外伝その313『日本軍の残光5』
――黒江達が戦闘に入る頃、日本連邦評議会では、前線からのクレームと、軍隊への志願数の目に余る低下が扶桑から問題提起され、徴兵がダメとなり、志願数そのものも大きく低下したため、前線の人員補充が難しくなっていると扶桑軍は表明し、日本からの義勇兵を大きく増やしたいと伝えた。徴兵は扶桑が男性兵士を確保する手段だったし、志願は主に将校やウィッチ志望者に限られていた。しかし、兵卒まで志願制に完全に移行させると、軍隊に行く人数がそもそも限られてしまい、人員の量の確保が難しくなってしまうという反対論が陸軍に根強かった。『ウィッチ世界では国土が近世以降、日本列島のみではない事、国際連盟(後の国際連合)常任理事国である故の軍事的義務である』(日本も、戦争で勝ったために領土が広がり、領土警備などに四苦八苦しているので、強くは言えなかった)という事実があるため、制度の変更(適性検査という事にされた)に伴う混乱を避けるため、義勇兵をより集める事は了承され、ロシアの弱体化で余剰になる自衛隊の東北/北海道の戦力を『埋め合わせ』という名の『取引』で追加派遣させることが取り決められた。政治とはそういうものである。また、扶桑本土での扶桑向け兵器の生産も正式に了承された。日本も中道右派の政府・内閣は扶桑の国際的地位を前々から認識、配慮していたが、革新政権と現在の野党の無思慮さにより、扶桑は様々な弊害を被った。日本側の調停が結果的にウィッチの世界の『慣習』をぶっ飛ばしたのも事実であったが、歴代のプリキュアが転生してくるとは夢にも思わなかった。のぞみが錦としての軍籍を、みなみが竹井としての軍籍を持っていたのは僥倖であり、同様に確認されたプリキュアは戦闘行為の合法化と身辺保護を兼ねて、原則的に軍籍を与える事になった。その仲介役が青年のび太であった――
――この頃、『ドイツ領邦連邦』による過剰な軍縮はウィッチ世界の世情不安を余計に煽ったと批判を受けたが、今更、『やっちゃったものは仕方がない』ため、扶桑がその代わりを担えという事になり、その要請のため、国際連盟の主要構成国が連名で日本に軍事的負担を求めるに至り、扶桑に負い目がある日本は『それ』に応えるしか、選択肢はなかった。外的圧力で軍事強国に戻るというのも、戦後の日本らしい顛末であった。しかし、兵力の急激な大規模供出のみは国内特有の事情で不可能であり、第三国の要請という形で、何回かに分けての小出しにする手法が取られた。そうでないと、野党が国会を振り回すからだ。ロシアへの勝利で、野党は国防を『縛りたくとも』外圧で不可能になっているのを呪う状況である。また、いろいろな改革で、扶桑海軍は法務士官がトラブル対応のために艦に乗り込む事になるわ、士官が下士官や兵の揉め事に介入する事が義務付けられるなどの軍規改定でパニック状態である。陸軍も、士官は必ず前線に立つべしという『参謀の否定』のような提言が一般層から出されるなど、大変な混乱に見舞われた。(後に前線の師団幕僚が立身出世の通過儀礼となる)背広組が史実で無能とされた参謀たちを陸海を問わず、まとめてアリューシャン諸島にぶっ飛ばしたため、前線勤務の参謀が有能とされる数人しかいなくなり、現地がパニックに陥ったため、自衛隊の幹部自衛官を急遽、穴埋めに派遣する羽目になるなど、ダイ・アナザー・デイでは多くの不都合が生じた。その結果、前線のサボタージュが頻発。歴代のスーパーヒーローとヒロインに頼ることが多くなってしまった事が、連合軍最大の誤算だろう。また、ドイツがカールスラント系部隊を八割も自分の都合で撤兵させた事の穴埋めも課題であった――
――統合参謀本部『サンダーボール』――
「ロンメル。貴様、ドイツに更迭されそうだったそうだな」
「同位体が総統のお気に入りだったってだけで、二階級降格されそうになったよ。息子も王室親衛隊には入れてないというのに」
ロンメルは息子のマンフレートが王室親衛隊寄りの発言をした際、『私の前で馬鹿げた事を話すな!!』と強く叱責するなど、古き良きプロイセン軍の伝統を守っている。ロンメルは軍人としては極めて優秀であり、後方に詳しくないというだけで更迭を提言するドイツ連邦陸軍はキングスユニオンの失笑を買っている。見かねた圭子が電話で、『ロンメルは前線で働せろ。奴には後方に詳しい副官でもつけとけ』と言ってくれたため、更迭を免れた。
「ケイが圧力かけてくれなければ、危うく閑職だ。連中はゲーリングのデブで満足せんのか?」
「反ガランドの連中は悪漢扱いで更迭されたというからな。扶桑の参謀や外交官僚のように」
パットンの言う反ガランド派はハヨ・ヘルマン大佐、ディートリヒ・ペルツ少将など、そこそこの功績を持つ者も含まれていた。だが、ドイツ連邦に粛清人事をされてしまい、閑職に回されて事実上は失脚している。44戦闘団設立の妨害工作の罪でだ。(彼らは軍事法廷で『司令級や教官のウィッチを好き勝手に引き抜いたりしているのを黙認する訳にいかなかった!日本連邦の64とは、設立の趣旨が違う!』と必死に反論しており、日本の知る44とは事情が違うことがわかる)
「むしろ、我が空軍の44はジェットの実験部隊であって、64のような『超絶強い、全軍最強の部隊』ではないのだがね。ガランド君も苦笑していたよ」
「人事裁量権は持っていたが、断られる事のほうが多かったと聞いている。精鋭はむしろ、64への対抗で集まってきたとも」
「やれやれ。64の陣容はこちらのほうが慄くんだがね。若い子らが殆どおらず、幹部は『七勇士』で固められている。モンティが驚いてるよ。普通なら戦線の司令級が一隊員扱いだ。上位編成も置かぬ司令直属部隊なんてのは、異例すぎる」
「しかも、ほぼ全員がオクタブルエース?日本連邦の連中はアクロバットチームでも作って自慢でもしたいのか?」
「戦線からトップエースと敏腕整備員を根こそぎ引き抜いたというからな。頭おかしいのかと、ウチの空軍は裏で言っている」
「ダブルで広報に行かせないのか、日本は」
「連中の気質は『前線で大将首を上げたほうがエライ』なサムライだ。義勇兵は飛行機で戦艦に突っ込むんだぞ?戦闘狂じみてるよ」
パットンは対艦特攻も辞さず、空母を鬼の首を取ったように狙う義勇兵の敢闘精神を狂気の沙汰と評した。行為は英雄的だが、なぜ、『そうするのか?』と考えるからだろう。
「昔、ブリタニア騎士団を扶桑のサムライが蹂躙した記録があるが、その中にあの三人の先祖がいたそうな?」
「冗談はよせよ、ロンメル。いくらなんでも、そんな偶然…」
「私がこんな時にジョークなど言う質か?ケイをモンティが腫れ物に触るようにしてただろ、ある時から。調べたらビンゴだ」
ロンメルはモントゴメリーが圭子を異常に恐れ、いつからか、腫れ物に触るようにしていた事の裏事情を調べた。結果、モンティの先祖が圭子の先祖にボコボコにされた事がわかった。大英博物館に圭子と黒江の遠い先祖が使用していた刀が保管されていた事もわかったため、あの三人は英雄になる宿命である事をロンメルは悟った。
「本当か」
「数百年は昔のことだし、ブリタニアに都合の悪い記録だから、あまり詳細には残されていなかったが、どうにかな。それで私は扶桑の若い子らを説き伏せる役目を与えられた」
「扶桑の広報戦略は失敗か」
「そうなる。『みんなでできること』もいいが、『君こそ勇者』って場合もあるのを理解しなかった扶桑海軍の大失態だ」
「連中は空戦の公式記録を破棄するようにしていたから戦闘諸報頼り、それにも虚偽を疑われる。若い連中は怒るだろう」
「それでなんと言われても、海軍には打つ手はあるまい。坂本少佐は引退表明をしているし、せっかくの記章も無意味だろう」
海軍は空軍への人材流出が甚大な事に今更気づき、公的に撃墜王の名誉を讃える記章を制定したが、時既に遅しであった。前史でも『今更…』と謗られた場当たり的な対応であり、ロンメルとパットンにまで冷ややかな目で見られる始末だった。この場当たり的対応と、公式回答のまずさが、後に海軍航空の汚点と評される事になるのだ。空軍に宮藤芳佳までもが移籍したのは大誤算であり、芳佳は『海軍航空は同調圧力強いし、居心地悪い。坂本さんの顔は立てたから、空軍に行きますわ』と坂本には内緒で源田に言っていたため、坂本はショックを受け、一時は酒びたりになるのだった。(坂本のイエスマンと見られていた事はなぜか。坂本が教官としては典型的な『オレについてこい』タイプだったこと、芳佳は今回、公の場で、我の強さを表立っては見せなくなっていたためである)
――さて、前線はどうか。ヴェネツィア海軍はおおよそ史実のイタリア海軍より規模が大きく、ロマーニャ海軍の同型艦を別個に整備するなど、意外に大規模であった。前史ではグレートマジンガーにあっさりと殲滅させられた彼ら。今回はまともな艦隊戦にはありつけた。ただし、扶桑があの手この手でかき集めた空母機動部隊の空母航空団の洗礼を浴びる羽目となったが…。今回、プリキュア達は飛行訓練の途上であるので、変身した状態で飛行可能な者のみが攻撃に参加した。パワーアップ変身が可能な者なので、人数は多くはない。スカイレーダーや流星改と護衛機に随伴する形で、航空攻撃に参加した。敵艦隊は戦艦を要していたが、対空防御研究が遅れていたため、カイオ・ドゥイリオ級、コンテ・ディ・カブール級戦艦らは阿鼻叫喚の地獄を見ることになった――
――扶桑艦隊が発艦させた航空隊は、レシプロ攻撃機が50、戦闘機が60、ジェット戦闘機(戦闘爆撃機含め)が60、それとエンペラーオレオールを装着して空を飛ぶ黒江に随伴する数名のプリキュアである。黒江の指示で、まずは流星改とスカイレーダーが攻撃を仕掛けた。急降下爆撃と雷撃だ。流星改はリベリオンの計らいで、スカイレーダーに更新の目処が立ったため、実質的にダイ・アナザー・デイが同機が活躍する最初で最後の機会であった――
「よーい、て!」
義勇兵の駆る流星改。防弾装備がまともな日本系では唯一無二の艦上攻撃機である。史実よりも馬力に余裕があるため、スカイレーダー(完成時はデストロイヤーUとの名があったが、スカイレーダーのほうが何かと通りがいいため、正式に変更されたという)にそれほど見劣りしない運動性能を発揮。その防弾装備もあり、対空砲火を潜り抜ける。高性能の炸薬を積む航空魚雷がソルダティ級駆逐艦の数隻へ向かい、命中。喫水線下に大穴を穿ち、同艦をあっさりと転覆させた。その前を航行していた、(史実と違い、ちゃんと竣工していた)コスタンツォ・チャーノ級軽巡洋艦もあっけなく、一隻が二発の魚雷で大傾斜し、戦闘続行不能に陥る。
「よし、次はトレント級重巡洋艦だ!奴を狙え!!」
どんどん突撃する流星の部隊。全機が雷撃装備であり、防空研究が立ち遅れのイタリア海軍相手には、複数機による同時攻撃の必要はなく、史実では省かれる予定であった防弾装備(機体軽量化のため、量産機は省かれたという)もエンジン換装、カタパルトの能力向上と普及で予定通りに備えられたため、効果を発揮した。スカイレーダーが彗星のように現れ、国産既存艦上爆撃/攻撃機の全てを駆逐するのが空技廠やメーカーに恐れられたからで、既存機の予備パーツの生産一時停止の余波にも関わらず、流星はダイ・アナザー・デイでは予定通りのスペックを持った状態のものがまとまった数で運用された。ジオンのリック・ドムUのような配備状況になったものの、既に完成済みの機体は送られ、一定数が出回り、使用された。ひとえに、尾張航空機(愛知航空機相当)の努力と意地であった。その次はスカイレーダーの急降下爆撃である。搭載量がレシプロ単発機としては傑出しているため、ザラ級重巡洋艦に2000ポンド爆弾が雨あられのように降り注ぐという悪夢が現実化した。
「うーん、イタリア相手にはやりすぎかな」
エンペラーオレオールを装着し、自前で飛行する黒江。スカイレーダーと流星が雷撃と急降下爆撃を行い、ヴェネツィア海軍の別働隊を叩きのめす光景に、『予想以上に楽観していいものだった』と実感した。全てにおいて、重防御の米軍艦を前提にした攻撃装備は、イタリア艦相手には過剰なほどの威力だった現実が表れたからだ。
「…とはいうものの、ライオンは兎狩りも手抜かないっていうのがあったし、駄目押しだな」
黒江は駄目押しに、本命のジェット機部隊を突撃させた。様々な時代のジェット機の混成編隊であった。コア・ファイター、コアブースター、セイバーフィッシュ、ブラックタイガー、コスモタイガー、コスモ・ゼロ、F/A-18E/F、A-4、VF-11、VF-171、VF-19がごちゃ混ぜになった大編隊で、もはや敵が哀れになる布陣であった。当時、ジェット機とミサイルを前提にした対空防御のノウハウを有している海軍は『世界三大海軍』を除いてはなく、高出力のビームやパルスレーザーすら使用されたため、ヴェネツィア海軍は正しく、地獄を見たと言える。
「こりゃ、蹂躙だな」
敵軍はミサイルやレーダー、ビームに為す術もなく破壊されていく。戦艦には鏡面処理やビームのダメージ緩和処置はされていたが、怪異のそれを前提にしていたため、メガ粒子砲やパルスレーザーには無力であった。そのため、敵艦と放火を交えることも無いまま、ヴェネツィア海軍の別働隊はただ一回の航空攻撃で八割が海の藻屑となった。
「先輩。これ、まともな戦闘になりませんよ」
「普通に宇宙時代の兵器で第二次世界大戦の兵器を攻撃すりゃ、自ずとこうなる。幼稚園のガキでもわかるが、日本の連中は『圧倒的絶望』が好きらしいからな。連中が可哀想なくらいだよ」
日本の一般層は太平洋戦争のトラウマで、圧倒的な蹂躙を好む傾向がある。政治家もマレー沖海戦や日本海海戦のような劇的勝利を強要する傾向がある。そこまでの勝利など、どんな有利な状況でも滅多にない。かのルウム戦役でも、ジオン艦艇の多くは沈んでいるのだ。
「戦闘って言えないな、これ。いじめだな。第二次世界大戦の兵器に宇宙時代の兵器をぶつけるんじゃ、T型フォードの全盛期のレースに、ジャガーEタイプとかアストンマーチン持ち込んで、ぶっちぎるみたいな大人げなさがある」
「アストンマーチン?」
「007でお馴染みの車だ。のび太が好きでな。確か、28歳の頃にはボンドカーと同型をオークションで落としたとか…」
のび太は28歳になると、かなり車の趣向が映画じみてきており、ミニのS型やアストンマーチンのクラシックカーを買うなど、かなり道楽に金を使っていた。オートスポーツ同好会の幹事であるのを言い訳に、アストンマーチン・DB5を買うなど、道楽者である事を窺わせる金遣いを見せている。ただし、スクラップからの再生車であり、可動車ではなく、自前でレストアするなど、妙にケチでもある。
『プジョー・403』(某刑事ドラマで有名)も28歳頃には日常の足代わりに再生しているなどの傾倒ぶりだ。また、青年期以降はチリコンカルネが好物に加わっているという。
「のび太くんって、意外に道楽者ですね」
「ガキの頃、親から『男らしい趣味を持て』と発破かけられてたせいだよ、あいつ。ただし、レストアで走らせるけど」
「意外な感じ……」
「あ、戦艦が転覆していきます!」
「ドリーム、ピーチ。高度を上げるぞ。戦艦がああやって沈むと、誘爆で爆炎上げるからな」
敵戦艦が魚雷で空いた穴からの浸水で傾斜し、転覆していく。戦艦といえど、沈む時はあっさりと沈む。史実の武蔵は超特別なケースで、たいていは転覆すると、弾薬庫か機関が爆発して爆炎をあげる転覆していく。戦艦から、次々と乗員が海に飛び込むのも見える。戦艦の沈没となると、一種のパニックである。大和もそうだが、そうなると、沈没後の船体はバラバラになるのもお約束である。そして、船底が見えた状態で沈んでいき、水中で大爆発を起こす。
「すごい爆発……」
「転覆で主砲の弾が誘爆したんだ。大和もそうだったが、これの数倍は大きかったらしい」
「イタリアの戦艦って、なんで一、二発で転覆を?大和は…」
「バーロー、戦艦の究極とイタ公の旧式と比べてやんな。改装されてるはずだが、リットリオの言ってたプリアーゼ式の防御は机上の空論だったってことだろ」
黒江は艦娘のリットリオにプリアーゼ式の理論を聞いていたらしいが、実戦で効力を発揮しないという事実にため息である。ただし、これは酸素魚雷やミサイルを撃ち込まれたからで、イタリアがどういう魚雷を想定していたのかは不明だが、実験では良好な結果であったので、黒江の『机上の空論』は些か暴論に近い。また、日本での記録での『インペロ』(ローマ級かつ、ラ級)の戦力を最弱と評価するなど、イタリア人憤慨ものの評価を出す事も多い黒江。リットリオが『弱くないですー!』と抗議するのも当然だろう。
「先輩、イタリアの兵器の評価低いですね?」
「ベレッタとか、『いい』のはあるが、全体的な質が安定しねぇのはな」
イタリアについて、車のことで納期が遅れたせいか、イタリア人の職人気質を嫌っているらしい。一点物に強いが、量産品は納期が遅れるというのが、黒江のイタリア観である。
「スポーツカーはいいのができるんだが。ランボルギーニだろ、フェラーリだろ…」
「え?でも、イタリアのはすぐ燃えますよ?取り扱い間違うと」
「ま、俺、一級整備士資格あるしな」
ピーチは生前にスポーツカーを買って、乗り回していた経験があるらしいが、黒江は整備士資格を持っていると明かす。元々、陸軍航空部隊はパイロットも一定の整備の見識を持つ事が慣習であったため、黒江はその延長線で整備士資格を得たらしい。
「先輩くらいですよ、整備士で食っていけるくらいに身につけちゃうの」
「だから、審査部でいじめられたんだよ、俺。他の連中は具体的に説明できんかったしな」
ドリームが言う。黒江の整備に関する知識は一級であるが、同等の知識を持つウィッチは47Fでもいなかった事を。錦としての記憶になるが、黒江の知識の豊富さはエンジニアに受けるが、同じテストパイロットには疎まれたということを。そのため、元の能力がテストパイロット向けでありながら、恒久的な前線勤務となった事は未だにエンジニア達に嘆かれている。テストパイロットそのものは専門部隊の消滅もあり、兼任していくことになるが、戦後の部隊の立て直しには影響力を行使したという。
「先輩、能力が合いすぎてたって、47の神保さんがいってました」
「神保先輩も相変わらずだな。もう大隊長だろ?」
「今度、244に引き抜かれるとか」
黒江の47での先輩『神保』大尉。黒江が所属していた頃の長機であり、士官学校の一期先輩にあたる俊英である。第100飛行団の次期責任者を目されている。錦が所属していた時期には事実上の47の戦隊長の地位にあり、少佐昇進間近であったという。
「あの人もこき使われてんな。飛行団の団長になっていい年齢だぞ?俺の一期上で、ケイの一期下だし」
神保の年齢は24歳(1945年時)。圭子の一期後輩、黒江の一期先輩という微妙なポジションだが、黒江を従えさせる事が可能な猛者の一人である事から、参謀として重宝されている。いずれは最上位編成の飛行団の団長を目されており、ウィッチ出身参謀としては新進気鋭である。錦も新人時代に薫陶を受けており、二人にとっては、頼れる先輩である。(ただし、一期上の圭子の前ではパシリであるが)
「ケイ先輩がこき使ってるってのは聞いてましたけど」
「ケイは神保さんの一期上だ。そこはしゃーない。今、ケイは年功序列ヒエラルキー的には二位だし」
普通は一期違いであると、昇進で立場が変わるが、ケイは准将になっているので、神保に威張れるのは変わりない。また、ケイは素行不良で、口も悪いのに戦功で出世したケースであるため、『扶桑陸軍の狂気』、『血塗れの処刑人』の異名が独り歩きしている。当人は『二丁拳銃』を名乗っているため、ケイは色々と危ない人扱いだ。また、マルセイユも今回は色々とやらかすケイを見ているため、今回の歴史では概ね、従順である。
「マルセイユも今回はケイに従順だ。トマホークを担いで、怪異をぶった切ったり、シャインスパークしてればな」
『踊ろうぜぇ……、ジルバか?チャチャ?…いや、ロックンロールだ!!』
42年、マルセイユが覚醒する前の頃、シュネルフォイヤーで二丁拳銃やらかして、マイルズ、フレデリカ、シャーロットの三名を茫然自失にさせた事件。のぞみも錦として、噂話を聞いている。また、トマホークを担いでコンビネーションをやらかしてもおり、42年以降の圭子は扶桑で『復活の悪童』と評されている。素の容姿でも、スイッチが入れば目つきが鋭くなり、言葉遣いが荒くれ者のそれで固定される。覚醒してもマルセイユはびびっているし、マイルズも『ケイはスイッチが入ると、なにか恐ろしいモノになる』と恐れている。また、今回は『テクニシャン』でもあり、ハルカを従順にさせる補助をしている。圭子は『二丁拳銃』としての自分を楽しんでいるフシがあり、最近の私服はそれらしいラフな格好である。時代先取りの感が強いため、モンティは気に入っていないが、パットンには気に入られているという。
「ケイ先輩、あの漫画読んだんですかね?」
「前史の時にな。今回はそれで通してる。いい子ちゃんキャラが嫌になったそうだ」
「そう言えば、ケイ先輩、優しめの性格が素ですよね」
「本人の前で言うなよ?嫌ってるんだし」
「かれんさんみたいなタイプなんですか?本当は」
「昔はな。今はアホやりたいからってんで、今のキャラで通してるんだよ。二回もいい子やりゃ飽きるよ。俺もだけど」
「そうですか?」
「ま、あの性格は面倒事を断れないからな。面倒事を避けたいとかで、今のキャラで通すようになった。楽しんでるぜ、あいつ。実家からは文句言われてるそうだけど」
「なんでですか?」
「婿さんもらえんから。俺たちの戦功じゃ、婿に入るのいねーよ。独身歴400年だぞ」
「凄いような、すごくないような…」
独身歴、通算で400年。なんともありがたくはない経歴である。苦笑いのドリーム。智子は光太郎(RX)と今回は付き合っていると言っているため、その点では黒江をリードしている。
「そんなに結婚できなかったんですか」
「ま、国家の英雄でお上のお気に入りだしな。扶桑じゃ誰もいなかったよ。400年ほど生きたけど。茂さんには世話になってるけどな」
ピーチに言う。黒江は城茂の妹分に収まっているが、転生の度の縁もあり、家族関係に収まっている。茂の心には、亡き岬ユリ子がいるからだ。そこが光太郎に恋心を抱いた智子と違う点で、茂とは一種のプラトニックな関係になっている事を示唆する。お互いに人間を色んな意味で超えた存在である事も絡んでいるため、複雑である。
「百年単位を、そんなあっさり」
「事実だしな。お前らもそうなんだぞ、ピーチ、ドリーム」
「実感ないですよ、まだ」
「あと数十年もすれば、分かるさ」
黒江達にとっては、何十年程度の時間はなんでもないが、数十年もすると色々と変化が出てくるのが普通である。前史の坂本のミスはそこにある。肉体が若い姿のままである事は漫画文化が育たないと理解されない事柄である。黒江は前史での坂本の死で心が折れそうになり、その後の20年を療養に費やしたが、通過儀礼のようなものだ。
「先輩、もしかして」
「若い姿のままだと、不都合も生じて来るんだ。坂本の死に際の時もそうだったが、あいつのガキに信じてもらえなくてな」
黒江達は容姿が老けないため、前史での坂本の死に際を看取った時、坂本の子に面会を断られそうになり、坂本の娘の子供の頃の渾名を言うことで信じさせた事があるという苦労も味わっているし、年月が経過するにつれ、見送るほうが多くなるため、特にデリケートな黒江は、のび太を拠り所にしていた。戦場では基本的に強い黒江だが、死を乗り越えた故のジレンマも抱えているという人間性を見せた。転生者は神のように超然としていろという誹謗中傷に悩み、のび太や城茂に感情を吐露する。人間が神の位に登りつめた場合のサンプルのような存在と言え、戦いの最中ながら、なんとも言えない悲哀を感じさせていた。転生者であるが故に迫害を受けてきたGウィッチ。その筆頭格を自認する黒江。人間くささを残す神格という点では、日本神話の神々と共通する。そのような存在になると、友人とつるむ事も許されないのか?その疑問は反G派や誹謗中傷を封じ込める第一波になりえる。軍人が不老不死になるだけで、修羅の国のような世界を目指していると罵倒されるという世の中。黒江はどこか、誹謗中傷に疲れたような素振りも見せる。黒江は政治的に矢面に立つ分、理不尽な誹謗中傷に疲れるのだ。
「神の力っていうが、全知全能の神だったら、苦労ないぜ、本当に」
黒江の寂しげな本音。不死性を得て、神に立ち向かえる力を得ただけで、『神の力をのび太やゴルゴを超えるために使ったらどうだ』というクレームが舞い込む。チート系主人公を地で行くような黒江達への反発と薄気味悪さがクレームが絶えない理由であった。また、ゴルゴとのび太が戦いに関わる必要性がないとするものも多いため、ゴルゴがナチスを長年狩って来た経緯を知らないし、のび太は子供の頃から友人を必ず助けるという行動原理を持つのをわざと見落としている。
「好き嫌いは良いとしても、相手に対する敬意くらいねぇのかよ。末席とはいえ軍神たる俺等が祀られてる意味を知らねぇのか?戦いに呑まれたままの我々が怨念と化して、国を荒らさない様に安らげるのが軍神を祀る理由なんだぞ、へそ曲げて日本を争いに放り込もうって軍神が出てきても止めないからな、この状況なら」
黒江が芳佳に促されて、正式に声明を出した時の全文である。日本の一部は軍神を『軍国主義の産物』と見なしていたが、毘沙門天も軍神であるため、批判は萎み始める。色々と宗教的に火種になるからであった。将門神社のような存在。その解釈がある意味では正しいのかもしれない。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m