外伝その436『激闘7』
――ダイ・アナザー・デイでは、のび太は総じて、サポートでいぶし銀の活躍を見せた。ダイ・アナザー・デイ後半期は青年期の姿で参加しており、戦功は前半の少年期、後半の青年期で分割されていた。青年期ののび太は年齢相応にニヒリズムを見せており、言動はそれに満ちていた。戦闘機やMSにも乗り込むなどの万能性を発揮していた――
――物資集積地を襲撃し、敵に衝撃を与えた一同。帰還すると、のび太はキュアドリームの心に闇が潜んでいる事を見抜いている事を告白する――
「ラブリーもそれでアリシアに相談してたが……、そうか。あいつの闇か」
「うん。昔の君を思い出したよ。問題はどうも、あの子の転生以前の人生に原因があるみたいだ」
「今すぐには解決できんな…」
「ボクがおじさんになってる頃の養子が彼女を知ってるから、聞いてみるよ。ほら、結婚させるっていったろ」
「聞いてみてくれ。マイナス要素はデザリアムとの戦いまでに減らしておきたいからな」
「しかし、原因を探らないとわかんないですよ?」
「ああ。俺の方でも探ってみる。『美琴』……いや、グンドュラ。お前もそれとなく探りを入れてみてくれ」
「了解」
のぞみの『闇』はこの後のデザリアム戦役で表面化してしまうわけである。りんが精神的な意味での安全弁のような役目を果たしていることが正式に確認されたのは、この戦いの後のこと。前世に起因する脆さが次の戦いで明らかとなり、のぞみは自力では立ち直ることが出来ず、ある意味では醜態を晒してしまう。しかし、それを乗り越えた先に彼女の『真の意味での未来』が拓けるのである……。
――のぞみをこの時期に支えていたものは『転生で全盛期に若返り、友達と若き日の姿で再会できた』事であった。素体の中島錦は17歳だったのだが、のぞみの自我意識の覚醒で肉体が変化を起こしたため、正真正銘、現役当時の『14歳』に若返っていた。シャーリーは『北条響』としての記憶とプリキュア能力が覚醒めた一方、それまでの自我意識は保たれたため、北条響本来のキャラからはかけ離れた『ガサツ』さを持った状態となった。そのため、のぞみも呼びかけをかつてと違い、『響』、あるいは『シャーリー』にしている。のび太の勧めで、野比家に居候する事になったのもダイ・アナザー・デイの最中だ――
「おい、のぞみ。お前は素体になった奴の肉体を乗っ取ったようなもんだろ?どーすんだ?」
「錦ちゃんに悪いことしちゃったのは自覚してるよ。のび太くんに居候を勧められてさ。話を受けるよ。この姿じゃ、中島家には戻れないし。声は出せるから、電話は誤魔化せるけど、先輩に相談してるとこ」
「だよなぁ。あたしは両方の姿を取れるようだけど、お前はまだどうだかわかんねーしなぁ。つぼみも心配してたぞ」
「悪いなぁ。ん?つぼみちゃんって、誰に転生したの?」
「あん?フェイトの姉貴だよ。あいつも最近に『戻ったばっか』らしーぜ」
シャーリーは北条響の姿を取っているが、言動は元のままなので、かなり荒っぽい。女性言葉を多用していた現役時代と正反対である。
「シャーリーさ、姿変えても、言動は変えてないんだね」
「黒江さんみてーに、口調をホイホイ変えられるかってーの。めんどくせーから、いつものままでいく。エレンからは笑われたけどよ」
「ルッキーニになんか言われた?」
「あいつがクロになる前にな。な〜にが『縮んでるーー!!』だ!歴代の中でもボインなほーだぞ、あたしは!」
シャーリーはナイスボディの持ち主であるが、キュアメロディになると、どうしても胸が『縮む』ため、ルッキーニからかなり文句を言われたのを愚痴る。
「でもさ、現役時代はつるむことなかったよね、お互い」
「プリズムフラワーの戦いの時くらいだよな。あたしはその後はラブとつるんで、お前はみゆきとペアになってたろ?」
「あの子、あたしよりドジ踏んでたからなぁ。それで、ラブちゃんと背中合わせで戦った事ないんだよなぁ」
「ありそうなのにな」
「オールスターズの初陣はラブちゃんの現役時代の頃だもの。ちょっとコンプレックスあるんだ」
「皆勤賞だろ?」
「え、なんで…」
「あたしだって、後期は欠席が増えてたんだぞ?それに、第二期以前の連中はオールスターズ戦の終息で顔出しが減ったんだぞ?みらいの後の連中は三世代での共闘が主流になったし」
「ああ、いちかちゃん達からの」
「ああ。お前もMSとかの操縦の素質はあるはずだ。『あの世界』の記憶があるなら、な」
「うん。わかってる」
二人は遥か以前の過去生でも縁があった。その時はお互いに『サーフボードに乗る機動兵器』に乗っていたため、操縦技能はそこから持ち越していると思われる。シャーリーは直近の前世が『紅月カレン』であるため、エースパイロット級の腕前を維持している。のぞみの持っていると思われる技能は後々に真価を発揮。MSを何機か乗り継ぐ事になる。
「シャーリーは何に乗ってんの?」
「前世で取った杵柄で、紅蓮だよ。体が覚えてるから、慣熟訓練の必要もないからな。操縦系統を同じにすんのに苦心したぜ」
「そういえば、先輩たち、タバコを咥えてない?」
「ありゃ、喉の薬だよ。日本人は童顔だからって咥えてんだと。欧州の連中が首かしげてるけどな」
黒江達のような古い世代のウィッチは欧州に滞在中、タバコ型の『喉の薬』を咥えていることが増えた。これは日本でも1970年代までままあった『タバコを咥えていないと、欧州では子供に見られる』という認識によるもので、実際のところは生粋の欧米人のウィッチからは奇異に見られている習慣であった。
「1970年代以前の日本人が欧州に行った時の慣習みたいなもんだよ。お前も今の立場のことはよくわかってると思うが、正規将校だ。戦いが終わったら予備役になる手もあるが、今は軍隊に慣れろ」
「そのつもりだよ」
この時の言葉の通り、後に予備士官コースを志向し、そうなれるように昭和天皇の裁可も下っていたが、日本の文科省が自己判断でのぞみの予備役編入後の転職を破談にしてしまったため、一騒動になる。文科省は結局、外交問題一歩手前になった責任を問われる形で高級官僚のクビが何人か飛び、大臣も管理責任を問われる形になった。結局、のぞみは騒動に巻き込まれた結果、予備士官になるのを諦め、その後も現役将校であり続ける事になる。(同時に『転職』を潰された予備士官らの抗議デモも起こったため、日本側は山下奉文大将と文部科学相の会談でダイ・アナザー・デイ後に早急に対策と補償を行うこととなり、のぞみはその一環で少佐に昇進するのである)
――ここから太平洋戦争に至るまで、日本連邦は前途多難、主に日本側の失策で躓くことが頻発していく。これは連邦化によるお互いの主導権取りに日本の官庁が躍起になっていた弊害であり、軍隊を『敗北者』と見下していた日本側の認識の浅はかさの表れであった。のぞみの事は無知から大事になった例の一つであった。文科省の運の尽きはのぞみがプリキュアの中でもエース格とされる『プリキュア5のリーダー』(本人はそのつもりはないが)であった点を対応した官僚が無知であった事、昭和天皇が一将校の人事に介入するはずはないとする先入観によるもので、問題発覚後、文科省は大パニックに陥った。
「あの案件はお上が裁可なされていたぞ!!どうする!?」
「山下大将まで抗議に来たぞ!!おまけに件の将校はプリキュア5だぞ!?」
「嘘だろ!?」
2020年の文科省の現場の官僚達は阿鼻叫喚であった。週刊誌にすっぱ抜かれた上、昭和天皇の面子を潰してしまったわけである。結果、文科省の幹部級のクビが何人か飛び、のぞみに高圧的に接した官僚は自己退職に追い込まれた(要するにトカゲの尻尾切り)わけだが、予備士官の転職を潰した事は扶桑の予備役制度を大きく揺るがせた。日本では掲示板が祭り状態になり、『大人の自己満足』で夢を潰されたのぞみへの同情論が噴出。文科省は総理大臣の判断で謝罪会見に追い込まれ、まさに存亡の危機に追い込まれた。市民団体も流石に女児の憧れであるプリキュア、それに放映終了後もトップクラスの人気を誇るプリキュア5のリーダーの転職が潰れた事は想定外の結果で、仲間割れを起こし始める。のぞみは結果的にお役所仕事に失望し、予備役編入願いを取り下げ、現役を続行。デザリアム戦役、太平洋戦争を戦っていく。太平洋戦争後は防衛大学校に新設された『ウィッチ部』の教官に就任。戦間期は日本に滞在することになる。のび太はそれを見越していたわけだ。
――時間軸は戻って――
「統括官、こんな飛行機、どこから」
「友人の計らいだ。F-20を裏ルートで持ってきてくれた」
この頃からの64Fのシンボル『炎の鬣の一角獣』を尾翼に描いたF-20。のび太とドラえもんの計らいで回されたもので、この時はまさに特別機である。
「F-20のレプリカですか」
「ああ。かなり精度のいいレプリカだ。俺が多少チューンナップをした以外は自衛隊のミサイルを積める」
「機銃は?」
「パルスレーザーに変えてある。元のは対多数戦には向かんからな」
「戦後の戦闘機の機銃は大戦中のように撃ちまくるというものじゃありませんしね。それにしても、パルスレーザーですか」
「未来世界じゃ、実体弾式に代わって主要兵装だぞ」
この頃、23世紀では陽電子機関砲も現れていたが、廉価な戦闘機用の機銃としてはパルスレーザーが主流であった。21世紀型戦闘機と大差ない出力のエンジンでも『実用的な威力が持てる』からである。黒江は陽電子機関砲をガンポッドとして装備する改造を行わせつつ、ドラケンやF-20の機関砲をパルスレーザーに変えている。レシプロ機の群れを突破するための装備である。
「パルスレーザーは適当な電源ありゃ、弾数気にせんで済むのも決め手だな」
「ISにパワーランチャーを持たせたように?」
「ああ。あれもバスターランチャーなんてドライブさせたら、第2世代の改装くらいじゃキャパオーバーで機体のほうが音を上げる。試しに21世紀の駐屯地で実験してみたが、リヴァイブはキャパオーバー、ブルーティアーズも砲台としてしか使えんほど負担を強いるしな」
バスターランチャー。のび太がどこからか入手した異世界の最強の兵器だが、エネルギーを物質化寸前まで縮退させるという作業は通常のISのエネルギー量では困難である事が判明している。第三世代型のブルーティアーズでも、一回の発砲で機体が音を上げてしまうほどの負担がかかる。箒の赤椿でも、エネルギー補給能力発動中でなければ、まともな運用はできない。その点では、シンフォギアのほうが上回る。そのため、バスターランチャーは本来、IS用オプションとして用意されつつも、実際には調がシンフォギア使用時に使う機会が多く、プリキュア達も変身した状態で発砲している。そのため、IS用の武器はパワーランチャーのほうになったという。
「でも、野比氏はどこでバスターランチャーを?」
「さーな。ペンタゴナワールドに知り合いがいるかもな」
と、冗談めかす黒江。バスターランチャーの出処は黒江も知らないからだ。とは言え、性能は語感の似るツインバスターライフルをも数段上回るもので、最大パワーであれば、空間を歪める。破壊力換算で言えば、波動砲に匹敵するほどの大エネルギーである。ISのほとんどでは機体が自壊しかけるレベルの負担をかけてもエネルギーゲインが半分もいかないのも無理はない。シャルのリヴァイブでは完全に手に余り、セシリアのブルーティアーズでも30%までのチャージが限度であり、機体が悲鳴を上げ、発砲時には片腕が作動不良を起こした。それが実験で得られたデータだ。
「あれは戦略兵器だ。Wガンダムのバスターライフルも目じゃない。実験で30%で撃たせたが、ISのアクチュエータがダメになるくらいの反動がかかった。普通のパワーランチャーとして運用しても、ビームマグナム以上だ」
「よく撃つ場所と目標がありましたね」
「学園都市の軍事区域で行った。目標は学園都市の非合法部隊が持ってた大型兵器。いわば、廃棄処分だな」
ISは自前のエネルギー量で戦闘力が決まる点があるため、セシリアやシャルの機体はあまり重装にはできない。ラウラの機体も豊富な武装が持ち味だが、本人は移動砲台に近くなったオプションに不満であり、『プリキュアになったほうが気軽だ。ウサギなのに飛べんとか笑い話にもならんな」』とボヤいている。なお、ラウラ自身はキュアマーチになったことで織斑一夏と気まずくなったとボヤいており、箒、ラウラは共通しての苦労を背負い込んだと言える。また、キュアビートも過去生が織斑千冬であったため、マーチと再会した時に気まずくなったとボヤいたものの、箒に協力し、一夏をあしらってやるなどの優しさを見せている。箒は混乱する羽目になったが、エレンは気にしておらず、『過去生は過去生だし、恋人いるんだぞ、私は』とのこと。
「綾香、ちょっといい?」
「であ、私はこれで」
「ご苦労さんー」
部下を食事にいかし、ビートと雑談に入る。
「ビートか。F船団の彼に連絡入れたか?」
「ど、どうして!ここで!!ミシェルの話題出すのよー!!」
「お前、妙に人気出てんだぞ。クラン・クランと黒川エレンが同一人物って分かったから」
「なんでーー!?」
「ほら、お前、世界線によってはヤケ起こして、バルキリーの装備をゼントラーディ状態で使うだろ?それ、俺の同期がガレージキットにしてな。許可もらいたいってさ」
「なによそれーーー!」
「諦めろ、有名税だ」
ニヤニヤする黒江。自分は元々、脇役だった自覚があるため、主役級の因子を元から持つキュアビートをからかう。
「日本の有名模型メーカーも出したいって言うから、お前の名前で許可出したぞ」
「な、な、な!?嘘でしょ!?」
「今更か?減るもんでもねーだろ。それにお前、プリキュアでもあるから、子供人気もあるだろ。クラン・クランの時の声はケイに似てるんだよなー」
それは本当だ。キュアビートはドスを効かせたクラン・クランとしての声色では、織斑一夏でも間違えるレベルで織斑千冬に酷似している。その一方で圭子と間違えられないのは、圭子は声にヤサグレ度があるからである。
「あんな東南アジアにいそうな、危ない橋を渡ってるガンクレイジーと比べないでよ!」
「お前も前世で相当に危ないことしてるだろ?」
図星であるキュアビート。織斑千冬として危ない橋を渡った事は事実だからで、そこは圭子と大差ない。圭子は『ロールプレイ』がいつしか常態になったという点を考慮しても、ものすごく裏世界の人間っぽさがある。
「生身で宇宙戦争より大分安全だろ?チンピラの弾き合いなんざ」
「噂をすれば」
「ハンナのガキを躾けてきた。あの野郎はケツがまだ青臭えからな」
圭子の場合、言動が粗暴のレベルで、美貌台無しの超短気という要素を持つ。接近戦でもかなり強いが、あくまで二挺拳銃での立ち回りを中心にする都合、のび太やデューク東郷からは格落ちとされる。
「でも、あなた、元の原形がないわね」
「何回もいい子ちゃんぶるのに飽き飽きしてたんだよ。あたしは。だから、いっその事、あの漫画のようになろうって奴だ」
キュアビートは圭子の元の温厚な性格を知っているので、変化ぶりに驚く。タバコ型の薬を服用し、タンクトップとホットパンツ姿はこの時代では大胆すぎるスタイルであり、覚醒前のミーナに『ならず者』扱いされたのもうなずける。実際、その普段着で事変当時の時点で『兵隊やくざ』扱いなので、ミーナからすれば『ならず者』だろう。だが、マルセイユにとっては『自由の象徴』であり、元来の面倒見の良さもあり、人気が高い。
「でも、口の荒らさに似合わず優しいんですよ。だから子供に大人気ですし」
「おー、真美。食事できたか?」
「自衛隊の方から野戦用の調理器具を借りたんですけど、便利ですね」
野外炊具を借りて調理したらしい稲垣真美が三人に食事ができたと知らせに来た。華族令嬢でもあるが、料理の才能があり、ロンメルやモントゴメリーをも唸らせる。そのため、臨時設営のテントの中では。
「やぁ。日本の炊具はいいものだね」
ロンメルがカレーに舌鼓を打っていた。真美が腕を奮ったこともあり、下手なホテルより美味しいと評判になっており、海自の護衛艦からレシピを聞き出そうとする調理担当の自衛官が来ているほどである。また、陸自の機甲部隊の要員にとっては『機甲作戦の英雄』であるロンメルは大人気だが、元々は歩兵科なので、『私よりグデーリアンのほうが議論に向いているよ』と謙遜している。扶桑軍も野外炊具の先祖と言える九七式炊事自動車を有していたが、数が少なく、実際に戦場で使われたケースは稀であった。そのため、ダイ・アナザー・デイで初めて有効性が示されたと言える。
「でもさ、軍縮なのに、よく残れたね?」
「私は1950年代には予備役を迎えるから、だろうさ」
「外だが、150人くらいはいるんじゃねぇか?」
「付近にいた部隊の待機人員らしい。近くの食事にありつけなかった連中が集まったらしいからね。参謀本部でも、日本のレーションは好評だよ」
「鹵獲したリベリオンのレーションはワンパターンだしな」
「日本のレーションは扶桑のものより高品質ですし、味も美味しくなってますから。部隊によっては鹵獲したレーションばかりで士気が下がってますから、お姉さま」
「あいつらは栄養価しか考えてねーからな」
腹が減っては戦はできぬというのはいつの時代でも共通。日本の無知な政治家の中には『軍隊は白米食わせれれば満足だろ?』と宣う者もいるが、実際には食事は士気維持には重要な事項だ。特に真美は空軍の至宝と後の世で評されるほどの名手。外見は芳佳より年下なように見えるが、実際には下原よりも先輩で、下原が師と仰ぐほどの腕前なのだ。
「でもよ、真美。お前、華族令嬢なのに、どうして料理が?」
「お母様が料理好きで。お父様も嫁入り修行のつもりで料理を勉強するのを許していたんで、料理が自然と上手くなったんです。親はどこかの華族の家に嫁入りさせたかったようです」
真美は料理好きである。それを母親が英才教育を施したためか、黒江曰く『フソウホテル(南洋などにあるホテルチェーン。史実で満州にあったヤマトホテルに相当)の食堂より旨い』と言わしめるほどに成長した。下原が尊敬の眼で真美を見るのは当然である。
「下原がお前を尊敬の眼で見てっぞ?」
「あの子も料理担当ですからね。筋は悪くないんですけど、経験不足ですね」
「わーお。さすがプロ」
黒江とキュアビートが同時に頷く。カレーは21世紀の常識に合わせてトッピングされているが、元々が猫であるキュアビートのは甘口にしてあるという。
「そういえば、お前、元・猫なのに、辛いもの食えたっけ?」
「キュアビートのは甘口にしてあります。中辛以上はキツイでしょうから」
「さすが。黒パンを英米人に文句言わせない料理の腕前だって聞いてたが…」
「ジャンヌ中尉も喜んでおられました」
「あいつは生前は黒パンだったからな」
ジャンヌ・ダルクを感動させ、アルトリア・ペンドラゴンが幸せと言わんばかりに大食いするという真美の料理。ウィッチ達からも憧れの的である。ジャンヌはカペー朝時代の黒パンの証人であるので、余計に感動していたと話す黒江。
「カペー朝の時代だったから、今の黒パン食わせても泣くぞ、あいつ。後世で国が美食に走ったのは苦言を呈してるけど」
「アルトリア卿はもっと感動ものだろうな」
「あいつ、生前は食事は気を使ってなかったからな。この前、峠の釜めし食わせたら、感涙してた」
「そうでしょうねぇ」
「私も、ケイにシャウエッセンを買ってきてもらったが……昔に食べた味より美味かったよ」
「日本は食文化進んだから」
「インスタントラーメンで済ませるのはどうかと思いますけどね」
「仕方ない。あれは、のぞみでもできるからな。現役時代のことをりんから聞いてさー。ハラハラだったぜ」
「あの子も……インスタントラーメンくらいはできるのね……」
「ラブも似たような事言ってたぜ。はーちゃんが『のぞみさんが食事を作るぅ!?本気ですか!?』って慌てたし…」
「響やみらいから聞いてるでしょうしね」
カレーに舌鼓を打ちながら、つかの間の休息を楽しむ一同。ロンメルは幕僚を伴らず、単独で懇意の将校達と意見交換を兼ねての食事を取る。『我らが親父』と兵士達からも慕われる理由はそこで、兵士達の前で食事を取ることもあるので、戦時の将帥としては有能である。欧州戦線ではあるが、夏のヒスパニアにいるため、軍服は夏服姿だ。そのためか、真美が持ってきた飲み物は自衛隊提供の冷えた炭酸飲料だったりする。
「もうじき九月だぜ。なんとか地上空母を抑えないと」
「コスモタイガーで防空網を突っ切れないか?」
「玲が率いてるのは一個中隊くらいだ。せめてあと5機欲しい。俺が率いてもいいが、ゴーストを振り切るにゃ、コスモタイガーでも『吊るし』じゃ無理だ」
「地球連邦軍に私から要請してみる。地上空母は『できれば制圧しろ』とゲーリングから……」
「はぁ!?なに考えてんだ、あのモルヒネデブ!」
黒江が思わず憤慨するほどのその要請。64Fの力を以ても、無人戦闘機『ゴースト』に守られている防空網をくぐり抜ける事はかなりの無茶を強いる事だからだ。
「この前、爆撃ウィッチ部隊が尽く返り討ちにされたのを忘れやがったのか、あのヤク中親父!!」
「既にグローリアスウィッチーズが試みた。だが、失敗した。大損害を出してね」
「言わんこっちゃない。あんな物見遊山のガキ共に何ができる」
「我々に残されたのは君たちだけになった。綱渡りを強いることになるが……」
「転生を重ねてきたから、もう驚かないつもりだったが、ロンメル。おまえさんはあたしらに『タイトロープ』を?」
「もはや、陸上でフル編成で飛べる部隊は君たちのみだ。やってくれるね?」
「いいだろう。参謀本部の承認は?」
「一両日中には出るだろう。Gフォースに揺動をさせ、君等は考えられる手段で……」
「ゴーストや近代兵器の防空網を突っ切れ、か」
「そうだ。艦載機はどうにでもなる。空母は取りつかれれば、途端に無力になる。それはいつの時代も変わらんよ」
フェーベ航空決戦も引き合いに出し、ロンメルは覚悟を決めろと暗に求める。黒江達は承認する。これが64Fがダイ・アナザー・デイで味わう事になる『最大の山場』。その名も『綱渡り作戦』……。
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