外伝その347『日本左派の誤算』


――日本連邦体制下での国防は双方の連合編成『日本連邦軍』に適宜、双方の軍の部隊を編入する事で行うとされた。これは膨大な軍事力を持つ扶桑に学園都市が戦争を仕掛けることで得てしまった広大な外地を守護するのにも都合が良く、扶桑系の部隊に行き場を無くした学園都市系の部隊を編入させ、外地を守護させる事でひとまずの決着がついた。実務上はこれで問題は無くなったが、政治的な議論は終わったわけではない。吉田ドクトリンに基いて、『軽武装国家』を信仰してきた日本の諸勢力が扶桑が明治期からコツコツと築いてきた軍事体制を大きく揺るがしたためだ。『海援隊の国営組織化』、『海上自衛隊の派遣部隊の実質的な連合艦隊への編入』は海上保安庁が扶桑の海防を揺るがした事を鑑み、双方の妥協で妥結されていた。結果として、21世紀のイギリス海軍は昔年からは大きく弱体化しており、日本連邦のような共同軍事行動は財政面からも不可能であるため、ブリタニア連邦を大きく落胆させた。さらに、ブリタニア連邦はウィッチが多めである都合、空母艦載機が伝統的に日米ほどの高性能を持たなかった事もあり、殆どウィッチのコマンド母艦も同然。更に支援砲撃を重視していたために戦艦を重視するドクトリンであった兼ね合いで、ブリタニア海軍の空母部隊が史実より遥かに小規模である事実は、『ブリタニア連邦に連合軍の空母機動部隊の主力を担わせる』という、日本の一部勢力が目論んだ考えを木っ端微塵に打ち砕いた――


――日本連邦評議会/国防会議――

「小官が申し上げたように、ブリタニア海軍の空母部隊は貴方方の知るイギリス海軍より遥かに小規模であり、作戦海域にいるいくつかの空母が主力の全てなのですぞ」


「しかし、源田さん。ブリタニアは戦間期や第一次世界大戦型が残っているではないですか。なのに、どうして、ライオン以降の新戦艦を7隻も」

「旧型は怪異の進化で早晩に有効性を失くすからです。船体の老朽化の問題もある。空母は殆どウィッチのコマンド母艦も同然であり、アメリカの空母機動部隊とまともに渡り合う事などは想定されておりません。キングジョージ級も予備艦として、あと何隻かはあります」

「しかし、それでは我々が困るのです。空母機動部隊は金がかかる。ジェット戦闘機を積む空母の運用経費は莫大なのですぞ」

「かと言って、ブリタニアの空母増勢は財政面で難しいのですよ?我々しか出来んのです、空母機動部隊を大規模に保有することは。それに、金剛型をそのまま増産して、自分達で使っているのですよ?どこに空母機動部隊に回す金が?」

ブリタニアは戦間期に金剛型を『ダイヤモンド級』と称して増産していたため、戦艦の保有数は帳簿上はかなりである。その一方で空母機動部隊は小規模で、史実では量産されたはずの正規空母が存在しない辺りで察しをつけるべきだった。

「その金剛型を空母にする案は出しましたが、チャーチル卿は大型正規空母六隻の整備で片付ける手筈です。どうしたものか」

イラストリアス級航空母艦はなんとか生産されていたが、殆どが初期スペックのままで、ジェット空母化したものは三隻のみという有様である。史実でのCVA-01級航空母艦の改良型を六隻準備しようとしているが、財政難のブリタニアに揃えられるか賭けがされる始末である。これはジブラルタル級航空母艦の実質的な代替計画であり、計画排水量は65000トン(基準排水量)である。搭載機はバッカニア、シービクセン改(後にハリアーUへ変更)が予定されている。シービクセンはこの時期のブリタニア連邦がコピー生産できる限界のジェット機であった。シービクセンのブリタニア仕様は機銃が装備された小改良型で、 ナットと共に、レシプロ戦闘機からの機種転換に丁度いいと好まれるという珍事が発生した。『BAe ホーク』も空軍や海軍のスピットファイアやハリケーンの後継に選定され、ブリタニアの航空事情は史実と異なり、それなりに戦前の活気を保つ。ちなみに、ナットは戦闘機型が空母に持ち込まれるという珍事が起こり、それがもとで、ブリタニア仕様は艦上機型が開発されるに至る。

「なんとか、空自にブリタニアの既存空母でも運用できる小型機を探させます。源田司令は我が連邦海軍にふさわしい機体を選定するよう…」

「それにつきましては、黒江にロードマップを作成させました。F-8とF-4EJ改で二年から三年持たせ、途中で単座型トムキャットとライノに切り替えます」

「単座型トムキャットとは?」

「理論上、設計時より高度なアビオニクスを積めば可能ではあると、ノースロップ・グラマンより回答が得られています」

「戦闘機開発競争で先行するおつもりで?」

「そう取って頂いて、結構です。貴方方がレシプロ戦闘機で脅したものですから、空技廠やメーカーが恐慌状態ですので」

「しかし、日本のレシプロ戦闘機は時速600キロも…」

「そこですよ。ハ43やそれ以上のエンジンを積んで、700キロ出しても貴方方は一考だにせず、やれジェット機、後退翼だ、デルタ翼だ。技術者の不満を顧みてください」

「しかし、敵はもう…」

「敵は試作段階のものを無理矢理に出しているにすぎません。F6FとF4Uすら普及しきっていないのですよ?」

日本連邦の国防会議では、空軍総司令官に任ぜられた源田実がブリタニア空母部隊の編成を説明すると同時に、戦線の制空権の現状は楽観視していいものだとも述べた。扶桑はバダンとの技術競争で艦上機を紫電改/烈風/陣風に切り替えたが、その時点で当時の空母機動部隊の戦闘機としては最高性能だった。特に、3000馬力級エンジンを持つ陣風に対抗できるものはジェット機以外ではF2Gのみである。多くの空母の艦上機はF6FとF4Uのコンビか、F4Fのままで、紫電改と烈風で充分なくらいだ。

「紫電改と烈風は貴方方が知る記録でのものより数段上の性能です。熟練兵が操れば、ベアキャットにも対抗は可能です。ただ、烈風はロール性能は低いままですが」

「ロール性能はどうにか改善できんので?」

「宮菱に改良パーツの開発を急がせています。それと、F4Uのような戦闘爆撃機運用が適当でしょうな、あれは」

「紫電改は既に実働が一年近い。減産の方向で…」

「陣風が事実上のモデルチェンジであり、最終型です。紫電改の性能向上より、新型を作った方が手っ取り早かったので」

日本側の国会議員や防衛/警察系官僚の何人かは蒼白であった。史実で量産されたはずの空母のいくつかに費やされたはずの資源はライオン級戦艦やそれ以降の新戦艦に費やされた。それがウィンストン・チャーチルの方針であり、ブリタニア海軍の方針であった事に驚愕させられた彼らは『雲龍型航空母艦の派遣を増大せざるを得ない』と結論づけ、結局、竣工済みの20隻の内の半数が作戦に従事する事になった事、既存の海軍系航空戦力の大半を空母機動部隊に充てた結果、今度は本土防空が不安視される本末転倒ぶりに陥っているからだが、陣風が大量生産に入ったのが救いだろう。陣風は元々、43年の時点でモックアップにまで進んだ制空戦闘機の名だが、開発時間短縮のため、それを3000馬力級戦闘機に仕立て上げただけだ。烈風よりもある余剰馬力に物を言わせ、烈風よりも上位のパワー戦術を可能とする日本系のオーソドックスなレシプロ戦闘機の集大成と言える。

「紫電改とよく似ておりますが、大きいですな」

「元々は制空戦闘機の一つとして、紫電改と同時期に開発していた別プロジェクトのものを紫電改の後継機に仕立て上げたものですからな。25ミリ機銃を積み、航続距離を延伸させ、防御力を上げるとなると、大型になるのですよ」

「して、その性能は?」

「シーフューリーをも上回る速度と機動力を持っています。3000馬力級エンジンを積んだのですから、シーフューリーより500馬力もの余剰馬力を有しています」

「大丈夫ですかね?」

「P-51Hは760キロですが、その速度で常に飛ぶわけではないのですぞ?陣風の敵ではありませんし、土俵が違います」

陣風は標準的な整備状況でも、時速750キロ前後をマークする。水エタノール噴射を加えた場合、780キロにまで加速が可能であり、レシプロ機の極限に達する。レシプロ機としての限界に達した機体を生み出すことは日本航空業界の悲願だったため、陣風は戦闘目的とは言え、それを叶えたことになる。リスクの高い独自開発のジェット機は避けるという方向の議論がなされていたが、扶桑の技術者たちが少なからず、クーデターに加担するため、その事実に驚いた軍部はそれ以後、『技術者の自尊心を満たす』事が目的に含まれる『国産機開発』を容認していく。震電系統が生き残ったのは、こうした政治的状況も絡んでいた。

「ところで、空母機動部隊の搭乗員は空軍からも出してもらいますよ」

「反対する理由はありません。そもそも、そちらの不手際でもありますがね。それと一つ。小沢閣下は若い連中にも人気のある将官だ。それを『起こってもいない事』で断罪し、名誉回復の機会も一切合切与えない。貴方方の見識を小官は疑いたくなりますよ」

「小沢治三郎長官は解任していない!それに、博打打ちの山本五十六大臣より軍略家だから、留任させている!本当は山口多聞閣下が適任でしょうに」

小沢治三郎には『あ号作戦の敗将』という誹りがある。だが、航空戦の黎明期であった第一次世界大戦後の世界において、彼は日本海軍航空の先駆者の一人である。史実あ号作戦で、498機の航空機を大空に散らせた要因は彼だけの責任ではないし、素質があったとされる小沢を早期に機動部隊司令官に添えなかった山本五十六にも責任が及ぶという論調もある事から、扶桑のクーデター勃発は日本にも責任の一端は間違いなくあると言える。日本は史実の負け戦の指揮官を露骨に冷遇したがる一方で、奮戦した指揮官を可愛がる。この不公平感がクーデターに退役将官が何人も絡む要因になるのだ。小沢は史実で司令長官になった時には連合艦隊は既に形骸化していたため、彼への同情論が強かった事から、山口多聞を推す日本の官僚を抑える形で、豊田副武の後任の連合艦隊司令長官に抜擢された。実際、然るべき兵力さえ与えれば、小沢治三郎は当時の日本海軍提督の中では戦上手さを発揮する提督の一人であり、水雷出身ながら、戦艦部隊をよく率いているといえる。

「我が海軍はまだまだ柵も多い。小沢閣下が機動部隊司令長官から連合艦隊司令長官に抜擢されたのは名誉な事なのです。我々にとっては。お分かりかな?」

源田は謗られる事も多い小沢を擁護し、連合艦隊が彼に然るべき兵力を用意できなかった時点で連合艦隊は敗れる運命であった事を示唆する。

「陸軍の飛行戦隊よりも、海軍の基地航空隊の方が多かったのは、本来、この世界では人類同士の海戦は起きようがないからです。それが変わったからと、急激に体制を変えれば、反発が起きるのは当然です。井上提督が憤慨なさるのも無理はない」

「しかし、陸に揚げているのは空軍に…」

「600番代は母艦航空隊だったのですがね?」

「空軍との統合部隊として便宜的に処理させますので、固有航空隊の再建は必ず……!」

「戦線にいる空軍飛行隊を空母に載せるための手続きは抜かりなきように。64に海軍出身者も多く入れたのは、このような事態を想定してのことです。それに我々は商船護衛を海援隊に委託していたのですぞ?それを前提に太平洋共和国と安全保障条約を結んでいた。かの国は日系国だ。それを見捨てるつもりで?」

「ポリネシア付近の国をどう守れと?」

「海援隊にそちらの巡視船を前弩級戦艦と准弩級戦艦の代わりに提供するよう承認を。元はと言えば、彼の国の艦籍も持つというのに、薩摩を独断で解体したのは…」

「分かりました。海保には犠牲を払ってもらいましょう。その代わり、海軍は余分なポスト・ジュットランド型を同組織に提供してください。彼の国は巡視船では納得しないでしょう」

「防衛大臣…!?」

「これは海保の不手際ですぞ。扶桑はそれら旧世代の戦艦に代わるフネを用意しなければならない。つまり、大和型戦艦を増やす必要が生じたということです」

「艦政本部は大和型戦艦を増勢することに反対してますが、もはや大和型戦艦と超大和型戦艦以外は戦力に勘定できない時代ですからな。向こうの呉の住民は仇討ちを望み、信濃を戦艦にさせたくらいに」

当時、新世代戦艦が続々と現れ、大和型戦艦の性能的優位は薄れていた。扶桑は超大和型戦艦シリーズをどんどん大型化させる一方、手頃な戦艦を求めてもいたが、アイオワ級が予想以上の高性能である事から、大和型戦艦を量産せねばならぬジレンマに陥っていた。大和型戦艦は六番艦の建艦が俎上に載せられつつあったが、播磨型の増産を推す声もあり、不透明であった。これは一年後にはニューレインボープランに統合され、ラ級量産で落ち着く。空母の搭乗員不足は、海軍航空の主力が陸に移っていたため、空母航空団が縮小していた弊害であった。空軍に移籍した部隊も動員しなければ、雲龍型全ての定数すら満たせなかった。井上成美はその施策を批判された事での怒りもあり、史実では執着していたはずの海軍軍人の地位を捨て、空軍へ移った。これは『海に散在する島々は天与の宝で非常に大切なものである』とした思想が史実では結局、戦略機動力のある米軍の空母機動部隊の膨大な物量に捻り潰された事で否定された事、『巨額の金を食う戦艦など建造する必要なし。敵の戦艦など、何程あろうと、我に充分な航空兵力あれば皆沈めることが出来る』とした提言は船の防空システムの進化で日本機が500機規模で襲いかかろうと容易く無力化させたマリアナ沖海戦、台湾沖航空戦の戦訓で否定され、『航空母艦は運動力を有するから使用上便利ではあるが、極めて脆弱である』とした提言も装甲空母の実用化と防空システムの進化で過去の認識と化した事、『基地航空兵力第一主義は空軍と何ら変わらない』と断言された事だ。彼としては『俺は軍政家で、軍略家ではないから、実際の運用については何も言えんよ。第一、それを言ったのは、空母や航空機が成熟する前の昭和16年以前の時期のことであって…』と釈明している。その結果、空母機動部隊は空軍が(不手際もあったが)艦上機部隊をも提供する事になり、用兵関係でかなり混乱を強いられた。自衛隊の統合任務部隊(JTF)の組織運用に関する蓄積があったお陰で実運用での混乱は避けられたが、その関係もあり、ウィッチ部隊の縄張り意識は急速に解体されていく。組織を維持するためにも、501で使用され始めた『魔導誘導弾』の普及が急がれた。カールスラントはその分野で先行していたはずだが、より安全性の高いAIM-9、AIM-120などを二代目レイブンズが性能実証実験も兼ねて、大量に未来から持ち込んだ結果、64では大手を振って、大々的に使用された。それを運用可能なジェットストライカーは扱いを熟知している熟練者に優先して配備され、相応に戦果を挙げていた。魔導誘導弾は大型怪異には決定打にならないため、あくまで『コアを持たない』小型の排除用と位置づけられている。その点では、魔導誘導弾を過信し、苦戦を強いられるベトナム戦争の戦訓を知る二代目レイブンズが戦訓を伝えたためだった。カールスラントはここでもメンツ丸つぶれの事態になった。魔導誘導弾はこの時代では本来、運動性能の低いメッサーシュミットMe262ストライカーに搭載したりしての実証実験中だったため、Gウィッチでは唯一の技術畑であるウルスラ・ハルトマンをふてくされさせるほどだった。

――智子の執務室――

「やめてくださいよ、智子大尉、いえ、閣下。未来からスパローとかアムラーム、サイドワインダーを持ち込むなんて」

「そうでもしないと物量に対抗できないんだし、諦めなさいよ、ウルスラ」

「こっちはX-4を使ってるんですよ、必死に。そこにサイドワインダーやスパローなんて、反則ですよ!」

「在庫処分よ、麗子達の時代はティターンズもいなくなって平和だから、在庫が余るくらいなのよね。あたしらが使ってやってんのよ」

「だからって、機体ごとですか」

「仕方ないじゃない。この時代のストライカーは魔導誘導弾を使うように作られていないもの。それとも何?ウォーカーギャリアやゲッターポセイドンみたいにぶん投げろと?」

『投げたって当たるか、バーカ』

「わっ、圭子!?アンタ、どこから電話してんのよ」

「衛星軌道。Mr.東郷がライフルで人工衛星撃ったとこだ」

「で、アンタは?」

「東郷の邪魔しちゃ悪いから、衛星軌道を泳いでる。あたしら、宇宙で生身になっても平気だろー?」

「クランから連絡は?」

「綾香に取り次いでやったぜ。あ、それと地球は青いぜ?」

「ガガーリンみたいなこと言っちゃって」

「デブリの掃除してるとこだからな。もうしばらく帰れねぇから、クランが来る方が先だ。エデンに着いたって電話だったしな」

「あの子、どの姿で来るのよ」

「黒川エレンの姿だ。すごく喜んでたぜ?ローティーンじゃなくなったー!とかよ」

「ガリバートンネル使えば、大人の姿でも大丈夫なのに?」

「せっかくエレンの時の記憶が戻ったからってんで、エレンの姿でいたいそうだ。それにどーせ戦う時はキュアビートになるからって言ってたぜ」

圭子の口から、クラン・クランは元の姿でガリバートンネルを使うより、黒川エレンの姿でいるほうが楽だからと、その姿でやってくること、記憶が覚醒した影響でプリキュアとしての誇りが戻ったため、今後は黒川エレンの姿で通すと告げた事が伝えられる。

「大丈夫?かなりメンタルがややこしく…」

「ゼントラーディの血が騒ぐだろうから、生前より血の気多くなるのは確実だろうが、あたしよりトーン高い声だから、似てても聞き分けしやすくなったのは助かる」

「そいや、千冬の時は言葉づかい以外はあたしでも、どっちだかわかんない時あるし、あの子も狼狽えてたものね」

「エレンはあたしと千冬の中間点だから、割合に聞き分けしやすいからな。そういうわけで、よろしく頼むぜ」

「あの、智子さん?」

「ケイからの電話よ、電話」


――そんな色々なゴタゴタも露知らぬ前線では、仮面ライダーBLACKRXに追い詰められつつあったクライシス帝国がウィッチ世界の各地でヤケクソじみた攻勢を開始。各ヒーロー達が阻止に向かった。その内、欧州はダスマダーとガテゾーンが担当し、前線で戦うプリキュア達は二人の動きをドラえもんからの連絡で察知。ヒロイン代表を実質的に担う形で、クライシス帝国と対峙した――


「そこまでです、クライシス!!」

「これ以上はあたしたちが許さないわよ!」

今回はフェリーチェとルージュが啖呵を切った。二人共、やってみたかったらしい。プリキュア達が本格的に実戦に加わる頃には、クライシス帝国はバダンの攻勢、怪魔界の安定が崩れてきたなどの要因で、もはや追い詰められている。それはウィッチ世界も攻撃対象にするほどであった。

「誰かと思えば……近頃、邪魔をしてくるお嬢ちゃん達か」

「ガテゾーン!アンタ、ジャーク将軍にも睨まれ始めたってのに、ダスマダーと組んでまで、何が狙いよ!」

「フッ、俺の目的はライダーと戦隊共の抹殺だ。そのためには手段は選ばねぇよ」


クライシス帝国/地球攻撃兵団の幹部の一人『ガテゾーン』は他の幹部と違い、ニヒルな一匹狼のきらいがあり、独自行動も辞さない。機甲軍団を率いる彼自身もロボットだが、ニヒルな性格もあり、何かと64Fのメンバーとは縁があった。RXを最も苦戦させる軍団の長である分、RXには遅れは取るが、プリキュア達の平均戦闘力は有に上回っている。駆けつけたドリーム、ピーチ、ルージュ、フェリーチェ、メロディの五人を前にしても、余裕綽々の口ぶりである。

「デスガロン、メタヘビー、シュライジン。お前たちを再生、パワーアップさせたのはRXを倒すためだが、お嬢ちゃんたちを揉んでやれ。身の程を思い知らせろ」

「ハッ」

再生された怪魔ロボット達がガテゾーンの命令で襲いかかる。パワーアップしたプリキュア達と再生怪魔ロボット達は互角の戦闘力であった。最強の昭和ライダーの誉れ高い、仮面ライダーBLACKRXを元から想定している事はあり、パワーアップした五人に引けを取らなかった。

「こいつら、つえぇ!再生怪人ってのは弱いのがお約束だろ!?」

「クライシスの怪人は、バダンの下級怪人より質がいいって先輩が言ってたけど、これは手強いよ!」

「メロディはヒーローものの見すぎだって!」

「それが実在する世界と交わったんだし、現役時代だってそーだったろー!?」

ドリーム、ピーチ、メロディの三人が先頭に立って戦うが、三人が特訓でパワーアップした後の通常フォームの能力値と再生怪魔ロボットのポテンシャルは拮抗していた。再生怪人と『たかをくくっていた』三人は度肝を抜かれたと言える。

「うわっと、と、っ…!」

デスガロンのエネルギーチャージしてのパンチを食らったドリーム。現役時代ならば、変身解除に至るほどのダメージは必至の攻撃だが、パワーアップで防御力も大きく増したため、持ちこたえる。

「はっ!」

基礎攻撃力も増しているため、ピーチのケリはメタヘビーの装甲に罅を入れ、吹き飛ばす。通常フォームでも飛行が可能になりつつある彼女たちは空を飛べる利点を活かし、各個に戦う。怪魔ロボット達はプリキュア達と互角に戦う。次第に気合でプリキュア達が上回り始めるものの、メタヘビーには炎系の技は耐熱温度の関係で効かないため、ルージュの技は実質、封じられてしまった。

「ああ、もう!!こいつ、炎属性の技が効かない!」

『だったら、電気属性で!!ストロンガーさん、技を借ります!!エレクトロサンダーー!!』

「フェリーチェ、攻撃魔法…、覚えてないの?」

「みらいやリコと一緒にいたけど、魔法学校で習うようなものじゃありませんでしたから、ア、ハハハ……」

「つか、籍あったの?」

「形式上は校長先生が置いといてくれてたんです。戦いの後は色々あって、それもあって。かくかくしかじかで攻撃魔法は使えないんですよ」

フェリーチェ/ことはは世界の『概念』になった期間が少なくとも五年以上はあったため、魔法学校を卒業してはおらず、学校はのび太のもとで大学まで出ているが、普通の学校だ。その関係で攻撃手段は徒手空拳か、新たに覚えた力の二択しかなく、魔法は攻撃以外で使うフェリーチェ。意外にその点は歴代と差異が少ない。ルージュに言われ、魔法学校を出たかどうかは言葉を濁した。ただし、それを補って余りある攻撃を行えるようになったので、攻撃魔法と新たな力はトレードオフの関係なのだろう。

「いくよ、フェリーチェ、ドリーム!」

『うんっ!』

『トリプル!!プリキュアキィィィ――クッ!!』

ピーチが音頭を取り、トリプルプリキュアキックを実行する。要するに飛び蹴りだ。だが、この時の三人のキックは単なる飛び蹴りではなく、破壊力を上げるためにスクリューのように体を回転させてのキックである。仮面ライダー達が属性付加以外に取る常套手段が『体をスクリューのように回転させる事』であるため、三人はそれを真似した。首を跳ね跳ばせる威力を持つのが『超電子ドリルキック』である。三人のスクリューキックはシュライジンを地面に叩きつけ、大ダメージを負わせる。幾度もパワーアップを重ねた三人がかりで、クライシス再生怪人一体と互角なため、クライシスの送り込む兵力の質の高さ、RXの基礎スペックは他の昭和ライダーを凌駕するものでありながら、クライシスに苦戦することもある理由の証明であった。プリキュア達はガテゾーン配下の怪魔ロボットと互角に渡り合う事から、クライシス帝国にも『日本のスーパーヒロインの一大勢力』と認知され、ジャーク将軍の意を受けたマリバロンがプリキュアの調査を正式に行い始めるのである。『仮面ライダーのような改造人間ではないが、自分達と互角に渡り合う存在』と認識するガテゾーンの報告をジャーク将軍が軽視しなかった事の表れであり、部下に公平中立なその姿勢から、『邪悪な皇帝に仕えたのが、お前の不幸だ』と、RXがジャーク将軍を評価するに至る。この調査でなぎさ、ほのか、ひかり、咲、舞の五人が『伝説の初代と二代目プリキュア』という事がクライシス帝国に知れ渡り、ジャーク将軍は仮面ライダーらへの人質に使えるとして、その五人を探すように指令を発する。だが、その五人はバダンが先に見つけており、どこかの世界でバダンと激闘を展開する間柄になっているとは予測できなかったという…。



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