外伝その317『友情』


――プリキュア達が黒江から厳命されたものの一つは『友情』である。その本質は『男の友情』に近いものだが、女性の抱く友情というものが、男の世界で生きてきた者にとっては『本質的に脆く、ちょっとしたきっかけで憎悪に変わってしまう』事を小学校時代の実体験(小学校時代の友人が裏切られるのを見、助けたことがある)や、のび太の近所の一家で起こった事件で知っているため、黒江はそれを厳命していた。フェミニズムの観点からは批判されるが、歴代のプリキュア達は戦闘を経験し合うことで友情を結んできたため、本質的には『男の友情』に近い。黒江の念押しは、りんが過去にうららと揉めた事に由来するため、りんは、やや後ろめたい気持ちであった。ディケイド/士から『キュアメロディがハピネスチャージプリキュア世界で戦闘に入った』と通報が入っていた事がわかったのは、一同が風呂から出た後であった――




――旅館の部屋――


「えぇ!?響ちゃんがハピネスチャージプリキュアの世界でZEROや真ドラゴンと戦闘に入ったって!?」

「そうなのよ。メールに入ってて。カイザーパイルダーのコンピュータが送ってきたんだけど、ものすごいわよ…」

「り、りんちゃん!メールを開いてみて」

「わかった!」

三人はカイザーパイルダーにも積まれている『オジイちゃん』(十蔵の人格をコピーしたスーパーコンピュータ)から送られた映像を見る。そこへちょうど、浴衣へ着替え終わった黒江がやってきたので、皆で見る事になった。


『ならば、見せてやろう!!いでよ、ドラゴン、ライガー、ポセイドン!!』

ドラゴン、ライガー、ポセイドンの名を叫ぶあしゅら男爵の妙に決まっている姿が映る。ドラゴン号同士、ライガー号同士、ポセイドン号同士で空中で無限合体する様子が克明に記録されていた。それらが一つの超巨大なゲッターを構成してゆく様は壮観である。

『チェェェンジ!!ゲッタァアアアア…!!真!ドォォォラゴォォン!!』

『ハハハ…ハハハ!!聞け、兜甲児、野比のび太!小娘共!これぞ次元世界に最後の日を呼ぶ者!!その名も『ゲッター真ドラゴン』よ!!』

あしゅら男爵の哄笑。超巨大な『ウザーラ』型ゲッターとも言える真ドラゴンの姿に息を呑む三人。真ドラゴンは全長六キロ。星系サイズのゲッターエンペラーを除いた場合、真ゲッタードラゴン(オリジナル)の進化した『ゲッター聖ドラゴン』に次ぐ大きさである。ZEROと共に並ぶ姿は、なんとも言えない迫力を醸し出す。

『冥土の土産とイイたいが、報いは受けなければならん!そう、その本質が何であるか知ろうともせず、プリキュアの力に溺れし者たちよ……!さあ、次元世界の最後の日に懺悔せよ!ぬわぁははははははぁ…!』

「あしゅら男爵、知ったような口を!」

むかっ腹がたったようで、映像とは言え、思わず悪態が出るのぞみ。人格の錦との統合が進んでいるのがわかる。声色も生前の通常時よりトーンが低くなっており、変身時のものになっている。

「のぞみ、あんた。声が変身してる時のになってない?」

「錦ちゃんとの融合が進んでる証拠って事だよ」

「確かに。」

のぞみは次第に生前の人物像とは違う人物像になっており、りんも驚きの好戦的な側面が生まれていた。錦との境界線が薄れてきているのだ。

『さあ、デモンストレーションはそれで終わりかよ?』

『それはどうかな?チェェンジ!真ポセイドン!』

あしゅら男爵がドラゴンを真ポセイドンへ変形させ、ゲッタートリプルサイクロンからのゲッターエレキを繰り出し、街を破壊し、マジンカイザーが神モードで反撃の狼煙を揚げる様子までが記録されていた。

『フフ、ZEROと真ドラゴンのコンビネーションの前には、マジンカイザーと言えど、そこまでのようだな』

『へッ、魔神皇帝を嘗めるなよ!カイザーにもアレがあるのを忘れてないか?マジンパワー!!』

甲児が真ドラゴンとZEROに対抗するため、マジンカイザーの最大出力モード『神モード』を発動させ、カイザーパイルダーのアビオニクスが輝き始める。そこから、甲児の周りに光子力のオーラが立ち上るところまでで映像は終わっている。ものすごく『ドワォ』案件な映像である。

「……なんかものすごかったわね……」

「ドワォだ。一言で言えば、な。ハピネスチャージプリキュアのいた街は半壊だな。ZEROと真ドラゴン相手に、それで済むなら安いものさ。世界を楽に滅ぼせるレベルの連中相手なんだし。帰ったら、アメ公相手に戦争だ」

「ティターンズはなんで、アメリカを?」

「ほぼ全ての資源が賄えるからさ。1940年代の時点だと、紛れもなく世界一だ。人的資源を枯渇させる以外に、連中との戦争に勝つ方法はない。未来兵器を見世物にして、核を二発使えば、この世界の西洋諸国はソドムとゴモラを思い出して屈伏する。その目論見は当たったが、良心的、愛国的な連中が危険性に気づいて亡命した。それで今に至ってる。だから、複雑なんだよ。この戦争は」

「別の世界の思惑で戦争が?」

「りんの言う通り、代理戦争だよ。一種の。それも複雑怪奇な思惑が入り乱れた、な。アメリカは市場確保のために兵器を売り捌くし、日本は国内の無知な連中の横槍で大変だし、ドイツは現地のナチ系の人材を減らすために軍縮するし……」

「日本の横槍って?」

「左巻きの人達とか、政治屋だよ。おかげで米軍や自衛隊がお冠さ。せっかく、連合艦隊が陸に司令部作ったのに、戦艦で連合艦隊司令長官が指揮する事になったのも、連中のせいだ」

最も、連合艦隊司令長官が前線で指揮を執れというのは、レイテ沖海戦などでの豊田副武への批判も含めているため、誤解に基づく批判も多い。移動司令部としての運用用に用意され、量産の意図が無かった大和型戦艦が五隻も造られ、艦隊決戦でガンガン戦う事そのものが扶桑にとっては想定外だったし、列強の建艦競争自体が想定外であった。紀伊型戦艦の近代化が棚上げされ、大和型戦艦の量産化と『超大和型戦艦』が必要にされる時代の訪れなど、扶桑海軍そのものも予想外の結果だったのだ。最も、大和型戦艦の存在を公にした事で、存在を恐れた各国海軍で戦艦の新造が続いたことは見逃せない点である。また、日本の予想外なのは、実質、宇宙戦艦を海上で運用するに等しいものに改装済みという点だろう。波動エンジンさえ用意すれば、宇宙戦艦になれるような代物に。(最も、主砲口径を秘密にしていた事での戦線での兵站上の不都合もあったのは事実で、46cm砲を持つ大和型戦艦の数を揃えることは、連合軍の要請でもあったのだ)大和型は既存施設で建造できる最大限度の戦艦であったが、46cm砲戦艦としては『他国の想定より小型軽量である』ため、批判も大きい。日本からの批判に火がついた扶桑は、23世紀の地球連邦軍に委託し、どんどん改良型を造らせ、ついに全長800mの巨大『移動要塞』が出来上がる見通しである。日本が求めた『単艦無双』のイメージの具現化。長砲身56cm砲を備え、大和型の究極発展型と言える『敷島』。扶桑が明かしていない最高機密がその超弩級移動要塞艦である。宇宙戦艦としては、『ベクトラ』と同程度の規模であり、けして大型ではないが、水上艦艇と扱うなら、史上空前の大きさだ。また、地球連邦軍の56cmショックカノンの実験を前任の三笠より引き継いでいる。そのため、地球連邦軍の実験戦艦であり、扶桑連合艦隊の力のシンボルの二面性を持つ事になる。

「戦艦がどうして、まだ造られてるんですか?」

「怪異に有効なのが普通の砲弾だからだ。ミサイルの類は複数撃たないと再生される。半分は浮き砲台目的の維持だったんだが、ティターンズがアイオワの後継型でこっちの戦間期型を撃沈したのが契機になって、戦艦の運用目的が史実の第一次世界大戦のレベルになった。艦隊決戦に使う目的でな。戦艦は植民地維持に使う示威用の軍艦だっていう声もあるが、21世紀型の空母機動部隊を整備するよりは、戦艦を持ったほうが相対的に安上がりになった。空母の運用費とミサイルの高額化が理由だよ。それに原子力潜水艦は政治的な艦種だしな」

ロケット兵器の維持費と運用費の高額化、空母機動部隊の必要経費の莫大化は当時の軍部の予想を上回るものであった。原子力潜水艦の政治性も重なり、結局、空母機動部隊はキングス・ユニオンと日本連邦が整備を行うに留まる。ミサイル装備こそ普及していくが、空母機動部隊の整備は二大国の特権とされていく。これはジェット化も大いに関係しており、ガリアの空母機動部隊の整備が大きく遅れる理由となった。ジョッフル級の再建造(無事な船体、それ用の資材は秘匿されていた)も財政上の都合で断念したガリアはクレマンソー級空母の建造を志向し始める。当初の1万8000トン級航空母艦では、65000トン級すら『中型』扱いされだす時代には、時代遅れ過ぎたのだ。そのため、フランスの財政援助も遅れに遅れたため、後のアルジェリア戦争でのガリアの敗北は、この時点で決まったとも言えた。兵器の更新がペリーヌ/トワ/モードレッドの提言で遅れたのも原因とされ、ペリーヌとしてはこれから苦難の道となる。当人はペリーヌとしては苦難を味わうが、太平洋戦線には『モードレッド/紅城トワ(キュアスカーレット)』として参戦するため、それほど気にする事では無かった。この頃からはペリーヌ・クロステルマンとしての活動は絞り、モードレッドか、『プリキュアオールスターズの紅城トワ』としての活動に重点を置くようになっていくため、ペリーヌ・クロステルマンとしての重荷を下ろし、はっちゃっけた姿がモードレッド、従来の性格に割合近いのがトワと周囲から取られたが、実際はメイン人格が三つ存在し、任意に使い分けているだけである。プリキュアオールスターズでありながらも当初から宝具を扱える唯一の存在であるため、王剣をスカーレットの姿でも使用していく。ペリーヌはアストルフォと同じく、多重属性になったと言える。また、アストルフォは普段の容姿では理性が蒸発しているが、毒舌であるので、政治のコントロール用と位置づけたとのこと。また、理性が必要な場面が増えたので、キュアミューズでいるほうが多くなり、ジャンヌに愚痴られたという。(ジャンヌもルナマリアから引き継いだザフトの赤服、スカウト後の地球連邦軍の軍服は持ち込んでおり、後者は式典で、前者は素体がルナマリアであることを示す目的で着る事になったという)


「それはそれとして、やはり、ハピネスチャージプリキュアも半数が行方不明だ。のび太達は完全には間に合わなかったか…」

「くぅ……!」

「熱り立っても状況は変わらん。錦の影響が出てきてるな、のぞみ?」

「この子、生前より血の気が多くなってません?」

「素体の影響だよ。イキってるガキだったしな、こいつの素体になった奴」

りんに、黒江はのぞみの素体になった錦の事を伝える。錦の好戦的な性格がのぞみに影響を与えていて、人格の統合で血気盛んになっていると説明する。このように、直ぐに頭に血が上る事から、生前より血の気が多いという表現は間違いではない。りんのほうが加齢で冷静になったというべきだろう。

「腕は悪くないが、血の気が多かったからな、そいつ。その影響だろう。」

「アンタねぇ。若い頃より悪化してるじゃないの」

「え〜ん!しょんな〜!」

「若い頃(現役当時)も、プッツンすると前後の見境無くすタイプだったけど、頭に血が上りすぎ」

「経験値が他のプリキュアより多いからって血気に逸るな。また、この間のような目に遭うぞ。お前には明鏡止水を教えなくてはならんな」

「うぅ……、で、でも!」

「でもも、あさってもねえよ。お前はまだ未熟だ。それを鍛えてやるっての。明鏡止水の心だぞ、戦いに必要なのは」

「なんですか、その変なポーズ」

「流派東方不敗の構えの型の一つだ。未来世界で最強の拳法の一つに数えられてる拳法で、ガンダムファイトで最強を誇ってる流派でもある。俺は心得があるんだよ、それの」

浴衣姿で流派東方不敗の構えを器用に決める黒江。黒江が事変からこの方、赤松と若松以外のウィッチ、のび太など以外に、ほぼ無敵を誇っている理由の一つである。今回は事変の頃から『オカシイ奴!!』と畏れられているが、情報の共有の断絶が世代間対立を煽った面があるため、黒江達『レイブンズ』に関する情報は実戦部隊復帰後にかなり操作され、『一貫して現役』とされた。特に、黒江が記憶の封印時に半年ほど退役していた事実は完全に闇に葬られた。元来はミーナを納得させるための情報操作だったが、ミーナの覚醒でその必要は無くなった代わりに、扶桑国内の統制用の情報に流用されている。扶桑軍の古参の多くはレイブンズのシンパなり、部下であった経験を持つ者なので、基本的に軍の施策に協力的であるため、彼女たちが屋台骨となっている。このように、黒江達を現役に戻すだけで、非常に苦労した事から、扶桑軍は三人に関する全ての記録を改変し、その処置がなされた後の物を公式とした。その帳尻合わせは連合軍全体でなされ、智子は43年から44年の未来行きまで『507部隊の隊長』、圭子は『広報出向完了後にアフリカ部隊長拝命』とされた。黒江は『キ100の試験で出向、44年に未来戦線に少佐として従軍、本格復帰』とされ、三人の神通力の帳尻を合わせる事に心血が注がれた。割を食ったのが智子の件でのモンティであったが。また、圭子に協力的であることで、『ヒトラーのお気に入り』の同位体のせいで元帥位剥奪がなされかけていたロンメルの政治生命を救ったりしている。智子の件の失態で44年度の昇進が無くなったモンティの代わりに、自由リベリオンのヒーローとして、パットンが元帥を拝命する珍事が発生、後に圭子を爆笑させたという。

「お前らは某セーラー戦士と違って、格闘が売りなんだし、慢心するな。怪物相手ならいいが、人相手にはな。幹部級の敵しかいないだろ、戦略的に攻撃組み立ててきてたの」

「た、確かに」

「のび太なんて、子供の頃のアレぶりで、大人になっても風評被害受けてんだぞ。大人になったら、別人に近いってのに」

「のび太くんは射撃が得意だけど、それ以外はあやとりでしょ…?」

「あやとりできるって事は、糸使いになれるってことだぞ。大きな声じゃ言えないが、のび太はそれで依頼を果たすことも多い」

「え〜〜!?」

ラブとのぞみは同時に、腰を抜かして驚く。のび太は成人後、銃使いとして名を馳せつつ、あやとりの技能を応用して『糸使い』としても28歳までに熟達しており、鋼線で高層ビルやMS、機械獣も輪切りにするほどであると教えられる。それを勘案すれば、英国の吸血鬼の主の執事の若き日に並び称されるほどの評判も嘘ではない。

「あいつ、やることは意外に派手でな。24歳辺りからか。依頼で、マフィア連中や日本のヤクザの組長を糸でバラバラのスプラッタにした事も多いのよな。それでついた裏のあだ名が『死神』だそうだ。23世紀の吸血鬼の主の執事さんのあだ名の由来がのび太って事になるな。歴史の流れ的に」

『うっそぉ!?』

全員が一様に驚く。のび太の成人後における戦闘能力はもはや別人級であり、少年期と違い、見せしめ的な行為もするなどの冷酷さも見せる事も年相応に増えたために、裏世界で恐れられていることが伝えられたからだ。少年期から侮られがちの彼がなぜ、成人後に裏世界総合ナンバー2になれたのか。それへの明確な回答と言えた。

「嘘…、信じられませんよ、先輩」

「それだよ。俺らの言葉尻をとらえるしか出来ねぇアホは聖闘士と銀河破砕を別に考えてるようだが、聖闘士ができる行為の一つに過ぎんし、不死は死を乗り越えた者に与えられる権利だ。のび太がなぜ、神を殺せるかって?それは英霊としての能力で銃弾が、大聖堂級の教会の洗礼を受けた『銀の銃弾(シルバーブレット)』と同等の効果になるから、吸血鬼を殺せるからだ。英国の吸血鬼が強いのは、万単位の命を抱えてるからだしな。ゴルゴは……まぁ、言わなくともわかるだろ」

「な、なんとなく」

「だから、俺達が持ってる異能ってのは、所詮はそういうもんだ。ある一定の強さは自動的に得られるが、慢心してると、すぐに破綻する程度のもんさ。仮面ライダーやスーパー戦隊の熟練の闘技には経験の差で及ばないし、かと言って、お前らの力は異能や超人だらけの世界を生き抜けるだけの地力はないだろ?」

「プリキュアの力だけじゃ勝てないってことですか」

「そういう事だ。俺も魔力の伸びしろが無くなったから、色々なものに手を出したからな。慢心し始めた時に決まって、圧倒的に捻り潰されてきた。自分を鍛え続けたら、気がついたら黄金聖闘士さ」

多少自嘲気味だが、黒江は力に自信が付き始めるタイミングで、その時々の自分が手も足も出ない実力者に捻り潰されてきた経緯があるため、智子と違い、自己研鑽に過敏なほどである。また、聖闘士の下剋上の実例がある事で、力に慢心しがちな智子と違い、黒江は自己の研鑽には神経過敏なほどと評されている。

「下剋上は聖闘士にだってある。お前ら、蟹座のデスマスクは知ってるだろ?下剋上のいい典型だ。俺は経験上、上を目指すには、才能ある後輩を意識するようにしてる。自分の競争心を煽るために」

「先輩に追いつけるのいないですって…」

「バーロー。そういう気持ちだから、菅野に馬鹿にされてたろ、お前」

「あの子…!思い出したらシメてやらないと腹の虫が…!」

「程々にしとけ。あいつ、お前がプリキュアってことでお前とやりたがってたが、今はお前のほうが上だからな」

「確かに。経験を積んで、慢心があったのは事実じゃない?のぞみ、ラブ。ここらで仕切り直しって奴よ。バカみたいに増えた後輩連中に示しがつかないでしょ」

りんは体育会系であるため、根本的な思考は昭和ライダーに近い。後輩への示しを考えるあたりは運動部出身らしい。

「いやあ…。まったくもってそのとおりで〜」

「お前ら。2019年までに、某M78星雲の宇宙人もびっくりな数に増えるってどういうこった」

「毎年毎年、5人とか4人増えてたら、ねぇ」

「後輩連中をビシッとシメとけよ。特にのぞみ、お前は三代目なんだし」

「昭和ライダーのV3さんみたいにはいきませんって。プリキュアは上下関係は緩いし」

「一応、軍隊に入れるから、形だけでもいいから。仕事で先輩を立てることはあったろ?」

「言われてみれば…」

のぞみとラブは一期違いのプリキュアであり、2010年代末以降の時点から見れば、『古参』に入る。そのため、黒江は『ビシッとシメとけ』というが、プリキュアは平成の時代に生まれしヒロインであるので、昭和ライダーほどは上下関係に厳しくはない。ただし、『初代』のなぎさとほのかに相応の敬意を払うのが、慣習として受け継がれている。のぞみはそういいつつも、なぎさとほのか、咲と舞に次ぐ三代目であるため、相応に自覚はあるようだ。また、階級も『大尉』で、高めである事も関係しているだろう。

「そう言えば、あたし達もいつの間にかオールスターズにめったに呼ばれなくなったなぁ」

「メタ的な観点からすりゃ、声帯の妖精さんのギャラとか、アフレコ現場の都合だろうけど、55人を超えると、初期メンバーを出さなくてもカタついちまうからな。現実で呼ばれなくなったのは世代交代だろうな。お前らの事、代の離れた後輩連中は知らんかったろ」

「うーん。そう言われると、確かに……」

「現役を離れてしばらくの頃はオールスターズのまとめ役とか、切り込み隊長で鳴らしたんですけどね、あたし達…」

のぞみとラブは黒江に言われる事で初めて、世代交代を重ねていくにつれ、人々から薄れていく自分達の勇姿の記憶を自覚したようで、ある種の恐怖を感じたようだ。

「それだよ、お前ら。ZEROが感じてる恐怖も、『マジンガーZがグレートマジンガーやマジンカイザーに押されて、次第に忘れ去られていく』事にある。ZEROはその恐怖から逃れるために、『最強』に固執している。お前らが後輩に押されて、子供達から忘れ去られていく事に恐怖を感じるのも当然の心理だ。あのマジンガーZでさえも抱いた感情なんだからな」

「人によっては『戦士でなくなったほうがいい』って言いますけど、私は嫌です。自分の大事な何かを自分で守れないなんて!」

「何事も平和が一番だが、事なかれ主義は恥すべき事だ。だから、お前らは戦士であり続ける事を選んだんだろう?後輩達が万一にも敗れ去ったら、自分達が戦うつもりで」

黒江の言葉に、二人は頷く。のぞみとラブはオールスターズの戦いを幾度となく経験したため、万一に備えるために、大人になっても、変身能力を捨てる選択は取らなかったと。それは眠りについていた昭和ライダーの復活を望んだ23世紀の人々の選択の間接的な証明でもある。特に、のぞみは二年間を現役で戦い、ある時期からは『夢』であったはずの教師生活に意義をなんら見いだせなくなったこともあり、その『傾向』が強いようだ。のぞみの悲劇はそこにあった。りんは二人のこの選択は褒められたものではないとは考えたが、自分の世界での弟が病魔に倒れた時の悲しみもあり、否定することはしなかった。

「まったく…。美希がくるまでは、二人の面倒はあたしが見ます。でも、なんで来れないんですか?」

「言ったろ、部活の試合だ。ありすのいる学校が廃校になりそうだから、その流れで大学生と試合する事になったって。それで作戦に参加できないんだよ。向こうにとって重要な出来事だから、無理強いはできんよ」

「で、なんですか。そのコーヒー牛乳」

「風呂上がりにゃ、フルーツ牛乳かコーヒー牛乳だろ。どうせなら、2019年以降のスポーツ飲料のCM出てみろよ」

「なんか、声をネタにされそうで」

りんは声が某人気忍者系漫画の主人公に似ている事を気にしている節があるようだが、兄弟とのコミュニケーションに使っていたため、嫌悪するほどではない。しかし、ネタにされる事は嫌がっていると公言している。のぞみは時たま、サーフボードに乗って、サーフィンを楽しんでおり、美遊・エーデルフェルトと絡むこともあるなど、『声』をネタとして楽しんでいるのとは対照的である。

「わたしみたいに開き直りなって。わたしなんて、カットバックドロップターンしたんだし」

「アンタはしすぎ」

りんは羽目を外そうにも、理性が邪魔している事がわかるが…。

「嘘こけ、お前。お菓子の国でノリノリだったやん」

「え、あ、あの時の事は――っ!?」

黒江にある事を指摘され、赤面するりん。普段はツッコミ役のりんだが、お菓子の国で羽目を外し、のぞみやうららと一緒になって、ミュージカルじみた寸劇に興じた事がある。それを言われ、赤面した。その時に、のぞみはキスをかましたり、シャイニングドリームに初変身するなど、色々と後世に残る出来事をした事件でもあった。

「先輩、そこまでチェックしてたんですね…」

「みゆき秘蔵のDVDにあってな」

呵々と大笑する黒江。りんは黒江に情報を提供するみゆきに恨み節を吐きたくなったのだった。






――戦線は歴代のヒーローとヒロイン、スーパーロボットの奮戦もあり、小康状態であった。のび太が裏方で奮戦している事は自衛隊の間でも話題であり、はーちゃんやのぞみが好意を持っていることが羨ましがられたという。どんどん現れる歴代のプリキュアに対し、尚も上位に君臨する黒江の『強さ』が彼らの話題になる形という形で、前線のウィッチ達にその『強さ』が伝わるというのは扶桑の施策からすれば、皮肉そのものであった――





――統合参謀本部――

「まったく、前線の扶桑のウィッチには困ったものだ」

「貴方方の責任ですよ。参謀総長、軍令部総長」

「前任者たちの施策がこのような事になろうとは思わんだ……。軌道修正はしている。各国への悪影響の責任もある。64に501を取り込む事はご了承ください」

「わかりました…」

この時の高官たちの決定が、実質的に501を64Fの一部として運用する事の肯定であった。周囲の目などもあって減り始めたとは言え、サボタージュは続いていた。また、ロシアによる露骨な嫌がらせの結果、カールスラント系ウィッチに疑義が持たれ、士気が崩壊寸前に陥っていた事も深刻な問題とされており、粉飾集団の嫌疑がかかってしまった旧・JG52出身者の体面を保つため、501に在籍済みのカールスラント空軍の全員を64の義勇兵枠にねじ込む事はこの時に決められたが、ロンメルの独断に近いため、反対論者も存在した。『ロンメルは、ケイにタマを握られている』という陰口も、ロンメルが元帥として、その職権を軍の垣根を超えて奮った事で発生した。実際、未確認スコアの公認という形で、比較的穏便に処理された黒江たちでさえ、世代間対立に巻き込まれたため、疑義を持たれた元・JG52の面々の苦労は如何に。ミーナは別の戦闘航空団所属であったが、52出身者達への誹謗中傷に頭を悩ませており、メンバーに太平洋戦線参陣を勧めた(心が日本人なので、自分も太平洋戦線に参加するのだが)。

「元帥。あなたは『タマを握られている』と陰口が」

「言わせておけば良いのです、幕僚長。ああいう手合は私の同位体の経緯さえも知らんのですから。それよりも、そちらのヒトマル式をもっとほしいですな。ティーガーの多くが現地廃棄扱いになった以上、重戦車が足りないのです」

「あれはメインバトルタンク、主力戦車ですよ、元帥。ティーガーは我が隊員達がなんとか整備しておりますが、一型は直に部品が足りなくなります。我々が交渉し、ケーニッヒの生産再開はさせましたが、設計の古い一型は…」

「わかりました。博物館送りにするもの以外は現地で使い倒すしかなさそうですな…」

ティーガーは日本が保守部品の生産をドイツに再開させた二型(ケーニッヒティーガー)はともかく、初期の一型は保守部品の生産が再開されない見通しであり、使い倒すしか方法がない。カールスラントはドイツによる干渉が度を超えているため、要請を受けた地球連邦が恫喝をせざるを得なくなるのだ。ロンメルは日本自衛隊の貢献を高く評価しており、その関係もあり、日本連邦の機甲戦力整備に影響を及ぼしたという。



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