外伝その378『GとN3』


――ダイ・アナザー・デイが三週間目に入ったある日。のび太は模擬戦と同時に発表するための『強さ表』を書く作業に入る。既にのび太の世界で知られるアニメとは、のび太自身を含めて、かなり乖離している者が多い。なのはに至っては、普段がガサツになり、事もあろうにダブルゼータの同型機のパイロットを勤めている。これについては理由がある。時空管理局の組織としての弱体化で許された事柄だが、なりふり構わずに組織を維持しようとする管理局の窮状を表している。――









――この頃、管理局は本星の中枢をM動乱で制圧され、結局は休戦に持ち込む事が精一杯だったからだ。これは高ランク魔導師の大半がバダン側に懐柔されていた事、魔導兵器に傾倒していた事で、結果的に第二次世界大戦型の科学兵器にさえ有効打を持てない末端局員が続出した事、強力な改造人間が大量に投入されたからである。結果的に動乱は管理局の威信を失墜させ、事実上、組織そのものが地球連邦政府の管理下に置かれた(はやてが地球連邦軍中佐の身分を有したのがその証拠)。地球にルーツを持つものが多い上、はやてが中枢部に登り詰めている事もあり、管理局は結局は『地球人が作り、地球人によって、その地位を失い、地球人に管理される』という結末を迎えた事になる。致命的な人手不足から、各世界の自主軍備を容認し、科学兵器の保有制限を緩和した。管理局そのものも純粋科学に敗北したり、様々な異能に手も足も出ない状況が頻発したため、組織そのものの存在意義が問われていた。地球の管理下に置かれた事で起こった混乱は大きいが、組織そのものの消滅よりはマシとされ、秩序の維持の観点から、組織自体は存続できた。だが、残された戦力は貧弱そのものであり、それを補うために司法部門と実務部門の分離が行われつつ、一部の有能な執務官は銀河連邦警察の刑事同様の扱いになるなど、色々な妥協があった。その兼ね合いという事で、なのは達は地球連邦軍製機動兵器を有したのだ――











――黒江達が前史の記憶から、なのはの起こす騒動の発生が遅れている事を悟っていたことはなのは自身も自覚していた。この時点では、立花響の一件で謹慎中の身である。親友のアリサ・バニングスが『キュアエース/円亜久里の転生』であると判明し、わざわざ子供の頃の姿に戻って(タイムふろしきを借りた)、そこから『プリキュア・ドレスアップ』を敢行、キュアエースになる様を見せつけられ、不貞腐れていた――

「参りましたわ…」

「あれ、エース!?いつの間に!?」

姿を見せたキュアエースに驚くドリーム。

「なのはの親友に転生してて、記憶が覚醒したから、キュアエースになれるようになった。電話でなのはの様子を見るように頼んでたんだよ。どーだった?」

「それが…、私がキュアエースになったものだから、あの子、不貞腐れてしまって」

「え〜!なのはちゃん、何が原因でそうなったの?」

「それが……、あの子、キュアアムールになるのを相当に期待してたみたいで、その…」

「そ、それぇ〜!?」

キュアエースは、なのはのふてくされぶりに相当困っているようである。ドリームも思わずずっこけてしまう。なんとも子供じみた『ふてくされぶり』だが、アリシアがキュアブロッサムであったため、なのはがキュアアムールになれる可能性も無いわけではなかったのが大いに関係していた。なのはも人の子であるため、やはり変身ヒロイン願望はあった。魔導師になったから叶ったも同然だと、フェイトは言っているのだが、なのはの子供時代はプリキュアで言えば、『初代〜スプラッシュスター』の時期にあたるため、憧れはあったようで、友人の身内がプリキュアになった報に、淡い期待を抱いたようだが、そうではなく、長年の親友がプリキュアに目覚めたのが原因であった。黒江も頭に閑古鳥が鳴いてしまった。

「なのはちゃん、ああ見えてかわいいところは維持してたからねぇ。ちょうど、初代とスプラッシュスターの時期にリアルで見てた世代だって言ってた事あるんだ。僕はプリキュアを中断の後に見れたのは、大学受験が終わったあたりで、のぞみちゃんの時代になってからだけどね」

「それじゃ、なのはちゃん、わたしの頃には卒業してたのかぁ〜…。残念だなぁ…」

「どうしましょう。あの子、昔から変に拗ねるところが」

「はぁ…、あのガキ。面倒かけやがるぜ。あいつの謹慎はあと4日くらいで解けるから、ブロッサムに慰めてもらう。エースはハートと打ち合わせがあるぞ。ドリームはガキ共と飛行訓練だぞ。今回はのび太の補佐をしてもらう」

「え、のび太くん、飛行機の操縦が?」

「ガキの頃、ドラえもんが飛行機系の道具はよく出してくれたし、はーちゃんをアメリカに行かせた時に、ついでに僕も操縦免許は取っておいたんだ。ドラえもんの道具の飛行機だとウルトラライトプレーン扱いで免許要らないの多いんだけど本格的なのに乗ること迫られるの解っていたから学生のうちにね」

のび太はドラえもんの存在で、飛行機の操縦適性が培われ、レシプロ/ジェットの双方に対応できる。のぞみは肉体の素体になった錦の飛行技能が受け継がれたため、『癖が強い』とされた二式単座戦闘機系統の機体を乗りこなせるため、飛行技能訓練に関しては教官側である。そのため、現役時代を知るルージュ/りんには、ものすごく心配されていたりする。

「りんちゃんに心配されるけど、わたしは錦ちゃんの技能引き継いでるんだから。キ44だって乗りこなせるのにぃ〜!」

「りんさんに旧軍の通し番号が分かると思ってるのですか、ドリーム。普通はありませんわ。私も家の事業でレストアをするまでは知識は0でしたし…」

「あう〜、痛いとこつくなぁ、エースは…」

不満を覗かせるドリーム。ルージュの心配ももっともだが、錦のテストパイロットとしての技能はそのまま引き継がれたため、キ44(二式単座戦闘機)を乗りこなせる。旧軍にまつわる知識がなければそれは意味不明であるため、ドリームはしょげる。しかし、旧陸軍系の機種はキ番号で管理されていた事はある程度知っていれば分かる。キ44は癖が強いため、黒江や智子などの一部のトップエースが好んでいたのは事実なのだが。

「まぁ、細かい所はともかく、まずは飛ばす基本をミッチリやるのが先だね。でも、この頃には84がもう初飛行済みじゃ?」

「それがな、ウチの世界特有の事情があって…」


この頃にはキ84が実用化されていたが、扶桑皇国では、ウィッチ支援機としての運用が想定されていたため、その代替予定でキ44-Vが純然たる戦闘機として使われる予定であり、そのための生産ラインも組まれていた。だが、リベリオンの分裂でライセンス生産が予定されていた『R-2800』エンジンの入手が有耶無耶になった上、自由リベリオンのエンジン供給能力の問題、糸川博士が『国産の2000馬力エンジンの装着は推奨しない』とした事で量産そのものが頓挫。日本が液冷エンジンの稼働率を懸念し、空冷エンジン機を推したため、当初は軍の採用予定になかったはずの社内研究で提案されていた純然たる戦闘機としての性能強化型の『キ84-N』を『キ84二型』として採用する事になった(史実通りの性能を日本側が嫌がったため、レシプロ単発エンジンで最高馬力の陣風のエンジンを積んだ。キ61の再生産が日本の圧力で頓挫したため、その代替で採用された)経緯がある。また、一時的に日本が既存レシプロ機の保守部品の生産を打ち切ったため、争うようにパーツ確保を各部隊が行う騒動になり、肝心の欧州へ保守部品を供給できないという事態に陥り、エンジンの現地換装も相次いだ。防衛装備庁は『設計想定外のトラブルが出る』とし、それを禁じようとしたが、黒江が防衛大臣に直訴して封じ込んだ。その詫びとして、64Fには長島飛行機が入念に組み立てしたキ44二型が送られている。飛行訓練に使われているのはそれだ。(用途は中等練習機)。


――なお、自衛隊は自前のジェット練習機のT-4の扶桑配備を目論んでいたが、日本側で需要が増していた事、2003年にはラインが閉じられていた事で頓挫。アメリカがT-33の譲渡を用意するという情報があった事から、日本の国防族は『国産のT-1を生産させる』事を決議。扶桑の自主開発ジェット機が駆逐された理由は『T-1が胴体内蔵式なので、前線部隊に特性が違うメッサーシュミットの劣化コピーがあるのは問題がある』という理由である。橘花と火龍は既にまとまった数が防空部隊に配備されていたが、胴体内蔵式のエンジン艤装の普及を図る日本によって使用の差止めを食らったため、それに反発した層によって複数が持ち出され、空戦に供されるが、迎撃してきたF-86とドラケンに為す術もなく撃墜されていったという――

「先輩、自衛隊の練習機は回されないんですか?」

「自分達が使う分しかないし、T-4はラインが閉じられて20年近い。T-1が生産されるまで待てとさ」

「どーするんですか」

「既存機の内、ガキ共でも容易に覚えられる隼とゼロ戦を練習機としても併用するしかない。ジェット機はちゃんとした訓練が必要だし、自衛隊の練習機はまず回されないと思え」

「ジェット機はレシプロと飛行特性が違うからね」

当時、自衛隊の練習機はT-7、T-4のいずれも生産ラインが閉じられていて、その新規生産は不可能だった上、扶桑での供与名目での運用も差し止めようとする動きがあったため、扶桑空軍は既存機の練習機転用を急いでいた。日本が扶桑が用意中の高等練習機の二式練習戦闘機、零式練習用戦闘機の生産を差し止めてしまったため、既存の零戦の一部が練習機に転用される始末だった。64Fであってもそれは同じで、編入した通常部隊が保有していた零式22型を練習機として転用し、飛行訓練に供する有様だった。

「それでは、私はハートに会ってきますわ」

「おう。ハートを驚かせてこい」

エースを見送ると、黒江達はこの時間に始まる『飛行訓練』の準備に入る。格納庫に行き、整備が終わったキ44を確認する。

「44の実機の操縦は久しぶりですよ」

「安心しろ、俺もだ。ここんとこは隼だったしな。ま、すぐに思い出すさ」

黒江は訓練前、そう言ってドリームの不安を和らげる。速度重視の設計の44だが、ジェット機の登場で一撃離脱戦法のみならず、ドッグファイトにも使われており、糸川博士の思惑とは裏腹に、他国より小回りの効く重戦闘機として名を馳せている。当時、怪異は基本的にGウィッチかMATが対処し、軍の航空部隊は本来の目的で運用されていた。日本連邦は大量に太平洋戦争を経験してきた義勇兵を動員しており、制空権の確保に寄与させていた。その兼ね合いで生産が切り替えられる直前だった零戦二二型は史実の甲型仕様で再生産され、義勇兵に好まれている。『最強の零戦』との呼び声高い同仕様は太平洋戦争を生き抜いた海軍系義勇兵に特に好まれ、ベアキャットを抑え込む快挙を成し遂げている。これはベアキャットの高性能を新米パイロットが持て余すのに対し、義勇兵達は百戦錬磨の強者で、スペック差を技量で抑え込んだからだ。

「義勇兵は五二より二二を好む。なんでか分かるか?」

「身軽だから、ですか?」

「22が本来の零戦の完成だからだ。高速でのロール性能も改善されてるしな」

二二型は三二型の改良型である。海軍系の義勇兵の年長組は五二型よりも二二型の身軽さを好み、それで最強と謳われしベアキャットを返り討ちにしている。これは二一型の身軽さを維持している二二型だからこそ可能な芸当で、六四型を除けば『最良の零戦』であった。扶桑期待の三二型、五二型は航続距離と運動性(実際は改良されているが)問題から、義勇兵にはほとんど要望されず、要望は紫電改か二二型である。なお、烈風は史実の志賀少佐のコメントや史実で投入されなかったという未知の機体という事で、太平洋戦争経験者よりも民間航空や陸自のチョッパー出身者が乗っている。紫電改と烈風はこの時に大量の需要がある事から大生産され、モデルチェンジの陣風とターボプロップ烈風の完成後も生産ラインは存続し、すべての型式を合わせた生産数は史実零式並に達したという。

「義勇兵は元々乗ってた奴を希望するから、烈風は人気がないそうだ。志賀の同位体が酷評していたのが原因だ。だが、小福田は最終試作機を知ってるから絶賛しとる。坂本もその一件で志賀を説教したそうだ」

「烈風、どうなんです、実際?」

「言ったろ?戦闘爆撃機向けだよ。ロール性能が紫電より落ちるし、基礎設計は宮藤の親父さんの存命中だそうだから古いんだよ。零戦の45年モデルというのが真相だな」

宮藤博士が残したアイデアを片腕の曽根技師が苦労してまとめ上げた機体が烈風だが、1930年代末から40年代初頭の時点のアイデアを具体化したため、その点では『時代遅れの新型』と揶揄される烈風。ただし、宮藤博士は一撃離脱に対応できるよう、烈風にピッチ(ループ)とヨーをハイレートでこなせる能力を与えていたため、烈風は本来、一撃離脱向けを意図していたとも取れる、主翼が巨大になった弊害で、技術進歩でロール速度は零戦より改善はされたが。紫電系の鋭さはない。これはズームアタック(低翼面荷重を活かした急上昇)や三次元機動による格闘戦を意図した宮藤博士のアイデアは好まれず、軍側のアイデアで低翼面荷重が当時の部隊の要望もあってゴリ押しされたのが原因で烈風は主翼面積が大きくなり過ぎて、結局はロール性能を捨てる事になり、そこで紫電系の後塵を拝する羽目となった。紫電系は局地戦闘機であった事と基礎設計が1943年と新しいため、陣風へのモデルチェンジも迅速だった。

「悪くはないが、紫電系が良すぎた。局地戦闘機でありながら、艦上機に転用できるほど機動性は良好、高火力、重装甲。義勇兵が乗りたがるのが分かるよ」

「先輩、紫電改乗った事あるんですか?」

「M動乱の時に借りて乗ったことがある。ただ、機銃の弾数が足りない事があったな」

「それで一航戦の連中が黙ったんですね」

「俺は統括官として、海自の護衛艦での勤務経験もあるからな。一航戦ったって、実戦経験もない生え抜きのヒヨコ連中に批判される筋合いねぇよ。幹部学校もちゃんと通ったんだぞ。乗艦する事が決まった後」

黒江は統括官になった後はその職権を利用し、海自の視察の際には護衛艦に乗艦している。また、江田島の幹部学校にも通うなど、入念な準備を行った。結果、空自出身ながら、海上自衛官としての教育も受けたことになる。

「それで海軍の連中が黙ったんですか」

「海自の正規の教育を受けたからな。江田島の連中には『あなたのような物好きは初めてですよ』と嫌味いわれたけどな」

「統括官って、そんな無茶できるんですか」

「元は俺を統幕入りさせないために革新政権が用意してた名誉職だったが、今の政権が俺の能力を自衛隊の改革と統合運用管理に使うのを意図して、かなりの職権を持たせたんだよ。おかげで陸の空挺レンジャーの訓練も受けてるから、三自衛隊に睨みが効く」




――この時に海軍系の航空参謀の多くが日本側の意向で排除され(史実で空自に属した者以外)、陸軍系の航空参謀が六割を占め、海軍航空隊の運用を源田実などの限られた者が独占的に協議する事に反発する扶桑海軍生え抜きウィッチやパイロットには多く、それがクーデターの大義名分に使われた。当時の扶桑皇国軍は『整備教育の抜本的見直し、パイロットとウィッチの再教育』に乗り出していた頃であったため、クーデターは体の良い『保守的な中堅層』の排除の大義名分に逆利用される。海軍航空隊は太平洋戦争中盤以降に再編が進むまで形骸化した状態が続き、以後の時代、『45年に14〜16歳だった世代』は『皇室に物申す!』という思いを『国家への反逆』と否定され、生存中に肩身の狭い思いをすることになった挫折感を企業戦士として生きる気力に転化させていったとされる。(ただし、上層部が後にGウィッチとなった者達を冷遇した事が根本の原因だと指摘する声も大きく、『時代の変化に翻弄された世代』と同情する声も大きいのが二代レイブンズの時代には存在した)実際、年老いたその世代の元ウィッチが隠居しているGウィッチに若き日の愚行を懺悔しに行く光景が2000年代後半には見られるようになった。彼女たちは若き日に既に当時の自分達より年上なはずの者たちが、往時の姿を保ったままで生きている事実に愕然としたという。黒江達はいずれ、自分達が本当の意味で『魔女』と呼ばれる時代がやってくる事を承知の上で戦っている。何故か。自分達が戦わなければ、未来は『変わる』からだ。ドラえもんも言っているが、未来は本来、流動的なものである。ZEROは因果律を操作する事で、フェリーチェから本来辿るべき未来を奪った。だが、フェリーチェはドラえもんとのび太の導きで、新たな可能性を切り拓いた。ディケイド/門矢士曰く『未来なんてのはいくらでも変わるが、自分の意志で切り拓く事もできる』との事。Gウィッチはむしろ、『科学の発達速度の進展で信仰を失うはずのウィッチという存在の守護者、ウィッチを通過点と示した更なる高みを体現した者』と言える存在なのだ。軍事科学の発達はウィッチの固有能力の優劣の差と関係無しに大破壊をもたらすようになり、軍事的意味での存在意義が薄れていく。怪異も進化を重ねる内に少数精鋭化が進み、この時代のような大規模行動は次第に鳴りを潜めていくため、(起きないわけではない)2000年代に入った頃、Gウィッチの指導を受けた最後の世代が軍部の中枢に入り始めた頃、『社会にウィッチという存在を根付かせるために彼女たちは生まれたのでは』とする推測が立てられるに至る。彼女たちの後の代で、『Gウィッチの実力に伍する』とされたウィッチは大半が彼女たちの直接・間接的な血縁者であること、2006年頃には筆頭格の三人の後継ぎである『二代目レイブンズ』が出現している事実がその証明とされた。――

「綾香おばさま。母さんに頼まれて、これから広報に顔出してきます」

「剴子か。いってこい」

「はーい」

宮藤芳佳に酷似しているが、芳佳よりは背が高いこの少女。宮藤芳佳が二代目レイブンズの時代から呼び出した彼女の次女『宮藤剴子』である。芳佳は昇進しても公の式典以外では士官服を好んでは着用しなかった(普段は海軍時代のセーラー服の上から羽織るのを通した)が、娘の彼女はベトナム戦争時代がキャリアの中でもっとも輝かしい時期だった事もあり、広報任務に慣れている。2000年代には彼女も引退し、姪っ子に衣鉢を継がせているため、両親の命で呼び出され、母親の影武者を勤めていた。ベトナム戦争の頃に10代なので、2000年代では実年齢は50代になる。

「先輩、あの子はみゆきちゃんの?」

「下のガキだ。シャーリーやクロと同じで、影武者として呼んだんだよ。軍人としての衣鉢を継いだのが次女のあいつだ。お前にはまだ紹介してなかったな。宮藤はどの姿でも有名人だから、あいつに影武者をさせてる。背丈が高い以外はみっちゃんでも見分けつかん」

芳佳の親戚かつ、親友の『みっちゃん』でも見分けつかないほど似ているという『宮藤剴子』。次女なので一族の通字は与えられておらず、母親の治癒魔法の才覚も受け継がれていない。その反面、母親の戦士としての才能はより強化されて受け継がれており、飛行センスは母親に輪をかけた腕前と評された。ただし、彼女は戦士としての才能に上手い具合に特化されていたため、平時では出世の機会に恵まれず、引退時の階級は母親と違い、佐官に留まったという。

「ただし、芳佳に治癒魔法の才能があったのに対し、あいつにはなくてな。姉妹で上手い具合に才能が分かれて受け継がれたって感じだ。姉妹で生まれたのは、あのガキの代が始めてらしくてな、あの一族」

「へぇ〜」

「ただし、呼んだのが2000年代だから、あいつも実年齢は60近いぜ。ナムの世代だからな。俺らの後の代の血縁者は20代前半くらいで肉体の加齢が基本的に止まる。どうも、俺らの影響らしい。」

Gウィッチの才能が受け継がれた血縁者達は肉体的には『半神』なのか、20代前半ほどで加齢しなくなる。黒江もこの40年代から長年に渡り調査をしているが、『才能が受け継がれた自分達の血縁者は加齢が20代前半までに止まる』ということだけは、はっきりしている。これは性別不問である。

「先輩、それ反則じゃ?」

「仕方ねぇだろ、俺が戦神の従神になった後、その影響が子孫に出ないなんてのはありえないからな。半神として産まれるのが俺の子孫の宿命になっても不思議じゃない。宮藤なんて、今の外見のままで孫まで生まれてるかんな」

「え!?」

「2000年代にはあのガキにも子供がいるからな。ウチのガキに言わせると、2007年度に入ったらしいが。黒田も似たようなもんだが、あいつ、娘が今のあいつくらいになると家督譲ってよ。悠々自適の生活だ。ただし、定年まで軍隊にはいたけど」

外見上でも加齢が無くなったGウィッチは定年まで軍に在籍した後は故郷を出て、南洋最高峰に設けた居住地に転居。名誉的に元帥の階級を得ての恩給と副業などの収入で生活していることが黒江自身の口から語られる。

「その頃にはお前も南洋に引っ越しだ。外見が老化しないとなると、色々と揉める要素が出てくるからな。故郷にいられるのは、あと60年くらいだな」

「60年、かぁ…」

「仕方ねぇさ。2000年代には、俺達は戸籍上は80後半から90に達するんだ。ヒトの平均寿命を考えりゃ、2000年代にゃ隠居せにゃならん。60年は長いほうだ。日本人は欧州人よりは基本的に長命だからな」

黒江達は2000年代に入った後に隠居する腹づもりであった。彼女たちの戸籍年齢がヒトの平均寿命を超えるのが、その時代だからである。

「のび太のとこと南洋を行き交うようになるかもな。21世紀以降の故郷は子孫に任せよう」

のぞみ(ドリーム)はこの時は想像だもしなかったが、芳佳が子を儲けた時代に自身も『コージ』との間に実子を儲ける事になる。しかもその娘は前世における次女の転生体であり、プリキュアの資格を有したままであることが判明する。それが判明したのは、数十年後のベトナム戦争の時代であったが、それは未来に属する話である。

「その時、どうなってるのかな、私…」

「ポジティブに考えろ。案外、コージとの間に子供できてるかもしれんぞ」

「え、ああ…って!何考えさせるんですか!」

「ま、前世の子供がそのまま転生して生まれてくると思ったほうがいい。前世の子供がプリキュア化していたのなら、その縁は断ち切られていないはずだ」

「そんな事、あるんですか」

「あると考えたほうがいい。二番目のガキが後を継いだのなら、そのガキが今回は長女として転生するだろうさ。俺も生まれないかと思った大姪がそのまま生まれたからな」

黒江は気楽に構えるが、ドリームは自身が名前は明かしていない前世における子供達が今回も自分の実子として産まれる可能性がある事を指摘され、戸惑いを見せる。なんとも言えないが、可能性としては充分にありえる。その様子を楽しみつつ、黒江が呼集の放送をしようとした矢先、非常警報が鳴り響いた。

「警報!?」

『総員、戦闘配置!総員、戦闘配置!敵の偵察部隊が接近中!陸戦要員は迎撃せよ!繰り返す……』

「今日の訓練は中止だ!出るぞ!」

その敵部隊はティターンズで肉体強化がされた者を集めたもので、服装は『出る物語を間違ってます』といわんばかりにマッドマッ○スか世紀末救世主伝説宛らのもので、いずれもあからさまに筋肉隆々の外見をし、オートバイやバギーに乗っていた。

「な、何、あれ…」

警報を聞いて駆けつけたルージュは双眼鏡を渡され、敵を確認すると、呆れた声を出す。

「えーと…、世紀末救世主伝説じゃないよね、あれ」

「マッドマッ○スかもしれんが、あからさまに狙ってやがる。へっ、舐められたもんだ」

自分も双眼鏡を見ながら、敵の陣容を確認する黒江。

「ご丁寧にバイカーじみたファッション決めてやがるな。マッドマッ○スか世紀末救世主伝説かぶれが隊長だな」

「しかも髪型がご丁寧にモヒカンで、肩パッドしてますよ、先輩」

「イージーライダーとかみたいなバイカースタイル決めやがって。あいつら出る物語間違ってんぞ…」

「どうするんです。連中、気持ちよさそうにバイクとかバギーに跨ってますよ」

「V8サウンド鳴らしやがって。フレデリカがみたら泡吹くぞ」

「この時代にありました、あんなバイク」

「あるわきゃねーだろ。ティターンズめ。イージーライダーとかでも見たのか?」

「先輩、溜まってません?」

「ああいうバイクほしーんだよ!」

「そ、そうなんですか…」

「ああいうのはまず、陣形を崩すのがてっとり早い。大昔のチャリオッツや騎馬軍団への対応でポピュラーな対応策だ。のび太とケイに火力投射してもらった後に突っ込むぞ」

のび太と圭子がその言葉通りに高所から火力投射を行う。重火器による攻撃であり、ド派手である。相手のバイクやバギーを破壊する目的で撃っていることが分かる。

「俺が機先を制する。戦場でヒャッハーしてるモヒカン野郎どもに思い知らせてやるぜ」

「先輩、ここは私に…」

「よくみろ。相手は自衛用の切り詰めのショットガンを持ってる。至近距離で食らってみろ。いくら変身してても骨逝くぞ」

ティターンズはそこは抜かりなく、多くの者たちが銃身を切り詰めたショットガンを持っている。いくらプリキュアといえど、ショットガンを至近距離で喰らえば、骨が折れる。

「ショットガンは近距離で威力を見せる。特にあの類のやつはな。普通のヒトなら一発で穴ぼこの肉塊になる。ああいうのは撃たせる前に無力化させたほうがいい」

ドリームを諌め、ソードオフショットガンに注意を促す。ソードオフショットガンは持続的には撃てないが、自衛に撃つ程度であれば問題はない。スピードは黒江自身がもっとも速いため、ソニックブームでぶっ飛ばす気満々である。

「先輩、ソニックブームって、やろうと思えば…」

「いくらでも手はあるぞ。お前らも初代の技とか撃つとかさ」

「なぎささんとほのかさんになんて言えばいいんですか、それ」

「お前だって、螺旋丸やりそうな声しやがってからに、ルージュ」

「だーから!それやめてくださいって!」

ルージュは声が某人気忍者漫画の主人公によく似ている事を予てからネタにされている。もっとも、フェリーチェ、ルージュ、ドリーム、ブロッサムの四名はその漫画で主人公が儲けた家族全員に声が似ているのだが。

「先輩。ルージュはその事を弟さんにさんざんネタにされてたんですよ」

「アクアが声色とかから『ババア』ってネタにされてるよりはマシだろ」

「かれんさんが聞いたら、サファイアアローで蜂の巣にされますよ、先輩…」

水無月かれん/キュアアクアは大人びた態度や声色などもあり、のび太の世界では『ババア』とネタにされて親しまれている(?)。黒江はそれに触れ、ドリームはツッコミを入れた。

「ま、あの子は中1の頃からあんなだったけどね」

「ハニーか」

「あ!ハニーさん」

「ちょうど来てたから参加させてもらうわよ」

キューティーハニー/如月ハニーはキュアミント/秋元こまちの実姉『秋元まどか』の転生体であるため、妹の親友のかれんのことは熟知していた。中1の時点で既に大人びていたとの事で、かれんはプリキュアになった事で素が出せるようになったというのは、のぞみとりんも認めるところ。

「こまちさん、ぜったい驚きますって」

「それを楽しむのも一興よ。昔の姿はハニーフラッシュで取れるから、こまちが来たら連絡してね」

ハニーは秋元まどかの姿からハニーフラッシュを行い、キューティーハニーになるところをこまちに見せたいらしい。要は空中元素固定の応用だが、生前はプリキュアの家族であるが、戦いと無関係の人物だった彼女がプリキュアの大先輩と言えるスーパーヒロインに転生したというのは驚きの事実だ。

「でも、いいんですか?如月ハニーとしての生活が」

「ダイナミックでドワォな生活してると、退屈はしないけどね、どうにも落ち着けなくて」

ハニーは意外な悩みを見せる。戦場は妙な空気に包まれていくが、それでも彼女達はやるべきことをするだけだということだろう。







――その頃、戦車道世界の事をハートから報告されたミーナは自分とは直接の関係はないにしろ、黒森峰女学園は西住流関係者が全員抜け、2年連続で優勝を逃した事で戦車道チームは『支柱』を失ってズタボロな事、自分の代では『立て直しは困難を極めるか、完全には達成できない』ことが告げられた――

「そうか。ご苦労」

「いいんですか、隊長」

「私が干渉できる事ではないよ。それに先々代の隊長と副隊長には迷惑をかけたからな。鳴り物入りで入った私の代で優勝を逃したのは宿命のようなものさ」

エリカ(マナ)の先々代の隊長と副隊長の懸念通り、西住流への依存をチーム自体が強めた結果、思考の柔軟性を失って二年連続で準優勝。PTAではその責任逃れとつるし上げが行われ、黒森峰はズタボロであった。ハートは前世で生徒会長だった頃の手腕で立て直しを図ったが、自分の『任期』では無理だとはっきり告げる。

「構わない。そこからはお前の戦車道だ。その後は後の代に任せよう。今の最優先事項はこの作戦だ」

「外の戦闘はドリーム達に?」

「ドリーム達を鍛えたいからな。それに、お前にいきなり仕事をさせるわけにもいかん。私もシャイニールミナスではなかったしな」

「隊長、もしかして期待してました?」

「ちょっとな…。ただ、フェリーチェがゲッターの力を持ったのは予想以上だった。ストナーサンシャインを撃てるという事は、シャインスパークを撃てる事でもある。野比氏が日本向けに発表予定の『ランキング』でも上位に食い込むだろうな」

「チートじゃないですか」

「それ以上のチートな人達がいる以上、まだ可愛いほうだ。例えば、なのははアニメほど火力偏重ではないが、シェルブリットに目覚めたらしいという報告を受けた。おそらく、前世、あるいはそれ以前の時の『身内』から要素を得たんだろう。幼少の頃にゲッター線を高濃度で浴びたというが、その効果が今になって出たと思われる。本人はプリキュアになりたがってたが、今の性格ではな。どうもそっちのほうだったらしい」

「は、はは…」

「笑い事ではないぞ。今の私たちは『生まれ変わった事で封印されていた記憶や感情が目覚めた』状態だ。日本からは気味悪がれるだろうが、それが唯一無二の真実だ。転生前の人格が転生後の人格と統合される事、前世で何かを成しているか、魂の強さが上ならば、そちらが優先される事もだ。ドリームや私がその最たる例だろう」

ミーナは逸見エリカの立場を得ているキュアハートに本音を漏らす。人格が統合される時には魂の強いほうが優先される。ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの場合は西住まほ、逸見エリカの場合は相田マナと、魂の強さなどで上であるほうが主体になって人格が再構築された。その結果、ミーナとエリカのように完全に振る舞いが変わる例もあれば、のぞみと錦のようにお互いの『せめぎあい』が起きている結果、主体はのぞみであっても、錦の性格がデフォルメされた形で表れている例もある。そのため、ミーナは公には『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』として生きつつ、裏では西住まほとして振る舞うという状態となっている。それはキュアハートも同様である。

「隊長、ルミナスになるの期待してたんですね…」

「有り得ん話ではないだろ?私も人の子だ、少しは期待するさ」

まほも人の子であるので、変身願望はあったようだ。なのはよりは割り切っているが、残念そうな表情ではある。

「しかし、隊長。なんなんですか、戦線の陸戦兵器の少なさは」

「ドイツが手前勝手な理由で撤兵したのに加えて、日本が旧型兵器を博物館の肥やしにしたからな…。イギリスからセンチュリオンとコンカラーを現地部隊が購入して使う始末だ。イベリア半島の山がちな地形に機甲兵器は向かんというが、実際は使われまくっているし、MSも投入されているのだが、数がな。MSは機動歩兵であって、装甲戦闘車両と戦闘機を全て代替できるものではないよ」

装甲戦闘車両の重要性。それは地球連邦軍が数百年分のノウハウを持つため、最もよく理解している。そのため、地球連邦軍は装甲戦闘車両を運用できる局面では、装甲戦闘車両を用いる。ジオンはまだそれを理解していたが、それ以外の組織は理解していないことが多く、MSの万能性に溺れて敗れた。ジオンはそれを考えると、まだ通常兵器の重要性を理解していたと言える。ちなみに、日本は『対戦車能力が絶望的にない旧軍戦車を自衛隊の使用してきた戦車に置き換え、維持費を理由に数を純減させる』という思惑で動いていたが、ウィッチ世界の情勢がそれを許さなかった。それに困惑した日本側は16式機動戦闘車を送ったが、運用の齟齬で有効性に疑問符がついてしまったというオチがついた。自衛隊は虎の子たる10式を投入する事を躊躇したが、地球連邦軍の61式がいる戦場であること、当然ながら、ティターンズには自衛隊の兵器の多くはスペックがバレていて、兵器の性能の秘匿効果はまったくない。それがそれとなく伝えられたため、10式戦車は投入される運びになった。ロシアを警戒する必要が無くなったのと、16式の調達数を守るための措置である。


「あたし達は陸軍の支援は受けられるんですか?」

「大規模には不可能だろう。Gフォースから受けてはいるが、それより大規模となると、他のヒーローの援軍をアテにしたほうがマシだな。すでにハワイからキカイダー兄弟がこちらへ向かい、日本からイナズマンFが到着しているという。日本はヒーローの巣窟らしい。アメコミヒーロー並だな、これは」

キカイダー兄弟、イナズマンFなどのあまり後世に活躍があまり伝えられていないヒーロー達も参陣した事が伝えられたわけだが、プリキュア達より遥か以前の時代の平和は彼らが守っていたわけで、日本のヒーローの歴史の深さが分かる。

「キカイダー兄弟?のび太くんの世界にはいるんですか?」

「いた。1970年代に活動が確認されている。その後はハワイで隠棲生活だったそうだが、ゴルゴムの活動の本格化で動き出したという話がある。」

「え〜!?」

「仮面ライダー、とりわけ昭和ライダーの生まれた70年代はヒーローの百花繚乱の時代だったからな」

その言葉は間違っていない。何故ならば…。


――戦場――

「馬鹿な…キサマは……ハカイダーだと!?」」

黒江は驚愕した。ティターンズのモヒカンヘアーの者たちの中央にその存在はいた。頭部に人間の脳のようなものが入っていると分かる黒の人造人間。その名も…。

「キサマはたしか、キカイダー兄弟とビジンダーに破壊されたはず!」

「フフフ…。このハカイダーに死という文字はないのだ!」

ハカイダー。それは人造人間キカイダーとキカイダー01の好敵手として名を馳せた人造人間の名である。ただし、ハカイダーは複数が生産されたという記録があり、(01が戦ったハカイダー四人衆は、一説には三体が量産タイプとされる)キカイダーが戦った『ダーク』が壊滅する直前には生産ラインが動いていたとも言われている。ハカイダー四人衆のボディはその試作品と生産品という説もある。

「馬鹿な、キサマはかつての戦いで木っ端微塵のハズだ!」

「シャドウはこの俺を脳髄込みで予備のボディを用意していた。キカイダー兄弟がいつの日か、また現れる日に備えてな…。だが、その予備を管理するコンピュータが不具合を起こし、23世紀まで目覚められなかったという事だ…」

「なにィ!」

「だが、キカイダー兄弟が倒したハカイダーと俺は『別物』と思ってもらおう」

キカイダー兄弟とビジンダーに敗れたギルハカイダーと違い、ハカイダーの新たな個体はオリジナルのハカイダーこと、サブローに近い人格を持ったらしく、どことなくオリジナルのハカイダーを思わせる、ニヒルな雰囲気を見せる。

「各員、小娘とプリキュア共を血祭りに挙げろ!」

号令を発しつつ、黒江と小気味良いくらいの問答を展開するハカイダー。ギルハカイダーの小物ぶりとも、サブローの孤高さとも違う独自の自我を持つ個体であるのが窺える。また、号令は『ティターンズに協力している』と分かるものでもある。

「先輩、こいつは!」

「迂闊に近づくな!こいつはハカイダー!人造人間キカイダーとキカイダー01の宿敵だった人造人間だ!」

「そうだ。たとえ幾星霜の時が流れようとも、キカイダー兄弟を倒すのが俺の使命だ…」

ドリームはプリキュアで初めて、キカイダー兄弟の宿敵『ハカイダー』と対峙する名誉に預かった。幸いにも、ギルハカイダーの小物然とした傲慢な姿でなく、かつての『サブロー』に近い人格を有するアンチヒーロー的な人格を持つ状態で。

「な、何あれ!?人の脳みそが載っかって!?」」

「ハカイダーは人の脳みそをボディの機能統制に使っているのよ…。だから実質、脳みそが人造人間としての機能中枢になる。これはハカイダーの特徴であり、弱点でもあるわ」

ルージュはハカイダーのその特異な姿に驚愕を顕にした。ハニーの解説はそのことの証明である。01と戦っていたギルハカイダーは載っかっていた脳みそが脳みそだったせいか、傲慢で小物な性格だったが、その記憶のバックアップはされたらしいが、別人の脳みそを載っけているせいか、目の前のハカイダーはオリジナルハカイダーの人間体『サブロー』に近いアンチヒーローな性格を見せる。ギルハカイダーと違い、口調からして大物っぽさを感じさせる事からも、それが分かる。細身の高速型バイクに跨り、銃を構える姿は往年のオリジナルを彷彿とさせる。

「そうだ。オリジナルのハカイダーと違い、俺やギルハカイダーは頭に入っている脳みその血液交換は必要ない。そもそもオリジナルのそれはわざと作った弱点だからな」

ハカイダーはそう宣言し、黒江達を抑え込むために戦闘に入る。プリキュア、キューティーハニー、聖闘士を向こうに回しての立ち回りである。武装と技はギルハカイダーと同等のものだが、キカイダー兄弟にある技が追加されていた。それは。

「馬鹿な、その技は!」

「フフフ、伊達にキカイダー兄弟のデータで改良されたわけではない!ハカイダードライバー!!」

ゼロワンドライバーに酷似した技を食らい、吹き飛ぶ黒江。体を高速回転させ、複数の敵を倒すための技だが、黒江はその回転の直撃を吹き飛ばされる事で逸らす。

「地獄五段返し!」

ハカイダーは、次いで向かってきたキュアルージュに十八番の技の一つ『地獄五段返し』を食らわす。空中に吹き飛ばし、連続で四回投げ技を食らわした後、本命を食らわす。投げられる事で前進方向と逆の方向にGが加わるため、ルージュは単に地面に叩きつけられる以上の衝撃に見舞われてしまう。

「が…っ!?」

「ルージュ!!くぅ、プリキュア・ドリームアタァック!!」

ドリームはパワーアップをした恩恵か、以前の技を最終時の姿でも撃てるようになっていた。それを使うが、放った光の蝶はハカイダーの銃で容易く迎撃される。

「嘘!?」

「フ…。今のが技だと?片腹痛いわ」

「ならっ!プリキュア・シューティングスター!!」

ドリームは血気に逸り、シューティングスターを続けざまに発動。光を纏って突撃する。ドリームが最終的に得た伝家の宝刀というべき技だが……。

「ほう。アイデアとしてはいい。だが!」

ハカイダーの両腕が電磁の光を纏う。その技こそ…。


「不味い、デンジエンドか!?やめろ、ドリーム!」

態勢を立て直した黒江が制止するが、遅かった。ハカイダーの発動させたデンジエンドの電磁エネルギーはドリームのシューティングスターで纏うエネルギーを上回り、フィールドごと切り裂くような形で、ハカイダーはデンジエンド(ハカイダーエンドというべきか?)を食らわせた。その瞬間、ドリームは『信じられないと言った表情で、顔面蒼白になっていた。シューティングスターは直撃する前に無効化され、左の肩口から斜めに切り裂かれ、コスチュームが破け、鮮やかな鮮血が散る。ルージュはその光景に思わず悲鳴をあげる。悲痛な表情で。

「嘘、……!?」

地面に叩きつけられ、起き上がろうとするが、肩から斬られた激痛に顔を顰めつつも、表情は驚愕で満たされていたドリーム。

「シューティングスターを当たる前に無効化…!?」

「小娘、今の技はアイデアとしては良かったが、バカ正直に突っ込んだ事そのものが敗因だ」

ハカイダーショットをドリームに突きつけつつ、淡々と述べるハカイダー。ギルハカイダーなら馬鹿笑いしているだろう優位な局面だが、彼はあくまで冷静沈着であった。ドリームは激痛で身動きが取れない状態に追い込まれたショックからか、震えているようにも見えた。黒江がすぐさま目眩ましの流星拳を撃ち、土埃を立ててドリームを回収するが、ドリームは二連続で伝家の宝刀を阻止されたショックで放心状態であった。

「シューティングスターを防がれたら……、もう……、クリスタルシュートしか……」

ドリームは単独で通常時に撃てる必殺技のすべてを完封されたショックで上の空といった様相であった。黒江も味わった事がある『完全敗北』という奴だ。伝家の宝刀を防がれる衝撃は相当なものだが、ドリームの場合、初期の必殺技、最終時の必殺技の両方を防がれた事は初めてだったため、余計にショックであった。黒江はその時、ショックで放心状態に陥ったドリームの姿に、かつての自分を思い出したのだった。

「こうなったら、私がハカイダーの相手を引き受けるわ。このキューティーハニーがね」

五段落としのダメージが効いているルージュに代わり、ハカイダーの相手を引き受けるキューティーハニー。なんとも凄まじく色々な垣根を超えているが、その間、わずか5分未満。のび太と圭子の受け持つ重火器のリロード中の出来事であった。ハニーはフルーレを片手に、戦闘態勢に入る。ハカイダーもハカイダーショットをハニーに向ける。

「ハニーさん!」

「伊達にパンサークローと戦ってるわけじゃないわ、ルージュ。こういう時は『おねえさん』を頼りなさいな」

ルージュはキューティーハニー/如月ハニーが秋元こまち/キュアミントの姉であった秋元まどかの生まれ変わりである事を再認識し、成り行きを見守る。援護のしどころを銃身冷却とリロードの間に失ったのび太達も同様である。キューティーハニーは愛の戦士。そして、日本が誇る元祖変身ヒロイン。その証明は間もなくであった。



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