外伝2『太平洋戦争編』
第二十五話
――扶桑海事変で扶桑国内のミリタリーバランスが陸軍に傾くと思いきや、神は上手くしたもので、艦娘の出現でバランスを取ったのである。しかし、神のいたずらと因果応報の法則に従ったか、未来で追いつめられていたティターンズの残存兵力を呼び寄せ、リベリオン合衆国は東西ドイツと同じ運命を辿る羽目となった。扶桑軍はティターンズ鎮圧にやって来た地球連邦軍と手を結び、彼らの超科学を手に入れ、リベリオンが本来は担うとされた『次代の超大国』の地位へ邁進し始めたのである。
――飛行64F 第3格納庫
「孝美、貴方にも見てもらうわ。ウチが『空軍の切り札』と目されてる理由』を」
「理由?」
智子は、64Fが独自に保有する兵器の格納庫へ雁淵を案内する。そこには。
「な、なんですか、これ―――ッ!」
腰を抜かす雁淵。格納庫にあったのは、オーバーテクノロジー満載の超兵器、地球連邦軍やティターンズが使う『モビルスーツ』だったのだ。驚くのも当然だった。
「何って、MSだけど?」
「だ、だ、だ、だから!どこから手に入れたんですか、こんなの!」
」
「地球連邦の軍需産業『アナハイムエレクトロニクス』のフォン・ブラウン工場から。連邦でも一部の精鋭部隊にしか配備されてない高性能機を揃えてあるわ」
格納庫に置かれていたのは、空軍の任務の都合上、Z系が中心だった。ジム系でも、ジェガンベースであるが、中身は別物の『ジェスタ』、『グスタフ・カール』を揃えている。目玉が……。
「これが、圭子が向こうで苦労して、操縦ライセンスを取って手に入れた、EX-Sガンダムよ。」
「イクスェスガンダム……」
「ジェネレーター出力もさっきの量産型とはケタ違い、推力もここから単独で宇宙に出れるくらいに強力、武器の威力は自ずとわかるわね?」
「バケモノじゃないですか、それって」
「モビルスーツとしては、ね。向こうにはもっと強力な兵器があるから」
「嘘ぉ……」
「モビルスーツだって、今の軍隊の殆どの兵器は一撃で破壊できるんだけどね。貴方をここへ案内した理由は分かるわね?」
「こいつらの扱いを覚えろ、ということですね?」
「当たり。幹部級は必須事項よ。とりあえずは練習機のジムVで基本を覚えなさい。カリキュラムを渡しておくわ」
「サラッと言わないで下さい、先輩……」
雁淵は配属からそれほど日が立たない内に、MSの操縦訓練を積む事になり、智子の教練を受ける。これはMS操縦経験者が64Fの中でも、メカトピア戦争〜デザリウム戦役を連邦軍で経験した者のみで、尚且つ智子が比較的に手空きだった事が原因だった。
――内地で統合参謀本部相手にやり合う黒江は、疲労困憊であった。
「はひ〜参った参った……」
「ご苦労様です」
「お前がいてよかったよ、『赤城』。おかげで統合参謀本部の海軍基地航空隊閥を黙らせられた」
「い号作戦や、ろ号作戦にガ島を例にすれば、誰だってああなりますよ」
「お前、その頃には沈没してたろうが」
「ま、それはそれで」
「お前なぁ……」
赤城は実艦がウォーロックに沈没させられているため、名を継いだ連邦軍の戦闘空母に現れ、加賀と再会した。以後は共に行動する事が常であり、統合参謀本部に黒江が殴りこむのに尽力したのである。
「赤城、口にあずきついてるわよ」
「ありがとう、加賀」
「赤城、お前、よく食うなぁ。統合参謀本部のジジイ共がポカーンとしてたぞ」
ぼた餅を会議中でも食べる赤城に、統合参謀本部の高官らも唖然としたものの、仕事は真面目にこなすタイプなため、い号作戦、ろ号作戦、ガ島での消耗戦の詳細なデータをパワーポイントも活用して提示。更に加賀が大戦後期の米軍の対空砲火の映像と写真を突き付け、陸攻閥にトドメを刺したのだ。
「仕事はちゃんとしましたよ。おかげで陸攻の撤廃と、局戦と夜戦の空軍への正式編入とかが決まったじゃないですか」
「まぁ、それもそうだな。お、本土の防空部隊のF-104Jか。内地にも回されたようだな」
扶桑本土もジェット戦闘機の配備が進んできたようで、防空部隊の訓練が見える。
「本土はそろそろ初夏か……。つーか、奮発しすぎだよなあ。いきなり自動警戒管制システムの導入なんて。あれは2000年代の代物で、私が副業してる時代の空自でも運用前だぜ?」
本土は桜が散り、若葉の季節になりつつあった。史実で本土防空戦に完膚なきまでに敗北を喫したと理解した本土防空部隊は超重爆でも撃墜できるジェット戦闘機と、高度な防空網を求め、なんと史実では、遥か後の2000年代に実現する自衛隊式防空システム『自動警戒管制システム』を1947年度に導入してしまったのだ。これには黒江も流石に大慌てで、主導した小園安名大佐(旧302空司令)を説得しようとしたが、連邦軍の技官から『商用オフザシェルフで組むのなら、ジャッジシステムでも値段は同じだ』との回答が得られたため、大佐は『皇国には、合衆国とティターンズ共の醜悪なる翼を退けられる、守護の盾が必要なのだ!』と熱弁を奮い、黒江を逆に一喝した結果、購入の運びとなったのだ。
「小園のおっちゃん、熱くなるからなぁ。逆に丸め込まれちまった。現場単位じゃバッジとそんなに変わらんから、その辺は空自にいるから、楽だけど。念の為に、幹部普通課程、指揮幕僚課程だとか、幹部高級課程も受けて受かったし、問題ないけど」
そう。元々、頭脳明晰である黒江、旧軍の高級将校であるという真の経歴とは別に、自衛隊高級幹部としての登竜門を、二佐昇進と同時に受験し、合格していたのだ。
「受かったんですか。」
「こちとら航空士官学校卒だぞ?自衛隊の選抜試験をくぐり抜けるくらいできなきゃ、江藤隊長達に合わせる顔がねーよ」
そう。黒江はこの時期には、航空自衛官としても空将になれる道が開けていたのだ。しかも『20代の内に』、である。これは極めて異例の事だ。
「そうですね〜それで背広組はなんて?」
「後で、私に心酔してる空将のおっちゃんから聞いたんだが、防衛庁の内部で相当に揉めたみたいなんだ。背広組の連中、『ズルしてね?』、『普通、20代であの課程を突破なんて無理なはずだ!!現に本年度の受講者の平均年齢は……』、『陸軍とか精神論の馬鹿ばっかじゃねぇのかよぉぉ!嘘だろ!』、 『おい!調べてみたら、アイツに相当すると思われる陸軍のエースパイロットで、後のウチの黎明期の空将補が、モスキートを部隊で罠はって落としている!』、 『一旦調べ直さないとハッキリとした事、言えんなぁ』とか好き勝手言ってくれたそうだ。制服組は逆に小躍りして歓喜して、『見たか背広組共!』、『帝国陸軍飛行戦隊は、加藤隼戦闘隊の栄光は健在だ!!』、とかの大パニック。思わず、ウチの隊歌を流す悪乗りした奴まで出たって。それはすげえ恥ずいからやめて欲しかったんだけど。この世界じゃ私の作詞だし……」
そう。加藤隼戦闘隊の隊歌は、ウィッチ世界に於いては『黒江が作詞した』のだ。当人曰く、『プロパガンダに使われると分かってるから気乗りしなかったし、てけとーに作っただけだってのに〜!』との事で、意外にも作詞の才能があった事が分かる。
「それが最近で一番に恥じいことだった……あ―――っ!こんなことなら、マジでやっとくんだった!!」
過去を後悔する黒江。まさか半世紀も後の時代に歌が残っているとは思わなかったのだ。しかも軍隊の解散を経ている世界であり、歴史的には陸軍と空自に組織的連続性はないとされている(人的連続性はある程度はあったが)からだ。
「ご愁傷様です」
「加賀、テメーなぁ。はぁ……」
「あれ?赤城さんと加賀さんじゃないですか」
「大鳳」
内地で訓練中の艦娘であり、日本最後の『実戦経験のある正規空母』の大鳳とばったりであった。大鳳は容貌が西住みほやエーリカ・ハルトマンに似ている(背丈もエーリカほど)ため、黒江も最初は驚いたほどだ。
「貴方はどうしてここに?」
「はい。第一機動艦隊の訓練を監督するよう、角田長官から指令され、そこから帰宅する途中です」
「ご苦労様。確か貴方は、機動部隊の体をなしていた頃の最後の旗艦だったわね?」
「はい。恥ずかしい話ですが、あの時は私の船体も航空隊も、万全を期したとは言えない状態でしたから」
大鳳は史実のあ号作戦で訓練未了としか言いようがない練度で初陣を迎え、敢え無く撃沈された。帝国の落日の象徴と後世に評されている事を気にしているらしく、訓練に積極的だった。小沢治三郎に挨拶したかったが、彼のもとには既に瑞鶴(史実での関係から)がいたため、角田中将のもとに身を寄せたのだ。彼は龍驤の乗艦経験者であり、大鳳とは縁がないに等しかったが、訓練不足で帝国の運命と共に沈んでしまったのを悔やんでいるのを不憫に思ったのか、大鳳を引き取ったのだ。
「今は改装された自分自身に乗って、F-4Eの訓練を監督しつつ、自分も訓練をしてます。私はクロスボウで召喚するので」
大鳳は弓道で艦載機を召喚する瑞鶴以前と異なり、トリガー式のクロスボウガンを媒介にして艦載機を召喚する。勿論、彼女も連邦軍の戦闘空母に名が引き継がれたため、連邦軍の戦闘兵器を使役できるが、瑞鶴以前と比べると、戦闘兵器の性能に頼っている感が否めず、角田中将は実戦に出してないのだ。
「あなたでこれだと、雲龍以後が現れたとして、出現時の練度には期待できないわね?」
「あの子達は捷一号作戦以後の登場な上に、艦載機を運用した経験もありませんから。私よりも遥かに時間が必要です」
「実戦に出せるボーダーラインは貴方まで、か……合計で7隻。エセックスやミッドの相手をするにはきついわね」
加賀は戦力分析をする。確かに日本の実戦経験済み正規空母全てを合わせても、ミッドウェイ、フォレスタル、エセックスを合わせた米機動部隊には数で圧倒されるし、質でも怪しい。
「阿蘇、笠置、生駒、鞍馬は来るのも怪しいかしら」
「怪しすぎます。笠置までならあり得ますけど、生駒とかは60%で中止ですよ?無いかと。進水式は終えてますが……」
微妙な表情の大鳳。そこまで行くと、雲龍でも把握していないだろう。葛城に期待するしか無かった。
「問題は大和さんの4番目じゃ?未来世界だと『まほろば』だし、こっちでは甲斐ですよ?」
「それは微妙ね。まほろばは坊ノ岬沖海戦寸前の完成で、艦政本部も殆ど把握してなかったし、甲斐として完成する世界は希少すぎるわ。三河だったり、越後だった世界もあるから、艦娘となるには意志の数が少ないし、同位艦が貴重すぎて弱すぎるもの」
――大鳳が気にしているのは、世界ごとに、あったりなかったりする『大和型4番艦』のことであった。ウィッチ世界では普通に『甲斐』という規則通りの名で竣工したが、未来世界では『まほろば』型という名の超大和型戦艦として竣工したし、そもそも、111号艦が『甲斐』として完成する世界も稀有なのだ。他には『越後』、『三河』、『讃岐』、『尾張』、『紀伊』、『遠江』の例が確認されていて、加賀はそれに言及した。
「ただ、超大和型戦艦のほうが来る事も考えられるわ……。まほろばのこともあるし、あれはなにかかしらの動きはあったから」
「それじゃ50万トンはどうなんです?」
「そ、それがあったわね……」
さしもの加賀もそこまで指摘されると、言葉に詰まる。50万トン戦艦はその存在そのものが規格外に過ぎ、存在した世界は少ないものの、どれも強烈な意志が出現に関わっている(そもそも金田中将からして、強烈)ため、あり得なくない。加賀が言葉に詰まったのは、金剛から金田の存在を聞かされていたからだろう。共に未成である世界の方が多いので、まず来ないと思われるが……
――さて、前線では圭子が慣らし運転も兼ねて、ライセンスをわざわざ取って搭乗したEx-Sガンダムを動かしていた。
「お〜!さすがS、ご機嫌ね!」
この個体は最終的になのはの手に渡り、パルチザンが使用した個体とも、ディープストライカーに使われたのとも別の一機である。Sガンダムにはエゥーゴ時代、様々なペーパープランがあったが、その中でもMSとしての最強のプランがEx-Sである。当初は荒唐無稽ともされたプランであるが、重量増加を打ち消すかのようにトータル推力が強化され、重量機なのに、思い切り機動戦でぶん回せるという、『頭おかしい』ガンダムとなった。恒星間運用パワーアップキットも適応すると、完全に『ZZの火力と装甲とZの機動性を兼ね備える』ガンダムとなり、アナザーガンダムも含めてでさえ有数のガンダムとなるのだ。
「さて、プラスより高火力のスマートガンを喰らえ!!」
圭子はビームスマートガンを放つ。相手は海岸で艦砲射撃の任についている、旧式戦艦の数少ない生き残りのテネシー級戦艦。その内の『テネシー』を貫く。テネシーの船体はビームにへし折られ、まっ二つに分かれる。まず前半分が沈み、次に後ろ半分がバランスを崩して沈む。
「ふふふ、見たかヤンキー共!Sガンダムの破壊力を〜!」
ご満悦の圭子。無電からは残された『カルフォルニア』の乗員たちのパニックぶりが傍受できる。
『て、て、テネシーが……』
『バカな!!改装の時に対ビーム対策の構造と装甲に変えたはずだぞ!?それを容易く無視できるビームを怪異ができるはずはない!!』
と、完全に狼狽えるカルフォルニアの艦長ら。彼らの前にも『悪魔』が現れるのは、すぐだった。
『て、敵機せっき……あ―――っ!!』
という見張り兵の悲鳴が伝声管を通して、響く。彼が見たのは、一機の巨大ロボットが、護衛艦を捻り潰していく『悪夢』だった。艦隊の火器や直掩機、直掩ウィッチが攻撃をかけるが、所詮は1940年代相応の武器。複合材多層装甲持ちのEx-Sには当たらないし、傷にもならない。圭子はそれらを置いてけぼりにし、旗艦のカルフォルニアの艦橋の前に取り付く。
『あー、こちら扶桑皇国空軍中佐、加東圭子。カルフォルニア乗員に告げる。速やかに投降されたし。繰り返す……』
圭子はビームスマートガンの銃口を艦橋に突き付けるという、MS戦での戦艦制圧のセオリーに従った行動に出る。スラスターでホバリングを行い、前部第二主砲塔の上に鎮座するS。計り知れない威圧感である。
『戯言を!!』
激昂したウィッチの一人がM2重機関銃で攻撃するが、肩アーマーの姿勢制御用スラスターを噴射した際のブラストで吹き飛ばす。
『……お前ら、殺されたくなかったら、すっこんでろ!!』
圭子は思わずウィッチ達に怒鳴る。無益な殺生は避けたいのだ。
『ウィッチの連中は状況をわからないようだから、このEx-Sの実力を見せておくわ』
大腿部のビーム・カノンを海面に打ち込み、水蒸気爆発を起こす。火力の違いをこれ以上無いほどに見せつける。
『これで分かったか?』
静かに圭子はいう。それがウィッチ隊を恐怖させる。
『さて、艦長。貴方の答えを聞かせてもらいましょう。投降にイエスかノーか!』
山下大将張りの迫り方である。圭子自身、いささかハッタリにすぎると思っていたが、戦艦を伴う艦隊を投降させるには、ドスを効かせる必要があった。その為、圭子の声色は普段よりちょっと低めであった。
「艦長!」
「総員、いや、全艦は急いで解答旗とC旗を用意しろ!それと本艦はK旗の用意だ!全砲は負格を取れ!いそげ!」
「しかし!」
「君も見ただろう!あの威力を!本艦隊の武器では対抗しえん!急げ!」
カルフォルニアに旗が上がる。無線通信を求める旗と、降伏を受け入れる意の旗が揚げられた。ややあって国際緊急周波数で通信が入る。
『聞こえるか?こちらはカルフォルニアの艦長だ』
『こちら加東圭子中佐。乾度良好です』
『只今を持って、我が艦隊は降伏を宣言する。繰り返す。降伏を宣言する』
悔しさが滲む艦長。戦闘力を残しての降伏など、この世界においては遥か前の戦列艦の時代以来例がなかったのだ。しかも栄光のリベリオン海軍近代史上初、戦闘力を残しての降伏という不名誉な記録を作ったのだ。悔しくないはずがない。
『了解しました。降伏を受けいれます。間もなく、我が海軍の戦艦『大和』が迎えに参ります』
『ヤマト……君らの誇る最強の戦艦か。どれほどのものか拝見させてもらおう』
『では、では、交信を一旦終わります。貴艦らのご安航を祈ります』
『ありがとう。失礼する』
圭子は用意がよく、たまたま付近を航行中の大和を呼び寄せておいたのだ。大和側としても、大和の威容を捕虜に見せつける絶好の機会なので、圭子の要請を受け入れたのである。無論、無電を終えた後も監視に付き、大和を待つ。
――大和が姿を見せると、一斉にどよめきが起こった。テネシー級が比較にもならない威容の超弩級戦艦が姿を現したのだ。
「なんだ、あの戦艦は!!」
「あれが奴らのシンボルという、ヤマトなのか!?」
「カルフォルニアがまるで巡洋艦だぜ……なんてでかさだ。我が新鋭のモンタナに勝るとも劣らない……」
「くっ、化物(monster)だな……あの砲はどう見たって18インチだぞ……」
大和は改装を受け、更に大きさを拡大された事もあり、テネシー級とは『大人と子供』ほどの差があった。主砲口径も10cm以上の差があり、更にリベリオン本国軍では、一部新鋭艦にしかついていない近代装備の存在も大きかった。18インチ砲、それの反動に耐えられる全幅、近代的な塔型艦橋など……。大和の姿はカルフォルニア乗員を打ちのめし、『勝てないわ、こりゃ』と絶望したという。圭子はこの功績で大佐への昇進の内示を受け、陛下に拝謁する名誉を賜ったという。
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