外伝その410『ユトランド沖海戦の再来8』


――大海戦の本番まではあと少し。だが、連合軍はそれ以前に消耗しており、実質は二大海軍国の連合艦隊という有様であった。しかしながら、当時の時点では日本連邦海軍(withアメリカ海軍)のみが対艦ミサイルによる視界外交戦能力を有していたため、それを最大限に活かした。それも想定よりウィッチ同士の空中戦が海戦で起きていない理由であった。対艦ミサイルの命中箇所によっては、兵員室で待機していたウィッチを部隊ごと死傷させているからだ。本格交戦までの時間が艦娘や潜水艦隊の奮戦で引き伸ばされた恩恵で、多少の時間の余裕が生まれた連合軍は空母航空団の訓練を開始していた――




――第一航空艦隊(欺瞞のため、第三艦隊と無線符号では呼称。日本向けには史実で後継編成とされた『第一機動艦隊』として公表されるなど、実際に『第一航空艦隊』が基地航空部隊に編成替えされず、空母機動艦隊として存続している事は隠されている。(最も、『日本海軍の第三艦隊』が1940年代には空母機動部隊を指す事は敵味方共に周知されているが)旗艦はプロメテウス級『龍鶴』であり、後の二隻は大鳳の同型艦の名として軽空母から引き継がれるはずであった『龍鳳』、『瑞鳳』の名を引き継いだ。バルキリーを150機も積める設計であるため、より大型の設計のジェット戦闘機でも120機は積めるため、通常兵器主体の空母そのものの数が少ない連合軍には貴重な戦力となった。その艦載機部隊の多くは組織そのものの存在意義が歴史的役目を終えて『儀礼的なもの』になり、すっかり暇を囲っていた地球連邦海軍航空隊から供出されており、彼らは久方ぶりの大艦隊戦に張り切っていた。この時に使われた航空兵器は多種多様であったが、いずれも1944年までは『世界最先端』を自負していたはずのカールスラント技術陣が切歯扼腕するような先進兵器であった――




――扶桑の近代化改修されし三空母は甲板部などが作り直され、アングルド・デッキ装備、エンクロードバウ化され、大型化していた。クレマンソー級航空母艦などを参考にしつつ、上部が作り直されたため、エセックス級の近代化改修型と同等以上の能力を持った。これはまだ艦齢の若い三大空母の早期退役は現実的ではない事からの近代化改修であり、概ね『F-8とA-4、バッカニアなどの運用に耐えられる』能力を与えられた。防衛省からは『場繋ぎの応急処置の代物』と揶揄されてはいるが、1945年の水準で言えば、それらはオーパーツ級の高性能機にあたる。もちろん、搭載可能機数はレシプロ時代より大きく減っているが、搭載機の高性能化で攻撃力はむしろ増している。(A-4やバッカニアが対艦ミサイルを積むため)当時としては最高峰の艦載機であるからだ。当時の扶桑軍在来空母の大半が良くて紫電改(烈風、陣風)、流星、彩雲であったため、この三空母とコア・ファイター運用改修が施された雲龍型の初期三艦は当時のウィッチ世界最高の空母機動部隊と言えた――






――当時、連合軍の空母機動部隊は扶桑に依存する有様だった。リベリオンの離脱で決定的に空母の数が不足し、ブリタニアはまともな『通常空母』が指で数える程度しかなく、大半はウィッチ・コマンド母艦化していた。ガリアはベアルンしかなく、カールスラントはグラーフ・ツェッペリン級の戦力化を遂には放棄している。そのため、扶桑は雲龍型の増産で応じたが、『烈風さえまともに運用できない飛龍の焼き直しを造るな』と頭ごなしに怒鳴られ、二十四番艦が起工した段階で計画が白紙に戻された。扶桑はその代替と、自国産85000トン級空母までの繋ぎとして、緊急でプロメテウス級を五隻以上購入し、その内の練度が高い三隻を動員した。(扶桑にとって予定外だったのは、海軍航空隊の主力になりつつあった基地航空隊が空軍に編入されたのと、601空も『空軍に移籍』させられ、雲龍型の全定数を自前では埋められなくなったこと、後期型が他用途に強引に転用されたため、それらに乗艦予定の海軍航空隊が宙に浮いてしまったことだ。プロメテウス級の定数は規模が縮小した扶桑海軍航空隊では到底満たせないため、地球連邦海軍航空隊と空間騎兵隊航空隊が動員された)自前で宇宙戦艦の運用能力を持つ64Fはその状況をカバーするためもあり、連合艦隊司令部に重宝されていた――






――64Fは各部隊の精鋭を引き抜いて結成されたが、事変世代ではない者は空母着艦訓練は受けたが、その後に陸上に配置されたために『宝の持ち腐れ』感が強い者が多かったため、龍鶴を使っての発着艦訓練が行われた。在来型と違い、幾多の戦争で洗練された着艦誘導システムとアングルド・デッキで安全度も増しているため、着艦難度は在来型よりは低い。プリキュア達も飛行が可能な形態で着艦訓練に参加。通常ウィッチよりは難度は低いが、洋上から見れば『点』のような大きさの空母を探し、着艦するのは意外と難しかった。ただし、着艦コースに乗れば、後は簡単であった。

「ふぅ。意外と難しいなぁ。空から見れば、海に浮かんでる空母は点みたいな大きさだもん」

「旧軍式の空母よりはずっと探しやすいよ。大きさが段違いだしね」

「そうそう。あたし達はユニットの収容装備を使う必要がないし、着地したら翼をしまえばいいだけだからな。それに空母の誘導があるぶん、旧軍の搭乗員よりずっと安全だよ」

プリキュア三羽烏の三人は技能が高いため、スムーズに着艦をこなした。とはいうものの、いくら512mあるとは言え、空から見れば点のような大きさでしかないため、自力で探すのは難しかった。また、船である以上はゆっくりと揺れるため、着艦は意外に難しい。旧日本軍出身の義勇パイロットたちも一様にそう語る。『動く島』と形容される学園艦と違い、通常サイズの空母への着艦は難しいのだ。

「ハート、大丈夫ー?」

「任せてよ。学園艦で訓練はしてたし、こう見えても技能あるつもりだよー?」

キュアハートは最強のパルテノンモードを使っている。飛ぶだけならば、中間形態のエンジェルモードでもいいが、不測の事態に備えるためもあり、パルテノンモードを使っている。第二期プリキュア最強のスーパープリキュアは伊達ではなく、この時点での『シャイニングドリーム』、『エンジェルピーチ』を上回る能力値を誇る。また、通常フォームを魔力で無理矢理に飛ばすのは体力を消費するため、ドリーム達はいずれも飛行能力を持つパワーアップ形態を取っている。

「よっと。まさか訓練でこれになる必要があるとは思ってもみなかったよ。」

「さすが、なれてるね」

「まーね。……あれ、ドリームは一応、この世界での仕事(ショーバイ)はプロの軍人っしょ?」

「あたしは空軍だって。先輩達と違って、空母発着艦訓練は航空士官学校の時に鳳翔(呉で擱座、後に解体)で実習受けたくらいだし、実戦で発着艦したのは赤城型に二度くらいしかないから、シロートだよ」

ドリームは錦としての経験を語る。いずれも旧型の空母での経験である上、回数が数える程度であるから、素人も同然と謙遜する。

「俺らの代は空母にも良く乗せられたもんだが、お前の代になると、事変からの慣習って形の形式的なものになってたからな」

「先輩達はラー・カイラムやアンドロメダに余裕で着艦できるじゃないですか」

「ま、これは慣れだよ。これから否応なしにやるんだし、敵はVT信管がないにしろ、ハリネズミみてぇな対空砲火を撃ってくる。それを黙らせない事には友軍の雷撃も急降下爆撃もできんからな」

「主砲を使ってこないだけマシ、か」

「あれは日本海軍だけの慣習だよ。防衛省の木端役人にはせせら笑られたとか言ってたしな、軍令部の連中。ウチはスカパ・フローでの戦訓だよ」

黒江も言うように、扶桑海軍が対空砲火に主砲を使う理由は『スカパ・フローの悲劇』でカールスラント海軍主力艦隊が為す術もなく怪異に殲滅させられた悲劇の戦訓であった。扶桑は戦艦の主砲弾が怪異に有効であったという戦訓を重視し、三式弾、零式通常弾という専用の砲弾まで開発し、使用してきた。

「史実の『スカパ・フローの自沈』にあたる『スカパ・フローの悲劇』って戦闘が昔にあったんだ。第一次世界大戦の最後の海戦さ。あれで当時のカールスラント帝国海軍の主力は葬られた。ヴィルヘルム2世の次の皇帝が陸軍主義者だったから、再建が放棄されてな。今の皇帝の代で通ったが…」

「ビスマルクとティルピッツができた段階でコケましたからね、国自体が。こっちが大和と武蔵造ったら涙目になってましたし」

「バダンの鹵獲艦の再利用程度で忍ぶあたり、あの国の海軍は潜水艦以外は宛にできなくなったって事だよ。宛になるのはイギリスだけだ。相当に無理してるけどな」

「イギリスの空母部隊は?」

「あそこは空母部隊をやっと整えだしたが、財政破綻を避けるために軍隊の規模を小さくすることで揉めてるよ。空軍の近代化で費用がかかるとかで」

「どこの世界もお金かぁ…」

「金がなきゃ、満足に飛行機の燃料も買えねぇしな。そこがこの界隈の世知辛いとこだよ、ピーチ。熱核エンジンの世代なら気にしないでいいが、化石燃料を使って飛ぶ世代の飛行機は燃費性能も評価の基準だしな」

「この時代、ジェットは大飯食らいって思われてたからなのよ。たしか、ドイツのメッサーシュミットMe262なんて、2570リットルの燃料を機内搭載して、300リットルの増槽を二個もつけても飛行時間は長くないはずだし、空軍の幹部は嫌うはずよ」

「それだよ、ダイヤモンド。ミーナのアホがまだ『覚醒する』前、せっかく俺たちが持ち込んだ機体を使わせなかったのは燃費を気にしてたからだそうだ。熱核融合エンジンは宇宙はともかく、地上で使う分には反応物質さえ入れれば、数ヶ月くらい動くってハルトマンが教えたから良かったが、あいつはとんだ赤っ恥だった。それから覚醒の兆候が出始めたってのは皮肉なもんだけど」

「まぁ、そうでなくてもフェリー飛行なら、相当に飛べるのが1970年代には現れてるし、ジェットエンジンの燃費は70年の間にずいぶん良くなったのだけど…、あの『大尉』さんは思い込みが強いのね」

「今は違うが、当時はな」

「ミーナさん、元は報告書とかを細かくチェックしないらしかったからなー。坂本先輩も苦笑いしてたよ、ダイヤモンド」

キュアダイヤモンドにもそう酷評された『ミーナの覚醒の始まりのきっかけになった出来事』。坂本が元々、報告書を書かずに口頭で伝えていたり、ハルトマンの関係でバルクホルンも口頭で伝えていたため、報告書というのは501では形式上のものとなっていた。だが、黒江達の着任で環境が一変した事がその慣習を吹き飛ばすきっかけとなり、最終的に本人が『西住まほ』の人格に目覚めたことで報告書を書くことはそれなりに増えた。『まほ』自身が寡黙で実直な性格であるからだ。(ちなみにキュアハート/相田マナは現在の出身世界では、黒森峰女学園で『逸見エリカ』として、まほの配下であったので、その惰性でまほを『隊長』と呼んでいる)もっとも、西住流の責務から解放されたため、まほも饒舌になっているほうであるが。」

「ま、西住まほになってくれて良かったぜ。坂本とつるんでるだけでジェラシーされちゃ、構わんよ」

「元は案外に嫉妬しやすくて、自分の大切な人が傷つくとヒステリックになりがちだって、エーリカさんが言ってましたよ、先輩」

「それでよく、中佐になれたもんだ」

『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ』の評価は黒江達への大義なき冷遇、更に強いストレスがかかった事により、突発的に強度のヒステリーを顕にしたことで暴落した。だが、実質的にその立場を受け継いだ西住まほの努力と献身により、持ち直しつつあった。

「あの人の降格が二階級で済んだのは?」

「軍法会議で下士官、あるいは二等兵まで下げる案もあったんだが、大した罪じゃないのに、士官学校卒を下士官にまで下げられないし、現場がエディタ・ノイマン大佐の降格と左遷で萎縮してるし、実績もあるから、二階級だけで済んだんだ。大佐昇進は確実視されてたからな、あいつ」

ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは大佐昇進間近と言われたが、ここのところの『奇行』(表向き、厳しさを増した戦況による心労とされる)で療養を命じられたが、実際は『西住まほ』として極秘裏に第1降下装甲師団へ出向していた。(同師団は元々、ヘルマン・ゲーリングの配下として組織されていたが、ゲーリングの軍事的権限を取り上げる過程で彼から切り離され、最終的にケッセルリンクの配下となった。史実の残虐行為を理由に『部隊員を復員させての解散』という選択肢がドイツ側から掲示されていたが、カールスラント側がそれを拒み、ケッセルリンク配下にすることで存続させた。これは既に同部隊が軍団規模に膨れ上がっていた上に、代替となるであろう装甲部隊の本土での早急な編成が困難になったからだ)

「隊長を第一降下装甲師団になんで出向させたんですか?」

「まだ空軍の管轄だからさ。それに、ドイツ側があの部隊の人員をリストラするわけにもいかなくなったから、使い潰す方向になった」


黒江はキュアハートへ『ミーナ(内実は西住まほ)を第一降下装甲師団に出向させた理由を教える。同師団はまだ正式には空軍の管轄である事、ドイツ側も軍団規模にまで膨れ上がった同師団の取り扱いに難儀し、ゲーリングの私兵との批判がある同師団の解散が潰えたため、前線で消耗させた後に他部隊に吸収させるという自然消滅案を事実上採択。また、電子技術で完全にリベリオンに遅れを取っていた事を突きつけられたカールスラント技術陣は奮起したが、如何せん、技術者の流出と予算削減はどうにもならず、カールスラントは一挙に頼りの軍事力が没落していく。その様を目撃してゆく事になるウルスラ・ハルトマン。ここから二年後、ドイツ主導の軍縮が収まった時、同国に残されたものは『夢の跡の瓦礫』と表現されるほどに見るも無残に衰えた軍隊であり、そこから物的に再建するのに十数年単位の時間を擁するが、『祖国奪還』に代わるモチベーションを新たに与えるのにはさらなる時間を費やす事になる。








――ちなみに、カールスラント海軍が現在の『田舎海軍』と言われるにまで落ちぶれた最大の理由は『スカパ・フローの悲劇』で主力艦艇のほぼ全てを失った事、皇帝が現帝の父に交代した後は悲劇を起こした海軍に極めて冷淡であった事、現帝への交代から10年と経たぬ内に怪異の第二次侵攻で国ごと疎開したことで『Z計画』は放棄され、その後はドイツ連邦の介入で沿岸海軍化が進められることもあり、第一次世界大戦で持っていた『世界屈指の海軍の地位』に戻ることは叶わぬ夢と成り果てていく。その代替にと欧州が強大化を進めたガリア海軍も四散し、見る影もないほど没落。また、戦乱でブリタニアの経済が傾いたこともあり、残った大海軍である扶桑海軍の近代化を軍隊の大規模化を渋る日本国を連合国が押し切る形で実行したわけだ。その結果、扶桑海軍は内情はどうであれ、新戦艦を十隻以上、空母は超大型を五隻以上有する強大な海軍となった。日本は空母の大型化と大型戦闘艦艇の維持費で自然に『海軍のシェイプアップ』ができると考えていたが、実際は連合国の要請で大規模化をせねばならぬ事になり、日本の市民団体などは切歯扼腕している。彼らは自国、ひいては自らの福利厚生の充実にしか興味がないからである。他国の多くは同位国の圧力に屈し、軍縮を嫌々ながら行っていくため、扶桑は必然的に東洋の新たな超大国としての歩みを始める。軍縮の過程で削減の対象とされた筆頭がウィッチ部隊であった。自衛隊内の組織ながら、別管理の組織である『MAT』はこの時期に復員した各国ウィッチを取り込み、組織としての勃興期を迎えるが、それは軍ウィッチの斜陽化と同期してのものであったため、時代が変われば、立場は逆転する。45年当時にMATの勃興の背景にあったのは、当時の中堅ウィッチの多くが抱いた『同士討ち』への忌避感と『雇用不安』であったためだ。――



「先輩、これからどうなるんですか、この世界」

「この世界はティターンズとネオ・ジオンに間接的に支配されようとしてる。なら、それを止めるしかないだろ。連中のやることはザビ家とそんな変わらんような事だし、連邦にも一年戦争中からニュータイプを人工的に作ろうとして、その実験で薬物依存の廃人を出しまくった記録があるし、障害者用の義肢を軍事転用して、傷痍軍人を強引に戦わす研究までしてたジオン軍(成就はしたが、ジオンの試作機は失われたという)はなんでもやる。億単位の人間を大陸の地殻ごと消したり、同胞のルウムとかの人々を殺しときながら、ぬけぬけと自治権のための戦と抜かしやがる。その矛盾に気がついて、アナーキズムに傾倒した元兵士だっているんだしな」

ティターンズ、ネオ・ジオンは共にウィッチ世界にとっては『超兵器を振りかざし、盟主を気取る連中』でしかないはずだが、リベリオンの人々は有色人種への人種差別が『消えた』ことから、有色人種はそれを歓迎し、逆に白人種を被差別層に追いやっている。扶桑移民による国『瑞穂国』を虐殺して消滅させたというリベリオンの『負の歴史』への大規模な報復として。リベリオンは旧ソ連の大粛清期さながらの統制国家と化していた。(後に半世紀ほどの冷戦になった背景は自由リベリオンの帰還による政権奪還で『元の木阿弥』に戻ることを有色人種らがティターンズ政権を存続させたからだが、中央政府の統制から抜けた地域ではミリシャが乱立し、その掃討に長い時間を費やしたこともあり、双方のリベリオンの対立は首脳陣の世代交代もあり、1980年代には『形式的なもの』とまで言われるようになり、1991年に本国側が政権交代の影響で『自由リベリオンに本国政権を編入する』形を受け入れ、再統一される。要は東西ドイツと似た道を歩んだが、本国側は来る太平洋戦争で『実質は敗北』している事が違いだが、扶桑の極端な超大国化を阻止したい諸勢力が暗躍し、ティターンズ政権をなんだかんだで史実東ドイツと同程度くらいの歳月は存続させ、扶桑の極端な突出を恐れる諸国による扶桑への対立陣営が生まれ、それは数十年は存続する事になる。扶桑は超大国として、新たな世界での対立軸の片方を演じなくてはならない。史実で言うアメリカ合衆国の役目を担う者として。

「おそらく、次の戦に勝ったとしても、冷戦構造ができる『ビターエンド』にしかならんだろう。奴らが歴史の流れを史実と似た流れに引き戻しつつあるからな。だが、それでもやらなくちゃならん。ナチスみたいな、あからさまなものでないにしろ、強い選民意識が蔓延って、最下層は人間扱いされんディストピアな世界が実現しちまうよりは、たとえ最悪と言われようと、民主制は人の産んだ政治体制ではまともな部類のシステムだ。それで動く世界のほうが実質の恐怖政治よりはよっぽど正気だ」

「先輩、持論あるんですね」

「そうでなきゃ、23世紀の内戦でいつも地球連邦が勝つ理由がないだろうが」

黒江は現実主義者の側面を見せる。ドラえもんの影響であろう。ドラえもんは厳格な現実主義者で、『どっちも正しいと思ってるよ、戦争はそんなもんだよ』という名言を放っている。ちなみにしずかも『このまま独裁者に負けちゃうなんて、あんまり惨めじゃない!』という名言をピリカ星での大冒険の際に残していることから、のび太達はドラえもんの影響でリアリストに成長した節がある。

「ドラえもんも言ってたが、力には力しかないのさ。ただし、ある力に頼れば、より強い力に滅ぼされる。白色彗星帝国のズォーダー大帝も言った言葉だ」

「身につまされますよ、今のあたしにとっては耳が痛いことですから…」

「お前は前世で大人になった後、プリキュアの力を使うことで自分の存在への承認欲を満たそうとした。それが間違いのもとだった。いいか、お前には仲間がいる事を忘れんな。俺も一時は復讐に躍起になった事があるから、わかるんだよ。たとえチームが違えど、大事にしろよ?」

「先輩…」

「黒江さんの言う通りだぞ、のぞみ。あたしやラブが、いや、チームを超えた仲間がいる。それを忘れんなよ?」

「響……」

シャーリーとしての面倒見の良さからか、ドリームの背中をバンと叩きつつ、微笑むキュアメロディ。マカロンから話を聞いていたらしく、黒江の話の流れに乗った。ピーチとハートもダイヤモンドも場の空気を読み、咄嗟にドリームへ優しく微笑みつつ、言葉をかける。

「みんな…、。あたし…、あたしは…。」

「何も言わないでいいよ、のぞみちゃん。あたしたちは分かってるから」

「咲さんやなぎささんも、きっと許してくれるよ」

「そうよ。一人で抱え込まないで。あなたのそんな姿、ココは望んでないわ。あなたにはいつも笑顔でいてほしいって言ってたわ」

「ラブちゃん、マナちゃん、六花ちゃん……!」

皆の言葉に感動し、瞳をうるうるさせるドリーム。この時に与えられた感動と共有感はのぞみが後にりんの記憶喪失で生じた怒りと狂気を振り切るための『光』になり、続くキュアアクアとミントの登場が決定打となって、完全に正気を取り戻す。キュアマカロン考案、黒江とメロディ達が仕掛けた『キュアドリームの闇落ちフラグ潰し大作戦』はこの時から既に始まっていた。



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