外伝2『太平洋戦争編』
第十六話
――扶桑皇国は国情が日本帝国と違うため、空母を数多く保有する海軍大国であったが、運用費が飛躍的に高いスーパーキャリア(超大型空母)と従来型の同時運用は連邦の資金援助無しでは賄いきれるものではなく、国防省は太平洋戦争終結の暁には、残存する戦前型改装空母の大半を引退させ、超大型空母4隻か5隻前後に攻撃空母を統一する財政計画を立てていた。国防大臣の井上成美は超大型空母の運用費の高さに、『戦時でなくなったら、この規模の海軍は維持できんな』と部下に漏らし、太平洋戦争終結を見通す『軍備整理』を構想していた。
――国防省
「加藤大佐、見給え。この軍事費を」
「この要求で通るんですか?」
「平時の2倍の要求だが、連邦の資金援助でどうにか通ると言ったところだ。特に今年は14号艦の改造があったからな」
「14号艦?」
「ワシントン軍縮条約の煽りで建艦が止まっていた13号型の生き残りだよ。進水前だったから、新規に名前を宛がう必要があるがね」
井上は国防省でばったり会った武子に、自身の構想を見せ、また予算計上の具合を相談していた。武子はF-104Jの追加配備申請の受理が本国から通達され、その書類確認と手続きの完了のために、本国に一時帰国していた。そこで井上とばったり会い、彼に招かれ、相談されていたのである。
「空母関連の人件費が増大してな、護衛艦と合わせると、かなりの出費なのだ。水上艦隊の規模縮小と、潜水艦の増勢で釣り合い持たせようかと思っている」
「空母艦隊だけで、多くの予算ががかかりますからね。ウィッチ閥はどう説得なさるのです?」
「雲龍型を本格的にヘリコプター強襲揚陸艦に転用し、彼女らはそこに配属させる。あれはジェット機化の時勢では、空母とは言えん。もはやただの『箱』にすぎんものだ」
――戦後を見据えた井上成美大臣の整理計画。それに加担した形の武子。後に黒江ら残りのメンバーもそれを知り、当時は病床にあった山本五十六の要請もあって、海軍の軍備整理計画策定に加わり、戦後の1954年度に正式に成立させる事に成功するも、その過程で立場上、坂本と対立する事になってしまう。この政治的対立は双方に『しこり』を生み出してしまい、坂本の後半生に少なからずの暗い影を落としてしまう。坂本は三羽烏へ真意を綴った手紙を送るが、戦時のゴタゴタで遅配し、届いたのはベトナム戦争後の1975年。三羽烏はその時点の残りの軍役期間をかけて、八方、手を尽くして探すが、彼女ら自身が退役を迎える1980年代後半までには、坂本の『土方と結婚した』後の消息は掴めずじまい。最終的に分かるのは、その更に15年以上が経過した西暦2000年。坂本の孫娘が祖母の訃報を伝えに来た時であったという……。
――1947年3月時点で扶桑軍は財政がカツカツであり、大蔵省からは『軍事予算が大きすぎる』と文句を言われた事もあり、将来的な軍備整理を視野に入れていた。特に海軍は大型空母の導入による運用費増大が問題視されており、平時に戻った暁には、戦艦の数隻、旧型空母、重巡、軽巡の全てを退役、もしくは数隻残してモスボール保存し、有事に復帰させる案を井上以外の人員も立てており、思惑が一致した形となった。また、その伏線として、スーパーキャリアを補う50000トン級空母とするべく、組み立て始めの段階でドックに放置されていた旧・13号型巡洋戦艦の14号、15号、16号の船体を空母に転用する事が決議された。空母の新命名規則に乗っ取り、山や旧国名も使用可能になったため、『皇海型航空母艦』と名付けられ、1951年までの全艦の完成を予定された。
――最前線基地
「何、ドックに放置されてた十三号型の組み立て途中の船体が空母に転用?」
「そうよ。実質は空母としての新造だけど、予算上は改装という形よ。50000トン級にするって話だから、ミッドウェイ相当に当るわね」
「こっちで空母になんなかった信濃のポジか。改大鳳がスーパーキャリアに切り替えられた埋め合わせだな」
ある日、黒江と圭子は雑談で、この時期に空母に転用された13号型巡洋戦艦の船体に触れた。天城型を動かそうにも、ここ数年の酷使で船体がガタガタである。そこで史上最後の改装空母として『13号型』を転用したのだ。戦艦としては、大和型登場で陳腐化しているので、敢えて戦艦として完成させる意義も薄れていたためだ。
「それで、艦載機は第4世代までの運用を視野に入れてるそうよ」
「マジかよ。と、いうことは1990年代初めまで使うつもりだな……」
そう。ミッドウェイ級は湾岸戦争で完全退役したが、そこまで酷使させるつもりかと読む黒江。元は陸軍軍人ながら、未来世界滞在で『海軍軍人』として過ごしたためため、『海軍の気持ちも理解できるようになった彼女、戦争の様相が史実太平洋戦争の埋め合わせになりつつあるのを悟っており、小艦艇の小競り合いや、航空戦による消耗戦が頻発するようになり、戦前に在籍していた駆逐艦の残存数はもはや20隻もない事も知っていた。
――南洋島東部
戦前の陽炎型駆逐艦のこの時点での生き残りである『雪風』。彼女は改装により、秋月型駆逐艦と同等の兵装仕様にパワーアップしていた。また、ボフォース40ミリ砲の増備も行われており、乗員の練度と重なって幸運艦の名を欲しいままにしていた。なお、島風型駆逐艦の4番艦『時雨』と併せて、『呉の雪風、佐世保の時雨』を謳われているとの事。
「敵駆逐艦、探知!」
「何杯だ?」
「7杯であります」
「敵の斥候艦隊か?レーダーがあるというのに」
「敵は友軍のM粒子を恐れています。それ故でしょう」
「よし、フレッチャー級程度であれば、本艦隊でも対応できる。やるぞ」
寺内正道中佐。雪風の第5代艦長である。扶桑海軍の斥候艦隊である『第4任務部隊』の司令である。彼は扶桑軍の中でも名艦長の一人として知られており、幸運艦の雪風(改)を旗艦に、同じく生き残っていた『長波』、『山雲』、『霰』、『霞』、『初風』、『天津風』を率いて小競り合いになった。九八式十糎高角砲の改良型を用い、両用砲として使用し、戦闘を行った。流石に九八式十糎高角砲の威力は第二次世界大戦時の駆逐艦としては最高レベル。フレッチャー級程度であれば、砲戦で致命傷を負わせられ、フレッチャー級の艦隊は四隻が海の藻屑となる。
「フレッチャー級は脆いですな」
「最新エレクトロニクスで我らが統制されているとは言え、こうもあっさりと勝てるとはな。フレッチャー級は聞けば、我が連合艦隊の戦前の総数以上の数が短期間で建艦されているという。そのため、失っても惜しくないのだろう」
――フレッチャー級の数は175隻を超え、太平洋戦争でたとえ40隻が撃沈されても、まだ余る数が配備されている。アレン・M・サムナー級駆逐艦、ギアリング級を合わせると、それこそ雲霞のごとく湧いて出る数に登る。
「こちらはミッド動乱で消耗しているのに、向こうは分かれても、なお数は多いですからな」
「うむ。こちらは駆逐艦は松型と合わせても60隻もいかんからな。増勢しても100隻行くかどうか」
水雷戦隊閥は駆逐艦を『対艦戦闘特化』艦と考えているものが多い。汎用性を失っていると亡命リベリオンから揶揄されていた事もあり、駆逐艦設計思想は後年の史実海自護衛艦のそれへ世代交代しつつある。そのため、酸素魚雷を取っ払ったスペースに電子装備室やCICをつけたが、後付故にマッチングは悪い部位に入り、戦争終結後に海自護衛艦型で代替が行われる要因となった。このように戦術単位では優位にあるものの、攻勢を受ける立場であるのには変わりなかった。
――東部最前線では新旧日本系戦車と米系戦車群が撃ちあい、戦場にはウィッチ・兵士ともに双方の屍が散らばっている。双方のウィッチ資源の消耗は凄まじく、47年3月中だけで、扶桑側だけで通常編成部隊の一個旅団と同等の数が戦死、もしくは後送される事態であった。これは火砲の急激な発達に、陸戦ストライカーの発達が追いつかなくなったためとされ、陸戦ストライカーの早急な代替わりが求められていた。また、時たま、有力な航空ウィッチが連邦軍からISなどを持ち込んで使う事もあり、陸戦ウィッチからメーカーに文句が出ていた。次期陸戦ストライカーの生産・投入には最低でも3年はかかる試算があり、陸軍部を悩ませていた。
――またある日 基地内の源田実の執務室
「お前たち、この間の戦では暴れたそうだな?」
「そうですけど……なにか問題が?」
「問題はない。むしろ喜ばしいくらいだが、お前ら、ISで暴れただろう?陸さんが欲しがって、軍需産業の連中に無理難題をふっかけて、先方が泣いてるそうだ。話だと、最低でも3年は必要だと、軍部に泣きついているとか。」
源田実は武子と黒江を呼び出すなり、この一言を言った。さすがの二人も源田の態度を掴めなかったが、二人の戦闘に陸軍が触発されたらしく、ウィッチ達から「あんなのほすぃ」と要望が出て、軍需産業への陸戦ストライカーの要求仕様がエスカレート、ここ2年以内の完成はなくなったと言及する。
「おかげで、国防省で陸軍のウィッチ閥の連中から嫌味言われたぞ。あいつらも欲しがるのはまちがいなしな性能だしな」
「は、はぁ……」
武子も黒江も、反応に困り、そうとしか言えないようだ。結局、源田の愚痴に付き合わされた形の二人だが、愚痴を聞いている途中で対策を取らなければと考えていたらしく、その日のうちに、平時には科学省へ出向している真田志郎に連絡を取った。
「……というわけなんです、真田さん。どうにかできませんか?」
「陸戦ウィッチの強化か……そうだ。こんな事もあろうかと、暗黒星団帝国と戦った時に考え、今度のコンペで提案しようと思っていたプランが有る。そのプランの機体を早速、工廠で試作させて見よう。明々後日くらいまでにこちらへ来てくれ。源田司令には、私から話を通しておく」
「早っ!なんでそんなに手がまわんのぉ!?」
「そ、そうですよ!まだ話して一分も立ってませんよ!?」
「なあに、科学者たるもの、あらゆる事を想定しなければならんのでね」
真田の笑い声が受話器から聞こえる。二人は真田の万能ぶりに、『開いた口がふさがらなかった』。
――西暦2203年 1月
デザリウム戦役終結から数カ月後、真田志郎は科学省に出向しつつ、デザリウム帝国の鹵獲兵器のテストや、趣味の工作などを行っていた。ヤマトは日本アルプスでドック入りしており、連邦軍艦艇の新規乗員の募集が街の募集ポスターとして貼りだされたり、ヤマト新艦長の人事が取り沙汰されていた時期であったが、真田本人はとりわけ、特に忙しい訳ではなかったので、黒江のSOSに即、応えられた。来るまでにあれこれ準備し、二人が来る日には試作弐号機の組み立て中というところまでこぎ着けていた。
「よっと。まあ、こんなものか」
真田はその機体を組み上げた。プランAとプランBの機体をそれぞれ組み上げ、違う外観を持つに至っている。組み立て中の弐号機は『ドムの設計思想をパワードスーツに落とし込んだ』ような機体で、ISの基本フレームをベースに、飛行機能をホバークラフト機能に置き換え、重装甲にしたような機体だった。対する一号機はローラーダッシュ機構と軽装甲、アンバランス気味な大型の右手からゼロ距離でビームが撃てるなど、『どこかで見たような』ギミックであった。やって来た二人が1号機を見た時、どこかで見たようなシルエットに、武子は『えーと……ボトムスのアーマードトルーパー?』と、黒江は『いや、腕の構造的に、コードギアスのナイトメアフレームだろ』と好き勝手言った。真田はそれらを多少参考にはしたと答え、納得させた。
「なんかシャーリーが、何となく喜びそうな武装だよなあ。あいつにピッタリ来そうだ」
「ええ。私もそう思った」
二人は1号機の武装が、後者のとあるナイトメアフレームを連想させるため、シャーリーが使ったら、妙にしっくりくるとばかりに想像する。南洋島にいるシャーリーは芳佳を面倒見ていた時に突然、二回もくしゃみし、『こりゃ絶対、どっかでバルクホルンか誰かが噂してやがんな』と、ティッシュで鼻をチーンとやりながら愚痴り、芳佳に「まさかぁ〜」と言われていたりする。
「弐号機の方はオーソドックスな……なんと言おうか、ドムですね」
「ああ、ドムの設計思想は理に適っているからね。人型機動兵器が地上で困る点は『脚部関節の不具合』なのだ。脚のローラーダッシュやホバークラフトは、機動兵器の脚部関節の摩耗を軽減し、整備の手間を軽減するアイデアなのだ」
説明する真田。たしかにローラーダッシュやホバークラフトは機動兵器の地上での移動時の脚部への負担を減らすのに最適なアイデアだ。
「陸戦ストライカーは装軌で歩行以上のスピードを得ているが、履帯が切れるなどのトラブルが多い。 ローラーやホバーなら、いくらかそういうリスクから逃れられるからな」
確かに履帯の切断や脱落で移動不能になり、滅多打ちにあって戦死する陸戦ウィッチの例は多い。二人はすっかり説明に聞き入る。
「だが、不整地の走破性と搭載量を考えたら、装甲戦闘脚(ストライカーユニット)にも優位な点として有る訳だから、廃れはしないだろう」
そう。ホバークラフトには大型化に限界があるのは知られているし、ローラーはローラー自体の摩耗や破損を気にしなくてはならない点があり、双方ともにメリットもあるがデメリットも多い。真田が廃れないと言ったのは、現に地球連邦軍の戦車も、昔ながらの履帯式であるからだ。
「あれ?武子さんに綾香さん?何してるんですか、こんなところで」
「箒?お前こそ何してるんだ?ベガ星連合軍との決戦が近いとか聞いてるが」
「ああ、赤椿の偽装機能のチェックを頼みにきたんですよ。あれで元の世界に持って帰ると、姉が五月蝿いですから」
「あー……」
科学省に箒が来訪し、ばったり会った。箒は赤椿の聖衣化に手を焼いており、真田に頼んで、普段は外見を偽装する機能を追加してもらうように頼み、箒もISの『意思』を説得させ、どうにか追加してもらい、その作動チェックのために来たのだった。
「アテナから正式に黄金に任じられたのはいいんですが、姉にあれを間近で見せると、ショック大きいかなと思って、前の帰省の時は黄金聖衣で戦ったんですよ」
「なるほどなあ。で、なんて言われた?」
「みんなからは『ずるい』とか、『反則だ!』だとか言われましたよ。黄金聖衣着れば光速で動けるし」
「確かに」
「そう言えば、仲間の一人が『なんでギリシアの聖域の聖剣がエクスカリバーなんですの!?』とか言って、憤慨してましたよ。私もわからないんで答えなかったんですが、良かったですか?」
「それなぁ。エクスカリバーは英の王権を示す聖剣って話が通説だが、色々諸説あるからなあ。私も分からん。第一、私がそれになるとは限らんしな。それでいいぞ」
黒江はその腕に聖剣を宿すが、その聖剣の出自は不明である。更に山羊座の聖剣はその代の聖闘士の資質で、名前も性質も変わるという隠れた特長がある。エクスカリバーはシュラとその先代『以蔵』、紫龍の資質で発現したのであるので、黒江がそうなるとは限らない。
「真田さん、後でチェックお願いします」
「分かった。明日には連絡入れるよ」
「ありがとうございます」
「大佐に中佐。この機体達は明日のコンペで先方に提案してみる。先方の国防省に連絡してあるから、近日中にもテストしてもらうよ」
「分かりました」
真田と別れた三人は、科学省の食堂で食事しつつ雑談に入る。
「フェイトの奴、公式魔法戦競技会で優勝をかっさらったって?」
「ええ。あいつ、アイオリアさんと長く一体化していた影響で口調がそれっぽくなっちゃって、大会で技撃つときに『聞け、獅子の咆哮を!!』とか言って、ライトニングプラズマ打ったとか」
「……マジかよ」
「マジです。そんな調子で予選を勝ち抜いて、決勝でフォトンバーストしたとか」
「フォトンバーストだと!?あいつ、加減しらねーのか?」
――光子破裂。それはアイオリア最大の拳で、かつて、ティターン神族をも屠った光子の応用技である。それを魔導師相手に、しかも市井の大会で使用したというのか。黒江が思わず声が上ずるのも分かるほどの大技だ。
「威力は加減したらしいですけど、私も手紙で諌めておきましたよ」
「アイオリアさんの影響か?ったく、あいつめ。今度叱っておくか……。で、お前の方はどうだ?」
「私もあれから修行して、ゾディアッククラメーションを目指してます。その副産物で、ギャラクシアンエクスプロージョンやスターダストレボリューション撃てるようになりました」
ゾディアックエクスクラメーション。それは最強の黄金聖闘士12人の最高技を同時に繰り出す聖闘士単体最高の大技。それを目指す過程で、双子座のギャラクシアンエクスプロージョン、牡羊座のスターダストレボリューションを会得していると話す箒。これは彼女が偶々、技をその身に記憶し、更に再現できる技能を備えていた事、元々、アイオロスがその技を会得していたことが大きな助けとなった。
「そうか、私も負けてられねーな。この聖剣をもっと鍛えないと」
箒が意外な才覚を持っている事に触発されたか、ラーメンをそそりながら喋る。武子はそれを諌めつつ、箒にある事を頼み込む。それは彼女の趣味に纏わる事で、箒は快く応じ、その日の午後、東京都内の大手カメラ店に連れて行ったとか。
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