外伝その298『イベリア半島攻防戦20』


――ダイ・アナザー・デイでGウィッチへの迫害が表に出、なおかつ、通常ウィッチの対人戦争への投入のメリットがそれほどない事が明らかになると、未来世界からやってきたヒーローやスーパーロボットに頼り切ることの是非が議論された。ウィッチは時空管理局の魔導師のような万能性を持たず、かと言って、第三世代以降のジェット戦闘機のような視界外交戦能力を当時は持ち合わせていなかったため、運用の縮小が検討された。しかしながら空戦分野では、メタ情報による次世代型の開発促進と、時空管理局の技術供与で魔導誘導弾の開発に成功しつつあったし、陸戦分野も、シャーシ部を各国で共通化した次世代型の素案が出来上がりつつあった。それが救いとなった。実際、素でヒーローやスーパーロボットと轡を並べられる力を持つ者はGウィッチをおいては他におらず、突出した力を持つ彼女達への迫害の軽減をどう処置するのかが課題であった――







――空挺部隊を撃退したのび太達。数人の捕虜を捕まえ、その次に侵攻してきた機甲師団に真っ向勝負を挑んだ。

「敵はM4が30両、M36が20両、自走砲が30両。連隊規模だな。米軍はM4信者だからね。兵士達の命より、効率と合理性を第一に考える地上軍管理本部のドクトリンのせいなんだよな、これ」

「軽戦車は?」

「それ入れると、100両は下らないよ。自衛隊に打電はしといたから、それまでの時間稼ぎをして、ひとまず後退だね。スタミナ消耗してるからね、みんな」

「それにしても、数だけはいやがる。第二次世界大戦のポンコツって言っても、壮観だな」

「これが米軍の恐ろしささ。だけど、史実と違って、戦闘爆撃機(ヤーボ)の支援は受けられない。制空権さえありゃ、米軍の機甲部隊は凡庸な連中の集まりにすぎないから」

「でも、何故、重戦車がないんだ?」

「この時の重戦車はM26パーシングだけど、アンダーパワーでね。谷や山が多いイベリア半島で運用するには足回りが弱いんだ。昔ながらの重戦車は足が遅いのがお約束だから。それなのに、日本は戦後型に強引に変えようとしてるんだ」

クリスにのび太が説明する。日本は自らの開発した戦車の多くがMBTというにはバランスの歪な『戦車駆逐車』というべきものが70年代まで作られており、61式や74式はその体裁が色濃い。戦中の日本製戦車よりは装甲はあるものの、重戦車が幅を利かせている時代においては装甲厚で言えば、『中戦車』の粋を出ない。避弾経始は時代相応の戦車砲にしか効果はないが、敵の主力は時代相応のものなので、問題はない。マリアとクリスが思うような『重戦車が先陣を切る』イメージは戦争映画の見過ぎである。のび太が苦言を呈するように、M4中戦車信者の多い米軍系軍隊相手では、防衛戦の場合はティーガー系列で充分にお釣りがくるのだが、日本は旧軍のイメージで物を言い、強引に回収し、ドイツは自らのレオパルト2を売りつけたため、前線の機甲兵器が足りなくなる本末転倒の状態になり、ティーガー系列は一部の車両が前線の判断で、依然として使用されている。そこに目をつけたアメリカがM103重戦車の設計図を提供し、南洋で改良型を作らせているなど、味方側の兵器の更新速度はMS並みになっている。ウィッチ閥の反対で史実より兵器行進が遅めのままのリベリオン本国には圧倒的に優位を保っていると、連合軍が強弁するのは、迅速な兵器更新速度が理由だ。問題は、その新兵器をどうやって前線に運ぶか、である。

「まったく、新兵器にどんどん変えたって、前線に届かないんじゃ、意味ないつーの。それにアメリカが58トンの重戦車を売りつけたっていうけど、ティーガーより重いんで、将軍達も困ってるんだよね。この当時のインフラはそんな重さに対応してないし」

「インフラを新規に?」

そこはマリアが質問する。

「架橋戦車をわざわざ取り寄せて使ってるんだよね。戦中に新規に工事もできないし。おかげで重戦車運べるとか言ってるけど、扶桑の将軍達は腰抜かしてるんだよね」

のび太の言う通り、戦車の加速度的進化は扶桑の『技術的限界』への見解を木っ端微塵にぶっ飛ばし、90ミリ砲でも『火力に劣る』扱いであり、各国が105ミリ砲を目指しているという現実が扶桑の将軍達を慄かせた。ちなみに、105ミリ砲はカールスラントがティーガーUの後継を予定した『レーヴェ』で搭載予定だったため、センチュリオンに先を越された上、それを超える火力を持たれた事になる。しかし、センチュリオンもコンカラーも、いくらラインをフル稼働で生産させようと、おいそれと揃えられない。また、他国製兵器を用いる事への将軍達の抵抗も強い扶桑は、チト改良型、チリ改良型を61式コピーと共に緊急で作らせ、どうにか外聞を保っている。また、自衛隊に10式を持ってこさせたのが最大の成果だろう。

「ま、昔の日本軍の戦車って、おもちゃみてーな小さいもんばかりだって聞いたな。そりゃ腰抜かすぜ」

クリスの認識はそんなものだが、実際、日本がチヌを揃える頃、米軍はM26を大量生産していたので、間違いでない。


「日本は海軍国家だから、陸は予算が少なくされるのさ。戦後は特にね。ま、MSとかスーパーロボットに比べりゃ、戦車の大型化は可愛いもんだよ」

「それはそうだけど、いくら第二次世界大戦の旧式とは言え、これだけの数を撃退するのは骨ね」

「まーな。やるしかないかッ!」

マリアはリンカーを服用しているため、シンフォギアの装着時間に制限がある。それが自然と一同の足かせになっていた。また、クリスも装着時間に制限がなくとも、体力の関係で大技を多用できない。それが聖闘士やプリキュアにシンフォギア装者が劣る点であり、宝具を短いインターバルで連発できる黒江が脅威視され、大したリスクなしに大技を連発できるプリキュアが立花響の嫉妬を買った理由だ。

「マリア、あまり前に出るな。お前はリンカーを服用してから、それなりに時間が経っている。クリスはマリアへの気配りを忘れるな」

「分かった。って、あんた、似てるよな、マリアに。声もだけど」

「同一の魂が別々の世界に分かれて転生した姉妹のようなものだからな。似ているのは当然だ。前衛は私達三人に任せろ」

「ソウルシスター、ね。実感はないのだけど。黒江綾香や貴方に、ホイホイとアガートラームを使われてる事に鬱憤溜まっていたのよね。ここでそれを晴らすわ!」

「やはり、鬱憤溜まってたのか」

「当たり前よ。修行とは言え、日常的に纏って生活を送るなんて、私達から見れば、信じられない光景なのよ!?それに、『心象変化』も無しにあらゆる状況に対応して、概念武装を操るなんて、私達の常識を壊しに来てるの?」

「仕方ないだろう。概念武装は哲学兵装の上位に位置する。それに聖剣の力は一つではないのだし、あの子ら(立花響と暁切歌)の常識は異世界では通じないのほうが当たり前なのだがな」

箒の言う通り、シンフォギア世界で聖遺物とされるものは他の世界からすれば、先史文明が神造武器を模して造った模造品と推測されている。その事の間接的証明は、黒江のエクスカリバーのエネルギーが立花響のガングニールによる『エネルギーベクトルの操作』を受け付けず、響を数週間の昏睡状態に追いやった事例だろう。響はその後も何度か『概念武装のエネルギーベクトル操作』を試みている。宝具の力はシンフォギアがとても介入できるものでないという結論は、邪神エリスのゲイ・ボルグ、黒江のエクスカリバーで出されていたが、エリス戦に関われなかった(ゲイ・ボルグの直撃をどうにか逸したが、重傷を負ってしまったため)事もあり、その結論を受け入れるには、ガイちゃんの乖離剣エアとの対峙を必要とした。

「立花響はショックを受けているわ。キャロルごと『エリス』を黒江綾香と穴拭智子に倒された事での不満もあったのは事実だけど、居場所を奪われるのでは、と怯えている様子だったわよ」

「自分が必要にされなくなる恐怖も大きいだろうな。グレートマジンカイザーにしろ、ラ號にしろ、世界の『摂理』をねじ伏せられる力を持つ。それに、ガングニールはグングニルとロンギヌスの二つに存在が跨るから、まったく別の法則の世界では、神通力は発揮できんのだがな。おそらく、そのことであの子の『因子』が覚醒め始めるだろう。怯えているのは、『夢』という形で沖田総司の体験を見、自分のポリシーと相反する『悪即斬』の有様のせいだろうな。その事は大して影響はないはずだ」

「つまり、沖田総司の記憶を夢として見ているの?」

「そういうことだ。誰かと手を繋ぎ合うポリシーの自分が、刀で相手を無慈悲に殺しているのを一人前視点で見てみろ。否応なしに怯えるさ。」

箒の予測は当たっていた。英霊『沖田総司』の記憶を夢として見るようになった立花響はその衝動に『誰かと手を繋ぎ合う』事が侵される事に怯え、戦いに二の足を踏むようになってしまった。子供の切歌(彼女と別に、大人の切歌が参戦している)は響のその様子を『なのはの行いのせい』と解釈し、ボイコットに至った。なのはには弱り目に祟り目である。

「あの子の事はなのはには災難だろうが、英霊の自我の覚醒めは生前の想いに関連した何かをキーにして起こる。それを他者に分かれというのは酷だ。なのはには、いいお灸にはなっただろう。それと、後ろは任せたぞ」

「わ、わかったわ」

箒、ドリーム、ピーチ、のび太の四者が前衛になり、機甲師団を足止めに入った。後方の自走砲達をクリスが大型ミサイルを連射して吹き飛ばし、随伴の歩兵を四人が各々に蹴散らしつつ、拳、剣、エネルギー波、ジャンボガン、熱線銃(銃器の内、物騒なのはのび太)などが乱れ飛ぶ。

『アークプラズマ!!』

箒はアーク放電のライトニングプラズマで兵たち、戦車(種類を問わず)を薙ぎ払う。射手座を継承した証か、雷を操る。4両の装甲戦闘車両と40人の随伴歩兵が一撃で消炭になり、吹き飛ぶ。

『かれんさん、技を借りますよ…!プリキュア・サファイア・アロー!!』

ドリームがアクアから技を借り、水の矢を手当たり次第に射て、陣取った砲兵を陣地ごと射抜く。弓道の心得は生前は無かったが、錦から得た技能と生前のキュアアクアの戦闘の記憶からの行為であった。

「ドリーム、観測兵を打つんだ!そうすりゃ、砲兵は盲目のでくのぼうになる!」

のび太は珍しく、オートマチック拳銃でのガン=カタで戦闘を行う。砲兵は観測手段が無ければ、何もできなくなる。近世以来の砲兵の無力化のセオリーで、のび太はそれを指示する。指示を出した後、のび太は突っ込むピーチのカバーに回っていく。ピーチ/桃園ラブは歴代でも有数の格闘センスを持つ戦士であるが、生前はダンサーだったという。芸能活動をしつつ、裏で戦闘要員。その点はプリキュア5のキュアレモネードと似ているが、ピーチは立場的に、ドリームの後を継ぐ戦士であるのが最大の違いである。戦法はパンチのラッシュを多用する傾向があり、若干ながら、星矢に似ている。

「格闘技はダンスって言う人居るけど、ダンスは極めると格闘技になるって実感出来るよ。要するにリズムとタイミングを支配して相手のリズムを壊して、タイミング合わせさせないのが近接戦闘の基本だしね。僕は相手のリズム壊すしか出来ないけど」

「そっか、だから…あたし、自然に格闘技できてたんだ〜…。うおりゃあああっ!」

ピーチはパンチのラッシュを浴びせ、銃剣を振りかざして、バカ正直に来た兵士をノックアウトする。掛け声が気合あるものなので、のび太に関心される。

「こりゃすごい」

「久しぶりだし、体訛ってるなぁ〜。これじゃ、肩慣らしにしかならないよ」

「余裕だね」

「そりゃ、現役退いても、オールスターズで呼ばれてたしね」

ドリーム、ピーチは初代と代が近い故、年月を経ると、後輩がメインになってきて、自分達で戦う機会が減っていったが、最低限、戦いのカンを維持できる程度には戦いが後々まであった。それを示唆するピーチ。

「そう言えば、君、ある時に遊園地のチケット無くしたとか見たけど、あれはいつだったか…」

「つぼみちゃんたちと会った時だから、2011年か、その一年前だよ。やられそうになって、焦ったよ、あの時」

2011年前後を『過去』と明言しつつ、格闘技の技能は歴代随一であるところを見せるピーチ。仮面ライダーで言う『ライダー投げ』を行ったのである。更に、流れるような動きで掌底での顎のかち割り、膝蹴り、ドロップキックを連続で行い、息一つ乱さない。その彼女を圧倒出来る『世紀末系拳法』の伝承者達が如何に超人であるかの証明でもある。

「前はかっこ悪いところ見せちゃったけど、伊達に、『古参』って後輩に言われてないんだ。ここらで汚名返上といくよ!」

構えを見せるピーチ。構えは戦い慣れしている格闘家のそれであり、戦歴の長さが伺える。

「ドリーム、ダブルキックでいくよ!」

「うんっ!」

『ダブル・プリキュアキィィ――…』

「ダメダメ、もっと回転とひねり入れて!戦車の装甲をぶち抜けないよ!」

「え、今ぁ!?」

「なら、反転きりもみキックだ!V3さんのお家芸!単純なキックで破壊できない時は反転するか、きりもみキックだ!」

『う、うん!」

二人はのび太に言われるまま、キックを当てた後、そこを起点に反転して飛び上がり、きりもみ回転を加えたキックを更に浴びせた。怪人の装甲が強くなり、単純なキックで致命傷を与えられなくなった仮面ライダーV3が考案し、多用したキック技である。キックはM4の正面装甲を破壊し、車内の乗員を殺傷する効果を挙げた。

「回転がイマイチだね。回転を強くして、相手をドリルのように蹴り破るのが目的だしね」

「い、今ので足りないって、上が?」

「二号ライダーの卍キック、ストロンガーの超電子ドリルキックがある。ドリルキックまでいくと、回転力で全てを粉砕するからね」

錐揉み回転を加えた飛び蹴りは仮面ライダー二号、V3、ストロンガーが得意とする。その中でも、ストロンガーの超電子ドリルキックがその最上位技として君臨している。当たると相手の首を跳ね飛ばす事から、文字通りの必殺技と言える。

「それするとどうなるの?」

「相手は、必ず首が飛ぶよ。それがたとえ、改造魔人でもね。そこまで行けとは言わないけど、キックを磨くんならってことだよ」

「首を跳ね飛ばす、かぁ…。インパクトあるし、目指してみるかな?」

天使を思わせる柔和なコスチューム(羽つき)の二人が言う台詞ではないが、キックで仮面ライダーの右に出る者はいないというのは、メタルヒーロー、スーパー戦隊も認めるところだ。


『さて、うるさい自走砲と戦車駆逐車の隊列に穴を開けてくれる。ギャラクシアン・エクスプロージョンッ!!』

箒がいい位置に移動しようとする両車種の隊列に割り込み、そのど真ん中でギャラクシアンエクスプロージョンを発動させる。ギャラクシアンエクスプロージョンは範囲技であるため、随伴の軽戦車と歩兵もまとめて巻き込む。

「お、箒さん。派手にやるなぁ。ギャラクシアンエクスプロージョンで十数両は巻き込んだんだな、凄い爆煙」

「うわぁ…。さすが黄金聖闘士。技一回でこの威力。スターライトソリューションが子供の悪戯みたいだよ〜…」

黄金聖闘士は神の闘士である。このくらいは軽いものであり、スーパープリキュアを遥かに超える。未熟な若輩者とされる箒のギャラクシアンエクスプロージョンで機甲部隊を巻き込む大爆発を起こせるのだから、格の違いが分かる。

「これでもだいぶ抑えているのだが?本気だすと、この一帯が更地になるしな」

「箒さん、若輩者って言っててこれですか?」

「そうだ。私は青二才だしな」

箒は光速で移動し、ドリームたちのもとに戻る。それと同時に、爆発で飛ばされたM5軽戦車の転輪の残骸が音を立てて地面に落ちる。当時、日本の背広組が懸念した『M24軽戦車』など、影も形もなく、M5が最新の軽戦車であった事の証明である。ここで箒はドジを踏む。吹き飛ばされてきた転輪が脛に当たって悶絶し、プリキュア達の笑いを誘ったのだ。

「つっ〜…」

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「笑いながら言うな!…言っただろう、若輩者と」

普通の人間なら骨が折れるが、黄金聖闘士の場合は『タンスの角に小指をぶつけた』程度で済む。箒は涙目、ドリームとピーチは吹き出している。

「こらこら。あまり笑わない。武士の情けだよ、君たち」

「わぁー、凄い頑丈ですね。ちょっと赤くなる程度ですか。プリキュアだと変身していても打撲傷くらいにはなりますよ」

「そ、そうか」

「ん、この転輪はM5か」

「M5?」

「軽戦車としては割に新しめの車種さ。M3に代わって出して来ただろうから、まだ先行配備だな。誰だよ、チャーフィーやウォーカーブルドックがどうの煽った官僚」

「まったくだ」

箒とのび太が互いに頷く。史実での軽戦車としての最高峰と言えるM24、M41など影も形もない事の表れであり、のび太が参加した評議会で背広組系の官僚がやたら煽り立てていたのが、その二つだ。史実では、M41は朝鮮戦争後の開発であり、第二次大戦にはあるはずがない。M24は初期型がバルジの戦いで初陣を飾っていたが、技術進歩の遅れていたウィッチ世界では、まだ素案の段階である。

「現地の調査せずに、聞いた時代からの推測で計画立てるから、こういう事になるんだ、本当に内勤連中は…」

のび太も呆れるばかりである。史実と違い、ウィッチ世界では、通常兵器は数年の進歩の遅れがあったのだ。ティーガー系もパーシング系もセンチュリオンも、テコ入れでどうにか出したに過ぎない。リベリオンの取る軍事ドクトリンに気を配らない官僚の無能ぶりが露呈したと言える。

「ん、M4が遠距離射撃で擱座した。騎兵隊が来たようだよ」

のび太の言うとおり、74式戦車の中隊が援護にやってきたのである。74式戦車は派遣にあたり、扶桑で改修を幾分受けた状態になっており、G型相当の姿である。扶桑で実戦を積むにつれ、G型への改修が現地でなされるようになり、マドリード攻防戦で撃破車両が出た事から、H型とも言うべき改修がなされ、砲塔は16式機動戦闘車の部材で改修されている。また、砲塔を16式のモノに取っ替えた車両も出ており、泡を食った官僚と野党が10式の増勢に同意する事態にもなった。援軍の陸自は原型通りの74式が6両、改修されたタイプが6両と半々であった。

「野比のび太調査官はおられますか」

「私ですが」

「黒江統括官からの指令で援護に来ました。私達が後退を援護します。直に米軍のF-16が近接航空支援に来ます」

「ご苦労さまです」

中隊指揮車に乗っていた自衛官がのび太に挨拶しに来る。指揮車の車長だったようで、階級は佐官であった。黒江の指令で援護に来たと言い、のび太達を守るように、中隊を展開させた。ちょうど、二両を車体をダッグインし終え、一部は『ハルダウン』した状態でのアウトレンジを意図した配置である。彼が車両に戻ると、のび太がマリアとクリスを呼び、戦車隊の側面に展開させ、プリキュア達も念のため、空中に展開する。

『全車、プリキュアとシンフォギア装者の前だ、しっかり仕事をやれよ』

彼のその一言が合図になり、戦闘を始める。(潜り込んで、そのまま自衛隊の外征責任者に登りつめた黒江曰く、『状況開始』は実際の戦闘では、言うか、言わないかは意見が分かれていて、微妙だそうだ)74式は乗員の高練度もあり、アウトレンジ攻撃でM4、生き残ったM5などを始末する。プリキュア達も必殺技で、のび太も対物ライフルで軽戦車を狙う。こうした攻撃で機甲師団の進撃は完全に蹉跌を余儀なくされ、ほうほうの体で撤退していく。通常、軍事的に30%も兵力を失えば壊滅と表現されるので、残存兵力が50%も無くなった彼らは主力が壊滅したと差し支えない。更に、米軍の近接航空支援も始まり、おびただしい数の車両がただ一回の会戦で人員ごと失われたというのは、リベリオン本国軍も流石に顔色を失うだろう。


「…やった。中戦車だけで60両近くを人員ごとやったから、流石に相手も顔色を悪くするだろう。制空権のない機甲部隊はこんなものか」

のび太が事の収まった戦場を見回す。皆で地形を変えまくったため、丘の数が減り、原型を保って擱座した戦車の数は意外に少ない。また、機甲師団というのは、装甲車も多数がいたのだが、ギャラクシアンエクスプロージョンで部隊ごと消滅したので、跡形もない。M7自走砲の残骸もわずかに確認できる程度だ。多くがこの当時の最新兵器であっただろうので、この損害は司令部の顔色を失わせるだろう。

「のび太。こうもあっけないものなの?」

「互いの実力に差があれば、こういう結果はまま起こった。欧州でも、ドイツ軍の戦車エースは一回の会戦で20両から30両は破壊したって記録が残ってるからね。米軍系軍隊でも、機甲師団の主力が壊滅したって事は顔色を失うだろう」

当時、リベリオンはティターンズの指令で、通常兵器主体の機甲師団を次々と編成していたが、付け焼き刃が否めないもので、こうした出来事は彼ら相手でなくてもまま起こっていた。主力がM4というのは、当時に最新の中戦車であったからだ。現場の運用術も歩兵支援のドクトリンが色濃いものであったのは致命的遅れで、機甲師団の機動戦を殆どせずに壊滅する師団も続出した。これは兵器の性能差もそうだが、練度の差、戦訓不足も重なった結果であり、M4中戦車の性能不足を嘆く声はリベリオン陸軍地上軍管理本部も進撃の躓きが各地で起きると、無視できるもので無くなった。史実米軍の『兵器の数を揃えつつ、種類を統一して稼働率を上げ、物量で押し切る』ドクトリンは制空権を確保できない戦場では意味がないのである。司令部もスキャンダルを恐れ、流石に重い腰を上げ、M26/M46の配備を始めていたが、それらはまだ少数であり、それらの配備に多くの将兵の犠牲を必要とするあたりは、米国への皮肉でもあった。

「さ、今のうちに後退しよう。流石のリベリオンも、すぐに後続を送り込むのは躊躇するだろうし、自衛隊の気づかいにも答えないとね」

「分かったわ」

のび太は一同を率いて、後退する。飛行可能な二人は自前の飛行能力で、のび太とマリア、クリスはミニ・クーパーで後退する。マリアのギアが制限時間を迎えたのは、車内での事だった。箒は光速で動けるため、自分で瞬時に基地に戻った。

「ちょうど、5、6時間……。今の段階の適合係数では、このくらいが限界ね…」

「改良型でこのくらいか。あいつ(切歌)もだいたいはそんくらいか。帰ったら体内洗浄として、プリキュアや聖闘士に比べると、ぱっとしねぇ事が増えたな。響が嫉妬するのも無理ないぜ」

「まあ、君達は聖遺物の欠片、他の世界からすれば、コピー品というかもしれないものを鎧に再構築したモノを使ってるからね。聖遺物そのものを使う聖闘士はいざ知らず、歴代のプリキュアと並び立つには、インパクトが足りないね」

「そーいう問題か?」

「まあ、あの子の拳にしろ、翼ちゃんの剣にしろ、君の火器にしろ、上位互換みたいな子たちがいるしね。ISよりは強いけど、スーパー戦隊には一歩及ばないってのが僕の印象」

「翼は経緯上、武士道に傾倒しているから、黒江綾香がいた頃はよく突っかかっていたのだけど、それ以上に特段の訓練を受けてないという、あの子、いえ、転生者である以上は『あの人達』って言うべきかしら。…が、自分以上に強いことに腐っていたわよ」

「でも、黒江『将軍』の事だから、指導模擬戦闘になってたでしょ、皆に対して」

「ええ。立花響は手も足も出ないという感じだったし、翼は遊ばれていたし、切歌は正体わかってからは怖がってたわね」

「ま、別人と分かれば、ね」

「でもよ、あいつ(立花響)は何が嫉妬の理由なんだ?わかんねぇ」

「たぶん、何もない少女がひょんな事から、世界を救える存在になったからだろうね、クリスちゃん。それがプリキュアの根幹なんだ。何も持ってない女の子でも『変われる』、『仮面ライダー並に強くなれる』っていう願望の象徴でもあるんだ。あの子の事は調べさせてもらったけど、中々にハードな人生なのは分かる。とは言うものの、少々、中二病入ってないかい」

「翼も立花響も、天羽奏が死んだせいかもしれないわね。特に翼が顕著よ。ギャラルホルンで近隣世界の彼女には会えるようになったのだけど、私達の住む世界での彼女は死んでいる事には変わりはない。これは私の妹のセレナも同じことね…」

「なるほど。それでね。仕方ないさ。プリキュアは平行世界に跨って何代にも渡って存在してる上、得られる力は膨大なんだ。願いや希望の光のようなもの。ただし、その中でもいくつも枝分かれしてる世界があるから、いくらプリキュアでも、大人になってからの人生が幸福に満ちてるとは限らない。のぞみちゃんはそんな世界からの転生者さ」

のび太はルージュ/りんから、のぞみが『後半生に孤独を味わった』世界からの転生者である詳細を聞かされている。その上で、のび太はりんに『自分の知る存在と別の存在であるのぞみちゃんは、君の知る彼女とは違う。それでも彼女を支えるのか』と問い、りんは覚悟を決め、『たとえ出身世界が違っても、のぞみはのぞみよ。幼馴染の私が傍にいないと。あの子のことは…、私が一番分かってるから』と即答している。同時に、りんは精神的成長を垣間見せ、のび太を感心させていた。(のぞみはりんの言葉に感動し、かつてと同じようにつるむ事も増えている。これが後の時間軸で、りんが記憶喪失に陥った際、のぞみが怒り狂い、荒れる原因であった)

「君達ばかりが不幸じゃないさ。あの子たちも、大人になって苦労したんだ。誰しも、順風満帆な人生を送れるわけじゃない。僕も高校、大学で苦労したしね。おふくろに不思議がられたもんだよ、高校に一発で入った時は」

のび太は大学以降でその潜在能力が完全に発揮されたが、中学までの成績は地を這っていた。そこを指して揶揄する声があるのも事実だ。ちなみに、子供時代の悪評が全国に広がったのは、竜の騎士の出来事の際、母の玉子がバンホーから送られてきた0点の答案の束(算数)を転んだ拍子にばら撒いてしまった事によるもので、のび太にある誹謗中傷の原因のいくつかは、母の玉子に原因があると言える。のび太はそんなアクシデントにもめげず、高校以降は射撃部で名を馳せ、大学も補欠入学で入り、24歳で入籍、翌年にノビスケが生まれている。30代に入った頃には東京五輪にも出場している。玉子が落ち着いたのは、のび太が22歳を迎えた後なので、高度経済成長時代によく見た『教育ママ』のように振る舞っていたのは、『人より大きくなるのが遅れていた息子を一人前にする』という決断によるもので、それに一定の歯止めをかけられる存在がのび太の祖母であり、ドラえもんだったとも取れる。

「おふくろは、僕をどうにか一人前にしようと躍起になってた節があってね。子供時代は教育ママってのがピタリ来るほどだった。僕に完全に寛容になるには、成人した後を待たないとならなかったし、ばあさんが死んだ後は教育ママになったしね。おふくろの場合は僕が不肖の子だったからかもなぁ」

のび太は玉子を慕いつつも、子供の頃の説教にわけがわからないものも多かった事に成人後になって思い至った事から、手放しに玉子に感謝しているわけではないらしい。(玉子がのび太に寛容になるきっかけは複数ある)その点は、のび太も母親に複数な心理を持つと言えよう。また、のび太は調と出会う前、22世紀のロボット裁判所で懲役刑に処されそうになった事があり、22世紀の他国が『法の不遡及の原則に反する!』と危惧した事が、統合戦争で人工知能技術の衰退を裏の目的にした理由であった。つまり、ドラえもんの暮らした社会の崩壊は『美談』であるとされる、この事例が遠因になったとされている。(23世紀で廃墟になっていたロボット裁判所から、辛うじて回収された記録で確認された)

「僕も22世紀のロボット裁判所で裁かれそうになってね。10歳くらいの頃は夢オチって思ってたけど、綾香さんに頼んで、23世紀で廃墟になってた東京のとある区画を調べてもらったら、本当にあった出来事だって分かった。統合戦争の要因は『過去の人間を、しかも子供を刑事罰に処しようとしたこと』が大きいって悟ったよ。被告が自国の繁栄に貢献した太人物になるって事を調査せずにね」

ロボット裁判所は記録によれば、人工知能ロボット技術の衰退と社会の崩壊、その原因たる統合戦争で有名無実化し、既にドラえもんズも次元の狭間に消えた後の2140年代前半にに閉鎖された。のび太が自国の偉人である事から、管理運営に問題があると見做された事も閉鎖に至る理由だという。

「僕は日本の偉人であると同時に、ロボット裁判所に出された被告人さ。同時に、統合戦争の遠因を作ってしまった男さ。その償いをしたいのさ、統合戦争の犠牲者のためにもね」

のび太はそう自嘲する。自分は日本連邦の繁栄に貢献したと同時に、23世紀の戦乱期の最初の原因を自覚なく作ってしまった事に罪の意識を感じていた。その償いをするという意識が、のび太の転生にも深く関わっている。もっとも、ロボット裁判所のミスは『過去の人間を感情的に裁こうとした』事なので、(裁判中に『偉人』である事が判明した上、のび太の人柄が誠実であるのと、被告人が子供であるため、今後の戒めのため、執行猶予付きの判決を出すつもりであったらしい)そこがロボット社会そのものの崩壊の序曲になったのは皮肉である。一見して、清廉潔白なのび太だが、ロボット裁判所に出廷した(結果は無罪だが)という過去を持ち、その事が11歳以降の精神的成長に繋がった。その出来事そのものが統合戦争の遠因になったという事に責任を感じるあたり、のび太の優しさがよく分かる。のび太が未来で戦う理由の一端。それが優しさに根ざすものだと知り、調が惚れた理由に思い至るマリアだった。



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