外伝2『太平洋戦争編』
七十七話『まやかし戦争9』
――A世界に行ってしまったウィッチは大勢であったので、B世界の欧州戦線は弱体化し、敗退を続けていた。ウラル山脈の好調とうって変わって、欧州戦線は瓦解寸前だった。その窮状がA世界に伝えられたのは、49年の2月の定時連絡でのこと。
「こちらのウィッチを早急に返してもらいないでしょうか、加藤大佐殿」
「はっきり言って、『無理』と言っておきましょう。ミーナ中佐。こちらも『猫の手も借りたい』くらいに切羽詰まっているもの」
「しかし、このままではこちらの欧州戦線は瓦解します。あなたは我々に『座して死を待て』と?」
「そちらに騒動前から派遣してある数名と、友軍の宇宙艦隊を増派できるけど、そちらの連盟軍としての支援要請があれば、我々も公的に動けるわ。今のままでは友軍艦艇も『無害航行中の外国軍艦としての行動』が限度なのは、貴方も知っているでしょう?」
「上層部に掛け合えと?」
「そういうことよ。502のラル少佐と連携を取りなさい。縄張り争いしていたら、欧州戦線は放棄せざるを得ないわよ」
――統合戦闘航空団の多くで見られるのが縄張り争いである。大抵の場合、501と504を除き、大抵の場合は寄り合い所帯感が強く、実質的に戦力として機能していない場合が多い。鉄也が宛にしていないと述べたのも、A世界で整理された統合戦闘航空団が総数の半数近くに上ったからである。ノーブルウィッチーズは政治的陰謀に巻き込まれっぱなしで、実働戦力としての価値は無きに等しかった。これがA世界での解散に繋がったのである。武子の発言はこれを踏まえてのものだ。ミーナBは反論しなかった。実際、初期の501もそうだが、寄り合い所帯を解消できていない統合戦闘航空団は『弱い』。これを経験した故、ミーナBはAと違い、その経験を501の運用で活かした。
「中佐、ちょっといいか?割り込ませてもらうぞ」
「ルーデル大佐殿!?そちらでは南洋島に居られたのですか?」
「任務でな。部隊っていうのは、人数揃えりゃ良いってもんじゃない。訓練や実動を通して信頼や絆を育て互いを家族のように思い合える集団に出来なきゃ作戦で磨り潰されるだけの数字にしかならん。貴官はそれをよく知ってるはずだ」
「ええ。……設立初期に嫌というほど。大佐殿、力をお貸しください。どうすれば」
「加藤大佐もいったように、ラル少佐と連携をとれ。その上でガランド閣下を動かし、こちらに公式の要請を出すように取り計らえ。そうでないと動きが取れん」
「……わかりました。なんとかやってみます」
「増派決定後、派遣される航空隊は私が指揮を取る。こちらでは扶桑軍に協力しているのでな」
「そちらでは何がどうなっているのですか?」
「戦争だよ。所属軍の違い程度など些細な事でしかないのでな」
――ルーデルは魔弾隊の隊長として、64Fに組み込まれており、ハルトマンAとマルセイユA、シャーリーAもその配下という事になっている。魔弾隊は南洋島にいた他国軍エースらを作戦に組み込んで編成されたので、多国籍である。亡命リベリオンとカールスラントがその主体であるため、同国軍ウィッチが多めである。ハインリーケもその配下であるので、実質的に飛行隊上級幹部はカールスラント、中級幹部は亡命リベリオンが占めている。機材はVF-22/VF-25などで、ルーデルは義足となってもアーマードメサイアを使っている。この日も快調に制空権を取ってきたところである。
「大佐、その足は?」
「ああ、義足の予備だ。こちらでは被弾の時に片足が吹き飛んだものでな。普段使っている義足のメンテで、今日は予備を履いている。それだけだ」
「片足!?それで義足を?」
「そうだ。これは板状だが、普段は精巧なものを履いている。そちらに行く頃にはそれを見せられるだろう」
「分かりました。それでは、そちらのご武運を」
「ああ、そちらもな」
と、通信を終える。
「鳩が豆鉄砲を食ったような顔していたな」
「それじゃ、誰だって面食らいますよ」
「だなぁ。制空権は確保してきたが、VF-31の先行型の配備は?」
「使い込んだ19の代替が50%ほど進んでいます」
「ふむ。新星も太っ腹だな。31のテストをやらせてくれるとは。ギャラクシーは不祥事で最近はサービスの質が落ちたから、新星は張り切ってると見える」
「仕方がないですよ。F船団の事があって、ギャラクシー社、社長が言い訳に終始してるんですから」
F船団の事件は、ギャラクシー社のセールスに暗い影を落とし、VF-19の本星軍使用率増加も重なり、VF-171の売上はかなり落ちている。加えて、17より総合性能面は落ちている(トータルバランスは上がっているが)事が、バジュラ戦で裏目に出、多数機が撃墜された事が激戦続きの本星軍の不興を買い、19系で代替された事がギャラクシーを落胆させた。本星は激戦地であるので、19を好む部隊が過半数を占める。その事も171の評判を落とした。それはスリーレイブンズも同様である。黒江はギャラクシー系から新星系に乗り換え、今では19S→19Aの道を辿った。イサムと懇意にしている今では、新星の大口顧客である。その関係で31の入手も容易であり、黒江も近々、チューンした31に乗り換え予定である。
「自衛隊連中が肝を潰しておったぞ。なにせVFの中でも高級機しかないから」
「サンダーボルトも悪い機体じゃないんですが、古いですしね」
「サンダーボルトは教習用に使えるしな。あいにく、VF-1X-plusは確保できんかったしな」
教習用の機体がVF-11であるあたり、64Fは贅沢である。これはVF-1X-plusが確保できなかった代替措置によるものだが、一部でまだ一線配備が続いている機体を教習専任に用いるあたり、貧乏移民星から文句が出そうである。11は癖がないため、教習用に用いるにもちょうどよく、数が多いため、教習で使い潰すにも良く、64Fでは飛行実習や、自衛隊や米軍向けのデモンストレーション用に用いられ、米軍からも借用したいという申し出も出ている。戦略爆撃機用の基地が充てがわられた故、敷地にはかなりの余裕があり、VFをかなり保有している。(実は25導入時にVF-1EXが別型式として納入されていたが、菅野やニパが壊したりしたので、49年次には殆ど実働していない。そのデータが役立ったか、正式なEXは更に頑丈である)
――基地格納庫区間は『VF区画』、『MS区画』、『スーパーロボット区画』と区分分けされている。VF乗りが多い影響で、VF区間が最も巨大であり、魔弾隊向けの『VB-6 ケーニッヒモンスター』、『VA-3 インベーダー』も置かれている。連邦軍の厚意で提供されたVBとVAも置かれているため、64Fが抱えるメカニックやエンジニアは通常編成の数倍の人数である。ジオンのキマイラ隊がその参考にされた編成であり、明らかに飛行隊の域を超えた規模の装備と人員を抱えているため、『特殊戦術飛行隊』ともされている。これは空軍で戦略爆撃機部隊の更に倍の予算がかかっている事を財務関係者に納得させる方便でもあり、また、航空関係者なら誰もが知るエース級をほぼ独占的に配置している事がプロパガンダにはうってつけであり、その側面もあった。この独占的な編成は日本の野党にも何故かバカ受けだった。これは元になった部隊が日本陸海軍最強を謳われし部隊であった事、日本の政治家の大半は戦争末期の一般航空隊を『ただいるだけで役に立たない能無しの集まり』と侮蔑していた事に由来する。日本の左派野党は扶桑の航空隊を一瞥するなり、『B-29を止められるのか、はなただ疑問である』、『威勢のいい事しか言わない間抜け共に国は守れない』と声明を発表し、多くの扶桑軍人を憤慨させた。扶桑に混乱をもたらしたのは、彼らが史実防空戦の惨状を流したからで、この影響で旧式機の多くが防空戦に使えなくなっている。これは零戦や屠龍、一式戦などの『無力』ぶりが流された影響で、混乱が起こったからで、扶桑皇国軍が最低でも疾風や紫電改以上の機体を第一線機としたのは1944年からの混乱が原因である。また、野党は史実で配備されていた1945年世代の米軍の機体と比較してラジオなどで放送した事が、零戦や隼の軍用機としての寿命を奪った。これが二度目に於ける坂本(若)の荒れ狂いぶりのきっかけであった――
「扶桑を混乱に陥れた、日本の左派が出してるペーパーを買って見たが、軍事的音痴にすぎるぞ。カタログスペックなど戦場の全てで発揮できるものか」
ルーデルが武子の机にバサッと置いたペーパーは全く以て、軍事に無知な者が書いたとわかる比較記事だった。左派はこの当時に自分達の世界で配備されていた『F8F』と『零式五二型』を比較し、話にならないと断言している。
「向こうの黒江がモスキート落とした逸話からスペック以外に勝ち負けの要因が有ることくらい読み取れんのか?」
半ギレである。だが、戦後日本人は『兵器のスペックがそこそこでも、物量で戦争に勝てる』という間違った認識を抱いており、アメリカが膨大な物量で勝った事を背景にした論調である。
「失礼します」
「ああ、あなたは綾香の自衛隊での……」
「同僚です。その手のは一般向けのものですので、気にしないでください。ほら、赤い彗星さんも『性能の違いが戦力の決定的な差ではない』って半笑いで言ってますから」
「そうねぇ。第一、性能で決まってたらジオングがガンダムと相打ちになった理由が説明できないのに、なんでまかり通るのかしら」
「太平洋戦争で埋め付けられた『科学技術のコンプレックス』ですよ。戦争が終わった後、『今回の戦争は科学技術の敗北だった』と総括されたくらいのコンプレックスがあるんですよ。そのコンプレックスの発散先にされたんでしょう」
自衛官の言う通り、戦後日本が最盛期に技術に邁進したのは、太平洋戦争で発覚した技術格差へのコンプレックスが歪んだ形で国民に浸透したためである。技術一辺倒が駄目なのは、連邦軍もガトランティス戦で身にしみているし、自衛隊も知っている。
「第一、技術一辺倒なら、年式が171より古い19を地球連邦軍が使い続けてるはずがないじゃないですか」
「そうよね」
「私らは日頃から野党には振り回されてるので、慣れっこですが、貴方方は不幸にも、昔の旧軍と同一視されている。それが不幸です」
「その実感はあるわ。ウチが喜ばれたのは、昔の『紫電改のタカ』の部隊が母体なだけだしね」
「ああ、ウチの親父がそれ読んでました。結構勘違いも多いけど」
「なんでこう、日本って軍隊の知識が偏ってるのかね?」
「大佐、私の見解ですが、70年も戦争してなかったことでの平和ボケだと思います。21世紀には戦争を本当に知ってる世代は消えつつありますから」
「だから迷惑というのだ。奴ら、味方機を誤射した機銃要員を鬱病に追い込んだ事もあるし、それを容認したとかで、松田千秋提督を軍法会議にかけるのを叫んだり」
「それ、うちのほうでも問題になりましたよ。その機銃員を誹謗中傷したりして、敵味方識別装置なんて、第二次世界大戦のプロペラ機にはないつーの」
それは数年前、松田千秋が大和の艦長であった頃、迂闊に射程に入った紫電改を誤射した事件の事。『バンクをしたのに撃ち続け、艦長が中止指令を出さなかった』と槍玉に挙げられ、日本の左派の政治的圧力で軍法会議をやる羽目になった。結局、その事件は機銃員をスケープゴートにせざるを得なくなり、全責任を被せる(そうでしか日本左派を納得させられない)形で終結したが、憤慨した機銃員が暴動を起こしたので、CIWSに置き換える大義名分に使われたというモノだ。機銃員達はCIWSやRAMの急速な普及で仕事を奪われていったが、それがあまりに急だったのは、この事件の影響による萎縮も含まれた。(機銃員達はその少なからずが海上護衛総隊に移っていったが、これは『近代兵器の普及でいらない子扱いされた要員の引き取り』であったともされていた。)。
「その償いが21世紀技術なので、複雑でしょうけど」
「ええ。だけど、貴方の方はよく、二個飛行隊も動かせたわね」
「学園都市がロシアを極東から駆逐してくれたおかげで、置いとく意義が薄れたんですよ。それで、今回の償いも兼ねての派遣に」
「なるほど。それで」
「おかげで、旧式機相手に航空戦の日々ですが。学園都市の奴を相手するよりは気楽なもんですけど」
「第4世代と第3世代の改善型で、第二世代以前の機体を空中管制ありで迎撃するんだから、当然といえば当然よね」
「レシプロ機は流石に他部隊に任せてますけど。紫電改や疾風のフルポテンシャルが見れるのはうれしいですけど、零戦を見たかったというのが」
南洋島の高オクタン価ガソリンで飛ぶ紫電改や疾風は初期型でも650キロを超える速度を誇る。油漏れも工作精度の差で起きないし、層流翼もきちんと造られている。その事実が物語るのは、『設計値を出せる』という事だ。また、未来人の介入で生産が五式に切り替えられた三式戦も、扶桑が本土で使う分には、比較的良好なので、一部はまだ飛んでいる。これは現地部隊から『予備パーツまで生産中止は困る!』と猛抗議があったからである。その結果、保守整備が困難となった現地部隊での改造機が生じ、原型のエンジンを乗っけた例も数多い。五式戦は主に一式戦の代替とされ、好評ではある。特に過去の経験を持つ義勇兵にはすこぶる好まれ、そのポテンシャルを証明した。レシプロ機は主に義勇兵が用いるモノに変わりつつある時勢だが、軽空母部隊による『神出鬼没の沿岸部空襲』には有効であり、烈風/紫電改、疾風/五式戦が奮戦している。この日の前日にも、義勇兵の部隊がF6FとF4Uの部隊相手に奮戦しており、それら相手であれば、優位に立つ事も証明されている。
「ようは、グラマンとシコルスキーに勝つとこさえ見せれば、日本の一般人は納得するんですよ。日本の後半のレシプロ機は弱いってイメージがありますし」
彼の言う通り、グラマン(F6F)、シコルスキー(F4U)を叩き落とせば、日本人は納得するのだ。
「なんにしても、なんでヴォートのコルセアがシコルスキーなのか、考え出すと夜眠れなくなりそう」
「あれは『シコルスキー・エアクラフトから独立して、チャンス・ヴォート・エアクラフトになった』経緯だから、間違っていたとは言えませんよ」
「不思議ね」
「ノースロップ氏にB-2の写真見せて、狂喜乱舞されましたし、タンク技師はウチの航空メーカーに乗り込んできて、ディスカッションしていきました。凄い行動力ですね、彼女」
ノースロップはこの世界においても、全翼機オタクで、B-2の写真に狂喜乱舞し、『今こそ、神が私に未来情報を与えたもうた理由が分かった』と号泣している。タンク技師はディスカッションをし、なにかかしらの閃きは得たらしい。
「あの人は根っからの技師だもの。フッケバインの次を考えてるんでしょう、タンク技師」
「凄い方だ……。それと、ウチの部隊がネオ・ジオンのドム隊を見かけたんですが、なんで今さらドムなんですか?」
「アニメでもあるけど、あれって使い勝手いいのよね。それに、構造が後継機と違って、質実剛健で壊れにくいって奴。ホバーを整備さえすれば動くし、戦後の残党も重宝してるのよね、あれ。地上での運用で一番楽だから。ドムならホバー移動で、脚関節の消耗が少ないし、ジェットより排気が低温だからメンテも楽なのよ。だから、戦後の残党はザクよりドムを持ってるっていうの多いの」
「そう言えば」
「ザクはむしろ歩行速度の関係で、わりかし戦車の餌食にできる機体よ。装甲も厚くないし。ドムのほうが怖いわよ。240ミリキャノンに正面装甲は耐えられるし」
「ガンダムに12機が3分で血祭りのイメージがある……あ、あれはリック・ドムか」
「宇宙だと、機動性はそれほどザクと変わんないしね」
ドムは地上では、一年戦争中は『王者』とも謳われた機動性を誇ったが、宇宙ではそれほどザクと顕著な差はなく、宇宙ではガンダムに血祭りの惨劇が有名である。
「宇宙でスカート付きは重いし大きいから小回りが効かないぶんやり易いってアムロさんが」
「彼曰く、宇宙だとゲルググは侮れないそうだ。MSに例えると、君の国の連中も納得させられるかもしれんな」
「帰ったら、公報の連中に言っておきます。しかし、ジェガンがまだ現役なんですか?ジャベリンがあるのに」
「連邦も財政がかつかつなのと、大型機は宇宙の外洋だと有利だから好まれるのよ」
「質量ですか?」
「そう。宇宙の大海原でドンパチするとき、カタログスペックが良くても、小型だと、質量を武器に出来ないし、ガミラスや白色彗星帝国の戦闘機に加速で追いつけない事があって、ジェガンが未だ現役なのよね。だから、ジャベリンの次が大型に戻ったし」
「なるほど。連絡機はどうなされているので?」
「コスモタイガーを個人用に、隊の幹部の移動に『ディッシュ』を使ってるわ。連邦と共通化して、運用経費を安くしないと」
「そういう事情があるんですね」
「そういう事」
「最後に、マジンカイザーを見てきましたが、あれってゲーム版ですか?」
「OVA版を改良して、ゲーム版にパワーアップしたのよ、あれ」
「なんですか、そのややこしいの」
「つまり、OVAの姿で生まれて、ゲームの姿に改良されたのよ。私も資料で知らされたばかりなんだけど、武器が色々と変わってて……」
「ふむ……、ちょっと見させてくれますか」
「はい」
彼は私生活でかなりのオタクなせいか、マジンカイザーの改装の要点に気づいた。まずはカイザースクランダーの目に見える小型化だ。アニメではかなり大型で、格闘戦の際には切り離す必要があった、が、ゲーム版では翼の大まかな形状は同じだが、サイズが二回りほど小さく、ゲッターの技術で翼は収納可能になっているのがわかる。最も、ゲッターの技術なら、大きさに意味はないが。肩部の補助機関らしき意匠の箇所は小型化されている他、肩の形状がグレートマジンガーに近くなっている。塗装も腕と足が青くされており、グレートマジンガーとの繋がりを意識されているカラーリングになっている。その事は『素性隠し』にも役立っている。対外的には『マジンカイザーはグレートマジンガーの発展型』と発表されているからだ。
「マジンカイザーの素性隠しですか?プロトマジンガー、エネルガーでしたっけ……の進化体である事を隠す必要が?」
「そうしないと、マジンガーZのファンがうるさいらしくて」
「あー、所謂、『マジンガーZの後継機はZぽくないと』な?バカバカしい」
「プロトタイプは何機か有るんだけどね、中には白いパイルダーの漫画版そっくりなのとか」
「マジンガーの最終到達点はグレートマジンガーの発展なんだし、目くじらを立てる事ないと思いますが」
「そうなんだけどね。ゴッドスクランダーでも作ってビッグバンパンチさせれば気が済むのかしらね、ああいう手合い。まぁ、実際はプロトマジンガーが多いから、その隠蔽もあるけど」
「アイアンZとか、エネルガーZですね?それと原作版Zとか」
「ええ。アイアンZは小さかったわ。あれが雛形みたいで」
「あれが原案で、そこからグレートマジンガーに行き着くはずです。私、実家にムック本あるので」
「詳しいわね」
「あいつに触発されての事ですが。私、元々はリアルロボット系が好きでしたので」
彼は黒江の影響でスーパーロボットアニメを見始めた事を明言した。黒江はリアルロボットのパイロットであるが、スーパーロボットに憧れているところがあり、同僚に自慢話をすることがある。実際にVFのウイングマークの保有者なので、自衛隊の同僚のアニメオタクらからは尊敬の念を持たれている。また、本当に全てがアニメ通りかと言うと、違うところがあるため、その点も黒江は話の種にしていた。19乗りというところも自慢で、VF好きの自衛官らから羨ましがられている。黒江の場合は17→19S→19Aという変遷を辿ったので、ギャラクシー社好きからは『浮気者』と冗談めかして言われている。黒江は『ギャラクシーはお家騒動が多いのと、一般仕様が使い物にならんからなぁ』とパイロットである故の本音を吐いている。実際、ギャラクシーは特務機では名機を生むが、普及機分野ではぱっとしない宿命である。もちろん、VF-9という当たりもあるが、それ以外は『てんで使い物にならない』と本星軍の猛者たちは語っており、黒江も19に乗り換えてからは新星インダストリーの大口顧客である。特務機では揺るぎないギャラクシー社が市場獲得に失敗している分野が普及機であるのも、不思議なものである。
「あいつは今どこに?」
「鉄也さん達と一緒に、この世界の平行世界の一つにいるわ。当面は戻れないわね。…よければ伝言するわ」
「それじゃ、この間借りた3万は返して振り込んでおいた、と」
「あなた、あの子から借りてたの?」
「はぁ。実は、送別会の会費でおさまらなくて。それであいつに……」
21世紀になると、物価が高いので、送別会にも経費がかかる。それに困った彼は黒江に金を借りたが、黒江としてもかなりの出費であり、B世界で智子にたかっているのはそのためだ。
「送別会ねぇ。綾香によく借りられたわね」
「防大の同期ですので、その辺は」
黒江は防衛大学校からちゃんと入隊したため、今回の陸海空自衛隊に同期が多い。任官から10年になると、同期も結構な地位になっているので、黒江は派遣隊に顔が利く。また、派遣隊の司令官が黒江を『旧軍の撃墜王』と尊敬している事から、容易に彼らの動員が可能である。ただし、どうしても政治的制約が多いので、主に後方支援に精を出しており、64Fの空中管制や補給ルートの一つの確保に大いに貢献している。彼は偵察型ファントムのパイロットであり、黒江とは防大以来の縁であった。
「仕事のほうに入ります。これが敵泊地の一つの写真です」
「この泊地は軽空母主体?」
「他には甲巡と乙巡、駆逐艦を確認しております。軽空母は使い潰すためのものでしょうが、インディペンデンス級航空母艦です」
「惜しくないのを持って来たわね」
「対潜かウィッチ母艦といった所でしょう」
「旧型をウィッチの護衛に付けてる場合も考えられるわね。リベリオンは元々、新しい国だから、ウィッチの数は少ないから」
リベリオンは国が新しい事もあり、ウィッチ資源は希少である。亡命リベリオン側が圧倒的優位であった唯一無二の点がそこで、人材面では圧倒的に亡命リベリオンが優位にある。エースの過半数と候補生の過半数を亡命させたため、リベリオン本国はウィッチ資源には頼れず、通常兵器の物量に頼っている。しかしながら、亡命リベリオンとて、実働戦力はあまり多くなく、新人に任官拒否も少なからずいたので、思ったよりは余裕がない。これは当時の人種差別問題が双方に絡んでいた事や、現在の戦争に嫌悪感を持つ良心的兵役拒否の問題があったからで、結果として、リベリオンは双方でこれに突き当たる事になった。本来、亡命リベリオントップエースの一角であるシャーリーが扶桑軍の魔弾隊に在籍しているのも、この戦争の様相が深く関係していた。その相克がやがて、リネット・ビショップと宮藤芳佳の発案で設立される『自衛隊』に繋がるのだ。太平洋戦争への従軍を拒否したりしたウィッチは多く、48年の秋頃からの1949年度の扶桑軍の募集は散々な結果となった。が、芳佳の何度かのインタビューでの言葉で罪悪感を感じる者は多くおり、村八分を恐れ、軍に籍だけ置いている者も多かった。が、実際に従軍した者は帳簿上の人数の半分以下で、多くが1945年までに前線勤務をしていた層だった事が後に判明している。また、後の第二次扶桑海事変にはぬけぬけと従軍した者も多く、それが太平洋戦争生き残りとの対立を生み、結果として、その世代の多くは軍に長居しなかった。が、太平洋戦争には行かなかったことによるいじめや誹謗中傷はやはり起こるため、その層への救済措置が自衛隊の設立理由だったのである。
「戦争は人を殺す事が尊ばれる場ですからね……。私の持論ですが、良心的兵役拒否者への救済措置も必要でしょう」
「上に検討させてるわ。この戦争に勝てば、の話でしょうけど」
「勝てますかね」
「一部の連中の思うような、ワシントンDCに日章旗なんてのは夢物語よ。出来たとしてもハワイがせいぜいよ。ハワイは、占領と引き換えに、50万の陸軍をすりつぶしてでも達成すべき目標よ」
「そこまでする価値はあるんでしょうか」
「太平洋に出てこれなくすればいい。冷戦は避けられないから、せめてハワイで境界線を引く。これが私達の国の最終目標よ」
武子はハワイを最終決戦と踏んでいるようだが、実際にはミッドウェイ海戦などを挟むと思われる。リバティーやモンタナが出て来る前に、そこまでの道筋はつけたい本音を窺えた。扶桑の戦争遂行能力の限界は1954年まで。そこまでに戦争を終わらせたいのが扶桑の偽りない本音であった。扶桑が本来、構想していた戦争計画では、46年にはハワイ侵攻、47年には本土侵攻とされており、日本の左派が膨大な妨害工作を行ったかがわかる。その禊ぎが21世紀の技術をブラックボックス無しで提供することであった。武子の焦りは二大ラ級が完成するまでにミッドウェイにまで押し返せるか。そこにあった。
――この『激一号作戦』案は日本向けのブラフを兼ねたウソとホントを織り交ぜたモノだ。タイムスケジュール以外は1945年に実際に検討されていた計画である。それは重慶市の生産力を前提条件にしてのかなり無茶な計画であるが、扶桑陸軍はかなり乗り気だった。が、その予定生産地が吹き飛んだので、作戦は実行されず、あくまで仮定のシミュレーションに終わったが、日本から賠償を確実に得るため、公表にはかなりの準備が進められていた。扶桑への贖罪ムード満点となった段階で『次の燃料』を投下し、確実に価値のある賠償を得る。吉田茂とその参謀『池田勇人』の知恵が、日本人をきりきり舞いさせる第二幕が始まる――
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