外伝その385『プリキュアチームの完成』


――64Fがイベリア半島を活動拠点にして、二週間目が終わろうとしていた。戦況は膠着状態に入っており、互いに決め手を欠く状況が継続していた。黒江はその状況を利用し、プリキュアを鍛えていた。のび太がタイムマシンの裏技を使って、キュアコスモを連れてきたため、プリキュア勢の最終的な直接の従軍組は一個航空中隊を充足して余りあるものであった。登場年代順で言うなら、プリキュア5が二名、フレッシュが一名、ハートキャッチが一名、スイートが二名、スマイルが一名、ドキドキが二名(キュアダイヤモンドも合流した)、ハピネスチャージが一名、GO!プリンセスが二名、魔法つかいが一名、スター☆トゥインクルが一名。後方支援にキラキラプリキュアアラモードが二名。合計で15人を超えた。初代、スプラッシュスター、HUGっとを除き、各チームから一名はいる状態となった。

「六花〜!まさか、のび太君の世界にいたなんて〜!」

「こら、マナ。落ち着きなさいよ」

「だって〜、生まれ変わっても会えるなんてさ、キュンキュンだよ〜!」

はしゃぐキュアハート。幼馴染でもあったキュアダイヤモンドがやってきたからだが、彼女は学園都市の婚后光子を素体に転生していたため、彼女の能力を引き継いでいる。なお、婚后光子としての活動は学園都市の解体と共に控えたのか、現在は私生活でも生前の『菱川六花』の姿を取っている。

「君の素体は婚后光子。かつての学園都市のレベル4の能力者でいいかい?」

「ええ。でも、それは昔のことですよ、のび太さん」

婚后光子としての高飛車な態度は鳴りを潜め、菱川六花としての振る舞いに変貌している彼女。キュアダイヤモンドになっている事もあり、生前とほぼ変わりない。

「でもさ、六花。生まれ変わった先の家はどうしたの?」

「学園都市の航空部門に出資していた名門だし、学園都市が『解体』された後は家の都合で、アメリカに留学してたのよ。日本に帰ろうとしたら、記憶が戻って、それでキュアコスモと接触したのよ」

「この子、万能なのね」

「プラウダ高校の副隊長してるとね。タイムマシンの裏技で連れてこられたけど、仕事はきっちりやるよ★」

感心するルージュ。コスモはノンナとして培ったスキルを駆使し、のび太を途中から補佐し、プリキュアチームの集合を促進させた。そして、自らも参陣の運びとなった。

「さて、これでローテーションを組めるようになったって事だね。僕は会議に出てくるよ」

64Fの行動方針は幹部たちの合議制となっているが、近頃はのび太も参加していた。ドラえもん共々、何気に軍事的才覚がある証拠だった。

「みんな〜!朝のスイーツ作ったから、仕事前に食べていって〜」

「おお〜!さすがはいちかちゃん〜!」

宇佐美いちかがスイーツを運んでくる。変身後のキュアホイップの『ホイップ』が英語圏では鞭の意味を持つため、戦線参加を控えざるを得なかったキュアホイップ/宇佐美いちかは、後方でパティシエ(彼女の本職ではある)として働いている。

「私も力になりたいんだけど、やっぱり無理なのかな?」

「愚痴らないの。後方支援なら、どうにかなりそうだっていうから、トレーニングは欠かさないようにね」

「ありがとう〜、ルージュ!」

キュアホイップはホイップという単語の意味の問題で参加を控えるを得なくなる問題が起こっていたが、それ以外のメンバーは前線参加が叶い、概ね、中尉〜大尉待遇で遇された。陸戦兵器を扱えるキュアハートは戦車兵資格も授与されたため、カールスラント系部隊が持ちこんだ『ケーニヒティーガー』(ティーガーU』を使用している。戦車道での愛車だからである。

「いや、日本人の発音なら勘違いされねぇぞ、お前ら」

「メロディ」

「どういう事、響」

「ネイティヴの発音はホイップよりウィップだし、日本人の発音なら勘違いされねぇよ」

「アンタ、昔と違って、サバサバしてるわね」

「今はアメリカ人だもんー。昔の姿も使うから、北条響の名義で扶桑系リベリオン人の戸籍作ったし」

「やるね、そういう裏ワザを」

「ま、非合法だけどな」

シャーリーは北条響名義の戸籍を作った事を告げる。キュアメロディに変身済みだが、キャラは生前と違い、男言葉多めのサバサバした姉御肌の口調なので、生前の面影は薄い部類に入る。

「でも…、まさか、こまちさんのお姉さんがキューティーハニーに転生してたなんてぇ〜、わたし達も形なしだよぉ〜…」

「あれこそ、まさに驚天動地よねぇ…」

ドリームとルージュは身近な人物(こまち/ミントの実姉のまどか)がキューティーハニーに転生していたのが衝撃なようだ。しかも、自分達と互角の戦力を誇るのが効いたようである。

「ああ、あの人、お姉さんがいるって言ってたなぁ…。おっとりしてるミントと真逆なんだっけ」

「こまちさんが見ても、ありゃ腰抜かすって。キューティーハニーだよ、由緒正しい日本の変身ヒロイン」

「どのへんだよ」

「だってさ、キューティーハニーの最初のアニメは昭和の頃にはやってたし」

「そこかよ」

呆れるメロディ。いちかから朝のスイーツをもらいつつ、ドリームにツッコむ。シャーリーとしてのツッコミ役の責務はプリキュアになっても健在なようだ。

「あんた、なんか、ツッコミ役が板についてきたわよ」

「好きでしてねぇって、ルージュ。こいつや宮藤がアホの子なせいだっての」

「しょんな〜!そういう扱いぃ!?」

「あー!それ、私の台詞だよ、ドリーム〜!」

いちかは十八番の台詞をドリームに取られたため、涙目である。

「うぅ。変身して戦えば、それなりに目立つのにぃ」

「アピールはできる時にしないとね、いちかちゃん」

「うぅ、ありがと、ダイヤモンド…」

「どんまいだよ、いちかちゃん。でも、ケーニヒティーガーは足回り弱いんだよな…。好きだけど、乗りたくは…」

「なんでだよ、この時期のドイツ最強の重戦車だろ、ハート?」

「足回りが致命的に弱いんだよぉー!」

ハートは逸見エリカとして、ティーガー系列の整備講習で苦労したせいか、ティーガー系の攻防性能は好きだが、複雑な足回りは大嫌いになったらしい。

「んなに足回りの手入れが嫌ならさ、レオUかコンカラーでも借りてくればいいじゃん?」

「お、来たかハルトマン」

「寝坊して会議に遅れたし、ここでスイーツ食おうと思ってさ」

「バルクホルンが怒るぞー?」

「トゥルーデはその辺はもう諦めてるさ。キュアハートったっけ。米軍のM1、あるいは連邦軍の61でもいい。ガンタンクUでもいい。車両なら手配してあげるけどー?」

「できれば61で…。ガンタンクUは車高が…」

キュアハートはガンタンクUを『戦車戦闘では車高が高すぎる』とし、最終型の61式戦車を所望した。ガンタンクはMS駆逐用戦車ともみなせるからだ。

「ロトって手もある。装甲兵員輸送車も兼ねられるし。エコーズに回してもらうように手配はしてあるから、その辺は吟味しなよ」

「お前、意外にコネあるんだなー」

「エコーズの高官にあたしのファンがいてさ」

「なるほどな。あたしは自分でコピった紅蓮でも当分は乗り回すよ。正規ルートで製造を依頼した奴の試作完了は当分先だしさ」

「トゥルーデが怪訝そうにしてたよ、空が大好きなリベリアンが陸戦兵器を使うはずないって」

「あいつめ。第九世代相当のナイトメアフレームはオールフィールドじゃい!」

メロディはプリキュアに変身していても、乗り物に乗るのが好きなため、自前の空中元素固定能力で用意した紅蓮聖天八極式のコピーを愛用している。紅蓮聖天八極式とランスロット・アルビオンになると、陸戦兵器の範疇を出なかった旧式のナイトメアフレームを超越し、それまでの高性能機であるランスロット・コンクエスターを蹂躙できるので、その性能差は歴然たる物があるため、オールラウンダーと言える。

「空が好きなんじゃ無くて、あたしはスピードを愛してるんだ。アイツはその辺解って無いんだよなー」

愚痴るメロディ。なお、スピード狂はピーチ/ラブもいいとこ勝負なため、気が合う同士でコンビを組んでいた時期もある。

「スピードといえば、ラブもそうじゃない?」

「あいつとはコンビ組んでた時期あるからなー。気が合ってたし」

「ま、スピードなら、あたしの上はそうはいないと思うけど」

「お前、変身してるあたしらより速いってどういうこった!反則だろ!?」

「阿呆。飛天御剣流使えるんだ、お前らが変身したくらいで並べられるほどスロウリィじゃないよ」

「お、おまっ…!」

ハルトマンは飛天御剣流を本当に覚えてしまったため、プリキュア達も霞む速度を素で叩き出すことが可能である。居合抜きなども飛天御剣流を使うだけの事はあり、神速の一言。桜セイバーが宝具を発動させようとも対応可能な身体の反応速度を誇るなど、剣技では抜きん出るだけの強さを誇る。キュアマカロン/北郷章香も『あの速さを超えるのは、赤松しかいない』と唸るほどである。

「あたしに優勢になれるのは、まっつぁんだけだよ。前史までと一味違うってやつさ」

「お前、針が振り切れすぎだろ…」

「元は少佐に烈風斬させないためだったんだけど、自然に覚えられたんだよね」

「英霊より疾いってことか…?」

「アルトリアより疾いと思うよ。開幕で天翔龍閃をぶちこみゃ、聖剣を撃たせずにノックアウトできる。泣かせちゃったけどね」

「開幕ブッパはねーって、お前…」

ハルトマンは奥義を開幕から撃つのも躊躇うことがないため、天翔龍閃をアルトリアとの模擬戦で使い、セイバーであるはずの彼女をいきなりノックアウトし、泣かせた。黒江が同情するくらいの開幕からの一撃であったため、モードレッドは当然ながら、手も足も出なかった。英霊ですら手も足も出させないほどの疾さ。それが今回のハルトマンの異名。その一つに『疾風迅雷のハルトマン』という物があるが、剣技にその由来があると見抜けた者は少ない。

「ま、剣は疾風迅雷の疾さに限るよ。基本世界で少佐が頼った奥義『烈風斬』は目じゃない」

扶桑に伝わる奥義を『目じゃない』とするあたり、ハルトマンの剣技は七勇士の最高実力者である赤松と比肩するレベルであるのが分かる。カールスラントで唯一無二の剣技使いであるとされる一方、扶桑にありそうな剣技を使うという噂は前々からあった。この剣技はハルトマンのこの世界での最大の特徴となり、他世界での同位体と一線を画する戦闘力を支える技能となる。

「数年後に同位体と会ったら、間違いなくトゥルーデは正気を疑うだろうね」

「自分の正気を疑うかもな。あいつ、たいていの場合はカタブツだし」

「少佐に絡まれそうだよね、これ」

「軍刀みたいにサーベル風の拵えの普段使いに吊ってるからな、お前。サーベル使いって目眩まししてたんだろうが、少佐の同位体にはバレるぜ?明治期のサーベル風拵えだしな」

「あの人、基本世界に近いと、扶桑撫子だの、武士道カブれだしなぁ。めんどくさいなぁ、相手すんの」

「ま、それも一興だ。実戦剣術を教えてやれ」

「飛天御剣流は実戦剣術だしね。手合わせは刃引き刀でやんないとぶった斬っちゃうからなぁ…… 竹刀で手合わせの方が良いかなぁ?」

「竹刀が持つか?」

「やってみよう。数年後じゃないとわかんないけど」

「あ、ハルトマンさん。近頃、フェリーチェに教えてません?それ」

「うん。あの子が教えてほしいってゆーから、暇を見てはちょこっと教えてる。攻撃魔法覚えてないのなら、手数は多いほうがいい」

「うわぁ…、やばい。わたしも覚えないと、古参の威厳が…」

「アンタ、そこは気にするのね」

「だってぇ、プリキュアでまともに剣戟した経験あるの、わたしと、かれんさんとれいかちゃんくらいだよ?」

「真琴は?」

「あの子はモチーフが剣なだけだし」

「ドリーム、まこPが聞いたら泣くよ、それ」

「だって、それは本当じゃん」

「事実だから、反論の余地が…」

「何気にズバリと言ってるわよ、ドリーム」

剣崎真琴/キュアソードに剣戟の経験がないことは事実なので、ハートとダイヤモンドも反論の余地がない。ドリームは最初に剣戟をしたプリキュアとしての誇りがあるらしく、それなりに剣戟ができるという点の挟持も強い。最も、水無月かれん/キュアアクアが最初に剣戟の経験があるが、乗馬戦での一回きりであるので、カウントされない場合がある。ドリームは『中心戦士で最初に剣を取った』例だ。

「あー!ドリーム、ひどいよ、あたしをカウントしないなんて!」

「あ、ゴメンゴメン。ラブリーを忘れてた」」

「そうか、ラブリーを入れると、ピンクで剣戟した経験あるのは二人か」

「はい。同位体の可能性を入れると、後輩のエールも入るんだけど、基本的に剣は取らないのが正しいんで」

キュアエールは剣を取らない可能性が基本世界に近い可能性なので、ロッド使いに分類される。(剣が現れても、信条を貫くために剣をロッドに変化させたため)その点では、エールは珍しいプリキュアである。ちなみにエールは応援を信条とするプリキュアとも言えるが、ドリームにとっては、自分を呪縛に導いてしまった後輩という思い出しかない。そこもエールへの対応を早くも協議する理由である。

「ドリーム、アンタ…」

「あの子に恨みはないけど、前世の記憶があると、どうしてもね…」

「その子に恨み節を吐くのは筋違いだぞ?」

「違います。だけど、なんとなく…、あの子のかけた応援に応えられなかった自分が悔しいんですよ、ハルトマンさん」

「もしかして、その応援に応えたい思いが転生出来たきっかけなんじゃない?そう考えれば、呪縛はとっくの昔に解かれてるじゃないか。転生出来たんだぞ?前世の悔しさをバネにして、今回の生き様を変えたらどう?その子の度肝を抜くような生き様を見せるのさ。世の中は白か、黒か。行く道は一つだけしか無いんだよ?」

「ハルトマンさん…」

「こんな世の中だ、できることは如何にして大胆に、自分の魂に火を付けるか。お前らがなんで転生したのか。その意味を戦いで探してみろ」

「戦いの答えは、戦いで見つけろってことですか?」

「そうだよ、キュアハート。たとえ征く道が血塗られていようとも、普通なら破滅の奈落に向かうような修羅の道でも、地獄の果てまでも戦い抜く。そんな決意が必要なんだ。生きているなら戦いは続く、食べるには命を奪うのだから殺すことは喰らう事、殺した相手を糧に成長する事、それが生きるという事なんだよ、お前ら」

「お前、飛天御剣流覚えてからはキャラ変わってね?」

「剣の道に入れば、自然と変わるもんさ、シャーリー」

「剣でなくても、銃を取った日に似たような覚悟をしたから人の事言えないけどね」

「お互い様、ってとこかな」

「まぁね。アタシにも遺恨がある相手の一人や二人はいたから、ドリームの事に口は挟めないな」

ハルトマンは天使と例えられる天真爛漫さを持つ一方、武勇を知った扶桑系の高官からは『阿修羅姫』と畏れられるほどの武勇を轟かせている。無論、この世界特有の現象だが、定年後に医者を稼業にする願望がある割に、戦いにおいては修羅とも、羅刹とも例えられるほどの剣士として君臨する。黒江をも上回る居合抜きの速度もあり、剣士としては当代で五指に入る剣豪なのは間違いなかった。

「あ、いけない。もうじき、そのはーちゃんと約束があるんだ。行ってくる」

フェリーチェが飛天御剣流を段々と覚えていっているのは、ハルトマンの指導と、ことはの日々の努力によるものである。それを聞いた坂本は大いに悔しがり、フィーリングでしか剣技の指導ができない自分を恥じたという。

「坂本少佐が聞いたら、地団駄を踏むだろうな。あの人、フィーリング気味だし、剣の指導」

「ま、剣道と実戦剣術は違うものだよ。あの眼帯の少佐さんはそこをわかってるのかな?」

辛辣なハート。

「坂本先輩は語彙が小学生なみなんだよねぇ。黒江先輩がこの間、道場で忠告してたの見たよ。イメージを言葉にしてみろ、具体的にな。そういう言葉じゃ無きゃ後輩に理解されないぞって」

「黒江さんは整然と理論を並べた上でディベートできるけど、あの眼帯の少佐さんはなんかこう、勢いだけで教えてるっつーか」

「言えてる」

ラブリー、ドリーム、ルージュ、ダイヤモンドはハートに同意し、頷いた。と、そこへ。

「坂本は小学校を出ない内に軍に入れたから、その辺の語彙が貧弱なのは仕方がないんだ」

「マカロン」

「戦時下だったから、まともな座学を教えられなくて。小学校の上に、兵学校の教育を乗っけただけだから、あの子の教育には悔いがあるのよね…」

キュアマカロンがやってきた。生前と違い、食事は軍人としてきちんと取るようだ。

「あれ、マーメイドは?」

「あの子は家が軍人一家でね。そこが偏った愛国教育をされた坂本とマーメイドの違いね」

「もしかして、坂本先輩、中学も?」

「坂本がそのくらいの時は中学行くより、兵学校や士官学校に行かせるほうが自然だったんだ。黒江くんも中学は行っていないが、平時だったから…」

黒江も中学は入っていないが、平時のカリキュラムだったため、教育密度の高かった世代にあたるのと、家の英才教育のおかげで、21世紀でいう高卒並の頭脳は13歳の時に備えていた。そこの時点で坂本とは差がある。

「それに、俺はお袋の英才教育されてたしな。13の時に、21世紀の高卒くらいの頭あったよ」

「あ、先輩。会議の時間じゃ?」

「それが、出し抜けに武子がベットの角に足をぶつけて、くじきやがったって連絡が来て、今日はお流れ」

「足をくじいたんですか、隊長」

「あいつ、意外に寝相悪いんだよ、ケイが爆笑さ。それで今日の日程を軽く決めただけになった」

「それで今日の訓練は?」

「実技はなくなって、座学中心だ。ハートとラブリーも来て、コスモも来たし、座学の方を教えようとなった」

「そうだ。幹部でも、戦史を教わることがなかった世代が騒動起こしたし、座学は軽視できんよ。午前は私だったね?」

「はい。午後は俺がやります」

「了解した。臨時だが、レジュメは赤松に用意させてある。図上演習は君がやり給え」

「はい。自衛隊で鍛えたんで、得意っす」

黒江は士官学校時代にその分野を得意科目の一つとし、自衛隊ではチェスや将棋などで名を馳せている。

「待ってください、先輩、図上演習の名手って、明野で名前を轟かせてるじゃないですか!」

「自衛隊でもオセロ、将棋とかしてるぜ。ウォーシミュレーションゲームの原始的なもんだと思え。、軍人将棋みたいな感じの」

黒江の得意分野が一つ、判明したわけだが、自衛隊でもスピード出世したのは伊達ではないと言わんばかりだが、これは黒江の長兄の趣味が将棋であったことにも由来するので、本人は自覚がないが、長兄との将棋によって培われた戦略眼と言える。

「そうだ。連邦軍から戦域シミュレーター借りたし、自動乱数入りの図演にしますが、いいですね」

「大局的な視点を鍛えるのに丁度いい。いいだろう、やり給え」

「ありがとうございます」

ドリームとコスモだけは経験があるので、事の次第を理解しているので、冷や汗タラタラだが、他のプリキュア達はキョトンとしている。頭脳的意味での死闘を演じられるのは果たして何人か。また、連邦軍のシミュレーターを借りた事で高度な『やり取り』を可能とするため、高度なウォーシミュレーションゲームとも言える。軍隊の演習は頭脳を使うものの当然ある。黒江達はそれをこなせるからこそ、大勢の命を預かる立場の高級将校の座についたのだ。ちなみに、カチューシャは図上演習をロシア軍から教わり、繰り返す事で黒森峰女学園に勝ったため、その熟練者と言える。キュアコスモもそれを見ていたため、彼女も図上演習の名手と言えるが。

「入力の補助は専門の連中に補佐させる。お前らは指示を言うだけでいい。よければ、ハンデをつけるぜ」

黒江は淡々というが、これがまた大変なのだ。ドリームは錦の記憶で、図上演習でヘマをしたら、教官から怒鳴られまくった記憶があるため、その演習の厳しさを知っている。コスモも戦車道の関連で経験がある。黒江はハンデをつけるというが、それがどんなハンデかわからないため、キョトンとする多くのプリキュアをよそに、キュアドリームとキュアコスモだけが冷や汗タラタラであった。

「黒江さん。ガキどもを、あまりゲドゲドにしないでくださいよ」

「何、遊んでやるのさ、大がかりな軍人将棋で」

黒江の補助につくため、第三者になるキュアメロディはこんな調子であったが…。ハンデとは何か、連邦軍から機械を借りてまで行う図上演習とは?図上演習を知る者はどんな事をされるか気が気じゃないらしいのか、冷や汗タラタラで、予め塩分を多めに摂ったという。



「うーん。今日のは中々に過激なもんが来てるね」

「あん?どうした、ハッピー。」

「小学生でも言わなさそうなもんですよ。『いつまであの小娘を生かすのか。中途半端に生かして苦しませるなら処理したらどうかね。それとも有名な『笑う男』の様に苦しみ喚く姿を見たいのかな。くだらん漫談をするのはそのためだろう?』だって」

「いよいよ以て、俺達も舐められてるな。もっちは対策を考えてるんだと言ってやれっての。それに笑う男って意味わかってんのか、ソイツ?確か、ユーゴの小説だろ?フランスの」

「少なくても、同じタイトルの20世紀の小説じゃないってのは確かだね。レ・ミゼラブルの作者でもあるけど、菅野さんにも聞いてみましたが、ほぼ間違いないですね」

「くだらない漫談、か。先方の都合も考えずにいきなり戦場に連れてこれるか。つか、単に漫談って言えば、俺が生まれたくらいの頃にトーキー映画が出て、仕事を失った弁士達がやってた寄席をいうんだが」

「知らないんじゃないんですかね。令和の時代から見れば、そういうのは遠い昔の出来事だし、言葉自体には、くつろいだ気分でする、とりとめもない話って意味もあるんで」

「ハン、考えがガキだな。それこそ、ディケイドやジオウに文句言ってるオタク連中と大して変わらん」

「言うだけなら、幼稚園児にもできますからねー。初代へのリスペクトが足りないとか、あたし達にもありますし」

「桜セイバーとあいつを分離させる方法は探してはいるんだぜ?手っ取り早いのが先方の都合がついて、こっちが落ち着かんと、試そうにも試せない。いくら黄金聖闘士だろうと、力で強引にやろうとしても、失敗するだけだ。あの子に呼びかけてもらわんと、そもそも始まらん。それに、問題になってるのは、如何にしてあいつと桜セイバーを共生、あるいは分離させるか、だぞ。オリンポスの神々でも悩むぞ、これ。それに、強大な力を得たら暴れたくなる、誰かを踏みにじりたくなるって、昭和と平成のライダーの前でも言えんのか?脳改造された怪人のほーがよほどマシな思考してるぜ」

「大いなる力には責任が伴う。アメコミか何かであったと思うけど、日本に限らないけど、気に入らない集団を排除しようとすると、社会ぐるみでやるんだよね、人間は。で、いざ誰かが警告した通りになったら、ヒステリックに『自分達は悪くない』って喚き切らして、スケープゴートにできる誰かに責任転嫁する心理が働くもんさ。戦後の日本人が東條元総理に全ての責任を押し付けたのも、その一例だろうね」

「確かに。元・宇宙人のお前に言われると、なんとなく納得させられるぜ」

「地球人はニュータイプになろうとも、わかりあえない例があるけど、逆に言えば、確固たる個ってもんがあるからだと思うよ」

キュアコスモは真理を突く。プリキュアでは珍しい部類の宇宙人プリキュア(現在は元、だが)であるため、地球人の持つ心理を第三者的視点から見れるのだ。

「やれやれ。私達の何気ない会話や行動まで、『くだらない』だとか、対策の協議中の事を『笑う男みたいに、せせら笑ってる』って言う暇があれば、就職活動とか婚活すべきだと思うんだけどね、ネットギークの連中は」

「言えてる」

「日本人にわかるか、アメリカのスクールカルチャー用語」

「ネットで調べればわかる時代だよ?」

全員が頷く。シャーリー(キュアメロディ)は自分は早期に就職したので、その世界に長くはいなかったが、だいたいの雰囲気は知っている。1930年代には既に確立されていた文化だからだ。ウィッチは基本的に『クインビー』に相当する立場に成り上がる権利を持つとされ、群体に行っても、妬みの対象になりやすい。黒江がテストパイロットになった時期にいじめにあった一因もそこにある。結果として見るなら、ミーナの行為が『とどめ』となり、Gウィッチに別部隊への人事異動はない事になった。彼女はその懲罰で二階級降格となったわけだが、彼女としても『自分の無知から、とんでもない結果を招いた』(勘違いで他国の英雄を冷遇し、隊内の不和を招いた)と反省し、大尉としての職務に邁進している。スクールカルチャー用語の生まれは古いため、元から人生の『勝ち組』で、更に強力な力があるGウィッチは妬まれやすい。プリキュア、聖闘士などを問わずにだ。これも大いなる力を持つ者にはつきものである。その一方で、彼女らに憧れ、同じ高みを目指そうとする者も出る。当然の流れであり、世の中上手くできているのだ。



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