外伝2『太平洋戦争編』
第三十話
――1948年初頭。次元震で来訪してしまい、帰還の目処が立たない事に焦る坂本B。
「次元世界というのは、かくも広大なのだな、穴拭。もう数ヶ月というのに、まだ見つからないのか?」
「しょうがないわよ。平行世界ってのは無限に等しいくらいにあるんだし」
「歯痒いものだ。力になれないというのは……。昔を思い出す。ここの私は周囲に迷惑をかけたというのは本当か?」
「そうよ。あなたの同位体は44年から45年にかけてて荒れててね。芳佳が急成長したから、その大成を見届けたかったというのかしら。それと零式が旧式の烙印を押されて、急激に紫電に取って代わられていくのが我慢出来なくてね」
「だろうな」
「あなたにしては冷静ね?」
「私は零式のテストパイロットだったんだぞ?限界もよく知っている。ここの私は恐らく、その、未来人に零式の名誉を毀損されるのに耐えられなかったんだろうな。私だって、人命軽視と言われれば、あまりいい気持ちはせんし」
坂本Bは別の自分を、第三者の視線から分析した。そう。坂本Aが45年頃にかけて『荒れた』要因は、零式の名誉を毀損されたことへの怒り、芳佳の急成長を見届けたいが、自分は使命を終えつつあることへのジレンマが心を苛したからだ。
「未来人は、後世に残された結果でモノを言うからね。特に負け戦だと」
「そうだろうな。多分、その私の気持ちは私でなければ理解できん。たとえ醇子や義子、徹子であろうとも、完全には理解できんだろうのは想像がつく。できれば、会って話がしたいが……」
坂本Bは現役のウィッチである。烈風丸が破壊された際に、智子の溢れんばかりの魔力が坂本Bに膨大な魔力を与えた格好となるため、ウィッチとしての寿命が伸びた。そのため、かつてのトレードマークであった眼帯をしているままだ。
「ところで、そちらの状況はどうなんだ?」
「今は大和型の5番艦が竣工するとこ。三河に名前が決まってね。3年前に撃沈された『紀伊』の代艦って聞いてるわ」
「大和型を何故そんなに作る必要がある?」
「こっちは純粋な『艦隊戦』があるの。戦艦の本来の存在意義は?」
「敵主力艦と殴りあうため、だろう?しかし、大和型は運用費が馬鹿にできないはずだが?」
「戦艦を大和型とその改良型に統一すりゃ、相対的に安上がりよ。未来技術入れた分、必要人員も減ったからね。はい。これが今の大和型の写真よ」
「うん?副砲が無いぞ?それに高角砲も」
「現有装備が未来の誘導ミサイルと自動制御の機銃にとっかえられたからね。それとレーダーも未来のに取っ替えたから、かなりすっきりしてるわよ」
「本当だ」
それは扶桑で売出し中の大和型『甲斐』の写真はがきだった。CIWSやRAM、フェーズドアレイレーダーを完備しつつ、23世紀の技術で軽量化されたVLSも搭載されており、主砲、艦橋とマスト、煙突がなければ、大和型と分からないほどに近代化されている。これは大和型の船体が大型化され、近代兵器の受け入れが容易となったからだ。
「なんか、嫌にすっきりした外見になったな?」
「近代化すると、戦闘システムが合理化されるから、今みたいに機銃をやたらに積む意味ないのよ。副砲も戦艦同士の打ち合いだと不利だから、外したのよ」
「なんか、こう……浮かべる城って感じがしないな」
「砲熕武装が減らされたからね。アイオワ級もこれよ」
「なんだこりゃ」
亡命軍が持ち込んだアイオワ級の何隻かは史実の80年代相当以上に近代化されており、既に史実最終時の艦影になっていた。そのため、重量増加により、数ノットほど速度が落ちている。それと引き換えに総合戦闘力は竣工時の比でないほど強化されたため、速度低下は大目に見られている。
「近代化した姿。武器と戦闘システム規格は同じになったから、大和型と隊列を組めるわよ」
「凄いな。しかし、状況は聞いたが、まさか未来の争いを持ち込まれるとはな」
「ええ。もう一年近く、こんな感じ。だから抑えこまれていた欲望まる出しの連中がリベリオンを分けちゃって、今は軍の主力人員の殆どがこっちに亡命してきてるわ」
「本当か?と、なるとその家族含めると……」
「数十万人は亡命してるわ。軍隊、技術者、政治家、その家族全員だしね。未来の軍隊が空挺降下して家族を亡命させたりしたから。南洋島も浅瀬を埋め立てて、拡張工事中よ。全ての街が受け入れに積極的じゃないから、居住区を造る必要があるのよ」
「だろうな。いきなり数十万人も来られても問題が色々と生じるしな。そう言えば、この世界の加東と黒江は今、何をしてるんだ?」
「ああ、あの二人は今、敵のモンタナ級戦艦『ルイジアナ』号を追ってるわ。ルイジアナが艦隊を率いて、輸送船団を脅かしてね。そのお返しをするために、艦隊主力が動いてるのよ」
「戦艦で通商破壊だと?」
「未来人の過去のドイツ軍がビスマルクでやった例がある戦術よ。輸送船団の護衛艦隊は駆逐艦や、せいぜい乙巡だから、そこに護衛付きの戦艦で殴り込まれたら一巻の終わり。シーレーンはウチの生命線だから、艦隊主力が出向く必要が出たのよ。主力たる第一機動艦隊が」
「第一航空艦隊と何か関係あるのか、それ?」
「実質的な後継編成よ。正規空母の過半数はここの隷下になってるわ。三隻から四隻が戦隊で」
「空母を一極集中するのか?」
「その方が色々と、大規模海戦だと有利なのよ。向こうは10隻以上の大型空母を集中運用してくるしね」
「新鋭のエセックス級か?」
「その上位のミッドウェイ級も含めると、膨大な数よ。軽空母、護衛空母も入れたら、一度の大海戦じゃ壊滅しないわ。それで徴用船は18ノット出ればいい方だから、航路の安全を確保しないとね」
――扶桑が徴用した輸送船は平均速度は18ノットから20ノット前後。平均的な護送船団の護衛艦の対空砲はいささか旧式であり、そこに戦艦で殴り込まれたら一巻の終わりだ。そのため、扶桑軍は輸送船団最大の脅威である『ルイジアナ号』の行方を追っていた。
――南洋島から南西に数百海里行った環礁に設置された前線泊地
ここには、リベリオン本国海軍の主力の一部が停泊していた。戦艦ルイジアナはその任務部隊の旗艦であり、僚艦の『ニューハンプシャー』、サウスダコタ級『サウスダコタ』、アイオワ級『アイオワ』を従え、護衛に大型空母6隻、デモイン級重巡洋艦、フレッチャー級駆逐艦多数を従えた空母機動部隊だ。
「敵は血眼になって我が艦隊を探しております」
「M粒子による電子戦は思ったより有効というわけか」
「はい。閣下はアルザス級を増派する用意があると」
「ガリア共から鹵獲した戦艦か。ガリア艦がどれほど当てになるかわからんが、要請しておけ。これから敵は『スーパーモンスター』も持ち出してくるやもしれぬからな」
リベリオン本国海軍は、移動要塞に等しい三笠型を『スーパーモンスター』と恐れていた。それはモンタナ級のSHSを9発同時に被弾しても余裕で弾く重装甲と、ノースカロライナ級のキールを余裕で歪ませる22インチ砲のバケモノのような打撃力を指して、そう言ったのだ。
「では、要請します。しかし、ヤマトタイプはどう対処致します?」
「単艦なら互角だが、平均火力で負けとるからな。一隻に付き、複数で当たるようにしよう」
彼らは判明した大和型の主砲火力に驚愕したクチだ。開戦前、扶桑海事件終結直後に公表されたスペックでは『新式41cm三連装砲』とされたので、各国はそれを信じた時期がある。リベリオンも例外ではなく、大した対策は取られていなかった。だが、ミッド動乱でその真のスペックが判明し、更にそれをロマーニャ沖海戦で味わう羽目になり、『詐欺だ!!』と喚いたのだ。
――彼らは掴んでいないが、更に未来技術で度重なる改装を受けたため、1948年時点では主砲連射の間隔が恐ろしく短くなっており、さながら18インチ速射砲とも言うべき恐るべき事態となっていた。それはこの日、初めてそのベールを脱ぐ。
――彼らの偵察機『OS2U』が航行中の大和型と思しき大型艦艇の写真を持ち帰ったのだが、その搭載砲に注目が集まった。
「なんだこれは!?」
「大和型の一隻と思われます。単艦での航行でしたので、練習航海中かと」
「いや、よく見てみろ。主砲砲身が太くなっている。噂の改型に積んだという51cm砲か?」
「恐らくそうでしょう。モンタナ級のSHSを用いた時間あたりの投射量は敵の45口径46cm砲9門を上回っております。敵が危機感を懐き、51cm砲型を建造したのでは?」
「OSSは無能か?こんな重大な情報を掴んでおらんとは。怠慢だぞ」
彼らの言う「Office of Strategic Services」とは、戦略情報局である。後世のCIAの前身である。そのOSSが『改大和型竣工』という報を掴んでいないというのは、大いに怠慢だと罵まずにはいられない。
「どうなされます?」
「任務がある故、そのニューヤマトタイプにかまけてる暇はないが、偵察機に交代で追尾させろ。護衛艦も護衛戦闘機もいないのなら、尾行は容易だ」
「ハッ」
――その大和型は、竣工したてホヤホヤの大和型五番艦にして、改大和型の通しで三番艦に当たる三河であった。当初から改大和型として建造された初の大和型で、予算上は紀伊の代艦として建造された。竣工後初の泊地からの近距離練習航海であり、そのため、護衛艦はつけていない。
「敵の泊地があると思われる環礁に近づかんようにせねば。取舵一杯」
三河はこの時、偵察機に追尾されていた事をM粒子によるレーダーの妨害効果もあり、知らなかった。そのため、先行して、巡航速度が高速であるアイオワが出港し、じっくりと追う。
「見ておれ。ロマーニャ沖の借りを返してくれようぞ!」
息巻くアイオワの艦長。その意気込みを示すかのように、アイオワは速力を増した。そして、アイオワの報告を受けたルイジアナも抜錨する。ロマーニャ沖海戦をどうにか生き延び、練度も増した同艦はその巨体を遂に大海原に向けて動かした。
――そんなルイジアナの行方を追う、現地扶桑・亡命リベリオンの空海軍を統括する、南洋地方隊本部
「敵の泊地の位置はおおよその見当はついておる。ここだ」
「角田さん、ここだという確証は?」
「この環礁は、戦前に我々が停泊地として使用しようとしたが、暗礁があるので諦めた経緯がある。だが、リベリオンの力を以てすれば、それの爆破は容易だ。それさえ無くせば、一大拠点となり得る。ここにルイジアナは間違いなく停泊している」
第一機動艦隊司令長官の角田覚治中将は、敵泊地の所在を、作戦会議に参加している士官全員に通達する。絶対の自信があるらしく、断言している。
「いいか?ルイジアナでなくとも、見敵必殺を忘れるな。我が臣民と友邦の国民を恐怖で震え上がらせた無法者共をサメの餌にしてやれ!」
「了解!」
角田は闘志をまる出しにする提督である。その為、闘志の発露ぶりがどことなくウィリアム・ハルゼーと似ているため、亡命リベリオン側の士官からは『扶桑版ブル・ハルゼー』とアダ名されている。その為、空海軍を動員し、ルイジアナを血眼になって探索させていた。その中には圭子と黒江の姿もあった。
「さて、どうする?」
「MSの使用許可は出てるから、私はプルトニウスで行くぞ。アレならドッグファイトになっても大丈夫だからな」
「んじゃ、私はEx-Sで」
二人はGクルーザーとウェイブライダーで出撃し、ルイジアナの捜索を行った。
「さて、探すぞー」
「ほんと、まさか私達が、海軍航空張りの洋上航法を普通に使うのが当たり前になるなんてね」
「ああ。新兵だった頃はまさか、洋上で作戦するとは思わんかったからな。扶桑海の時に上が慌てて洋上航法の訓練させたが、あの時に身につけた技能をその後に使った奴ら、何人いるんだろうな」
そう。二人は洋上航法を常用する事が当たり前な生活を送っているが、陸軍航空出身者の中には大海原で迷子になり、駆逐艦に救助されたという醜態を晒した者も多い。その為、64F配属にこの技能は必須技能なのだ。
「あれから去ったのも多いし、ウチの部隊くらいよ?空軍でも、洋上の空母に間違いなく帰還して、一発で着艦出来るのが普通な部隊」
「だよなー。前にそれを坂本のBの方に言ったらよ、逆に驚かれた。あいつは精鋭部隊にいるから、気づかないだけなんだよなー、どこでも」
そう。坂本はどこの世界でも、キャリアの大半は精鋭とされる程の高練度部隊で任務についている。それ故に、教官任務の際には訓練兵や監督する高級将校の間から、『求めるレベルが高すぎる』との批判が生じる場合がある。概ねスパルタ教育なので、元・教え子の下原定子は坂本を恐れていた時期があると述懐している。
「あの子はどこでもそうなのよね。熱意あるんだけど、それが暴走しやすい性格。ミーナ大佐が押しの弱いタイプだから、坂本を制御してるとは言いがたかったしね」
圭子は、ミーナが坂本に恋心を抱いている故に、坂本を制御しているとは言い難いとの評を下していた。ミーナは確かに部下への気配りを欠かさず、人心掌握力も高い水準だ。しかし、坂本に関しては自らの恋心もあるのか、晩年の坂本の行為を咎めきれず、非情になれなかった。三年前のある日、黒江と圭子が坂本の魔力減衰を理由に坂本の飛行禁止を要請しようとした事があったのだが――。
――三年前 ロマーニャの新501基地
それはちょうど大激戦となった『ロマーニャ沖海戦』のちょっと前の事。
「大佐、坂本の飛行を中止させてください」
「何故ですか、黒江中佐、それに加東中佐」
「あの子の魔力はもう限界です。貴方の口からそれを伝えて下さい」
「長時間の作戦はほぼ無いし、前線では指揮に専念すると確認してるから問題ないわ」
「いえ、今度の防衛作戦は今までと桁が違うものです。それこそ、長時間洋上で戦い、空母に戻るような行動を何度となく続けるような規模ですよ。それにあいつがそんな約束守ると思いますか?海軍は独断専行ですよ?」
と、黒江が言った瞬間、ミーナの表情が変わり、その一言に逆上したか、怒声になる。
「だから、どうしろと言うのよ!!」
声を荒げるミーナ。彼女としては、極めて珍しい光景だった。
「私は飛行禁止措置を取って下さいと言っているだけです、大佐」
ここで、二人の間に経験の差が生じた。黒江はミーナの逆上にも動じず、涼しい表情で一言だけ言う。ミーナはその涼しい表情に逆に気圧され、我に帰る。
「……ごめんなさい。急に怒鳴ったりして」
「いえいえ。気にしてませんから」
ミーナは階級の差で『上官』であるが、二人は自分が軍志願を行った年代には、既に軍の将校だったという年齢差がある。その点をミーナは思い出したのだ。
「坂本少佐は元々、我が隊の次席指揮官です。外せと言われても、ウイングマークを剥奪するしか方法はないし、それを少佐が承服するとは思えません」
「それは分かっています。あいつの事は、あいつが新兵だった頃から知ってますから、私達が手配しておきます。作戦終了と同時に、坂本のストライカーの搭乗禁止だけお願いします。あ、作戦中に上がってしまった場合に備えて、テキトーな機材、連邦軍から借りて来ますわ、出撃はさせないとなんかやらかしそうだし」
「……分かりました。お願いね」
「了解」
黒江は敬礼し、執務室を離れる。それを見届けると、ミーナは圭子に一言漏らす。
「加東中佐、黒江中佐の行動力はどこから来ているの?」と。
「あの子は若い時から口が達者ですから。それと誤解がないように言っておきますが、あの子は冷徹ではありません。むしろ情に厚いんです。去年の505の壊滅はご存知で?」
「え、ええ」
「あの子は、その生き残りです。当時は上がっていたんで、教官任務のために赴任していたんですが、そこに『奴ら』の襲撃が起こり、教え子の多くを失っています。その時に教え子の一人に止められ、その子が出撃していくのを、ただ見ていることしか出来なかった事を後悔しているんです。自分の無力が教え子を殺したと気に病むくらいに。それ以来、あの子、救う道具がザルなら自分の手でザルの網目を塞いででも掬い上げる量を増やしてやると公言しているんです」
「そうなの……。私は、中佐のことを誤解していたようね…」
ミーナはこの時、単に『坂本の先輩』という認識でしかなかった。圭子は智子より先に、黒江の心に巣食う闇を知っていたので、黒江は単なる冷徹な軍人ではなく、ガキ大将的な仲間思いな人間性をミーナへ説明したのだ。
「あの子は仲間を失うことの辛さ、自分が何かに無力である事、老兵の自分一人が生き残ったっていう虚無感を嫌というくらいに味わった。だから、行動するんです。ウィッチ本来の摂理に逆らい、あがりの運命に抗ってでも、ね」
ミーナはここで、大切な人を失ったのは、自分だけでないことに気がついた。黒江は自分と同じように、残酷な光景を目の当たりにし、それ故に行動的になったのだと。
「そんな感じだから、周りは振り回されっぱなしなんですけどね、信頼できるなら無茶振りするし。昔、智子もお芝居やらされたもんね、一緒に」
ケラケラと茶化すように笑う圭子。こういう時に、空気が重くならないようにするのが彼女一流の腕だ。
「そうなの?」
「ええ。あとで竹井少佐に聞いてみて下さい。理由が分かるんで」
と、締める圭子。ミーナはそれまで懐疑的であった『リウィッチ』、そして『黒江綾香』という人間への認識を改めたのだった。
「――って感じだったわよ」
「だろうな。特に、私達が絶頂期だった頃に新兵だった、今の古参世代は『リウィッチ』への反発が強いから、そのくらいは想定内だったよ。さしずめ、『名誉欲で戻ってきた、厄介な老人』だろう。私達はガランド閣下やルーデル大佐とツーカーの仲だし、ミーナ大佐、マロニー大将の一件で、上層部に不信感を抱いてたから、その差し金で配属された私達を『外様』と警戒もするだろうよ。最初の方、私達を、腫れ物に触るように扱ったのは、『扶桑海事変の功労者』である私達を、『昔の功績を振りかざして、現場を混乱させる監査官』のようなモノと早合点して警戒してたからだろうし」
黒江はミーナの態度の変化を察していた。いくら扶桑海事変で輝かしい功績を上げたと言っても、それは過去の事。現在もその実力があるとは限らない。警戒するのは当然であると。その為、ある日、坂本が『若いころに見たが、あいつらは頼れるから、存分にこき使ってやれ』と言い、警戒心を緩めさせるきっかけを作ってくれた事に感謝していた。自分から過去を話せば、ミーナは『老人の昔語り』と同義にしか捉えないのは分かっていた。なので、坂本がミーナの警戒心を解くきっかけを作ってくれた事に心から感謝していた。
「坂本には感謝してもしたりねーよ。だから、去年か一昨年の旭の記事は許せないぜ。光太郎さんじゃ無いけど、『貴様は絶対に許さん!!』って言いたくなったんだ」
「ほんと、黒江ちゃん、智子もだけど、光太郎さん、好きねぇ」
「る、るせーな、もう」
「はいはい」
音声通信越しでも、黒江の赤面ぶりがわかり、圭子は茶化す。仮面ライダーBLACKRX=南光太郎の清々しいまでのヒーローぶりは、黒江と智子を虜にしている。彼の熱い魂から繰り出される言葉の力強さ、そして、どんなところからでも助けに来てくれる圧倒的な心強さに心打たれた二人は、RXを強く尊敬しているのだ。(ある時、二人で彼のBLACK時代の変身ポーズを大真面目に真似して、練習しているところを動画で撮られたりしている)
「ん――?黒江ちゃん、下の方に反応。識別信号は三河だけど……燃えてるわよ!?」
「何ぃ!?」
慌てて機体を降下させる。海上では艦橋付近からモクモクと煙を発し、漂流に近い状態で航行している三河の姿があった。圭子が機体をMS形態にし、外部スピーカーで三河に呼びかける。
『三河、聞こえる!?誰か応答して!』
三河は艦橋部が被弾したか、そこだけ損傷が激しかった。よほど大威力の砲撃が直撃でもしなければ、大和型の艦橋はここまで損傷しないはずだ。
「落ち着け、後部指揮所は無傷だ!そこに呼びかけろ!」
「そ、そうか!」
改めて、後部指揮所に呼びかける。すると、副長が答える。
「こちら『三河』副長。敵艦の不意打ちを受け、艦長が戦死された。艦の指揮は私が取っている。防空指揮所におられたために……」
『分かりました。艦の操艦機能は無事ですか?」
「幸い、司令塔の操舵室に航海長がいたので、操艦は可能だが、折角の新鋭艦をこんなザマにしてしまい、山口閣下に会わせる顔がない……」
三河は測距儀と射撃指揮所と、レーダーアンテナなどがごっそり無くなっていた。確実に結構な戦死者は出ているのが分かる。副長は今にも自刃しそうな勢いで消沈している。前檣の上1/3を失い、見るも無残な醜態を晒しているのだ。無理もない。
『……!落ち込む暇が有るなら生き残る手を考えろ!貴様がなにもしない事で犬死にが増えるぞ!!』
と、思わず黒江は叱咤する。副長が消沈していれば、艦の生き残った人間達に悪影響が出てしまうからだ。
『死ぬのは何時でも出来る、勝手に腹切るのは犬死に以下だ!なんとか帰りつけ!!』
横からスピーカーで怒鳴った。栄光の大和型の副長ともあろう者が、この程度で泣き言を言うのかと、憤慨したからだ。史実で大和を指揮した有賀幸作、森下信衛などは最後まで諦めなかったし、また、信濃の阿部艦長は司令塔で仁王立ちし、その場を動かずにミッドチルダ動乱の激戦たる三度の海戦を闘いぬいたからだ。その三人は実際にミッドチルダ動乱で見事な指揮を披露、格上の戦艦相手に、大立ち回りを演じたのを目の当たりにしたため、彼の態度に大いに憤慨せずにはいられなかったのだ。副長の打たれ弱さは海上勤務経験が浅い赤レンガ勤務の官僚出身者であると感づく。
(赤レンガ勤務が大半の官僚組か?こいつ。経歴に泊つけるために海上勤務に出たと見える。あ〜、有賀さんや森下さんが聞いたら呆れるぞ。これなら、私やフジが指揮したほうがマシだぜ)
と、大きく落胆する黒江だった。
「ヒガシ、そうなると敵艦は……」
「そう遠くは無いわね。備えましょ。殿は私がやるわ」
「頼む」
圭子はビームスマートガンを機体に構えさせ、殿を務める。彼女の視界に、アイオワ級の艦影が入ったのは、およそ15分後のことだった。ルイジアナはどこにいるのか?そんな疑問を沸き立てる扶桑軍だった。
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