外伝2『太平洋戦争編』
九十六話『待っていたぜ、デビルマシン』


――マジンカイザーの存在は1948年にはシンフォギア世界の者達にも開示されていた。そのため、最も初期からやって来ていた調Bと翼Bは解説を担うことが当たり前となっている。Aが戦っていたり、世界間の折衝に忙しい翼と調はいの一番に転移してきた事もあり、後発組へ事情説明を行う役を仰せつかっていた。

「つまり、聖遺物だろーが、神様だろーが超える力を持つロボットだぁ?いくらなんでもオカシイだろそれ!」

「それは事実だ。別の私達が遭遇した魔法少女事変での最終局面では、この兄弟機が投入されている。その力は人知を超えている。事の経緯を収めた映像を預かっているから、今から再生するぞ、雪音」

映像が再生される。A世界の翼と調が黒江の命でドラえもんの協力で編集したもので、カイザーの説明とシンフォギアA世界の事情説明を兼ねていた。調Aのナレーション付きだ。その中で、調と黒江の容姿が入れ替わり、互いに別世界で過ごす羽目になった事、黒江がその日暮らしの金を持つため、コスプレ喫茶でバイトを始める経緯が説明される。


――ギアへの適合係数が低かった私と違って、聖闘士の師匠には『シュルシャガナ』の展開時間の制限はなかった。その姿でコスプレ喫茶のバイトをするなんて思わなかったけど。そこからの移動の時に、マリアに見つかったけど、アトミックサンダーボルトで撃退してる。これは小手調べだったと思うけと、超光速の動きにマリアは当然ながら対応できるはずないよねぇ――


『悪いが、逃げさせてもらうぜ』

『お前は何者!?なぜ、調の姿をし、ギアを纏っているのだ!答えろぉ!』

『私に聞くなよ、ガキンチョ!こっちだってわからん!』

『わ、私は20歳だッ!』

『バーロー、こちとらな、年金世代なんだよ!……我が拳よ、正義の矢となり、悪を討て!』

マリアは自分が子供扱いされた事に怒ったけど、21世紀が10年を超える時点だと、師匠は『100に手の届く老婆』であるほうが自然なくらいのお年なんだよね。後で聞いたけど、この時に、目の前の『私』が『私』じゃないって確証を持ったそうな。私は『誰かの痛みを知らない人間が形だけの善意を振りかざす事に否定的』だったけど、師匠はは聖闘士だし、正義の味方そのものの『7人の仮面ライダー』を強く慕ってるし、『自分なりの正義を貫く』事を信条としてる。その差が示された。技の口上に正義という単語を入れている、光の矢を番えているような姿であったのが分かりやすい、当時の私と師匠の相違点だった。

『アトミック!サンダァァァボルトォォォ!』

多分、『光が広がり、自身を覆うように広がるように』しか認識出来なかったんじゃないかな……。アトミックサンダーボルトは光速拳を乱打する技だし、流星拳の究極系。それをモロに喰らう。ギア越しに食らったのが幸いして昏倒は免れたとか

「ま、待て……お前は何者だ……」

「オリンポス十二神を守りし闘士であり、魔女(ウィッチ)。そうとだけ言っておこう」

「お、オリンポス十二神……だと…?」

「さらばだ」

その瞬間、マリアには目の前の『私』が『黄金の甲冑を纏っている』ように見えたとか?師匠、吹きすぎ。私と声似てるから、マリアが目をパチクリさせてるし!!

ナレーションと映像でA世界の状況が説明される。調の嘆息交じりのナレーションと、黒江の圧倒的な強さのインパクトは絶大だった。更にその直後の時間軸に起こった翼との一戦。

「……ほう。これが天羽々斬、正確にはその破片ベースの刀か。ヒヨッコにしてはいい太刀筋だ」

「な……!?腕で天羽々斬を受けきったただと……!」

「ふふ、何を驚いている?。その刀が天羽々斬、か。ならば、私も見せよう!勝利を約定せし『聖剣』をな!」

「せ、聖剣だとぉ!?」

シュルシャガナを纏った状態で、黄金のオーラを身にまとい、その先が剣状になっているのを翼さんは目にした。更に風を巻き起こしていた。これがエクスカリバー。師匠が受け継ぎし山羊座の黄金聖闘士の奥義。

『勝利を約定せし『聖剣』!!エクスカリバァ――ッ!!』


その瞬間、移動本部の司令室で『エクスカリバーだとぉ!?』なんて叫びが木霊したとか。響さんとクリス先輩の絶叫が響く。師匠はは急所を外して、エクスカリバーを放った。手刀という名の衝撃波を。鎌鼬。そう呼ぶに相応しい衝撃波。その瞬間の目つきだけど、私の目つきじゃなくて、山羊座の聖闘士としての殺気に満ちた目と化していたらしくて、先輩達を畏怖させた。師匠はそのまま姿を消した。素の言葉づかいを見せて。自分が『月詠調』じゃない事を示すために。これ、翼さんが対抗心持っちゃって、後ですごく大変だったんだから。



エンペラーブレードを二刀流で構える黒江。ギアとは不釣り合いな武器である。(よく見てみると、ブレードの刃が立ち上がり、鋸のようになっている)翼は修羅場は潜ってきたが、自身に匹敵するような剣技の持ち主とは出会っていない。黒江はエンペラーブレードを『二天一流』の流れを組む構えで構え、そこから御庭番衆式に切り替えるという戦法で対応した。この時の出会いが後に、自分の義娘にして、大姪に翼と名付ける理由の一つであった。


その言葉が示すように、放浪していた時期の翼との第二戦が映しだされる。翼Bは苦笑いであるが、A曰く『人生で一、二番に未熟さを呪った戦』との言葉通りの映像であった。


「御庭番衆式小太刀二刀流『陰陽交叉』ッ!」

翼の天羽々斬の上段からの一撃をいなし、『陰陽交叉』を叩き込む。エンペラーブレードの峰の部分に、もう一本を垂直に叩き込む。翼はこれでギアを貫通され、負傷した。エンペラーブレードの鋭利さの証明となる威力だ。
「ぐあっ……!……お、御庭番衆だと!?」


「江戸時代の頃、幕府が太平の世で食い扶持を無くした忍びに仕事を与えていたが、かの徳川吉宗の時代に新設された役職というのは、歴史をかじってればわかるだろう?その中でいざという時の戦闘術として伝えられていて、維新後は失われた闘技さ」

「ムウン!」

師匠は御庭番衆式小太刀二刀流で、翼さんの太刀筋を防御していった。この戦法を編み出した『四乃森蒼紫』さんも言ってたけど、小太刀は防御面では太刀より小回りが効くので、使い手によっては、明治期のライフル弾をも防げるそうな。身軽なフットワークもあって、翼さんは翻弄されっぱなし。って、私のギア、そういう用途の形状じゃないんだけどなぁ。

「嘘だろ!?ばーちゃんはヒールで忍者みてぇな動きしてるのかよ」

「だそうです。詳しくは今、前線に出てる方の私に聞いてください、先輩」

「オカシイだろ!?お前のギアの脚部、可動部少ない構造だろ!?」

「やってやれない事はないんですけど、どうやって剣道のすり足とか、踏ん張りとかしてたんだろう?私もオカシイと思います、はい」

調Bからして、このコメントだ。



「ならばっ!」

飛び上がり、翼さんは『千ノ落涙』を発動する。大量の剣を具現化し、上空から落下させ広範囲を攻撃する技。だけど、同種の技を持つフェイトさんを弟子に持つ師匠は対抗策を練ってた。

「ほう。なら、こっちは……ライトニングファング!!」

剣を電撃の奔流で空中爆破して、その隙を突いて、獅子の大鎌を叩き込んだ。結構、このわ技覚えにくかったなあ。

『断て、獅子の大鎌!!ライトニングクラウン!!』

聖闘士としての闘技も披露していくスタイル。これらはギアとは関連がないから、映像を解析しても、その場にいても、『ただの手刀を鎌のように振るった』ようにしか見えないんだよね。しかも素で防壁ごとシンフォギアを斬れるし。

「そっちが数撃ちゃって考えなら、数の違いを見せてやる!」

「何!?」

「ハァッ!!」

その時、翼さんは、私に黄金の翼が生えたような錯覚に囚われたそうな。そして、光の矢を番えるようなポーズから大技を放った。射手座の最大奥義の一つ。その名も。

『無限破砕ッ!!』

無数の黄金の光矢が翼さんを貫く。その威力は加減してはいるけど、本気だと、太陽神の軍隊を一発で滅するほどの威力だそうな。翼さんはこの攻撃をモロに食らったわけだ。天羽々斬でとっさに防御したのが幸か不幸か、なんとかノックアウトは免れた。だけどズタボロ。吐血するほどのダメージを負ってた。だけど、まだ闘志は失っていなかった。両手に構えたアームドギアから火炎を放出、自身を青い火の鳥と化して突進する。『炎鳥極翔斬』だ。これあまり見たことないなぁ。それに対抗して、シグナムさんの『シュツルムファルケン』と、とあるゲームのスーパーロボットの技、それと鳳翼天翔をヒントにして、矢から鳳凰を放ったんだよね。後でこれの説明、冷や汗かいたなぁ。私も原理説明できないし。『向こうが集団の数ならこちらは手数でいくぜ!』的理論なんだよなー。

『不死鳥は炎の中から蘇るって、相場が決まってるんだよ!!フェニックスバァ――スト!!』

矢が光の鳳凰となる。翼は炎鳥極翔斬で押し切ろうとするが、フェニックスバーストのエネルギー量はそれを上回った。青い炎は赤い炎に侵食され……。双方のエネルギーの相乗効果で大爆発が起こった。


――これ、大事件になりそうなのどうやってもみ消したんだろう?それと、翼さん。今でも愚痴るのやめてくださいよ。尽く上をいかれたからって。子供ですか、貴方――

ナレーションで調Aが愚痴るので、翼Bは赤面する。よほどAは悔しかったらしい。

「ば……かな……全ての技をどうけいとうで……」

爆発をなんとか生き延びた翼であったが、重傷を負っていた。相当な深手であった。意識が混濁し、次に翼さんが目覚めたのは、ベットの上だったって。

「テメェ、よくもセンパイを!」

ここで、やっと追いついたクリス先輩が激昂して、自慢の重火器を向ける。切ちゃんも追いつき、黒江は二人に挟まれるが、先程の流れからか、銃を持つクリス先輩の腕がかすかに震えてた。クリス先輩は意を決し、イチイバルをガトリング砲で放つが、光速の領域にいる師匠は、その場から動かずに回避する。

「鉄砲なんざ当たらねぇよ?」

師匠は先輩のアームドギアが変形した4門の3連ガトリング砲からの一斉掃射を、その場から動かずに防御と回避を同時に行う。ガトリング砲の弾丸は光速の目から見れば止まってるも同然で、宇宙刑事ギャバンよろしく、手の平で弾丸を受け止める。先輩はすぐに腰部アーマーを展開し、追尾式小型ミサイルを一斉掃射するけど、ライトニングクラインの衝撃波で迎撃されるんだよね。

「よう、なに撃ってんだ?」

「な!?」

先輩の肩をポンポン叩きつつ、真後ろに立つ師匠。光速で回り込んだので、もちろん先輩は気が付かない。一瞬の出来事だ。

「そんな飛び道具なんざ、私には通用しないぜ?ガキンチョ」

「って!テメー、あたしより下に見えるんだけど!?」

「あいにく、本当は年金世代なもんでな。所謂、ロリババア枠って奴?」

かます師匠。私の姿と声で言うので、『失踪』でヒステリーを起こした切ちゃんが斬りかかってくる。切ちゃん、こんな思い込み激しかったっけ?まったく……。

「何者なんデス!?調の姿とギアだけど、お前は、お前は…調じゃないデス!調を返せぇ――ッ!」

「今は説明してやる暇はない。悪いが……!!」

エンペラーブレードを逆手に持ち、そこから超高速回転で六連撃をぶちかます。師匠が転生を挟んでの長年の修行で身につけた奥義の一つがこれ。切ちゃんはこれで自分に何が起こったかを理解する前に昏倒した。回天剣舞・六連、やるの難しいんだよねー。勢いつけすぎると、その場で回転しちゃうし。

「御庭番衆式小太刀二刀流奥義、回天剣舞・六連……!」

残心で決める師匠。今回は趣向を変えて、残心の際に言ってみた師匠。これ、小太刀の使い方難しいんだよね。

「……今、テメーに言ってもわからないから、立ち去る時に言わなかったのさ、お嬢ちゃん」

憐れむような顔を見せる師匠。切ちゃんが私に依存している事は記憶のフィードバックで改めて知ったから、同情したけど、大変だったんだなぁ。

「待て!テメーは誰だ!?こいつの言う奴じゃねーんなら、誰なんだよ!?」

「お前のひーばーちゃんくらいと同年代だよ、私はな」

師匠は1921年生まれ。先輩が日本で言うと、おおよそ平成中期頃の生まれだから、計算すれば、曾祖母と曾孫ほどの差があるってことになるなぁ。私とも同じくらいだけど、師匠、関東大震災の時には生まれてたから、普通に行くと、私達の時代に生きてるか怪しい年代の人なんだよね。

「おい、ちょっと待てよ!?そうなると、ありえねーぞ!?あたしのひーばーちゃんくらいなら、80、いや、90超えのババアじゃないとおかしーぞ!?」

「なんせ魔女だからな。関東大震災の二年くらい前の生まれだから、もうすぐ100に手が届くぜ〜」

「ん!?えーと、関東大震災って何年だっけ?」

「アホ、1923年だ」

「しょーがないだろ!あたしはまともに学校に行けなかったんだから!その年代なら、あんたも似たようなもんだろー!」

「お生憎様、陸士卒だもんねー」

「あんた、昔は日本軍の軍人だったのかよ!?」

「うん、まぁ、そういうことだ」

師匠は1920年代前半生まれの人間、それも女子としては、破格の高学歴保有者。ウィッチ枠で入ったとは言え、陸軍航空士官学校は相当に難関。師匠が入った頃はまだ平時の教育課程だっただから、真美さんたちと比べると、かなり厳格な選抜過程だったそうな。航空士官学校になったかなり初期の入校とかで、陸士の本科と違って、隊付服務経験は無くて、事変の時の1Fが初めてで、そこで戦時のの戦功で出世した。『戦時にグンと出世するタイプ』なんだよね。平時だと持て余されるタイプだけど。(そう言えば、智子さんは前史での生え抜き士官学校卒→陸軍少年飛行兵制度へ応募で見事合格、下士官で入隊→後に士官学校へ入校って風に、前史と大幅に学歴が変化したから、入隊そのものは師匠と同時期になったとか?)

「ほんじゃな。ガキンチョ」

「あたしは17歳だっつーの!」

「すまん、どう見ても13、4にしか」

「その姿のアンタには言われたくねーし!つか、こいつどうするんだよ」

「そのうち、そいつの味方が回収しに来んだろ?お前も先輩を連れて、とっとっと帰んな。深手負わせてるから、治療せんといかんぞ」

「…わかってるよ!一つ、いいか?どうしてトドメを?アンタの実力なら……」

「職業柄、って奴かな?私はプロの軍人だから、こういう時は殺さないようにしてる。普段から殺し合いしてるショーバイしてるからな。それにマトモな相手なら怪我人が居たら素直に引き揚げてくれるし」

「今の時代だと、元、だろ?日本の軍人は横暴で残虐だったって言うけど、アンタは違うようだな」

「そりゃ、一方的なねじ曲がった見方だよ。兵士は徴兵で賄えるけど、士官は高学歴の連中が選抜試験受けてんだぞ?終戦直前のおかしい連中を除けば、忠勇な軍人だったんだぞ」

日本軍の軍人らを擁護する一言を残す師匠。自分がそうであるからだけど、軍人、それも徴兵ではない将校は高学歴者が難関の選抜過程を潜り抜けて任官されてた。幼年学校卒経験の一部過激派とか、確かにおかしい連中もいたけど、大半は下手な官僚よりよほど優秀で、話がわかる人間なんだよね。

「それに、軍隊ってのは敵を倒すって事は考えても殺すより行動不能にするのが基本だぞ?少しは歴史勉強しとけよ、ガキンチョ」

「お、おう……」

「それと、私は軍隊時代、少佐以上に任ぜられてたからなー」

「自慢すんの、そこかよ!」

「いいだろー本当なんだから。それに中将だったんだぞー。一応」

黄金の光に包まれて、師匠はその場から姿を晦ました。話通りの年齢なら、あのような『若々しい』容姿であるはずはないこと、旧日本軍は正規軍人に女性は建軍から解体まで一切合切いないから、司令も首を傾げるだけだった。旧軍の記録を引き継いだ厚生労働省の言うことなので、間違いなく、その謎が司令達を相当に悩ませたって。別の世界だからそこは、ね?

「で、次の映像で腰抜かさないでくださいよ。私達もそうだったけど」

「?どういう事だ?」

次の映像は思いっきりショッキングなもの。黒江がバイト中の時の映像である。二人も初見の時は思いっきりずっこけ、調Bなど、あまりの衝撃に取り乱し、思わずAに詰め寄るという、極めて珍しい場面を展開したほどだ。その映像が出た瞬間、B達のほぼ全員が唖然としながら固まった。調(黒江)が思いっきり明るい笑顔で、喫茶店のウェイトレスをしているのだ。しかも、ぬけぬけとシンフォギアの展開状態で。これはその気になれば、今の調Aであれば可能な芸当でもある。黒江は元々、母親が女優業に進ませようとしていたため、母親により、接客業もちゃんとこなせるレベルで教育されている。その応用で、見事にウエイトレスをこなしてみせる。

「いらっしゃいませ〜」

元々、声色が成り代わりが無くても調にすごく似ている偶然もあり、外見年齢相応の声色だと、『雰囲気を明るくした調』そのものだった。映像を見ている切歌Bは『ぐぬぬ…』と、何か言いたそうな顔で悔しがっている。自分でも、あまり見たことのないような満面の笑みだからだろう。

「えーと、アップルジュースが一つ、ハンバーグステーキが二つですね?かしこまりました」

レストランのウエイトレスをごく自然にこなす黒江。シンフォギアのギミックを非戦闘場面で使いこなし、2000年代前半から半ばに流行った『ローラーシューズ』の要領で、食事が乗せられたお盆を運ぶというのは、調Bも取り乱した場面である。コスプレ喫茶という場所を差し引いても、シンフォギアを接客業の仕事着に使うというのは前代未聞の珍事である。しかもそれでいて、問題を起こす客をきっちりとシメている。そのため、バイトの期間中の勤務成績は優良で、黒江が去った後は調Aが引き継ぎ、小遣い稼ぎとして行っている。しかも、この映像では、黒江が接客中のところを話に夢中で気がつかない通学中や帰宅中の響、翼、クリスの三名の姿も映っており、図らずも、黒江がコスプレ喫茶を隠れ蓑に選んだのは、けして間違いではない事の証明だった。シンフォギアをこのような用途で使用する事の凄さや、黒江が第一種適合者と同等以上の適合率(先天性などの適合者はLINKERを介さずにギアを纏え、展開を維持できる時間に制限時間が存在しない)を持つ事が明示される。他にも、寝泊まりしている時のシュールな構図(シンフォギア姿で店内のソファーで寝ている)には流石に悲鳴があがった。翼Bと調Bなどは初見時には、その構図に憤慨して、黒江に詰め寄った程である。

「なんだよ!?こういう使い方ありかよ!?!?」

「私と入れ替わったこの人が当面の食い扶持で始めたバイトですけど、見入り良かったみたいで、別の私もそのまま引き継いでるそうです」

「シンフォギアを纏うにしても、こんな方法に使うだなんて。しかも見たところ、シュルシャガナのギミックは殆ど用いていないように見えるけど」

「うん。話を聞くと、この人は元から強かったから、シンフォギアは身体能力向上というよりは身体の保護のために使ってるにすぎないんだ。こんなの持ってるから」

「どういうことデス?」

「次の映像で分かるよ」

『この雷がお前を討つ!!必殺パワー!サンダーブレェェェク!!』

黒江がグレートマジンガーのそれと同等の威力のサンダーブレークを放つ場面だ。臨時本部の電子機器をダウンさせ、翼に3日間昏倒の大ダメージを負わせた時の映像で、片腕を天に向けて掲げ、雷を敵へ落とす構図はかっこいいが、シンフォギアの機能とは全く関係がない攻撃である。

「なにこれ!雷をそのままぶつけてる!?」

「いや、指先に受けて、電流を増幅させてる!でも、これはシンフォギアの力とは異質のものよ!?」

「見ての通り、サンダーブレーク。グレートマジンガーって知ってます?あれと同じ技です」

「70年代のロボットアニメで聞いた名前デスけど、それがどうしたデスか?」

「それがね。実在してる世界があって、しかも一緒に戦ってたから、大体の技は真似できるとか言ってたよ」

「なんデスと!?」

調Bは、黒江が戦闘時に発揮する能力はたとえ、シンフォギア展開で事実上のリミッターがかけられていても、並の装者ではまるで相手にならない事に内心で強く嫉妬を抱いている。AがGウィッチに準ずる存在として覚醒を遂げていることへの反発も入り混じっているので、複雑である。映像は更に続く。





――続いては、黒江が黄金聖闘士としての姿を初披露した際の映像だ。ここからが黒江の本領発揮と言うべきところである――

「まだ終わりじゃない」

「綾香……さん」

「その姿で喋るなデス!にせも……!?」

切歌が振ったイガリマの鎌を手刀で払い除け、言う。本来の黄金聖闘士としての言葉で。

「この姿になったのも何かの縁だ。それに、君が死ぬことは、この姿の本当の持ち主の子は望んじゃいない。それに、この世界は、君が守りたいと願った子の帰るべき場所だろう?」

「それじゃ……し、調は生きているのデスか!?本当に?」

「私と入れ違いに、この世界から弾き出されただけで、どこかの世界で生きている!私がこの姿で有るって事は、まだ因果が切れていない証拠、諦めるにはまだ早い!」

「因果……?」

「そうだ。因果応報とかいうだろう?その子の帰る場所を守るのも神の闘士としての仕事だ!」

「神の…闘士?」

「ああ。起こしてみせよう!奇跡って奴を!」

「どういう事デスか!?奇跡って!?」

「こういう事だ……!」

呆然とする切歌。調の容姿と声になっている黒江に不思議と安心感を覚える。そして、その場にいた装者の全員が瞠目する。

『燃え上がれぇぇぇ!私の小宇宙よぉぉぉ――っ!』

黄金色のオーラが黒江を包む。背後に浮かび上がるのは……。

『ば、馬鹿な!ありゃ確か、ケンタウロスだぞ!?』

『あの星々の配置……サジタリアスの星座に……』

『これが綾香さんの本当の力……シンフォギアとは違う何か……!』

『お前たちは知っているのか!?彼奴の本当の力と言うのを!?』

『私達も詳しくは……。全部は話してなくて……だけど、わかります。あれはシンフォギアと別の力だって事は!』

射手座の黄金聖衣が飛来し、黒江の身を包む。黄金の輝きと共に。装飾の多い黄金の甲冑。そのように見えるが、黒江の体から溢れる黄金色のオーラと、射手座の黄金聖衣のヒロイックな造形もあり、見る者を圧倒する迫力があった。

『射手座、サジタリアスの黄金聖闘士!!サジタリアスの綾香!!』


黒江は本来、『カプリコーン』だが、聖衣に合わせた名乗りを見せた。もっとも、サジタリアスの聖衣は星矢の度々の負傷と離脱により、代理で纏う事が多かったため、射手座を兼任している時期もあったので、充分に資格はある。聖衣のヒロイックな姿もあり、映像に見入る一同。

『アークプラズマァ!!』

自立完全聖遺物『ネフィリム』にいきなりアークプラズマを食らわす。アーク放電のライトニングプラズマである。これで焔を起こす最終形態が『ライトニングフレイム』である。辺り一面に稲妻が走る様は、神の如き所業だ。

「遺物ならおとなしく寝ていやがれ!こっちは現役宝具だからな!」

「げ、現役って!?」

「オリンポス十二神が一柱、アテナを守る闘士が代々受け継ぐ宝具。その中でも最高位のモノがこの黄道十二星座の聖衣だ!それを纏うに値する力を見せてやる!ライトニングテリオス!!」

アーク放電のライトニングボルトで叩き込む雷光を極限まで爆縮し、相手の体内で炸裂させ、内側から爆破する『ライトニングボルトを超えたライトニングボルト』。それがライトニングテリオス。完全聖遺物と言っても、遥か以前のヒトが作りしもの。神の加護があるわけではない。だが、小宇宙は神を守りし者達の必須技能であり、ましてや『アテナの愛す星座』と謳われる射手座の黄金聖闘士の攻撃に耐えられる訳がない。ネフィリムはライトニングテリオスの爆破エネルギーに耐えられず、大きく傷を負う。

「なんだ……今の雷は……。一撃であれほどの破壊力が……!?」

「驚いてる場合か?青髪のお嬢ちゃん?」

「お、お嬢ちゃん!?わ、私を子供扱い……」

「ばーちゃん、アンタには負けるよ」

「なっ!?ばーちゃん!?」

「ああ、こう見えても、本当は年金もらってる高齢者なんでね」

黒江は21世紀時点での実年齢をネタにして遊ぶ。それまで敵側だった側の装者達は、黒江が年寄りと表現する様に呆然として、あまり感想が言えない。いの一番に会話を交わした雪音クリスも、黒江の飄々とした振る舞いに翻弄されている自覚があるのか、黒江をばーちゃんと呼んだ。

「おばーちゃんとかオバァなら良いが、ババアと呼んで良いのは、日本じゃ毒蝮三太夫だけだぞ」

「あの……今の若者に毒蝮三太夫は……」

「ウル○ラセブン見てりゃ、顔は分かるだろ?」

「あの、そのころはまだ本名名義ですよ?」

「妙に詳し―な、お嬢ちゃん」

「あの、完全聖遺物を前にして交わす会話では……」

黒江と翼の、妙にマニアックな会話に、マリアが真っ当なツッコミを入れる。黒江の余裕は彼女にはわからないが、神を守りし闘士という語句が偽りでないことは理解していた。第三者から見ると、しまらない会話である。

「再生待ちしてんだから、いーのいーの。どうせ再生すんだろうから再生速度把握したら一気に片付ける」

「あなたはいったい……」

「オリンポス十二神のアテナを守る闘士と言ったろう?その最高位だ。心配するな」

「し、しかし!」

「この聖衣も、総数は90個も有るから珍しいとか思わんかったしな」

「うそぉ!?」

「そもそもがムー大陸の術士たちに命じて作らせたから、試作品も多くあるしな。神々の戦で喪われて、作り直したりしてるから、神話時代から通して存在するのは少ないけどな」


「おい、ばーちゃん!バビロニアの宝物庫が勝手に開いたぞ!?」

「馬鹿な、ソロモンの杖の制御無しに!?」

「どーやら、私を『異物』と判断した世界が世界の秩序を守るために開けたらしいな。だが、この程度。どうという事はない。奴に聞かせてやろう。銀河の星々の砕ける音を!」

黒江は、箒から習うという変則的な方法で会得した闘技がある。ギャラクシアンエクスプロージョンだ。黒江は違う星座の守護なので、小宇宙の凝縮精度が正規の双子座である箒より落ちるので、銀河系破砕程度のエネルギーだが、充分に銀河を破砕できるだけの破壊力を持つ。


『ギャラクシアン!!エクスプロォォォォジョン!!』

黒江の起こす所業はもはや人が起こせるモノを超えている。そう思わせた。黒江の周りに幻影として浮かび上がる『銀河が砕ける』光景。そのエネルギーの奔流をぶつけるという行為自体、シンフォギア装者であっても不可能な所業だ。その膨大なエネルギーを一人で制御出来るという事自体が『人の域』を超えている証だった。

「銀河を砕く『ギャラクシアンエクスプロージョン』。私の守護星座の技じゃないが、宝物庫の中身の大半は吹き飛ばした。お前らの仕事はここからだ」

「はいっ!」

お膳立てをし、響達にひとまず託す。それから何十分かの時が過ぎ、響達がネフィリムに決定的ダメージを与えるが、黒江という異物を排除しようとする『世界の意志』の働きにより、ネフィリムは『本来なら撃破できる』だけのダメージを与えて尚も再生し、宝物庫の扉をむりやりこじ開け、その攻撃の衝撃で響達が吹き飛ばされてくる。

「馬鹿な……。今の一撃は完全に手応えがあった……それをッ!?」

「私達の全力で倒せないなんて……!でも、たとえ万策尽きたとしても、一万と一つ目の手立てが……!」

「あ、そいやぁ宝物庫の中身、一つ持ってたわ、『エア』!しかし、あれは世界ごと切り裂いちまうから、こっちでいくか」

まさかの展開にも闘志を捨てない響。それに応え、黒江は切り札を見せる。エアは世界ごと切り裂いてしまうので、神聖衣を用いた。

「神を人が殺す。そんな神話があるだろう。それは人がいつも起こす『奇跡』だ。神を超え、悪魔を倒す。それが人に許された奇跡だ!!お前達がシンフォギアで奇跡を起こすように、私達は第七感、第八感、第九感を研ぎ澄まし、奇跡を起こす。その証を、今ここに!!」

黒江は存在が神格であるため、通常の黄金聖闘士がアテナの血を浴びなくては完全発動出来ない神聖衣を、自身の血を代用する形で進化させ、聖衣のリミッターを解除して神聖衣化させた。神格の血で進化させるということは、聖衣にかかっているリミッターを完全解除させることでもあり、たとえ、そのベースが最下位の青銅聖衣であろうと、神格を倒せる力を与える。神域の力を人に与える究極の聖衣なので、この姿を『神衣』と呼ぶかは、神々の間でも見解は分かれている。

「神の力は伊達じゃないっ!これが、これこそが、人が神を超えるための究極の宝具!!『神聖衣』だッ!!』

「ゴッド……クロス…」

全体的に滑やかかつ、神々しい形状になった聖衣。そして、それに相応しい神矢を番える。

「この世界に一条の光を!私のナインセンシズよ、奇跡を起こせ!!」


『一矢討殲!!』

その神矢を放つ一瞬、正統継承者の星矢、先代の資格者のアイオロス、そして城戸沙織=アテナの幻影が浮かび上がった。更に、黒江に託されし装者達の力も上乗せされ、貫く。矢を放つ一瞬、黒江はある『曲』を口ずさんでいた。それは自身が未来世界でよく聞く歌であり、学園都市の常盤台で言い伝えられて来た『21世紀のレベル5第三位』の事を指すような歌詞の。即ち、美琴の事をイメージさせる曲を。奇しくも、発表された当時に曲を歌っていたグループのボーカルの声が、黒江の変身した姿の基になった調にとても似ていた事もあり、矢というよりは『超電磁砲』と言える光芒だった。それが、黒江が最初にシンフォギア世界で起こした奇跡であった。その光景は、黒江の強大さを何より印象づけるものだった。


――これが、師匠がフロンティア事変で起こした大まかな出来事。この時に切ちゃんが決定的に病んじゃって、師匠は魔法少女事変までの間、私を演じる必要が生じた。マリアも、響さんも無茶を言ったなぁ。いくら切ちゃんが心を病んだからって、その代わりを頼むなんて。切ちゃんを精神病院に入れたくないからって、同じ姿になってるとは言え、他人に代わりを頼むって……。厚かましい気がするけど、マリアの気持ちはわからないわけじゃないけどなぁ。――

調Aが途中で録音したと思われるナレーションは、この時にマリアと響が黒江に代わりを懇願した事に呆れつつも、国連による裁きが及ぶのを恐れたマリア、それと、本物の自分が帰ってくる時の『居場所』を守りたかったと思われる、響の自分へのわがままである事には理解を示していた。そのため、響BとマリアBはバツの悪い表情を浮かべる。実際、黒江があちらこちらで自由気ままに行動していたことで、調が当初はテロリストの一員であったことは歴史の闇に葬られ、事後の国際法廷にて極刑で裁かれそうになった装者はマリアと切歌だけである。そのため、調Bは初見時はバツの悪い顔をしたものである。同じ姿になっているというだけで、黒江に調としての演技を半ば強要するという事は、無理強いに等しく、意見が割れるほどだった。だが、響が『調ちゃんの居場所を守るべきじゃないんですか!?もし、戻ってきた時に居場所がないなんて、悲しすぎます!!』と強硬な姿勢で意見を押し通し、黒江も最終的に了承したことで、一年はその演技を押し通す事になった。黒江が後に『面倒っちい』とぼやいたのは、響が自分に調としての演技を半ば強要するような口ぶりを見せたからだろう。

「別の私……こういうことをしたんだ。でも、調ちゃんの居場所を守るためには仕方がないのかも」

「しかしだ、立花。別人に月詠を演ずるように半ば強要したも同然なのだぞ?別のお前がしたとは言え、褒められた事ではない」

翼Bが響Bに釘を刺す。響は転生以前の芳佳のように、思い込んだら一直線なところがあり、その面が調の居場所を守るという大義名分の下に暴走し、黒江に演技を強要した。マリアがきちんと個人的な〜と前置きしているのに、響はそれがなく、黒江も難色を示したほどに自己満足の身勝手とも取れる発言をした。それが黒江に面倒っちいと言われ続ける理由で、響は『自分の正義を信じて、握りしめているだけです』と言っているものの、それが最善とは言えないところもあるため、それが響Aが後に侘びた理由である。言うなら、かつての自分がそうだったように、誰かの居場所を守ることに執着している節があり、それは響Bにある種のショックを与えたのは間違いないだろう。やがて、翌年の魔法少女事変の最終局面が映し出される。グレートマジンカイザーやラ號が介入した際の映像だ。ここからがある種の本番である。



「あれは……あのマジンガーは……まさか!?」

後から見たけれど、これは驚きの援軍だった。黒鉄のボディと金色のモールドを持ち、尚且つグレートマジンガーの意匠を最も色濃く引き継いだ勇者にして、魔神皇帝の一つの形。その名も。

『偉大な勇者を超え、偉大な皇となる!!グレートッ!マジンカイザー!!』

グレートマジンガーの進化の一つの回答がGカイザーである。対になるマジンエンペラーGが、対マジンガーZEROのカウンター的位置づけから、純粋なマジンガーではなく、開発系統としては『ゲッターロボとのハイブリッドスーパーロボット』であるのに対し、純粋なマジンガーと言える進化の形だった。装甲もマジンガーとしての到達点といえる、超合金ニューZαであるため、マジンカイザーのもう一つの可能性と言える。

『喰らえ!バーニングブラスタ――ッ!』

「やべっ!鉄也さん、やる気満々だ!伏せろ!!焼け死にたくなかったら頭を下げて、地面に伏せろ!」

バーニングブラスターはファイヤーブラスターの対となる攻撃であり、その威力は因果律を操れるマジンガーZEROでもない限りは、為す術もなく溶け落ちてゆくだけの一撃だ。その熱線の温度はもはやシンフォギア世界の機器では計測不能な数値だ。市街地で撃っていい一撃ではない。更に、シンフォギア世界の摂理を外れし魔神皇帝であるため、シンフォギア世界の摂理は一切合切通用しない。

「鉄也さん!いきなりバーニングブラスターはないって、殺す気ですか!?」

『スマンスマン、小手調べのつもりだったんだ。城戸沙織さんを連れてきてるんで、手加減なしでいいと言われてな』

「え!?沙織さん、来てんすか!?」

『エリスが復活したとあれば、私が動かないわけには参りません』

「さ、沙織さん!?んじゃ、VIPカリバーを動かしてるのは……」

『あたしよ。随分可愛い姿になってんのね、貴方』

「と、智子!?お前、私の居場所をどうやって!?」

『フェイトが貴方の転移に感づいてね。管理局を動かして、かなり広範囲の次元世界をサーチしてくれて、沙織さんにも協力を仰いだのよ。ドラえもんのタイムテレビも使ったら、発掘された古代ベルカのデバイスの残骸に、貴方の姿をした子の記録が残っててね。その子の意思があなたを、ここへ呼んだって事が分かったのよ』

『ええ。やがて、星矢に討伐されたはずのエリスが、この世界に流れ着いていると分かり、私が直接やって来たのです』

智子は機体を着陸させ、降り立つとすぐに水瓶座の黄金聖衣を纏う。負傷し、ゲイ・ボルグで黄金聖衣にも傷を負わせられた黒江に肩を貸し、沙織のもとに連れて来る。調の容姿と声になっていた黒江だが、沙織の前では臣下としての礼儀を忘れない。片膝をつき、畏まる。

「申し訳ありません……。私は自分の姿を喪失してしまい、そのせいでゲイ・ボルグの因果を断ち切れず…」

「仕方がありません。貴方が如何に昇神していようとも、他人の姿になっていれば、人としての因果に引きずられるものなのです。ですが、エリスを封印するには、むしろそのほうが適任かもしれません」

「神殺し、ですか?」

「そうです。あなた達に使命を託します。エリスを封印するという。天秤の武器の使用も許可します。それと、神である私にできるせめてのことです。」

「沙織さん、貴方、何を…」

「神の血を黄金聖衣に与えるのです。さすれば黄金聖衣も『最終黄金聖衣』となり、神聖衣の依代となるのです」

沙織は持ってきていた刃物で自分の腕に傷を入れ、その血をヒビが入った山羊座の黄金聖衣に注いだ。血を注がれた山羊座の黄金聖衣は、瞬く間に傷が直る。そして、神聖衣の依代となるべき力を得た。

「ありがとうございます、沙織さん……いや、アテナ。不肖、この黒江綾香。使命を果たしてご覧に入れましょう!」

沙織にその言葉を発すると、神聖衣を顕現させる。智子と共に。これがある意味では、黒江が望んだ光景であった。前史では起こることの無かった光景。智子は前史で先に死んだことへの償いの意味も込めて、水瓶座の黄金聖闘士になる選択を選んだのだ。


――そして、聖闘士としての究極にまで達した二人は黄金神聖衣と天秤の武器を携えて、対峙する。グレートマジンカイザーのサポートを受けて。この時までに戦闘能力を失っていた響らは次々と起こる光景に置いてけぼりをくらっていた。アルカ・ノイズを一掃し、尚且つ『摂理に反している』としか思えぬ力を持つ魔神、黒江が以前に纏って見せていた神聖衣。それを纏うもう一人の闘士。完全に戦いの主役は装者達から黒江らへ移行していた。





――もはや彼女らの手に負えぬ戦いとなり、Gカイザーは搭乗型兵器の限界を超越した幾何学的な機動を見せ、ドリルスマッシャーパンチを撃ち込む。皇帝の名を冠するマシーンである以上、その破壊力は『兵器』の区分を飛び越えた何かであり、その拳はドリルのように、全てを穿つ――

『ギガントミサイル!!』

続いて、腹からミサイルを生成し、エリスに撃ち込む。市街地にキノコ雲が立ち込める。それで生じた隙を突く形で、二人は光速を超えて攻撃を仕掛ける。


『槍にやられたんだ、槍で返させてもらうぜ!!』

黒江はそう宣言し、天秤の槍を持ち、エリスに突き立てる。エリスはキャロルを依代に顕現しているため、金髪の容姿であるが、エリスが所々で作り変えており、服装は完全にエリスの邪霊衣(リーフ。植物を操る能力を有する。)になっており、妖艶な雰囲気に一変していた。その為、歯牙にもかけない奏者らと黒江らを分断してみせる。エリスの容姿はキャロル・マールス・ディーンハイムの大人化した姿だが、髪形がロングストレートに変わっていたり、邪霊衣を纏っている影響か、化粧が濃くなったかのような風貌だった。神格であるため、壁代わりに生成した植物で、並大抵の攻撃を通さない。たとえ、装者全てのエネルギーを集めたガンニグールの篭手による突進であっても物ともしない。ガンニグールのほうが植物にぶつけ続ける衝撃と力に耐えられず、ヒビが入るほどの強度であった。

『これはお前らがどうにかできるレベルを超えた問題だ!ギアが自壊する前に、響の攻撃をやめさせろ!』

「私のガンニグールなら必ず貫けます!!例え、相手が神様でもぉぉ――ッ!」

『バッキャロー!!それはこの世界の神様にしか通用しない概念だ!』

黒江は怒鳴るが、響は強引に突破し、一撃をかけようと跳躍する。が、ガンニグールにはエリスへは重大な弱点がある。それは所詮、グングニルの欠片でしかない事だ。完全なものであれば、神話の通りに『鋼の穂先にルーン文字を配することにより、その魔力で貫けない鎧はない』威力と因果を誇るのだが、欠片な上、響の腕そのものがアームドギアとなった都合、グングニルの力は完全には発揮されていない。その為、ゲイ・ボルグを要するエリスはゲイ・ボルグの因果で上回れてしまうのだ。

「小娘。その勇気は褒めてやろう。……が、このゲイ・ボルグの前ではグングニルの欠片ごときの力など!」

ゲイ・ボルグが投擲される。ゲイ・ボルグの因果はエクスカリバーであれば打ち消せるが、不完全なグングニルを依代にしたガンニグールのギアでは打ち消せない。直撃を逸らすのがせいぜいである。ゲイ・ボルグが投擲され、響はとっさに巨大化した篭手で打ち合わせるが、ゲイ・ボルグはその因果律兵器ぶりで、ぶつかった篭手を打ち砕いてゆく。これは響当人のみならず、装者全員には信じられない光景だった。ゲイ・ボルグは『対象を貫く』という因果を引き起こす神器であり、ギアでどうにかできる領域を超えている。本来であれば、ぶつかった瞬間にギアが破壊されていてもおかしくない。だが、響は父親と親友、仲間の祈りの力を媒介にオーバーブーストがかかっており、ゲイ・ボルグに抗ってみせた。直撃を逸らす程度であるが、貫かれても、致命傷は避けた。それを確認した黒江は、貫かれたショックで篭手部分が破損した響をお姫様抱っこで抱きかかえ、そのまま他の装者に託した。

「黒江女史、立花は……?」

「気絶しているだけだ。コイツのことは任せる。アイツは私達が封印する。それが私らの使命だ」

「女史、教えて下さい。あ奴は一体なんなのです?それに、あのロボットは……」

「おそらく、奴の体に埋め込まれていた種子が発芽し、邪神に乗っ取られたんだろう。いつそうなったのかは分からんが……」

「それでは我々側についたエルフナインは……。」

「大丈夫だ。あいつの生命力を活性化させる星命点を突いておいた。聖闘士に伝わるツボのようなものだが、生命力を活性化させたから、直に回復する。あのスーパーロボットは……うーむ。そうだな、かのマジンガーZの遠い子孫?そうとしかお前には説明出来ん」

Gカイザーについての説明はものすごくアバウトなものだが、間違ってもいないが、ややこしいものだ。マジンガーZはどこの世界でも、たとえ実物がない世界でも、アニメとして存在しているので、アニメに疎い翼でも分かるように努力した。グレートマジンガーはゲームをしてなければ、21世紀の若者には浸透していないので、マジンガーZの子孫と言ったのだろう。

「マジンガーZぉ?スーパーロボット大戦の常連の70年代ロボの?最近、派生作品が連載してる?」

「そそ。それだ。それの後継機の一つだよ」

「グレートマジンガーとかの?」

「そそ。グレート系だよ、あれは」

クリスはある程度は知っていたらしく、頭部が鋭角的なデザインで、放熱板がV字である事から、グレートマジンガーの系統であるとは分かったようだ。それに安堵する黒江。

「あ、やべ。ゴッドサンダーだ。お前ら耳を塞いで口開けろ!叫べ!鼓膜破れるぞ!」

「ま、マジかよ!?」

ややあって、鉄也の『ゴッドサンダー!!』の掛け声と共に、ゴッドサンダーが放たれ、ピンポイントで凄まじい落雷が引き起こされる。その電撃の威力は黒江のアークプラズマにも匹敵するほどのもので、エリスの周りにあった、崩れたビルが完全に消滅し、キャロルがエリスに乗っ取られる前に錬金術で形成していた『碧の獅子機』もエリスとなったキャロルを残し、完全に消滅していた。

「お、おい!ばーちゃん、なんだよ今のは!?」

「ゴッドサンダー。グレートマジンガーのサンダーブレ―クの発展形だ。サンダーブレークは私が撃って見せたが、ゴッドサンダーはその比ですらねぇ『神の雷』だ。奴もかなりのダメージは負っただろう。んじゃ、戻るわ」

「あ、お、おい!あたし達はどうすりゃいいんだよ!?」

「避難誘導とかをやってくれ。私達でどうにかする。オリンポス十二神の一人も来てくれているしな!」

「お、オリンポス十二神んー!?」

「そうだ。細かい説明は終わったら、ちゃんとする!とりあえず今はその暇がないんだよ」

『よし、いくぞ!!』

剣鉄也の駆る魔神皇帝たる『グレートマジンカイザー』、神聖衣を纏う黒江の勇姿が映し出される。神聖衣もそうだが、如何にも通常の兵器にしか見えないのに、アルカノイズを物ともせずに倒すGカイザーの威力は『遺失技術をすら超え、神の領域であるとしか思えない』ものだ。更に、Gカイザーの武器はどれもこれも明らかに『市街地で撃っていいもの』ではない。更にそれを発艦させた母艦たる、ラ號の姿がこれまた異様であった。ドリルとチェーンソーがついて、空を飛んでいる以外は戦艦大和そのものであるが、主砲からはエネルギー砲が放たれているので、SFじみてきている。また、黒江と智子が天秤の武器でエリス相手に渡り合い、エリスに確実にダメージを与えていく場面については、光速でも撮影できる、ドラえもんのひみつ道具で撮られている。そのため、殆ど黄金聖闘士と魔神皇帝による『邪神殺し』と化している。シンフォギア装者はお呼びでないと言わんばかりの光景であった。シンフォギアの本来の開発目的からすれば当然といえるが、(元々が対ノイズ用兵装であり、対神格用ではない)、A達が存在の格差を最も感じ、戦力と見做されていない事に強い屈辱を感じた瞬間である。神々の熱き戦いの前では、自分らは『ただの人間』にすぎないと否応なしに突きつけられたからだ。黒江達の闘技が次々と炸裂してゆく。ギャラクシアンエクスプロージョン、アトミックサンダーボルト、オーロラエクスキューション、ホーロドニースメルチ、ダイヤモンドダスト…。もはや説明不可能な現象の数々である。それでいて、エリスは尚も健在であるが、ラ號のショックカノンでダメージを与えられ、ゲイ・ボルグを落とす。それをすかさず黒江がキャッチ、沙織に手渡す。更に、智子と武器を交換し、エクスカリバーを最大出力で放つ。

『これで終わりだ!!エクス!!カリバァァァ!!』

神聖衣状態で更に天秤の剣を媒介にしてのエクスカリバーはアルトリアの持つオリジン・エクスカリバー以上の威力であった。炸裂した際の光の柱の大きさ、エリスすら跡形もなく破壊する聖剣ぶりがエクスカリバーの存在の証明だった。だが、エリスが再生させていた聖遺物『チフォージュ・シャトー』が暴走、世界の再度の分解が危惧されたが、ここは鉄也がどうにかした。

『ムウン!!』

胸の放熱板が物理法則無視の変形で剣の柄などを形成、それを引き抜いて、巨大な剣とする。そしてそれに降り注ぐゲッターエネルギーを当て、因果を断ち切る剣へと昇華させた。

『雷鳴を切り裂け、エンペラーソード!!』

カイザーでエンペラーソードを使用する変則的な手段を講じた。これは元々、マジンガーZEROの因果律兵器を打ち破るには、因果を断ち切るための進化の力、つまりゲッターエネルギーが必要だったことで編み出された使用方法だった。ZEROへの対策の過程で編み出された方法はこの他にも存在するが、この場で言うべき事ではない。鉄也はGカイザーの最大戦速でチフォージュ・シャトーを切り裂き、消滅させた。『魔刃一閃』のキメ台詞も初披露している。この事により、魔法少女事変は、A世界では、黄金聖闘士と魔神皇帝によって解決を見た事になる。歴史がフロンティア事変を期に大きく変わっていることを実感させられたB達。やがて、自分達の常識をいとも簡単に覆したスーパーロボット『魔神皇帝』について質問し始める響Bら。それの説明のために休憩を挟むことになり、調Bと翼Bは、その間に次のディスクを探すのだった。それこそがあらゆる平行世界でも類を見ない人型ロボット全盛の世界が生みだした究極の魔神であると。口では説明が不可能とは、こういう事をいう事であると実感していた。



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