外伝その357『独の百舌鳥の落日』
――結局のところ、ダイ・アナザー・デイで政治的・軍事的に割を食った国は自由リベリオン、オラーシャ帝国、カールスラントの三カ国であった。自由リベリオンは国情に見合わぬ大規模な軍隊を維持せねばならなくなり、オラーシャ帝国は各地の分裂独立で国家共同体の樹立に狂奔する羽目となり、カールスラントはドイツ主導の軍縮で部隊の撤兵と解散が相次ぎ、44戦闘団に至っては、部隊に丸ごと扶桑に移籍されるという惨状を招いた。また、扶桑に移籍したエースパイロット達に既存機材の予備パーツの供給すら覚束なくなるほどのパニックが起き、パーツ枯渇が懸念されたため、ハルトマンやバルクホルンが純粋なカールスラント系の機材を使用したのは、この戦いが最後になる。これは通常戦闘機部隊も同様であるため、航続距離が800キロ台がせいぜいのカールスラント系、増槽込みで最大1800キロのブリタニア系戦闘機は大半が政治的理由で淘汰されていき、戦線は膨大な航続距離を有する日米系レシプロ戦闘機が後世のジェット戦闘機に混ざって飛ぶ光景が当たり前となっていた。44戦闘団が持ち込んだ護衛戦闘機も予備パーツ枯渇を理由に飛行差止めとなったため、結局、実際の護衛任務は地球連邦系戦闘機か、Gフォース所属機が担っている。この時にカールスラント空軍の残留部隊に配備されていた『Fw190D』は戦線の整備兵の練度が心配された上、ユンカース・ユモ213エンジンのパーツ供給力が日米独に不安視された事から、換装前のエンジンの改良型『BMW801Q』空冷エンジンにパーツ不足からの緊急措置を大義名分に現地換装された個体も現れた。俗にいう先祖返りだ。結果、当初通りの想定通りに活躍出来た機体は限られ、航続距離の問題もあり、使用機会は限られた。その発展型たる『Ta152』共々、実戦運用期間は短かったと伝えられる。これは日本連邦が後世のジェット機を持ち込んで大々的に使用した事で見劣りすると見做された事、空冷エンジンを積んだ陣風が全てでTa152を上回った、ユーロファイター・タイフーンのブラックボックス付きでの現地生産をドイツが目論み、従来機の淘汰を行わせた事が理由だった――
――当時、P-51HやP-47の高性能と物量でドイツ系戦闘機は追い込まれていた。メッサーシュミットBf109とフォッケウルフFw190は稼働率低下とパイロット練度の低下による要因で敗戦を重ねていた。通常パイロットにエースパイロットが存在していなかった盲点を突かれ、義勇兵を動員しまくり、連戦連勝の日本連邦空軍に比べ、散々な様相を呈していた。この点を指して、独系戦闘機の落日と評された。同時に、空対空特攻も辞さない義勇兵の敢闘ぶりに押され、連合軍内部での立場を失いつつあった。ゲーリングは実権を持たぬ名誉職に追い込まれ、反ガランド派も次々と失脚していたカールスラント空軍は急激な軍縮もあり、『有名無実化』していた。そのせめての名誉を保たんと、44戦闘団の重要性が認識された矢先の移籍である。扶桑は64Fというエース部隊を既に有していたはずであり、44JVを丸ごと取り込む事は反発を招いた。が、当時のドイツはウィッチを儀礼用の儀仗部隊に残すだけにし、実戦部隊からは排除する意向であったため、それを危惧したガランドによって日本連邦に部隊ごと移され、それを理不尽に失ってしまった事になる。カールスラント軍・カールスラント政府としても、『予備役将校が他国の義勇兵に志願する事を規制する』規則は存在しないために強くは言えなかった。カールスラント軍上層部がせめての条件として出したのが『勤務中のカールスラント軍服着用の許可』であった。正式に移籍されると、カールスラント空軍の屋台骨が崩れるため、予備役という形で人員を繋ぎとめる事に血道を上げたカールスラント空軍。ただし、それに『多額』が費やされたために通常軍備が衰弱する始末だったが、資金は浮いた。44戦闘団の維持費が浮き、未来技術のノウハウを得られるので、工業界そのものは栄えたが、軍縮のしすぎで本土の自力奪還は諦められてしまうという顛末になり、再建に長い年月を要する事になる。
――戦場――
「うぉぉっ!?」
バルクホルンは対空砲の弾幕に肝を冷やす。対地攻撃用にストライカーに防弾装甲を追加する改造(正確には納入時の仕様に差し戻した)を行った。敵の自走式対空砲である『M16対空自走砲』、『M15対空自走砲』の猛烈な弾雨はバルクホルンの心胆を寒からしめていた。バルクホルンほどの猛者であっても、対空砲火は肝を冷やす。対空砲を潰すために『R4Mロケット弾』を携行し、使用した。
「ふう。対空砲火相手の戦いはなるべくなら、やりたくはないな。だが、マルチロールの時勢である以上は仕方あるまい」
この時は地上支援のため、滞空時間が長い従来タイプのストライカーを履いていたバルクホルン。バルクホルンは空対空戦闘では無敵に近いが、空対地は勝手が違うようだ。
「地上の装甲車はそちらに任せる!味方の撤退を支援しろ!」
撤退中の歩兵師団が兵員輸送車や徒歩で移動中であるため、それらを支援しつつ大損害を与えるというハードな任務を64Fは負った。黒江の命で投入されしGフォースの航空兵器は第二次世界大戦の対空兵器を物ともしないため、メーサーや冷凍レーザーを使い、無力化していく。装甲車や軽戦車はプリキュアの通常フォームで充分に無力化可能なため、素手でスクラップにされる車両が続出する。
「でやあ!」
「はぁ!!」
「うぉぉりゃあ!」
メロディ、マーメイド、ピーチの三人がM24軽戦車を格闘で破壊していく。当時最新の軽戦車を容易く破壊していくその姿は敵を恐れさせた。この時に容易く、新鋭のM24が無力化された教訓から、そのさらなる後継のM41軽戦車の投入が早められたという。扶桑の旧式戦車を戦場から淘汰した要因の一つとされる『M24軽戦車』だが、プリキュアの前には全くの無力であり、砲塔へのダブルキックでびっくり箱のように砲塔がもげる事例が頻発した。
「チャーフィーくらいで、あたしらを足止めできると思うなよ!!今どき軽戦車なんて、古いんだよ!!」
メロディはチャーフィー軽戦車にこの悪態である。当時の最新鋭軽戦車だが、軽戦車というジャンル自体が陳腐化し始めていること、防御力が砲に見合わないという難点がモロに表れ、プリキュアの前にはガラクタも同然であった。ジープ程度の突進では受け止められ、フルスロットルでも押し返され、そこからジャイアントスイングでぶん投げられる有様である。
「ジープくらいの突進で……、あたしを吹き飛ばせると思うなぁ!!うおおおりゃあ!!」
ジープのフルスロットルの四輪駆動のパワーを物ともせず、ピーチは押し返す。そして、そのまま持ち上げて、ジャイアントスイングでぶん投げる。なんとも、パワーファイターな行為だが、ドリームと違い、ピーチはダンスをしている延長で格闘センスが高いという特徴を持つ。そのセンスは歴代随一と謳われていたため、素手での格闘になると、ドリームより強いのは確実だ。
「お前、相変わらずのステゴロの強さだよなー、ピーチ」
「のび太くんも言ってたじゃん、メロディ。格闘はダンスみたいなもんだって。ダンスチームをみんなで組んでたから、その延長線で見切れるんだよね、動き」
「昔、お前とよく組んだよなー。思い出すよ」
「ドリームがそれでふてくされてるけどねー」
「あいつはあたしのオールスターズの初陣の後は出番少なくなっていったしなー」
「貴方達、昔の好はいいけど、ちゃんと仕事はしなさい」
「へいへい。だけど、マーメイド、あんた、プリキュアとしては後輩だろー」
「ウィッチとしては先輩よ。それに一応は先任だし、公の時は敬語使いなさい」
「坂本少佐よりキビシーぞ」
「美緒はリバウ時代からああなのよね。綾香さん達に敬語使えって注意したんだけど」
マーメイド(竹井)はプリキュアとしては第三世代に属するが、ウィッチとしては事変世代であるため、部隊では、坂本と同様に『第三席』の序列に位置する。64内部の序列は基本的に事変世代が最高幹部、芳佳が若手では例外的に幹部扱いな以外は入隊年度と実力で序列が決まる。マーメイドはウィッチとしては、七勇士の若手かつリバウ三羽烏であったため、プリキュアとしては若輩扱いでも、ウィッチとしては古参にあたる。そのため、お互いの力関係は意外にややこしい。ちなみに、菅野は中堅どころであるが、のぞみ(錦)より初陣が遅かったため、序列は下の扱いである。それを不服として、のぞみに模擬戦を挑んだのだが、当然ながら敗北を喫した。のぞみ曰く、『欧州の初期から飛んできてるんだよ、こっちは。リバウ撤退戦も知らない子供には負けないよ』との事。(錦として、であるが)
「そーだ。菅野はなんで、ドリームに喧嘩売りやがったんだ?普通に考えて負けるだろ?」
「ああ、直枝はね。孝美曰く、相手の実力を見ないと従わないタイプなのよ」
「シスコンのくせに?」
「綾香さんとの時もそうだったけど、あの子、若い頃の徹子に似ててね」
「若本さんに?」
「事変の頃、徹子も似たような事の常習犯でね。隊長が言ったのよ、当時」
『ウィッチの本当の実力なんて一対一の模擬戦で解る訳ないでしょ?全体訓練の紅白戦でお互いの実力を把握しましょう、一週間後に。組み合わせは今夜発表、それまで連携訓練で』
旧64では分隊長だった武子も言ったが、この類のウィッチの系譜は若本まで遡る。若本の系譜を受け継ぐのが菅野で、たいていの世界では孝美とひかりにぞっこんになるが、この世界では孝美と同期の間柄で、ひかりとは接点がないため、芳佳をバディと公言している。錦としては歯牙にかけていなかったが、のぞみとして目覚めると、芳佳と組ませる案も提案されたため、それに反発したのだ。テストパイロット上がりという事から、菅野は錦を侮っていた。だが、プリキュア化で生じた娑婆っ気を感じ、挑発して模擬戦を挑んだ。もちろん、芳佳のことでの反発も含まれていたが。序盤は刀と銃で優勢であった菅野だが、決め技の剣一閃を放つタイミングで変身され、シューティングスターでぶち抜かれた。
「徹子は綾香さんに一瞬で倒されたけど、直枝は芳佳ちゃんに一回、綾香さんに一回、智子さんにも一回、黒田さんにも一回づつ」
「あいつ、こりねーやつ」
「あの子にとっては、それが相手の実力を見る手段だそうよ。大先輩に、強そうなら手合わせしてみてぇだろ?な?って釈明してたわ」
「あいつらしーわ。のぞみになんて言った?あのガキ」
「『かーっ、テスパイやってたってから娑婆っ気付いて腑抜けたかと思ったらしっかり撤退戦帰りの狡猾さとか持ってんのな、参ったぜ』だそうよ。剣一閃をシューティングスターで弾かれて、そのまま貫かれたそうだし」
「あのガキ、喧嘩売るのが趣味かよ」
「あの子は親父さんの悪口言われると、前後の見境無くす以外は可愛いわよ。厚木の時は親父さんがよく庇ってたわ」
「親父さん、自衛隊に推薦反対論があったっていうけど」
「多分、我が強いから、初代司令にはふさわしくないって思ってる内局の人たちよ。レイブンズを無条件で従えられるのは、親父さんだけよ。それに空自は親父さんが育てたのよ?」
源田実は我が強く、史実幕僚長時代に制服規定を変えさせた事から、『初代司令にはふさわしくない』とする声が防衛省内局に強くあった。しかし、空自の『育ての親』としての功績、元・第一航空艦隊参謀の経歴、黒江や菅野など、アクの強いエースパイロットを統率できる度量を持ち、源田サーカスの張本人という事で空軍の司令官に任ぜられた。64Fは空自の幕僚長であった源田の同位体の功績を利用する形で、精鋭部隊枠になったというわけだ。
「内局はアホしかいないの?」
「ガランド閣下を疎んじてた連中と同類ね。特に、日本の内局は旧軍系の人材を敗北者と見下すから」
「でも、よく全部の戦線から、人材をかき集められたね」
「日本側が各戦線のトップを引き抜けと後押ししたのよ。分散配置で事故や戦死より、一箇所に集めて集中運用しろって」
「反発来たろ?」
「来たわ。紅海、ウラル、太平洋、インド洋、フォークランド沖……ありとあらゆるところから苦情がね。本土からも来たわ。ジャンジャン」
「苦情の対応は?」
「基本は芳佳ちゃんがしてたわ。『他所の部隊から熟練搭乗員を引き抜きおって!!』とか、『他の飛行隊の能力低下を招いた』とか、中佐や大佐級の連中からも来るから、偶に遊びに来てた小園さんが『聖上のご意思であらせられるぞ!』って怒鳴ってたわ、電話で」
64Fの人材引き抜きは上手く行き、当初より多く熟練者が多くなったが、これとて他部隊に配慮したほうであり、MATへの部隊ごとの移籍で行き場が無くなった者達も引き受けた結果である。志賀の飛び出しは坂本の顔に泥を塗ったも同然で、人的補償も兼ねて出戻る羽目になるなど、ハプニングも生じた。坂本は海軍在籍のままで出向に変わったが、実質は出戻りで、志賀との関係はこれで決定的に悪化している。志賀は兵学校の先輩である坂本の顔に泥を塗ったも同然、坂本の推薦で飛行長になったのに、それを黒江との対立で放り出したからだ。孝美へ釈明の手紙は残したが、源田からも『ただの言い訳にすぎん』と切り捨てられている。
「あの子、志賀さんは…、子供じみた反発で居場所を無くしたわ。今の航空関係で、美緒と綾香さんに睨まれたらおしまいだもの」
「ああ、黒江さんに突っかかってたっていう少佐の後輩か」
「あの二人、相当に怒ってるから、志賀さん、当分は海軍にも戻れないでしょうね。前史の美緒を見てるみたいでね…」
「前史の少佐の役目を背負わされたんじゃね、そいつ。似たようなこと言ってたような気がするし」
「恐らくは。横空に戻ったようだけど、あそこもきな臭いし。あの子の名誉回復の嘆願を、百里にいる後輩からされてね…」
「少佐と黒江さんにばれないようにしたら?あの二人、似た者同士で子供っぽいとこあるし」
「確かに。今回は姉妹みたいでね。美緒も前史での喧嘩別れと死ぬ日に再会できたのを気に病んでるから、ますます似てきたのよね」
「あれで黒江さん、しばらく落ち込んでたしな。それからすぐに隊長が心臓病でコロリだったし。のぞみに似てんだよな、そういうとこ」
「あの人、ああ見えて寂しがり屋なのよね。前史であの子がそれを知ったのは、死ぬその日のことだったって聞いたわ。償いのつもり?」
「いや、黒江さんに合わせてると思うんだ。少佐、今は昔と違って、黒江さんの味方だしな。多分、二重人格の引き金は自分だと気に病んでるんだよ」
「あの人格の表出はそれ以前じゃ?」
「前史で少佐は『あーや』を見てない。あの時が初めてだよ。坂本少佐、菅野にしこたま殴られて、それから一気に老け込んでいったしな」
「あの子、本当に殺す勢いで殴ってたものね」
「ああ。リンカーコアを損傷させたって話だ。あいつ、キレると前後の見境ねーかんな」
「美緒が悔いてるのは?」
「たぶん、あーやという人格を作ってしまうほど、自分は親友に裏切りを働いたっていう意識だろうな。そうでなきゃ転生を願うはずがない」
「あの時、その場にいたけれど、美緒、明らかに動揺して、まともに対応できてなかったわ。口調と声色まで変化して、それに周囲が青ざめるなんて想定外だったのよね」
「その時だよな、黒江さんが今の声になったの」
「ええ。あの事件以来ね。直枝にすぐに殴られたから、釈明する暇がなかったし、直枝に『失せろ!!』って吐き捨てられたのが堪えたんでしょう、美緒は」
その事件で坂本は軍内での立場を悪化させていき、娘との対立も表面化した。前史での出来事だが、坂本のトラウマになっている。坂本にとってのトラウマとは、黒江への裏切りになってしまったその行為であり、今回は黒江の頼みなら、ミーナとの敵対も躊躇しない。菅野も反省したが、今回においては、割に考えて行動している。
「あの人らしいよ。くれぐれもな」
「ええ。大先輩に相談しておくわ」
志賀はこの頃、64Fから飛び出たはいいが、行き場が無く、前所属先に戻っていた。マーメイド(竹井)は志賀の名誉回復の嘆願を後輩から受けており、赤松に相談するつもりだとメロディに言う。志賀は話せば分かると同期の者の間では評判であり、単純に海軍航空隊の気質を守ろうとしただけとの同情論が生じており、海軍航空隊系の人員には慕う者も多い。それで名誉回復論が生じたのだ。彼女本人も猛省しており、『先輩方に戦果を誇るべきではないと言ったのに、戦場で戦果を自らあげる訳にも行くまい、その代わりに、戦果をあげられる後進の育成に励むのが私のすべき事だよ』と横須賀航空隊、同隊の解散後は飛行教官になり、前線復帰を勧める同僚にそう語ったという。太平洋戦争中は横須賀航空隊の機材焼却事件の後始末を終えた後、同期に勧められて飛行教官に転じ、終戦で軍を退役。以後は民間軍事会社を設立、その社長として名を馳せる事になる。その最終階級は少佐だったという。
――黒江はスーパーXVに二酸化炭素消火弾を発射させて人工降雨を発生させ、冷凍レーザー(温度は絶対零度に近い)を撃たせる。すると、辺り一帯の装甲車が一斉に凍結する。中の人員ごと。広範囲に渡って。
「うわぁ、えげつない戦法取りますね…」
「サンダー系と組み合わせりゃ、局所EMP攻撃になるぜ。おい、ハニー。チャーフィーはどれだけ鹵獲できそうだ?」
「一個中隊から大隊分は確保できそうよ。戦車回収車を手配しておいて。それと、M4はどうする?」
「鹵獲しておけ。航空支援で戦意喪失して敵前逃亡したなら、儲けもんだ」
「この世界は兵器の放棄率高いわね」
「元々、怪異の瘴気が問題だったからな。それで放棄は許されてるんだよ。その分、こっちは機甲兵器を補えるけど」
「中隊から大隊丸ごとが敵前逃亡ねぇ…」
「これがこの世界の習わしさ。これで敵の一角は崩れた。シェリダンはこの世界だと採用されんだろうな。空挺戦車は必要とされんだろうし」
「ああ、ベトナム戦争で使われたアレ」
「ウィッチの空挺降下で間に合うしな。それにアルミ合金じゃ、ウィッチの対戦車ライフルにも耐えられないし、怪異のビームで溶けるのが関の山だ」
黒江の言うとおり、ウィッチ世界での軍事的理由から、シェリダン空挺戦車は採用されないだろうとする見解をした。空挺降下を実際にしたら、着地時に損傷・故障する車両が続出したという実例もある事、防弾装甲が熱に脆弱なアルミ合金である事から、怪異相手には使用できないという事はこの時点で指摘されている事だからだ。実際、リベリオン本国はチャーフィー後継の『M41軽戦車』は史実通りに採用するが、その次のシェリダン空挺戦車はウィッチ世界特有の事情で採用されなかったという。また、この時に歴代のプリキュア達にM24軽戦車が手もなくひねられるという屈辱的敗北を喫した事から、M41軽戦車の登場が促されたという。
「なんか、キングコングみたいだなぁ」
「M24なんて、火力を封じこみゃ、テケ車と大差ねぇ代物だ。18トンくらいしかないかんな。お前の力なら、キングコングみたいに軽いもんだろ、ドリーム」
「それはそうなんですけど〜」
18トンのチャーフィーを掴んで持ち上げ、ぶん投げて破壊するドリーム。中の乗員は持ち上げられた瞬間に戦意喪失でハッチから逃げ出していた。
「軽戦車って脆いですね」
「史実の日本軍は実質、それで戦ってたからな。だから、防衛省の内局連中はMBTで統一しようとしたんだ。砲戦車をねじ込めたのが奇跡だよ。あと、前線の要望で重戦車だ」
「内局ってアホなんですか」
「警察系の巣窟だからな。実状を知らねぇし、調べようともしない。先入観だけで決めつけやがる。ドイツよりタチが悪い。ドイツは埋め合わせするが、日本は握りつぶそうとしてくる。握りつぶせなくなると、現場に責任転嫁しやがる。旧軍の事を笑えねぇよ。前線は数を欲しがってるのに、質を優先する。俺達は酷使されるぞ〜」
黒江はそう言うが、ウィッチ世界での超大国化でそれなりの量は必要という認識は内局にも生じており、数合わせという認識でM41軽戦車が採用される。敵味方共に同じ兵器を使う事はままあるため、砲塔に日の丸をデカデカと描くことで決着する。また、M粒子散布下での視認性向上の目的で、軍用機の派手な塗装がウィッチ世界で普及する。ウィッチとの共同戦線での視認性と怪異との識別性が優先されたのだ。また、ごく僅かにだが、カールスラント空軍部隊も前線に残って戦っており、その彼らの持っていたFw190Dやbf109Gが時たま上空の飛行機雲として通り過ぎる。当時、カールスラント製の機材の殆どは圧倒的高性能のP-51HやF2Gに叩きのめされ、失われようとしていた。辛うじて、Fw190Dのみが対抗できたが、Me262の実機の配備が見送られ、本命のTa152も本国防空隊への配備が優先され、前線に配備されなかったため、欧州のカールスラント空軍は有名無実化が進んでいた。そのため、奮戦しつつも徐々に数を減らす『百舌鳥』の飛行風景は『欧州の百舌鳥の落日』と形容された。
「ん、フォッケウルフか。どうやら別のとこに向かうようだな」
「カールスラント空軍って有名無実化してません?」
「連合軍に影響力がなくなるのを嫌ったドイツが残した戦闘航空団が残ってるだけだよ。しかも、ドイツとカールスラントの内輪もめで、消耗した機材の補充もできないから、残ってる機材でのパトロールしか、もうやることがないそうだ。44戦闘団はこっちに取り込んだから動けてるんであって、リベリオンの支援がない連合軍の補給はその程度さ」
「え、って事は、わたしたちと自衛隊と米軍、地球連邦軍しかいないんじゃ」
「キングス・ユニオンがグローリアスウィッチーズを出すそうだが、世代交代も進んでるだろうから、評判ほどは精強な部隊じゃないだろう。ほとんど数合わせと考えておけ」
ここで黒江が触れた『グローリアスウィッチーズ』について説明しよう。ブリタニアの秘蔵っ子ウィッチ部隊で、ブリタニア一の精鋭集団とされる部隊である。航空団以上にウィッチを抱える事で有名であるが、イギリスの政治的圧力で出征が決まった。しかし、世代交代が既に始まっていたグローリアスウィッチーズの実際の練度は64Fと44JVの半分以下と現場に推測されているため、宛にされてはいなかった。その認識は上層部も持っており、ブリタニアの見栄っ張りとしか見做されていなかった。(もっとも、予備役を現場に戻してまで、異常な練度をキープさせた64Fの陣容は顰蹙を買っているのも事実だ)世界最強の陣容と謳われた二部隊の連合に対抗するため、ブリタニアはRウィッチ化政策を拡大、新人の割合を減らし、古参を慰留させた編成で前線に派遣する。44年当時の新人であった美遊・エーデルフェルト(リネット・ビショップ)にとっては複雑な決定であるが、イギリスからかけられた政治圧力の強さが分かる。派遣される部隊はグローリアスウィッチーズの主力であり、ロンドン防空専任とされたウィッチのほぼ全てが出征する事になったが、『今更?』と顰蹙を買っている上、扱いに困るため、連合軍の間で厄介者と見られていた。それを少しでも低減するため、結局は錬成用の中隊以外の全部隊が前線に出征する事になり、新人が異動で減り、古参を多くした編成で派遣された。連邦の沽券に関わるとしたチャーチルの決定である。反対した空軍の将官を何人か東部戦線送りにしてまで。
「今更ですか?」
「そ、今更だ。わざわざ、ブリタニアから物見遊山に来られるそうだ。今の戦線のお荷物になるだけだと思うんだがな」
「確かに」
「チャーチル卿の決定で決まったそうだ。沽券に関わるからだろうが…」
「見栄ですかね」
「政治的思惑だろうな。ウチが事変以来の武功で天下無敵と謳われているのへの対抗と、批判浴びてまで秘蔵してた部隊のお披露目」
「ヘボならそれなりに使えばいい。前線への連絡任務とか生き残る飛び方を覚えさせるとかな。やりようなんだよ。日本は700時間超えじゃないと、前線に出さんと内局が息巻いてるが、リベリオンは200時間だし、休暇あるんだがね」
「だから義勇兵を?」
「ウチの生え抜きは頑張っても、あ号作戦の時の601空以下の飛行時間だ。ヒヨッコと言われちまう。だから、旧日本軍の戦友会やタイムマシンのフル活用でかき集めたんだよ、ベテランを」
「あ、思い出した。若本先輩はどうして、日本から顰蹙を買ったんですか?」
「あいつは根っからのドッグファイターなんだよ。迂闊にも、雷電のことで無知を晒してな。インターセプターの意義を理解しとらんかった。迂闊にも、インタビューでよ、スピードは確かに出るが重いストライカーで、運動性が悪くて、たいしたものではないと思った。大型を攻撃するのなら、今の零式より良いかもしれないが、敵の戦闘機や小型怪異相手だと、零式より劣るんだ〜なんて言いやがった。案の定、炎上だ」
「若本先輩、雷電を使った経験は?」
「一回こっきりだとさ。まっつぁんが呼び出して叱ってた。あのガキ、戦闘ストライカーってのは戦闘機や小型怪異とやる専用じゃねーってのに。馬鹿言いやがった」
「で、大先輩の対応は?」
「孔雀座の必殺技お見舞いしてたよ。海軍航空隊のイメージ悪化に繋がるから、凄い剣幕でよ。あのガキ、泣いてたぜ」
「あれ、大先輩って」
「雷電扱わせたら、日本一のお方だぜ。俺と一緒にイーグルドライバーだし、要撃の重要性を分かってる。あのガキ、事変で大型と戦ってるくせに」
「そう言えば、若本先輩って七勇士に入ってないんですか?」
「当時はまだ覚醒してなかったし、黒田からも格下扱いだったしなぁ。それにまっつぁんと若さんもいたし」
「あいつが厚木に来た時に、そのインタビューで炎上してな。火消しを俺がやって、模擬戦を小園一家の皆さんに頼んだ」
「あそこ、兵隊ヤクザの巣窟じゃないですかぁ!」
「あそこは荒っぽいが、腕は本物だ。まっつぁんの育てた兵隊ヤクザ共が揉んで、あいつ、泣いてたぜ。シールドは割られるし。おまけにあそこ、小園の親父の方針で通常戦闘機も操縦できる連中で固められてるから、実機の雷電で振り回されてた」
「私も操縦技術あるのに、りんちゃんに信用してもらえないんですよ」
「諦めろ。お前、生前、皿洗いもまともに出来なくて、風邪っ引きのかーちゃんが心配して起きてきたろ」
「うぅ…。47時代はキ44を乗り回してたのにー!」
「そいや、ロスマンと同じで、お前、44乗りだったな」
「そーですよぉ!三型の元テスパイですよ、テスパイ!」
のぞみは生前の現役時代は少年のび太と同じようにドジっ子だったため、錦の操縦技術を受け継いだ事を信じてもらえない。キ44-Vのテストパイロットであった錦の操縦技術を受け継いでいるため、操縦技術そのものはエースパイロット級であり、空中戦技能は生前より遥かに上である。(生前は空中戦の機会が数える程度しかなかったため、正確な判定は出せない)
「ま、錦から引き継いだんであって、お前自身の技能たぁ、言い難いしなぁ」
「ぐぬぬ…」
ふくれっ面のドリームだが、実際、生前に得た技能と言えば、義務処理と教師をする上での必要な知識だけで、後は家事くらいである。しかし、ルージュ/りんはのぞみとは別世界の出身であるため、それすら信用してもらえず、なんとも言い難い気持ちであるらしい。だが、ルージュの知る自分はパルミエ王国に行き、王国に定住したというので、そこもなんとも複雑にさせられる。
「そう言えば、ピーチはどうなんだろうな」
「あ、まだ聞いてなかった」
「しっかりしろよ、今やコンビだぞ、コンビ」
「生前はわたし、作品跨いでの共闘の経験があまりなかったんですよ。ピンでの。ピーチはメロディと一緒になるケースが多かったし」
「そう言えばそうだっけ」
ピーチが空中戦を終えて、降り立つ。キュアウィンディと同じ風の精霊の力を使っているため、それ寄りのコスチュームになっていた。
「HUGっとが現役の頃に一回あったけど、ブラックとホワイトがいいとこ持っていったしねぇ〜」
「確かに〜」
「さて、残ってる勇敢なチャーフィー軍団にお前らの実力を見せてやりな」
『はいっ!!』
ドリームもブライトと同じ光の精霊の力を発動させる。すると、コスチュームがブライト寄りのデザインになる。力が馴染むと、使用者が他のプリキュアであっても、コスチュームのデザインがスプラッシュスターのそれに近づくらしい。
『精霊の光よ、 命の輝きよ!』
『希望へ導け!二つの心!』
ドリームとピーチは先輩である咲と舞から託された力を使い、プリキュア・スパイラルハート・スプラッシュを放つ。実質は継承に近い経緯で得たこの力。オリジナルと違い、力の増幅器代わりのアイテムを必要とせずに放てる利点があり、それでいて威力もオリジナルに劣らない。それはドリームとピーチがそれだけ『完成されたプリキュアである』証明でもある。
『プリキュア・スパイラルハァァァト!!スプラァァァッシュッ!!』
ドリームとピーチがスプラッシュスターの二人から継承した力。それは強力であり、初代とスプラッシュスターの不在を補うに値するモノだ。戦場を貫く虹色の閃光。ドリームとピーチが初代と言う偉大な先達を意識することはやはり避けられなかったが、代を経たなりの誇りは示さなくてはならない。その力を日向咲と美翔舞は与えてくれた。その重みを噛み締めるドリームとピーチ。
「なるほどね、これがあの子達の切り札」
「いやいや!?あれ、あたしたち…、プリキュア5の先代にあたるプリキュアの技ですって!あの子達、ほいほい撃ちすぎぃ!!」
「いいじゃないですか、咲さんと舞さんが継承させた力なんですし、使わない手はないですよ」
「フェリーチェ、垢抜けたわね…」
「20年近く、のび太と暮らしてますから。のび太の弁護はモフルンに頼んでます」
フェリーチェはそのあたりは柔軟らしい。自分がドリーム達の技を使った事があるから、だそうだ。
「みらいとリコが聞いたら、腰抜かすわよ?」
「あ、マーチにさっそく詰め寄ってるそうで、フォーチュンから連絡が」
「…だいたい想像つくわ…」
「見てくださいよ、ルージュ」
「……なんかシュールな絵面ね……」
呆れつつも、疲れた表情のルージュ。フェリーチェがタブレットに入ったメールを見せると、メールが入っていた。添付ファイルを開いてみると、『瞳がグルグル巻きになったみらいがパニクるあまりにキュアマーチに凄まじい勢いの剣幕で詰め寄り、それを止めようと羽交い締めにしているキュアラブリー、そんなみらいに困惑するリコとモフルンという、実にシュールな構図』のショットがフォーチュンの撮影で送られてきた。フェリーチェとハニーも同意する。戦闘はプリキュア・スパイラル・ハート・スプラッシュが戦場を貫く事で大勢は決した。21世紀の新・野比家で、ことはの学生生活を写した写真を目の当たりにし、パニクった朝日奈みらいがキュアマーチ、キュアラブリーをして困惑させるほどの勢いで騒動を巻き起こしている事がキュアフォーチュンから知らされ、もはや、ツッコミを入れる意欲も失せそうなキュアルージュ。それを楽しむキューティーハニーであった。
――この時、扶桑では未だに『軽戦車こそが主力であり、中戦車はそれを補完する存在だ』とする事変前の生き残りのような派閥がおり、装甲戦闘車両の整備に悪影響を及ぼしていたが、この戦闘で軽戦車がプリキュア達にびっくり箱の如く破壊されてガラクタ扱いされた事、クーデターでMBTに一糸も報えずに軽戦車の機甲大隊が壊滅する事例が生じた事で一掃されるが、MBTを運用可能なインフラ整備が間に合わないため、後方地域の治安維持などを理由に『M41軽戦車』が結果的にだが、220輌ほどが調達され、扶桑最後の『軽戦車』として活躍する事になったという。日本防衛省内局は日本連邦化で扶桑の軍政・軍令に影響力が及ぶようになっており、扶桑陸軍参謀本部、扶桑海軍軍令部を見下していた。それが正式に是正されたのは、クーデター事件後にY委員会の台頭が起こった後であり、Y委員会と首相・防衛相の会談の結果、日本連邦の軍政は日・扶双方の合議制に変更され、それはウィッチ世界が21世紀まで存続する事になる。日本にしては迂闊すぎる経緯であったが、棚からぼた餅のような経緯で扶桑にも影響力を及ぼせる様になった内局の思い上がりが混乱を招いた。彼らの中に『自分達の流儀を野蛮な大日本帝国の同位体に教えてやる』とする空気があったのは否めず、日本側の政治的失態の一つとして記録されたという。扶桑はドイツよりもイギリスを手本に発展を遂げ、思想も史実に比すれば、だいぶ自由主義寄りである。その事が日本の津々浦々に知れ渡ったのは、皮肉な事にクーデター後の東京五輪での事であり、日本のこの失態、ドイツの失策と合わせて『1940年代政変』という形でウィッチ世界で語り継がれる事になる。また、ブリタニア連邦の空中分解の危機も煽った事から、日本左派はウィッチ世界からの様々な圧力で衰退を余儀なくされていく。ただし、扶桑の良心的兵役拒否者を増加させ、戦意高揚キャンペーンを封じ込める事に成功したのは彼らの戦果であった。しかし、戦意高揚が規制された事で軍部は新規志願数の低調さに悩み、戦争中の新規ウィッチの多くを義勇兵で賄うことになっていく。反G閥はその滅亡と引き換えに、45年から47年の時期に適齢期であった世代の女性達に重い十字架を背負わせたと言える。また、扶桑で提唱されていた『超重爆で中枢の工業地帯を叩こう』とする思想も『迎撃ミサイル網が整備されれば、戦略爆撃機は無力になる!!』と叩かれたため、戦略爆撃機を戦術爆撃にも駆り出す事と、電子戦機、空中給油機、早期警戒管制機などの用途に転用する事で生産数を増やす事で政治的に妥協され、富嶽や連山の調達数が調整される事になった。(戦略爆撃機は日本には忌避される兵器であるが、ウィッチ世界にとってはウィッチ母機を爆撃に転用しているという名目で調達されていた)また、ドリームとピーチがプリキュア・スパイラル・ハート・スプラッシュを放った事はすぐに話題になり、ネットを賑わしたという。――
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