外伝その389『図上演習と戦闘』
――マジンガーZEROはZの歪んだ思考が生み出した怪物であり、自分を脅かす者はZの兄弟機であろうと情け容赦なく叩き潰すし、どんな存在であろうと関係はない。それはプリキュアであろうと同じであり、既にいくつかのプリキュアを倒していた。それを危惧したZ神は対策も兼ねて、数カ所にまとめて転生させる事で、間接的にプリキュア達を守った。そして、のび太とドラえもんが仲介する形でプリキュア達は集められた。ただし、プリキュア5以降が主体であるのは理由がある。初代(マックスハート)とスプラッシュスターは現在進行形で戦闘中だからか、転生枠には入っていない。また、お互いの出身世界は同じチームでバラバラであることもあるため、そこも難しいところであった。ドリームとルージュの出身世界が異なるのが最たる例であろう。ドリームは中島錦の立場を受け継いだので、階級こそ大尉だが、素体の錦が指揮官タイプではないのと、現役時代が『行動で引っ張るタイプであった』ため、軍隊の指揮官適性は中の下程度である。その点はシャーリーの指揮官適性に紅月カレンの戦闘スキルがプラスされたメロディのほうが優れているが、カリスマ性はドリームの特権である。従って、接近戦では総じて互角になる。ピーチはドリームと同じ世界から転生転移してやってきた変則パターンだが、接近戦ではメロディとドリームを上回る技量を誇るため、黒江は彼女に光戦隊マスクマンへの弟子入りを勧めている。キュアハートは逸見エリカがその素体だが、相田マナの自我がエリカの短所を打ち消したのか、戦車道世界での黒森峰女学園次期隊長を期待されている。また、歴代随一のカリスマ性があるため、ピーチとドリームの長所を受け継いだ後輩のポジションである。エリカとしての斜に構えた態度と癇癪が消えているため、戦車道世界では逆に不審がられたという。キュアダイヤモンドは婚后光子としての能力を持ったままでプリキュアに戻ったため、レベル4相当の空力使いの能力を学園都市を去った後も維持している。キュアハートとの相棒関係に戻ったが、キュアウェンディ(キュアイーグレットの二段変身)のアイデンティティを多少なりとも犯しているため、苦笑いしている。キュアラブリーは声がランカ・リーに酷似しているため、歌唱訓練も課されたが、当人は『歌はキュアハニーの担当なんですけど』と愚痴っている。ただし、剣を奮った二番目のピンクのプリキュアであるという武闘派なので、第二期プリキュアでもっとも第一期に近い特徴を持つとされる――
――ある日のこと――
「あ、あの!歌はキュアハニーの担当なんですけど…」
歌唱訓練に参加させられたラブリーは愚痴る。声以外にランカ・リーとの共通点がないからだ。
「もちろん、来たらだが、キュアハニーも歌わせる。人数多い方がハーモニーでフォニックゲイン稼げるからな」
「だからって、キラッ☆を本当に?」
「そんくらい我慢しろ。艦娘の潜水艦っ子にも同じ訓練させてるんだから」
「え〜!?」
「しかも、声がお前にそっくり」
「なんで、声のそっくりさんがいるのぉ!?」
その事実にげんなりのラブリー。だが、メロディが生前と違い、歌唱力を大きく増し、ワルキューレの歌姫の影武者を務められる実力者にのし上がった事は彼女を刺激した。この日から、黒江が呼び寄せた伊58のレッスンを受けたラブリーは数週間後には星間飛行と放課後オーバーフロウを歌いこなせるまでになった。実力はある(マナは音痴だが、めぐみはそうではない)ため、それを引き出せる様になったというべきだろう。また、自身の闘技をドリームに伝授するという芸当も見せ、ラブリーライジングソードを伝授したという。そんな華々しい彼女達だが、精神的修行の『変身を維持する』事は時間の都合もあって、些か困難であった。ペリーヌは政治の世界に飛び込んだため、キュアスカーレットになれる時間は限られている。ペリーヌのように、元の姿である必要がある者もいるからだ。
――その日の講堂――
「今日はレポートを課すぞ〜。戦車について、2000字以上で。図書室とかは使えるようにしてあるからな。それと。某戦車道ゲームのプレイ感想でもいいが、その場合は実車の事を調べておけよ」
黒江はこの日、戦車についての講義を北郷の補助で行った。プリキュア勢は士官としての教育を受けさせる必要がある事から、黒江は軍事分野では幅広いジャンルの講義を行った。戦車に関してはキュアハートが立場上、一日の長があるが、エリカの短絡的な動きや力押し大好きぶりの数々にはマナも呆れ気味である。ドリームは航空要員の教育は錦として受けているが、戦車は畑違いであるため、図書室にこもって、本を読み漁った。ちょうどレポートが提出できた日が黒江の図上演習日であった。図上演習は地球連邦軍のシミュレーターを使った本格的なもので、21世紀のゲームでいうリアルタイムストラテジーゲームに近かった。リアルタイムシミュレーションのセーブ・ロードなしのものとも言える。黒江はその中から、割合に易しめの一年戦争のオデッサ作戦を再現したステージを使った。特殊条件に、優勢でも、周囲の状況に気を配らない場合は戦略兵器がペナルティとして働き、デウスエクスマキナ的に終わらせるようにして。なお、黒江は元から図上演習が得意なため、この演習はかなり手加減している。
「さて、図上演習しにいくぞ」
プリキュア達は黒江に連れられ、図上演習をする事になった。黒江は加減は加えるが、揉むつもりであった。兵器は史実通りに連邦軍は通常兵器主体だが、MSは強力。ジオンはMSは豊富だが、癖が強いというようなパラメータも設定されている。連邦軍側は戦況が進展すると、MSが投入されるという制限がある。そのため、攻勢側の連邦軍の方が序盤は不利というのがオデッサの特徴である。また、連邦軍は序盤は航空戦力の活用が鍵であり、コツさえ分かれば簡単な部類のステージと言えた。
――図上演習に参加しなかった何人かのプリキュア達はローテーションの一環で、リベリオン軍を迎え討った。この時に戦闘に参加していたのは図上演習の講義を受ける日が違う者たちで、スカーレット、フェリーチェの二人とフォーチュン、ミューズ。合計で四人であった。
「ビートは?」
「閣下の補助で参加してますわ」
「それじゃ、私達でここは乗り切るしかなさそうね」
「ボクが先陣を切るよ。伊達に英霊も兼ねてないしね。…この姿で宝具を使うと疲れるんだけどね〜。この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)!」
召喚されしものはグリフォンと馬をかけ合わせた幻獣。ミューズの持つ切り札の一つ。アストルフォとしての宝具であるが、全速力を出すと魔力消費率が高すぎるため、相当に加減しないと使えない。最低速度でも遷音速を出せるため、威力はそこそこと言ったところか。
「ぐ、グリフォン!?」
「グリフォンの派生の幻獣さ。フォーチュンには刺激が強すぎたかな?にゃはは〜」
ミューズの姿だが、性格はアストルフォのものであるため、どことなく飄々としつつも、能天気さが強く見える。その割に強運なのは、英霊としての加護であろうか。
「さあて、最近は姿を安定させれるし、これで転がすよ!」
幻獣から降り、得物の一つである『触れれば転倒!』(トラップ・オブ・アルガリア。形状はランスだ)を構えて振る。キュアミューズとしての姿と宝具を両立させるために、裏で特訓を重ねたらしいことが窺える。
「…って、あれ、転がせてるだけじゃ?」
「あの方の宝具は基本的に攻撃に使えるものが少ないのです。恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)も、混乱させる事はできますが、それだけですので…」
スカーレットはかなり辛口である。ミューズ(アストルフォ)自身も、自身の英霊としての強さはそれほどではないというのは自覚しており、サポート役が主であるが、ロボットガールズとしての力はむしろ強力なほうなど、色々とチグハグなのが彼女だ。
「ま、自覚はあるよ。ボクは昔、フランスの英雄の一人だったけど、武勇で名を残してはいないよ。冒険譚で名を残してるのさ。生前は理性が蒸発してるなんて悪態を、よくつかれたもんだよ」
ミューズはアストルフォとしての身の上話を明朗快活に話す。伊達に英雄としての前世を持つだけの事はあり、プリキュアとしての経験値と併せて、立ち回りは上手かった。もっとも、モードレッドがセイバーとしては荒削り気味(立ち回りそのものはできるが、頭に血が登りやすいなど)で、プリンセスプリキュアとして、優雅な立ち回りをこなすトワに嫉妬している面がある。デリケートさを要求される戦いの時は出番が来ないことをぼやいている。(トワの戦う理由の根底には、かつてのトワイライト時代の行為への贖罪があり、そこはモードレッドも共感している。)
「それでは、私も!燦然と輝く王剣!!」
キュアスカーレットはここでモードレッドの宝具である燦然と輝く王剣を使用した。モードレッドは『本来の持ち主』ではないので、剣の真価を発揮してこなかったが、プリンセスプリキュアであるキュアスカーレットであれば、その真の能力を発揮できる。モードレッドが拗ねている理由の一つはそこである。モードレッドがその歪んだ思いで剣を邪剣にした経緯から、最大パワー時には形状が相応に邪剣になるのだが、キュアスカーレットが持てば、本来の能力を発揮する。巷で言われるような『プリキュアのタブー』などは気にしていられないため、王剣を振るう。リベリオン軍兵士や少数の陸戦ウィッチ達はこれに大いに狼狽える。特に、長刀身の剣で戦う行為そのものが一部の好事家的趣向を持つウィッチのみと見做されていた欧米では銃剣術すらも省略された教育が現れており、それを受けた世代のウィッチでは為す術もなく蹂躙されるのみであった。
――ダイ・アナザー・デイでの交戦のデータは『Rウィッチ化を前提にしての教育カリキュラムの構築』の大義名分に使われていく。実際、ジュネーヴ諸条約の批准で10代のウィッチは『都合の悪い存在』と見なされるようになってきており、前線運用は自粛されるようになっていた。Gウィッチは一番若くても、『15歳』(ルッキーニはクロとしての外見年齢を申告している)と比較的に年齢が高かったことから、日本側などからも『先方の情勢を鑑み〜』と不問に付されている。また、海軍航空自体に大鉈が振るわれたことで旧来の航空要員の育成制度は停止も同然の状態になり、予科練も募集が一時停止に陥った。主な問題は通常パイロットではなく、ウィッチ候補生である。旧陸海軍航空部隊の人員補充の役目を担っていた諸制度が空軍設立と軍制改革を理由に停止され、実質的に軍に人材を供給していた『航空機乗員養成所』が航空大学校の傘下として改組され、軍部との関係を断ち切られた(ただし、1945年八月までに在籍していた者達については、本人の希望という体裁で軍へ入隊する権利は認められた。ただし、当初は航空大学校同様に『学費』を設ける方針だったが、扶桑国民の要請に折れる形で学費免除は続けられたという)事もあり、軍部は航空要員の確保に四苦八苦する羽目に陥った。その兼ね合いで義勇兵募集が拡大され続けている。育成途上の者達の軍学校卒業が先延ばしにされた一方で、前線の操縦士の後送は激戦で増え続けている。各戦線からの引き抜きには限界があるため、義勇兵は数週間で欧州戦線全体の操縦士の5割強を占めるまでになっていた。これは各国からの志願者を含めた数字だ。ただし、Gフォースの中にいた旧陸海軍の零部隊(ウィッチ部隊)在籍者の末裔にあたる者がウィッチに覚醒したため、ウィッチの補充が絶えたわけではなかった。それが自衛隊がウィッチ運用部門にGフォースを指定する流れに繋がっていく。ウィッチは以後、防大出身者などにも徐々に確認されていき、太平洋戦争では重要な人材供給源になったという――
――戦線のプリキュア達への援軍は今や活動が低調になったカールスラント装甲師団であった。連合軍としての義務を果たすための最低限の規模である二個装甲師団が欧州に残置していたが、ドイツの禊か、保有車両は刷新され、当時の最新鋭中戦車『パンターU』(史実のE50相当に強化されて生産され、こちらがパンターの後継になった)とパワーアップし、、ティーガーUの更に後継の『レーヴェ』重戦車が試験名目で配備(史実では正規軍の装甲師団には重戦車は配備されていないが、ウィッチ世界では、カールスラントには状況的な余裕がなかったことから、装甲師団に重戦車が配備されていた)され、辛うじてだが、カールスラント陸軍の残光を示していた――
「お、ティーガーU……、いや、レーヴェ!完成したんだ!」
ティーガーU以上の防御力を持つため、装甲を厚さを増す以外にも強化がされ、実質的に戦車道世界の技術で作り直されたと言えるレーヴェ。財政的問題での兵力不足を反映し、自動装填装置が備えられ、実質的に乗員は減っている(これは軍縮にドイツ領邦連邦が傾倒している故の妥協であった)。そのため、レオパルト2よりもその点は優れていた。(史実のイスラエルはポリシーから、半自動装填装置までで留めている事が有名だが、カールスラントは軍縮で戦車兵の供給の先細りが本気で懸念されたため、省力化の観点から自動装填装置の採用に踏み切った)パンターUも自動装填装置を搭載しているが、これは連邦の片方が軍縮に傾倒しているカールスラント特有の事情だが、人件費抑制の意味も含まれた。(レーヴェに搭載されたのには、『重戦車などは時代遅れ』と宣った者達への当てつけも含まれている)
「味方が来ましたわよ、ミューズ!」
「よし、僕たちは機甲部隊に邪魔な歩兵を蹴散らすよ。敵はシャーマンしかいないから、レーヴェとパンターUの敵じゃないよ!」
当時、リベリオンは地上軍管理本部のM4中戦車至上主義的なドクトリンが支配的だが、連日連夜のM4中戦車の連敗をとうとうスキャンダルの体裁で報じられるに至り、この当時は重戦車扱いのM26とその改良型のM46に戦車生産の主体を移すことをようやく決定したが、M4もE8型相当やM4A3E2(ジャンボ)に生産ラインが移行しており、物量で連合軍を圧しているのには変わりはない。そこが連合軍が日米英に連合軍への戦車の供給を強く要請する最大の理由だった。日本は防衛装備庁の無理解もあり、装甲戦闘車両の供給を露骨に渋った。だが、旧軍式装甲戦闘車両の回収とドイツ領邦連邦の撤兵が前線に大ダメージを与えた事が問題視されるに至り、日本も腰を上げ、扶桑向けの装甲戦闘車両の供給を決定し、扶桑での現地生産を含めての供給に踏み切った。英国は自由リベリオン軍に『シャーマン ファイアフライ』への改造を薦めつつ、扶桑軍向けのセンチュリオンとコンカラーの生産をブリタニアに促進させた。その二車種は日本の都合もあり、自動装填装置の搭載という改良を独自に施され、扶桑軍に提供された。レーヴェは制式仕様では自動装填装置が設けられたため、砲塔が大型化している。軍縮での軍人のリストラが自動装填装置の搭載に踏み切らせた点では、軍縮でまともな稼働率が保てなくなったドイツへの大いなる皮肉であった。その甲斐あり、レーヴェはコンカラーを除けば最強の重戦車となり、カールスラント装甲師団の溜飲を下げる活躍を初陣となるこの戦いで見せた。
「おーっ、75ミリ砲弾を弾いた!」
「関心している場合ですの?援護しなければ!」
「わーってるって!」
105ミリ砲を弾くように、多くのマージンが取られた傾斜装甲(増加装甲の装着可能)はM4シャーマンの76ミリ砲弾を余裕で弾き、当時としては破格の大口径砲である105ミリ砲で蹴散らすレーヴェ。レーヴェの1両はM4の10両に匹敵する戦力比と宣伝されたが、実際はキルレシオで七対一程度である。装甲は貫通されなくとも、履帯を切られて擱座させられる、乗員が負傷するなどの要素があるため、十対一というのは、よほどのエースでなければ成し得ないキルレシオである。もっとも、一対多を無傷で切り抜けるバケモノも存在するのだが。(史実でのオットー・カリウス、ミハエル・ヴィットマンなど。ウィッチ世界ではウィッチであると見込まれており、実車にエースがいないことを懸念されている)レーヴェはこの時点では、M4がいかなる手段を講じろうとも装甲を貫けず、当時の新鋭重戦車たるM26でも、車体側面を500m以内で狙うしか対抗策がないほどの強さであり、しかもこれは初期生産型での予測である。実戦で改良される予定の主生産型では、さらなる装甲強化と足回りの強化が図られる予定だという。105ミリ砲を弾ける重装甲を有するため、この時期の連合国(友軍)の既存対戦車砲の多くを陳腐化させてしまった。戦車の恐竜的進化の象徴とされるレーヴェは扶桑陸軍のいかなる対戦車砲も一晩で陳腐化させ、扶桑でわずかに生き残っていた『対戦車戦闘は対戦車砲が主役』というドクトリンの信奉者達の息の根を止める補助を担った。大口径化が進展すると、対戦車砲本来の使い方に反するほどの大きさになってしまい、『人力で移動可能で、待ち伏せのため隠蔽できる』どころではない。そこも牽引式の対戦車砲の衰退の理由である。プリキュア達は随伴歩兵の役目を担い、敵兵を蹴散らしていく。レーヴェ戦車はM4を圧倒し、横腹を狙おうとしたM36をも撃破する。
「すごい、まるで怪物みたい」
「そりゃそうさ。ドイツが第二次世界大戦中の最高技術と戦後の技術をいくつか組み合わせて造った重戦車だからね。第二次世界大戦中のどんなアメリカの戦車も敵じゃないさ」
レーヴェ戦車はM4戦車隊の中央を突破する。制空権を確保されし戦場でのドイツ重戦車はファイアフライがなく、M26も満足に回されない米軍(リベリオン軍)機甲部隊には恐怖でしかなかった。ティターンズが緒戦でティーガーを容易に撃破したために凋落した感があるドイツ軍重戦車のイメージだが、レーヴェとケーニヒティーガーがどうにか立て直した。
「よーし!そろそろ、砲兵が火力投射をするはずだ。みんな、ここはひとまず下がるよ」
「YES!」
のぞみの時代からしばらくの間のプリキュアで通じる『了解』の意味を持つ符号『YES』。第三期の魔法つかいプリキュアまではその意味を理解しているが、アラモード以降のプリキュアはそれがわからない。アラモード以降のプリキュア達の研修期間が長くされているのは、第二期以前のプリキュア達の間で使われていた用語などを覚えさせるためでもある。戦車も進撃を一旦止める。すると、連絡を受けたカールスラント砲兵、自衛隊特科の連合部隊が一斉に砲撃を行う。ナポレオン戦争の時代の頃からだが、砲兵は歩兵にとっては恐怖と救世主の双方の側面がある。近代戦になると、火力投射は支援のみならず、ハラスメント的攻撃にも使われた。旧日本陸軍に南方でそれを実際に行った記録がある。(この戦闘はのび太がティターンズの超人を仕留めている頃に同時刻に起こったものである)
「しかし、すごいですね、あれは」
「国家総力戦ってのは、ああいうもんさ。21世紀以降のゲリラコマンドや民兵の掃討とはわけが違うよ。日本もドイツも国家総力戦ってのを過去の文献でしか知らない連中が背広組として実権を握ってるから、尻ぬぐいを現場に押し付けるのさ」
「ドイツ軍の部隊も最近はめっきり見なくなりましたし、見るのは米軍、自衛隊、地球連邦軍、英軍ばかりですね」
「ドイツ連邦の政府がカールスラントのナチス化を恐れて、軍縮を強引にしてるからさ。数年もあれば、44年の総兵力の半数もないくらいに軍縮するだろうさ。本土奪還は日本連邦に丸投げするだろうね」
「ドイツ連邦は何故、強引なリストラを?」
「国粋主義が蔓延ってのナチ化を警戒してのものだろうけど、街に失業軍人を溢れさせてどーすんのって話さ、スカーレット。アメリカもフーバー大統領の時代にボーナスアーミー騒動ってのがあったし、戦後日本じゃ、極道に特攻兵の生き残りが流れた記録がある。失業軍人や退役軍人ってのは、いつの時代も厄介な社会問題の温床なのさ」
ミューズがスカーレットらに言うように、戦線が困窮している要因の多くは日独による強引な軍縮の試みであった。兵器の側面では日本が、人的資源の問題ではドイツにその主たる原因があった。日本は自衛隊の設立時に苦労した経験から、兵器は減らしても、人は温存した。しかし、ドイツはナチス武装SSや東ドイツ軍に与した人員を排除したい思惑があり、それがリストラの過激化に繋がった。その流れを兼ねてから危惧していたアドルフィーネ・ガランドは配下の44JVを部隊ごと予備役にし、機材も含めてまるごとを扶桑に管理を移管させることで、有能な人材をそれらから守ったのである。
「ドイツは何が狙いなんです、ミューズ」
「大方、史実で武装親衛隊にいたり、東ドイツ軍にいた連中を体よく排除したいんだろうさ。今のドイツは西ドイツの後裔だし、人材を旧西ドイツに与した連中で固めたいんだろうさ。でも、史実で戦死したマルセイユとかの戦死者相当の連中や戦後に銃後で隠棲したエースパイロット達はどうなるって話になるし、戦線はエースパイロットを必要にしてる。そこが日本より頑迷って笑われるんだよ。日本はエースパイロット相当のウィッチなら、崇敬してくれるからね」
ドイツは『陸空海の有能な軍人』をリストラすべきか領邦議会で揉めるという醜態を晒していた。ウィッチ世界を対象とした大規模リストラはカールスラントから猛批判を浴びせられる要因となり、カールスラントが『プロイセン軍』であることがわかっても、メンツ論からリストラを止めない事はカールスラント軍の急激な衰退の原因となった。流石に『街に失業軍人があふれる』状況は不味いと思ったか、それに歯止めがかかる頃には街に失業軍人が溢れ、財政的都合でカールスラント軍部が恩給の支払いをなかなかできなくなるという末期症状を来たし、ドイツは嫌々ながらも再就職支援制度を構築させ、カールスラント本土奪還を国連に委託しつつも、必要な人員を供出することを禊とするが、その頃には時既に遅しの感が否めなかったという。
「ドイツは今いっしょに戦ってる陸軍装甲連隊と砲兵隊と少数の空軍しか残ってない。もうちょい増やさせるけど、多分、二個師団と航空大隊が二個くらい配置されれば御の字だろうなぁ。海軍はビスマルクも派遣できなかったんで、不貞腐れてるし」
「それを思えば、日本は太っ腹ですわね」
「あーやにのび太が日本のわからず屋連中の巣窟に乗り込んで、風穴を開けたからね。F-35と10式戦車も送るっていうから、数は限られてるけど、うちらに好意的な連中ばかりだから、いっしょに働いてても気分いいよ。背広組はエリート意識が無駄にあって、制服組を『戦争屋』って見下す馬鹿な連中の集まりだから、あーや、しょっちゅう電話で怒鳴ってるんだよね〜」
ミューズ(アストルフォ)が第三者の視点から見ても、日本自衛隊を管理する防衛省と防衛装備庁に存在する『エリート風を吹かしたがる癖に国防の門外漢すらいる』背広組と、前線で血と汗をもって労苦に耐える制服組との温度差などは由々しき問題であるのは明らかであった。
「軍隊も…その、官僚組織なんですね」
「軍隊は見方を変えれば、巨大な官僚組織ですわ、フォーチュン。今は事態が事態ですから、書類仕事は丸投げしていますが、本来なら普段は書類を書くのが管理職の仕事の八割と言われるほどですのよ」
「まぁ、ウチは有事即応部隊なので、事務作業は少ない方ですけどね。電話一本で補給の手配できますから」
「戦時という事もあるのでしょうが、優秀なな事務の連中に任せればいいですからね」
「世知辛いなぁ…」
「デスクワークから殆ど開放されてる分、OLとか会社の事務員よりマシですよ、フォーチュン」
「なんだか重い、重すぎるわ…、フェリーチェ…」
圭子が連れてきた金子主計中尉を始めとする優秀な事務スタッフを抱えたのも、64の戦闘要員の多くがデスクワークの手間を省けている理由である。有事即応部隊の性格上、戦闘諸報はすぐに広報に回され、公表されるため、裏方の事務スタッフも各方面から優秀な者が結集した。これは事務を丸投げして出撃する事の常習犯であるレイブンズを上手く活用するための対策の一端である。事務スタッフも優秀な者たちが結集したためと、レイブンズが連合軍上層部と親密な関係であるからこそ、可能な芸当である。フォーチュンは世知辛さを感じてしょげているが、デスクワークから殆ど開放されているに等しい分、パワハラ行為も蔓延っているOLや事務員、ひいては2010年代に労働問題が表面化した教員に比べれば天国のような環境であると言える。それを考えたのか、フォーチュンはしょげ、フェリーチェを始めとする三人は苦笑するしかなかったという。
――この頃は未来からの技術や知識が次々と扶桑軍の構想を叩き潰し、既得権益も消えていった時期であるが、同時に日本側の旧内務省系・背広組勢力の権威も決定的に失墜した時期でもある。ドイツ領邦連邦の軍縮の方針のもと、連合軍からはカールスラント系部隊の大半が外れ、最良の装備を持つ最低限の部隊のみを残す方針になったが、例外的に扶桑に44JVの管理が移管されていた事から、同部隊は64Fの一大隊と扱われ、ドイツの撤兵命令を免れた。しかし、数の上での主力である時代相応の兵器を日本側が『近代戦に耐えられない』として回収し、自分達の博物館の肥やしにした事が結果的に悪手となった。大戦型の戦場では『戦いは数である』。平和な時代が長い21世紀日本は自分達の都合で物事を考え、連合軍の作戦方針を変えさせたが、結果は圧倒的物量に押される事になり、日本側も『止む無く』扶桑の兵器増産を容認した。(攻勢作戦に自衛隊が参加することを政治的に責められることを防衛省が懸念したため、防衛作戦に変えさせたが、それが裏目に出たため、Gフォースを結成し、黒江に尻ぬぐいさせた)連合軍の苦戦は日独は連合軍の大黒柱と言える両軍の兵力を削減し、大黒柱を切り倒す寸前にまで追い込んだと扶桑から非難されることになった日本は『人員の交代』という大義名分を用いての事実上の兵力増強に踏み切る。ドイツが縮小に向かっていた時期においては、日本が連合軍に責任を持つ必要が大きくなった表れで、日本国自衛隊はこの名目を使うことで事実上のGフォースの増強に踏み切る。10式戦車とF-35の本格投入は暗黙の了解と扱われ、長期化した作戦に一石を投じる事となった。黒江が図上演習の準備を進め、のび太がティターンズの超人を始末している頃、裏では講義と図上演習に参加していないプリキュア達の戦闘と、カールスラント戦中型重戦車最後の雄『Z号戦車/レーヴェ』の初陣が繰り広げられていたのだ。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m