外伝2『太平洋戦争編』
五十二話『捷ニ号作戦』
――48年夏、病を得ていた山本五十六元帥海軍大将が没した。未来世界基準では、まだ若い『60代』での病死だった。戦時中という事もあり、国葬とされた。その葬儀委員長は井上成美海軍大将が努めた。史実より五年ほど長生きしての死去であった。この時より動き出したのが、『Y委員会』である。この頃には死滅した、維新の功労者達『元老』に代わる設問機関(裏での)としての役目を果たし、実質的に『新世代の元老会議』とも目される影響力を持つ。その委員会には、当時の最有力と目されていた陸海空軍の将軍/提督、政財界の要人が名を連ねていた。その委員会で最初に決議されたのが、亡命リベリオン合衆国が租借する南洋島の地域の設定、亡命リベリオン合衆国軍の正式な樹立の式典の取り決めである。これにより、正式に『亡命リベリオン合衆国』が樹立され、以後の半世紀近く、亡命政権として存在する。そして、その式典の場で堂々と発表されたのが、史実キティホーク級相当の威容で進水した空母『フォレスタル』である。亡命軍の象徴として建造、完成した同空母は、本国軍のユナイテッド・ステーツに相当する位置づけであった。が、内実は意外に問題があった。艦載機は確保出来ても、そのパイロットが不足していたのだ。ウィッチ装備は元からなされておらず、戦闘機用空母とされた事も大きかった。これは余りにも艦が大きすぎたため、ウィッチ用にするにはもったいなかったのも要因だった。更に言えば、F-4以後の機体を載せる前提であるので、エレベータの空きが殆ど無かったためでもある。そのため、ウィッチ運用は殆ど考慮されていない。ウィッチ運用に供するには大きすぎるという批判もある故、ウィッチ運用能力は必要最低限の範囲だ――
――1948年8月
扶桑皇国はフォレスタル級を供与する一方、自国にはそれを上回る規模の『龍鶴型』の三隻目を購入していたりする。スーパーキャリア時代、扶桑は空母の世代交代を急激に行うハメとなっていた。ジェット化で旧来の空母が用を成さなくなってきたからだ。特にジェット戦闘機には、大型と鳴らした翔鶴や大鳳ですら手狭になるという驚愕の事実に狼狽した。そのストップギャップとなるのが、ようやく完成した旧・八八艦隊13号型艦の姉妹艦達の竜骨を流用した空母だった。ミッドウェイ級と同等の能力を備え、同級の位置づけとなる扶桑史上最後の改装空母であった。同艦はウィッチ装備が成された最後の空母でもある。もちろん、アングルド・デッキ装備の戦後型空母の艦容であり、結果として、ウィッチ用にも使える最後の空母となった。これは飛行甲板に施す魔導処理班をなだめるためでもあり、同級が最後の『ウィッチ運用が考慮された空母』の名誉に輝いた。これは、扶桑海軍はは元々、陸上航空部隊を主力とする構想だった(井上成美提督が主導していた)のが、専門部署の空軍が出来た事で、その必要が無くなり、海軍は空母機動部隊専門になる道しか残されていなかったのもある。特に、マリアナ沖海戦とレイテ沖海戦、い号作戦、ろ号作戦の失敗を、思いっきりつつかれたのもあり、重点を置いて育てていた陸上要員をごっそり空軍が持っていったせいで、逆に海軍航空隊の平均練度は悲惨なことになっていた。何せ、平均練度は500時間行けば良く、一部の空母専門屋達を除くと、マリアナ沖海戦時の第一機動艦隊よりも更に悲惨と、正に目も当てられない状態だった。そのため、空母ウィッチ部隊の出る幕は殆ど無く、熟練者を有する空軍部隊が乗り込んで洋上任務に当たる始末だった。
――日吉 海軍艦隊総司令部
日吉に置かれた海軍艦隊総司令部。これは後方に司令部を置いたほうが何かと便利なため、結局、史実同様、日吉に海軍艦隊総司令部が置かれた。『総司令部』とあるのは、前線の艦に前線司令部を置くという、日本向けのパフォーマンスとの兼ね合いだ。パフォーマンスを行う過程で苦労させられたのが、豊田副武大将である。
「豊田さんも大変な事になったな」
「大和と信濃を率いて、敵泊地の威力偵察を行う羽目になったからな」
参謀たちは、皆、最前線で大将級が戦わざるを得なくなった事に同情していた。しかも、豊田副武大将には、最初は『大淀に押し込んで自爆させて戦死させろ』という暴論のような批判まであったのだ。もちろん、彼としてはいい迷惑だが、大淀を『安っぽい船』と言って駄々をこねた記録があるので、彼に逃げ場は無かった。批判者が天皇陛下に上奏し、陛下が『引きこもりはよくないな』と述べられた事も、彼が殴り込みを率いて出撃せざるを得なくなる状況が醸成されていた。また、戦艦部隊の司令官は栗田健男中将で、これまた『レイテ沖海戦の敗将』である。
「皆、儂達に死ねというのかね、栗田くん」
「お上にまで言われては、逃げ場はありませんからな。未来人達は我々に『捷一号作戦』の責任を取れと言っているのでしょう」
「最悪、敵戦艦部隊と刺し違え、我々が戦死してでも戦果を残さなくては、我々は別の自分と同じ『色眼鏡』で見られる。遺書を家族に残して来たよ、儂は」
と、悲観的な豊田。が、お返しはきっちりしており、『記者諸君、将棋をやる者はいるかね? 将棋の手筋、どういうのが好きかね?矢倉、穴熊等が定石に有るが、君たちの言う司令官が先頭にと言うのは、王が敵陣まで攻め上がる様なもので、艦隊の頭脳を敵に曝す危険な行為で定石でもまず王で攻め上がるなんてのは無いんだよ。 私は矢倉や穴熊でかっちり王を守る手筋がすきなんだ、今回は私を腰抜け呼ばわりした記者の皆さんと前線に出ようと考えているんだが、まさか怖いから取材出来ませんとか言わないよね?』と言い、なんと、大淀と大和に記者を大量に乗せていた。見連れという奴だ。そして、その上空援護に呼び寄せられたのが、他ならぬ64Fだった。マスドライバーを無力化してすぐに作戦参加が命じられ、大気圏突入からそのまま作戦に参加させられた。そのため、大和と信濃の上をペガサス級強襲揚陸艦が飛んでいるという異様な光景が繰り広げられている。
――アルバトロス――
「うーん。なんか凄まじく異様な光景だなあ。大和型戦艦の上をホワイトベース級で飛んでるなんてよ」
黒江は通路で芳佳に言う。アルバトロスは全長は改大和型戦艦よりもかなり大型である上に、宇宙戦艦である。いくら高度を取ってると言っても、大和型戦艦に乗っている者から見えない距離ではない。そのため、傍から見れば『アルビオン』と勘違いするだろう。
「ホワイトベースとかなり形が違うから、分かんないんじゃないですか?ガンダムの外伝作品、一般の人達は知らないし」
「大まかな形は同じだから、ホワイトベースの親戚ってことぐらい分かるだろー、たぶん」
「そうですかね?」
「結構メジャーなはずだぞ?デラーズ紛争のところ。とにかく、黄色い耳(アンテナ)付いてるからガンダム系の母艦だって判断されるって」
アルバトロスは下にいるマスコミ連中も写真を取っていたが、ミノフスキー粒子の影響で、デジタルカメラはボケてしまうが、フィルム式カメラは影響がないため、運良くそれを持っていたジャーナリストが撮影に成功する。その写真が後日にアップされた際、『アルビオンだ』というコメントが多く寄せられたとか。
「でも、向こうの世界の私、こんな生活になってるなんて、夢にも思わないだろうなぁ。いつの間にか携帯電話もパソコンも使うのが当たり前になったし」
芳佳がしみじみ言う。携帯電話という文明の利器をぶら下げている事自体があり得ない光景である。本来であれば、芳佳の孫の代で当たり前になるはずのもので、黒江に至っては、生年月日的に『長生きしないと』見られない機械だ。ましてや20世紀最末期からの小型のものなど、黒江の世代は『触れられるか怪しい』未来の話だ。
「だよなぁ。私の世代に至っちゃ、本当なら曾孫の時代になってるはずの頃の代物だしな。連邦が通信網整えてくれたから、こういうゼータクな暮らしが出来るんだぞ、宮藤」
「ですねぇ。TVはある、パソコンはある、インターネットはある……、60年くらい先取りしてますね」
既に21世紀初頭当時と遜色ないほどに、軍用地、帝都や新京、台北などのインフラは整備されており、TV放送も始まっている。その内のインターネットなどは、現地人は扶桑軍人と技術者、大企業、銀行などしか使用していない。特に使うべき理由もないからで、宮藤家では、芳佳と居候の黒江が使用している程度だ。(芳佳は医学の勉強に、黒江はネットショップ、ネットサーフィン)A世界のウィッチ達は機械が苦手でない限り、ネットサーフィンの技能を持っているのであるが、それに伴い、B世界とは差異が大きくなっている。B世界はあくまで文明レベルは『本来あるべき』レベルなので、フェイトは却って苦労していたのだが、知る由もない。
「問題は、この作戦が『21世紀日本の横槍』で発案されたって点だ。突然決まったから、予備兵力も準備不足、空軍の私らが海軍の洋上護衛だぜ?本当なら、海軍が自前でやるべきだ」
「でも、海軍の航空隊はめちゃんこですよね?」
「そうだ。陸上部隊に回してた熟練者が根こそぎ空軍に回されたから、海軍の残った要員は錬成途上の若手中心で、あとはごく僅かのベテランだ。これじゃ作戦行動も覚束ない。だから、海軍の空母部隊のウィッチは置いてけぼりなんだよな」
「数合わせにもできないんですか?」
「編隊行動も満足にできないようなヒヨコ共だぞ?数合わせどころか、模擬標的と変わらん」
「それで休暇無しで、次の作戦ですか?なんかイヤになってきました〜……」
「上も大変なんだよ、23世紀からの横槍が落ち着いたら、今度は21世紀からだからな。同一世界とは言え、時間軸は違うから、別個に付き合わんといけない。それで、23世紀は23世紀、21世紀は21世紀の常識を前提に話してくるから、ややこしい」
――23世紀地球連邦と21世紀世界諸国は、実質的に別々の扱いになるため、双方の思惑が入り交じり、ややこしい。更に、民生分野では時間が近い21世紀を、軍事部門は23世紀との付き合いが深い。そのため、扶桑は様々な分野で色々な困難が生じている。例えば、都市計画では、軍都計画が軒並み中止され、その補償として建設されている都市群は『軍事を全く考えていない都市づくり』が前提にされている。これは21世紀の都市づくりでは、軍事は二の次、三の次である故、軍用地が予定されていた地に大型ショッピングモールが建てられたり、基地が街のど真ん中に埋もれるケースが多くなった。軍としてははた迷惑な事だが、兵器工廠を作るという考えが21世紀にはないため、その用地が計画に入っておらず、後で付け足して、図面を引き直す珍事まで発生した。そのため、64の基地の周りに予定されていた軍用地の一部は民生分野へ転用されている。軍用地の面積は大きく狭められ、軍直轄の工廠も小規模となった。その代わりに軍需工場が立ち並び、兵器はそこからの納入とされた。これは21世紀の日本人は『兵器は民間企業が作るもの』という先入観があり、工廠を『兵器を作るところ』と考えていない者が多かった。更に、扶桑は大っぴらに大学で兵器研究がされていたので、そこで21世紀日本と衝突した。21世紀日本の大学は少なからず、扶桑皇国を軍国主義と罵ったが、そもそも戦争に負けておらず、愛国心旺盛な扶桑に取って、『お国のために』は当たり前である。それと意外に21世紀の時代でも、大学の研究者は軍事研究をやっているし、21世紀頃には、世代交代でかつてほどには、軍事研究への嫌悪感がないので、若手ほど乗り気であるという事実がある。戦後しばらくしての生まれの者たちは、日本が斜陽を迎えている時に青年期を過ごしたという者がかなりおり、特に40代以前の者はバブル崩壊後の時代が青年期だったのもあり、戦後の日本の既存の考えを冷静に見ており、軍事研究と民需研究の境界が曖昧になったとし、軍事研究も行う者が増加していた。これは戦後に醸成された『経済至上主義』的思想がバブル崩壊後の長年の不況で影響力を失ったためでもある。一時は世界の覇権を経済で握るとさえ囁かれた影響力は90年代終わりには消え失せ、人々の経済活動もすっかり縮こまり、『如何な経済学の常識も通じない』とさえ言われる2010年代の日本。ベトナム戦争〜湾岸戦争〜イラク戦争でのパクス・アメリカーナの衰退により、日本はゆっくりと眠りから覚めつつあった。それを進めたのが学園都市のロシア戦線であり、扶桑との交流である。特に絶頂期の大日本帝国と現・日本国の中間点といえる扶桑皇国の存在は、日本が目指すべき国のあり方を示しているように、保守系政治家には見えた。(もっとも、戦前日本は軍国主義と取られがちだが、それは昭和の大不況以降の話で、大正期以前は議会制民主主義の芽生えが確実に存在していた。扶桑でY委員会ができたのも、未熟な民主主義を守るためである)
「日本の人達って、なんか私達を目の敵にしてません?」
「奴らは自分達の先祖達の失敗で、国中を焼け野原にされたトラウマがあるんだ。特にその元凶とされた陸軍は鬼畜生のように見てるから、陸軍色を薄めようとしてるんだろう、特に機械化を言い訳に、いくつも歩兵師団が削減されたのが証拠だ」
「自分達の過去がそうだからって、なんか陸軍が目の敵にされるのはかわいそうですね」
「いや、海軍も悲惨だぞ。この間死んだ五十六のおっちゃんなんて、開戦を引き起こした元凶って説もあるから、擁護と批判が半々だったよ。小沢さんだって、あ号作戦の稚拙な指揮と兵への態度、井上さんだって、重慶爆撃って負の側面もあるし、親父さんだって、MI作戦の時の参謀だったしな」
「それもなんか理不尽じゃ?」
「そうだ。こっちじゃ見せてないか、持ってないところを責めるのは理不尽だし、栗田さんや豊田さんを突っ込ましたのも、殆ど未来人の感情的な懲罰に等しいしな。」
眼下の艦隊に課せられた任務は過酷極まるものだ。『刺し違えてでも、,敵艦隊を全滅に追いやれ』という命令そのものが、捷一号作戦の焼き直しに等しく、未来人の栗田健男と豊田副武への悪感情が見え見えである。その上空援護に64Fが駆り出されたのも、延べ2000機を超える航空機の猛攻を受ける危険性が大だからだ。いくらFARMが施されたとは言え、数千機相手では弾丸の方が足りない。つまり、二人に史実で小沢艦隊が味わった『地獄を味わえ』と言わんばかりに無謀な作戦を押し付けたのだ。もちろん、自衛隊は猛反対したのだが、『世論に押された』政治家が最終決定を下してしまったのだ。64Fの未来戦力はそれへの反対勢力の差し金だ。
「どうするんですか?」
「敵の航空兵器を全て叩き落とすちゃねーだろ。私のコネで空自にも援護を頼んでるが、空自の連中、空中給油で洋上作戦に来てくれるか……」
「アメリカ軍は?」
「どーだろう?実質、同胞殺しになるからな。海軍が動いてくれたら御の字だよ。主だった有名な提督はこちら側だしな。空母の派遣をするとうそぶいてたが、本当かどうか。あの政権は及び腰だからな」
黒江は21世紀の米国のとある政権の動きを嫌っている節があり、『うそぶいてた』という表現を使った。そのため、アメリカ軍は宛にしていなかった。64主力は強力なウィッチ達だが、史実マリアナ沖海戦と同等以上の物量戦の経験はこれで二度目である。その不安要素もあり、黒江は空自の方面に働きかけていた。だが、空自は陸上部隊であり、本土に貴重な空中給油機を残しているという重大な点があった。そのため、米軍の助けが必要だった。
『総員、第一種戦闘配備。ウィッチは直ちに発進せよ、繰り返す……』
「おっと、お出ましか、行くぞ!」
「はいっ!」
そんな事を言っている間に、敵機が現れたようだ。艦隊と接触する前に第一波を退ける必要がある&数が欲しい事から、大気圏突入前に受け取った『コスモストライカー』を使い、64F主力ウィッチの全力投入を行った。圭子は機材の都合もあり、今回、艦で指揮統制を行うので、次席の黒江が前線指揮を取った。
『黒江ちゃん、敵はレシプロの攻撃機とフューリーがそれぞれ250機よ。攻撃機から優先して落とすように』
『あいよ、防衛戦のセオリーだからな』
この時のウィッチ隊は黒江直属の飛行隊は菅野、芳佳、孝美、第二部隊の指揮を智子が行っていた。双方とも、アベンジャー、ヘルダイバー、スカイレーダーの混成部隊から優先して叩く。艦隊主力に損害を出させるわけにはいかないからだが、幸い、護衛の第一世代ジェットは加速が鈍いので、コスモストライカーの加速力であれば、余裕を持って『交差突撃』が出来る。それと、手持ち火器が小型化に成功し、手持ち火器化したタイプのパルスレーザー砲であったのもあり、掃討は楽な仕事である。エネルギーチューブがユニットに接続されている『パワーランチャー』とも言えるタイプだが、手持ち火器化されているので、リボルバーカノンより遥かに取り回しは良く、むしろIS系用のビームライフルと同じ感覚で使え、快調に敵を落としていく。
「加東先輩、黒江先輩達、順調に敵を落としてます」
「あなた、意外にオペレーターの仕事もやれるのね、邦佳」
「手当てのためなら、オペレーターもなんのそのですよ!」
黒田はなんと、オペレーターもこなすマルチぶりを見せた。506凍結以後、なんでもやったため、艦のオペレーターもこなせるようになった。声の調子から、桐生美影という宇宙戦艦ヤマトの新世代クルーと似ていると噂であるとか。また、21世紀頃のアイドルアニメだかのキャラにも声が似ていたので、本人もアイドル業には乗り気らしい。
「友軍艦に接近を許す敵機はありません、『艦長』」
「何の因果で、海軍の真似事をしなくちゃならないのかしらね?飛行隊に入ったのに、戦艦の艦長だなんて……」
大いに愚痴る武子。元々が航空畑なため、宇宙戦艦とは言え、船の指揮はやりたくないらしい。
「連邦も宇宙軍の基本は海軍なんですよ?空軍が基本なの、21世紀の米軍くらいですよ」
「どうもしっくりこないのよ、しっくり。ミノフスキー粒子の戦闘濃度散布と、援護射撃、忘れないように」
宇宙軍は空軍の延長でなく、海軍の延長と考えられる様になったのは、宇宙戦艦の時代を迎えてからである。艦艇区分も水上艦のそれが用いられているのもあり、23世紀では当たり前である。その経緯もあり、武子はその点で馴染みにくいらしい。
「砲撃手、味方に当てないように!メガ粒子砲、てぇ――っ!」
と、意外にノリがいい面も見せるので、なんだかんだでスリーレイブンズの親友であるのが分かる。アルバトロスは艦隊に先行する形で進出し、戦域に絶大な存在感を見せる。
「艦長、偵察機より打電!敵艦隊はモンタナ級2、アイオワ級が3、デモイン級5、フレッチャー級20、ミッドウェイ級1、エセックス級4!」
「中々の戦力ね。こちらの戦力に比べると、戦艦の数で優るか。せめて武蔵がいれば、不利の要素が減るんだけど」
武子は顔を曇らせた。ミッドチルダ動乱を生き延びたとは言え、大和型戦艦が18インチとは言え、数の不利は否めない。
「よし、高高度からメガ粒子砲で打撃を与える。敵のアイオワ級は近代化されたとは言え、ビームを防御できるほどの装甲はないはず。邦佳、敵艦隊との距離を算出、急いで。砲撃手、やれるわね?」
と、指示を飛ばす。目標はアイオワ級。それを上空から爆撃する。メガ粒子砲で。撃沈しなくとも、航行不能にできればいい。
「艦長、まもなくメガ粒子砲の射程に先頭艦が入ります」
「よし、一発でもいい。当てなさい!」
「全弾を命中させてご覧に入れましょう、艦長」
アルバトロスの砲術指導官として、大気圏突入前に乗艦したのが、かつてのアルビオンの砲撃長だった『アリスタイド・ヒューズ』だった。彼はいかつい外見とは裏腹に、実年齢は意外に若く、まだ30代である。一年戦争開戦前に志願し、ルウム戦役に参陣するも、乗艦を撃沈されて意気消沈、以後は白色彗星との一大艦隊戦の土星決戦にも参陣、この時には奮戦している。
「よーし、相手は大和より細い戦艦だ。艦橋付近に当てなくともいいから、とにかく戦闘能力を削ぐぞ!」
彼は眼下のアイオワ級を照準器越しに睨みつける。ミノフスキー粒子散布下においても、戦艦の砲撃そのものはこの時代とそれほど変わりない。アナログコンピュータがデジタルコンピュータになり、自動追尾機能がついただけだ
「てぇ!」
大口径メガ粒子砲が火を噴く。目標はアイオワ級。いくらこの世界独自のビーム対策が施されたと言っても、更に高威力で高出力のメガ粒子砲を防げる道理はない。メガ粒子砲のビームはアイオワ級の艦首付近に命中、艦首構造を溶解させ、破壊する。第二射で第一砲塔を溶解させる。弾薬もろともに誘爆したが、ビームで溶けた量の方が多く、撃沈とはならなかった。が、これで確実に戦闘能力は削いのであった。
――その頃、南洋島の基地では、グレートマジンカイザーの整備が進められていた。Gカイザーは進化間もない機体なので、入念な整備が必要である。そのため、せわし博士、のっそり博士がつきっきりになる必要があった。
「テツヤの今度の機体は調整長いね?」
「カイザー化させたばかりだから、機体構造の解析も入るからな。元々の構造より進んだ構造・回路になってるから、調整も大変なんだよ」
ハルトマンに説明する。光子力研究所の二博士も予想外の出来事も多いようで、先程から唸ってばかりだ。
「ゲッター線って、なんでもかんでも進化させられるんだね?」
「機械さえも進化させられるからな。ゲッタードラゴンが真ドラゴンに、エネルガーZがマジンカイザーに、グレートマジンガーがGカイザーになるのは当然だ。が、如何せん、グレートカイザーはマジンカイザーのように自己修復があるかどうか分からんからな。だから、予備機の計画が動いているんだ」
「でもさ、ガンダムだって、ゲッター線当てれば、凄いのできそうだよ?」
「人の意思を力にすることは、ZやZZ、ν、ユニコーンがやったが、ゲッター線で進化か。それが考えたことはないな」
「月からエネルギーもらって、ツインバスターライフルみたいなの撃つとかさ」
「サテライトキャノンじゃないですか、それ」
「あ、なのは。来てたんだ」
「雑務が終わったんで。そりゃXがやってますよ。私の世界で、お兄ちゃんが子供の頃見てたガンダムにあるんですよ、そのアイデア」
「あったのか〜」
「はい。ツインまで。でも、ニュータイプの概念が違ったんで、この世界のニュータイプとは違う存在になりますけど」
「平行世界にありそうだな。髭のガンダムとか」
「あれは文明崩壊級ですって。はやてちゃんの端末に動画入ってますから、あとで送ってもらいますよ。でも、W系あるなら、ツインバスターライフルを小型化して担げばいいんですけどね」
なのはは元から強力な砲撃を素で出来るが、体への負担も大きく、『本来の歴史』においては、それがもとで体を壊し、トラウマを後輩にも強いるという結果になっている。Bを見ていて、Bが少なからず歪んでしまっている事に気づいたなのはAは、流派東方不敗を習得した一方、ウイングガンダム系のバスターライフルを好むようになり、サイドアームとして用いる事がある。Bに『手持ちサイズのバスターライフルを携行している』写真を送ったら、腰を抜かした返事が帰ってきた事がある。
「うちの妹に連絡取ったら泣いてたよ。一般ウィッチでもリボルバーカノンどころか、電動ガトリング砲を使ってるって言ったら、腰抜かしてさ」
この頃、リボルバーカノンから、電動式ガトリング砲へと、早くも主流が移りつつあった扶桑軍の制式装備。これはM134が更に小型化された上で採用され、圧倒的な発射速度から、リボルバーカノンを置き換えるようにして製造されているからで、ウィッチであれば、その反動を制御し、尚且つ片手で撃てるのもあり、製造されている。なお、ガンダムヘビーアームズなどのMSを参考に構造も変更されたので、原型から更に軽量化されており、急速に、大型で嵩張るリボルバーカノンを置き換えている。その流れは史実米軍がM61を採用後はそれに突き進んだのと似ているが、後にリボルバーカノンは軽量&小型化に成功し、要撃ウィッチを中心に好まれるようになる。そのため、ウルスラはこの頃より、リボルバーカノンの小型化に躍起になっていたりする。
「妹さん、どうして技術畑に?」
「トモコさんの元部下だったんだけどさ、妹はマニュアル小僧ってやつで、パッとしなかったんだよ。それで技術の側面で功績挙げて、それから技術畑に行ったんだ」
「それじゃ未来知識の流入で?」
「ああ、苦労したらしいよ。それにアヤカさんたちが未来の子孫脅して、F-15ストライカーなんて持ってきて、合成鉱山の素で掘り出して使ってるから、カルチャーショックが凄くてさ」
「あ〜……確かに。ありゃ反則だ。この時代の技術じゃ修復難しいのを、大量の予備機でなぁ」
「おかげで、うちの妹、拗ねちゃってさ〜」
「それもそうだろう。F-15は制空戦闘機としては、70年代から80年代まで最強だったんだ。そこが肝なんだがな、あれは」
「そうそう。70年代でようやくたどり着いたって奴だし、性能が違うのも世代差だしねぇ」
「妹は『どういうエンジン積んだら、あんな機動性を……』って悩んでるけどさ。エンジンの問題じゃないんだよなぁ。ストライカーにしても」
「この時代は強力なエンジン載せれば、性能が上がった時代だしな。ジェットだと、機体設計も重要な要素なんだがな。それと部品の製造精度な」
「ですね」
「そう言えば、箒さん、射手座継いだけど、その世界、先々代は名前分かってるんですか?」
「『シジフォス』だそうだよ。どうやら、いくつかの外伝作品がごちゃ混ぜになった世界らしいなぁ」
「どういうことです?」
「ノビタが持ってる漫画を漁ったんだよ。あいつ、漫画評論もブログでしてるしね」
「つまり?」
「あたしの推測だけど、アヤカさんの行った聖闘士の世界は、聖闘士の世界という基盤の上に乗っかっている世界の一つで、その中でも『神が人に寛容な世界』なんだよ。そうでなければ、他の星座の聖衣をおいそれ着れないし、技も使えないはずだ」
「そう、ですよね。フェイトちゃんたち、割と軽いノリで他星座の技をポンポン撃ってましたけど……」
「今のフェイトは3つくらいの星座の技撃てるとか言ってた。射手座、獅子座、牡羊座……」
「チートじゃないですか、それ」
「うん、ぶっちゃけ。特にフェイトにはアイオリアさんの憑依ってアドバンテージがあるし、更にややこしい話もあるっつーし、あいつに勝てるのそうはいないよ」
「フェイトちゃん、どこで落ち着くんだろう?」
「蠍座だそーだ。だからこの間、敵ウィッチの拷問にスカーレットニードル使ってた」
「え〜〜〜〜〜〜!!」
「箒に至っちゃ双子座だ。アヤカさんは大姪に地位を譲った後、紫龍が負傷で戦えない時には天秤座になるそうだし」
「ややこしい話。で、天秤という事は……廬山系の……」
「撃てるって。この間、敵に同期がいたらしく、激昂して『廬山真武拳』なんての使って、地形変えてぶっ殺してた」
黒江は紫龍といつしか縁ができたらしく、大姪の翼に地位を譲った後は、五老峰で隠居生活を送っており、そこで修行し、晩年には老師・童虎や紫龍と同系統の技を身に着けていた。その片鱗が、小宇宙を最大にまで高めると、背中に朱雀の紋が浮き上がる事である。『天秤座を継ぐこともあり得た』と、後世から評されていたのは、背中の朱雀が要因である。(これにより、天秤座を継ぎ得る者達には青龍/朱雀/白虎/玄武/麒麟のいずれかが背中に浮かび上がる事が確定した)ストライカーを纏っていても、小宇宙の発動には支障はないので、黒江はわりかし技を撃つことが多い。だが、脆さもある。『逆行者』であるが故、自分が信じていた者達が裏切るなどの背信に脆く、同期の一人がティターンズ側についていた事を知ると、泣きながら『廬山真武拳』を放ち、その手にかけている。それ故に、あーやになっている時が彼女が本当に安らいでいる瞬間なのだろう。
「綾香さん、ああ見えて、結構、一途なところありますから。それで結婚しなかったんでしょう。ライダーの皆さんを見てるし、他の二人を失うのを怖がってる節もあるし」
「そうだなぁ。ミーナは数年前、アヤカさんを『得体の知れない人』と言ってたけど、親しくなると、そうじゃないのが分かるよ。仲間を求め、無力でいることを怖がる、ただのどこにでもいる、さみしがり屋の『女の子』さ」
――黒江の深層心理を501で理解していた者は数少ない。特に古参ほど懐疑心が強く、ミーナは完全には心を開かなかったし、旧504、旧506の年長組の多くもそうだった。が、中にはそれを理解する者もいた。バルクホルン、マルセイユ、ハインリーケ、ドミニカ、ジェーン、黒田。彼女らは『黒江の理解者』である。特に黒田は扶桑海事変からの付き合いであるので、この中ではもっとも黒江を理解し、助けた。姿が似ている事もあり、双方の人格が『妹分』と認識している。黒江の使命に気づき、残務整理の際に、ミーナとの折衝役を買って出た竹井も理解者に入る。45年当時、竹井は『ミーナが黒江を冷遇している事』を抗議したり、ミッドチルダ動乱の際のミーナ自身の不手際が重大な事態を招きかけた事により、療養に入った時期は黒江を補佐している。ミーナは言わば、『嵌め落とされた』に等しい状況だった。自業自得に等しいが、あからさまな冷遇はやりすぎた。そのため、決戦後に叙勲と数ヶ月の減俸と研修が言い渡されるという、異例の出来事があった。なお、スリーレイブンズがリウィッチである事が公表されたのも同時期であり、彼女らはこの時に再度、金鵄勲章を叙勲している。――
「鉄也のカイザーの整備が終わったら出るよ。準備しといて。若い連中はどうする?」
「有望株の二人は連れて行きましょう」
「よし、決まりだね。空自と米軍に連絡取ってくる」
――基地でも出撃準備が始められる。また、援護要請を受け、意気揚々と出港する艦隊があった。南洋島近くの泊地の一つに駐留していた『ブリタニア連邦海軍/東洋艦隊』である。満を持して完成し、戦列に加わった『セント・パトリック』を旗艦に、いざ出撃していく。当時は東洋艦隊と言えど、プロパガンダの意味合いもあり、戦前の比でないほど強大になっており、戦前での本国艦隊にも引けを取らない陣容だった。特に太平洋での存在感を示すために、完成間もない、欧州最強を目される新鋭戦艦を送り込むあたり、その意気込みが感じられる。しかも空母は、史実で幻となった『ジブラルタル級航空母艦』のジブラルタル、マルタと、相当に贅沢である。(しかもジェット対応の装甲空母)。ブリタニアの派遣艦隊としては、史上空前の強力な艦隊である。彼らの存在を掴んだティターンズ海軍は、作戦の練り直しを強いられるのだった――
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