外伝2『太平洋戦争編』
八十四話『ある日の飛行64戦隊』


――大日本帝国が敗北した太平洋戦争に勝つことに反対する日本人は、日本の老人層にかなりの割合で存在していた。これは『負けたからこそ、世界二位の経済と、世界に冠たる文化を手に入れられた』という認識が多数派だったからだ。老人層の多数派の60代後半から70代までに太平洋戦争の記憶を持たない層が多数派になっていた21世紀当時、扶桑を軍事的に敗北させ、リベリオンにウィッチ世界を委ねようとする論調は戦争の敗北の記憶を持たない老人の中の若年層から出ていた。老人の中の高年齢層は、大日本帝国の理想的な姿とも言える扶桑に郷愁を覚え、移民するものが多いのとは対照的だった――


――64Fの黒江の自室――

「ふーむ。21世紀での老人達の中での戦前派と戦後世代の対立ねぇ。そんなにややこしい問題か?」

「のび太から聞いたけど、戦後直後生まれって、まともなのがほとんどいないそうよ」

「そいや、向こうで将棋指しあったじっちゃん達が何か言ってたっけ」

「戦後直後の生まれの連中は日本が復興していって、アメリカ文化を享受して育ったりしたから、若い頃は親に反発して、自分が年取ったら、自分らの苦労を後の世代にも味わせろって傲岸不遜なところあるのよね。あの世代って、前と後から反発されてんのよ」

智子がいう事は日本の世代的な差異だ。戦後直後世代は変なところで保守的で、変なところで革新を望む。それに対し、のび太らの世代、つまり、21世紀序盤の青年層は政治的に現状維持と経済的な現状打破を望む。のび太らの世代は日本が不景気に陥ってゆく時代に子供であり、好景気時代を辛うじて目にしたであろう、最後の世代に当たる。そのため、智子はその差異を見ている。

「のび太の世代が大人になる頃には、日本は連邦を組まなけりゃ、少子高齢化社会まっしぐらだったわけじゃない?その現実見てない老人が多いって事」

「与党の政治家は2000年には認識してたって、ケイが言ってたぞ。つまり、日本ってのは平和が長すぎて、一般人の多くは考えてもないんだよな」

「危機が本当に訪れるか、よ。2011年の大震災の時もそうだったし、学園都市が戦争おっ始めたのを制御出来なかった時もそうだけど、日本人は『不測の事態』に弱いのよね」

智子は、日本は思い込みが強く、不測の事態に弱い傾向が国単位であると評した。太平洋戦争の勃発が確実であると、評議会で示された時もだ。日本の野党代表の多くは、『扶桑軍が挑発するからだ』とちんぷんかんぷんな言い分であった。さらに最大野党の代表が『帝国主義国家なぞ危険視されて当然だろう!」とぶちかまし、問題になった。それを自覚させるため、キングスユニオンとなった英国と共謀し、TVの討論番組で英国大使が『扶桑は立派な立憲君主国ではないか。 君主が居て、名目上の軍の最高指揮官が君主の国を帝国主義と言って非難の対象とするなら我が国も非難されるのだろうね』とかました事から、英国と日本で外交問題になりかけた。英国は大英帝国時代に帝国主義だったからで、それを指摘された野党当主が発言を取り消して陳謝する事で落ち着いた。

「智子少佐、通商破壊艦隊が敵と接触した模様です」

「ご苦労。タブレットの衛星中継でチェックする。大尉は何かあれば報告せよ」

「ハッ」

「お前、ハルカと練習してんのか?その、バラライカになる時の」

「そうよ。あの子、『軍曹』の魄持ってるみたいで」

呆れる黒江。智子は自身の派閥を『遊撃隊』と称している。バラライカになりきるには、形から入るらしい。そのため、今現在の服装は、軍用コートをいつもの戦闘服の上から羽織った服装である。

「だからって、コートを戦闘服の上から羽織るなよな」

「そうしないと、切り替えできないのよ!悪い!?」

「お前さ、小学校ん時も演劇でモブだったろ?」

「それとこれは関係ないでしょ!?」

「図星かよ!それで、よく映画の主演できたもんだ」

「あれは再現って体裁だったでしょ!?」

「ケイが更に誇張されて、お前のキャラが改変されてた以外はな」

「あんた、今回は主演級だったのはなんで?前史は代役……」

「前史でのケイの本の時と同じだ。スポンサーに入ってる○△産業ってさ、兄貴の会社なんだよ」

「ああ、あんたの15くらい離れてるお兄さんで、あのボンクラのお父上」

「そそ。今回は親父に話が通ってたから、お袋が乗り気でよ。前史での事があるから、出てやったよ。かなり兄貴が口出ししたらしいけど」

黒江は長兄の事は嫌いではないが、如何せん歳が15以上も離れているのと、その子らの事があるため、最近はあまり会っていない。

「去年の正月に会った時、真ん中の兄貴を通して吹き込んだけど、上の兄貴、仕事の虫でさ。わりと家庭放置らしいんだ。だから、休み取って効率良く働いて家族と遊べ、仕事の活力ってそう言うところから生まれるってモンティから聞いたぞ、って吹き込んどいた。二番目の兄貴に頼んで」

「直接言わないの?」

「上の兄貴、雰囲気が厳格なビジネスマンでよ。面向かうと緊張しちまうんだよ」

自分が生まれた時に15歳だった長兄とは、転生しても敏腕ビジネスマンとしての厳格な雰囲気から、付き合い方がつかめていないらしい黒江。長兄は実は歳の離れた妹を可愛がりたいが、家庭を持っているので、難しいという、彼側の事情もある。父親が知った綾香の秘密を三兄に継承させていたのは、その関係を父親が考慮したためでもある。長兄は綾香へ確かに家族愛を持っていたが、その関係性と、未来の黒江家の継承者である『翼』が三兄の血を受け継ぐ者であるという事実が、彼に秘密が継承されなかった理由である。

「それによ、翼が三番目の兄貴の孫娘ってのを親父、ケイから聞いてるみたいでよ」

「知ってたの」

「あいつを見せた時、親父の態度が変わったしな。だいたいは感づいたよ」

「ケイは、お父上に『あんたには言わないでくれ』って念押ししてたわよ?」

「親父、隠し事無理な性格だから」

黒江は父親の態度から、圭子が『自分の秘密を話した』事に感づいた。黒江は、圭子が『自分の精神状態を気遣ってくれた』事が嬉しいらしく、その一言で流す。

「親父もガンを治せたし、上の兄貴とは、戦後にゆっくり話す機会設けるさ。翼のことや、ガキの頃からの積もる話もあるしな。二次事変までは多少の時間はあるし、前回のパニックで会ったBみてぇに、話せないまま死なれるのも嫌だしな」

「ああ、あの子の過去でのことね」

「そうだ。……ん?待てよ。ケイは確か、今回の転生でBと融合したって言ってなかったか?」

「そうだけど?」

「あの世界にケイはいない事にならねぇか?」

「いや、ゼウスが言ってたけど、そういう場合は辻褄合わせの別魄がその役目を負ってるらしいから、ケイに似た誰かがその役目を負ってると思うわ」

「例えば?」

「名前が一文字違うとか?漫画でもあるでしょ?ほら、あだ名が『ジ○ジョ』だったのが、平行世界だと『ジョ○ィ』とか」

「後付け設定じゃね?あれ」

「たぶん、今回のパニックだと、その存在がやってくるでしょうから、覚悟していて。多分、ケイの辻褄合わせだから、人物像は元のあの子に似てるだろうけど…」

「うーむ。これは考えてなかったからなー。想像できねぇ」

圭子に相当する、B世界の人物。次元震パニックで遭遇するだろうその人物の事を考える二人。ハルカが報告した事そっちのけで、その事を考えこむ。

「なぁ、どんな点が違うと思う?」

「半年くらい先の事気にしてどうすんの……でも、それは言えるわね」

「多分、年齢や容姿、使い魔は変わんねーだろ?でも、性格はどうだ?」

「姉妹くらいの差異はあるでしょうね。父親似か母親似かってくらいの。こっちのは母親似らしいけど」

「嘘だろ、ハハハ」

「未来行く前の性格はね。今のあれは戦士としての自分を演出して、三人で馬鹿したいための変化よ」

「あいつ、そんな事を?」

「邦佳に言ったそうよ。三人でバカしたいから、今回はあの振る舞いで通してるって」

「そいや、事変んときにゃ、あいつはもう18歳くらいだったものな。転生前から抱えてたのかも知れねぇって事か…」

「あの子は戦が本格化するタイミングで上がる世代だったし、いくら飛べるだけの魔力は残っても、マルセイユの援護は出来ないから、なんだかんだでフラストレーション溜まってたのよ、たぶん。あの子、覚醒は実は一番早かったんだって。それらしいのを見せたのは、今回、マルセイユが事故るくらいのタイミングだったんですって。マルセイユが死を覚悟したのを、あの子、敵の包囲を力業で突破して、助けたんだって。口調が荒くなってたから、マルセイユったら固まってたみたいよ」

「そりゃそうだ。いきなりアレじゃ固まるぜ。どんな感じだったんだ?」

「真美から聞いたんだけど――」




――1940年代前半――

当時、圭子はマルセイユとの出会いが記憶の枷を外す役目を果たし、黒江と智子より早めにG化していた。それを持ち前の演技力でひた隠していたが、予期していたマルセイユの事故を『待ってました!』と言わんばかりに、『本性』を表した。真美は圭子の真の姿を家の力で知っており、口調が荒い姿になるのを楽しみにしていた。

「クソッタレのカールスラントめ!新型の冷却テストくらいしとけってんだよ!」

粗野な口調で悪態をつく圭子。真美の目が輝いている。圭子『本来』のキャラが粗野であるのを知っているからだろう。

「圭姉様、もしかして事変の記憶が……!?」

「実はマルセイユとアフリカで会った時にゃ戻ってたんだが、騒ぎ起こすと先輩達にどやされるから、演技してたんだよ」

「ああ、赤松特務少尉と若松大尉」

「そういうこった。記憶が戻ったし、力も戻った。いっちょアイツを助けに行く」

「流石は七勇士」

「ケイ、ティナが!!」

「落ち着け、ライーサ。それは聞いてるぜ」

「!?ケ、ケイ。どうしたんですか?その口調……。悪いものでも……」

「バカヤロ。あたしがそういうタマに見えんのか?」

それまでと違う、圭子の粗野な態度に言葉を失うライーサ。目つきが鋭くなっている、首元に巻いているマフラーが物理法則無視で形を保っているなどの外見的特徴が表れているのが、圭子の覚醒の証だ。

「ちっと助けに行ってくる。真美は付近の部隊に通報しろ。確か、今は33Fがこっちに来ているはずだ。アイツに連絡しろ。分かるな?」

「33F……はいっ!」

真美が急いで無線室へ走っていく。その意味を悟ったのだ。圭子と同じ『扶桑海七勇士』の雄がいる部隊だと。

「待ってください。どうして、扶桑のその部隊に直接?」

「あそこにゃいるからな。あたしと同じ、扶桑海七勇士の一人、黒田邦佳が」

「クロダクニカ……!?あの!?」

「元部下だ。そいつを呼び出すんだよ。いまのあたしの護衛はアイツしか務まらねぇからな」

「ご、護衛って!?ケイ!」

「喚くんじゃねぇ!後で事情は説明する。キ61改は整備してあるな!?出るぞ!!マティルダの槍を持って来い!!」

「え、え!?」

「早くしろ、ティナが地面とキスしちまうぞ!」

「は、はいぃ――っ!」

圭子はマルセイユの従卒を務めるアフリカ人の『マティルダ」の個人武器である槍を持ってこさせ、それを持ち、Gウィッチとしての能力で作り変える。『トマホークランサー』に。

「あらよっと!」

「槍が……、両刃のハルバードになった!?」

「九九式二号二〇ミリと予備のドラムマガジンを用意してっと。ベレッタをホルダーに入れて……うっし!」

当時としては異例の重装備である。背中に『トマホークランサー』を担ぎ、サイドアームは、当時最新の機銃であった海軍式の20ミリ砲、更に、ライーサは気づかなかったが、よく見てみると、ベレッタはこの時代のモデルでなく、M92である。当時、カールスラント軍戦闘ウィッチの大半の主要武器が『MG34機関銃』であるのに比べると、格段の差を持つ重火力だ。当時最新の武器『フリーガーハマー』を省くと、キ61改の特性を生かせるのか不安になるほどで、ライーサを不安にさせた。

「そんな装備で、いや、今の貴方の魔力で飛べるんですか!?」

「たりめーだ!」

キ61改のエンジンをかける圭子。簡易発進促進台の下に展開される魔方陣は、それまでのエクスウィッチ特有の小さく、不安定なものではなく、自分達現役と遜色ない、緻密で複雑な魔方陣だった。エンジン音も規定出力が出ているとわかる力強いものだった。

「姉様!黒田先輩に連絡できました!出たから、無線で連絡してくれと!」

「分かった!」

エンジン音を轟かせ、圭子は勢い良く飛び出す。それは今までのエクスウィッチとしてのそれではない。現役と遜色がない力強さを示している。唖然とするライーサ。正気に戻ると、すぐに同行しようとするが、真美に制止される。理由は基地に敵が迫っているとの知らせが入ったからだ。





――飛び出した圭子は途中で黒田と合流。旧交を温める――


「邦佳、お前がいて助かったぜ。あの二人はまだ覚醒してねぇから、お前に頼るしかなくてな」

「お安い御用ですよ。今はまっつぁんや坂本達を省くと、あたしくらいなもんですから。それにしても先輩、飛ばしてましたね?今の水準からだと異常な速さですよ、もう。そのキ61、ハ40じゃ無いですね?スペック超えてる」

「ああ、ライセンス元の発動機だ。GM-1を積んでオーバーブースト出来るようにしてあるが、魔力によるオーバーブーストも入ってる。帰ってきたら分解整備だな」

「でしょうねぇ。それとあたし、同行する事にしますよ。どうせ44年まで暇だし、ノーブルは卵で終わるのは分かってるし」

「すまねぇな。そっちの隊長にお礼の品でも送る」

「な〜に、同じ転生者のよしみですって」

二人は旧交を温め、笑い合う。今回、黒田は全てを知っているため、ノーブルウィッチーズの結成までは圭子のもとにいると告げる。当時は本来の相方である黒江はまだ覚醒していないからだった。

「黒江先輩達は44年を半年すぎないと覚醒めないんで、ケイ先輩のとこに厄介になります。多分、ティアナと入れ違いになると思いますけど」

「そうと決まれば善は急げだ、行くぞ!」

二人は戦闘出力でマルセイユが彷徨っている空域に向かった。やがてマルセイユの弱気な声がインカムに入ってくる。雑音混ざりだ。

『こちら……、右のユニッ……が……している…』

「先輩、この雑音…、M粒子でもばら撒かれたみたいですよ!?」

「ちぃ。野郎共、『もういやがる』のか!?」

酷い雑音混ざりの通信。この時期には本来はもっとクリアな通信が可能になっているはずなので、ティターンズの存在を疑う二人。そして、上昇限度いっぱいまで上昇してみると、あり得ないはずの巨大なモノが飛行機雲をたなびかせて更に上空を飛んでいた。

「あ、あれはガルダ級!?」

「馬鹿な、あれを滑走させられる飛行場は限られているはずだぞ!?いや、水面が有れば良いのか」

二人の上昇限度である高度10000mよりも遥かに上空を悠然と飛行するガルダ級。この時代のレーダーや探知魔法の探知上限を超える高度を余裕で飛行するその勇姿。巨大なはずだが、この時点では誰も気づいていない。この二人を覗いては。

「高度20000近くを飛んでるな。あれじゃ、この時代の連中は気づかねぇはずだ。あの中にゃ数十機もMS入ってるんだろうな」

「この音の正体も気づかないんでしょうね。あと数年くらい」

「気づいた時には終わりだ。この世界の秩序は壊される。まずは野郎共の手でな」

「ですね。ジェット機って、もうカールスラントでは開発され始めてますよね」

「原始的なターボジェットだがな。燃料消費効率も悪いから、嫌われてるんだよな、メッサーは」

「はーん、その認識でVFを見てたのかな?ミーナ」

「だな。あれは弾薬以外は補給の心配あまりねぇんだがな」

「前史の作戦の時はアレでしたからね。赤っ恥かきましたからね、あの子」

「今回は事前に手を打っとくしかねーな。坂本の連絡先分かってるか?」

「ええ。あいつらが本格的に動き出すのにはあと数年の時間があります。それまでに……」

「ああ。記憶の封印がかかる前にばら撒いておいた種を収穫する時が来るな。智子と綾香の覚醒を待って実行しろ。ウィッチがMSやVFの飛び交う戦場で生き残るためには、同じ土俵に立つしか方法はねぇしな」

二人が計画しているのは、『今回』におけるウィッチの身の振り方の是非である。自分達はパイロットも兼任すれば済むが、他はそうではない。それをどうすべきか。

「某光の巨人よろしく、MATでも作らせます?」

「それだ!!日本には前史で手を焼かされてるんだ、こっち側に引き込もう。前の時に重慶を吹き飛ばされたお礼だよ」

圭子はこの時に思いついた案を黒江の覚醒を待って実行し、日本と扶桑が国交を結び、しばらくたった頃に『日本連邦』の案を提案する。圭子は連邦化交渉に深く関わったため、鳩山ユキヲが政権の座にあった時期、鳩山一郎に『孫にどういう教育しやがったんだ、アンタの倅は!』と八つ当たり起こし、一郎も『不肖の孫ですまない』と詫びたという。

「ん?お前、それ。あの時に綾香が作ってた斬艦刀じゃ?」

「先輩から預かってるんです。なんで、今回はあたしも斬艦刀使いですよ」

「お前、二天一流と示現流でも極めたのかよ」

「記憶の封印も緩かったんで、そこはすんなり」

黒江は記憶が封印される前、相方である黒田へ愛用の斬艦刀を託しており、黒田が今回、ジャイアントキリング属性を持つことになったのは、斬艦刀を使っているからで、その斬艦刀はハインリーケの中の『アルトリア』の覚醒を促す事になる。今回、アフリカにまで黒田の武勇が轟いていた理由は、『黒江綾香の後継者』と目されたからでもある。もっとも、当人が数年後にはカムバックするのを待っている状態なので、黒田にはその意識はまったくない。

「マルセイユさんの無電は?」

「M粒子のせいで殆ど聞こえねぇ。だが、切羽詰まってきてる。急ぐぞ!」

『れか……か……ないのか!?応答……くれ!!こち……!』

マルセイユはパニックに陥っているようだった。二人が辛うじて視認できるようになったタイミングで、マルセイユに眠っていた才能、つまりはNT能力が覚醒したらしく、感応波を発した。

『誰か気づいてくれ!!』

『落ち着け!あたしだ!何があった!?」

感応波に感応波で返す圭子。Gウィッチの為せる業である。

『ケ、ケイ!って、私、テレパシーで!?』

『つべこべ言ってる場合か!状況を報告しろ!何があった?』

転生前と同じような(ただし、圭子が粗野な台詞回しなので、マルセイユは戸惑っているが)流れで会話していく内に、マルセイユのストライカーが爆発し、落ちていくマルセイユが祈った事で、使い魔が最後の力でマルセイユを救い、消える。使い魔が消えた事で、マルセイユは一時的に力を喪失する。その前に着陸する二人。

「ケイ……この子の墓を作ってもいいか?」

「その前に、やんなきゃいけねぇ事が出来たようだ」

「り、陸戦怪異!」

「さて、行くぞー、邦佳。久しぶりに暴れてやるか」

「ええ。この斬艦刀の錆にするのがわんさか。わーい!」

「いやいやいや!?お前ら空戦ウィッチだろ!?それ以前に、そいつ誰だよ!」

流石のマルセイユも二人のおかしさと、黒田の存在に突っ込む。圭子と同じ服装なので、扶桑のウィッチなのは判別ついたようだが。

「ほれ、自衛用に銃持ってろ。あたしはこれで行く」

「は、ハルバード!?」

ハルバードらしき得物を片腕で構える圭子。

「一つ言っとくぜ?ウィッチとか関係ない、アタシらは戦士だからな!」

「一人当たり、30体ですよ先輩」

「ハッ、金鵄勲章の等級上がるじゃねぇか。あん時に高位のを貰ったの綾香と智子だけだしな」

不敵な笑みを浮かべる圭子と黒田。二人は事変当時の力を完全に取り戻した状態で、その力を奮った。圭子はトマホークランサーをぶん回し、黒田は斬艦刀を自分の体の一部のように扱い、斬っていく。しかも、斬撃武器の一撃で強化されつつある怪異を外殻ごとコアを一刀両断しまくる。当時のマルセイユにはこの世のものとは思えない、信じがたい光景である。

「なんだ、アイツら!?早すぎて下手に援護射撃も出来ないじゃないか!!」

「扶桑海七勇士は伊達じゃないぜ!!つおりゃあ!!」

大物を真っ向から両断する圭子。その姿はまさしく、『今回』における『扶桑の狂気』、『第一戦隊の悪童』との渾名を持つ戦士そのものだ。ライーサの通報で、パットン子飼いのパットンガールズ、シャーロット、マイルズと言った専門の陸戦ウィッチ達が駆けつけて最初に見たのは、怪異にとってトラウマレベルの恐ろしい光景だった。

「な、何……これ……」

マイルズは目が点になっていた。怪異が悲鳴を上げる。コアを引き出され、もがき苦しんでおり、それを圭子がすごくドSな笑顔で握り潰す光景を目にしたからだ。怪異は本能的に危険と察した二人へ攻撃を集中するが、二人は意に介さずに蹴散らしまくる。

『斬艦刀・雷光斬りぃ〜!』

黒田が怪異をバラバラに切り裂き、粉砕する。

『あらよっと!』

ベレッタを空いている方の腕で持って撃ち、コアを撃ち抜く。二人は天下無双と言っていいレベルで暴れまくる。

「ふう。先輩、年寄りの冷や水はやめてくださいよ?」

「バッキャロー。あたしは肉体的には、あん時のままだ。ババア扱いすんな」

当時は事変から時が経っていた故、その光景が現実のものという事に実感がないウィッチ一同。だが、無線で状況を聞いていたモントゴメリーは事の重大さを悟り、マイルズへこう言った。

『その光景こそ、かの高名な7人の扶桑ウィッチ……『七勇士』だよ、少佐』

と。

『七勇士!?』

『事変の当時に名を馳せた、万能の才能を発揮し、戦局さえも変えた戦士達を指す言葉だ。時間が経ち、風化しつつあったがな。ケイはその中の一人。『悪童』、『電光』、『戦闘狂』。彼女のこちらにいる時の人格は猫かぶりに過ぎん』

『あちゃー、バレてたか』

『当たり前だ。私は君の国との同盟国の軍人、それも将官だ。機密情報のアクセス権もあるのでな』

『モンティ、知ったからには協力してもらうぜ?色々とな』

『紅茶をおごってもらえるのならね』

『浴びるほどな。ちゃっかりしてやがる。真美に用意させとくよ』

呆れる圭子。陸戦ウィッチそっちのけで大活躍であり、ティーガーでも撃ち抜くのが難しい大型怪異の外殻を貫くランサー。そのままサイズにして切り裂く。モーフィングで変形するので、シャーロットが驚いたほどだ。

「雑魚共、道を開けろ!ケイ様のお通りだ!」

斬撃、突き、振り下ろし。トマホークランサーのあらゆる動作と、身のこなしで怪異を蹴散らす圭子。正に狂戦士の如き狂気を纏っている。そして、自分の担当の最後の一体を斬り裂くと、キメ台詞を言う。やってみたかった『馬鹿』という奴だ。

「失せろ、この世界からな」

コアを斬り裂く瞬間に残心を決めつつ、台詞をバシッと言う。その後、『誰だ狂戦士(バーサーカー)とか言うやつは!狂戦士が槍や斧や剣の使い分け出来るのかってんだ!』と逆ギレする。圭子のそれまでのキャラクターではないが、突き抜けているので、圭子のカリスマ性は却って向上したという。

『さあて、先輩から借りてる技だけど!!雲耀の速さまでいっけぇぇ!』

黒田は黒江と組んでいる内に、小宇宙に覚醒めたようで、仮面ライダーの全力のライダージャンプ並の高度にまで跳躍し、斬艦刀をそこから振り下ろす。黒江の得意技を継承したその技こそ。

『チェストォォォォ!!』

人間業とは思えない高度からの落下の勢いを利用し、示現流特有の全力の一撃を食らわす『斬艦刀・雲耀の太刀』。黒江がドラえもん世界のとあるゲームに着想を得て、ウィッチ向けにアレンジして使用。黒田も斬艦刀を預かる時に継承した。剣圧で大地が割れるほどの一撃である。

『この斬艦刀に断てぬものはない!!』

斬艦刀は黒田のものではないので、キメ台詞は変えており、剣鉄也が後にマジンエンペラーGのエンペラーソードで言うものを拝借、アレンジしている。正統派の武士然とした姿である。黒江に髪型が似ているので、ざわめきが起こるが、袴が華族のそれであるので、すぐに収まる。

「先輩、また間違えられましたぁ」

「我慢しろ。お前ら髪型が被ってるからだよ。違うの、髪の分け方が反対になってるかくらいじゃねぇか」

「使い魔も同じ犬系ですしねぇ…」

落ち込む黒田だが、後に、それは黒江が頻繁に容姿を変える事で、一応の解決を見る。黒江はなのはの面倒を見る内にツインテールに目覚めたのか、使い分ける容姿がツインテール系の人物が多いことになる。


――この一戦の後、圭子はレヴィのキャラをカミングアウトし、以後はそのキャラを主体にして過ごし、44年を迎えていく。黒田も黒江が覚醒したタイミングで未来に行き、以後は以前同様、黒江に仕える事になる。この戦功で二人は以前より高位の金鵄勲章を授与され、黒田の異動まで、アフリカ戦線でコンビとして活躍を続ける。黒田は黒江との再会時に斬艦刀を返却するが、もう一振りを黒江が生成し、正式に与えられる事になる。この事が、後々に501に異動時、ミーナが圭子に敬意を払う理由に繋がるので、黒田は未来を良い方向に変えた事になる。『扶桑海七勇士、未だ健在なり』。この事は当時にリバウにいた坂本とラルのところにも伝わった。

「ラル、見たか?ケイと黒田、暴れたらしいな」

「ああ、見た。これで閣下の懸念は幾分、和らぐだろう。ミーナへのな。下原だが、今回も貰っておくぞ。宮藤を得るフラグだしな」

「ああ、構わんよ。どうせ45年には同じ釜の飯を食うんだから」

「そうだな。そうだ、金剛達に会ってきた。今回もよろしく言っておいたぞ」

「あいつらには世話になるしな」

「黒江と穴拭は44年待ちだからな。それが面倒いが、あいつらに苦労させる分、お膳立てはしておかんとな、坂本」

「ああ、現役時代の心残りは今のうちに晴らしておくよ」

坂本は前史での心残りである、64機撃墜をリバウ時代の内に達成したいらしく、急いでいるようだった。現役としてのキャリアの絶頂期がもうじき終わるからだろう。当時の坂本はほぼ17歳。ウィッチとしては脂が乗っている時期だ。個人的に円満な引退を迎えるには、前史で成し得なかった、『絶頂期に60機撃墜』を達成しなければならないからだ。

「焦るな。まだお前は17になってない。普通に行けば、あと2年は絶頂期の力を保てる事になる」

「分かっているが、ミーナの案は1943年度中に通る。そうなると遅いんだ」

「前の私のように病院で唸る羽目になっても、無意味だ。まだ宮藤はいないんだぞ?」

「そうだったな……」

「竹井には、私から話す。西沢には話しておいた」

「……すまん」

坂本は迫り来る、501招聘へのタイムリミットに焦りを見せる。それはGウィッチながら、現役を退く道を決めている彼女特有の苦悩だった。その事の焦りは43年の春に無事に目標を達成した事で消える。最後の心残りである、リバウ撤退戦には、金剛と榛名の入れ知恵で、今回は招聘への返事を『病気』を理由に遅らせてまで参戦し、金剛達と共に戦ったという。これは前史で、娘に言われた事が坂本のみならず、間接的に黒江の心にも深い傷を残したことの反省で、今回は『自分たちは必死だった』という証明をはっきり残し、黒江の傷を多少なりとも和らげたという。黒江が自分の娘を嫌った原因は少女期の貶しの一言が、黒江の逆鱗に触れたからだと理解しており、自身の死後も北郷家に深い傷を残した事、黒江も自分との友情のために、娘に冷徹になっていた事に心を痛めていた坂本は、黒田の記憶だよりだが、ある『ベルカ式』の魔法の存在を聞いて、和弓の練習に明け暮れている。黒江の精神的な苦しみを和らげたい。それが原動力だった。それと、坂本は知っている。そろそろ零式も時代遅れの機体に入り始める事を。

「今回は烈風をどうにかして使いたいが、無理だろうなぁ」

「ああ、それは無理だろ?東南海大地震が控えてるし、それに備えての南洋への施設移転もある。しかも宮菱も烈風の開発は乗り気だが、軍部は紫電改を生み出す事を急いでる。ジェットも控えてるから、前史と似た流れになるだろうな、どの道」

「まぁ、それはそうだろう。雷電と紫電改が持て囃され、烈風が冷遇は聞き捨てならんが、向こうでは完全に出遅れた戦闘機だし、性能水準が遅れてたし、割り切ったよ、そこは」

烈風。零式の後継の本命として、この時期から宮藤博士の遺した設計を元に作り上げている次世代機だが、日本で過去に試作されていた戦闘機がそうであったように、載せられた誉エンジンが、不幸にも出来が悪い個体(鋳造が型崩れを起こしている町工場で製造された個体)であった事から、機体の真価を発揮する事叶わず、自社製エンジンに載せ替えて所定の性能を発揮した頃には、紫電改の配備と改善が進められ、性能水準が烈風の一歩先を行くようになっていた事、高速でのロール性能が予定より鈍い事から、主力戦闘脚(戦闘機)になり得ないと判定される。結果として、第一世代戦闘爆撃機(脚)として生き永らえ、結果としては、紫電改よりも長命を保つ事になる。『逆ガル翼と、予定されていた後継機』な点は『F4U』と共通する。坂本は宮藤博士の遺した最後の作品という事で、前史では執着していたが、今回は烈風の使用者達の証言の記憶から、最後に使用してみたい程度の認識に留まっている。

「仕方がない。最初からハ43があれば良かったが、あれは既存の誉エンジンとはマッチングが元から悪かったんだ。ジェット機が登場してくる時代には、どんなレシプロ機も徒花だよ」

ラルは、当時に試作中の機体も、数年後には試作中に時代遅れとなってしまう個体が続出する運命である事から断言した。烈風や震電は『普通の文明進歩スピード』ならば、1950年代まで一線機と見なされていただろうが、連邦/ティターンズが技術加速を促し、47年前後に『F-8』戦闘機や『F-4EJ改』戦闘機が飛び始めるのは確実である。ジェット機乗りの黒江がそれを促すのを担う事を考えると、皮肉なものとも言える。

「黒江の奴がそれの一端を担うんだよなー。あいつはジェット乗りだし、仕方がないのか?」

「あの方は自衛隊でF-15やF-2に乗っている。それを考えれば仕方がないさ。連邦ではAVFや24系に乗ってもいる。彼女はキ100でレシプロは打ち止めにするしな」

「まあ、お前も超電磁砲撃てるものな、ラル」

「フッ。まぁな」

ラルは、ファーストネームのグンドュラと呼ばれる事はほぼない。未来世界でも、偶然にも、同性であったジオンのエースパイロット『ランバ・ラル』の影響で、『ラル少佐』などと呼ばれているので、今回はその呼び方をリバウ駐在時から通している。また、転生に当たり、前史で御坂美琴と同調した精神状態であったので、現在でも御坂美琴の持つ超能力を使えるという事になる。

「その気になれば、キャラを美琴に出来るが、それだとミーナが泡吹くからな。やっていないよ」

「声のトーンを変えれば、美琴そのままだしな、お前。あれしたら後輩に人気は出るが、ミーナの頭にハゲが出来るからな。やめといた方が賢明だ」

「唯でさえ、数年後には、あのお三方と出会うからな。アイツは前史だと、お前を三方に盗られたと思って、スロットル全開で暴走していたからな。お前、責任を持って処理しろよ」

「分かっている。ああ、ミーナと誰かが同調してくれないかねぇ」

坂本も前史でのミーナの独走ぶりは手を焼かされたためか、40年代前半の時点でそのような願望を抱いていた。百合願望は坂本には微塵もないからだ。また、今回は自分の孫娘と、親友の黒江のために『生』を捧げていく事を決めているので、ミーナとの関係は、この時点では前史よりは距離を置いている。その代わりに、Gである関係でラルと懇意であり、下原を宮藤とバーターでラルに渡す事は、今回においては『既定路線』である。

「確かにな。あいつは恋人を失った事が、お前への愛情に転化してしまっていた。あいつは戦後にシングルマザーになったが、あいつはお前のことを、な」

「やめろ、鳥肌立ってくる。私にそういう趣味ないぞ」

「仕方がないだろう?おかげで前史では、あいつに百合の風評がつきまとった。アイツは30年代の内にクルトを失っている。それがアイツの戦う理由だし、こればかりはどうにもできん。お前、今回は手綱引いてくれよ?」

ラルはミーナが恋人を失った反動で百合になってしまったことに関連し、坂本に釘を刺す。坂本は竹井に協力を仰ぎ、それには成功するが、今度は若手がレイブンズに反抗する問題が起き、どの道、彼女らの苦労は変わらなかったりする。特に、査問が短期間に二度(一度目は若手の反発、二度目は、黒江達とミーナとの整備兵とのディスカッションの認識の違いの口論を聞いた若い整備兵が良かれと思って、法務へ通報した)行われる事となるのは、ミーナの人事評価に悪影響を与えてしまう。これは過去のトラウマ(クルトが整備兵だった事によるもの)に起因するものなので、流石のGウィッチでもどうにも出来ない。それが表面化したのは、今回でのダイ・アナザー・デイ作戦の直前であり、ミーナは若手のレイブンズへの反発と、整備兵への扱いの悪さが災いし、経歴に傷がつくを避けるため、ラルやハルトマンの手引きで、未来世界留学をさせられることになる。

「問題はそればかりでもないぞ、ラル。レイブンズへの若い連中の反発や、整備兵の扱い。ミーナには整備の扱いを注意はしているんだが、嫌な顔されてな……」

「お前でも駄目か。『整備員は神様、機嫌ひとつでバチを当てて(整備不良にして)くる』とか呪文みたいに唱えたら、サブミナル効果で刷り込めるかも知れん。私が押さえ込めるのも限界がある。いざとなったら『整備員に常日頃から感謝を捧げて置かないと、アイツ気に入らないから飛行中にトラブル起こすように細工してやる、とか思われたらたまらんしな』とか、整備員の目の前で言え。日本の過去では、それで死んだ者が多いとか聞くからな…。あいつのことはこうすることでしか守れんしな」

「だよな。あいつは面倒いんだよ、そういうトラウマ。黒江のほうがまだはっきりしている」

「あの方は単純に『戦う場がないと、平静を保てない』トラウマだから可愛いもんだ。ミーナのような『こじらせた』のが厄介なんだ」

「伯爵でもけしかけるしかないか?」

「禁じ手だが、あいつを救うためだ。この際、普通の倫理観はポイしてもらおう」

色々と対策を考えていく二人。42年の段階から対策を練っていくが、新しい問題への対処にも追われ、結局はミーナを留学させるしか選択肢が無くなってしまう。この時に『打ち合わせ』しておいたため、合併時のトラブルが軽微だったのだ。506は黒田が手を回し、その後はアルトリア(ハインリーケ)もド・ゴールを脅す側となった。

「――って感じだったってさ」

「あいつら、色々考えてたんだな。で、アルトリアの事はどうだったんだ?」

「あの子、色々と忙しかったらしいわよ。この二年でペリーヌの家と交流を公式に始めたわ。立場上、双方が天涯孤独だしね」

「まぁ、公にはそうなるな。ウィトゲンシュタイン家も都合のいいように一族郎党が殆ど死に絶えてくれたしな」

……という流れの話をし終える智子。黒江は途中で何度か欠伸をしている。圭子と違い、そこは下手である。

「長いんだよ。お前。もうちょい練習しろよなー」

黒江は若干、退屈そうだ。智子は圭子のように、説明上手とはいい難いためであるが、それを全部聞いているので、黒江も相当に忍耐があると言える。

「これでも省いてるところあるんだからねー!」」

「お前、作戦会議での段取り、ビューリングに丸なげしてただろ」

「そこまではしてないわよー!」

「で?どうなんだよ、アルトリアは」

「あの後、反響があったわ。物凄いね」


アルトリアはブリタニア開放からの戦間期に現界し、戦いで覚醒めたように取り繕うことにしていた。ダイ・アナザー・デイは格好の機会であり、改名も作戦時に公にしている。改名はアルトリアに『現代』での身分を与える大義名分のようなものだが、手続き上は戦間期に行われている。ハインリーケは元来、『性格に難』と看做される性格だったので、ブリタニアの戦艦進水式に現れた『アルトリア・H・P・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン』と同一人物である事が知らされたのは大きな反響があった。特に、ハインリーケの知られている人物像と、アルトリアの人物像とでは、かなりの乖離がある。ハインリーケはカリスマ性こそあるが、強調性は薄く、トラブルを起こすことが多い(協調性よりカリスマ性を優先した教育のせいでもあった)が、アルトリアはその逆に『律儀で丁寧(と、負けず嫌い)』で、高潔な騎士であるために反響が味方からも起こった。元・円卓の騎士であり、伝説の聖剣の正当な持ち主。味方の方が大きな反響を起こしたのはいうまでもなかった。作戦後、ウィトゲンシュタイン家をハインリーケから正式に『継承した』彼女は侯爵として振る舞いつつ、慈善活動にも精を出している。これは『前世』への反省でもあり、ペリーヌに影響されての事でもある。戦功で大佐となり、国家功労者となった『アルトリア』はカールスラント連合帝国(オストマルクとの連合)の軍人として生活するようになっており、実質的に自分一人のみの『ウィトゲンシュタイン家』を再興させんと考えていた。後に、クロステルマン家やシュナウファー家との相互の約定で互いに援助しあう事になるので、結果は『成功』である。(三家は結果として、色々な手段で以て、家を中興させた事になるので)

「まあ、ハインリーケを依代に、アーサー王が現界したものだし、ハインリーケを取り込んだって言っていいから、反響あるだろうさ」

「まあ、アルトリアもハインリーケの要素引き継いでるから、それには語弊があるわよ」

アルトリアはハインリーケの肉体を得たので、ハインリーケの要素も持つ。基本はアルトリアなので、多くはハインリーケは消えたと解釈するが、アルトリアもハインリーケの事は意識しており、時々であるが、ハインリーケを『演じている』。のび太の家にいった時にハインリーケの姿と口調であったのがその証明である。(作戦中の休憩時に、アルトリアとしての姿も見せている)また、ウルスラに、ハインリーケの姿でエクスカリバーを見せているので、アルトリアとして、カミングアウトした際の反応は意外と落ち着いていたとも言う。

「先輩達〜」

「お、黒田か。なんだ」

「上からの通達です。目を通してください」

「分かった。持って来い」

ドアを開けて、黒田を入れる。通達を持ってくる。内容は。

「うーむ。この間、魔眼隊も増設したろ?あと一個増設しろとのご達しだって?」

「ウチ、軍ウィッチの生き残りを託されてるみたいで、どんどん候補者のリスト送って来てんのよ」

「マジかよ!?」

64Fは加速度的に大所帯となっている。既にラー・カイラム級機動戦艦とペガサス級強襲揚陸艦を同時に運用しても余りある人数だ。これは艦を動かすための要員やMSなどの整備メカニックやエンジニアも含めているためでもある。これはジオンのキマイラ隊にも見られた例でもあり、『特別編成航空隊』という位置づけであった。また、指揮官先頭の伝統がある扶桑軍の慣習により、指揮資格のあるものが前線で戦う事が多い事から、MSなどは増加装甲装備が多い。

「どうも、他国でもMATに移籍希望が多くて、軍内にウィッチを置いとく意義が問われてるんですって。だから、ウチで戦果立てて、儀礼目的でもいいから編成に残そうとしてるのよね」

「ウチは働くママの託児所か?」

「今回は近接攻撃得意な連中をリストアップしておいたから、『魔刃隊』とでも名付けましょう。うちは軍ウィッチの希望の星らしいから」

「この基地が戦略爆撃機用として工事されてて良かったぜ。隊舎はまだ余ってるしな」

「新たに配属されるのは、古参の20人ほどよ。員数外扱いだけど、あたし達の好きに使えるから、そこはラッキーよ」

64Fは『員数外』になる隊員のほうが所属人員よりも多くなりつつあった。これは各国が義勇兵の隠れ蓑として利用しているからで、扶桑も戸惑っている。特に。、カールスラントはトップエースを送り込んで来ているので、無下にも出来ない。これが員数外の中隊増設の理由だ。それがどんどん膨れ上がり、この時点では中隊が更に増えている。参戦していない国々のウィッチが参戦するための裏技扱いだが、とにかくも、黒江達が楽しているのは、そのおかげだ。武子はこの三つを『増強航空団』と名付け、部隊の定数以上の人員を配属させるつもりである。

「だよな。こっちは生きのいいのを他国から釣れるし、向こうもウィッチ隊の維持予算が確保できる。まさにウィンウィンの関係だな」

「あんた、釣りじゃないんだから。まっ、実際にそんな感じだけど」

「そうですよ。MATが出来てから、軍ウィッチは肩身狭いんですから」

「分かってる事だろ、今の状況は流行性ネコシャクシビールスみたいな一時的なもんだろ。第二次事変が起きてみろ。今度はあっちが問題になる」

流行性ネコシャクシビールス。ドラえもんの持つ道具である。好みの流行りを一日から二日程度の期間、好きに流行らすもので、元は社会実験用に作ったと思われるビールスである。それを例えに出す。MATは第二次扶桑海事変が起きると、組織が日本の都合に縛られる問題が起きる事になる。

「間違いなく、日本の野党がMATをうちらの都合で動かせないように法案出しまくるだろう。それがMATの痛いところだ」

「あいつらなら、他人事みたいに言いそうですもんね」

「今の時点でそうだろ?内局も当事者意識が欠けてるし…。MATが自由に動けるのは今の内だ。日本の野党が巻き返そうとしてくるから、MATを攻撃材料にするのは目に見えてる。こっちの軍で失敗したから、今度は内部の異分子を排除しようとするだろう」

「やれやれ。あいつらは何考えてるのかしら」

「文民統制の解釈をあいつらは履き違ってるのさ。文官優位が戦後の日本のシビリアンコントロールだと思ってる。21世紀から薄まって来たが、20世紀後期は酷いもんだったって聞いてる。日本連邦軍と違って、MATは自衛隊の一部門だ。あいつらの手出しも有効だから、今度はMATが標的にされるさ」

黒江は自衛隊員でもあるため、MATの問題点を突く。扶桑が平時に戻れば、日本の野党がMATを扶桑の都合で出動させている事を騒ぐのは目に見えている。そのため、MATの事で将来的に円滑に事を運ぶための協定を結ぶべきだと、黒江は考えている。日本は協定や条約、法律を必要以上に信仰する傾向が強かった国だ。それは地球連邦政府の樹立の際にも発揮されている。そこを利用すべきだとも言う。黒江はタッチしていないので、知らないが、芳佳(杏)のアイデアでMATの設立主意書に 『日本連邦の国権の及ぶ範囲、連邦国家国民及びその財産の保護に於いて、怪異(ネウロイ等)の駆除を目的として設立するものとする』の一文が入れられていたので、日本政府の都合で出動の取り止めが効かない様になっている。それを芳佳から知らされたのは、この日から数日後の事である。政治的立ち回りでは、芳佳/杏が上手であった。

「先輩、ここぞとばかりに言いますねぇ」

「自衛隊員としては言えない事項だしな。日本には、武子が事変で上位者を率いた事を『文民統制の観点から糾弾する』と言い出す連中までいるからな。あれは有事の超法規的措置だったんであって、皇族の緊急権だっての」

国家緊急権にも無知なものが多い日本では、扶桑の過去の事例を扶桑叩きの材料にするほど、粗探しに躍起になる者も多い。黒江は日本の左派メデイアに呆れ返っているのが分かるが、それは自らの体験に基づく発言であるので、切実である。

「あれさ、お上の直接命令だが、書類上は内親王殿下が名代になってるんだぜ。文民統制の究極だっての。23世紀から見ても、21世紀序盤の日本は平和ボケが多数派だって揶揄されてるしな。ああ、馬鹿らしいぜ」

「溜まってますねぇ」

「訴訟抱えてたしな。あの数年は死ぬかと思った。だけど、いざという時の切り札は取っておくもんだ」

「グレートマジンガーの量産型を確保しておく事がですか?」

「いざとなれば、鉄也さん呼んで、エンペラーを動かしてもらうさ。量産型グレートはあくまで、『保険』だよ」

グレートマジンガーは名機だが、今の時代(デザリアム戦役後)では、スーパーロボットとしての力不足感は否めないため、量産型グレートは『保険』だと述べる黒江。グレートマジンガーは特別に体が頑丈な者しか乗れない(スーパーロボットはMSやVF以上に『体の頑健さが求められる)ため、必然的に黒江達が乗ることになるが、グレートマジンガーを必要とする状況はかなりのピンチであるからだが、黒江はその時のための保険と、量産型グレートを位置づけている。実際、マジンガー系列のスーパーロボットは世界のピンチでその力を奮う事が多く、グレートマジンカイザーも、力を調の故郷の世界を救うために奮った。その事から、調は剣鉄也に恩義を感じている。(その事も、自分の世界に留まるのを選ばなかった理由の一つだ)

「近いうちに、あの『パニック』もある。そうすれば、今回は調の世界と極めて近くて、極めて遠い世界とも縁を持つ事になる。その場合のことも考えておかないとな」

「あの子の同位体が来ると?」

「確実に来る。そういう時の対策も考えておけよ」

「先輩、そうしたら共闘できますかね」

「一戦はあり得る。特に事情を知らない切歌あたりが来てみろ。どっちがどっちだか混乱して、パニック起こされるぞ」

「先輩、切歌のこと、警戒してません?」

「あいつにゃ面倒をかけられたしな、一年も面倒見る羽目になったしよ」

黒江は自身が切歌を狂気に陥らせるのを担っていた自覚があるらしく、苦手であるらしい節を覗かせた。また、狂気に陥った彼女を精神病院に入れたくない(黒江は入れたほうがいいとしたが、二人が強く願った)マリアや響の願いで、一年は本当に調を演じたため、黒江は切歌を苦手としている。(切歌が狂気から目覚めた後も、敢えてそれを装い続けていたこともあるが…)切歌はそばに居てくれるだけでも安心感を得られていたが、黒江としては不本意である上、自分で立ち直らせるのがいいとする考えを持っていたのを説き伏せられた(響がダメ押しに迫った)ため、なんとも言えない日々だった。(響はその代価に、ダイ・アナザー・デイ作戦やデザリアム戦役への従軍に応じているが)

「やり合うのは避けたいですねぇ」

「相手次第だ。響、あるいは調の同位体なら穏便に行けるが、翼はストイックすぎてな」

「あの子、確かフェイトがアニメで見て、真似しだしたんですよね」

「そうだ。天羽々斬を送ったのもそれだよ。それと私の倅の名前の元ネタだよ」

「それ、あたし達の知ってる、あの子に言いました?」

「いや、まだだ。理由が『アニメのお前の音楽聞いて、大姪に名前つけた』なんて言ってみろ。あいつ、恥ずかしさで憤死しそうだ」

黒江は、自身の義娘になる大姪の名を決める時に『風鳴翼の音楽を聞いていた』という事を、その彼女に言っていない事を明らかにする。

「逆に喜ぶかもしれませんよ?あの子、先輩の太刀筋に憧れてますし」

「まぁ、前史でも『悩んでもしゃんめぇ、良い名前じゃねーか』って決めたし、今回は名付けの元ネタの当人とも交流がある。今度に倅が来たら、紹介するかな」

黒江は娘の事は時々、『倅』と称する。家が武家だった名残りであり、父親の真似事からの流れで使っている。それを後で聞いた黒江の父と長兄は、若き日の自分たちのやり取りを幼少期の綾香が見ていた事を悟り、苦笑いしたという。

「でも、先輩。娘さんのことをそう?」

「普段は名前で呼んでるし、あいつがガキンチョだった90年代は『つば坊』って呼んでた。養子縁組したのは、あいつが10代後半になってからで、一族の中のあいつの代の候補者を選ぶ仕合の結果だしな、一応」

「智子先輩んとこはストレートでしたよね?」

「ああ、麗子は一人っ子よ。姪の町子が結婚したの遅めだし、ケイのとこも養子縁組よ」

「おい、今回は折角だ、ハルカとやっちゃえよ」

「なっ!な、な、何いってんのよ、あんた!」

「だって、今回は神だし、誰とでも子孫残せるぞ?」

「だ、だからって、なんであの子なのよ!?」

「子供作れば、そいつに構うだろうし」

「そうか、そうね!50年代にやってみるか!」

「それに、麗子、聖闘士継ぎそうにねーし、聖闘士の後継はそっちから出せばいいんじゃね?」

黒江はストレートに山羊座を継がせたが、智子より軽薄な性格(頭は回るが、性質が祖母に似た遊び人)の麗子は聖闘士を継ぐのを嫌がっているというのを聞いていたためだ。

「それしかないか。素質はあるんだけどなぁ、麗子」

「アクエリアス向きの性格じゃねぇよ、あのガキは」

「ハルカに子産ませて、その子か孫に継承させようかしら、アクエリアス」

「氷河がいずれ纏うから、その後だな、多分」


遠大な計画だが、智子のウィッチとしての後継である穴拭麗子には、性格面で聖闘士としては問題がある(素養はある)ため、智子がプライドや過去をかなぐり捨ててでも、聖闘士の後継を作る必要があるからだ。聖闘士は親子で同じ星座になる事も多く、綾香とその子の翼はその関係で同じ星座を継いでいる。その線は麗子が継げば問題なかったが、麗子が嫌がっているのが問題であった。智子がハルカとの間の子の家系を分家として築くのを決意したのは、聖闘士としての事情を鑑みての事だった。神であるので、肉体の問題はないが、倫理観的には危ない一線の絵面で、十八禁ものだ。智子はその後も戦後まで悩んだ末、ハルカに子を産ませ、その更に子の代、ちょうど黒江翼と同世代の頃に、二代続けて戦死したアルデバランの衣鉢を受け継ぐ『牡牛座の黄金聖闘士』として登場し、麗子が行かなかった『聖闘士の道を歩む』事になる。



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