外伝その372『Red fraction』
――陸戦兵器の不足は強固な制空権と制海権を有するはずの連合軍の攻勢を停滞させていた。戦車の不足は問題視されるレベルであり、結果、新式の配備までの穴埋めで既存戦車が生産再開されるグダグダぶりであった。それらの再配備にも時間を要するため、均衡を保つため、Gウィッチの一騎当千ぶりがひたすら求められた――
「やれやれだぜ。毎日、歩兵大隊や旅団相手に無双しろだと?弾がなきゃ、どうにもならねぇぞ」
「ケイ、どうするの?」
「弾の補給がおっつかねぇからな。仕方ねぇが、トマホークでやっか」
キュアビートと圭子は声が似ている。ただし、ビート(黒川エレン)は声のトーンが高め、圭子はドスの効いたヤサグレボイスであるのが最大の違いである。
「相変わらず、ぶっ飛んでるわね、貴方」
「あたしの本分はゲッターの使者だしな。あのイキってる坊主の電話応対は任せたぜ」
「『弟』が迷惑かけたわ。昔からああいう気質なのよ、あの子。今は生まれ変わってるから、直接の関係はないけど、見てられないのよね」
「お前が前世で育ててたのとは別個体になるが、どう思う?」
「申し訳ない…。前世でのことだけど、私とあの子は厳密な意味では姉弟じゃないのよ。俗に言うデザイナーベイビーのようなものでね。同じ遺伝子から作られた個体だから、血は繋がってるけど。両親に捨てられたって刷り込みでもされてたのかしら。それが拙かったわ。そのせいか、ヒーローやヒロインを馬鹿みたいに嫌うのよね」
「マーチから愚痴られたそうだな?」
「なんとも気まずくてね…。『ヒーローなんて奴らは泣きもしなけりゃ、笑いもしない』……。マーチの覚醒直後、あの子に突っかかったらしくてね。向こうの『私』が派遣させないというのも頷けるわ」
キュアマーチとしての能力と記憶が蘇ったラウラ・ボーデヴィッヒの事は持論を強くは通さず、ラウラの気持ちを最終的には尊重したらしいが、表面的なレッテル貼りの言葉を投げかけようとしたらしく、千冬は叱責した上で次期派遣メンバーから外すと通告し、黒江に詫びている。ラウラ・ボーデヴィッヒが派遣されたのは、プリキュア化した事も大いに関係している。一夏は結果的には、二度に渡って『失態を犯した』事になり、実質的に謹慎の身にある事が分かる。ビートは今や、直接的に関わる事はないとは言え、前世では『弟』だった織斑一夏の事は気にかけているらしい。
「で、電話がかかった時に応対したのか?」
「ええ。あの子は私……いえ、今は千冬と言うべきかしら……の言うことなら素直に言うことを聞くから。声の感じはクラン・クランの素で行けるから、苦労は無かったわ」
千冬の声色はクラン・クランの素の声色(通常時)とトーンが一緒なため、喋り方さえ気をつければ、千冬の声そのものであることに気づいたキュアビートは上手く口実を考え、一夏による連絡を封じた。一夏もラウラとの関係悪化を恐れていたらしく、手紙で真意(実質的には釈明である)を伝えてきている。実質的にその手紙が彼からの最後の連絡であったという。
「ご苦労なこった」
「あの子のことは千冬に任すわ。私は直接的には関われないし。ところで、ケイ、この状況の原因はなんなの?」
「日独が軍縮を狙って、新兵器との入れ替えを名目に旧型を強引に回収しやがったんだよ。そのおかげで制海権と制空権をせっかく握っても、何もできねぇと来てる」
陸戦兵器の数的不足は兵器の質で補えるものではない。その証明がなされてしまった事は日本防衛省背広組と左派政治家には『不都合な真実』であった。その事への批判を避けるため、以後、表立っての扶桑の兵器生産指針への口出しを控えるようになるが、陸戦兵器の近代化だけは頑として譲らなかった。これがカールスラント装甲部隊の陳腐化を促進させ、扶桑・カールスラントで旧式化した戦車用の75ミリ砲弾が倉庫の肥やしになってしまう珍事を発生させる。それを転用する手が破砕砲用砲弾への転用であり、破砕砲の普及で生まれた『バスターウィッチ』が以後の時代で『爆撃/攻撃ウィッチの末裔』とされる一因になった。
「その尻拭いに私たちが?」
「そういうこった」
日本は結果的に扶桑陸軍の近代化を促進させたが、前線にいらぬ労苦を強いた点で反感を買っていた。また、扶桑に運用要項を伝える過程でミスがあり、16式機動戦闘車の損耗率が高くなってしまうという伝達ミスも起こす。
「とりあえず、歩兵連中を蹴散らすぞ。援護頼むぜ」
「分かったわ」
ビートはゼントラーディ(メルトランディ)に転生しているため、一対多に血が滾る好戦性を持つが、圭子ほどはぶっ飛んでいない。圭子の好戦性はゼントラーディをも上回るため、素体がメルトランディであるキュアビートがストッパーというデコボココンビである。サイドアームとして、圭子がMP9を使用し、ビートはVz61を構えている。今回は旅団の撃退であるので、加減はしない。マシンピストルというジャンルがない時代に、その申し子を使うのは反則と言われているのだが。
「さてと、踊るか」
圭子は前史以前はスナイパーだったが、今回においては切り込み役にポジションを変更しており、持ち前の身体能力で歩兵旅団の隊列のど真ん中に突っ込む。マシンピストルは装填弾数は少ないが、連射速度が高いため、火力そのものは高い。あっという間に何人もの兵士が鮮血を撒き散らして倒れていく。また、圭子はトマホークをもう片方の腕で持ち、斬り裂いていくという芸当を披露。敵兵の悲鳴が響き渡る。ビートもVz61で敵兵を蜂の巣にしまくる。ビートは浄化技が主体になった世代のプリキュアであるため、こうした銃火器の使用に躊躇いはない。
「ケイ、この時代はマシンピストルないんじゃなかった?」
「短機関銃はあっても、マシンピストルはまだ発明されてねぇよ。カールスラントのMP40が発明されて間もない時代だ。ハルトマン、使い勝手いいと言ってたが、空戦に使うには射程距離がな」
ハルトマンは『弾を至近距離からバラ撒くんだし、短機関銃で充分だよ』との事だが、怪異相手には良くても、戦闘機相手には豆鉄砲なので、ハルトマンはぶーたれている。黒江は『空戦でMP40を使うな。想定外の故障が起きるぞ』と諌めており、空戦では専用のものを使用している。ちなみに1945年では、マシンピストルは反則であり、あっという間に数十人がなぎ倒される。
「敵はボルトアクション式だぜ、二線級でも引っ張り出してきたか?」
「いや、単純にガーランドやBARが行き渡ってないんでしょ?」
「やれやれ。ウィッチ優先の弊害ってやつか。トンプソンもグリースガンもいねえんじゃ、張り合いがないぜ」
敵は機関銃兵すらいないという、リベリオンにしてはお粗末な編成で、通常兵器の増産が追いついていない有様をまざまざと示していた。ボルトアクション式は発砲に一定の間隔があるため、プリキュアと同等以上の超人たちならば、充分に隙を突ける。
「こっちはあるんだよな、確か」
「綾香曰く、ギャングから徴発させたそうよ。避難民にギャングいたから、備蓄を出させたそうな」
「大丈夫か?」
「弾倉の規格を調べてるから、前線への供給はごくわずかだそうよ。BARのほうが多いみたいで」
「まあ、メーカーが持ってきたものも多いんだろうが、日本の連中は自動小銃にこだわりやがる。ボルトアクション式が主流の時代にいきなり、バトルライフル持ってこられてもな」
二人はマシンピストルを乱射し、ボルトアクション式ライフルしかない敵兵をなぎ倒していく。当時のリベリオン軍は外征部隊に優先してガーランドやBARを供給していたが、その外征部隊が自由リベリオン化したため、兵器更新度が後退する珍事に見舞われ、スプリングフィールドM1903小銃が多数、第一線で使用されるに至っている。M1905銃剣も装着されていたため、前時代的である。史実と真逆の光景も珍しいものではなくなり、少数の自衛隊がリベリオン軍の中央を突破したという珍事も起こっている。
「銃剣を持ってきたところで、白兵戦最強を謳われる日本軍に勝てるかよ!」
白兵戦を果敢に挑む者もいるが、リベリオンの戦闘教義では、白兵戦に手慣れた二人にかすり傷程度もつけられるはずはなく、大の男達が軽々と宙を舞いまくる。また、圭子はハルバード同然のトマホークを振り回し、人体を斬り裂いていくため、敵兵に悪魔と罵られまくる。
「ビート、敵の指揮官を探せ!指揮系統さえつぶしゃ、徴兵で集められた兵隊共の士気は崩壊する!!」
「分かったわ!」
味方側は米軍などからのメタ情報で、ヘルメットの指揮官識別の階級章を廃止したが、敵側はティターンズの思惑もあって廃止していない。それもあり、指揮官と幕僚の捜索は容易であった。
「いた!よぉし、プリキュア・ハートフルビートロック!!」
専用の武器『ラブギターロッド』で必殺技を放ち、旅団司令部要員を一網打尽にする。この時代、指揮官と幕僚は前線視察に出る事は珍しくなっているが、世界特有の事情もあり、高級指揮官が前線視察に来る事は珍しくない。だが、観測所から出ていた事が運の尽きであった。だが、指揮官と幕僚を倒しても戦闘は終わるわけではなく、階級がその場で高い者が引き継ぐ決まりになっているのが近代軍隊である。とりあえず、人数的にも数割は削れば、軍事学的に壊滅と判定されるのも近代の戦闘である。
「あと二割は削ったら投降を勧告するぞ。末端の兵士は徴兵で賄ってるだろうし。実戦経験がないペーペーの士官連中は木偶の坊だろうな、急に統制が崩れてきた」
「あとは佐官と尉官を潰せば、こいつらは投降する。相手が旧日本軍じゃないのが救いね」
「確かにな!平行世界の自分らとは言え、身震いするぜ、旧軍は」
旧日本軍の玉砕思考は流石に引いている圭子とキュアビートだが、その戦闘狂的思考が義勇兵の士気の高さにも繋がっている。全否定はしないあたりは日本人的思考がビートにも根付いている証だろう。リベリオン軍は手榴弾での攻撃を始めるが、それを物ともせず、二人は兵士をなぎ倒し、手榴弾を打ち返しつつ、将校を探してはノックアウトしていく。やがて、段々と指揮権が下って、指揮権が巡ってきた中尉が白旗を揚げる。それを確認したビートが戦闘の停止を通告すると、同時に付近のリベリオン軍全体に投降を呼びかける。リベリオン軍はアメリカの同位軍隊であるので、一定の損害が出れば投降する場合が多い。これは軍隊を旧日本軍を基準で考えていた日本の左派政治家や市民活動家などに衝撃を与えた。また、逃亡者も続出したため、旧日本軍の思考が異質なものであった事が強調された形だが、意外にすんなり投降した。
「すんなり投降したわね」
「何割かは逃亡したけどな。敵と交換船の取引材料に使う。何千から何万人の捕虜は入れ場所もねぇしな」
「武器はこのまま武器庫に?」
「ミデアで運ぶ。とは言え、古いの多いから、博物館行きになりそうだがな」
「自由リベリオンは使わないの?」
「アメリカが21世紀式の武器を大量に運んできたからな。倉庫の肥やしだろうぜ」
「21世紀式ったって、いきなりアサルトライフルや分隊支援火器与えても、猫に小判よ?」
「訓練しねぇと、どんな武器も張子の虎なんだがな。ゲルググだって、学徒動員兵の乗った個体は張子の虎も同然だったんだがな」
「そういえば」
「ガンダムだって、歴史を変えた個体でないのは意外に多くがやられてるんだぜ?マドロックとか、ピクシーの何機かとか…」
パイロットに恵まれない場合、ガンダムタイプでも撃墜される場合があり、一年戦争中にはそんな事例が確認されている。アムロ・レイのファーストガンダムは神格化されているものの、その影で消えていった兄弟機は複数に登る。マドロックはその代表であった。コンセプト自体は高評価だが、当時の技術水準では78系の機動力とガンキャノンの砲撃力を両立させるのは些かの無理があり、完成型も大破している。また、マドロックの事例から、連邦軍は『ガンダムタイプは陣営最高レベルのトップエースか、素養のあるニュータイプパイロットに支給する』という不文律を確立したともされる。
「ああ、あの旧ザクにやられたガンダム」
「ま、同情できる面も多いし、元専任パイロットはティターンズを除名になった後は教官になってグリプス戦役までに退役したって情報もある」
マドロックはすぐに回収されたものの、戦後は倉庫の肥やしになり、相模原で7号機共々に払い下げを待つ身であった。デザリアム戦役でパルチザンに回収され、使用されたのは言うまでもないが、パイロットの割り当てに困り、のぞみがデザリアム戦役の際にパイロットを始めたため、マドロックは支援機としての運用が構想され、キュアベリー/蒼乃美希は『ミントが来たら乗せてみる?』と言ったというが、実際はコウ・ウラキの戦友であるチャック・キースが乗ることになったという。なお、残る最後の8号機の実在は不明だが、パーフェクトガンダムに転用されたとも、レッドウォーリアとして試作されたともされ、黒江達も真偽はわからずじまいだった。だが、相模原市に実機があり、黒江は『一年戦争のどさくさ紛れに誰が通したんだ、これ』と乾いた笑いが出たというが、実際に試作されたのは事実であった。
「思い出した。前史だと、相模原市にレッドウォーリアとパーフェクトガンダムが放置されてたんだった」
「え、あのプラモ漫画の?誰が作らせたのよ」
「一年戦争のどさくさ紛れに、宇宙軍の高官が通したんだろうよ。金かけた道楽だぜ」
「なんて相模原市に?」
「Zやν以降の次世代ガンダムが出てきて、旧式化してたから、ゆかりの場所に寄贈されるはずだったような」
旧米軍の相模総合補給廠は23世紀には地球連邦宇宙軍の管理下の兵器保管庫になっており、一年戦争後期のプラン機はそこにまとめてモスボール保存されている。また、近くにネルガルとアナハイム・エレクトロニクスの工場が23世紀には建っており、そこで近代化改修されるのである。
「あれ、レッドウォーリアって、時期的にコックピットは従来型?」
「全天周囲モニターとリニアシートの初期型だったはず。赤いし、今回はルージュに与えるかな」(レッドウォーリアは、実際にはヘッドマウントディスプレイ式で、ブルーデスティニーと同系統の方式であった)
「ただ、一年戦争当時の予定スペックだから、実際は変わってるかもしれん。ペイルライダーとか、色々なプランを急がせてたみたいだしな」
「一年戦争はなんで、あんなに窮屈なくらいに早く終わったの?」
「ア・バオア・クー戦で双方の軍事指導者が行方不明になったり、死んだ事、ザビ家の壊滅でジオンの統制が崩れたりしたのが、早期終結の理由だよ。ギレンが生きてれば、本土決戦も辞さなかったろうし」
「それで、宇宙戦争の割に早く終わったと?」
「ジオンが鞍替えしたのを良しとしない部隊が残党化してな。ジオン軍の6割以上とも言われるんだ、これが」
「それで兵器開発は一区切り?」
「表向きはな。だが、裏で作ってた兵器も多いぞ」
なんとも寂しいが、戦中開発の兵器は次の戦争までは現役で使われない事が多い。ガンダムタイプも例外でなく、Zガンダムが名機と言われるのは、複数の戦役を一線で戦い抜いているからでもある。(Zの頃には、MSという兵器そのものが工学的に成熟しており、その成熟したノウハウでフラッグシップ機としての可変ガンダムタイプを作った結果である)
「で、その後の技術革新で小型機が生まれたけれど、現実は小型機が強いわけじゃないのよね」
「内包エネルギー量も関係するからな、宇宙空間だと。ヱルトリウムやゲッターエンペラーもそうだが、質量があるほうが勝つのが宇宙での戦闘だ。それに技術革新で初期の小型機と同等の機動性を大型機にも持たせられるようになって、小型機の運用メリットが薄れて、整備性もV系以外は却って悪化した。それが廃れた最大の理由だ。VFやデストロイドと運用条件が丸被りしたからな。メリットも見い出せなかったしな、ビームシールド以外で」
それ以外には、万一の場合の核融合炉の爆発が『核爆発』になるリスクの増大も、VFに比しての運用メリットがないとして、小型機が廃れた理由である。これについてはVFからの技術スピンオフによって解消されたものの、小型機の物理強度の脆さなどの難点が宇宙戦争で明らかになった事もあり、MS開発は大型化に回帰している。ジェスタや量産型νガンダムの生産はその表れである。また、スーパーロボットも25m〜300mと、運用目的でサイズに差があるため、20m級が最終的な標準に落ち着いた経緯がある。(マジンガーZの二号機はグレートマジンガーを機体サイズの基準に新造されたため、一応、23世紀時点の標準になっている)
「地球連邦軍にあいつらの護送は頼んだ。他のとこの戦況はっと。ふむ…。イチナナ式をもう配備したのか、やるなぁ」
「ああ、例の廉価版マジンガー」
「量産型グレートマジンガーの計画が弓教授の強い提言でポシャった後、その代替で開発された。短時間で開発されたから、だいぶ性能は落ちてるらしいがな」
「大丈夫?」
「弓教授曰く、鉄腕ア○ム3.5人分のパワーらしいが、弱くね?」
「なんつー微妙な数字…」
イチナナ式は35万馬力。ビューナスAと同等レベルのパワーは確保しているが、非力ではある。そのため、戦力としては頼りないと発言されるが、総合戦闘力は並のMSよりはあるとは弓教授の談。
「マジンガーの量産に弓教授は反対だったしな。だが、ゲッタードラゴン級の性能のマシンが量産される時代だ。本音を言えば、グレートだって旧式になりかけなんだがな」
グレートマジンガーの悪用でマジンカイザーが反応する事を恐れたのか、それとも、ZEROの顕現を恐れていたのか。弓教授の真意は不明である。ただし、ZEROを倒すため、ゼウスがライオネルを名乗り、ゴッド・マジンガーとマジンエンペラーGを開発させているのを受け入れているので、単純にマジンガーの悪用を恐れていただけとも言える。
「ジムみたいなドクトリンなんだろうが、物足りねぇな。まるでリアルロボットだぜ」
「量産型ロボットはコストの問題があるから。グレートをあのまま量産はできないし。普遍的な兵器と考えるならコストダウンは仕方ないわよ」
一人で大きな力を担う責任を考え、スーパーロボットはフルスペックの量産は避けるべき、というのが弓教授の優しさから来る考え方だが、あしゅら男爵らはゲッタードラゴンの平行世界のバージョンを入手、量産して、ゲッター真ドラゴン化させたが、弓教授はその行為を批判している。ただし、ZEROを打ち倒すため、『神を超え、悪魔も倒す最強無敵のマジンガー』の開発を行うので、ZEROを脅威視している証でもある。『あの破界神がZの歪んだ形ならば、Zを超えるためのGの系譜で倒すしかない』。それが弓教授、宇門源蔵、兜剣造の共通認識だった。その具現化であるマジンエンペラーGはグレートの後継機種だが、事実上はマジンカイザーの対になる魔神であり、ゴッド・マジンガーの兄弟機にもなるわけだ。
「ま、それはそれとして、智子の事だ。あいつ、白バラ勲章がド派手な式典で授与されたろ?あれな、日本向けの宣伝だよ。フィンランドの。フィンランドとしても、同位国の事で揉めたくないから、マンネルヘイムの罷免を迫って、強引に決めさせたそうだぜ」
「何故、そこまで強引に?」
「日本連邦が手を引きゃ、あそこは単なる小国だ。ティターンズが全力出しゃ、ものの数時間でヘルシンキは落ちるし、日本連邦に経済制裁喰らえば、国民が野垂れ死にする。それで脅されたんで、マンネルヘイムは日本連邦に屈した。その煽りでモンティは元帥昇進が取り消されて、当時の各国の佐官が島流しにされたそうだ。」
「遡って裁くのに異論が出なかったの?」
「出まくったよ。当時は機密保持のためだったし、当時は合法だったしな」
「それで?」
「時間を遡って、当時の罪で裁くことに異論は多かったが、人種差別のイメージがつくのを恐れたスオムスとフィンランドが決めたんだよ。それと、日本のラノベで機密事項がバレたから、機密の意味が無くなったからだよ。智子の野郎には莫大な慰謝金がスオムスから支給されてる。億単位だってよ」
「億単位!?」
「ま、普通のウィッチならあがりになる年齢まで箝口令引かれた上、飛行制限加えてたからな。智子に勲章と慰謝金与えて、上層部批判を止めてもらいたいんだろうよ。智子が七勇士の一人で、レイブンズの一角ってことも知れ渡ったから、その気になれば、マンネルヘイムの罷免に持っていくことは簡単だ。それをスオムスは恐れたんだ。それに、今のスオムスは世代交代が進んでるから、練度はむしろ落ちてるしな」
圭子の言うことは当たっている。いらん子中隊の運用制限は人型怪異を警戒してのものだったが、それを隠す事が無意味になってしまったことで機密の解除がなされたが、上層部への批判になりかねないため、当時の現場責任者であった智子に最高の勲章と大金を与え、批判を黙ってもらう。それが上層部にできる唯一無二の対応だった。また、日本連邦が本気になれば、練度が世代交代で低下した上、装備に圧倒的な差があるスオムスに万に一つの勝ち目もないことは、マンネルヘイムもよく分かっていたため、日本連邦の要求を呑むしかなかった。来る札幌オリンピックに参加する事と交換条件でエイラ、アウロラの姉妹の駐在武官への配置転換で済むのなら、安いもの。こうして、エイラと姉のアウロラは駐在武官名目で太平洋戦線に参加することとなる。実際、未来装備を買い込みまくって、平行世界の情報を有している日本連邦に戦争を挑む国はリベリオン以外にいないというのが他国の見解であり、斜陽のブリタニアに代わる次代の超大国が日本連邦である事は疑いようがない事実である。ましてや、対軍級を謳われたレイブンズを筆頭に七勇士が未だ現役である上、もはや単純にウィッチと呼べぬ存在に昇華した者たちがひきめいている扶桑空軍の布陣は盤石と見られていた。(実際は日本の介入でシッチャカメッチャカであるが…)
「その影響?501そのものを飲み込んだのは」
「そうだ。カールスラントが日本連邦に理事国の権利を譲ったから、上が64に組み込んだってわけだ。おまけにガキどものサボタージュ問題で、欧州の軍の部隊でまともに動いてる部隊はうちだけになった。だから、好きにやれるんだよ。23世紀の武器使おうが、30世紀のグレートヤマトに来てもらおうが」
「貴方達なら、もっと呼べるでしょ?」
「アルカディア号も来てるから、あとはクイーンエメラルダスしかいねぇがな」
「それで、智子のことをダシに、上を脅したわけね?」
「普通なら『あがる』年齢まで運用制限課してたことの報復だよ。上も下手したら今の首脳陣の首がまとめて飛ぶから、腫れ物に触るようにしてるってよ。サーシャの追放はその一環ということになる」
サーシャは結局、『ロシア的な』堅物だったことも災いの種になった感が否めなかったため、目の傷を周囲に見られたくないこともあり、地上勤務にしばし転科する事になった。軍を辞するには至らなかったのは、サーニャには『善意で言ったのであり、悪気はなかった』のだが、サーニャの怒りを買ったことは素直に反省しているからだ。日本連邦なりの温情である。もっとも、国が分裂したオラーシャにとっては、サーシャは何が何でも手元に留めたい逸材であるからでもあるが。ただし、若き新皇帝の怒りが収まるまでの間、辺境勤務という買い殺し状態に遭うのだが。
「当分は買い殺しでしょ?」
「視力は治療で治せるが、心の傷がな。それもある。その代替にカールスラントのトップエースを引き抜いたから、カールスラントはぶーたれたが、向こうも軍縮を大義名分にしての粛清の嵐だ。それでウチに主要なエースを送り込んでおいたんだろうよ。ハルトマンとマルセイユでさえ、扱いにくいからって、いきなり予備役にするって話だった。どうせならって、閣下が部隊ごとウチに送り込んだのさ」
カールスラントもドイツに翻弄され、軍事的影響力を衰退させられ、日本連邦にトップ20クラスの撃墜王を根こそぎ持っていかれるという悲劇に見舞われた。だが、日本連邦も世代間対立が深刻さを増す上、ジュネーブ条約の批准で世代交代が停滞する問題に直面し、その解決を義勇兵及び、黒江の立案した『プリキュア・プロジェクト』に手放しですがるほどの窮状である。Gウィッチの無双の活躍は喜ばしいことだが、逆に言えば、ウィッチ兵科は軍隊の一部門として機能不全に陥っているも同然の状態と言える。この事実が後世においての扶桑の『兵科解消の原因の一つ』とされる。
「で、その侘びが21世紀の技術の輸出?」
「全部じゃないけどな。新幹線は100系相当で輸出するし、電話も黒電話の普及が第一。インターネット時代はまだ先のことだよ」
「え、300系でもないの?」
「扶桑側が0系をそのまま造るのに難色を示したから、そのモデルチェンジ型の100系で落ち着いた。ただし、0系も走らせるってよ。綾香の防大同期で、二佐で退官して鉄道会社に転職した物好きがいて、そいつから聞いた話だと、管理システムは21世紀水準だけど、車両は初期型がライセンス生産大半で、貸与でN700系を走らせるらしい。南洋でテストさせるそうだが。200系で統一しようかって話もある」
「亜細亜号が走ってる南洋横断鉄道を走らせるの?広軌だっていうけど」
「そのつもりらしいが、新規で造ろうって話もあるらしくてな。軍部も困ってるそうだ」
当時、軍部は広軌で作られていたあじあ号用の軌道を流用できないかと検討していたが、新幹線用に路線を新規で造るほうが安全面では確実とする声もあり、計画の正式な策定にまだ至っていない。結局、これは新規軌道の建設が行われ、既存の横断鉄道を拡張し、東西南北の最大都市間を結ぶ高速鉄道という形で決着し、それも軍部が開戦を引き伸ばさなければならなくなった理由だ。もう一つは軍部の要望で貨物新幹線の実現が求められたからで、その開発に手間取ったため、開戦を『オリンピックとパラリンピック』でできるだけ引き伸ばしたのだ。
「新幹線を通すには10年近くはいるわよ?21世紀以降の技術で突貫作業しても」
「軍部は弾丸列車計画用の資材を流用して短縮させたいみたいでな。南洋でなら、6年くらいで新規軌道でも開通できるだろうって」
「それでオリンピックとパラリンピック、最悪、万博もねじ込むの?」
「こっちが準備し終えるのは、最速でも48年だ。向こうはその前に戦端をどうせ開くだろうが、オリンピックや万博を理由に、時間を稼ぐ。できるだけ、な」
「国際イベントを戦争で潰したのは日本くらいだけど、あれはもう日中戦争の戦端を開いてたからだものね」
「21世紀の日本は『国家がスポーツを奪った』というが、誰が好き好んで、国際的な国威発揚に転用できるイベントを棒に振るかっての」
扶桑はオリンピックなどのイベントに反対する声があるのも事実だが、Y委員会は『国土強靭化/要塞化の時間稼ぎに利用でき、国威発揚になる』という結論のもと、むしろイベント準備を促進する。日本との交流目的で華やかにする大義名分も得れる。(ただし、女子選手の多くは64の隊員の掛け持ちで賄うことになったりしたが)また、プリキュア達も1940年代での扶桑でのスポーツ普及率の観点から、扶桑籍を持つ複数人が代表選手として出場。変身前の状態でも21世紀水準の身体能力の高さから、オリンピックレコードを連発する大活躍を見せたという。(1940年代水準の記録を争ってるところに、21世紀基準で常人より高めの身体能力を持つプリキュア達が参戦すれば、ぶっちぎりの記録が出るのは当然である)ちなみに、黒江は陸上などで21世紀のアスリートも真っ青な記録で金メダルを獲得したという。
「出るの?貴方」
「射撃で内定もらってる。のび太と東郷には及ばねぇが、ゴールドメダルには自信あるぜ?」
圭子は何気に射撃競技の代表らしい。もちろん素の容姿で出るのだが、元々は狙撃手であったため、超人であるのび太と東郷を除けば、ゴールドメダルを取れるレベルの狙撃が余裕である。
「あの二人は超人だものね」
「ミリ秒単位でドロウやらかしやがる。次元大介を余裕で凌ぐんだぞ、あの二人。あたしがトゥーハンドに転向した一番の理由だよ、あいつらの射撃は」
ゴルゴはドロウのタイムが初代、クローンである二代/三代ともに0.1秒近く。のび太は未訓練の少年期の時点でそれを凌ぐ。圭子は前史以前のタイムが0.7秒程度、更に強化された現在でも0.3秒。のび太とデューク東郷には及ばない。なお、絶頂期の初代ゴルゴのドロウの最大速度は0.17秒ともされるが、詳しくは不明であり、少なくとも、のび太は青年期にはドロウであれば、デューク東郷を凌ぐとされる。圭子が前史の時点で、どうやってもデューク東郷やのび太に勝てない事を愚痴ったところ、のび太は『僕や東郷に勝つことに固執するから、体に緊張がわずかでも生じてるんだよ』といい、圭子を落ち込ませた事がある。その一言が圭子がトゥーハンドに転向した理由の一つである。
「貴方、それで?」
「超視力も無しに、数百m以上の狙撃をされてみろ。こっちのプライドはズタズタだっての」
愚痴が入る圭子。初めて出会った頃にのび太に負けた時から対抗心があったが、のび太の才能が自分を超えている事を認めるまでに紆余曲折があったらしい事が分かる。圭子は別の境地に至るまでに長い時間を要したが、狙撃手としての自分に区切りをつけるためでもあった。そのあたりは圭子なりの葛藤であった。
「今のこれに至るまでに数百年くらいかけちまった。ババアって言っても怒らねぇよ、今は」
「お互い様でしょ、それは」
「かもな」
転生を重ねた者は転生を重ねたなりに辛酸を嘗め、それなりに辛い出来事も体験している。黒江は特にそれが多く、レベルアップする度に誰かに完膚なきまでに叩きのめされ、立ち直るために強さを求めていく事の繰り返しであった。ビートも転生を繰り返し、一時は織斑千冬であったことすらある。プリキュアへの再覚醒で一巡したとも言えるが、一夏への愛情は持ち続けているし、クラン・クランとして過ごす現在における幼馴染に好意を持ってもいる。転生者にも、転生したなりに苦労と葛藤があるのだ。
「私も、貴方達が接触してる一夏が自分の知ってる一夏と『似て非なる存在』である事は分かっているけど、苦しいもの。クラン・クランとしての生き方もしなけりゃならない。貴方達が羨ましいわ」
「同じ人生を繰り返すってのも大変だぞ。綾香は二重人格になってた時期があるくらいだしな。だから、今回はこれで通してんだ。このほうがガキの頃の自分を出せるし、馬鹿もできるしな」
圭子は今の振る舞いはほとんど素である事をビートに告白し、素で荒くれで、好戦的な気質の素養を備えていたのは事実である事を明確にする。ビートも黒川エレン(ひいては妖精・セイレーンとしての自分)、クラン・クラン、織斑千冬の間で揺れ動く自分に悩んでいたため、圭子の言葉で何かを見出したのか、安堵した表情であった。
「お互いになんとかやっていきましょう、ケイ」
「お前もな、ビート。いや、黒川エレン?」
圭子は口に咥えるタバコ型去痰剤に火をつけ、服用する。それを見つつ、ミデアが飛来し、降下し始める時に発生する風に、サイドテールの髪を揺らすキュアビート。自分が置かれている立場を再認識し、生き方を決めた表情で、優しい笑顔であった。以後、黒川エレン/キュアビートは圭子と交友関係を正式に築き、事の次第を露知らぬ、のぞみやことはを驚かせるのだった。
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