は会話をこうまとめた。未来世界は戦乱に満ち溢れた歴史を辿っているものの、それは人間同士での事であり、神々の熱き聖戦が定期的に巻き起こっている『聖闘士星矢の世界』よりはマシな部類だと。だが、どっちもどっちであるのには変わりはないのも事実で、最後の方は自嘲気味だった。だが、希望は『悪に屈しない心がいつの時代も、どこの世界にもある』ということだと言うことだ。

「先輩達〜」

「なんだ、黒田か。どうした?」

「上からの要請で、誰か亡命リベリオン側との模擬戦を仕切ってくれとの事です」

「んじゃ、私が行く。フジ、お前の陸王を借りてくぜ」

「壊さないでよ。上から『なんでオートバイの調達経費がこんなに高いんだ?』って文句出てるんだから」

「わーってるって」

黒江はこの時期には本郷猛らの影響で、九七式側車付自動二輪車を乗り回すようになっていた。バイクの運転免許は機械好きであった都合上、取得済みであったからだ。本郷猛らと出会うことでオートバイに乗る機会が増え、その都合上、メンテナンスも引き受ける事もあった故の帰路だが、この時期には旧型の車両に分類されるようになり、もっと高性能なBMW・R75や、四輪駆動車であるジープの輸入とライセンス生産により、軍からの退役が始まっているが、武子は若き日から親しんだ車両故、数台をキープしているのだが、黒江に一台が事実上、好きに使われている。圭子は圭子で新サイクロン号を乗り回しているので、意外にツーリングが好きらしい。武子は『暇さえあれば、私だって』との顔を見せ、黒田に嗜れたという。



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