外伝2『太平洋戦争編』
行間『君が願うことなら』
――戦争が始まり、しばらくたった頃。坂本と黒江は戦線が小康状態であるのを見計らい、休暇を取った。お互いに死後の人格になっている事もあり、坂本が誘う形での旅行だった。
――あじあ号 車内――
「『あの時』はこっちの方が戸惑ったんだぞ、お前は泣くし、菅野には殴られるし」
「だってよ、お前があんな事言うから……」
「強く言い過ぎたとは思うが、お前があんなに泣くとは思ってもみなかった」
坂本も黒江も、服装が普段着なため、傍から見ると、普通の若者に見える。
「それにだ。普段と全然トーンの違う声で言われると、こっちも対応が出来なくて、おかげで菅野に3発は殴られたぞ」
坂本はいつもの調子だが、どことなく愚痴っているようにも聞こえる。それは自身の失敗を悔やむ一方で、晩年に落ちた自分の評判の事を愚痴っていた。
「しゃーねーだろ。あれはお前が悪い。あれで三日三晩泣いて、仕事休んだんだぞ」
「うっ……。そりゃすまん……。しかしだ、晩年に私の評判が落ちたのはどうしてなんだ?」
「あれはお前があれをしたせいで、お前を嫌ってた派閥が噂を流したんだよ。私も退役した後だったし、智子もその後すぐに退役したからな。手の打ちようも無かった」
「そうだったのか……」
「そうだ。……あ、そうだ。今の私達なら、戦場を意のままに支配できる。お前もだが、その気になれば、ハイパークロックアップと同等の事して、時空間に干渉する加速も意のままに出来る。だから、相手に認識させないで倒せるぞ。相手がどんなに速く動こうと、時空間を超えて加速すれば、止まって見えるしな」
ある平成仮面ライダーの能力は、聖闘士である黒江でも、その認識すら不可能であり、それに追いつくのには死後の昇神を必要とした。そのため、科学の力でそれを実現した組織はどういう技術力であったのかと、昭和仮面ライダー達の間でも話題になっている。
「神格だからな。今の私達にとっては『肉体』など現世で活動するための器でしかない。皮肉なものだ。あれだけ求めていた『力』も、今となっては陳腐なものになるとはな」
「仕方がない。この時代の私達の実力じゃ、仮面ライダー達が時を越えて、次元を股にかけて戦ってる組織とは戦えないんだ。その首領は『神』だし、神格になった私達は神々から見りゃ新参者だ。排除しようって動いてる野郎共も多いからな。元の自分に肉体を返せんのだ」
――死後に昇神し、神格になった二人の敵は『バダン帝国』であり、それに対抗すべく、肉体を生前の自分から借り受けた状態が、黒江は三年近く、坂本も二年以上続いている。そのため、生前の肉体も『自分達が使っている』間は『昇神後』の加護を得、本来のポテンシャルよりだいぶブーストをかけている状態である。食事しながら言う内容でもないが、時間的に開いている頃を見計らい、食事しているので、問題はない――
「だろうな。バダンはショッカーから延々と続く組織の元締めと聞いたが、その大本はナチス帝国だと?」
「そうだ。ナチスが敗戦した後に首領が旧日本軍の残党も取り込む形で出来上がったのがバダンだ。仮面ライダー達が戦う事で、組織力を削いだが、呪術とか再生手術で蘇るのも多いから、苦労してるのさ」
「しかし、残党達がなぜ呉越同舟のような形でまとまったんだ?」
「祖国への復讐さ。戦後、日独は旧軍を切り捨てる形で戦後社会を作ったし、冷遇したからな」
21世紀世界での過去の吉田茂翁が、自衛隊設立を拙速なまでに急いだ背景には、旧軍残党のテロ計画、旧軍人の困窮、更には冷遇に発端を持つ極道の活発化がある。非公式とされているが、戦後数十年の間、日本軍残党が各地で散発的に戦闘行為を行っていて、最後の事例は1970年代初頭である。それはバダンに加わることをしなかった者達である。吉田茂は、旧将官達から『ナチスと日本軍残党が共同して秘密結社を作った』と聞いており、その構成員になり得る旧軍人は1940年代後半時には数百万からいた事(戦後の旧軍人達は迫害を受け、それに憤慨し、故郷を捨てた者も多い)もあり、その不満を解消する受け皿を『朝鮮戦争』を名目に作った上で、恩給も復活させた。戦後社会に於ける旧軍人は多かれ少なかれ、迫害された経験がある。戦後に人格さえ変わってしまった者もいる。それを勘案し、治安維持も兼ねて、吉田茂は自衛隊を作ったのだ。
「吉田の翁は知っていたのか?」
「ブレーンが中将級の軍人だったし、知っていたんだろう。そうでなければ自衛隊を性急に作るかよ。それは70年代からの暗躍で正解だった」
「ショッカーの技術力はどのくらいだったんだ」
「平均で90年代後半〜2000年代前半期相当以上だったそうだ。だから、当時の自衛隊や米軍は劣勢気味だったんだ。ナチスと旧日本帝国の敢闘精神の継承者だし、それと当時の兵器より数世代後の兵器も使っていたしな」
ショッカーの保有兵器には少なからず、当時のオーバーテクノロジーで作られた兵器があった。それで1971年当時の空自の資料には、F-104がF-15E相当の敵機に追い詰められたという未確認記録も残っている。自衛隊がF-15を求めた真の理由の一つには、ショッカーの兵器に追いつく意図があったと思われる。
「それじゃ、70年代以後の技術向上には?」
「公式には認めていないが、学園都市や組織から得た技術を、時にはデッドコピーして得たり、宇宙からのオーバーテクノロジーを使ったのさ。そうでなかったら、90年代にウインスペクターとかソルブレインがあるかよ」
「そうか、70年代からの20年の栄華は……」
「ああ。だが、90年代からの不況と、政治家と官僚の無能がその栄華を終わらせた。土壌があっても、それを生かせる政治家も、ピンチに対応できる官僚も殆どいなかった。学園都市のメリットすら活用できない無能しかいなかったしな、特に『前政権』は」
黒江は自分達、扶桑出身自衛官を左遷に追いやった21世紀日本の『前政権』を揶揄する。前政権は政権交代でのし上がったが、扶桑軍人出身自衛官の冷遇を行った。週刊誌にしょぴかれた、その理由は「内務省出身者が作った組織を、旧軍色に染め上げる事は、戦後日本人として認めない」という身勝手極まりないものだった。旧内務省系官僚達にとって、自衛隊は『内務省が作った軍事組織』という認識であり、敗北者である旧軍人はお情けで入れてやったという見下しが21世紀にあっても存在した。黒江達が旧軍人であると判明した後、『彼ら』はなんとしてもその排除を目論んだ。だが、旧軍出身者が制服組トップにあった歴史的事実から、組織からの排除は不可能であり、考えたのが空自の扶桑系自衛官を一箇所に集めて『監視する』という手法だった。そのため、その飛行隊の練度は異常に高くなり、その年の日米共同演習で、米軍が泣いて抗議したというエピソードまで作ってしまった。
「前政権が政権について二年目あたりの時の演習は痛快だったがな。たまたま当番だったんで、揉んでやったら、米軍が泣いて抗議してきた。演習にならん!って」
「それもそうだ。21世紀の人間に、お前や赤松大先輩をどう落とせと言うんだ。不可能だろ」
「米軍の士官が『お前ら、コブラ(空自アグレッサー)移籍させてまで勝ちたいのか!?』なんて乗り込んできたから、『いえ、たまたま当番だったふつーの部隊ですが』と言い返してやったよ」
「お前らなぁ。手加減してやれよ。お前らが本気になったら、米軍トップガン出身者をかる〜くのせるんだし」
坂本は呆れる。自衛官になった者達は、扶桑でも指折りと評価される撃墜王達で、米国で言えばトップガンのトップ10級相当の猛者達だ。その中で一番若く、未熟とされる大林照子一尉(少佐)でさえ、飛行教導群が対戦を嫌がる程の猛者だ。赤松に至っては、飛行教導群が『左遷』の人事移動を猛抗議し、『うちにくれ!』と喉から手が出るほど欲しかった逸材だ。政権側は『旧日本軍と言っても、時代的に戦争末期の頃の連中だから、どうせ戦争末期のように叩きのめされて凹む』という思惑で送り出したが、実際は百戦錬磨の撃墜王達の同位体(しかも戦史に燦然と輝く実績があるほどの)であったので、『世界最強』の米軍が大泣きする結果となった。そのため、防衛省には米軍から公式に『アグレッサーを引き抜いて編成した精鋭部隊を送り込むんじゃない!』という抗議がなされたという。
「政権の防衛大臣は泡吹いたって聞いたな。どうもあいつら、年代的に戦争末期の特攻隊出してた頃のイメージで見てたみたいでよ、実際は日中戦争から大戦前半期までの『世界最強』の航空隊だったってオチだ。全く、自分達の過去の人間を過小評価しすぎなんだよ、あいつら」
「仕方がない。戦後の日本人にとっては『アメリカが本腰入れたら勝てなくなった』程度の認識なんだ。お前らの技も信じないというのは当然だ。が、演習で暴れてみせた事が改善に繋がったんだろう?」
「のび太んちに行ってた時、ちょうどそのニュースが流れてよ、恥ずかしかったよ。あいつらの親御さんからも関心されたし」
「そうだろう。そう言えば、随分行っていないが、のび太が成人して来てるって事は、親御さん方は、もういい年だろう?」
「ああ、お袋さんはもう50くらいになってる。のび太が早くにガキこさえたから、もうおばあちゃんと言ってるけど」
「あいつが子持ちか。奴の血統が23世紀でも続いているのもそうだが、あいつが父親やれる事が驚きだよ。どこでジャイアンの血統と混ざったんだ?」
「あいつ曰く、孫から曾孫の代でジャイアン、あるいはその妹の子孫と結婚するんじゃないかって」
野比家はのび太の後の代で、源家と剛田家の遺伝子をも取り込み、優秀な人物を輩出する。ただし、野比家の特徴である『子供の頃の性質は皆似たようなもの』はそのままであったため、体力面以外はのび太同様『勉強嫌いで怠け者』が多い。例外は家事と養育のオートメーション化が極まっていた頃のセワシくらいだ。
「のび太は銃を数年は触ってなかったというのに、加東を余裕で負かす命中率と、雁渕を凌ぐ早打ちを見せるんだから、一線部隊のウィッチが自信喪失しないか?」
「雁渕が小手調べで早打ちをやったら、雁渕が三発当てる間に6発を当てて、次弾装填済みやらかしたぞ、のび太。すご〜く落ち込んでたな、雁渕の奴」
「そりゃそうだ。あの加東が敵わないというほどの男だ。あいつにガン=カタ仕込んだのものび太だろう?まったく、あれは持って生まれた才能か?」
「世が世なら、世界最高の狙撃手になれたよ。ガン=カタも大人になって、磨きがかかったから、ウチの講師にゃもってこいだ」
のび太は長じると、ガン=カタ適性が上がり、24歳時点では圭子が教えを請うほどの名手であり、雁渕孝美、新藤美枝と言った508幹部出身の二人をして『近づけない』と言わしめるほどの強さと威圧感を見せる。特に、スリーレイブンズの圭子が素直に教えを請うという事実により、のび太の勇名は轟いている。また、ガン=カタの完全取得は遠近に隙のなくなる事でもあるので、個人単位の戦闘力は雁渕孝美や菅野を大きく凌ぐ。また、妻のしずかも『やる時はやる女性』であり、スーパー手袋を使った場合、友人をセクハラした犯人をボコボコに叩きのめし、半年は病院送りにした豪快なエピソードを持つ。そのため、女らしい事を売りにしつつも、実は男性的な側面もかなりの割合で持つと言える。
「のび太もだけど、あいつらはどこか浮世離れしてないか?」
「ドラえもんと関わったおかげだろう。昔から変に大人びてるとこはあったけど、あんな冒険を何回もすりゃ落ち着きが出てくるよ。あいつら、日本って国の誕生の根幹にさえ関わってるんだぞ」
「何ぃ!?」
「これがその時のドラえもんの呪い師のコスプレ」
写真を見せる。その写真は、7万年前に当時の日本列島に最初に移住したアジア系の一派『ヒカリ族』を助けた際の『ドラゾンビ』に扮した姿の写真で、笑いのポイントだらけだ。
「ハッハッハ、ドラえもんらしいコスプレだ。しかし、思い切り歴史に関わってるのに、ドラえもんを何故、タイムパトロールが捕まえないんだ?」
「私と同じ理由かもな。鉄人兵団とか、アトランティスの遺産の暴走もそうだけど、ドラえもんがした事は歴史にいい影響を与えてるし、タイムパトロールがずっと追ってた時間犯罪者の逮捕の功労者だ。だから、容認されたか、あるいはそうなる事が『予定調和』だったか。悪くとも注意で済んだとか」
「SF作家が聞いたら狂喜乱舞する話ばかりだからな、あいつらの冒険譚は」
「何気に凄い経験してるぞ。惑星国家の軍事政権打倒のため、レジスタンスに加わるわ、犬の王国の伝説の勇士だったり、恐竜国の神使徒になったり、宇宙の悪徳企業の陰謀を暴いたり……」
「一歩間違ったら、死ぬような体験ばかりだな」
「ワニに食われそうになったり、銃殺刑寸前になったり……。成人して、ドラえもんと別れた後で告白したら、親が卒倒したとか」
「それであんな落ち着いた青年になったのか……」
「そういうことだ」
「お前はその『時を超える友情』に憧れていたのだな……。すまん、何度も言うが、私が浅さかだったよ。もっとお前の気持ちに寄り添うべきだったな」
坂本はこの旅を贖罪の旅としている通り、黒江に詫びる場面が多かった。それは生前の自分の短慮さが黒江の心に深い傷を与えた事を後悔しているためで、その点は坂本Bに近い考えに至ったのが分かる。そのためか、食事は坂本が代金を払っている。
――同時刻の最前線では、智子が援護に駆けつけたRX=南光太郎に熱い視線を送っていた。数年前の敗北を昇神しつつあっても、引きずっているのか、動きにキレがなく、珍しくピンチになるが、そこに偶然、彼が駆けつけ、あっと言う間に組織の戦闘員を蹴散らす姿に見とれていた。
「俺は怒りの王子!RX・バイオライダー!!」
バイオライダーはその場にいた扶桑ウィッチ達の視線を釘付けにさせるほどの圧倒的な存在感を見せ、奮戦する。仮面のヒーローという点も、元々、鞍馬天狗などでそれに憧れる土壌が醸成されていた扶桑ウィッチ達のハートをキャッチする理由だった。特に個人的に光太郎にホの字である智子、鞍馬天狗を好きだった雁渕孝美(メカトピア戦役とデザリウム戦役で共闘している)も光太郎には好意的であり、またRXに個人的に恩義のある黒田の三人は応援団と化しており、後輩達を呆れさせた。傍から見れば、ミーハーな女学生に見えるからだが、英雄とされる三人が本気で応援する事が、RXがヒーローである事の証明だった。
「リボルケイン!!」
RXに戻り、リボルケインを構える。そこからの一連の流れは様式美ですらあり、リボルクラッシュを決めた残心からの変身解除を見届けると、三人は一斉に駆け寄る。
「光太郎さん、どうして南洋島に?」
「バダンの動きを追っていたんだが、タイガーロイドが向かったと分かってね」
「三影英介が?」
「そうだ。奴もパーフェクトサイボーグに近づいている。見つけたら近づくなと警告するんだ、いいね?」
三影英介。それは仮面ライダーZX=村雨良の親友であり、宿敵である男であり、タイガーロイドという怪人へ改造されていた。1984年にZXに敗れたはずだが、死後に再改造され、アルビノ化した姿で蘇った。現在の姿は白虎というべきモノで、その能力はZXの領域に近づいており、並のウィッチでは一瞬で五体をバラバラにされるのが関の山だ。
「死んだ人間を甦えさせるなんて……」
「機械式の改造人間は最悪、壊れた部品を取り替えれば蘇る事が出来る。再生怪人と言われる奴の説明にもなる」
雁渕は、『死んだ人間すら蘇えさせる』改造技術に恐怖する。しかもそれを悪のために使用する。その事の意味を悟り、青ざめる。しかし、それは死んだ肉体を兵器へ『作り変える』ことでもある。
「孝美ちゃん、君が受け入れがたい気持ちは分かる。だが、俺達のように、正義のため、人間の自由のために、改造された体を選んだ者もいる。それはわかっていて欲しい」
「そうよ、孝美。そんなこと言ったら、脳以外機械の村雨さんはどうするのよ。脳みそしかオリジナルの肉体が残ってないのよ?」
「……それは分かっています……」
雁渕は歴代仮面ライダーの多くはオリジナルの肉体の比率が低い機械式改造人間である事を思い出し、ハッとなる。
「ようするにあれだよ、孝美。入れ歯とか、骨折の時のボルトの大げさなものだよ」
「黒田先輩……」
黒田が言う。年齢は下だが、入隊年度が雁渕より早く、扶桑海事変経験者であるので、黒田からすれば雁渕は後輩だ。その関係もあり、黒田は雁渕にタメ口で接していた。実質、64Fのナンバー5を自認しているので、部隊内では意外に人望がある。(階級も大尉となった)
「そう考えればいいさ。私達だって、歯が折れたりしたら差し歯にするし、大きな骨折すりゃ、ボルト入れるじゃん。そういう事だよ。……さて、後輩連中を帰して、近くのデバートで食事と洒落込みましょうよ、智子先輩」
この場でのウィッチの上下関係は見かけと釣り合わないが、一番大人びている外見の雁渕が『若輩者』、黒田が『中間』、一番若々しい智子が『最年長』である。そのため、周囲の後輩達は事態についていけず、ポカーンとしている。圭子と黒江の不在時には大隊を率いる立場の智子だが、性格上、ビシっと決められない時も多いので、黒田が命令を出すことも多く、501でのハルトマンに似たポジションに落ち着いていた。そのため、ハルトマンと気があったらしく、現在ではお互いに友人関係にあるとの事。
「邦佳……あんたって子は〜……」
「ささ、みんな、解散だよ〜解散。あとで加藤隊長にデフリーフィングの時に出すレポートを書くように。4000文字以上だからねー」
若いウィッチ達を基地へ返し、自分達は光太郎にデパートの食堂でおごってもらおうという魂胆。プチ守銭奴なのがよく出ている。この地域一番のデパートは1939年と、比較的新しめの建設で、俗に言うターミナルデパートにあたる。黒田家はこのデパートの建設に一枚噛んでおり、邦佳は黒田家の現当主でもある都合、家にこのデパートの外商も入れており、割引やツケが効く。その事もあり、お得意様だった。
「あんた、家にここの外商入れてるとか言ってなかった?」
「ええ。割といい感じに値引いて売ってくれたんで。ウチも戦時下なんで、出費も多いんですよ」
「華族は大変ねぇ」
「まぁ、株主優待も有りますし」
華族はもともと、欧州を真似て造られた制度であるため、21世紀日本の一部からは厳しく批判された分野である。扶桑には華族は廃止できない理由がいくつもある。この時代ではノーブルウィッチーズでの地位を持つ事が第一とされた。次に皇室の藩屏たる事、民衆の手本たる事。これは別にアメリカ(リベリオン)に戦争で負けたわけではない扶桑にとって、華族が皇室の藩屏ということは重大事で、皇室の維持のために必要不可欠だったからだ。黒田も例外でもなく、慈善事業を運営したりする必要が生じ、意外な出費を強いられていたからで、法律上の特権こそ消えたが、華族という身分である故の『不文律』に意外に苦労していた。そのため、家の運営に適性を見せ、外商を比べ、最も安く、品が安定している百貨店を御用達に指定するなど、意外に経営に向いているのが伺える。
「経済のハウツー本なんて持ってるの、もしかして、家の事?」
「そうなんですよ。侯爵家となると、分家とかも多いし、その人達食わしていかないといかない。おまけに今のウチ、あたしが前線で頑張ったおかげで廃されなかったって、危うい状態なんです」
黒田家はお家騒動により、廃されるほどの危機に直面し、宮内省から『廃するぞ』という脅しも来たが、お上が動き、宮内省を押さえ込んだ事でそれを免れた。黒田の前線での功績がお家騒動の失態を帳消しにしてくれたのだ。そのため、黒田の当主就任に異を唱える者はおらず、多くがご機嫌取りに必死になった様を黒田は冷ややかに見ており、本家出身の大人達には冷淡な態度を取ることもある。その事もあり、本家出身の子供達の多くは、『邦佳様に尽くすことが、親世代の罪の贖罪になる』と、邦佳に尽くす者が続出している。そのため、邦佳の子孫がこの後に当主になっていく未来を考えれば、本家と邦佳の出身分家の関係は実質、この時に逆転していた。
「そっか、あんたの家、お上が入ったから、宮内省とかがパニクったのよね」
「ええ。旧憲法が存続してる最後の期間にしたは良いけど、宮内省は面目丸つぶれで、当時の宗秩寮が辞任しちゃって。お上のおなりでうちもパニクったけど、後から知った宮内省はもっとパニクって、役人が何回か来ました」
天皇陛下御自らの介入は、黒田が前当主の大親友の吉田翁に泣きついた結果、お上が吉田から知らされ、『朕自ら乗り込み、調停ス』と一言を残し、本当に実行した。これは吉田が東條の失脚後に於ける『第一の忠臣』と、高い信頼を得ていた事で実現した。軍の観閲式からそのまま駆けつけ、騒動を調停した。事の起こりは、前当主の養女となっていたのに、周りから鬼畜生の如く罵られ、傷心の黒田は吉田に「おじいちゃん、なんとかしてよ〜!」と泣きつき、吉田翁も『儂がなんとかしたるから、待っておれ!』と奮起したのがそのきっかけだ。侯爵家を調停できる身分の人間といえば、それ以上の地位を持つ者、つまりお上だ。その結論に至った翁は、天皇陛下にそれを伝え、陛下もそれに応えた。しかも自ら乗り込むという手法で。宮内省は事後報告に目を回した。『当時の華族の監督責任者に話が行かないで、お上に話が行った』という事実は、当時の責任者が辞任を申し出るほどのパニックであったが、陛下が『その責任、自らにも帰り来る物、気にせぬ様、むしろ話を通さず急ぎ動いた事を詫びる』とのお言葉が発せられ、宮内省の華族の監督責任者の交代という形で決着した。これは旧憲法下最後の天皇陛下の動きとなり、以後の新憲法下でも、国家緊急権の行使が残された(皇族軍人らから、有事に議会が空転する事態となった時の緊急決定権を残すように強い要請があり、江藤と北郷も扶桑海での経験から、それを支持した)ので、有事の際にはしばしば行使されたという。なお、国家緊急権の項目については、日本と連邦から懸念の声が大きかったが、扶桑は完全な立憲君主制であると強い自覚があるため、そのあたりはシビリアンコントロールよりも、有事における迅速性を選んだと言えた。
――あじあ号 車内――
「本当、新憲法の時は大変だったぜ。隊長と北郷さんが折れなくてよ」
「国家緊急権の事だろ?先生達はあの時の事から、強く反対しておられた。それに、政治屋嫌いだしな、江藤さんは」
黒江はシビリアンコントロールを扶桑でもっとも理解している(それの統制下で動く自衛官であるため)。そのため、説得に赴いた(吉田茂の要請)が、江藤は頑として譲らなかった。吉田翁の要請であろうとも、江藤は扶桑海での経験を引き合いに、国家緊急権を皇族が持つ事の意義を説いた。その結果、妥協案がひねり出された。扶桑の国民は陛下から全ての政治権限を無くすことを幾度となく起こったクーデターから、強烈な拒否反応を見せるのだがわかる。。
「それな。隊長の説得はそれで諦めた。どうも隊長達、あの時のせいか、皇室が国家緊急権を持つ事にこだわってよ」
「あれは軍の醜態が原因だから、仕方がない。」
「なぁ、坂本。この世界は元々、戦争はどの道やる予定だったんじゃないか?」
「それはある。例えば海だ。紀伊型の登場が後出しされてるから、それから10年未満で大和型を計画する必要はないからな。国同士の戦争が無いのなら。前に、連邦から指摘されたよ。紀伊型があったのなら、性急に大和型を作る意義は無いはずだと」
「だろうな。私も、向こうに行って思ったんだ。大和型を大急ぎで作る理由はそんなにないはずだ。1944年までに3隻もな」
「向こうと触れ合う事が、この世界の矛盾と言おうか、闇といおうか……に気づかせてくれるたぁな」
「カールスラントはどの道、周囲に覇を唱える野望があったんだろう。バダンの存在でその事は間接的に証明されている。そうでなければ、相当に無理して軍備拡大に走らん。バルクホルンやハルトマンには悪いが、あの国の軍隊には弾除けになってもらうしかないな」
坂本は、バダン帝国の大本がドイツ系である事から、カールスラントを『信用できない国』と見なしている節を覗かせた。多くの次元世界で『二度の世界大戦を引き起こした』歴史から、国としては信用できないと感じたのか、死後は反カールスラント的思想へ転換したのが分かる。
「うちは言い訳立つからまだ良いが、カールスラントについては弁護の余地がない。軍備再建を通り過ぎてるしな」
「しかし、ガリアがやられて、使い物にならん以上はあの国に軍事大国に戻って貰わんといかんとは。参るよ」
「鼻っ柱が強いだけのフランス……もといガリアよりはよほど頼りにはなる。ブリタニアはもう『太陽の沈まない国』じゃないしな」
ブリタニアの衰退はこの頃(1948年)には少しづつ顕現しつつあり、軍事的衰退が次第に強まっていた。本来、この時期には超大国の座をリベリオンへ譲っていたはずだが、それがティターンズにより阻止され、捻じ曲げられた結果、扶桑にお鉢が回ってきた。だが、双子国・日本の一部勢力はそれを良しとせず、『軍事小国・経済大国』こそが日本の正しい道とばかりに、ティターンズに多額の資金・資源の援助をしてしまう。『旧日本軍を滅ぼすために』。それが扶桑の被害拡大に繋がっていた。扶桑本土は幸いにも、連邦製兵器の導入で小康状態であるが、それでも全ては防げず、地方都市は空襲で焼かれたところもある。そのため、必然的に東京へ一極集中が始まっていく。これは皮肉な事に、彼ら日本の勢力が東京への空襲を阻止させた事が、彼らが21世紀で悩んでいるはずの東京への一極集中を起こしてしまったという事実だった。その結果、地方都市のストロー現象が20世紀半ばの段階で顕現する。その結果、本土は東京・横浜・大阪・名古屋・札幌・静岡といった大都市群が重点的に再開発されていき、三大都市圏は史実60年代後半時の賑わいを50年代までには手に入れる。だが、それは多くの地方都市の犠牲を糧に手に入れた繁栄であるため、扶桑は日本の行為で、『急激な繁栄による歪み』を持ってしまう事になる。
「太平洋ベルトが早期に開発され、早くに新宿副都心が現れるとか?」
「それはあるだろう。20年したら、のび太の時代のようなビル街がおっ立ってるが、それがもっと前倒しされるかもな」
「メガロポリス化が1950年代に始める、か。それを嫌う人間はまだ多いぞ?」
「仕方がない。ニューヨークのイメージが強いんだよ、日本は。向こうの世界じゃ『地球上で一番栄えた都市』だったんだ。そのイメージで作るから、必然的にニューヨークってぽくなるさ」
扶桑はこれまで『ロンドンやパリ』などをイメージに街を作ってきたが、この戦争以後は『ニューヨーク』と『ワシントンDC』をイメージソースに開発されていく。日本が持ち込んだごちゃ混ぜ文化が波及していく事も意味していたため、扶桑は次第に戦後日本と戦前日本のキメラのような存在へ変わっていく。
「戦前日本と戦後日本のキメラになるのは確定してるから問題ないが、この時期の若手が数いないのがなぁ」
「お前が長年の間、前線で頑張ったのが、ようやくわかったよ。この時期の若手がいないのが遠因なんだな」
「ああ。この時期の数年のウィッチの志願数が減ってたから、若手が入んなかったんだよ。だから、私達が前線に居続けたんだ」
「そうか……。すまなかった。お前の苦労を知らんで、あの時はあんな事を」
坂本は軍の退役前、黒江とケンカ別れした際、黒江の長年の苦労を否定してしまう趣旨の罵倒をしてしまった。その事が坂本の心に死後も引っかかりとなっていたのか、この旅行では、黒江を気使う事が多かった。何度も詫びを入れるのも、その時の子供のように泣きじゃくる姿に強烈な罪悪感を感じさせたからだろう。また、黒江がトーンの高い声色で『ずっと妹のように思ってたのに……』と呟いた事が、坂本に『黒江が自分を妹とみなす事で、精神の均衡を保っていた』事を悟らせ、坂本は罪悪感で自分が逆に押しつぶされそうになった。
「お前にどうしても謝りたかったんだ。穴拭に聞いたが、私の在籍中、お前がクリスマスや誕生日の度にプレゼントを送ってくれていた事も、宮藤達の面倒を、宮藤の家に住み込んでまで見てくれていた事も。私は愚かな女だ……。身近にお前という『姉』がいたというのに、かってに独りよがりな計画を立て、娘の教育にも失敗した……」
坂本は、生前の自分の行いを悔いた。身近にいた『姉貴分』の存在に気づけず、傷つけてしまった事、実娘の美優の教育に失敗してしまった事……。
「黒江、『死んだ』今だからこそ、私に埋め合わせをさせてくれ。お前に20年近くも寂しい思いをさせてしまった事や、あんな形で『別れた』(亡くなる時の事)事……。できる限りの事はさせてくれ。今度は『嘘』じゃない」
坂本は生前、計画のためとは言え、黒江を結果的に『騙していた』。その事もあり、『嘘じゃない』と言ったのだ。黒江はそれに「今度は『本当』だよな?」と返す。よほど堪えていたらしく、膨れるような、それでいて、少し涙が滲んでいるような様子だった。
「ああ」
坂本は笑顔で応える。黒江が死後に見ることを望んだ『笑顔』だった。『数百年』経って、ようやく果たされた和解。お互いの若き頃の肉体を使っての。坂本は死後も背負っていた肩の荷が下りた安堵感、黒江は妹分との和解をずっと望んでいた。その夢が果たされた嬉しさからの笑顔。二人は終着駅であじあ号を降りるが、そこで驚くべき人物を目にする。
「なに……お、おい、坂本見たか??」
「ああ……何故この世界に……」
「平成の10人目が連れてきたのか!?クソ、あんの野郎……連絡くらい……」
「呼んだか?」
「うおっ!?」
なんと、黒江達の前に現れたのは、平成仮面ライダーの10号。全ライダーの中でも希少な平行世界を超える力を持つ男『門矢士=仮面ライダーディケイド』だった。
「つ、士!?お、お前どうしてここに!?」
「一号ライダーからの連絡で来た。平成仮面ライダーの世界に容易に行けるのは、この俺だけだからな」
彼、仮面ライダーディケイドは平成仮面ライダーで10番目に確認された仮面ライダーで、平成仮面ライダーには珍しく、昭和仮面ライダーの存在を知っている。昭和ライダーとの直接の接点を持つのは、平成仮面ライダーでは彼だけだ。
「『あの人』をどうやって連れ出して来たんだ、おい?」
「奴を見たのか。奴を連れ出すのは骨が折れる仕事だったぞ。ハイパークロックアップされると、俺としても面倒だしな」
「お前なら、アクセルフォームを使えるだろ?『555』の姿で」
「あれは物理的に早くなるだけで、クロックアップのように、時空間に干渉して早くなるわけじゃない。クロックアップにはクロックアップ、ということだ」
門矢士は性格に問題があり、傲岸不遜なオレ様キャラである。そのため、先輩後輩関係が強い仮面ライダーの世界では異端扱いである。最も、士が連れ出した『彼』も似たようなものだが。
「でも、なんでお前に声がかかったんだ?」
「本郷さんが俺に調査を命じた。あの人は全ての仮面ライダーの始まりだ。無下にはできない」
さすがの士も、一号ライダーには敬語を使うらしく、さんづけで呼んでいる。
「何の調査だ?」
「バダンの送り出した戦士『仮面ライダー三号』だ。以前にお前が半死半生にされたと愚痴ってただろう?」
「あいつの出身世界が分かったのか!?」
「ああ。奴の出身世界は仮面ライダー一号と二号がゲルショッカーの殲滅に他の世界より時間を食った世界線で、当時の日本人最高峰のレーサーを素体に改造されて生み出された『悪の仮面ライダー』だ」
「あいつはショッカーライダーなのか?」
「違う。ホッパータイプのバージョンV、俗に言う第三世代型仮面ライダータイプ改造人間とも言うべきか。ゲルショッカーの技術の粋を集めて造られた改造人間だから、スペックは新一号と新二号を大きく凌ぐ。V3も問題ではないほどの異常な高性能だ」
「なんだと!?」
「お前が聖闘士として目覚める前に手も足も出なかったのは当然だ。ストロンガーと同レベルのスペックがあるんだからな」
「V3以上だと……!?馬鹿な、当時の組織の技術じゃV3以上のスペックは実現できんはず」
仮面ライダー三号は、仮面ライダーストロンガーと互角以上の攻防速を備えている。改造された年代から考えると『異常な』高性能である。ディケイドが異常と形容するのも、三号の異常さを際立たさせる。
「そこが俺にも分からんところだ。当時の技術レベルからは逸脱しているからな、三号は」
「ん?そいや、いつも『おのれディケイドぉぉぉぉ!!』とか言ってる、変なおっさんは?」
「ああ、鳴滝か。奴も流石に空気を呼んだんだろう。この時代にあれをやったら不味いだからな、変質者的意味で」
「確かに」
「あの人はどこだ、門矢」
「あいつは先に動いた。あいつはそうそう遅れを取るような男じゃない。奴は『天の道を往き、総てを司る男』だからな」
坂本に士は言う。同じ仮面ライダーとして、『彼』に一目置いているらしき発言をするが、士にしては極めて珍しい。平成仮面ライダーの気質は昭和仮面ライダーとはどことなく異なる事が多く、共闘するケースは稀である。だが、彼も、士も黒江や坂本とは既に面識があり、昭和仮面ライダーの信仰者である黒江が、平成仮面ライダーを見直すきっかけとなった人物でもある。(黒江は死後の人格であれば、若き日に平成仮面ライダーに反感を持っていた事を客観的に判断出来るので、『多分、生まれた時代的に、ヒーローは崇高な目的で戦うべき』って先入観があったのかも』と結論づけている)
「他の平成ライダーは連れてこなかったのか?」
「俺の知り合いに、平成仮面ライダー第一号と同じ変身ができる奴がいるんだが、その第一号と同じ世界に共存できない可能性があるから、やめておいた」
「なるほど」
「いや、ドッペルゲンガー現象は起きないぞ。パラレル世界の自分と触れあっても、反物質世界でも無きゃ大丈夫だ」
「そういうものか?」
「ああ」
平成仮面ライダーは、昭和仮面ライダーと違う意味で複雑な生き様を見せている。士が心配したのは、平成仮面ライダー第一号『仮面ライダークウガ』の五代雄介と、その平行世界のクウガであり、士の友人の小野寺ユウスケが共存できない事だが、黒江の一言に安堵したようだった。
「でも、あのおっさん来なくて良かったよ。来てたら『おのれディケイドぉぉぉ!』と『この世界も奴に破壊されてしまった!』をテンプレで言うからな。あれ飽きたんだけど」
「言ってやるな。あれは鳴滝のアイデンティティなんだ。大目に見てやれ」
ディケイドを敵視する壮年の男『鳴滝』。無用な混乱を起こす事から、仮面ライダー達を始めとするヒーロー達からは邪険に扱われているが、ディケイドとは腐れ縁の関係だ。黒江や坂本は1946年から1948年の間に、その彼と対面したことがあり、同じような台詞を現れる度に言うので、黒江は『飽きた!』、坂本は『オウムか!』と邪険に扱っている。
「まぁ、奴もいい加減に大人しくなってると思うぞ。俺達はこの世界が1948年を迎えるまでに『大ショッカー』を倒してきたしな」
「そいや、本郷さん達が言ってたっけ……」
――大ショッカー。ショッカーをベースに色々な平行世界の組織や怪人を取り込んで出来たショッカーの派生組織だ。昭和仮面ライダー達がそこで平成仮面ライダーと初共闘を果たし、打倒したという事件があった。その時に光太郎は『RXに進化せずにBLACKのままで戦い続けている壮年期の姿の自分』と出会い、会話を交わしている。BLACKとしての自分は外見の老化が緩やかにあるらしく、30後半の外見ながら、既に30年以上戦っていると言い、RXとしての自らが『老いていない』事を羨ましがっていた。BLACKは普通に行けば、5万年の寿命があるので、緩やかに老いるのも当然だ。だが、RXとしての光太郎はその寿命すら進化で無くなり、キングストーンと太陽がある限り、半永久的に生きて、戦う宿命を負っている。そのため、BLACKとしての自分とは異なる運命を生きていて、二人の光太郎は違う未来が待っている。RXとしての光太郎が孤独で無くなったのは、自分を慕う妹分と内縁の妻を得たからだろう。また、早期に10人ライダーと出会えた事により、親族の一家を守れたのも大きいだろう――
――そして、雁渕の妹『ひかり』の前に姿を現したのは……。
『俺は天の道を往き、総てを司る男』
そう言い放つ一人の仮面ライダー。彼の名は仮面ライダーカブト=天道総司。昭和仮面ライダーで言えば、城茂の立ち位置にあるだろう男だ。ポーズもやけに決まっており、カッコよさが前面に出ていた。
『おばあちゃんが言っていた……俺が望みさえすれば、運命は絶えず俺に味方する!』
と、格言っぽい事を言うカブト。彼はすぐにベルトの『ゼクター』を操作し、『クロックアップ』を敢行し、即座にひかりを取り囲んでいる陸戦怪異を蹴散らす。もちろん、ひかりには何がどうなったか、など認識も出来ない。クロックアップはタキオン粒子を使い、時空間に干渉する加速なので、思考も加速する。怪異をどう倒すか、なども瞬く間に思考できるので、昭和仮面ライダー達がクロックアップを欲したのも頷ける。そして、クロックアップの間に決め技を使う。ゼクターのスイッチを押し、タキオン粒子を右足に収束させ……。
『ライダーキック』
ライダーキックである。彼の場合は主に回し蹴りを用いる。(最強フォームのハイパーフォームでなければ、飛び蹴りは使用しない)
ライダーキックが炸裂し、怪異を倒す。クロックアップが終わった時、ひかりが認識できた事は『自分を誰かが助けてくれた』事だけだが、その誰かが漠然と、姉が言っていた『仮面ライダー』の仲間である事はすぐに分かった。
――ひかりはこの時、初めて明確に『仮面ライダー』と会ったのだった……――
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