外伝その430『激闘』
――救出作戦は成功した。問題はドリームへの輸血だった。幸い、のび太がのぞみと同じ血液型(正確には、肉体の素体になった中島錦とだが)であったため、のび太が輸血を行った。かなりを輸血したため、のび太も輸血後は休養をとった。のぞみはプリキュア姿のままで48時間以上も寝てしまっていた事に慌てるが、基地の医務室に運ばれた事がわかり、安堵する。――
「お、起きたか」
「し、シャーリー!あたし、どのくらい?」
「50時間超えだな。お前、相当に弱ってたからな。変身したままでの処置をせざるを得なかったそうだ。50時間以上もあったから、だいぶ回復はしたはずだ」
「鞭でつけられた傷がないようだけど…?」
「みゆき(芳佳)が治癒魔法で傷は消した。お前も相当に拷問されたんだな」
「あと一歩で心が折れそうだったよ…」
「そうだ。のび太に感謝しろよ?お前と血液型が同じだったから、輸血してくれたんだ。相当に輸血したから、今は休んでる」
「あとでお礼言わないとなぁ」
「あ、お前の体力が回復したら、きびしー修行だそうだ。あたしらを聖闘士級の戦闘レベルに引き上げたいそうだ」
「先輩もきびしーな」
「しかたねーよ。未来世界には素手でビルを蹴り上げるようなバケモンがいるんだ。それと拳を打ち合えるレベルにならねーと、ヤツとは戦いにもならないしな」
「ZERO?」
「そうだ。つぼみは和解を模索しろと言ってるが、みらいは故郷を滅ぼされてんだ。みらいの気持ちも考えろって叱っといた。とは言え、その選択を否定はしねーけどな」
シャーリーはマジンガーZEROとの和解の可能性を否定はしないが、みらいが故郷を滅ぼされた手前、つぼみに釘を刺した事を伝える。ZEROと和解するまでのプロセスがかなりの長丁場になったのは、朝日奈みらいが気持ちに整理をつけるまでの時間が必要になったためだ。
「つぼみちゃんは優しすぎるからね」
「それがあいつの美点だけど、そこがあいつの弱さでもあるからな」
二人はつぼみが第一期プリキュアのピンクでは『最も温厚で優しい』事をよく知っているが、時には激しさも必要であるのだと、つぼみを見て思っている。(スイッチが入れば歴代ピンク同様に積極的になるが、本質的には戦士向けの気質ではないとも言える)
「あの子があたしに勇気をくれたんだ。前世での子供の生まれ変わりと出会ったら、どうすべきかって。だから、ZEROとわかりあえない可能性はないわけじゃない。みらいちゃんの手前、公には言わないけれど、模索はするよ」
「それがいい」
二人は今や立場が似たため、話す機会も増えていた。シャーリーは前世での名の一つ『北条響』で呼んでもらいたいが、同名の立花響との混同を避けるため、シャーリーと呼ばれ続ける。そこには不満があるが、仕方がないことでもあった。
「ローテーションには誰が?」
「調が任官されて戻って来たから、少佐が小手調べも兼ねて加えた。もっとも、ベルカで鳴らしてたんなら、基礎はできてるはずだ」
「多分……、あの子。先輩の資質を受け継いだはずだから、接近戦の鬼だよ。斬艦刀も使えるはず」
「聖闘士にもなったからな。違うのは、ベルカの騎士道に染まってるかどうかか」
「だね。機体は?」
「予備のキ100だそうだ」
「あたしがいりゃ、キ44Vを使わせるんだけどな」
「あれ、量産中止だろ?」
「あたしがテストした機体だよ?手応え良かったんだけどね。R-2800積んで、性能が上がったから、量産も内定してたってのに」
正確には錦の記憶からの発言だが、キ44(二式戦闘機/戦闘脚)には2000馬力級発動機を積んで機体に手を入れた三型の製造が内定していたのは事実だ。扶桑はキ84をウィッチ嚮導機として位置づけていたため、キ44の後継機種と認識していた日本側と齟齬が生じた結果、キ84は当初の思惑を外れた『四式戦闘機』として戦場に出る事を余儀なくされた。偵察用途を主務にしていた機体(外観は史実通り)を純然たる戦闘用へ手直しするには時間がかかり、甲型(初期生産機)はキ44-V試作機から臨時改装であり、国産エンジンとのマッチングも良くなかった。それが低評価の一因だ。史実の乙型相当の実力を持つ機体はダイ・アナザー・デイ開始には間に合わなかった。義勇兵はキ84よりもキ100を評価し、同機を用いたため、キ84はダイ・アナザー・デイではあまり用いられていない(性能特性の似る紫電改が良好な性能を示したためでもある)。また、ストライカーにも『欠陥』が指摘され、大規模生産はされずじまい。(後に武子も味わう事になる重大なもの)結果、キ84は『どっちつかずの機体』と評価されてしまうが、史実の乙型相当に改装された機体は高性能を発揮したため、キ44の代替機扱いで生産は細々と続く。キ44の史実と似た道であるが、本国に評価されている分、幾分かはマシだったと言える。
「国産エンジンに変更は?」
「R-2800の搭載を前提にしてたもんだから、国産品はそのままじゃ使えないってっさ」
「かわいそうにな。採用取り消しか?」
「長島は再設計を急いでるけど、多分、キ100の配備が優先されてる都合で、あまり出回んないと思うよ。義勇兵から評判も伝わってるだろうし」
疾風の不幸は『高性能だが、前線では扱いかねる機体である』という評価が出回っていた点だろう。キ100が隼の後継機種扱いで緊急増産され、三式戦闘機のラインの殆どを潰してまで生産され、消耗している。不評の液冷エンジンを空冷に変えたら、瓢箪から駒な様相であった事にキ61の開発陣は複雑だろう。メッサーシュミットの猿真似と揶揄され、『動かすと壊れる』という悪評まである機体の頭を取り替えただけで『欧州決戦機』になってしまうというのは液冷エンジン機に心血を注いできた川滝にとっては、とんでもない冷や水であったのは想像に難くない。とは言え、今後のジェット機製造に必要な資金の確保のためにキ100の存在は不可欠であり、『不本意ながらのベストセラー製品』になった。のぞみも『キ100は古参受けする』と評価しており、実際に多くの古参が愛機としている。
「史実でだと、五式戦闘機ってんだっけ?」
「そそ。ただ、正式な採用通知はなかった説も出てきたらしいけど、末期に300機以上も出たんだから、制式採用されてたんでしょ。飛燕の首挿げ替え機が隼の正式後継になって、日本最後の制式レシプロ戦闘機の座を射止めるなんて、川滝も思っちゃいないだろうなぁ」
当時、キ100は日本にとっては『F-86以降のジェット戦闘機への移行までのストップギャップ』という位置づけであり、性能より稼働率を重視しての場繋ぎ的採用だった。とは言え、キ61までの通常航空機の生産数が史実の半分も行かないケースが続々と判明したため、キ84を戦闘機として設計変更させた上で生産させ、ラインを川滝が一定程度は整備済みのキ100が決戦機扱いで大量生産された。陸軍機であったため、陸上基地での使用に限られていたが、扶桑からすれば『異例の数』が短時間で製造され、前線で消耗されているのだ。
「で、この戦いでの実質の主力の一つか」
「黒田先輩曰く、キ61の改変で済むから、予め生産ラインが整ってたんだって。それで疾風が手間取ってる内に一気に」
「隼は三型にしたところでベアに勝てるか微妙だし、鍾馗は三型にしても、疾風に切り替えたほうが良いと判断された。だけど、その疾風が別用途主体だったから、揉めたんだろ?」
「長島は燃料タンクを弾倉と取り替えられるようにしてあると言い訳したけど、12.7ミリ前提だったから、20ミリにはそのままじゃ合わない。それで翼をすげ替えるしか無くなったのさ」
「それで時間がかかってんのか?」
「20ミリどころか、25ミリ砲を装備できる主翼にすべきって指示があったからね。それで再設計が大規模になったそうな。妹から連絡があってね」
「お前の転生先での、か」
「そそ。工科学校で再教育が決まったって、この間、電話で愚痴ってた。ウチ、親戚が長島の創業者の悪友でね。その関係で内部情報入んだ。ドラケンのライセンス生産の契約は交わしたって」
「何、あそこにドラケンを?」
「アメリカ系は宮菱に生産させるから、変わり種を長島に押し付けたんだろうな。史実だと航空産業から一端は手を引いたから、あそこ。ま、長島は粗製乱造って先入観もあるし、同位の会社だった中島飛行機ののイメージをそのまま当てはめてるんだろうね」
「先方には迷惑な話だな」
「生産できる工場は長島のほうが多いけど、半分近くが大型機の製造で埋まったらしいし、ジェット機の時代の実績は宮菱、つまりは三菱重工業の右に出るものはいない。そういうことだね」
「そんなんで、この戦いの需要は満たせねぇだろ?」
「だから、ドラえもんくんが地下に軍の工廠を整えたんだよ、シャーリー。それと、連合軍でエンジン部品を共通化してるのが伝わったの、この戦いの最中だよ?それで飛燕を手放さない部隊が出たのさ」
ドラえもんが整えた地下工廠はダイ・アナザー・デイの戦況もたけなわである、この時期から稼働を始めており、ゼントラーディ由来の自動工作機械も導入されたため、一週間で800機を超えるキ100が製造され、送り込まれている。自動工作機械の効果は凄まじく、連合軍がダイ・アナザー・デイでジェット機をとりあえずだが、部隊を一定数組める数までは揃えられた理由ともなった。現場の混乱は日本側の認識と違い、エンジン部品などは連合軍で前々から共通化されていて、飛燕の稼働率確保の手段として、『オリジナルのエンジンへの換装』が行われていたのを日本側が認識するのが『メーカー推奨外のエンジンへの換装の禁止令』の布告がなされた後のことだったからだ。その布告の煽りを受けたのがキ44(鍾馗)三型だが、R-2800のライセンス生産の頓挫、糸川博士の『国産エンジン前提では設計しなかった』という一言もあっての量産中止である。この布告は後の太平洋戦線では事実上は撤廃される。ダイ・アナザー・デイでは現場の判断での共食い整備も横行したからだ。整備部品・燃料供給では最優先されていた64Fでさえ、激戦で欧州系ユニットの予備部品が尽きてしまい、第三週目からは扶桑系レシプロストライカーを『航続距離の都合』もあり、多くが使用した。例外は自由リベリオンから供給が受けられたシャーリーくらいなものだ。
「欧州系ストライカーの予備部品が在庫切れになった。カールスラントやブリタニアに補給を頼んだら、カールスラントはドイツの横槍で兵器の生産数を絞りやがったせいで、バルクホルンやハルトマンにも部品が回せねぇと言い訳しやがった。ブリタニアはジェットへの切り替えで新規受注を絞ってる。自由リベリオンはそもそも体裁整えるので精一杯。扶桑機を使わせるしか手が無くなった」
「数を揃えられるからねぇ。欧州のみんなはなんて?」
「一撃離脱戦法がミサイルの乱れ飛ぶ状況で陳腐化した関係で喜んでたよ。ただ、多くが欧州系に比べたら、被弾に弱めの構造なのはぶーたれたけど」
「仕方ないよ。日本系の機体は旋回半径の小ささ命で、旋回力やロール率も二の次なのが多いから。後期のはだいぶ改善されたけどね」
「バルクホルンとエーリカには紫電改を使わせてある。カールスラント系の連中は格闘戦は重視しないの多いけど、ミサイルを避けられる機動性は必要だからな」
シャーリーは前世が日本人なので、臨時で取り寄せる機材の分配を担当した。イリヤやクロなど、ユニットを必要としない飛行魔法が使える者もいるが、大多数はユニットが必要なので、扶桑から取り寄せるしか選択肢がなかった。坂本は飛行長を拝命した都合で、事実上は一線を退いたため、哨戒任務はバルクホルンが指揮を取るようになったのだ。
――空中――
バルクホルン指揮下の中隊はF6F、F4Uの戦闘爆撃部隊と遭遇。少数対多数の不利な戦闘に入っていた。欧州系のユニットが補給不能になり、使用不可になった都合で皆が所属国の標識をつけた扶桑のストライカーユニットを使っていたが、性能特性の相性では、そのほうが却って良かった。
「うわっと!今の、メッサーなら当たってたな……」
ヴァルトルート・クルピンスキーは実質の二番機扱いとして戦った。使用機はキ100である。同機は元が『和製メッサー』の異名であった飛燕なので、彼女の戦法に合致していた。F6Fの機銃のシャワーを上手いこと躱し、装甲化されていない箇所である翼を狙う。片翼の補助翼を吹き飛ばされたF6Fはロールを止められずに制御を失い、操縦不能となって墜落していく。
「ふぅ。場合によっちゃ、コクピットを撃たなきゃならないってのは嫌になるな。だけど、ひかりちゃんにはさせられないし、ボクがやるしかないか」
クルピンスキー(愛称は伯爵。爵位はこの時点では持っているわけではないが、雰囲気で決められた渾名。しかし、後年まで現役を続けたためか、数十年後に本当に伯爵位を叙爵してしまう)は歴戦の勇士であるため、割り切った上でダイ・アナザー・デイを戦っている。その上で『今の空は残酷すぎる』とも公言している。そこはカールスラント・エクソダス以来の古参であった故のニヒイズムを感じさせている点だ。
「みんな、グラマンの装甲化されてる胴体を狙っても無駄だ!!翼そのものか、エルロン、あるいは垂直尾翼をぶっ飛ばせ!」
「了解!!」
この頃はF-86の調整が全員分は済んでおらず、予備部品の備蓄に務める必要もあるため、使用は控えられていた。その関係と欧州系在来型の補給が途絶えたため、扶桑系に切り替えざるを得なかったが、史実で言うところの性能特性で米軍機より秀でたところがある日本機は米軍機との戦いを楽にする一因であった。この戦闘には、実戦での初陣であり、本来は偵察隊所属の雁淵ひかりも参加していた。だが、もろ他の要因でミーナが覚醒前に組んでいたローテーションを根本で見直している最中であるための臨時措置であった。(自前で空を飛べる魔法少女や魔導師、スーパーロボットの力を行使できる者が現れたため)
「なんか、妙な気分です。体験してないはずの出来事の記憶が宿るなんて」
「神様の与えたお前へのプレゼントだろう。そうでなきゃ、アクの強い連中とはやっていけないさ」
ひかりには史実の出来事の記憶が宿っていた。『本来の物語における主人公』だからだろう。そのおかげで、旧502の面々と打ち解ける事に成功し、史実の戦闘の記憶が宿ったため、動きも熟練者のそれに変貌。錚々たる面々に追従可能になっていた。その関係でローテーションに組み込まれ、戦闘メンバーとしての初陣となった。記憶がいきなりポッと出た形なので、当人もアテにしていないが、戦闘の心構えでの補助にはなっている。
「でも、シャーリーさん。貴方がストライカーで出るのは久しぶりですよね」
「ま、最近はプリキュアとして戦ってたからな。あたしは軽傷だったんで、すぐに復帰できたけど」
「なら、なんで、ウィッチとしても出てるんですか?」
「表向きは別人扱いだからさ。上の判断だよ、上の」
シャーリーはこの時期に少佐への昇進が野戦任官(後に正式に任官)という形で行われた。本来は本国への教官任務での帰還命令が出ていたが、分裂で有耶無耶になったために階級の昇進だけが行われた。同時に前線任務が固定化した。プリキュア化で北条響名義の軍籍を手に入れたからだ。また、徐々に紅月カレンのガサツで勝ち気な気質が強まり、性格が荒くなり、教官任務向きでは無くなったためでもある。他には、シャーリーほどの手練を後方で教官にして『遊ばせる』のは、前線戦力の損失と判断した日本連邦の判断でもあった。手持ちの手練を全て前線に『つぎ込む』という日本連邦のドクトリンは批判も多いが、未来世界におけるキマイラ隊とロンド・ベルを生むきっかけとなるため、その結果を見るなら、後世に多大な影響を及ぼしたと言える。(ウィッチ教育体制が事実上の大転換を強いられたこの時期には、前線の既存人員の配置転換は『手隙の戦線から前線に引き抜く』形が大半であったが、地上空母の猛攻で前線にいた航空ウィッチの大半は負傷で後送されたという有様で、もはや64Fの手練しか実働部隊がいなかった。また、教育隊教官の引き抜きも実質的に禁止されたため、64Fは既存人員とそれまでに合流した人員をやりくりして戦うしかなかった)
「交代要員も10人ちょいしか来れなかったから、偵察隊の交代要員に割くとなると、あたしらは休み無しだ。捕虜になって、拷問された後でも、な」
「なんですか、それ」
「111Fと112Fの存在理由になる発令が無かったことにされたから、船に乗って運ばれてた数十人の交代要員が部隊ごと軟禁されたんだ。大鷹で来てた十数人を64Fに回すのは認めるけど、後は防空や他戦線の補充に充てるしかなかったって話だ。可哀想だから、従軍記章の対象にするらしい」
「日本の勘違いですよね、それ」
「言い訳が『特攻に使うかと…』だってよ。南雲機動部隊が健在な時点で違うのわかるのに。警察出向組のデタラメ知識は困るぜ」
日本の警察出向組の防衛官僚たちはバリエーション豊かな言い訳をあの手この手でしまくり、言うことは自らの保身ばかりで、現場の実情を知る生え抜き防衛官僚を悩ませていた。シャーリーをしてこうも言わせるほど、『東二号作戦』頓挫の影響は大きく、現場の士気低下を招いた。日本の禊は『秘匿兵器の投入と指揮権の黒江への一任』だが、扶桑は現場の士気低下を大義名分に、廃止検討段階であった従軍記章や金鵄勲章の存続を日本に呑ませる。自衛隊から受賞対象者が生じた事、ダイ・アナザー・デイに実際に従軍できなかったウィッチが多数に登ったことの不満解消のためであった。その結果、日本の一部が強硬に推した『防衛紀念章の扶桑軍人への授与と、功ある高官経験者へは金鵄勲章に代わり、瑞光章を与え、佐官までの者には銀杯と感状の授与、高額の一時金の支払いで済ませる』案は三度流れた。この時は自らの失態が原因の混乱であるため、彼らの弁明は虚しいのみであり、教育隊教官の肩身を現場で狭くするのみであった。それまでのウィッチ教育体制の実質的崩壊も重なり、のぞみは予備士官への身分の移行と、普段の職業の教職への転換を諦めるしかなく、代替的に戦後に教育隊へ出向する道を歩む事になる。
「なんで、そういう人たちが偉いようにしてるんですか?」
「戦後日本では警察が軍隊より偉くなったからさ。軍事関係者は日陰の存在扱いだったわけだ。21世紀には均衡してきたらしいが、昭和のうちは酷かったって話だ」
「負ける戦争した軍隊に責任押し付ければ、全て良かったからね。その後釜の自衛隊は苦労の連続さ。1990年代から災害派遣や国際貢献が増えだしてからだよ、巷の扱いが良くなったのは」
「その名残りで、日本連邦ができても、史実の情報っていう武器で扶桑を抑え込みにかかったのさ。無知な反戦的市民団体も加わって、扶桑のウィッチ教育は崩壊しちまった。転換を急いでるけど、次の戦線が始まるまでには間に合わないだろうな」
「お前は幸運だよ、出征済みだから。その他の連中は訓練学校が近代的な工科学校に切り替わった影響で教育のし直しだって」
「ウィッチの階級調整もそうだけど、日本の防衛官僚は碌なことしねぇって話だ」
ハルトマンとシャーリーは日本の防衛官僚に不愉快にさせられていると、ひかりへはっきり言った。階級調整にはスコア精査による実績評価という大義名分はあったが、スコアを記録する文化の薄かった扶桑軍航空部隊に大混乱をもたらすだけで、他の国の軍人の評価にも悪影響をもたらした。シャーリーとハルトマンは未来世界でも戦果を挙げていたため、影響は実質的に無かったが、クルピンスキーやロスマン、グンドュラなどは『スコアの集団粉飾』疑惑が持たれてしまったウィッチである。JG52(第52戦闘飛行団)の栄光に冷水を浴びせられたため、部隊の名誉回復も兼ねて、元の所属メンバーはその後も最前線にあり続けるわけだ。それは扶桑最強を謳われた七勇士も同様で、メンバーの大半は黒江を含めて、定年まで前線任務がキャリアの大半を占めた。また、七勇士は本来、扶桑海事変を戦い抜いた七人を指すが、その一人だった坂本が一線を退いたこの時期からは、黒江の腹心であり、坂本の意思を空軍で継いだ西沢義子を含めるようになる。西沢は事変後の志願だが、坂本が『宮藤の空軍での後見を頼む』と言ったため、実質的に戦士としての坂本の衣鉢を継ぐことになった。若本徹子が海軍に残り、竹井醇子はプリキュアに転じたため、任せられるのが西沢しかいなかったからだ。(もっとも、芳佳もプリキュアに覚醒めていたが)
「まだまだ来ますよ」
「へ、戦争末期の日本軍の気持ちわかるぜ」
悪態を突くシャーリーだが、楽観はできない身だ。手持ちの弾より敵が多いからである。空戦をしつつ、残弾を気にする。
「クソ、グラマン鉄工所も敵に回すと、冗談じゃねぇぜ……」
F6Fは頑丈な構造で、シャーリーの攻撃を防いでしまう。久しぶりのストライカーでの出撃だったのもあり、精彩を欠いていた彼女は事もあろうに、サッチウィーブの二機目が突っ込んでくるのに対応が遅れてしまった。
「しまっ……!」
うかつな自分を責めたくなったシャーリーだが、思わぬ味方が救ってくれた。調である。とっさにデバイス『エクスキャリバー』にシュルシャガナの炎剣としての霊格を宿させ、F6Fを一刀両断せしめる。
「迂闊ですよ、シャーリーさん」
「お前か…。助かったぜ。そのデバイスが?」
「向こうで使ってたのをレストアしたんです。師匠と入れ替わった原因でもあるけれど、エクスキャリバー。今は聖剣の霊格を憑依させてるんで、レシプロ戦闘機はプリンみたいに斬れます」
「お前、黒江さんの影響がかなり出たなぁ」
「師匠のスキルを引き継いだ上で、古代ベルカで名が売れるくらいにまでいきましたからね。斬艦刀も頼んでます」
調のデバイスは『いた時代が時代』なのか、シグナムのレヴァンティンと同系統のものだ。だが、その名の通りに、アルトリアや黒江の持つエクスカリバーをデバイスに落とし込んだようなデザインとなっており、当時の技術を考えても、贅を尽くして作らせたらしき事がわかる。管理局も持ち主の判明でレストアが決まったのに際し、はやての計らいでミッドチルダの最高レベルの機材でレストアし、管理局の識別表に登録も済ませている。
「えーと、貴方は黒江先任大隊長の?」
「直弟子ですよ、ひかりさん。少尉任官を済ませたばかりのヒヨッコですけど」
「あわわ、私より上じゃん〜!」
「公の場以外じゃ、階級は気にしなくて大丈夫ですよ。戦ってる時は名前で呼んじゃいますし」
「そりゃ言えてるぜ。現職プリキュアのあたしもだな……」
「はい、ホ5(20ミリ機銃)の余りです、シャーリーさん」
「恩に着るぜ。12.7ミリじゃ落とせなくてなー」
「相手はグラマン鉄工所ですからね」
「ケイさんや黒江さんみてぇなことは、プリキュアに変身しねーとできねーのがなぁ」
黒江達の無双ぶりの根源の一つである闘技などはこの時点のシャーリーの実力では、プリキュアへの変身を必要としている。それでも南斗最強の南斗鳳凰拳には為す術がなかった。
「この間の事を?」
「南斗聖拳のバケモノぶりを強調するだけに終わっちまったしな。それに銃で対抗できるのび太の凄さがわかるってもんだ。まだ休んでるのか?」
「ええ。のぞみさんにかなり輸血しましたからね。あと三日は休むそうです」
「東郷は敵地偵察に?」
「Mr.東郷なら、今頃は敵の基地を一個潰してると思いますよ。私達への助力が依頼だそうですから」
「誰なんだ?そんな依頼…」
「のび太のルートで分かったのは、日本のフィクサーの老人としか」
「日本のフィクサーぁ?ますます謎だな…」
「あの、その人って?」
「21世紀の世界で、世界を股にかけて活躍してる殺し屋って言えばいいか?お前とは縁遠い世界の話さ」
ひかりとは『縁遠い』と言えるゴルゴ13の存在。その一方で、裏方で行動するだけで戦線を動かすほどの存在なのも彼の特徴である。
「どうして、私に他の世界での記憶が宿ったんだろう…」
「お前が本来なら、502の物語の主役の位置づけの人物だからだろう。この世界は基本世界とは完全にかけ離れてるが、お前は502を支える存在になるはずだったから、菅野と会うことで条件が整ったと見るべきだな」
芳佳やひかりの存在に刻まれた『主人公属性』は多少の歴史改変程度ではびくともしない。芳佳に至っては、却って強くなる始末だ。ひかりは黒江達のいう前世では、孝美と仲違いしてしまい、孝美の早世の要因であった。この歴史においては、孝美がその反省を活かして立ち回ったおかげで史実通りの良好な関係である。ひかりはそれをもちろん知らないが、孝美にとっては『前世の過ちを繰り返さない』ための選択として、『姉バカを公言する』道を選んだ。妹がウィッチとして名を成す未来が存在する事を知ったことで、妹の選択を尊重する事を選んだことには批判が多いが、妹にあまり才がない事をすごく気にしていた孝美にとっては朗報である。とは言え、意外なことだが、芳佳やひかりのように『崇高な使命感や想い』を糧に戦う者はウィッチ全体では少数派であるのが現実である。多くは社会的ステイタスや自尊心を満たすか、社会的義務を果たすための時間として考えている。そこもウィッチの完全な職業軍人化への壁になったのは否めない。ウィッチ兵科出身軍人は引退後は軍内の出世の本流と関係ない仕事をするのが、どの国にもある慣例であるため(だから、高官に最初に登りつめたガランドは偉大なのだ)、それを真っ向から否定した上で前線で戦い続ける事ができるGウィッチ達はその方面での敵が多いのだ。『出る杭は打たれる』、『秩序乱し』という奴である。だが、世界情勢そのものの変化で『戦士である』事が求められるようになると、多くが軍から逃げ出すのである。
「これからどうなんですか、この世界は……」
「わかるのは、自分の心の翼を信じて、どんな敵とも戦える奴だけが、これから持て囃されるようになるだろうよ。ウィッチ本来の戦いでないからって、危険だからって、他人に金や権利を渡して、傍観者としてリングの外から眺めてるなんてのは卑怯なことだ。これからは己が命をかけて勝ち取る事が尊ばれるようになるさ。現在過去未来、誰かの微笑、愛、涙さえも捨て去ったとしても、戦士の尊厳だけは忘れるなよ、ひかり」
「戦士の……尊厳」
シャーリーはどんな事になろうと、戦士の尊厳を忘れるなと、ひかりへ教える。シャーリーもこの辺りから徐々に黒江のようなニヒイズムに染まっていくが、血で血を洗う戦場で見出したもの、戦士として求められてしまった役割などへの哀愁と『誰かに必要にされる』喜びが入り交じる複雑な心境でたどり着く答えでもあるからだ。圭子が狂気と自ら形容するように、ウィッチ世界を覆い始めた対人戦争という狂気の中に身を置くウィッチたちはニヒイズムに多かれ少なかれ、目覚める。シャーリーもその一人であろう…。
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