外伝その340『扶桑の苦しみ』


――扶桑皇国は結局、日本の政治勢力に正面戦力を弱体化させられたため、ヒーローやヒロインに頼らざるを得なかった。これは完全な日本の失策であったが、日本の一部勢力は悪びれもしなかった。プリキュア達が世界を超えていた頃、日本では相も変わらぬ国会のいらぬ議論などが起こっていた。軍事的には、ウィッチとの共用空母であったはずの『雲龍型航空母艦』のこれ以上の建造の中止、中後期艦の他用途転用が始められた。その大義名分が『エセックスに全てで劣る』という理由だが、扶桑は『数で対抗する』つもりだったので、日本の提案は戸惑うものだった。しかし、ジェット空母の量産配備は金がかかるのは事実であるが、雲龍型に回す予定の資材を満載排水量が80000トン級以上の新型大型正規空母に回す理由の説明を日本側が扶桑の現場に上手く説明できなかったのも、扶桑海軍の青年将校たちのクーデターを招いた感は否めない。ウィッチの排除ではなく、『住み分けを図る』という本来の提案意図の説明が下手だったのだ。雲龍型は改造で強襲揚陸艦への転用、もしくはヘリ空母、輸送艦への転用は史実と違い可能であった。その上での提案だったのだ。当時、海軍ウィッチ隊は政治的に苦境に立たされており、海戦で起死回生を狙っていたが、実際に参戦した生え抜きウィッチはごく少数であり、多くは事変世代のウィッチか、陸軍出身者であった事で、追い詰められていた。その上、ウィッチの出る幕がないほどの戦闘機同士の激しい空中戦。事変の生き残り達が機材を消耗し尽くすほどの激戦。戦場の主役は大口径砲を搭載する戦闘機であるとしか言いようのない様相は、海軍青年将校たちの焦燥を生み、『破局』へと至らしめる。扶桑の苦しみは、新体制へと変革するまでの流血と世代間対立だったのかもしれない…。


――シンフォギアC世界――

「と、言うわけです。風鳴弦十郎司令。我々は調を迎えに来たのです」

キュアメロディは軍隊階級では、最上位になる(次席がのぞみ/ドリーム)ため、現地世界での風鳴弦十郎との交渉に当たっていた。隊の中では、口八丁が黒江に次ぐレベルであるためだ。

「そちらの行動は了解した。だが、信じられんな。異端技術無しに、装者と対等……いや、それ以上のポテンシャルを発揮するとはな」

「我々の戦闘を観測していたのなら、お分かりのはずです。我々は貴方方の想像力の及ばぬような敵と戦い続けてきました。聖遺物などは味方に保有者がいるので、驚くほどのものではありません」

風鳴弦十郎の表情が僅かに変わる。冷静を取り繕ってはいるが、驚きが出たのだろう(交渉と言う名の腹の探り合いでは、ポーカーフェイスも立派な武器になる。キュアメロディは経験上、比較的であるが、ポーカーフェイスに慣れている)。

「ぬぅ…」

「こちらは、調が活動している世界における『山本五十六』国防大臣の親書になります」

「山本五十六……太平洋戦争開戦時の連合艦隊司令長官か。その世界ではご健在なのか」

「世界情勢が大幅に異なるので、貴方方の知る形では戦争は起こっておりません。ですので、45年でも、山本五十六閣下はご健在であられます」

「……拝見しよう」

キュアメロディは黒江が山本五十六に用意してもらった親書を手渡す。風鳴家のSONGへの干渉を防ぐため、64Fは山本五十六の史実での威光を使ったのだ。

「我々としても、彼女の帰還に異論はない。エルフナイン君に資料を提供するというのは?」

「調の故郷の世界のエルフナインをそちらの彼女自身に会わせ、資料を提供させるという意味です。この世界は数ある平行世界の一つになりますので」

「我々もギャラルホルンで実証実験は重ねて来たが、同一人物の同時並立と共存というのはあり得るのか?」

「複雑な理論になりますが、選択を選ぶ局面ごとに平行世界への分岐は起きます。その時点でお互いに『同じ姿を持つ別の存在』に枝分かれするので、我々にとっての調と、この世界における『月読調』は共存できるのです。ギャラルホルンは近隣世界に繋がりやすく、時間軸の調整も効かない。それなら、先史文明がフェイルセーフとして、『同一人物が出会わない』ように作ったのかもしれません」

「それは充分に考えられる事だな…。君の『本名』を伺いたい。ヒロインもの風のTACネームを政府への報告書に書くわけにもいかなくてな」

「北条響。アメリカ合衆国空軍少佐です。これでご満足いただけましたか?」

「ありがとう。君は移民で合衆国の国籍を?」

「そう取って頂いて結構ですよ」

微笑むキュアメロディ。全てを話す必要もないので、自分の来歴に嘘を混ぜる。紅月カレンとしての経験で得たノウハウであった。山本五十六も『連合国を代表して…』と親書を綴っており、黒江とグルであった。C世界とは関わりを今以上に持つ事はないからだ。キュアメロディは派遣メンバーでは、精神年齢が一番に高いため、政治的な交渉の場に出た。黒江から政治的交渉の場でのテクニックを即興で教わり、実践したというわけだ。キュアメロディは、軍隊階級では最上位であるので、のぞみではできない(錦の性質も混ざったので、現役時代よりはドジは改善してはいたが)事を彼女が担当する。役割分担であった。



――こうして、調はようやく帰れる事になったわけだが、形式上とは言え、軟禁状態に置かれたための詫びで、帰還に必要な書類が現地の日本政府に受理されるまでの三日ほどの期間は自由行動が許されたのだが、響C、切歌C、クリスC、調C立っての希望で、その日の内に『模擬戦闘訓練』が組まれた。エルフナインCも口添えしており、調A達はこれが『データ収集を兼ねている』ということを悟り、自衛隊の演習場を貸し切るように要請した。SONGの移動司令部を兼ねる潜水艦では、『自分達の全力で沈む』からだ。自衛隊のある演習場を貸し切り、お互いの全力で模擬戦を行った(エルフナインCが実際に詳しいデータ収集を行いたかったのもある)。――





――模擬戦は開始された。プリキュアと聖闘士相手に装者がどれほど立ち回れるのか。プリキュア達と調Aにとっても、旨味のある話であった。――


「まずは!」

マリアと翼が切り込んできたため、ドリームとピーチが対応した。ドリームはファルコンセイバーで天羽々斬のアームドギアに対応し、Aの剣戟を見ていた事、黒江に鍛えられていた事により、斬撃を受け流す。ファルコンセイバーは怪人の強固な皮膚も斬れるため、天羽々斬のアームドギアに劣らないからだが、翼をまずは相手取る。

「借り物だけど、そいつに劣らない逸品だよ、こいつは」

ドリームは微笑むと、錦の体が覚えている技能をフル活用し、翼Cの斬撃を尽く受け止める。更にプリキュアとしての身体能力で、翼が足に展開したスラスターの推力を加味した正面からの突撃を押し返して見せた。

「やはり、貴方は私の剣を見切っているッ…!」

「調ちゃんの世界のあなたに会っているからね。手の内はバレてると思いな」

「…!?馬鹿な……押し返されているだとッ!?」

スラスターの推力を加味しても、ドリームを押すどころか、逆に押し返されることに驚愕する翼C。しかも片腕で。とっさに足のブレードを展開しての『逆羅刹』に切り替えるが、ドリームはそれを見切り、空高く舞い上がる。



「力入らないタイミングで押し切れば、押す方に力いらないんだよね。鍔迫り合いの基本さ。さあて、久しぶりにやってみるか!タクトないけど、プリキュア・クリスタルシュゥゥト!!」

「!!」

ドリームはかつての現役時の初期に使用した技の一つをアイテムを介さずに放つ。翼Cは天羽々斬を双刃刀へと変形させ、回転させることでそれを防御するが、完全な相殺は不可能だった。爆風で吹き飛ばされるが、翼Cはそこから態勢を立て直し、巨大な刃を形成し、スラスターの補助も入れて蹴り込む。『天ノ逆鱗』である。ドリームはここで精霊の力を使い、それを受け流し、弾く。



「な、何ッ!?」

「悪いけど、もらった!!!」

ドリームはかつてのキュアブルームと同じように、そこからオーラを纏って跳躍。強烈なパンチを食らわせた。小宇宙も入れているため、拳の速さは音速を優に超えていた。

「……ふう。こっちも、ヒロインを長くしてる身なんだ。若い子には、まだまだ負けるつもりはないよ」

ドリームはプリキュア歴が現状ではもっとも長いため、ピーチと並び、古強者とされる。自身の先輩の力、更に自身が転生後に鍛えた技能で翼Cをノックアウトした。翼は高速戦闘兼剣戟専門なので、それが通じない単純などつきあいになると、意外に脆さを見せる。それが音速拳一発で『のびた』結果に繋がったのだ。もっとも、シンフォギアを加味しても耐久力では立花響に劣るため、相性が悪かったのもあるだろう。ちなみに、のぞみ/ドリームは前世での現役当時は2000年代後半。その時に14歳ほど。シンフォギア世界でフロンティア事変が起こった2015年と、のぞみの先輩であったなぎさとほのかが1990年の生まれという点を起点にして、現役時代の2007年前後で14歳であった点を逆算すると、のぞみは1992年〜1994年までの生まれと計算できる。少なくとも、のぞみとラブは翼やマリアより『年上』である。(のび太は昭和末期生まれなので、のび太よりは4、5歳は若い事になる)

「これでまずは一人をノシた。他のみんなはどうだろう」



――他のメンバーに思いを馳せるドリーム。他のメンバーはというと…――

「はぁああああっ!」

「でぃぃや!」

メロディが響Cを抑えていた。立花響は元々、風鳴弦十郎を師とし、中国拳法のスキルを高いレベルで身につけているが、キュアメロディ/北条響(シャーロット・E・イェーガー)も現役時代に空手などの心得を部活の助っ人で身につけており、総合戦闘力の観点で言えば、キュアメロディに多少の分がある。

「やるじゃないか。あのおっさんが映画からの見様見真似で覚えて、お前に仕込んだと聞いたが…。」

「そうかぁ、貴方は別の私に会ってるんでしたね。あの、変身してない状態での名前を教えてくれますか」


「北条響。お前と同じだ。本来の相方は奏って名前でな。あのガキが反応しそうでさ。うっかり名前を出せなくて」

「翼さん、奏さんを大切に想っていましたから。災難ですね」

「あたしの知るお前だが、色々と状況が違っててなぁ。なんて言ったらいいか。一言で言うなら、ガングニールへの執着が一線を超えちまってなぁ。手を焼いてる」

「どんな感じなんですか?」

「うーん。お前には必要無いかもしれないが、念の為言っておく、武器を信じるのは良いが依存はしない事、それだけは覚えておいた方が良い。そして今の自分がどこまでできるかの見定めを誤らない事だ。エクスカリバーをこっちの調と、もう一人。あいつの師匠が持ってるんだけどな。その人が調と入れ替わっちまってたのは聞いたろ?その時にエクスカリバーを使って、お前をさんざ圧倒したんだ。それで、な。」

「エクスカリバーって、たしか…」

「アーサー王の持っていた聖剣だ。グングニルより格上の宝具だ。それで、魔法少女事変の時、キャロルがある邪神に取り込まれてな。オリンポス十二神の力でも、元には戻せないから、倒すしかなかった。が、お前はそいつの攻撃で卒倒してて、事態を知らされたのは、事が全部終わった後だった。それでお前は、元から溜まってたその人への不満とかが一気に弾けて、場の空気を一瞬で凍らせた。あたしが聞いてる話だと、そんな感じだ」

「え、ふ、不満って?」

「その人が調と切歌の仲を引っ掻き回したと思った上、ガングニールの絶対性に泥酔しかけてる時に、ガングニールの元になった『グングニル』より格上の宝具を使われて、自分の居場所を奪われるって考えたんだよ。キャロルを倒す時の戦闘に、力量差の関係でお前らは殆ど関われなかった。それもあって、周囲とギクシャクしてな。それで、ガングニールに依存し過ぎて、向こうのお前は潰れかけて、おかしい方向に今はブチ切れて、よりパワーアップしてる」

メロディの言う通り、響Aは魔法少女事変の最終局面、エリスがゲイ・ボルグを持ち出し、響のガングニールとかち合い、響Aは自身の『何かを繋ぎ止める』特性もあって、一命は取り留めたが、その戦闘中は昏倒する羽目になった。その間に全てが終わっていた事、オリンポス十二神が一柱『アテナ』がいながら、キャロルを救ってやらなかったと、面と向かって批判し、場の空気を凍らせるという大失態を演じた。

『我が剣の力持ってしても、連れ戻せなかったのは我が力の至らぬ限り、敵の魂喰らいから取り戻すだけの権能を持たぬこの身が不徳、赦せとは申しません』

沙織はそうとだけ述べた。オリンポスの神に謝罪させるという前代未聞の事態に、黒江達も蒼白になった。それ以来、響Aは黒江達と折り合いが良くない。ラ號やグレートカイザーなど、法則を容易に越えることのできる兵器も現れていたショックからか、引っ込みがつかなくなり、小日向未来が代わりに詫びる事態になった。(響Aの中の沖田総司としての激昂すると、前後の見境がなくなる気質が表出し始めた時期に魔法少女事変が重なったためもある。もっとも、沖田総司は友人や身内には好人物として振る舞っていたので、激昂すると、普段の理性が吹き飛ぶタイプだったのがわかる)それが元で、響Aは切歌Aへの肩入れを強め、成り行き上、黒江との関係は響から見てだが、表面的には悪化している。(黒江は『ガキの癇癪だ』と気にしていないが)

「なんか、自分がやったって言われても、ピンと来ませんよ…」

「お前自身がやったことじゃないからな。仕方がないさ。別のお前、あたしらは『同位体』って言ってるが……のした事だしな」

二人は戦いながら、会話する。響CはAのした事に気まずそうであり、『同じ人物』でも第三者視点で物事を見ると、違う反応になることのいい見本であった。キュアメロディは精神面では北条響としての優しさ、紅月カレンとしての苛烈さ、シャーリーとしての大らかさが共存している状態であるため、『姉貴分』とも言うべき気質である。内心で『黒江さんと出会ったのがこいつならなぁ』と、立花響の気質の微妙な差異を嘆いたのだった。

「双子の兄弟のしでかし程度に思え」

「うぅ。その私、どうなってるんですかー!?」

「後で教えてやる。向こうのお前の反省材料になってほしい」

なんとも切実な願いだが、A世界の子供切歌がサボタージュし、響は黒江へ悪感情を抱いたままで沖田総司に主導権を握られている。響の意識はどのような状態であろうか。予想はつくものの、拷問のような状況だろう。A世界の切歌を納得させ、響に沖田総司の意識を受け入れさせるには、響Cの言葉が必要だと示唆するあたり、相当に響Aの意識が悲鳴をあげている事が予想されていながら、沙織に謝らせたことで、『同情する』者が殆どいないのを哀れんだからかもしれない。






――調Aとフェリーチェは、調Cと切歌Cと対峙したが、こちらは調Aが聖闘士であったりするため、圧倒していた――


「たとえ別の世界って言ったって、調と戦うのは気が引けるデスけど、やるからには!」

「悪いね、切ちゃん。手加減無しで行くよ。ドミネーションラングウェッジ!……『止まれ』」

表紙に剣の絵が描かれた書物を召喚し、切歌Cの動きを空中で止める。この技で動きを止められると、聖闘士でも抵抗できないため、黒江は『ハメ技』と評している。黒江はあまり用いないが、調は使用機会が多い。切歌Cはその言葉に体を『支配』され、空中で静止してしまう。シンフォギアのスラスターを全開にしても、まったく微動だにしない。空中で静止し、指一本すらも動かせなくなった。

「なんですか、これ…!?ギアが……い、いや、体が動かないデス!?」

「悪いねー。この技、ハメ技でね。シンフォギア装者にも効くとは思わなかったけど。『落ちろ』

「……う、嘘…!?」

「『スラスター全開でね』」

中々にエグい命令を出し、切歌Cを弄ぶ。この闘技は失われていた山羊座の奥義の一つで、以蔵の先代以前に失われしものであった。黒江が求道的に極める内に『会得』し、調Aは技能のラーニングでそのまま引き継いでいる。それを別の自分自身にもかけた。

「さて、貴方にも『止まって』てもらうよ」

「うっ!?」

調Cも技をかけられ、ギアのローラーで高速走行中であったのを強引にストップさせられる。調Cのギアのローラーは駆動したままだが、前進するための推進力を得られなくなり、高速回転する内蔵ローラーもその場で虚しく、派手に空回りするだけであった。拘束技としては最上位のものであり、青銅聖闘士程度では反抗すらできない。言葉の力で相手を支配する。山羊座にしては、外道と言えるほどにえげつない奥義である。

「う、動けない…!?なんで……!?」

戸惑う調C。ローラーの回転速度を全開にしても、結果は同じであった。

「…くっ!」

「無駄だよ。技も使えないはずだよ」

「え…!?」

調Cが繰り出そうとした技は、ギアそのものが『支配されている』ために、鋸一つ、ツインテールの髪を覆う装甲を兼ねたコンテナから射出するアクション一つも起こせずに終わる。

「ギアも動かせないから無駄だよ?たとえ絶唱を唱えても、ギアそのものの動きを封じた以上、エネルギーの上昇による変形も起こせずに徒労に終わるよ。その前にギアが自壊すると思う」

『それじゃ模擬戦闘にならねぇだろ、もう少し遊びのある方法で相手してやれ』

「了解、メロディもチェックしますねぇ」

『一応な。黒江さんは拷問以外は使わねぇし、それ。解除してやれ』

「はい」

「……これは貴方の趣味なの…!?」

「まさか。デモンストレーションだよ、デモンストレーション。さて、解除するけど、ついでにプレゼントだよ」

「プレゼント?」

「これさ。『アトミックサンダーボルト』!!」

一瞬で一億の光速拳をブチ当てるアトミックサンダーボルト。傍から見れば、無数の光弾が調Cを蜂の巣にするようにしか見えないだろう。これが調Aが次期黄金聖闘士候補と言われる所以であり、黒江の弟子である証明である。ただし、直撃はさせず、衝撃波で吹き飛ばした。

「掠めただけでコレデスカ〜!?反則デス、はんそ…」

「きれいにぶっ飛んでいったね」

「死なない程度には加減してるよ。300mくらいは吹き飛ぶだろうね。さて…」

「なんてエグい真似を…!動ける様になったのなら、こっちのもんデス、いくら調でも、おしおきデース!!」

「フェリーチェ、相手は任せるよ」

「分かりました。ゲッタァァァトマホォォク!!」

真ゲッターロボと同タイプのゲッタートマホークを召喚したフェリーチェが切歌Cの鎌を迎え撃った。切歌は良くも悪くも突撃タイプ。得物の関係で、取れる攻撃のバリエーションはどうしても限られている。切歌の全速力をいなしたフェリーチェは、鎌をゲッタートマホークではたき落とし、更に一撃を食らわせる。

「は、速い…!それと、別のアタシの攻撃を知っているだけあって、一筋縄ではいかないようデスネ…!」

「貴方にシンフォギア装者としての誇りがあるのなら、私達には『プリキュアとして、世界を守ってきた意地』があります。たとえ模擬戦と言えど、容赦はしません」

フェリーチェはその柔和な姿と不釣合いなほどの攻撃的な両刃のハルバードを担いで、それらしいポーズを決める。20年間の鍛錬で魔法に頼らない戦闘を模索したようで、ゲッタートマホークを担ぐ姿もサマになっている。みらい達が見たら泡を吹くだろう。(ZEROに魔法の効果を無効化された事を鑑み、戦闘では物理攻撃を主体にした)

「はぁっ!」

フェリーチェの攻勢が始まる。真ゲッターロボを思わせる、幾何学的空中機動からのトマホークによる接近戦は切歌Cをして、『速い!!』と言わしめるほどであり、模擬戦とは言え、切歌が食らいつけているのが不思議なほどであった。途中からはゲッターサイトに変形させ、鎌で対決するが、フェリーチェのほうが大胆に振るうため、切歌は度胸に欠けるために押され始める。

「これでどうデス!?」

切歌Cはイガリマを乾坤一擲のタイミングで振るうが、完全に空を切る。

「なっ…!?」

「疾いですね。ですが…、直線的ですね」

フェリーチェは攻撃を躱し、イガリマの刃先に『立っていた』。バトル漫画で、実力差がある場合によく見るようなシチュレーションである。そこから、サイトをショルダースライサーに変形させ、空高く跳躍する。あくまで手加減はしているが、割に本気を出したフェリーチェ。20年の特訓は伊達ではないと言わんばかりに、ハルトマンから教わった技を以て、一気に決めた。

「申し訳無いのですが、一撃で決めさせてもらいます。飛天御剣流・九頭龍閃!!」

――鋭い炸裂音が響き、土煙が晴れた時、切歌Cは仰向けに倒れ伏していた。正確には、装甲の無い所を狙ってひっぱたき、悶絶したというべきだろう。――



フェリーチェは、野比家にいた20年の時間を学業の他には『鍛錬』に費やしている。その都合上、のび太の成人後は彼の裏稼業に関わっている。これは調Aも同様であり、Gウィッチ達は裏で日本連邦の評議会や幕僚会議の出す『依頼』を遂行したりしている証明であった。フェリーチェが飛天御剣流を撃てるのも、それが理由だ。そもそも、『広義』の意味では、歴代仮面ライダーやメタルヒーローの活動も裏世界での出来事に相当する。プリキュアの活動もそれに含まれる。フェリーチェはのび太と共に暮らすため、のび太成人後の時代からは、志願する形でのび太の裏稼業に足を踏み入れた。その過程でのび太が憂慮し、相談を持ちかけたのが、その時に非番のバルクホルンとハルトマンだった。その関係で、ハルトマンやバルクホルンなどから『戦闘術』をあらかた仕込まれた(特に、バルクホルンは気合が入っていた。妹キャラにめっぽう弱いためで、ハルトマンもそれに付き合った)。そのうちの一つがハルトマンからの飛天御剣流である。ことは/フェリーチェは黒江やハルトマンのような『見かけによらず屈強な体躯』を持たない肉体的ハンデがあり、それを補うために『技の速度』を極めた。その速度はこの時点では、剣術面の師匠と言えるハルトマンをも僅かに凌駕するもので、総合的に言えば、フェリーチェの『九頭龍閃』の威力は超人である比古清十郎には全てで劣り、緋村剣心、ハルトマンとほぼ同レベル(威力は劣る)に達していた。

「……すみません。ですが、こちらとしても、プライドがありますので」

フェリーチェはのび太の力になるため、プリキュア出身者でありながらも、裏世界に関わっている。裏世界と言っても、表世界との境界線は組織の公然とした行動、諜報が華やかりし東西冷戦時代の終結、冷戦後の世界秩序の再構築、日本連邦の成立で薄れてきている。また、歴代プリキュア達の活動は既に認知されており、フェリーチェが裏稼業に足を踏み入れても、違和感はないと評されるまでになっていた。あのゴルゴの活動も、東西の主要諸国の諜報機関からの依頼が大半だった東西冷戦時代に比べれば表世界寄りになっている。流石に21世紀を超えると、各国諜報機関の活動が全体的に減ってきたという平和な時代の流れもあるのか、だいぶ表世界寄りになっている。例えば、アメリカ合衆国のとある大手自動車製造企業から『会長の命を『爆弾魔』から守ってほしい』という依頼が企業の警備担当者を通して、彼に舞い込むほどである。(もちろん、完璧に遂行した)


――のび太は成人後は『善悪の見境がない殺し屋』ではなく、某XYZの暗号で依頼人と連絡し、コルト・パイソンを愛銃にし、もっこりがトレードマークの人気漫画の主人公よろしく、『スイーパー』を自負しているため、ゴルゴほどは政争関連の仕事は引き受けないというポリシーがある。フェリーチェは『のび太の仕事を時たま手伝うというプリキュア』として認知されていて、表世界(のび太とドラえもんの世界)での認知度も『魔法つかいプリキュア』のアニメ放映以前の時代から高い。のび太の世界では、魔法つかいプリキュアの放送以前から、フェリーチェが活動している事は知られており、逆にモデルになったとされる。(つまり、存在が認知される時期がアニメ放映のはるか前であったため、本当に魔法つかいプリキュアの一員と言うことが認識されていない場合も多い)アニメ放映中の頃のコミケで話題をかっさらった逸話は黒江が仕組んだのだが、『本物』が売り子をしていたからで、後で話を聞いた朝日奈みらいはあまりの衝撃に、ひっくり返ったという。(のび太がみらいに、コミケのことを言ったからだが、その時にアニメの制作側の人間が取材に訪れていて、それがアニメに影響を及ぼしたとも言い、みらいは『はーちゃんだけずるーい!!』とぶーたれたという。その時にフェリーチェがドリームが時代が進むごとに減る出番を愚痴っていた事を言ったため、間接的に2018年のプリキュアオールスターズの映画のシナリオが書き換えられる原因を作った。(ドリームが当時の現役プリキュアである『HUGっと』、初代のなぎさと並ぶ活躍をするように書き換えられた。ピーチ、メロディと共に第一世代オールスターズの代表格として活動するように。これを聞かされた本人は冷や汗をかきまくったが、アニメの制作側にとっても『本物』の取材ができるために旨味はあった。のぞみの人気の高さの証明にはなったが、内容は当人が後のデザリアム戦役で陥る状況を暗示するかのようなものであったのも事実だった。この時はまだ知る由もなかったが、りんの記憶喪失が起こった後、のぞみが荒れた理由の一つが『映画と同じように、友達の記憶が消えてしまった』事への衝撃である。のぞみは映画の試写会に招かれた時、りんに『りんちゃんは私のこと、忘れないよね?』と冗談交じりにだが、質問した。りんは『忘れるわけないでしょ?あんたのことは。昔から危なっかしいんだからさ』と返した。のぞみにとって、りんは今や家族も同然。かつての戦いを共にし、幼馴染でもあったからというのもあるが、のぞみが守りたいと心から願う人でもあった。その分、記憶喪失後の無機質さに愕然とさせられるのだ。それがヌーベルエゥーゴへの憎悪を煽った感がある。また、激昂すると、錦のような粗野な口調になる事が顕著に現れるのも、りんの記憶喪失が一番の原因である。のぞみを『テロリストを絶対に許さない』気質に変えてしまったという点では、タウ・リンは罪深い。タウ・リンはのぞみに『俺自身の意思で連邦とジオンも関係なくウジ虫を潰す!!俺の意志でウジ虫共を!』と宣った。それものぞみの義憤を煽った。あまりに身勝手な、倫理観が完全に狂った男のテロ行為。病院に入院するりんを暗殺しようとする、爆弾での民間人虐殺も意に介さない。彼のあまりの非道な行為がのぞみを『テロリスト絶対殺すマン(テロリストスレイヤー=サン)』に変えてしまうのだ。また、響(シャーリー)とのコンビで活動し、『絶対に許さない!!』をキメ台詞にするようにもなり、黒江達を心配させた。黒江達が蒼乃美希や春日野うららを戦車道世界から呼び寄せたのは、りんを奪われ、荒れに荒れるのぞみを正気のままでいさせるためであるのだ…。





――21世紀では表世界と裏世界の境界線も薄れ、町中のテロも平然と起きる。のび太が青年期を迎える時代はそんな時代であり、一見して平和な日本連邦も無縁ではない。Gウィッチ(プリキュア出身者含め)は23世紀の戦乱を生き、21世紀世界での複雑な世界情勢の裏を見、ウィッチ世界を支えるという重大な役割を担う。のび太は彼女たちを支えつつ、ウィッチ世界の戦争においては、『僕はこの世界の歴史の主人公じゃない。ウィッチ世界じゃ、彼女たちが主役。僕は脇役さ。僕が前線に出てバシバシ戦うのを期待する誹りがあるようだけど、僕がいちいち出張る必要はあるかい?』と述べており、ウィッチ世界の戦争に関しては『自分はこの世界の戦争の主役ではなく、彼女たちを補助する立場の男さ』と明言し、そのスタンスに従う行動を見せている。のび太は次のように述べている。


『光と闇の交錯する彼女たちの道に灯火を照らし、彼女たちを導くのも、僕とドラえもんの役目さ。僕たちはある時は主役だが、状況に応じて脇役(創世日記の出来事のように)にもなれる。世の中、スポットライトをセンターで浴びることだけがえらいとは限らない。僕は彼女たちにそれを教えたいのさ、ドラミちゃん』


のび太ははーちゃんや調を住まわせていることについて、ドラミにその真意を問われた時、こう返している。のび太は創世日記にまつわる冒険で『傍観者』としての視線を学び、二人を住まわせるようになった時代を迎えると、脇役、傍観者というものの意味を考えるようになり、小6の自由研究はそれについての所見を当時のつたない文章力なりにまとめたもので、のび太の小学校生活の最後の夏を飾っている。少年から青年に成長すると、『主役でなくても、輝ける場所はあるよ』と、脇役を肯定的に捉えるようになる。その大らかさが前世でオールスターズへの召集がかからなくなり、友との絆を再確認する場所を時の流れで失い、遂には子との相克で精神を病んだ経験のあるのぞみの心に新たな灯火を照らし、大切な家族をいっぺんに失い、あまりの事態の残酷さに塞ぎ込み、出逢った当初は鬱病の一歩手前、『引きこもり』になりかけていたことはに父性的意味での愛を注ぎ、20年もの時間をかけてでも立ち直らせた。調には『共依存ではない、お互いが対等に並び立つ形での友達との絆』を教えた。のび太が時間をかけて遠大な行動を起こす根源は『愛』だ。もう一つはのび太が家族の中で最も敬愛していた女性、自身の父方の祖母が幼少期ののび太へ生前、最後に言い残した『七転八起』の精神にある。

「自分は自分のストーリーの主役だけど、他人には、その人のその人が主役のストーリーがある、だから機会を捉えて必要な役をこなすのも自分の人生というストーリーでは大切な事で、誰かの成功に助けを出すのも自分の中の輝きを見せる事になるんだ。だから、誰かが脇役なんじゃない、皆が主役であり脇役なんだよ?」

のび太は三人にこう言い聞かせている。また、のび太の慈愛の根源にある存在が『のび太のおばあちゃん』であり、彼女が最後に言い残した一言がのび太を支えているのであると、のび太の両親から教えられている。

『ころんでも、ころんでも、ひとりでおっきできる強い子になってくれると…、おばあちゃん、とっても安心なんだけどな…』

のび太の祖母は病を患い、のび太が幼稚園の頃に病没している。のび太は玉子よりも彼女を慕っていたため、玉子が少年時代にのび太を厳しく躾けていた間接的要因でもあったが、のび太の精神的成長がドラえもん達によって促されると、少しづつ、玉子は本来の温厚な性格を見せ始めていった。のび太の精神的成長を促すための最後の一手。それがのび太の両親が調とはーちゃんを迎え入れた本当の理由である。また、ドラえもんはいずれ去り、野比家からいなくなる事を見越し、ドラえもんが去った後も、老いゆく自分らに代わり、『伴侶』と違う視線でのび太を支える存在をのび助達が求めたからでもあった。これが調とはーちゃんがのび太を青年期以降も支えている事の真相だ。(ちなみに、のび太とのび太のおばあちゃんとの最期の絆の話を聞いたのぞみ、はーちゃん、調は感涙にむせいだという。また、のび太が祖母の命日には線香を上げている事を知ると、野比家の仏壇を拝むこともするようになったという。)その慈愛の精神はのび太を通し、Gウィッチ達(プリキュア含む)へ伝えられ、彼女たちを精神面で支えている。その教えこそ、のび太が後世資料に『高潔な人物であった』と記される最大の理由になる。歴代スーパーヒーローものび太のその純粋な精神に共鳴し、共同戦線を張るようになっているように、のび太は各勢力の間を上手く取り持つという意味では、まごうことなき『主役』であった――



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