外伝その391『図上演習と戦闘3』
――扶桑は急激な技術革新に現場がついてこれないというのが現状だった。火砲は自走式155ミリ榴弾砲が現れ、戦車も105ミリの旋回砲塔を持つものに刷新されるなど、それまでのトレンドだった75ミリ砲やカールスラントの誇る88ミリ砲を時代遅れとした。だが、いきなりの刷新に工場設備や現場がついていけるはずはなく、その混乱でウィッチ用のマウザー砲が弾薬規格の違いを理由に死蔵されるという有様となった。黒江達はロンメルのツテで独自に弾薬と銃を調達。軽装備を好む傾向の当時のウィッチとしては異例の重装備に入る。これは九九式機銃の弾薬規格の二〇ミリへの再統一による混乱で扶桑国内から外征部隊への供給が一時的に不可能になった事(ウィッチは欧州外征用に12.7ミリ弾仕様に改修したモノを基本的に使ったが、相手が通常兵器に移行するにつれ、火力不足が問題視された)、陸軍式の二〇ミリ機銃のライン維持が戦闘機用は決まっていたが、ウィッチ用は未定だったことで、64Fはロンメルのツテで一定数のマウザー砲を調達した。幸運な事に、軍縮でノイエ・カールスラントに不良在庫扱いで大量の弾薬があり、ロンメルがそれを回させたため、64は扶桑国内の在庫が吐き出されるより前に、マウザーを景気よく使用する事ができたのだ――
――格納庫――
「ロンメル、ずいぶんと弾薬を持ってこさせたな」
「国内にあった不良在庫を吐き出させた。ケイ達なら、使ってくれるだろう?」
「そりゃそうだが、国内の不良在庫ぉ?どーゆーこった」
「軍縮は国内にも及んでてな。納入されたはいいが、供給先の部隊が解散になったりして、軍の弾薬庫にそのまま死蔵された弾薬が100万発単位に及んだ。44もそっちに移したから、需要がな…」
「それな。おまけに、こっちはフェミの連中が騒いでるから、ウィッチの活動を縮小せにゃならん。日本の連中はエセが大半なんだがな」
「ああいう類は騒げればいいのだ。64も大きくなったからな。三ヶ月ほどは持つだろ」
「そこまで続ける気はねぇがな。ったく、銃後に監視されるのも面倒だぜ」
「連中が求めてるのは華やかさと戦果だしな。フェミ、いや、エセというべきか。君らも面倒な連中のターゲットにされたな」
紳士的なロンメルをしても『エセ』と揶揄せざるを得ない日本のフェミニスト達。ウィッチたちの仕事を奪っているからで、ウィッチはもともと男性軍人より優位を持つ(引退後も出世が早い)が、それを『逆差別』と叩いたことで方針転換が予定され、戦果を挙げられないウィッチは曹長への出世すら覚束なくなることは当時から懸念されていた。当時は人種差別的な発言一つで将官の昇進が消え、佐官は辺境へ島流しという懲罰人事が連合軍で蔓延っていた。ミーナは降格でそれらを結果的に免れたが、連合軍はシッチャカメッチャカであった。日本とドイツをアメリカとイギリスが諌めているものの、両国は執念深く、扶桑系航空部隊は64Fしか実働状態になかった。それをカバーするため、キングス・ユニオンは秘蔵っ子の『グローリアスウィッチーズ』を引っ張り出したが、折しも世代交代期のために練度が結成時より低下しており、64からは『物見遊山に来られても困る』と軽んじられる有様であった。
「グローリアスの連中をあまり前線に出させるなよ。練度の低下が目に余る。世代交代だろうが、あたしらの足手まといになる。物見遊山に来られても困るぞ」
「最高練度の第一大隊は君達の側面に配置する。キングス・ユニオンのメンツを考えてくれ、ケイ」
「メンツで戦争ができっかよ」
圭子はグローリアスウィッチーズを『物見遊山に来た』と辛辣に評価する。当時のブリタニア系部隊としては最高練度の部隊だが、世代を超えた精鋭を集結させた64に比すれば『真っ当な』編成であるため、お互いの平均練度に大きな隔たりがある。ブリタニアとしては精一杯の精鋭部隊だが、64からすれば『中途半端』な練度でしかない。
「連中の箔付けなんだろうが、この戦場は血みどろの殺し合いだ。戦闘機のコックピットに弾丸撃てる度胸なきゃ、生き残れねぇぞ」
「ブリタニアは去年の不祥事以降、かなり選抜したらしいし、再教育も施してるそうだ。予定より古参も多くしてる。彼女らも選抜されておるのだ。君達には及ばんだろうが、精鋭だぞ」
「金メッキのハリボテじゃねぇ事を祈るよ」
64は他国からすれば、明らかに異常な練度の部隊なのが、ロンメルの言動からもわかる一幕である。事変以来の古参が最高幹部で、中堅層も大戦初期からのベテランが引きめく。他も、各戦線のトップを引き抜いて集めたとあれば、通常編成の部隊はどんな部隊も霞む。501と44JVすら取り込んだことから、ダイ・アナザー・デイでの中核となる部隊にのし上がった。ただし、その彼女らも兵站の不備はどうしようもないため、64はあの手この手で処方面から物資と機材を確保し、兵站の維持に奔走している。一飛行隊の範疇を超える人員と機材を抱えているのは、予備も含めてのことである。
「しゃーねー。ACM訓練で連中とタンゴってやるしかないか。世代交代で練度下がってるのは公然の秘密だろうしな」
「それはいいんだが、あれは?」
「綾香がタイムとりもちで確保した震電ストライカーのジェット化の改造だよ。芳佳の旦那が指揮してる。必要な部材はタイムマシンで確保した。芳佳の魔力はレシプロで受け止めるより、ジェットで受け止めたほうが早い」
芳佳の魔力はなのはやフェイトに引けを取らない強さを持つが、その強大さが仇となり、近い将来にマ43でも受け止められなくなるだろうとされ、ジェットストライカーへの機種変更が準備されている。プリキュアへの覚醒で急ぐ必要はないとされたが、準備はするに越したことはない。芳佳用に用意される形で、震電改二ストライカーはこの時期から試作されていたのだ。
「実戦部隊の君等がなぜ新装備の試作を?」
「色々と国内が危ないから、戦線で造らせたほうが安全って奴だ。幸い、宇宙戦艦の設備で造れるから、まずはモックアップからだ」
モックアップは後に制式生産されたストライカーと比べて洗練されていない箇所が多いが、問題点を洗い出し、解消し、国内の製造設備が更新を終えたタイミングで制式生産という段取りにはなっており、前線で新装備の試作がなされるという特異な状況は国内インフラの更新と政治情勢の不穏化という状況で容認された。ロンメルは64は日本が不始末の禊として与えた強大な権限に苦笑いしつつも、扶桑国内の不穏な情勢を憂いる。当時の連合軍はカールスラントの撤兵、キングス・ユニオンの財政的理由でのブリタニア軍の派兵制限も重なり、連合軍というのも『形骸化』し、日本連邦と米英軍が主力となっていた。21世紀でロシアが弱体化し、中国が関わり合いを持たない事もあり、連合軍は変質し、実質的に日本連邦、アメリカ合衆国、イギリスの三カ国が前線を担っていた。カールスラントは日本連邦による政治的な制裁で財政、政治、軍事的に衰退し、実質的に名誉的地位に堕ち始め、日本連邦は海空で主導権を握り始めた。特に大和型戦艦とその発展型は日本連邦の軍事力のシンボルとされ、インフラと運用思想の違いから、単艦戦闘力を増強し続け、ついに56cm砲に達した事は欧州から『戦闘力しか考えていない』と揶揄されるもととなった。未来世界の超技術を背景にして実現したその大口径は大艦巨砲主義の究極。一斉射が命中すれば、欧州の全ての既存戦艦の竜骨を歪めるともされ、日本の大和型戦艦への幻想が理想的に実現したものを生み出した。欧州の小手先の技術を有無を言わさずにぶっ飛ばす『豪腕』、核兵器を物ともしない防御力はまさに戦艦の究極。これはヒンデンブルク号、その後継と思われる戦艦を仮想敵にした結果だ。欧州諸国は戦艦に情熱を注ぐ日本連邦に冷ややかであったが、日本が核兵器の水爆への発達を望まず、それに付随して進歩した潜水艦も発達の方向が一定の制御がなされた結果、戦艦という艦種は生き続け、空母が高額化で調達数が絞られるようになっていく流れとなる。(大規模海戦が絶えていた21世紀からすれば信じられないが、怪異にはミサイル兵器は有効打になりにくいため、大口径砲が備え付けられた軍艦は造られ続けるという切実な理由もある)また、皮肉な事に、万能兵器として噴進弾を使う発想がウィッチ世界にはまだ存在していなかったのも、海軍艦艇の能力差にも繋がった。日本連邦はミサイル・レーザー砲装備が加わったことで当時のいかなる他の海軍の艦艇よりも優れた戦闘能力を持つようになった。その方面では紛れもなく世界最先端であった。――
――その代わりに航空攻撃などで効果が見込めなくなったウィッチの運用は必然的に縮小された。その上位に位置するGウィッチがあらゆる任務に駆り出され、酷使されるのは通常ウィッチの活躍の場が縮小される中、一騎当千の強者である彼女らを代替に当てているというのが上層部の認識である。彼女らのみが有する自由勤務権は事実上の『特権』と言えたが、置かれている戦場が最前線中の最前線であり、64が海兵隊やネイビーシールズ、グリーンベレーもかくやの殴り込み部隊扱いされているために、過酷さと引き換えに容認されている。自由勤務権は『訓練と講義と実戦任務が入る日以外は気ままに過ごしていい』とされ、64Fは基本的にだらける時はだらけ、戦場では一騎当千をモットーとする方針である。この自由勤務権に反対したのがサーシャであり、自発的な移籍という体裁だが、実質的には追放であった。また、その後任のフーベルタ・フォン・ボニンも『発言一つで、いちいち揚げ足取られるのは面倒くさい』とぼやいている。(実際、年功序列の風潮が強い日本連邦の指揮下に入っているので、年長者は立てなくてはならないが。最も、最高実力者揃いの64では、彼女も『青二才』扱いだが)
――午前の講義が終わった昼頃のこと。場所は食堂――
「ここはいったいどうなってるんだ、ハルトマン」
「年長者は事変以来の猛者だよ。本当の撃墜数が四桁に届くような化け物が引きめいてるんだから、あたしらは青二才だよ」
「……人外魔境か、ここは」
「あたし含めた最高幹部は本当に人を超えてるから、笑い事じゃないけどね。ケイさんが言ったでしょ。だから内輪の話を外へ漏らすな、中でなら何言っても構わん、実力が示せたらな、って」
そばをすすりながら、ハルトマンはフーベルタに言う。撃墜数352機(45年3月までの時点)のエーリカも、64では『青二才』扱いされている事を淡々と教える。実際、赤松は事変以前からの軍歴と未来世界の戦闘で合計で600機以上(本人の概算)、レイブンズの三人は合計で数千機を落とした計算である。それより劣る黒田でも700以上と、明らかに異常な数字である。無論、一応は非公式だが、最近は日本向け広報の一環で公認にされつつある。これはハルトマンたち『ドイツ撃墜王』に『個人履歴を粉飾するために集団的に嘘を作っている』という疑惑がかけられ、スコアが参考記録扱いにされたための代替で、実質はドイツ撃墜王への嫌がらせと言える。この疑惑は前線の士気を崩壊寸前に追いやり、立て直すために『埋もれていた』として、扶桑の撃墜王を持ち上げる風潮が生まれ、事変以来の撃墜王である黒江達は一時期の冷遇が嘘のように持ち上げられている。黒江は特に、空自の高官に上り詰めている事もあって『筆頭格』と扱われた。これが日本側に『航空審査部でのいじめ問題』がほじくり返される際の大義名分にされた。ダイ・アナザー・デイ中に決着はしたものの、色々と余波があり、いじめの首謀者達が再就職先の海援隊からも追放され、更にその家族も村八分にされた事がクーデター派を蜂起へ突き動かす事になる。
「ま、あーやとか、まっつぁんと張り合うなって。あの人達は神を守る闘士を兼任してるから、張り合えるのはあたしくらいだよ」
「だーから、それがおかしーんだよ!お前、何気に人外アピールをするな!」
「事実だよ、フーベルタ」
ハルトマンは飛天御剣流の会得後は刀をサーベル風にあつらえて帯刀しており、公にはサーベル使いで通している。また、この頃には王室親衛隊の組織改編の影響で永世爵位を得ており、伯爵位を持つ。雰囲気も以前より幾分かの落ち着きが出てきていた。愛刀も小烏丸系の作りの刀を昭和天皇から忠誠の証に下賜された。そのため、ハルトマンは実質、カールスラント皇室と日本連邦の皇室のお気に入りかつ、両皇室の仲を取り持つ立場となった。
「お前、カールスラントに忠誠心ないなー」
「泣きつかれたから、伯爵位は承諾したけど、家はもう買ってあるからね。ドイツに押されぱなしで、扱いにくいからって予備役にしようとしてたんだよ、あたしを。ドイツ領邦連邦に尽くすつもりはないけど、日本連邦には尽くすよ」
ハルトマンはそばをすすり終えると、食堂を去る。表向き、カールスラント皇室の紋が入ったサーベルを吊っているが、抜くとハバキに菊の紋が入っているのも、ハルトマンの立場を示していた。個人的に日本に好意的なのか、日本連邦には忠誠心があることは明言するのだった。
――こちらはプリキュア達の内、図上演習に参加組。変身した姿をトイレと風呂以外は維持する修行を課されているため、食堂でも変身したままだ――
「ふー。終わった終わったー」
「ドリーム、講義は頭に入ってる?」
「ダイヤモンド、それはないよ。これでも覚醒前はテスト部隊のテスパイだったんだからね。キ44だって乗りこなせるのに」
ぶーたれるドリームだが、素体が叩き上げの職業軍人であるため、生前より基礎能力が改善されており、キュアハートやキュアダイヤモンドに引けを取らない頭脳になっている。もっとも、生前は教諭だったのだが。
「ドリームはまだいいじゃん。戦闘機乗りで。あたしは本業、戦車乗りなんだけどー!」
「あ、先輩が爆笑してたよ。岩にティーガーで乗り上げた事あるんだって?」
「ど、どこでそれを!?」
ハートがガビーンとギャグ顔を見せて涙目になる。正確には逸見エリカとしてだが、はしゃぎすぎて岩に乗り上げ、転輪を破損させたというポカをした事がキュアハートにはある。整備で苦労したため、ティーガー系の整備となると、乾いた笑いが出るという。
「ハッピーからだよ。そっちは大会終わってから来たんだよね?うらら、くるみから伝言は?」
「元気にやってるから、よろしくって。くるみちゃんは前世の記憶が戻ったのは苦笑いしてたけど」
「パルミエ王国のお世話役だったしなぁ、くるみ。で、どういうわけか歴女に転生?かれんさんの感想聞いてみたいなぁ」
「うららちゃんは事務作業とかの関係で来れなくてね。ロゼッタは冬の大会の準備。来てほしかったんだけどなぁ」
「えーと、ありすちゃんの家、戦車道の家元だよね、今は」
「うん。島田愛里寿とややこしいから、今はなるべく、生まれ変わってからの名前で呼んでほしいっていってるけどね」
キュアロゼッタとしての記憶が覚醒めた西住みほはダイ・アナザー・デイに参戦する腹積もりだったが、河嶋桃(アニメとは役職が異なっているとの事)の留年騒動に巻き込まれたため、来たくても来れない状況になったという。そのため、キュアロゼッタは今回の参戦は辞退し、キュアハートのみが参戦したのである。
「あん?そんなのタイムマシン使えばいいやんけ。」
「せ、先輩…。ぶっちゃけすぎです」
「事実だろ。冬の大会の前の日曜日の朝に連れてきて、行った一時間後に帰せば問題ないぜ。ドラえもんに頼んどいてやるよ」
黒江はカレーを大盛りである。カツカレーで、黒江の好みがわかる。
「お前ら、食う時は食っとけ。俺たちが駆け出しだった頃は連戦で食事どころでもなかったからな」
「先輩、カツカレーですか」
「福神漬とらっきょうのダブルトッピングだ。これがまた美味いんだよ」
生物学的には女子である黒江だが、好みは完全に男子である。カレーというと、キュアレモネード/春日野うららを思い出すらしく、懐かしそうな顔を見せるドリーム。
「うららを思い出すなぁ」
「連絡先はケイが教えておいたから、メールでやり取りできるぞ。今度、タブレットに連絡先入れてやる」
「本当ですかー!久しぶりだなぁ」
サンダース大学付属高校に『ナオミ』として在籍している春日野うらら。プリキュア達の会合でのみ、春日野うららとしての振る舞いを見せる。また、のぞみを生前から慕っているのは知られており、後に黒江がデザリアム戦役に参戦させる事となる。
「本当ですよ」
「あ、ブロッサム。今はアリシア・テスタロッサちゃんなんだっけ?」
「ウチの妹がお世話になってます。相方はいませんけど」
「えりかとは同じ大学だったんだよね、わたしの世界だと。だから、挨拶したいけど、まだかぁ」
アリシア・テスタロッサは花咲つぼみとしての記憶が蘇り、ピンクチームの一角を担っている。魔導師としては平凡だが、プリキュアとしては英雄である。魔導師としては戦力以前の問題だが、プリキュアとしては栄えあるピンクチームの一角を担っているので、アンバランスである。
「えりかが来たら、色々と言われると想いますよ。わたしの場合、妹やなのはちゃんに守られてばかりだったのが悔しくて、その意識がキュアブロッサムとしての自分を呼び覚ましたんです。プリキュア・オープン・マイハートしたら、妹が猛烈にツッコんでくるわ、なのはちゃんは血の涙流すし」
キュアブロッサムはフェイトにはツッコまれ、なのはには勝手に血の涙を流されるなど、久しぶりの変身は苦笑いものだったという。ただし、強さは前世と遜色なく、プリキュア・ピンクフォルテウェイブの一撃で並の魔導師では破壊に苦労する兵器を粉砕しており、伊達にピンクチームのプリキュアではないところを見せている。
「うん!?お、おい。思い出したぞ、リンディさんの声、ムーンライトに似てねーか、ブロッサム」
「あ、アハハ…、ま、まっさかぁ〜」
フェイトの義母のリンディ・ハラオウンの声色がキュアムーンライト/月影ゆりに似ている事を思い出した黒江がブロッサムに言う。ブロッサムも否定はできないらしく、乾いた笑いを出す。
「ま、それは置いといて。どうだったの、二人の前で戻った時」
「それはですね…」
ブロッサム曰く、それはミッドチルダ動乱の休戦からしばらくが経ち、ドリームが覚醒めたのとタイミングはほぼ同じころ、ミッドチルダでの映画撮影の合間に起こった出来事だという。
――ミッドチルダ 某日――
「お姉ちゃん、ここは任せて」
「久しぶりに子供の姿に戻ったし、ちょっとした運動に……」
意気込むなのはとフェイト。子供の姿になっているのは映画撮影のためであり、バリアジャケットもそれに合わせたデザインだ。だが、この日のアリシアは違った。研究者としての白衣姿だが、その目は戦士のそれをしていた。
「お姉ちゃん……?」
『プリキュア・オープン・マイ・ハート!!』
アリシアはおもむろにココロパフュームを取り出し、前世の記憶に従い、それを起動させた。妖精達がいなくとも変身ができるのは、転生でのパワーアップなのだろう。なのはとフェイトはこの光景に茫然自失の状態に陥り、声もなかった。
『大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!』
バシッと決めるブロッサム。記憶はこの時には完全に蘇っており、ノリノリだ。なのははここに至り、事を完全に把握し、固まる。声を出したのはフェイトのほうであった。
「お姉ちゃん?!あなた、そんなキャラじゃ無いでしょォォ!!なんで変身してるの?!というか、どうやったの?!」
この狼狽えぶりだ。なのははなのはで…。
「嘘、アリシアちゃんが…プリキュア…!?なんで、あたしはキュアアムールじゃないのぉ〜!」
と、勝手に血の涙を流していた。
「あなた達の悪行…、わたし、堪忍袋の緒が切れました!!」
キメ台詞もバシッと決めたブロッサムはいきなりの必殺技で速攻で決める。
『プリキュア・ピンクフォルテウェェェイブ!!』
タクトから必殺技を放ち、一撃で倒す。並の魔導師では苦戦する兵器を破壊し…。
「ハートキャッチプリキュアは……、伊達ではないです!」
妹の前なので、バシッと決めるブロッサム。と、そこへ…。
「お久しぶりです、なのは」
「し、シュテル!?どうしてここに!?」
「実はあることをブロッサムに伝えに…」
「あ、シュテルさん」
なのはのコピーといえるシュテル・ザ・デストラクターが現れた。この時点ではブロッサムとも面識があるらしい。外見は青年時代のなのはとほぼ同じだが、ショートカットであるのが最大の違いである。そして彼女もアイテムを介し、変身し…。
『みんな大好き、愛のプリキュア!キュアアムール!』
「嘘ぉ!?マシェリがいないのに、変身できたんですかぁ!?」
「はい。いつの間にか…。あ、あの、ブロッサム、なのはは何を…」
「そっとしといたほうが…いいみたいですね…」
あまりのショックで悔し涙を流しながら、付近の壁を殴るなのは。すると……。
「う、うっ!?なに、これ!?」
この時のショックで、なのははシェルブリットに覚醒したわけである。それ以来、なのはは指ぬきグローブをするようになった。そこは前世、あるいはそれ以前での実兄と同じような理由である。話を聞いた一同はなのはがシェルブリットに覚醒めた経緯を自分から語らない理由を知り、苦笑いする。なのはもシェルブリットへの覚醒後は吹っ切ったようで、シェルブリットをフル活用しており、戦法も更に変革した。
「あいつ、変な理由でシェルブリットに覚醒めたんだな。同位体には言えないな、こりゃ」
「ですね。私は生存できる世界線が少ないので、あまり関係はないですけど」
「お前は花咲つぼみで主人公補正持ってるんだから、ゼータク言うな」
「でも、先輩。わたしたち、チートですよね、色んな意味で」
「敵だって、南斗六聖拳や北斗琉拳を要してるかもしれんし、お前らが既存の最強形態で立ち向かってもボコボコにされるから、言われるほどでもねぇよ」
ドリームに適切に返す黒江。実際、ドリームとピーチが最強形態で立ち向かっても、南斗紅鶴拳に歯が立たなかったり、味方の南斗水鳥拳に反応できなかったりと、意外に敵のほうがチートである。しかも、元斗皇拳や北斗神拳になると、プリキュアの優位性も無きに等しい。それら超人に真っ向から対処できるのはのび太やゴルゴだけだ。プリキュアはチートというが、歴代でも上位の力を持つドリームとピーチの最強形態を超人のほうがボコボコにできるというのは、プリキュア達にも驚きの光景だ。今の所、歴代でも最高峰の一角・キュアハートのパルテノンモードのみが真っ向から優位に立てる形態である。
「あたしのパルテノンモードしか互角に戦えなさそうだしねぇ…」
「わたしのシャイニングフォームだって、羽生えてるんだよ?なのに、ボコボコにされちゃうんだよねぇ」
「お前はスペックに自惚れ過ぎなんだよ。デスマスクみたいに。だから、特訓させてるんだろ」
「あたしくらいかな、超人と最初から戦えるの」
「ラブリーもいけるかもしれん。お前は経験が武器なんだし、もっとオツムを回せ」
「うぅ〜。ん?あれ、先輩。りんちゃん、知りません?」
「あいつなら、のび太の部屋だ。お前の結婚の段取りとかを相談してるんだよ」
黒江の言うとおりにそれはしているが、数年後のことなので、ついで程度である。りんはドリーム/のぞみの精神状態について、のび太に相談していたのが本当のところ。
『僕は『受けとめる』ことはできても、一から十まではサポートできない。あの子に近しい立場の君やはーちゃんだからこそ、できるものがあるさ』
のび太はりんにそう言った。近しい立場の者でしかできない事があると。のび太はのぞみの悲しみは受け止められても、その全てをサポートできはしない。だが、りんやはーちゃんならば可能である。ミューズがドリームの闇に言及して、ドリームの闇の謎を解明しようとしたりするのと同様に、りんは出身世界は違えど、幼馴染であるのぞみのためにできる事をしようと、のぞみの義父(壮年期のび太の養子と結婚するため)となるのび太に相談するのだった。
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