外伝その344『帰還』
――歴代のプリキュア達も人生全てが順風満帆ではなく、のぞみのように、報われない後半生を送った者も存在する。(その報われなさは他のプリキュアが同情するほど)その点では、のぞみ/ドリームはのび太と出会い、世帯を持つことで真に安らぎを得た事になる。また、この時にドリームとフェリーチェがゲッター線に選ばれた事を仲間が認識する一幕もあった。――
「連中、空中戦艦持ちだしてきたわよ!」
「おもしれぇ!だったら!」
「空の塵にしてやります!」
錬金術士達が持ち出してきたバル・ベルデ共和国製の空中戦艦。ドリームとフェリーチェは自らが目覚めたゲッター線の力を最大まで引き出す。
「フェリーチェ、分かってるな!」
「感じる……二つの心が一つになっていく……!」
『おおおおおお――っ!!」
『はぁぁぁぁああっ!』
二人が高濃度ゲッター線に包まれる。迸るエネルギー。それはどこかの世界での真ゲッターロボと真ドラゴンを想起させるものだ。プリキュア由来ではない『ゲッター線由来』の必殺技を発動させるための手順である。
『ゲッタァァァ!!シャイィィィン!!』
二人は同時にゲッターシャインでゲッター線を漲らせ、白い光に包まれる。あまりに高濃度のエネルギーだと、発光の際に色が消え、白く包まれるのである。
「ねぇ、せっかくの空中戦艦なんだし、こっちも戦艦呼び出すとか」
「ラ號見せたら、あいつとの関係がこじれたって黒江さんが愚痴ってたから、無しだってよ」
「どういう事?」
「あのガキ、ラ號が普通に異端技術を捩じ伏せられるって言ったら、ヒステリーを起こしやがったんだと。黒江さんに言われたんだよ」
「せっかくなんだし、なにか呼ばない?」
「クォーターは呼んであるから、来てもらう。二人のシャインスパークの一発で沈むほどはヤワじゃねぇだろう」
『シャイン!!スパァァァァク!!』
二人が同時にシャインスパークを放つ。高空からの急降下で敵にエネルギーをぶつける、ゲッタードラゴン同様の手順でのシャインスパークであった。
『おおおおおおおああああっ!』
ゲッターエネルギーの弾丸を放ち、二人は同時に離脱する。ゲッターエネルギーの塊を二個同時に食らった空中戦艦は装甲に大穴を穿たれつつも、なんとか浮いていた。
「持ちこたえやがったか!メロディ、ルージュ!」
「分かってる!出ろぉぉぉ!マクロスクォーター!!」
指でスナップをし、ガンダムファイターの真似事をしてみるメロディとルージュ。意外にノリノリだ。それが合図となり、空を貫かん勢いでマクロスクォーターが降下しつつ、トランスフォーメーションを敢行してくる。400mの巨体ながら、マクロスとしてはクォーターサイズである故の機敏さを見せる(もっとも、保有艦載機数の少なさを減点に挙げる者も21世紀の関係者に多いが)。
「お前ら、クォーターのレフトアームに乗れ!マクロスアタックするぞ!」
「ダイダロスアタックじゃ?」
「そっちのほうが有名なんだと」
「デストロイドで穴を開けて制圧?」
「そうだ。デストロイドに障害物を消してもらって、後はあたしらで制圧する。ロンド・ベルに雇われたから、好きに呼べるそうだ」
「つか、この時代の技術の空中戦艦の素材、デストロイドの砲撃に耐えられんの?」
「異端技術で作ったようだし、持つんじゃね?案ずるより産むが易し、とにかくやるぞ」
メロディは皆を率いて跳躍し、トランスフォーメーションを終えて降下してくるクォーターの空母部分の甲板に着地し、そこから『マクロスアタック』に加わる。一同はデストロイド部隊が血路を開いたのを見届けると、代表して突撃した。
「どきなさい!話に聞く、どこかのハリウッド映画そのまんまの国の軍隊が動かしてんでしょうけど、普通にいろいろとおかしくない!?プリキュア・ファイヤーストライク!!」
『プリキュア・ファイヤーストライク』を三連続で放ち、錬金術士達とシンフォギア世界には実在したバルベルデの軍人達を蹴散らすルージュ。
「さて、こっちは……っと!!」
更にミューズが『プリキュア・スパークリング・シャワー』を放ち、援護する。
「どけどけどけ!加減なんて効かねぇぞ――っ!」
ドリームは戦闘で昂揚すると、錦の粗野な口調に変化する。ゲッター線関連の攻撃でも、竜馬や號のように粗野になるため、ルージュを苦笑させる。逆に言えば、錦の気質が混ざったために生じた好戦的な一面と取れる。
「艦内だよ、お二人さん!大技控えてよ」
「るせぇ!お前だって、コンVの技隠してるくせに!」
「錦の気質出てるよ、ドリーム」
呆れるミューズ。ミューズもロボットガールズとしてのコン・バトラーVの武器を隠しているが、一部は英霊としての効能が優先される武器もある。(ツインランサーなど)
『んじゃ、ツインランサーは英霊としてのアレが優先されるから、超電磁ヨーヨー!』
「お前、スケバン刑事見てる歳でもねぇだろ」
ノリノリで超電磁ヨーヨーを出すキュアミューズだが、ドリームに大いにツッコまれる。
「ドリームだって、ドラマも終わった後の時代の生まれじゃんー!それに、超電磁ヨーヨーはさ、ちゃんとスケバン刑事の作者から許可受けてるんだよ!」
「マジかよ…」
錦の粗野な声色と口調ながらも、感心するドリーム。ミューズは若干膨れつつも、超電磁ヨーヨーで暴れまわる……のだが。
「あ、この馬鹿、床に当てやがった!」
「え、なんかまずい?」
「見なさいよ、アンタ!船体の構造までぶった切ってんじゃない!?アホー!」
「ステレオで言わないでよー、ドリーム、ルージュ」
「ん、な、何…この音」
「まずい、船体が折れる!!脱出するぞー!」
「ち、ちょっと!アタシの出番カットなのー!?」
愚痴るピーチだが。
「文句はミューズにいえー!」
空中戦艦はミューズの超電磁ヨーヨーであっさりとへし折れ、轟沈する。出番がない事に愚痴ったピーチだが、
『こうなったら、風の精霊の力であいつらを吹き飛ばす!プリキュア・ライトインパルス!!』
ずばり、黄金聖闘士の闘技であるケイロンズライトインパルスのプリキュア版である。ピーチはイーグレット(ウェンディ)から力を引き継いでいるため、ケイロンズライトインパルスと相性がいい。アッパーカットで残った錬金術師を巻き上げる。拳圧と風の精霊の力で。ピーチはパンチ力で歴代で随一であるため、聖闘士の闘技と相性が良い。更に精霊の力を補助に入れているため、冥闘士の起こす地獄の炎をもかき消せる。Splash Starの持っていた超常性を得た証だろう。
「あのさ、ピーチ」
「何、ミューズ」
「夢枕にSplash Starの二人が立ったって…」
「俺とピーチは咲さんと舞さんから託されたんだよ。それで、二人の力も使えるようになったんだ。姿は変わんないけど。死んでないと思うぜ?」
ドリームが言う。咲と舞が夢枕に立ったのは事実だ。ただし、正確に言えば、二人が持つ力をSplash Starの二人と同じように変換し、精霊の加護を受けて放っているのである。Splash Starの力そのものではなく、二人が元から持つプリキュアの力をSplash Starのそれに近い形で発露させる術を与えられたというべきだろう。ドリームとピーチは咲と舞がそれを促してくれた事を指して、『プリキュアとしての勇気と責任を託された』と公言している。
「メロディ、今のうちにお縄を」
「あたしゃ岡っ引きか?」
メロディが促され、落っこちて奇跡的に気絶で済んだ彼らを捕縛する。
「ざまぁみやがれ!俺達の敵じゃねぇんだよ!」
口調は荒くなっているものの、現役時代の決めポーズは体が覚えているドリーム。苦笑交じりに付き合うルージュ。
「よしっ、これでこの世界での仕事は終わったっと。帰れるんじゃない?」
「報道は規制してもらってるからな。これで帰れると思うぜ。戻ったら、あたしらは広報に駆り出されるぞ、ミューズ。」
「ま、下手な冷遇よりマシだよ。広報で愛想良く振る舞ってれば、ウチの隊の予算が増えるしね」
「お前はあざとすぎだ。だから、あざとイエローだってネタにされんだぞ、ミューズ」
「おかげで、ジャンヌにジェラシーされてるよ。あの子はカタイね」
「お前がノリ良すぎなんだよ。おまけにアストルフォだから、フランスも英国も文句言わないだろ、お前。あいつもザフトの制服でももってくりゃいいのにな」
「射撃が下手なのネタにされそうだよ、メロディ。ルーラーさ、それで拗ねる事あるんだよー?」
「赤服だろ、あいつ」
ジャンヌはルナマリアと融合したため、それをネタにいじられキャラの属性もついてしまった。ザフトの赤服であるが、英霊になっても、戦略はてんでダメなままである事、ジャンヌとしての生真面目さは緩和されたが、空回り気味で、ところどころで生前の無学さを嘆く一方、食欲旺盛であったりする。ただし、シンとの夫婦仲は円満で、ジル・ド・レの変態的な偏愛の記憶から、シンの不器用さが逆に恥ずかしいらしい。
「ジャンヌの旦那はカミーユさんが面倒見てるあの子のことで忙しくなったんだって?ほら、なんつったっけ。サンシャインに声が似てた…」
「ああ。ステラ・ルーシェか。ネルガルが作った新しいMSの操縦法の試験に協力することになったからね。今はギアナ高地での試験を終えて、のび太の街での試験に移る予定らしいよ」
「どんな試験だよ。モビルトレースシステムでも普及させんのか?」
「それが、機体とパイロットを電子的に接続して、パイロットの感覚器官を機体のセンサーに置き換えることで生身の身体を動かす感覚で操縦する技術なんだって。パイロット育成費用の高額さが議会に文句言われてるから、注目されてるんだってさ」
「おい、待て。機体の排熱とかどうすんだ?パイロットの生命維持とかも」
「ものは試しに、コズミック・イラから持ち込まれた機体を改修して、試験してるんだってさ。その関係でその子に白羽の矢が立ったんだって」
キュアミューズが言及したMSの新操縦法の試験。MSパイロットの育成費を抑えられそうというので、議会からも注目される新技術であるが、激しい動きをするため、機体への負担がかかる。宇宙空間では、通常型MSはモビルファイターほどには激しい動きの想定がされていないため、排熱の問題があり、既存の排熱設計では、どのMSでも20分ほどが戦闘機動限界である。そのシステムの実験機に回されたガイアガンダム(コズミック・イラ世界から提供された)は機体の生命維持装置を地球連邦製の最新型へ交換し、機体の排熱性能を強化する事が実行されている。技術の改善には長時間の稼働データが必要なため、ガイアに乗り慣れているステラ(シンとルナマリアの故郷とは違う世界の出身)に乗ってもらい、細かいデータを取ってもらっている。ただし、ミドルサイズであるMFではない通常のサイズの軍用MSをMFと同等に動かす事は前例がないので、ひとまず通常サイズではなく、等身大で動かす事になった。もちろん、実験のために機体のOSは書き換えてあるし、機体フレームは改修されている。実験の手順はというと、ギアナ高地での場合は彼女が搭乗した後に機体ごとMSサイズのガリバートンネルを通り、機体サイズを等身大に縮小させて実行している。等身大であれば、色々な誤魔化しも効くからだ。この時期には、ギアナ高地での実験を終え、多湿な日本での実験を控えているという。実験は概ね良好で、実験の関係でMA形態は封印されているものの、ステラの天真爛漫な仕草をそのままトレースした動きを見せているという。その事から、宇宙刑事のコンバットスーツの外観をMSにしたかのような印象を実験に係るアナハイム・エレクトロニクス社、ネルガル重工の技術陣は抱いているという。ドローンが空中から撮影した写真では、等身大サイズになりつつも、MFのような人間臭い動きを見せるガイアガンダムの姿が撮影されている。パイロットの五感が電子変換で機体のセンサー類に変換されているため、ステラからすれば、自分の体を動かすのと全く変わらず、MSに乗っている感じがしないと不思議がっている。MSとしての機能は損なわれていないので、スラスター類や武装も機能する。火器類は人間サイズになっているためもあり、実験においては人間用のものが使用されている。(ボルトアクション式ライフルやM4カービンなども用意はされたが、21世紀世界や23世紀世界での実験は大抵は地球連邦軍のレーザーライフルなどである。)ビームサーベルはデバイスが地球連邦軍の規格に変えられているが、使用は可能である。また、機体の耐熱性も強化されているため、実験中に風呂に入ることも可能である。内部構造が改良されたためである。
「実験の写真見たけど、ギアナ高地のだだ広いところで動物に驚くガンダムってのは新鮮だよ」
「SDガンダムみたいだなあ」
「で、平行して、もう一例の実験も検討されてるとか」
「誰と何でやるんだよ」
「それがね。本来はキラ・ヤマトとストライクフリーダムを被検体にしてみたかったらしいのよ、アナハイム・エレクトロニクス社とネルガル」
「無理だろ…」
「当然、没ったよ。だけどね。カガリ・ユラ・アスハ代表が乗り気でさ…」
「あの人、アカツキは与えちまっただろ?」
「ストライクルージュの地球連邦軍がコピーした個体が残ってたから、それで参加するとか?」
「暇なのかねえ」
「世界情勢が連邦の管理下に置かれたら、オーブの国家元首なんてのは、現地の象徴的なものでしかないし、彼女に反目した勢力はどこにもいなくなってる。だからかもね」
コズミック・イラ世界は連合とザフトの双方を地球連邦軍が電撃的に制圧したためと、プラントはラクスが押さえたため、政治情勢はむしろ安定を取り戻し、ザフトも裏切りと同士討ちが頻発したために、ラクスの意向で正式に国軍に移行する手筈になった。また、地球連邦軍が大暴れしたため、現地のコーディネーターとナチュラルの対立は希薄化。むしろ、コーディネーターの種としての限界が認識されたのと、根本的にコーディネーターも超え、双方から関係なしに現れうるニュータイプという存在の認識がコズミック・イラの常識を変え、世界に『安定をもたらす』結果となったのは、なんとも皮肉な光景である。半分はナチュラルの劣等感、もう半分はコーディネーターの持つ優生意識による選民意識による対立が戦争の原因だったからだ。また、コズミック・イラ世界が平和になり、地球連邦軍が直轄管理地として、日本列島を選んだため、東アジア共和国とユーラシア連邦がそれぞれ有していた旧日本国の領域(ユーラシア連邦は国力と軍事力が立て続けの戦争で衰退している)を提供させ、地球連邦/時空管理局のコズミック・イラ事務局を置いた(オーブには議会制民主主義を徹底させたため、代表首長及び、オーブ五大氏族は象徴的な役職及び各国の旧王族皇族同様の政治的象徴を務める存在になった。実質、オーブ五大氏族の直接統治に等しかったのを改めるため、氏族の政策を盲信し、すっかり形骸化していた議会の権限を強化させた。カガリ・ユラ・アスハは代表首長の座には返り咲いたが、実質は象徴的な『お飾り』となったため、時間がたっぷりと空く事になった)。そのため、地球連邦と時空管理局が『停戦監視団』の名目で駐留し、間接統治を行う事になったという。カガリ・ユラ・アスハが実験に乗り気なのは『暇つぶし』も兼ねているのだろう。
「コズミック・イラ……か。あの世界、キラ・ヤマトやラクス・クラインがいなくなれば、すぐに滅びそうな世界じゃね?」
「その暴発を防ぐため、地球連邦軍が地球連合とプラントを停戦監視団として、現地に監視するそうだよ。こっちのMSは世代交代が繰り返されてる上、コーディネーターの優位点なんて問題外だしね」
「いつ介入したんだ?」
「ルナツーの部隊が二回くらい介入したそうだよ?二回とも、戦局を根本から覆したそうだから、プラントはもう戦争は起こせないって」
「そりゃそうだろ?連邦が核融合炉、それ以上のエンジンで動くMSで蹂躙すりゃ、原子炉がせいぜいのあそこは抵抗する意志も失くすだろ?」
「船に至っては外宇宙航行可能だから、こっちの巡洋艦が向こうの戦艦をダンボールみたいに壊せるんだって。アヘン戦争の海戦の宇宙版だったそうな」
「なんだそれ」
「波動エンジン艦だしね、ルナツーの艦隊の主力。それが旧世代のレーザー核融合炉が主力の艦隊とやりゃ、アヘン戦争での蒸気船とジャンク船みたいな様相になるよ。あそこにはバトル13もいたから、二度目の介入でプラントはもう継戦能力ないくらいにボコボコだって」
キュアミューズ/アストルフォの口から、コズミック・イラ世界の二大国は地球連邦軍の一艦隊にすら敵わぬまま(シン達がいなくなったためもある。オーブは地球連邦軍に当初から恭順したため、相対的に国力を温存したが)蹂躙され、軍事力を二度に渡って削られた事が語られた。特にプラント(ザフト)は二度目の介入においては、以後の軍事行動そのものに支障が出るレベルで機動兵器と艦艇を喪失。地球連邦軍の軍事力にあっさりと膝を屈したという。地球連邦軍が『ナチュラル』の集団であること、技術力でプラントを上回る事が公表されると、プラントは元からの侮蔑意識などで内輪もめを自分から始めた。それもあって、比較的早期に軍門に下った。地球連合は地球連邦軍への対抗意識から戦争を行ったが、宇宙艦隊を主力をたった数回の海戦で喪失し、中心国の大西洋連邦の首都であるワシントンをZ系のMSによる電撃的空挺降下で占拠された事がトドメになった。オーブはその点、上手く立ち回ったが、地球連邦軍による二度目の介入を招いた事を反省すべきとし、カガリ・ユラ・アスハは自身が直接行った最後の政策の戦後処理の一環として、地球連邦と協力関係を築いたという。
「世界の座標が分かったから、ルナツーの連中は乗り気だったらしいよ。目立ったエースもいないし、数少ないトップエースはラクス・クラインに恭順したし」
「なるほどなー」
「……さて、そろそろ、クォーターが通れるサイズのゲートを開く時間が近づいてるから、調に身支度させよう。件のあの子の爺さんは山本のおっちゃんの威光で黙ってるらしいしね」
「さすが、開戦時の連合艦隊司令長官」
「だって、いくら風鳴の爺さんが『100を遥かに超えてる』って言ったって、明治の初期から君臨してきたわけじゃないからね。国粋主義は列強に日本がのし上がった日露戦争の後に生まれた考えだから、それを勘案すると、少なくとも、1900年代に生を受けた世代になるだろうね」
「よく生きてるな、その爺さん」
「気力だけじゃ、五体満足で100歳超えは無理だよ。太平洋戦争までに何らかの措置をしたんじゃない?」
「かもな」
プリキュアたちも不思議に思う『風鳴訃堂』の年齢。世界で差があるが、明治後期から大正期の生まれだろうとは推測されている。その彼を黙らせるほどの山本五十六の威光は頼りになる錦の御旗である。一同は身支度を済ませ、メロディが響Aへの伝言を預かり、ウィッチ世界へ舞い戻る。ただし、C世界側の要請で連絡を時たま取るようになるなど、予定からの変更が多々あった。また、声の高低の違いのためか、花咲つぼみ/キュアブロッサムが風鳴翼に声が似ているという指摘は少なかった。プリキュアの殆どは職業軍人としての食い扶持を得ているため、時空管理局の研究職についている花咲つぼみ(アリシア・テスタロッサ)は珍しい存在である。魔法の才能そのものは凡才だが、プリキュア戦士であるため、実質は非公式の戦闘要員であった。
――ウィッチ世界では、急激に電子索敵網が整備され、日本主導で各地に21世紀型の3次元レーダーが配備されるに至った。そのため、大戦型の旧型二次元レーダーは瞬く間に駆逐されてしまい、各国で不良在庫を多数抱える羽目に陥った。また、電子装備の充実した全天候戦闘機が配備され始めると、残っていた各国のレシプロ双発戦闘機も下げられたため、戦線におけるジェット戦闘機とレシプロ機の数が次第に逆転し始めた。また、21世紀以降の高度な防空システムが持ち込まれると、従来の戦闘様式に適応していたウィッチは一気にその対応を迫られる事になった。64Fはそれらに当初から適応していたためもあり、ウィッチ部隊としては戦線で唯一、当初から近代化された防空システムに組み込まれていた。他部隊はMATへの移籍や軍編成の再編でその対応に遅れが生じた事も、ウィッチ部隊の組織的運用が縮小した背景にある。Gウィッチは英霊/プリキュアをも内包するため、純粋に元からウィッチである者、現世がウィッチかつ、前世が英霊であって、転生後も魔力を有する者、英霊であり、プリキュア戦士である者、前世がプリキュア戦士であり、現世においてウィッチとして生まれた者、プリキュア戦士から直接、転生した者。それらに分類される。従って、Gウィッチと言っても、その経歴は大まかに四つほどに渡る。転生した経験を持つ者の大まかな分類として作られた『造語』なので、所属組織も地球連邦軍、時空管理局、連合軍とバラバラである。黒江たちのように複数の組織に属している者は珍しいのだ。地球連邦軍が連合軍の主要国の軍隊の事実上の後身であることが判明すると、それら組織間で融通が図られるようになったため、以前よりはスムーズに事が運ぶようになっている。だが装備面での混乱は大きいのが実状であった――
――空母――
「ご苦労様。本当なら休暇をあげたいのだけど、広報部から矢のような催促が来てるわ。スーパー戦隊と自衛隊の攻撃で敵が転進したから、スケジュールに余裕ができたのよ。上も広報で新規をいれる事に血眼でね。義勇兵ばかりってのに、海軍系の部隊から不満が出てるからという事だけど」
「無理ですよ。日本から持ち込まれた風潮で軍部の志願数は減ったし、徴兵の召集令状は発行停止されました。どうしろと?」
「日本に抗議して、義勇兵を大々的に募集してるけど、正規の自衛隊員を出し渋ってると海軍の若いのが不満を持ってね。赤松先輩の抑えで、どうにか表面化をさせてないけど、若いのは血の気が多いから」
「日本は国内の政治事情で、出したくても出せないってのに。のび太君が裏で動いてるのってのは…」
「政府の依頼よ。不満分子は旧艦隊派に多くてね。国内に残ってもらったのは、その不満分子を除くためだけど、彼らの数は多いわ」
不満を覗かせるドリーム。のび太は裏稼業で多忙を極めつつ、自分たちへの圧力を緩和しようと、声明まで発表している。数年後には『義父』(のび太の養子と婚約したため)になるのび太の実直さに好意を持っているため、のび太への誹謗中傷へフェリーチェと共に怒りを顕にしている。のび太は表世界での名声を逆に裏世界でも利用しているクチで、それで侮った者たちを返り討ちにしてきた。また、青年期は『うだつが上がらない』少年期の面影を武器にしていたため、逆に言えば、のび太は若き日は人畜無害そうな外見と裏腹に『殺す時はきっちり』というポリシーを持っているのだ。
「まったく、近頃のガキ共は…」
「貴方がいってもねぇ」
「それ無しですって、隊長」
ドリームは感情が昂ぶると、錦の口調に変化するため、変化がすぐに分かる。海軍ウィッチの若手を『ブライドだけあるクソ生意気なガキ』と断じるあたり、錦としての思考も残っているため、海軍の権利を主張するだけの若手を嫌っている節があった。ただし、ドリーム/のぞみ自身が隊内で『青二才』扱いなのだが。武子からして、この反応だ。
「とにかく、広報の連中が待ってるから、変身したままで撮影に応じてきて。日本の若者向けの義勇兵募集のポスターの素材に使う写真の撮影をしたいそうな」
「上はそこまで悩んでるんですか?」
「貴方達を押し出して、義勇兵を募集するくらいにね。徴兵は実質的に停止状態だし、志願数は落ち込んでるし」
「それで私達を広報に使って、日本から義勇兵を?」
「旧日本軍と同一視した連中がネガティブキャンペーン張っててね…。それでこんな事になったのよ。扶桑は軍人への福利厚生が良いから、日本で就職出来なかった若者とか、元日本兵とかが応募してくるのよ」
「自衛隊から文句出ませんかね?」
「自衛隊は日本が得た外地を扶桑の兵力で防衛するくらいの人員不足ぶりよ?生え抜きの自衛官の派遣が殆ど出来ないし、警察が出しゃばって来たから、義勇兵の募集を始めたんだし」
「連中は迷惑しかかけないんだから、もう」
「あら、貴方も現役時代は超弩級の方向オンチで、文化財級のドジって聞いたけど?」
「む、昔の話ですってば!誰から聞いたんです!?」
「芳佳からよ」
「あ・ん・に・ゃ・ろ……〜」
武子からも現役時代のドジぶりについて言われ、情報を漏らした芳佳(みゆき)をシメたくなったドリーム。だが、芳佳は今や二刀流の手練であり、キュアハッピー色が比較的に低い戦闘法を取る。そのため、のぞみは接近戦闘で勝てる保証がないと言える。
「あの子は二刀流の名手よ。それに、ウィッチとしては貴方より遥かに格上だし、ステゴロで勝てる保証が無いでしょう?」
「う〜……」
のぞみはプリキュア単体としては、経験差でハッピーを上回る強さを持つ。しかし、肉体の基礎的な魔力では大きく差をつけられており、その魔力値はなのはやフェイトにも匹敵する。更に剣技でも及ばないことは、のぞみ自身が自覚している。飄々とした振る舞いながら、二刀流の名手として名を馳せ、智子の弟子筋としても勇名を馳せる宮藤芳佳/星空みゆきにライバル心を見せるドリーム/のぞみ。
「みゆき、剣術はプロ級だしね」
「ルージュ〜〜!」
「膨れないの。久しぶりに先輩風を吹かせたいんでしょうけれど、あの子は剣術のプロよ。あんたは現役時代にムシバーンを変身のスペックで圧してただけでしょう?」
「ん、なんで知ってるの!?あの場にいなかったよね?ルージュ」
「あの子から見せてもらったのよ、その時の映像。あんた、小学校も中学校も帰宅部なんだし……」
「こ、高校や大学じゃ入れたもん!!ど、同好会だけど……」
「あ、みらいが前に言ってました。ドリームは『部活追い出され王』だって」
「う、嘘ぉぉぉ――ッ!?みらいちゃんやはーちゃんにまでぇ!?」
ドリームはムンクの叫びを思わせるギャグ顔でへたり込む。代の離れた後輩にまで、自分の現役時代のありがたくない渾名が伝わっていたという、ショッキングな事実を知ってしまったからだ。ルージュもその点は同じ経緯を辿った世界であるため、故郷の世界で高等部に進学したり、大学生になった時代のののぞみの姿を思い出し、のぞみが代の離れた後輩に先輩風を吹かせたい気持ちを持つのは、現役時代は初代とSplash Starの妹分扱いであり、先輩らしく振る舞えた戦いの心当たりが少ない上、『中間管理職的ポジション』に落ち着き、声無しのモブポジションも多くなった『オールスターズNewStageシリーズ』以降の事を地味に気にしていたからであろう。
「貴方、NewStageシリーズ以降はモブポジションも増えたの気にしてない?」
「それは言わないでくださいよ、隊長〜!」
「しょうがないじゃない。貴方達はM78星雲の光の巨人も真っ青な勢いでポンポン増えてるんだから。初期のプリキュアである貴方がに声がつかないのも、ねぇ」
「メタすぎて笑えませ〜ん!」
武子のいう事がメタすぎて、ドリームは本当に笑えない。ジョーク好きであるが、センスの欠片もないという武子の弱点が明らかになった。
「隊長、ドリームの古傷をこれ以上抉るのは…。気にしてるんですよ?NewStageシリーズで声がついたのは一度きりで…」
見かねたフェリーチェが助け舟を出す。だが、言い方がストレートなため、ますます打ちのめしてしまう。悪気がないので、ますます効いた。
「フェリーチェ、もうちょいオブラートに…。ドリームが白くなっちゃったわよ…」
「……あ。しまった…!」
冷や汗をかくフェリーチェ。魂が抜けかかる様相で、ギャグ的に燃え尽きかけるドリーム。相変わらずのお目付け役兼ツッコミ役のルージュ。天真爛漫なフェリーチェに振り回されるドリームの様子に苦笑いのメロディ、ミューズ、ピーチ、ブロッサムの四人だった。
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