外伝その337『プリキュアと英雄たち5』
――扶桑は日本に人材と『外地の治安維持』に必要な部隊を提供している都合上、日本にも相応の対価を求めた。日本も軍事的混乱の禊は経済的援助だけでは賄えない事をようやく思い知り、航空戦力を中心に自衛隊を増派し、連合軍統合参謀本部の幕僚の少なからずを幹部自衛官が占める事になった。のび太は表向きは現地環境の調査員として駐在しているのだが、裏稼業の仕事も兼ねているため、軍部の反Gウィッチ閥の人員や政治家、右翼活動家、運動家などの始末を並行して行っている。Y委員会の台頭に邪魔な扶桑軍人、政治運動家、市民運動家、政治家、資産家の『消去』を行う事で、Gウィッチが属する秘密組織『Y委員会』の補助を行っていた。
――扶桑本土の海軍料亭で爆発が起き、料亭が火災を起こしていたが――
「ああ、ドラえもんかい?僕だけど、扶桑の艦隊派の提督を何人かを料亭ごと焼き鳥にしたよ」
「料亭は買収したかい?」
「もちろん。Y委員会の金を渡してね」
「何でやったかい」
「表向き、厨房からの爆発に見えるようにしたさ。これで元・艦隊派は弱体化するはずだよ」
のび太は扶桑海軍の旧艦隊派(軍縮条約当時に生じた対立する軍閥の片方)の生存していた提督の内の数人を『消去』した。当時、山本五十六や小沢治三郎など、条約派、もしくは条約派の提督と近しい者たちが海軍の主導権を握り始めていた時勢を危険視した旧艦隊派は『1903年事変』の英雄であった亡き東郷平八郎元帥の威光を用いようとしたが、黒江が海援隊の前当主『才谷美樹』とその子と知己であった事で、東郷平八郎も最晩年には『おいどんももう歳じゃ、若いモンに後事を託すよ』と漏らしていた事が公にされ、それ(東郷平八郎の威光を使う事)が不可能になった事での対策会議を行っていたが、のび太によって消去された。のび太が扶桑国内に残ったのは、このような裏仕事が入ったからである。
「反G派の指導層になりえる、退役将官達の何人かはこれで死んだ。連中にはいい見せしめになるだろうね」
「こっちは米内光政大将の体調が思わしくなくてね。持って、あと数年だろうね」
「米内大将は国葬にする?」
「元首相だし、綾香さん達の政治的後ろ盾としての功績がある。僕からお上に上奏しとくよ」
当時、のび太とドラえもんは扶桑の昭和天皇からも働きぶりを高く評価されており、ドラえもんは南洋に新島を用意したなどの功績により、叙勲は確実であった。昭和天皇に拝謁し、直接の上奏が可能な立場にあったため、米内光政海軍大将の余命を伝え、国葬を上奏すると、ドラえもんは言う。日本に危険視された対米主戦派(史実)の退役済みの提督たちはY委員会と日本政府の意向もあり、こうして非合法的に始末されていく。それを危惧した海軍青年将校達は決起の準備を急ぐ事になる。日本は陸軍青年将校の方を事さらに危険視していたが、2.26事件の直後に事変が起こった事、事変で血みどろの総力戦を味わった事、七勇士の過半数が陸軍将校であった事で、それ以降に入隊した世代の青年将校達(男女問わず)は黒江達の影響下にあり、史実と比較すれば、中央の統制が効いている。しかし、海軍はつい最近まで近代の艦隊戦の経験がほとんど無く、事変では『陸軍のせいで艦艇を失った』とする被害意識が強く、そこも史実と反し、海軍に決起派が多い理由であった。のび太がその『不満分子』の始末を依頼されるのも、扶桑としては当然のことであった。(航空閥に多かったのも、坂本が今回においては、海軍の権益を代弁する立場でないことで、陸軍航空閥が強かったため、コンプレックスが強い)
「報酬はスイス銀行の僕の口座に振り込んでくれ、ドラえもん」
「あいよ。扶桑政府に送金させる。Mr.東郷は衛星の始末、君は不満分子の掃除とはね」
「裏稼業なんてのはそういうもんさ。Mr.東郷でもない限りは、皆、おまんまを食うために殺しをしてるんだ。僕だって、カミさんやみんなを食わすために殺しをしてるところもあるしね」
のび太は信条を持ちつつも、28歳頃になると、そろそろ嫡子の将来の教育費を考える頃になる。仕事を選んでもいられなくなってくる事は自覚しているので、多少の自嘲が入っている。
「ノビスケ君の教育費だろ?」
「政争絡みの仕事はやんないさ。それ以外なら、倅の教育費のこともあるし。倅はカミさん似だしね。昔の僕と違って、あいつは10代を迎えると、急にわんぱくになるからなー。カミさんの血だよ、あれ」
「ノビスケくんは君の若い頃と違って、運動スキルはしずかちゃん寄りだしなぁ」
ノビスケはのび太の嫡子だが、父までのおっとりさは受け継がず、むしろ歴代のプリキュアピンクチームの血気盛んを身に着けた節があり、ノビスケ以後は源家の血も作用し、血気盛んな気質がデフォルトになっていく。つまり、セワシののび太寄りの気質は隔世遺伝に近い。ドラえもんと通信し、のび太は妻、居候、子を食わすためにも仕事の幅を広げると言う。
「2019年は税金上がるしねぇ」
「ま、扶桑から金をもらって、あいつの高校の三年間分の教育費は稼ぐさ」
扶桑には旧艦隊派のみならず、Y委員会が危険視する者は軍、運動家、政治家を問わずに多く存在する。のび太は扶桑のそれら不満分子を消去する役目を日本連邦そのものの意向で担うことになり、扶桑の昭和天皇はのび太に爵位を与えたい意志を示している。野比家は扶桑で爵位を与えられた影響で、23世紀には『ビスト家を牽制できる力を持つ日本の名家』とされているが、その始まりがのび太が扶桑で爵位を得た事である。マイッツァー・ロナは白人至上主義の観点から『怠惰な東洋人』と見なす野比家を排除したがっていたともされ、何気に子孫がバグに狙われていたりする。コスモ貴族主義が崩壊したのは、彼の欺瞞が明らかにされたからであるが、かと言って、かつての世界各国の王室や皇室を否定するわけではないと、ベラ・ロナ(セシリー・フェアチャイルド)も述べているように、ノブリス・オブリージュの思想そのものは否定しないのが23世紀である。ちなみに、21世紀日本の一部勢力は過度の平等主義や民主主義に傾倒するあまり、ノーブルウィッチーズの存在をアメリカとともに『否定』したものの、欧州の古豪であるガリアの反感を買った事を自覚したため、隊員に予定されていた者たちを全員、64Fに編入させることを禊とし、綻びを生じさせた欧州地域での国際協力の代替を兼ねての詫びとしたのも周知の事実だ。つまり、死産に終わった部隊は無駄ではなく、各国の有望株や古豪を引っ張り出す名目になったのだ。当のアメリカから、『人材は活用すべき』とされ、引っ込みがつかなくなった日本防衛省背広組は司令の座を退いていたロザリー以外の隊員を64Fに引っ張る事で手打ちにしようとした。64Fの目的が純粋な戦闘目的に運用されるとわかると、マリアン・E・カールは反発したが、ウィリアム・ハルゼーから『軍法会議で極刑もあり得る』と脅された。64の運用目的がマリアンの信条に反していたからだが、反発しただけで極刑という言葉に狼狽し、ハルゼーに食い下がった。ハルゼーは『民間人虐殺(核攻撃)やらかす連中なんぞネウロイ以下のクソだ、人間じゃねぇから気にせずぶっ飛ばしてこい。出来なきゃ故郷に帰んな』と冷たく言い放たれ、反論の余地がなかった。また、506でお気楽極楽を装っていた黒田が戦闘狂と言える素顔を晒し、圭子と黒江に仕えた古豪という経歴が明らかになった事で、コンプレックスを感じてもいた。マリアンは年下でありながら、扶桑最強の一人である事を隠していた黒田を罵倒したが、黒田からすれば、『子供の癇癪』でしかない。そもそも潜った修羅場が違う上、黒田は蠍座の黄金聖闘士の経験者である。その事から、お気楽極楽キャラを演じていた事については『いつかの自分自身を演じてただけですよ。昔はあの通りだったし』と説明している。黒田は転生者であり、事情もあって、本来そうあるべき自分を演じていた。これは黒江たちと違い、記憶の一時封印が無かったからだ。
「状況が煮詰まる前だから気を抜いてただけ、単なるお気楽守銭奴が反目したチームをくっつけとける調整能力なんか持ってるわけないでしょー?」
「んじゃお前、本当はなんなんだよ、答えろよ!」
「扶桑海七勇士が一人にして、戦神『アテナ』に仕えし蠍座の黄金聖闘士、黒田家継承者。それだけですよ」
黒田は他の世界と違い、黒田本家を継承する立場になり、黒江たちに仕える古豪としての地位を固めている。
「シャーリーは顎で使えますよ。軍歴はこっちのほうが古いし、個人的に子分なんで」
マリアンはシャーリーに憧れている。その憧れの対象を子分と明言する様に唖然となる。扶桑軍での『年功は階級より偉い』風土の表れでもある。
「軍歴の浅い『まりんこ』に、この戦争の意義はわかるまいよ」
黒田はマリアンに取り繕わない『素』を見せる。マリアンの知る黒田と別人としか思えないほどに冷たく、粗野な物言いである。ぞっとするマリアン。だが、そこで黒田の言葉が引っかかる。まりんこ。どういう意味か。
「おい、なんだよ、まりんこって」
「日本の漫画のタイトルでもあるのだけど、若者言葉でもあるのよ、マリアン。まぁ、海兵隊を意味するMarine Corpsが鈍った言葉と考えていいわ」
「その声はジュンコ……え?」
親友の竹井の声がしたので、振り返ったマリアンだが。
「お前、そうか…。思い出したのか、前世を」
「はい…。おかげさまで」
竹井は海藤みなみの姿をこの時に初お披露目した。その兼ね合いで士官服は着ておらず、海藤みなみとしての私服を着ている。私立の学校に通う令嬢と言った雰囲気たっぷりであり、黒田より上流階級っぽさが出ている。
「なんだよ、その格好……それにその姿は…」
「私はね、黒田先輩と同じ立場なのよ、マリアン。それと、貴方が見たら大喜び確実な能力を取り戻したのよね」
「見せてやりな。ヒーローはリベリオンコミックの占有物じゃないって」
「はい。…プリキュア・プリンセスエンゲージ!!」
竹井は『取り戻した』前世の記憶に従い、プリンセスプリキュアへ変身する。前世では、プリキュアが地球に求められた時に、変身に必要なキーが復活し、以後は戦乱期になり、その戦乱を戦っていた都合上、プリキュアとしての能力を再度失うことは無かったと語っており、ドリームと同じオールスターズ時空にいた事を示唆している。つまり、竹井はドリーム/のぞみの時代と直接つながる時間軸の『GO!プリンセスプリキュア』を前世に持っていたということになる。(後に、ペリーヌ個人が紅城トワの転生体であることも判明したため、プリンセスプリキュアは二名が現れた事になる)
「嘘だろ…。ジュンコが変身した……」
「マリアンさん、感想は?」
「い、いや……その、急にいわれても、黒田…」
『澄みわたる海のプリンセス! キュアマーメイド!!』
バシッと決めるマーメイド。名乗りは自動的に行う場合が多いが、今回は自由意志である。
「貴方には知ってもらいたくてね。私も色々とあって」
「色々って……、お前…」
「あー!マーメイド!?な、なんでここに!?」
「の、のぞみ……。そうだ、貴方がいたんだったわね…。黒江さんへの報告は終わったの?」
この時はまだ海戦の前であった。つまり、のぞみがマーメイドの事を知ってから、日は浅い事になる。
「先輩には報告し終えてきたけど、竹井さんがマーメイドだったのぉ!?」
「え、えぇ。貴方に知らせるのが遅くなったわね…。あの時、貴方のメタモルフォーゼを見たのが引き金になって、私も戻れたのよ」
「智子先輩が言ってたが、やっぱ、そん時が引き金か?」
「はい。最初はわたしで…」
「で、天姫には見られてないな?」
「天姫が吹き飛ばされて、倒れる時に湧き上がった『怒り』で元の姿に戻ったんで、見られてないはずです」
のぞみの言う通り、錦の姿から『夢原のぞみ』の姿に変異し、そこから更にキュアドリームに変身したが、天姫はうつ伏せで倒れていた上、変身した時は天姫からは死角になる位置であった。だが、実は意識を失う一瞬、錦がのぞみになり、ドリームとなるのを見ていたのである。天姫は『気づいていたが、敢えて口を噤んだ』のである。天姫はのぞみが思った以上に聡明で、錦の姉を使う形で機密を知り、のぞみが錦と同一の存在である事に気づいたが、自分は戦線の矢面に立つほどの腕がないことを自覚していたため、戦線から退いたと言える。
「…そうか。だが、時々は会ってやれ。これからは機会が減るだろうしな。」
「そのつもりですよ。錦として、ね」
のぞみや黒田、黒江も気づかなかったが、天姫は天姫なりに、のぞみ(錦)を気遣ったのだ。天姫は本土に戻ると、錦の姉『小鷹』のツテを頼り、黒江が手を打つよりも早く、のぞみに関する書類を手に入れ、閲覧した。天姫はのぞみが錦の前世であり、のぞみが主体になって『一つになった』事を知ったのだ。それでいて、のぞみに問い質す事をせず、事を荒立てなかったのは、彼女なりの気遣いであり、のぞみを受け入れる決意の表れだったのかもしれない。
――話は戻って――
「みらいちゃん達をウチに送ってくれるかい?」
「OK。君には誹りも多いけどね」
「まー、そういう連中は僕が正面で一騎当千するべきだって言うのさ。ガキの頃のようにね。大人になると、ヒーローになる事以外の役目の喜びを知れるってのに、日本人の悪い癖だよ。戦で一番槍になる事しか能がない」
――のび太は成人後、裏方で周りを支える事に目覚め、プリキュア達のトレーナーや指導者を実質的に務めてもいた。裏稼業を初めて以降の嗜好も関係している。みらいとリコは意識のみが目覚めてからは意識だけで、状況のだいたいを把握しており、野比家での生活に馴染むための準備は万端であった。復活したモフルン共々、現役時と同じような生活を始めようとしている。
「おじさんになった僕はのぞみちゃんを家族に迎えようとしてる。若い僕に出来るのは戦いと、子供達を守り、育てる事さ」
青年のび太は壮年期(45歳以降)の自分自身が進め始めた事に思いを馳せながら、若き自分にできる事をし始める。肉体が若い内にできる事を――
――青年/壮年。異なる時間軸の二人ののび太が動き出す。青年は戦闘と破壊工作要員として、壮年は精神面での支柱として。2019年から数十年後、55歳になり、相応に老いが刻まれつつある風貌になったのび太は青年に成長した実子、その時間軸までに迎え入れていた養子達に囲まれ、扶桑の爵位を得、相応に成熟した男性として、野比家中興の祖としての姿を見せていた――
――のび太が55歳になった時代――
「父さん、準備は整いました」
「うむ……。私から、お前へのプレゼントは用意できそうだよ、コージ」
この時代において、のび太の嫡子『ノビスケ』の義理の弟となっていた養子『コージ』。飛行機事故から生き残った孤児であったのを、40代半ばの頃ののび太が引き取って育てた『次男』であり、のぞみのかつての想い人『ココ」(地球での活動名、小々田コージ)の転生体でもあった。日本連邦結成の何十周年かの式典が行われる日、壮年から老年になり始め、その顔から少年時代の面影が薄れ始めたのび太をエスコートする。野比家の継承者として紹介され、華々しくお披露目される青年ノビスケと対照的に、近い将来の第一線からの引退を表明せんとするのび太。当時の野比家はすっかり日本連邦の名家として名を馳せており、のび太の子『ノビスケ』がのび太の扶桑爵位を継承する見通しである。式典には、老いたのび太の両親、のび助と玉子の兄弟姉妹、その子達、そのまた子供達、のび太の友人たちも来ている。
「さ、行こうか」
「隠居する歳でもないでしょうに」
「野比家代々の習わしだよ。お前のおじいさんも私の歳には隠居を決め込んでいたからね」
式典で正装をして、挨拶をせんとする壮年のび太。精神は昔のままであるが、頭髪がいささか後退し、髪型も昔と変え、オールバックになった姿からは青年時代以前の面影は薄れていた。いや、年相応に老いを刻んだというべきか。この時代には、ジャイアン達も嫡子に家の稼業を引き継がせ、隠居生活に入っており、悠々自適のセカンドライフを送っている。のび太も環境省を勇退後はノビスケに裏稼業もいずれは引き継がせ、妻とセカンドライフに入るつもりである。ただし、コージがのぞみと結婚するため、のび太壮年期からは、のぞみと縁戚関係になるのが違いか。スラッとした細身の体型だった青年時代と違い、この時代以降は年相応に肥えており、のび太といえど、中年太りと無縁ではなかったらしい。(年の割に細めであるものの、青年時代よりは明らかに太っている。のび太曰く、40代の頃から4キロ増えたらしい)
「見ておきなさい、これが政治的な式典というものだ」
コージにそういい、スピーチを始める壮年のび太。壮年のび太は青年期の甘いマスクと打って変わって、相応に重厚な風貌に変わりつつあった。オールバックの髪型、声色も青年時代より低めになっており、その変貌は4人の中では随一である。壮年のび太は養子のコージに政治というものを教えるため、式典に出たのであった。のび太は壮年期から老年期、扶桑で爵位を得ても、根本の性格はあまり変わらず、好々爺になっていく。野比家を名家へと躍進させた男の老後のプランはセワシの代にまで続く遠大なもので、この時代になっても献身的に尽くす調が傍らにいる。調はその後、のび太の遺言に従い、のび太の曾孫の代まで野比家に仕え、一旦は離れたが、ノビ少尉がのび太の転生体である事がわかると、戻っている。ちなみにダイ・アナザー・デイの途中で別任務につき、シンフォギアC世界を発見したが、現地で暴れてしまったのが運の尽き。ダイ・アナザー・デイ中に戻れる保証が無くなってしまった。それを聞いた黒江は武子と協議し、予定を変更して、はーちゃんを駆り出したのである。(みらいとリコがそれを詳しく知ったのは、野比家到着後)
「この度、日本連邦結成より〜――」
この式典には、扶桑の戦艦と空母、陸空軍部隊、自衛隊の各部隊なども参加しており、その時代の日本連邦の繁栄を物語る。その繁栄を他所に、経済的、政治的行き詰まりが見え始めていたアメリカ合衆国、復讐を目論むロシア連邦など、後々の時代の火種が少しづつ出来始めている事を窺わせる要素もある。少しづつひみつ道具の雛形が出始め、22世紀初期の繁栄に向かう日本。それを快く思わない二大国。それが皮肉なことに、統合戦争の長期化を招き、当初の戦争目的が忘れ去られるに至る。地球連邦の時代に至ると、日本連邦が実質的に地球連邦政府の支配層になり始める。つまり、戦争のし過ぎで両国は衰退したわけで、その時代にニューヨークは荒廃し、ニューアーク市と合併し、復興後は『ニューヤーク』になる。そのニューヤークも北米大陸の大都市であった事から、ジオンの制圧目標になり、またも荒廃する事になる。この時代から、日本は有事に備えて(扶桑の太平洋戦争の教訓)、全都市のジオフロント化を可能にするための研究を始めていく。これが日本がゼントラーディの攻撃とガミラスの攻撃から難を逃れる理由になる。ちなみに統合戦争後に人工知能技術の後退を招いたのは、中露の電磁パルス攻撃の乱発によるもので、これがモビルドールとゴーストの研究に影を落とす事になる。ドラえもんの登場で人工知能技術へのタブーが薄れ始めるが、地球連邦政府とジオン残党の対立の再度の先鋭化を招く。23世紀に入ると、ジオン残党は次第にその大義名分と存在意義を喪失していくことになるが、それは、この時代が目指していた世界の是非が関係してくる。一見して華々しく、前途洋々な21世紀中盤に差し掛かる頃だが、後の世の伏線が随所に散りばめられていたように、少しづつ統合戦争へと向かい始めるのであった。
――扶桑は青年のび太に不満分子を消去してもらう事を始めるが、それが不満分子達の危惧を加速させた。1945年の夏の段階では、軍用機開発の整理縮小、米軍機のライセンス生産主体になることへの技術者の不満が蓄積していた。戦後日本人の多くは疑問に思うだろうが、1940年代の航空技術者の少なからずは『やっと欧米に追いついたんや!』と自分達の設計と製造技術に自信が強かった。それを無視し、頭ごなしに決められる事に我慢ならない航空技術者は多かった。この時期に試作中だった機種の少なからずはクーデター軍によって、試作段階で投入される事になり、既存機を上回る性能はマークするが、より上の次元の性能を持つ機体にねじ伏せられる事になった。また、日本の行き過ぎた予防策として、扶桑に『要請』として課せられた『公職追放』が多岐に渡った事で、それまでと一転して、軍人の少なからずが厄介者扱いされて村八分にされ、故郷を追われる事が起こった。あまりに理不尽だったため、救済の嘆願が数十万単位で出されたため、南洋島に追放令で追放された人々のコミュニティを造る羽目になるなど、現地の混乱も大きかった。日本側の2019年相当では、ウィッチ世界にもたらされた混乱が『国際規模』になっていたこと、現地の国際協力に隙間風を吹かせてしまった事が議論されていた。のび太青年期の頃は日本連邦の黎明期であり、ウィッチ世界の国際貢献と国際協力に消極的な日本の姿勢はウィッチ世界の批判を浴びていた。奇しくも、日本の一部勢力の傲慢さが大手を振って批判されだした頃でもあり、『国際協力を財政面で…』という常套手段に理解がされない時代である事、現地のロマノフ王朝を混沌に陥れ、実質的に『四肢を引き裂く』形に追いやったのが自分達であることでの批判、現地の欧州のブリタニア連邦の分裂を促したり、ガリアの国民に政府と軍隊への不信を煽る噂を流したりした国際問題ものの行為すら確認され、疲弊していたウィッチ世界の列強の消滅を是とする彼らの身勝手さがクローズアップされた。既に、カールスラントはドイツの介入で戦線から続々と撤兵しており、戦線の戦力は大きく弱体化(カールスラントで現地に残った戦力は二個機甲師団、一個歩兵師団、航空戦力は44戦闘団のみと、最盛期からすれば雀の涙ほどの兵力しか残されていない)していた。日本連邦とキングス・ユニオンはそれを補うための派兵が強く要求された。(現地法で死刑になる市民運動家なども続出した)ブリタニア空軍の虎の子のグローリアスウィッチーズの出征はその要求に応えるための一環だが、44戦闘団や64Fに比しての個人練度の低さ、若手の実戦経験の無さが問題視されてしまったため、ブリタニア空軍の新たなショックを招いた。これは本土で温存された故の悲哀である。さしものグローリアスウィッチーズも、45年時点では全員が百戦錬磨ではなく、世代交代で不相応なポストに収まる者もいたため、ブリタニア空軍は赤っ恥をかく羽目になった。ブリタニア空軍は『数割は新兵か若手なのは当たり前だ!お前らみたいなウォーモンガー集団じゃないんだ!』と言い訳し、カールスラントと扶桑の失笑を買った。しかし、世界的に見て、64が異常な陣容なのは間違いない。全員が実戦経験者で、上は三桁から、末端でも二桁後半の撃墜数を誇るなどはむしろ、世界的には異常であった。各戦線のトップエースを引き抜いて、一箇所に集めて、最前線中の最前線に投入するという行為は、ブリタニアとカールスラントも防衛戦中から躊躇していた事である。
「実戦部隊名乗るなら、作戦要員に新人混ぜるんじゃねーよ!」
「数割は新兵か若手なのは当たり前だ!お前らみたいなウォーモンガー集団じゃないんだ、うちは!」
「部隊訓練生以外で二個フライト組める様にするのが基本だ!ボケ!!」
「お前ら頭はおかしい!!他の戦線のベテランを引き抜いて、整備員も引き抜いて集めるなんて!アクロバット用飛行隊じゃないんだぞ!」
「そうでないと、部隊の予算でないんじゃい!政治家連中がうるせーんだよぉ!」
日本連邦軍は政治家と官僚を言いくるめる『予算獲得』目的もあり、本当にそれを行った。整備員も一流、燃料、機材も最高級品を優先使用可能な権限を与えて。ただし、それが不公平感を煽ったのも事実である。また、源田実の直轄である事での『私兵』との批判もある上、軍中央の指揮下にない事から、海軍基地航空隊系部隊から批判は大きい。だが、機材の裁量権は比類なきもので、元・テスト部隊出身者も目を丸くするものだ。統合参謀本部では、嘘のようだが、だいたいこんなやり取りが将官の間で交わされ、64Fの結成には政治的背景が多分にあり、武子に高度な裁量権が与えられているのもそのためだが、自衛隊の秘匿兵器も指揮下に加わる関係か、『曰本連邦軍幕僚会議直轄』とされ、源田実はその会議の議員であった。つまり、64Fは日本の虎の子のメーサー兵器、メカゴジラ、MOGERA(あれば)、スーパーXVを指揮下に収めたということになる。また、日本としても、野党の追求を逃れられる方便を手にした証でもある。
――戦闘中の前線――
「クライシス帝国もなりふり構わなくなってきやがった。やぶれかぶれで全軍突撃しかねませんよ、先輩」
「ダスマダーはクライシス帝国の皇帝そのものだが、ダスマダーとしての人格を別に持っている。前史で俺はそれを目の当たりにした。だが、自分が横暴な自覚がねぇときてる。どうしようもない暗愚な皇帝だ。ありゃ、隋の煬帝に並ぶぞ」
クライシス帝国の皇帝は実際、忠実な部下のジャーク将軍も切り捨てるような横暴な皇帝であるが、その自覚がゼロな人物で、『自分が悪だと気づいていないタイプのドス黒い悪』であり、隋の煬帝に並ぶレベルに暗愚であるおまけもつくと、黒江はドリームに言う。キュアドリームは錦との意識の統合が進み、言葉づかいに粗野な面が生じつつあり、かつてとキャラが大きく変化し始めている。
「それと、ミューズから連絡があって、例の措置が完了して、モフルンも復活した。のび太が『家』に送り届けてるそうだ」
「良かった、これではーちゃんも…」
「大喜びだろう。そのはーちゃんは武子のとこで訓練中だけど、知らせは行ってるはずだ。それに、りんが泡吹くぞー?」
「まどかさん、いや、キューティーハニーのことですね?」
「こまちが聞いたら、腰抜かしたろうな」
「かれんさんのほうがそうなりそうですよ。かれんさんは生真面目だったし。こまちさんはおっとりしてたし」
「生徒会長経験がある初のプリキュアだもんな、かれんは」
「また会えるかな…、うららやくるみ、美希ちゃんには会えそうだけど…」
「たとえ、お前がいた次元の存在でなくても、いつかは会えるさ。俺自身、別の自分に会った事あるからな。お前は別の錦に説明が難しいだろう。竹井とお前は軍籍を流用したしな」
「新規じゃないんですね?そう言えば」
「お前や竹井は新規だと、めんどいんだよ。軍籍があるんなら流用しろと御達しが出た」
黒江が引き合いに出す『次元震パニック』。のぞみは錦の軍籍をそのまま流用し、軍歴を改訂する事で、扶桑陸軍大尉の地位を得ている。これは竹井(海藤みなみ)も同様であり、管理を一本化するためもあり、二人は空軍へ移籍が確定している。その兼ね合いで説明が難しいのは事実だ。
「お前は融合型だから、錦でもあるし、のぞみでもある状態だ。だから、表向きの説明を考えるのが大変でな」
「表向き、ねぇ」
「お前が一番に説明がむずいんだよ。双方の要素が混じり合った状態だし。いくら神憑りみたいなもんだって言っても、家族が『はい、そうですか』って納得するか?その懸念が武子から出てな」
「隊長は心配性ですね」
「ガキの頃からそうなんだよ。石橋を叩いて渡るタイプなのよな」
「それと、のび太くんに誹謗中傷があるって本当ですか?」
「マジだよ。俺も目を通したが、見ただけで胸クソ悪くなるぞ」
のび太を強引に前線で戦わせようとするような誹謗中傷に、二人は怒りを顕にする。日本人は将校の戦力価値を前線での戦功でしか判断しない。アストルフォも苦言を呈している。本質的に侍の時代から進歩していないのだ。武子が地上勤務が可能な地位でありながら、前線で戦う事を選んだ背景は『自分の考えが日本人の考えに合わないのなら、その枠組みの中で仕事をこなすしかない』という妥協もある。実際、64は『佐官級将校が使いっ走りである』光景すら当たり前で、ほぼ全員が武功章の受賞者であった。また、64Fの『復活』に反対した将校達は地位や軍を問わずに問答無用で中央から追放され、アリューシャン諸島か網走、南方の離島へ左遷されていった。64Fは扶桑空軍最大の戦力を有しながら、軍中央の指揮下にないという特異的な編成となるが、それを認めさせる過程で、海軍航空閥の大家だった大西瀧治郎が失脚した(同位体の施策と戦闘機無用論が理由)のは驚きを以て迎えられ、小園大佐(当時)の抜擢を警察が反対し、『危険分子』と名指しする事態になっていた。しかし、小園大佐は特攻に批判的だった陽の面がある事もあり、警察の意見は退けられた。そこは大西瀧治郎よりは幸運であった。
「中央から佐官級の参謀の多くが追放されたショックで、軍令部も参謀本部も機能不全だ。だから、俺達の行為は黙認される。モビルスーツ使おうが、ゲッタードラゴンで出ようが。それと引き換えに休暇が取れんが」
「統合確定な上、横空は不満を顕にして命令不服従でしょう?どうするつもりなんですか」
「この間、震電のストライカーの『ガワ』を救出したろ?実機の方も同じことやれってさ。メーカーの整備員を買収したから、あそこに納入された一号機をダミーと入れ替える。飛行テストをしてるそうだから…」
「どうやって?」
「坂本をあそこに残務整理の名目で送り込む。坂本に厚木まで運んでもらって、ミデアに積みこませる手筈だ」
「震電の航続距離は?」
「2000キロ前後だ。最優先で回収しろと指令が下った。橘花と火龍はその後だそうだ」
「なんで震電が優先で?」
「日本で商売になるからだそうだ。橘花と火龍は『劣化コピー』って事で、人気ないんだよ」
「空技廠の技術者が聞いたら憤死しますよ?橘花が直線翼なのは、製作工程での簡易化のためで、長島が設計した火龍は完コピだし」
「カールスラントに文句言えよって感じだよ。火龍が後退翼になったのは製造の段階だし、橘花は直線翼時代のシュワルベがベースなんだぜ?エンジンが胴体埋め込み式のジェット機が現われた時代じゃ、旅客機や爆撃機と変わらない構造の機体は旧態依然としてしか見えないだろうが、ひでえもんだろ?」
橘花は製造工程や参考設計の仕様の問題でテーパー翼であるなど、史実とそれほど変わり映えしない性能であった。元は攻撃機にする予定であった名残りでもあり、制空戦闘機にする予定はなく、戦闘機型も重爆迎撃用と割り切るつもりだった。その設計が却って試作機整理の対象になり、火龍共々、F-86とF-104に取って代わられた。だが、火龍も橘花も既に一定数が先行生産機として出回っていたため、それら全ての回収で反発が生じるのは無理からぬ事であった。また、『花』の名を持つ理由を『花と散る』と邪推されたのも、後の横空の暴走に繋がるのだ。(海軍ジェット機が花の名なのは、ジャンルの開花を願っての意味合いであった)
「技術者が怒りますよ。まだテスト中の機体をいらない子扱いなんて」
「セイバーやマルヨンが出回れば、メッサーのコピーには用はないから、前線から引き上げさせるそうだ。無理だろ?」
「無理ですよ、一部はもう外地に出回って…」
「俺もそう言ったんだが、防衛省の背広組が聞かんのだ。前線は機体不足だってのに」
「どうするんです?暴発したら大事に…」
「うむ。だが、暴発させたほうが後腐れがない。それを早期に鎮圧するほうが大事だ。既に手筈は整えてる。警察から批判がある近衛師団の規模を縮小してやるんだからな」
近衛師団は日本の史実の事件から、野党議員から『皇宮警察に警備を任せて、近衛師団は解体すべき』という提言が出されていた。『他国で近衛兵があるのに?いざという時の皇室の護衛と、クーデターなどへの即応部隊も兼ねてるのに』という至極当然な疑問が出されたことでの議論、日本警察が近衛師団といざこざを起こすという失態から、近衛師団は規模縮小と粛清人事はあれど、近衛兵の組織そのものは存続する事になった。
「近衛師団を?」
「検討案じゃ、連隊に縮小して、その代わりに皇宮警察を強化する案が有力なんだ。日本は宮城事件の事もあって、近衛師団を解体したがってるからな。その防止だよ。日本からも皇宮警察を出させる。近衛師団を小さくするんだ、その分の苦労をしてもらう」
「ますます暴発しません?」
「この戦いが終わればな。日本にも、一部の人間のやった事が如何に重大か、わかるよ。同位体の行為だけで追放とか、階級の剥奪だぜ?しかも弁明の機会無しだ。敗戦したわけでもないのに、そいつが史実で悪いことしたからって理由で公職追放だからな。ドイツに至っては多数がリストラに巻き込まれる。多分だが、20年は立ち直れんよ」
「ウチはまだマシと?」
「公職追放は左翼を満足させるだけの施策だ。史実だと、左派が伸長して、その後に悪影響を及ぼしたからな。うちでも悪影響は出るから、数年くらいで解除せざるを得なくなるよ」
「なんか馬鹿らしいっすね」
「それが政治だ。のび太に艦隊派の排除の依頼が出たのも政治なんだ。ただし、高額な依頼だから、のび太はガキの教育費に回すってさ」
「のび太君、20代半ばで子持ちなんだよなぁ…。で、私がココと結婚すると……親戚に?」
「戸籍上はそうなる。のび太が義理の親父になるぞ。すごい絵面だが、あいつの人徳だな」
「はーちゃんと20年暮らしたほうがすごいですよ。みらいちゃんとリコちゃんが怒りますって」
「中高大と、普通の学校に行ってたしな。はーちゃんはそれで心を癒やした。その間に戦闘訓練を課してあるから、戦闘力は以前の比じゃないぜ」
「わたしもそうなんですよね?」
「一応はな。現役の時のお前自身をワンパンできるだろうよ。現役最終時の能力にプラスしてんだから当然だが。のび太の世界は海千山千だからな。強くなるのは必要だぞ」
「東方不敗みたいな超人いますからねぇ」
「あれは極端な例だが、素でお前らと渡り合える人間はティターンズにはごまんといる。元々、強化人間の研究がされてた組織だから、身体能力を強化した奴は多い。極論だが、通常形態じゃジリ貧だぞ」
「わたしたちと渡り合えるって事は、あの子達とも」
「そうなる。あいつらは鍛えられた人間がシンフォギアを凌駕し得ることも知ってる。それも俺が振り回された理由でもあるが」
黒江はシンフォギア世界滞在中、シンフォギアを使っていながら、歌を奏でる事をほとんどせずに立花響を圧倒している。黒江と響の不和は切歌にまつわる事、キャロルをエリスごと滅ぼした事への反発、Gカイザーが暴れたことでの居場所を奪われる恐怖に根ざしている。立花響はキャロルを救えたはずと反発したが、オリンポス十二神そのものである城戸沙織から『キャロルをエリスから引き剥がすのは、オリンポス十二神でも不可能だった』と追い打ちをかけられた事が彼女には強い衝撃となり、黒江との不和を決定的にした。(響が自分の力の絶対性に固執したのも要因であるし、自分達の認識を吹き飛ばす存在を心底で恐れた節もある)
「やれるならしたさ、でも切り離したら、元が残ってなかったんだ…クソがっ!!」
「エアで斬ったけど、元の肉体に人格が無かったって事ですか?」
「そうだ。エリスが精神を道連れにしたからな。残った体はGカイザーのバーニングブラスターで火葬したよ。それにケチつけられたから、智子が殴ってた」
「あの子、全部を傷つけない、助ける事に固執してるっぽいからなぁ。私達だって、全部が助けられたわけじゃないのに」
「俺達も全知全能じゃないんだ。プリキュアだって万能じゃないのにな」
ドリームはダークドリームを守れなかった過去があり、なぎさとほのか、ひかりも全てを守れたわけではない。何事も代償はあるのだ。なぎさ達はスーパー化の代償に鳳凰の子供が死んだ事があるし、ドリームはダークドリームを守れなかったことを今でも引きずっている。
「私だって、ダークドリームの事で後悔してるってのに。あの子は何が原因で」
「苛められて、家庭が崩壊状態だった過去があるから、誰かを救うことや守る事に異常な執着があるんだよ。あいつが俺を一年も拘束したのも、ある意味では独善さ」
「他には?」
「調と切歌を『裂いた』事かな。あいつは切歌との共依存に嫌気が差したから、のび太のとこで自分を変えたかっただけだぞ?」
切歌と調の仲を『引き裂いた』(切歌視線)事での響、切歌の一方的な反発も大きく、黒江は苦労している。調自身の選択にも関わず、だ。シンフォギア世界のメンバーと黒江を、大人切歌が仲介する事を必要としているのはそのためだ。大人切歌は『のび太さんが調と擬似的な家族関係を持ったのが憎々しく思えたんデス、あの時は』と述懐しているが、黒江としてははた迷惑である。
「お互いの関係の健全化を願ったんじゃ?共依存じゃ、どこかで破綻しますよ」
「あいつ自身もそう言ってる。だけど、ガキ共が凝り固まっちまってな。大人切歌が恥ずかしさで悶えてる」
「大人の切歌ちゃんって何歳なんですか」
「実質的には19か20だ。14の終わりで修行に行ったからな。背丈も大きくなってて、艦娘の葛城に似た声になってるよ」
「うーん。で、先輩の見解は?」
「自分もかなり歪んでる自覚有るけどよ、切歌も大概だったからなぁ。ほっといて悪化するよりマシかとも考えて、迎えが来るまでと割り切って付き合ってやったんだが、本人がナチュラルに魔改造状態で帰ってきちゃったから、オレにゃどーしょーもねぇって…ハァ……」
「ボヤきますねぇ」
一方で、響は黒江を一年も『付き合わせた』事への自責の念があることを漏らすなど、黒江へ、キャロルを殺した事への不満と『一年間を調の身代わりにした』事への罪悪感が入り交じる状態である。その彼女は英霊因子の覚醒で『沖田総司』に主導権を握られており、調と別の意味で地獄を見ている。沖田総司の殺人マシンぶりを。
「ま、神様、うまい具合にしたもんで、あいつ自身の英霊因子が目覚めて、新選組の殺人マシンになってると来てる。精神にかなりダメージ行くぞ」
「薩摩の薩人マッスィーンよりマシですよ、たぶん」
「あいつ、今頃は肉体の制御が効かなくて、自分が殺しまくるのに絶叫しまくってるかもな。目は見えるのに、体が言うことを効かないってのは拷問だしな」
「ま、なのはちゃんもやりすぎた嫌いがあるけど、ブートキャンプじゃ当たり前ですよね、あれ」
「ブートキャンプじゃ、なのはのしたことはジャブなんだがね」
「私も新兵の頃はやられたクチですし」
「陸軍はまだいいほうだ。海軍はバッターが飛んだ時期あるって、坂本と竹井が愚痴ってた」
「え、士官候補生で?」
「まっつぁんの話だと、あいつらが士官に任官する時期の頃は過渡期で、古い士官を殴れって文化もあったそうだ」
「当時は切羽詰まってました?」
「40年前後は世代交代のし初めの頃で、シゴキの慣習が多かったんだと」
「竹井さんの任官は、坂本さんより遅めですよね?」
「一期な。坂本の代から下原の代までがリバウの経験を持つんだが、下原がボやいてた」
「あー、しごかれたとか」
「坂本にそれとなく問いただしたら、軽くしかしとらんよ。私の代からは緩くなったんだー、的なこと言ってた」
「坂本さんの代は事変で多くなった最初の頃でしたね」
「指揮官が必要にされてたしな。それに、シゴキがキツイと、新しいのが入らなくなるし、陸軍はお前の代からはだいぶ緩くなったしな」
「先輩、怪我したからって丸坊主にされたって聞きましたよ」
「それでまっつぁんに気に入られたんだよ。あの人とは、それ以来の仲でな。事変ん時は若さん共々、江藤隊長を黙らす切り札として動いてもらったよ」
「江藤参謀がビビってるのはそれで?」
「若さんが隊長の指導係だったんだと、昔。それで俺が『若さんが許可しましたけど…』と言えば、隊長は引き下がった」
「加藤隊長は?」
「俺に智子とケイのストッパーを期待してたぜ、若い頃は。あん時にからかっておいたよ、たっぷり。ケイはあんなキャラだから、武子もムキになってた節があるな、若い頃」
「ケイさん、最年長でしたからねぇ」
「今で25だから…、あんときは17前後か。俺で15だったから。武子もそれで突っかかってたな」
「今は笑い話にしてるっぽいけど、当時はどんな感じですか?」
「マスコット的に見てたよ、俺達。今だと、ヘルマみたいに気合が空回りしてたし」
「ああ。ハルプにいた、ちっこいの…」
「昔はあんな感じでな。からかいがいがあったぜ。単騎無双してる俺たちにやたら突っかかってな。ケイも遊んでた」
「今の性格はG化して、精神が大人になった後の?」
「そうだ。昔は堅物だったが、今はだいぶ柔らかくなってる。ただし、カメラにうるせーんだ。タブレットのカメラ機能で撮ったの見せたら、デジタル一眼レフカメラ持ってきてな」
「隊長はカメラ小僧だって、原隊の古参が笑ってました」
「あいつ、フルーツにも目が無くてな。マンゴーパフェを日本に行って食ってんだぞ?」
「え、わざわざ?」
「扶桑にまだ、スタバやドトールがないからってなぁ。俺のバイクで、近くの駐屯地に行くぞ。そこから別の空域に飛ぶ。海戦の勝敗は決したから、智子とピーチに任せる」
「クライシスが他の所でも?」
「ダスマダーを撃退したんなら、四大隊長の誰かが別に動いてるはずだ。7人ライダーもメタルヒーローも戦隊も全部に手が回るわけでもない。俺達も働かんといかんぞ」
「プリキュアの姿でタンデムってのは、なんか、すごい絵面ですよ」
「俺のは側車ないんだし、諦めろ」
「乗り心地悪いですよぉ」
「レース仕様なんだし、タンデムは想定外だっての」
黒江はエンジンをかけ、暖機運転の後に愛車をかっ飛ばす。ドリームは変身しているものの、黒江の飛ばし屋ぶりに目を回す。
「先輩、何km出してるんですかぁ〜!?」
「160だ!軽いジャブだぜ、ジャブ!」
時速160キロでイベリア半島の大地を疾駆する黒江達の乗るバイク。駐屯地には14分ほどで着いた。そこではーちゃんと合流する。
――前線の駐屯地――
「先輩、飛ばしすぎですよぉ…」
「160くらいでへばったか?普段は音速以上の速さでかっ飛んでるくせに」
「それとこれは違いますって〜!」
「二人共、ここにいたんですか」
「お、はーちゃん。こっちに来てたとは聞いたが…、ストナーサンシャイン撃ったって?」
「ま、まぁ。勢いで」
「先輩、はーちゃんをどんな魔改造したんですか?」
「ゲッター線も浴びてるし、一言でいうならば『ドワォ』だな。銃器はのび太が仕込んだし、戦闘術は俺達が時間かけて鍛えた。以前の10倍の戦闘力だ。当社比だけど」
ことはは着てみたかったという、扶桑陸軍の制式戦闘服姿である。みらいとリコのことは知らされており、凱旋の暁には、三人で記念写真を取りたいらしい。
「昔と変わったのは、キーワードを唱えなくても、気合で変身出来るようになったことですね、ドリーム」
「え、本当に?」
「20年のうちに出来るようになったんです。最初にやったのは、中学二年の頃だったんですけど」
「仮面ライダーにも魔法使いがいたし、キーワードの省略自体は珍しくないさ。仮面ライダーもいざと言う時は宙返りで変身できたりするし」
「そう言えば、私もあの時はアイテム無しで変身したっけ…」
「私の場合は中二の頃、近くを歩いてた保育園児の列に居眠り運転のダンプカーが突っ込む一瞬で変身してた感じです。変身すれば、ダンプカーくらいは片腕で止められますし」
「2000年代の半ばくらいだったな、それ。当時はもうプリキュアは放映してる時代だから、かなり噂になってたな」
「ちょうど、MaxHeartの放映中だったと思います。それで、のぞみさん達の物語が始まった辺りに高校生だったけど、アニメ同好会で噂になってましたよ、私」
「もしかして、のび太君の世界のアニメのモデルに?」
「アニメが私達の代になった時からは売り子してます。コミケのね」
「先輩、なんて贅沢な…〜」
「アイデアは秋雲だよ、秋雲」
艦娘・秋雲は艦娘で唯一、サークル活動をしているため、英霊やプリキュアを売り子にするのは余裕で考えつく。はーちゃんもフェリーチェの姿で売り子をしており、魔法つかいプリキュアのアニメ放映中の年のコミケの話題をかっさらった怪物サークルとして名が通っている。また、のび太の世界でキュアフェリーチェがアニメに登場するきっかけが、はーちゃんの日頃の行動のおかげであったりするなど、本物がアニメに影響を与えるという珍現象も起こっている。
「TVにも取り上げられましたよね、私達」
「西東京ローカルのあけぼのテレビだよな。のび太の町に局がある」
「町でちょっとした有名人になって、嬉しかったなぁ」
「いやいやいや!?じゅーぶんに有名人だし、私達!」
「プリキュアとしては世界的だもんな、お前ら。だから、ノビスケの幼稚園バスがジャックされた事件ん時に全国区のニュースになったんだよ」
「それ、りんちゃんから聞きましたけど、能力者いたんですよね?」
「全員がレベル4級だったよ。だが、お前らの敵じゃなかった。はーちゃんなんて、マーチとルージュの前でローリング・サンダーかましてたし」
「世界でなんて実感無いから、近所で声かけられる方が感慨深いですよ、ドリーム。その時に幼稚園バスの子供達に憧れのまなざしで見られた時、震えがきましたよ」
「ルージュとマーチも誇らしかったって言ってるしな。その時だっけ?引率の先生からサインねだられたの」
「いえ、その時は逃げたんで、後のことです。その先生、なぎささんとほのかさんのアニメの時に子供だったみたいで」
「うぅ〜、私もそういう体験してみたーい!ピーチは現役の頃に、警察も顔パスだったしー!」
「自衛隊の連中になら、お前のファン多いぞ?二年やってたし。ルージュは一期の失言で子供人気ないって言われて、ガチで落ち込んでる」
りんはプリキュアファンの三等空佐(黒江の部下の経験がある)から、自分の人気が低めである事を知らされ、本気で落ち込んだという。後年に至っても、のぞみが高い人気があるのと対照的だが、サッカー好きのノビスケ(のび太は下手の横好きで野球)がファンである事を喜んでいる。その関係で、ノビスケの乗る幼稚園バスのジャックを聞くと、マーチが大笑いするほどにやる気になっていたという。
「でも、あの時、一番やる気でしたよ、ルージュ」
「ノビスケがサッカー好きなせいかも。ほら、りんはフットサル部だったろ、基本。それで気に入ったらしくてよ、可愛がってんだ」
のび太は野球が親の影響で好きで、道具を使って、巨○軍を勝たせたこともある。対して、その子のノビスケは母親の運動神経を継いだらしく、サッカー好きであった。幼稚園時代からサッカークラブに入っている。りんはそんなノビスケを気に入り、可愛がっている。
「へぇ〜、りんちゃん、ノビスケくんを可愛がってんだ…」
「ノビスケは2019年だと、まだ小学校にも行ってない歳だが、りんを慕ってんだ。それで悪い気はしないらしくてな」
「いいなぁ、りんちゃん…」
「いいやん、お前は数年以内に、恋人気分がまた味わえるし」
「ココでからからないでくださ〜い!」
黒江にネタにされるのぞみだが、壮年のび太の贈り物である婚約指輪は変身前は身につけており、婚約は公然の秘密であった。芳佳(キュアハッピー)も吾郎技師と婚約済みである事から、64Fは47年前後に、二回も結婚式が控えている事になった。のぞみとみゆきの結婚に大慌てになったのが、現役時代に結婚式のドレスが話題になった経験があるキュアハート/相田マナである。はーちゃんが知らせたのだが、試合の日日が確定したその日のことだったので、激しく狼狽。エリカの姿でマナの声を出す姿を、その世界のまほに見られる失態を犯している。だが、どの世界でも寡黙なまほは、特に気にも留めない(実際はすごく萌えていた)風な感じだったので安堵した。だが、失態は失態であるので、蒼乃美希/ダージリンから叱責されたという。
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